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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1318412
審判番号 不服2014-26761  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-26 
確定日 2016-08-17 
事件の表示 特願2012-32566「細胞周期阻害物質の非晶質形態」拒絶査定不服審判事件〔平成24年7月19日出願公開、特開2012-136534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2001年9月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年10月3日(US)米国)を国際出願日とする特願2002-532438号の一部を平成19年8月24日に新たな特許出願とした特願2007-218828号の一部を、さらに平成24年2月17日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月20日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月21日付けで拒絶査定がされ、同年12月16日付けで応対記録が作成され、同年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、平成27年2月12日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、同年7月24日に上申書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成26年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?26に記載されたとおりであり、このうちの請求項1?19の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】112℃のガラス転移温度を有する化合物であって、式

の非晶質化合物。
【請求項2】結晶形態の化合物が20%を超えない、請求項1記載の非晶質化合物。
【請求項3】結晶形態の化合物が10%を超えない、請求項1記載の非晶質化合物。
【請求項4】請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を有機溶媒中に溶かし;そして
(b)段階(a)の溶液から式Iの所望の非晶質化合物を沈殿させる;
ことを含んで成る方法。
【請求項5】段階(a)において用いられる有機溶媒が、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択されている請求項4記載の方法。
【請求項6】段階(a)において用いられる有機溶媒が、ジメチルアセトアミドである、請求項5記載の方法。
【請求項7】段階(a)の溶液を、冷却した水溶液に加えることによって段階(b)における沈殿が行われる、請求項4記載の方法。
【請求項8】前記水溶液の温度が2℃?10℃である、請求項7記載の方法。
【請求項9】前記水溶液のpHが、式Iの非晶質化合物が溶解しないものである、請求項8記載の方法。
【請求項10】前記水溶液のpHが2?7である、請求項9記載の方法。
【請求項11】請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)結晶形態にある式Iの化合物を有機溶媒中に溶かし;そして、
(b)前記有機溶媒を除去する;
ことを含んで成る方法。
【請求項12】前記有機溶媒が、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択されている、請求項11記載の方法。
【請求項13】前記有機溶媒が、噴霧乾燥によって除去される請求項11記載の方法。
【請求項14】前記有機溶媒が、凍結乾燥によって除去される請求項11記載の方法。
【請求項15】請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を超臨界流体中に溶かし;そして
(b)前記超臨界流体を除去する;
ことを含んで成る方法。
【請求項16】前記超臨界流体が液体窒素又は液体二酸化炭素である、請求項15記載の方法。
【請求項17】請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を有機溶媒中に溶かし;そして
(b)段階(a)において生じた溶液から超臨界流体により有機溶媒を抽出する;
ことを含んで成る、請求項16記載の方法。
【請求項18】超臨界流体が液体窒素又は液体二酸化炭素である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を、様々な温度にセットされる温度調節押出し機(temperature-controlled extruder)(熱融解押出し機)に連続的に掛け;そして
(b)段階(a)由来の押出し物を急速に冷却する;
ことを含んで成る方法。」
(以下、請求項1?19に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明19」といい、あわせて「本願発明」という。また、請求項1の上記式Iで表される化合物を「化合物A」という。これの化合物名は、3-(1-メチル-3-インドリル)-4-(1-メチル-6-ニトロ-3-インドリル)-1-H-ピロール-2,5-ジオンである。この出願の明細書(以下「本願明細書」という。発明の詳細な説明は補正されていない。)の段落【0001】参照。ただし、不要な「,」を一つ省いた。)

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成25年8月20日付けの拒絶理由通知における理由4、5及び7である。
その理由4の概要は、「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない」というものであり、「物質の安定性は、物質の多形や表面積等の物理的な存在状態に影響されるものであり、製造方法によっては、それらの物理的な存在状態の異なるものが得られる場合があることが技術常識であって、実施例で採用された方法以外の方法によって、当該特定の非晶質化合物が実際に得られるとは認められない。そうすると・・・発明の詳細な説明の記載は、請求項1-26に記載された発明について、当業者がその実施することができる程度に記載したものとはいえない」と指摘したものである。
その理由5の概要は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」というものであり、「物質の安定性は、物質の多形や表面積等の物理的な存在状態に影響されるものであり、製造方法によっては、それらの物理的な存在状態の異なるものが得られる場合があることが技術常識であって、実施例で採用された方法以外の方法によって、当該特定の非晶質化合物が実際に得られるとは認められない。そうすると、請求項1-26に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明を超えるものであり」と指摘したものである。
そして、上記理由4及び理由5により拒絶査定がされた本願発明4?19は、それぞれ、上記拒絶理由が通知された請求項4?19に係る発明に対応する。

第4 当審の判断
この出願は、原査定の理由4のとおり、発明の詳細な説明が、請求項4?19に係る発明に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものである。
また、この出願は、原査定の理由5のとおり、請求項4?19の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1 理由4(特許法第36条第4項)について

(1)はじめに
物を生産する方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいう(特許法2条3項3号)から、特許法36条4項の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物を生産する方法の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。

(2)発明の詳細な説明の記載

ア 技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題及び本願発明に係る式Iの非晶質化合物の性質についての記載
本願明細書の段落【0001】?【0020】に、以下の記載がある。
「【0001】本発明は、結晶化合物を実質的に伴わない式I

