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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1318416
審判番号 不服2015-8452  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-07 
確定日 2016-08-17 
事件の表示 特願2012-527000「カラー画像を生成する方法及び当該方法を使用した画像化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日国際公開、WO2011/028626、平成25年 2月 4日国内公表、特表2013-504080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年8月26日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年9月1日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月27日付けの拒絶理由通知に対して同年10月2日付けで手続補正がなされ、平成26年5月30日付けの拒絶理由通知に対して同年10月3日付けで手続補正がなされ、同年12月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年5月7日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成27年5月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年5月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項13】
カラー画像を生成する装置であって、当該装置は、システムバスを通じて通信する中央演算処理ユニット及びメモリを備えるコンピュータを備えており、前記メモリは、入力色及び出力色の値の少なくとも三次元のルックアップテーブルを格納しており、前記ルックアップテーブルの前記値は、人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、当該装置に接続可能な画像レンダリングユニット内で入力画像の色データを出力画像のデータに変換し、
ここで入力画像のデータは記憶色及び非記憶色を含んでおり、及び、前記コンピュータがさらに、前記入力画像のデータの前記記憶色が実質的に維持されることを特定する工程と、それらの色度に関して前記記憶色及び前記非記憶色を特徴付ける工程と、前記画像レンダリングユニットを使用して実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程とを行うアルゴリズムを備え、前記非記憶色の知覚された彩度、輝度、及びコントラストは、前記記憶色の知覚された彩度、輝度、及びコントラストとは異なって変更されることを特徴とする装置。」
とあったところを、

「【請求項13】
カラー画像を生成する装置であって、当該装置は、システムバスを通じて通信する中央演算処理ユニット及びメモリを備えるコンピュータを備えており、前記メモリは、人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、入力画像の色の値を視覚色空間内で規定される出力色の値への変換を含む、入力色及び出力色の値の少なくとも三次元のルックアップテーブルを格納しており、前記ルックアップテーブルの前記値は、当該装置に接続可能な画像レンダリングユニット内で入力画像の色データを出力画像のデータに変換し、
ここで入力画像のデータは記憶色及び非記憶色を含んでおり、及び、前記コンピュータがさらに、前記入力画像のデータの前記記憶色が実質的に維持されることを特定する工程と、それらの色度に関して前記記憶色及び前記非記憶色を特徴付ける工程と、前記画像レンダリングユニットを使用して実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程とを行うアルゴリズムを備え、前記非記憶色の知覚された彩度、輝度、及びコントラストは、前記記憶色の知覚された彩度、輝度、及びコントラストとは異なって変更されることを特徴とする装置。」
とする補正を含むものである(下線は補正箇所を示す。)。

本件補正について検討する。

本件補正は、「入力色及び出力色の値の少なくとも三次元のルックアップテーブル」について、「人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、入力画像の色の値を視覚色空間内で規定される出力色の値への変換を含む、」と補正して、「入力画像の色の値を視覚色空間内で規定される出力色の値への変換を含む、」と限定するとともに、本件補正前の「前記ルックアップテーブルの前記値は、人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、‥‥‥入力画像の色データを出力画像のデータに変換し、」から、「人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、」との事項を削除して、記載を整理したものである。

よって、本件補正は、本件補正前の請求項13に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項13に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。


2 引用例及びその記載事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の基礎となる出願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2007/132635号公報(2007年11月22日公開、以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「 【0001】
本発明は、カラー画像表示装置及び色変換装置、より詳細には、映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置及び色変換装置に関する。」

「 【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る表示装置の構成例を示すブロック図で、図中、10は入力映像信号、11はカラー画像表示装置、12は色変換部、13はカラー画像表示部を示す。入力映像信号10は色変換部12により色変換され、カラー画像表示部13で表示される。

「【0042】
ここで、入力映像信号によって定まり、入力映像信号が表すことのできる色全体を表した空間を第1色空間とする。例えば入力映像信号10が有する第1色空間はsRGB標準色空間であり、図3に示すu’v’色度図において色再現域110内の色を表わすことができる。また、カラー画像表示部13が再現可能な色空間を第2色空間とする。例えばカラー画像表示部13の第2色空間は、図3に示すu’v’色度図上において色再現域100を持つ。」

「【0061】
次に、色温度の変更を行わない場合(ステップS5でNOの場合)、第1色空間と第2色空間から新たに第3色空間を定義する(ステップS7)。本実施形態の色変換部12は、所望の色がカラー画像表示部13で再現されるように映像信号を変換するが、変換によって再現しようとするのは、入力映像信号が表す第1色空間の色そのものではなく、第1色空間の色を第3色空間に変換した色である。そのため第1色空間と第3色空間の関係をどのように定義するかで、色変換部12で変換された映像によってどのように映像が再現されるかが決まる。第1色空間から第3色空間への変換は、第1色空間を複数の色範囲に分けた上で行い、各々の色範囲で第1色空間と第3色空間は異なる関係を持つ。また、色範囲のうち特に白色を含む色範囲を、変換前および変換後でそれぞれ第1色空間第1色範囲および第3色空間第1色範囲と呼ぶこととする。第1色空間第1色範囲の外側にあり、第1色空間の少なくとも一つの原色と同じ色相の色を含んだ色範囲の一つを、第1色空間第2色範囲と呼ぶこととする。第1色空間第2色範囲の色は、第3色空間第2色範囲へと変換される。」