の化合物の非晶質の、医薬活性形態を供する。この化合物は、3-(1-メチル-3-インドリル)-4-(1-メチル-6-ニトロ-3-インドリル)-1-H-ピロール-2,5,-ジオンとしても公知である。本発明は、式Iの化合物の非晶質形態、並びにかかる化合物を含有する医薬組成物を製造する為の方法も供する。
【背景技術】
【0002】式Iの化合物の結晶形態は公知である。米国特許再発行第36,736号を参照のこと。この結晶形態は約285℃の融点を持つ(第22欄,5?6行を確認のこと)。この化合物は、特に非小細胞肺ガン、乳ガン及び結腸直腸ガンのような充実性腫瘍対する有力な抗ガン治療作用を有する細胞周期阻害物質及びアポトーシス誘導物質の新規分類に属する。米国特許第6,048,887号及びヨーロッパ特許0 988,863号等を参照のこと。式Iの化合物は従来公知となっている結晶形態において生理的pH(1.5?8.0の範囲)で比較的低い水溶性(<10μg/mL)を有し、それ故に至適生体利用効率を下まわる(イヌにおいて5%未満)。これは治療的作用を有する化合物であるので、従って、溶解/溶出速度及び生体利用効率が向上した式Iの化合物の形態を得ることは望ましい。
【0003】治療的作用を有する化合物の生体利用効率は一般に、(i)化合物の溶解/溶出速度、及び(ii)対象者の胃腸膜を介する化合物の分配/透過係数によって決定される。治療的作用化合物の生体利用効率が低い主原因は通常、前記化合物の溶解/溶出速度が低いからである。生体利用効率が低いことによって、極度の血圧の変化が伴われ、そして患者による薬剤の異常吸収が原因の予測不可能な投与量/治療的効果も往々にして伴われる。
【0004】比較的低い水溶性を有する治療的作用化合物の生体利用効率を向上させる為にいくつかの技術を用いることができる。これらの技術はヨーロッパ特許第0988,863号の背景の段落で論じられている。ヨーロッパ特許第0988,863号中の記載は、比較的に低い水溶性を有する治療的作用化合物が、イオン性ポリマー中に組み込まれるか又は分散されることによって、更なる生体利用効率を持ちうることによる新規方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】ある方法を用いて比較的低い水溶性を有する治療的作用化合物をイオン性のポリマー中に分散させる又は組み込むことは、これらの化合物の生体利用効率を高めうる一方で、これらの方法は面倒であり且つ時間を消費する。かかる方法では治療的作用を化合物が、通常有利でない又は望ましくないポリマーとの組み合わせにおいて患者へと届けられる必要もある。従って、式Iの化合物をポリマー中で分散させる必要がないその非晶質形態において当該化合物を製造する為の方法を開発することは望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】本発明は結晶形態を実質的に伴わない式Iの化合物の非晶質形態に関連する。式Iの化合物のこの非晶質(「高エネルギー」とも言及する)形態は、当該化合物の従来公知の結晶形態よりも速い溶出速度を示し、且つ優れた生体利用効率を示す。本発明の化合物の非晶質形態の生体利用効率は、当該化合物の結晶形態よりも有意に高く、従って当該化合物の非晶質形態をガン性の腫瘍の治療又は療法において用いることを可能にする。
【0007】本発明の他の観点は、式Iの安定な、非晶質化合物に関連する。それはイオン性ポリマーのような形態安定化剤がなくとも前記化合物が適度な棚寿命(例えば、室温で2年)を持つことが可能な時間に渡り安定な非晶質形態を保つ。
【0008】本発明の他の観点は、式Iの高エネルギー非晶質化合物を製造する方法である。
【0009】本発明の他の観点は、治療的に有効な量の非晶質形態にある式Iの化合物を含む医薬組成物である。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0011】本発明は式Iの化合物の、高エネルギー、非晶質性、医薬活性形態を供する。

【0012】本発明に従い調製した場合、式Iの化合物の非晶質形態は結晶形態と比較した場合非常に高い(約15倍超の)生体利用効率を有するので、当該化合物を医薬製品中で用いることが可能になる。前記化合物の非晶質形態は、結晶形態とは対象的に優れた溶出速度及び生体利用効率を示すのみならず、その高いガラス転移温度約112℃によって、形態安定化剤がなくともその非晶質特性を維持する。
【0013】本発明の式Iの化合物の非晶質形態は、その結晶形態においては比較的低い水溶性及び低い生体利用効率を有する医薬活性化合物の、患者への輸送を有意に促す。
【0014】本明細書中で用いた場合、下記の用語は以下の意味を持つ。
【0015】「非晶質化合物」とは、示差走査熱量測定熱像における典型的な吸熱を示さず、そして粉末X線解析パターンにおける独特のピークを示さないものをいう。化合物のこの形態を当該化合物の「高エネルギー形態」としても言及する。
【0016】「溶出速度」とは特定の溶出媒体中に溶ける特定の化合物が持つ速度である。
【0017】「形態安定化剤」とはイオン性ポリマーであり、それは化合物を特定の物理形態(非晶質形態等)に固定化して、当該化合物を環境要因(例えば熱、湿気等)から保護するのに用いることができる。
【0018】「患者」とはヒトの対象者を指す。
【0019】「比較的低い水溶性」とは、約10μg/mL未満の水溶性を有する特定の化合物又はその形態である。
【0020】「結晶化合物を実質的に伴わない」とは、結晶形態の化合物が約20%を超えず、好ましくは結晶形態の化合物が約10%を超えないことである。」

イ 式Iの非晶質化合物の調製方法についての一般的な記載

a 段落【0021】?【0024】に、以下の記載がある。
「【0021】式Iの非晶質化合物の調製方法
式Iの化合物の高エネルギー又は非晶質形態は、以下の方法によって調製されうる。
a)噴霧乾燥又は凍結乾燥:結晶形態の式Iの化合物が、有機溶媒に溶かされる。この方法の為の適切な有機溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコール、エチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールが挙げられる。次いで、前記溶媒は噴霧乾燥又は凍結乾燥によって除去され、式Iの非晶質化合物が生じる。
【0022】b)溶媒調節沈澱(Solvent Controlled Precipitation):本発明の好適な実施態様において、式Iの結晶化合物が有機溶媒中に溶かされる。この方法の為の適切な有機溶媒は、上記a)において列挙したものが挙げられる。次いで、好ましくは水溶液中で、そして好ましくは化合物が溶解しないpHで、当該化合物は沈澱する。生じる沈澱物は式Iの非晶質化合物であり、そして当業者に公知の手順、例えばろ過、遠心及び洗浄等によって回収される。次いで、回収された沈澱物は(大気、オーブン、又は真空において)乾燥され、そして当業界で公知の手段、例えば、破砕、微粉砕又は微粉化によって生ずる固体は更に加工され微粉にされる。
【0023】c)超臨界流体:式Iの結晶化合物は、超臨界流体、例えば液体窒素又は液体二酸化炭素に(超臨界温度及び超臨界圧力下で)溶かされる。次いで超臨界流体は蒸発によって除去され、非晶質形態において沈澱した化合物が残る。代わりに、式Iの化合物が、上記a)に記載の有機溶媒中に溶かされる。超臨界流体は、有機溶媒の抽出の為の抗溶媒として用いられ、有機溶媒から化合物を非晶質形態において沈澱させる。
【0024】d)熱溶解抽出:様々な温度変化度にセットされる温度調節押出し機に対して式Iの結晶化合物が漸進的に送り込まれる。特に、結晶化合物は熱融解押出し機において押出されて融解され、その後、急速に室温へと冷却され、そして当該化合物は固体化する又は非晶質形態において沈澱する。次いで、生じる押出物は粉砕され微粉になる。」

b 段落【0029】?【0039】に、以下の記載がある。
「【0029】本発明は、化合物をイオン性のポリマー中で分散させることなく式Iの非晶質化合物を調製する方法をも熟考する。
【0030】本発明は、式Iの化合物を調製する方法を熟考する。この方法において(a)式Iの結晶化合物が有機溶媒中に溶かされ、そして(b)段階(a)の溶液から式Iの所望の非晶質化合物が沈澱される。
【0031】上記方法において用いられる有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択されるのが好ましい。前記溶媒はジメチルアセトアミドであるのが一層好ましい。
【0032】沈澱は、段階(a)の溶液が冷却された水溶液に添加されることによって行われるのが好ましい。
【0033】本発明の上記方法において、水溶液の温度は約2℃?約10℃であり且つそのpHは、非晶質形態の式Iの化合物が溶解しないpHである。前記水溶液のpHは約2?約7であるのが好ましい。
【0034】本発明は、式Iの化合物を調製する他の方法も熟考する。この方法において、結晶形態の式Iの化合物が有機溶媒中に溶かされ;そして当該有機溶媒は除去される。前記有機溶媒は噴霧乾燥又は凍結乾燥によって除去されて良い。
【0035】有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択されるのが好ましい。前記有機溶媒は除去されるのが一層好ましい。
【0036】本発明は式Iの化合物を調製する方法にも関連する。この方法において、式Iの結晶化合物が超臨界流体中に溶かされ;そして当該超臨界流体は除去される。
【0037】前記超臨界流体は液体窒素又は液体二酸化炭素であるのが好ましい。
【0038】本発明は、式Iの化合物を調製する方法にも関連する。この方法において、式Iの結晶化合物は有機溶媒中に溶かされ;そして当該有機溶媒は、液体窒素又は液体二酸化炭素のような超臨界流体により当該溶液から抽出される。
【0039】本発明は、式Iの化合物を調製する方法にも関連する。この方法において、式Iの結晶化合物は、様々な温度変化度にセットされる温度調節押出し機(temperature-controlled extruder)(熱融解押出し機(hot melt extruder))に連続的に掛けられ、そして押出し物は急冷される。」

ウ 式Iの非晶質化合物の医薬用途についての一般的な記載

a 段落【0025】?【0028】に、製剤化及び用法用量について、以下の記載がある。
「【0025】・・・本発明に従い調製された式Iの化合物の非晶質形態は、適切な医薬的に許容できる賦形剤と組み合わされ、患者に対して投与される医薬製剤が生み出される。これらの賦形剤には、限定ではないが、無機又は有機担体、充填剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、防腐剤、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香料添加剤、浸透圧を変える為の塩、緩衝剤、被覆剤、酸化防止剤及び放出調節剤(control release agents)が挙げられ、その全ては当業界で公知である。
【0026】上記a)?d)の方法(審決注:上記イで摘示した段落【0021】?【0024】)より生ずる製品は、医薬製剤に組み込む為の当業界で公知の方法によって更に加工される。
【0027】本発明は、治療上有効な量の式Iの化合物を非晶質形態において含む医薬製剤をも熟考する。治療上有効な量とは、所望の治療成果を遂げるのに必要な、投与量及び時間による量である。更に、かかる量は、全般的に治療上有利な作用が全ての毒性又は望ましくはない副作用に勝るものでなければならない。化合物の治療上有効な量は、治療を受ける患者の病期、年齢及び体重により往々にして変化する。従って、投薬計画は各特定の場合において各々の必要量に一般的に調節され、それらは当業界で知られている。
【0028】体重約70kgのヒトの成人に対する非晶質形態にある式Iの化合物を経口投与する為の適切な日々の投与量は、約100mg?約1,500mg、好ましくは、約400mg?約800mgであるが、上限は指示された場合は超えても良い。日々の経口投与量は、単回投与もしくは分割投与として投与されて良く、又は非経口投与の為に持続注入(continuous infusion)として与えられて良い。」

b 段落【0040】?【0043】に、製剤化及び治療対象疾病について、以下の記載がある。
「【0040】本発明は、腫瘍を治療する為の式(I)の化合物及び医薬担体を含んで成る医薬組成物をも供給する。この医薬組成物は安定化剤を伴わないのが好ましい。
【0041】この医薬組成物はイオン性のポリマーを伴わないのが好ましい。
【0042】本発明は腫瘍を治療する方法をも供する。この方法において、式(I)の化合物がヒト又は動物に対して投与される。
【0043】最後に、本発明は、腫瘍の治療の為の薬剤を製造する為の式Iの化合物の使用を供する。」

エ 実施例及び比較例の記載
段落【0044】?【0071】に、図1?図6を引用しつつ、以下の記載がある。
「【0044】以下の例は、本発明の非晶質化合物並びに前記非晶質化合物を組み込む医薬製剤を製造する方法を説明する。これらの例は本発明を説明し、そして限定することを意図しない。
【0045】実施例
実施例I:非晶質化合物の一般的な調製
式Iの結晶化合物をジメチルアセトアミド中に溶かした。次いで、生じる溶液をpH2?7の冷却した(2°?10℃)水溶液に加えた。これにより生じた化合物を、非晶質化合物として沈澱させた。沈澱を残留ジメチルアセトアミドが0.3%未満になる迄冷水(2°?10℃)で数回洗浄した。沈澱を乾かし、そして粉砕して所望の粒度にした。
【0046】実施例II:式Iの非晶質化合物を含有する医薬製剤の調製
次いで、実施例Iに従い調製した非晶質化合物の粉末形態を様々な医薬賦形剤と混ぜ合わせ、以下の医薬製剤を生産した。
【0047】実施例IIA
製剤 %(w/w)
式Iの非晶質化合物 50
無水ラクトース 50
【0048】製剤の調製方法
1.実施例Iに従い調製した(レーザー光線散乱装置によって特定された8ミクロンの平均粒度を有する)式Iの非晶質化合物を、無水ラクトースと共にミキサー中で10分に渡り混合した。
2.段階1の由来の粉末混合物をカプセル中に封入した。
【0049】実施例IIB
・・・・・・・・・・・・・・・
【0050】・・・圧縮して錠剤にした。
【0051】実施例 IIC
・・・・・・・・・・・・・・・
【0052】・・・カプセル中に封入した。
【0053】実施例IID
・・・・・・・・・・・・・・・
【0054】・・・圧縮して錠剤にした。
【0055】実施III:式Iの結晶化合物を含有する医薬製剤の調製
実施例IIIA
製剤 %(w/w)
式Iの結晶化合物 50
無水ラクトース 50
【0056】製剤の調製方法:
1.米国特許再発行第36,736号に教示された方法により調製した(レーザー光線散乱装置によって特定された9ミクロンの平均粒度を有する)式Iの結晶化合物を無水ラクトースと共にミキサー中で10分に渡り混合した。
【0057】実施例IIIB
製剤 %(w/w)
式Iの結晶化合物(微粉) 4
メトセル(Methocel)K3 4
純水 92
【0058】製剤の調製方法:
1.メトセルK3(ヒドロキシプロピルメチルセルロース;Dow Chemicals,MI )を20%(w/w)の濃度で純水に少量ずつ加え、そして均一な分散が得られる迄十分混合した。
2.(米国特許再発行第36,736号に教示された方法により調製し、そして5ミクロンの平均粒度を有した)式Iの結晶化合物を段階1由来の分散に加えそして均一な懸濁が得られる迄十分に混合した。
3.残りの純水を段階2由来の懸濁に添加し、そして十分に混合した。
【0059】実施例IIIC
製剤 %(w/w)
式Iの結晶化合物(ナノサイズ) 4
メトセルK3 4
純水 92
【0060】製剤の調製方法:
1.メトセルK3(ヒドロキシプロピルメチルセルロース;Dow Chemicals,MI )を20%(w/w)の濃度で純水中に分散させ、そして均一な分散が得られる迄十分混合した。
2.(米国特許再発行第36,736号に教示された方法により調製し、そして5ミクロンの平均粒度を有した)式Iの結晶化合物を段階1由来の分散に加え、そして均一な懸濁が得られる迄十分に混合した。
3.粉砕媒体として(平均直径0.2?0.5mmの)ガラスビースを含有するDYNOMILに段階2由来の懸濁を通して、式Iの化合物を300?400nmの範囲の平均粒度において獲得した。
【0061】実施例IV:式Iの非晶質及び結晶化合物の物理特性の比較
様々な試験を行い、米国特許再発行第36,736号に教示された方法により調製した式Iの結晶化合物と本発明の式Iの非晶質化合物との比較を行った。比較したパラメーターは、結晶性、ガラス転移温度、溶出速度及び生体利用効率が挙げられる。比較の結果を下に記載し、そして添付の図に描いている。
【0062】図1における粉末X線回折パターンによって示されるように、米国特許再発行第36,736号に教示された方法により調製した式Iの化合物は、著しい結晶性を示した。
【0063】図2における粉末X線回折パターンによって示されるように、本明細書中で教示した方法により調製した式Iの化合物は、明らかに非晶質性である。
【0064】図3における示差走査熱量測定熱像によって示されるように、米国特許再発行第36,736号において教示された方法により調製した式Iの化合物は、287℃の温度で明らかな吸熱を持ち、そして結晶性である。
【0065】図4における示差走査熱量測定熱像によって示されるように、本明細書中で教示した方法により調製した式Iの化合物は、約112℃のガラス転移温度を有し、そして非晶質性である。
【0066】図5における粉末X線解折パターンによって示されるように、本明細書中で教示した方法により調製した式Iの非晶質化合物は、促進条件下での保存でさえもその非晶質特性を維持した。このことは、本発明により調製した化合物は安定でありそして医薬製剤中への組み込みに適切であることを意図する。
【0067】式Iの結晶化合物を含有する実施例IIIAの製剤(実施例IIIA)及び式Iの非晶質化合物を含有する製剤(実施例IIIA)(審決注:「実施例IIA」の誤りと認める。)を、二段階(2つの溶出媒体)溶出法(touo-stuge dissolution method)によって溶出度を評価した。段階Iでは、75rpm のパドルを用いることで37°±0.5℃の300mLの脱イオン水を使用した。段階IIでは、0.015Mのリン酸バッファー中6%(w/w)のラウリル硫酸ナトリウム600ml、pH6.8、37℃±0.5℃で平衡を、段階Iの解離が始まった25分後に、溶出が起こる容器に慎重に添加した。等量の試料を様々な時間で採取してUV分光測光法によって分析した。
【0068】図6に示されるように、上記溶出評価の結果によって明らかに示されることは、式Iの非晶質化合物を含有する製剤(実施例IIA)の溶出特性は、式Iの結晶化合物を含有する製剤(実施例IIIA)よりも速く且つ完全なものであるということだ。
【0069】加えて、式Iの結晶化合物を含有する製剤(実施例IIIB及びIIIC)並びに式Iの非晶質化合物(実施例IIA)を含有する製剤の生体利用効率を体重約10kgのビーグル犬において評価した。各イヌには式Iの化合物90mgを含有する製剤を与えた。投与の前(0時間)及び投与の0.5、1、2、4、6、8、12、24、36及び48時間後に各イヌから血液試料を回収した。EDTAを抗凝血剤として用いた。各血しょう試料を冷遠心(cold centrifugation )後分離し、そして分析する前に、琥珀色のバイアル中で最低の-60℃で凍らせた。式Iの化合物を血しょうから抽出し、そして式Iの化合物の濃度を陽イオンTurbuIonspray LC-MS/MSアッセイ〔HP1100LC系、Hewlet-Packard Inc. を用いるHPLC(Agilent Technologies,Wilminton,DE)及び PE-Sciex API-3+(Perkin-Zlmer Instruments,Wilton CT)、イオン化モード:Turbulonspray,500C、陽イオンを用いる質量分析計〕を用いて決定した。100μlの血しょう試料を用いての校正の幅は1?1,000ng/mLだった。
【0070】見積もった関連する薬物動態学パラメーターは、式Iの化合物に関する最大血しょう濃度(C_(max))、C_(max) に至る時間(T_(max))、時間0-∞の血しょう濃度時間曲線下の領域(AUC_(0-∞))、投与量(mg/kg)、正規化C_(max)(C_(max)/投与量)及び投与量正規化AUC(AUC/投与量)であった。観察されたC_(max) 及びT_(max) は各動物の濃度-時間特性から直接得られた。AUC_(0-∞) をWin Nouline(登録商標)(Professional Zdition version 1.5,Pharsight Corporation,Mountain View,CA)による一次台形公式(linear trapezoidal rule)を用いて計算した。
【0071】この生体利用効率の結果を下の表Iに示している。非晶質形態の式Iの化合物(実施例IIA)のイヌにおける生体利用効率は、化合物の結晶形態(実施例IIIB及びIIIC)が常用の投与形態(微粉及びナノ化懸濁等)において動物に対して投与される場合よりも高ことが表Iにおいて報告したデータにより示される。



オ 図面の簡単な説明及び図面の記載
段落【0010】に、以下の記載があり、そして、以下の図1?図6の記載がある。
「【0010】【図1】従来の公知の方法により調製した式Iの化合物の粉末X線回折パターンであり、当該化合物の著しい結晶性を示している。
【図2】本発明により調製した式Iの化合物の粉末X線回折パターンであり、当該化合物の非晶質特性を示している。
【図3】従来の公知の方法により調製した式Iの化合物の示差走査熱量測定熱像であり、当該化合物は結晶形態にあることを裏づける前記化合物の明らかな吸熱を示す。
【図4】本発明に従い調製した式Iの化合物の示差走査熱量測定熱像であり、当該化合物は非晶質形態にあることを裏づける約112℃のガラス転移温度を示す。
【図5】本発明により調製した式Iの化合物の粉末X線回折パターンであり、当該化合物は促進保存条件(40℃/75%RH、6ヶ月に渡るガラスバイアルでの保存)にさらされた場合でさえも、安定化剤を伴わずにその非晶質形態を保つことを示す。
【図6】従来公知の方法により生産した式Iの化合物(実施例IIIA)を含有する製剤及び本発明により生産した化合物(実施例IIA)を含有する製剤の溶出特性である。この図では、本発明の化合物(非晶質形態)は従来入手可能な結晶形態の化合物よりもより一層可溶性であることを示す。」




(3)本願発明4について

ア 本願発明4は、
「請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を有機溶媒中に溶かし;そして
(b)段階(a)の溶液から式Iの所望の非晶質化合物を沈殿させる;
ことを含んで成る方法。」
と特定されているところ、「請求項1記載の非晶質化合物」は、「112℃のガラス転移温度を有する化合物であって、式・・・Iの非晶質化合物」であるから、112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aである。
そこで、本件発明4の方法により、請求項1記載の非晶質化合物(112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物A)を生産することができるかを検討する。

イ まず、原料となる式Iの結晶化合物(結晶形態にある化合物Aといえる。)は、本願明細書に文献が提示されている公知の化合物である(上記(2)ア)。本願発明4の方法は、式Iの結晶化合物を、これを溶解することができる何れかの有機溶媒に溶解し、この溶液から、式Iの非晶質化合物の溶解量が小さくなるような何らかの操作を行って、112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを沈殿させる方法であると、理解できる。
そして、有機化合物の溶液から、その有機化合物の溶解量が小さくなるような操作を行って有機化合物の固体を析出(沈殿)させる方法としては、有機化合物の精製や特に医薬化合物においては結晶多形の探索のために広く行われている晶析において、結晶を得るために、溶液を冷却する方法(以下「冷却法」という。)、溶液を濃縮する方法(以下「濃縮法」という。)、溶液に貧溶媒を加えたり又は逆に貧溶媒に溶液を加える方法(以下「貧溶媒法」という。)が極めて一般的であることから、本願発明4の方法は、これらの冷却法、濃縮法、貧溶媒法において、析出(沈殿)する固体が結晶とはならず非晶質固体となる条件設定をして行うものを含むと認められる。

ウ そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、化合物Aを溶解する有機溶媒として「エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコール」が挙げられており(上記(2)イ段落【0031】)、これらの有機溶媒を用い得ることが理解できる。しかし、どのような操作で112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを沈殿させるかについては、「沈澱は、段階(a)の溶液が冷却された水溶液に添加されることによって行われるのが好ましい。本発明の上記方法において、水溶液の温度は約2℃?約10℃であり且つそのpHは、非晶質形態の式Iの化合物が溶解しないpHである。前記水溶液のpHは約2?約7であるのが好ましい」(同段落【0032】?【0033】)及び「b)溶媒調節沈澱(Solvent Controlled Precipitation):・・・式Iの結晶化合物が有機溶媒中に溶かされ・・・次いで、好ましくは水溶液中で、そして好ましくは化合物が溶解しないpHで、当該化合物は沈澱する」(上記(2)イa段落【0022】)との記載と、実施例Iにおける「式Iの結晶化合物をジメチルアセトアミド中に溶かした。次いで、生じる溶液をpH2?7の冷却した(2°?10℃)水溶液に加えた。これにより生じた化合物を、非晶質化合物として沈澱させた。沈澱を残留ジメチルアセトアミドが0.3%未満になる迄冷水(2°?10℃)で数回洗浄した。沈澱を乾かし、そして粉砕して所望の粒度にした」(上記(2)ウ)の記載があるだけである。

エ そうすると、冷却法で112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを沈殿させようとすると、用いる溶媒に対する化合物Aの溶解度の温度依存性や過冷却液体の現象等を調べて冷却法が採用し得るか検討し、化合物Aを溶解させる温度及び濃度、冷却速度及び沈殿開始温度、攪拌の有無等の諸条件を、沈殿する固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、決定する必要がある。化合物Aは、従来技術では結晶で得られているのであるから、その溶液から冷却法で沈殿を得ようとするときに、特別の条件設定なしに簡単に非晶質の固体が得られるものとは認められない。そうすると、上記の条件設定は、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。
また、濃縮法で112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを沈殿させようとすると、溶液の濃度、濃縮する温度及び減圧の有無、濃縮する速度等の諸条件を、沈殿する固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、決定する必要があり、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。
また、貧溶媒法で112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを沈殿させようとするときも、溶液の濃度及び温度、貧溶媒は何を用いるか、溶液に貧溶媒を加えるか又は貧溶媒に溶液を加えるか、貧溶媒の温度、攪拌の有無等、沈殿する固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、多数の条件設定が必要で、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。

オ 以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項4に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明4に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(4)本願発明5?10について
本願発明5は、本願発明4において「段階(a)において用いられる有機溶媒が、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択されている」と特定し、本願発明6は、その本願発明5において「段階(a)において用いられる有機溶媒が、ジメチルアセトアミドである」と特定したものである。
また、本願発明7は、本願発明4において「段階(a)の溶液を、冷却した水溶液に加えることによって段階(b)における沈殿が行われる」と特定し、本願発明8は、その本願発明7において「前記水溶液の温度が2℃?10℃である」と特定し、本願発明9は、その本願発明8において「前記水溶液のpHが、式Iの非晶質化合物が溶解しないものである」と特定し、本願発明10は、その本願発明9において「前記水溶液のpHが2?7である」と特定したものである。
これらの発明に関しても、上記(3)で述べたのと同様の理由で、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項5?10に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明5?10に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(5)本願発明11について
本願発明11は、
「請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)結晶形態にある式Iの化合物を有機溶媒中に溶かし;そして、
(b)前記有機溶媒を除去する;
ことを含んで成る方法。」
と特定されるものである。
上記(3)と同様に検討すると、有機化合物の溶液から、その溶媒を除去する操作を行って有機化合物の固体を得る方法としては、風乾、加熱乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥が極めて一般的であることから、本願発明11の方法は、式Iの結晶化合物を何れかの有機溶媒に溶解した溶液からの、これらの風乾、加熱乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥において、析出する固体が結晶とはならず非晶質固体となる条件設定をして行うものを含むと認められる。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、化合物Aを溶解する有機溶媒として「エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコール」が挙げられており(上記(2)イb段落【0035】)、これらの有機溶媒を用い得ることが理解できる。しかし、どのような操作で112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを析出させるかについては、「前記有機溶媒は噴霧乾燥又は凍結乾燥によって除去されて良い」(同段落【0034】)及び「a)噴霧乾燥又は凍結乾燥:結晶形態の式Iの化合物が、有機溶媒に溶かされ・・・次いで、前記溶媒は噴霧乾燥又は凍結乾燥によって除去され、式Iの非晶質化合物が生じる」(上記(2)イa段落【0021】)との記載があるだけである。
そうすると、風乾により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを析出させようとすると、温度、圧力、雰囲気、蒸発速度等の諸条件を、析出する固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、決定する必要がある。加熱乾固により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを析出させようとするときも、同様である。また、噴霧乾燥により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを得ようとすると、装置、噴霧媒体、噴霧圧、噴霧温度等の条件設定が必要である。凍結乾燥により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを得ようとするときも、装置、凍結温度、圧力、乾燥温度等の条件設定が必要である。化合物Aは、従来技術では結晶で得られているのであるから、その溶液から溶媒を除去する方法で固体を得ようとするときに、特別の条件設定なしに簡単に非晶質の固体が得られるものとは認められない。そうすると、上記の条件設定は、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。
以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項11に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明4に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(6)本願発明12?14について
本願発明12、13及び14は、それぞれ、本願発明11において「前記有機溶媒が、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコールエチルエーテル、グリコフラル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群から選択されている」、「前記有機溶媒が、噴霧乾燥によって除去される」及び「前記有機溶媒が、凍結乾燥によって除去される」と特定したものである。
これらの発明に関しても、上記(5)で述べたのと同様の理由で、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項12?14に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明12?14に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(7)本願発明15について
本願発明15は、
「請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を超臨界流体中に溶かし;そして
(b)前記超臨界流体を除去する;
ことを含んで成る方法。」
と特定されるものである。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、この方法については、「式Iの結晶化合物が超臨界流体中に溶かされ;そして当該超臨界流体は除去される。前記超臨界流体は液体窒素又は液体二酸化炭素であるのが好ましい」(上記(2)イb段落【0036】?【0037】)及び「c)超臨界流体:式Iの結晶化合物は、超臨界流体、例えば液体窒素又は液体二酸化炭素に(超臨界温度及び超臨界圧力下で)溶かされる。次いで超臨界流体は蒸発によって除去され、非晶質形態において沈澱した化合物が残る」(上記(2)イa段落【0023】)との記載があるだけである。
そうすると、超臨界流体中に溶解させて超臨界流体を除去することにより112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを析出させようとすると、実際に超臨界流体を入手し、適切な装置を用意し、超臨界流体の種類、装置、温度、圧力、濃度、蒸発速度等の諸条件を、析出する固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、決定する必要がある。上記の条件設定は、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。
以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項15に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明15に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(8)本願発明16について
本願発明16は、本願発明15において「前記超臨界流体が液体窒素又は液体二酸化炭素である」と特定したものである。
この発明に関しても、上記(7)で述べたのと同様の理由で、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項16に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明16に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(9)本願発明17について
本願発明17は、
「請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を有機溶媒中に溶かし;そして
(b)段階(a)において生じた溶液から超臨界流体により有機溶媒を抽出する;
ことを含んで成る、請求項16記載の方法。」
と特定されるものである。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、この方法については、「式Iの結晶化合物は有機溶媒中に溶かされ;そして当該有機溶媒は、液体窒素又は液体二酸化炭素のような超臨界流体により当該溶液から抽出される」(上記(2)イb段落【0038】)及び「c)超臨界流体:・・・式Iの化合物が、上記a)に記載の有機溶媒中に溶かされる。超臨界流体は、有機溶媒の抽出の為の抗溶媒として用いられ、有機溶媒から化合物を非晶質形態において沈澱させる」(上記(2)イa段落【0023】)との記載があるだけである。
そうすると、化合物Aを有機溶媒中に溶解させて超臨界流体により有機溶媒を抽出することにより112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを析出させようとすると、実際に超臨界流体を入手し、適切な装置を用意し、化合物Aの溶液を超臨界流体と接触させる温度、圧力等の諸条件を、析出する固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、決定する必要がある。上記の条件設定は、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。
以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項17に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明17に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(10)本願発明18について
本願発明18は、本願発明17において「前記超臨界流体が液体窒素又は液体二酸化炭素である」と特定したものである。
この発明に関しても、上記(9)で述べたのと同様の理由で、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項18に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明18に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(11)本願発明19について
本願発明19は、
「請求項1記載の非晶質化合物を調製する方法であって、
(a)式Iの結晶化合物を、様々な温度にセットされる温度調節押出し機(temperature-controlled extruder)(熱融解押出し機)に連続的に掛け;そして
(b)段階(a)由来の押出し物を急速に冷却する;
ことを含んで成る方法。」
と特定されるものである。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すると、この方法については、「式Iの結晶化合物は、様々な温度変化度にセットされる温度調節押出し機(temperature-controlled extruder)(熱融解押出し機(hot melt extruder))に連続的に掛けられ、そして押出し物は急冷される」(上記(2)イb段落【0039】)及び「d)熱溶解抽出:様々な温度変化度にセットされる温度調節押出し機に対して式Iの結晶化合物が漸進的に送り込まれる。特に、結晶化合物は熱融解押出し機において押出されて融解され、その後、急速に室温へと冷却され、そして当該化合物は固体化する又は非晶質形態において沈澱する。次いで、生じる押出物は粉砕され微粉になる」(上記(2)イa段落【0024】)との記載があるだけである。
そうすると、式Iの結晶化合物を熱溶融押出にかけることにより112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを析出させようとすると、装置、溶融温度及び滞留時間、押出物の寸法及び押出速度、冷却速度等の諸条件を、化合物Aの分解や変質が起こらずに、押し出され冷却された化合物Aの固体が結晶にならずに特定の非晶質固体になるように、決定する必要がある。上記の条件設定は、当業者に多数の試行錯誤を強いるものであると認められる。
以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項19に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明19に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(12)以上のとおり、発明の詳細な説明が、本件発明4?19に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

2 理由5(特許法第36条第6項第1号)について

(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
上記1(2)に記載したとおりである。

(3)本願発明4?19の課題について
上記1(2)アによれば、この出願の優先日当時、化合物Aの結晶形態は公知であったが比較的低い水溶性を有し生体利用効率が低い問題があり、これを改善するために医薬化合物をイオン性ポリマー中に分散させることも試みられたが製造が面倒であり患者に望ましくはないという問題があった。そこで、この出願の発明は、化合物Aの従来公知の結晶形態よりも速い溶出速度を示し、優れた生体利用効率を示し、イオン性ポリマーのような形態安定化剤がなくても安定な、化合物Aの非晶質形態及びその製造方法を提供することを目的として、そのような非晶質形態及びその製造方法を見出したものである。
したがって、本願発明4?19の課題は、化合物Aの従来公知の結晶形態よりも速い溶出速度を示し、優れた生体利用効率を示し、イオン性ポリマーのような形態安定化剤がなくても安定な、化合物Aの非晶質形態の製造方法を提供することであると認められる。

(4)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲の請求項4?19に記載された発明との対比・判断
本願発明4?19が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が本願発明4?19の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明4?19の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
上記1において、実施可能要件について検討したとおり、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項4?19に係る発明の方法により112℃のガラス転移温度を有する非晶質形態にある化合物Aを生産できる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明4?19に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、請求項4?19の特許を受けようとする発明(本願発明4?19)は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明4?19は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
したがって、この出願は、発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-15 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-05 
出願番号 特願2012-32566(P2012-32566)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 素子早乙女 智美  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中田 とし子
冨永 保
発明の名称 細胞周期阻害物質の非晶質形態  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中島 勝  
代理人 石田 敬  
代理人 福本 積  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 武居 良太郎  

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