「 【0065】
本実施形態では色度図上で第3色空間を定義する。色度図上で第1色空間の白色座標から第1色空間の各原色の色度座標へ伸ばした半直線上に新しい原色点の色度座標を定めると、全体の色相を保持したまま彩度を強調することができる。ただし、これだけでは第3色空間第1色範囲の三原色の色相が第1色空間の三原色と色相が同じであることは保証されるが、それぞれの原色を足し合わせた任意の中間色に対しても色相が保持されるとは限らない。」

「 【0096】
ここで具体的な第3色空間の取り方について述べる。第3色空間第1色範囲での彩度の強調度合いをあまり大きく設定すると、主に肌色などで違和感を覚えやすくなる。そのため、第3色空間第1色範囲には彩度の変化に対して敏感な色を含み、彩度の強調度合いを控えることが望ましい。被験者10人の主観評価実験の結果、好ましい第3色空間第1色範囲は、白色の他に肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いは先に述べたaが1.0?1.2程度と、わずかな強調あるいは全く強調しないことが望ましいことが明らかになった。
【0097】
なお第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を押さえて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良い。この場合は行列演算では値の連続性などの問題が発生するため、数点の座標を定義し、それらの点から他の色を補間したLUTを作成することが適している。
【0098】
第3色空間第2色範囲の定義においては、彩度の強調度合いを第3色空間第1色範囲に比べて大きく変化させても違和感を覚えにくく、また色相を少しずつ変化させても大きな違和感を与えることはないことが、主観評価実験の結果明らかになった。元々彩度が高い色ほどこの傾向が強くみられたため、第3色空間の外側の色範囲ほど彩度の強調度合いを大きくし、色相の変化を大きくしても構わない。第3色空間第1色範囲の定義は一定のまま第3色空間第2色範囲の定義を変更させたLUTを作成し、主観評価実験を行った結果、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域ぎりぎりまで使用することが好ましいが、彩度が高い領域では明度を少し下げた方が良い結果が得られること、色相に関しては原色の色相は主波長で10nm程度変化させても問題は起こりにくいこと、補色では原色に比べて色相の変化の許容値が小さいこと、が明らかになった。
【0099】
図8と図9に、第1色空間と第3色空間における各色範囲の例を示す。400および500が第1色範囲であり、この色範囲では第1色空間の色相を保持したまま彩度をわずかに強調し、第3色空間へ変換される。401および501は第2色範囲であり、この色範囲では先の第1色範囲との境界での色の連続性を保ちつつ、色相を少しずつ変化させながら彩度を強調して、第1色空間から第3色空間へと変換する。」

「 【0103】
以上、本実施形態による色変換を行うと、第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され、第3色空間第2色範囲の色は、カラー画像表示部13の色再現域に応じて、色相を連続的に変化させながら彩度を強調した鮮やかな映像をカラー画像表示部13にて再現可能となる。なお第3色空間の色範囲の分け方は、ここで述べた分け方に限られるものではなく、また色範囲の境界線(境界面)は曲線(曲面)であってもよい。」


ア 引用例1には、「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」が記載されている(段落【0001】)。

イ 引用例1には、表示装置において、「入力映像信号は色変換部により色変換され、カラー画像表示部で表示される」ことが記載されている(【0029】)。

ウ 引用例1には、「入力映像信号が表すことのできる色全体を表した空間を第1色空間とし、カラー画像表示部が再現可能な色空間を第2色空間とする」ことが記載されている(【0042】)。

エ 引用例1の「【0061】‥‥‥第1色空間と第2色空間から新たに第3色空間を定義する‥‥‥第1色空間から第3色空間への変換は、第1色空間を複数の色範囲に分けた上で行い、各々の色範囲で第1色空間と第3色空間は異なる関係を持つ。また、色範囲のうち特に白色を含む色範囲を、変換前および変換後でそれぞれ第1色空間第1色範囲および第3色空間第1色範囲と呼ぶこととする。第1色空間第1色範囲の外側にあり、‥‥‥第1色空間第2色範囲と呼ぶこととする。第1色空間第2色範囲の色は、第3色空間第2色範囲へと変換される。」との記載から、「第1色空間と第2色空間から新たに第3色空間を定義し、第1色空間から第3色空間への変換は、第1色空間を、第1色範囲と第2色範囲の複数の色範囲に分けた上で行」うものといえ、また、「第1色空間第1色範囲は、第3色空間第1色範囲に変換され、第1色空間第2色範囲は、第3色空間第2色範囲へと変換される」ものということができる。
したがって、引用例1には、「第1色空間と第2色空間から新たに第3色空間を定義し、第1色空間から第3色空間への変換は、第1色空間を、第1色範囲と第2色範囲の複数の色範囲に分けた上で行い、第1色空間第1色範囲は、第3色空間第1色範囲に変換され、第1色空間第2色範囲は、第3色空間第2色範囲へと変換される」ことが記載されているということができる。

オ 引用例1の「【0096】ここで具体的な第3色空間の取り方について述べる。第3色空間第1色範囲での彩度の強調度合いをあまり大きく設定すると、主に肌色などで違和感を覚えやすくなる。‥‥‥好ましい第3色空間第1色範囲は、白色の他に肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いは‥‥‥わずかな強調あるいは全く強調しないことが望ましい‥‥‥」との記載、「【0099】図8と図9に、第1色空間と第3色空間における各色範囲の例を示す。400および500が第1色範囲であり、この色範囲では第1色空間の色相を保持したまま彩度をわずかに強調し、第3色空間へ変換される。‥‥‥」との記載から、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲においては、彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにし、また、第1色空間の色相を保持したままとするものということができる。
したがって、引用例1には、「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままとする」ことが記載されているということができる。そして、引用例1には、「第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され」ることが記載されているから(【0103】)、引用例1には、「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままとし、第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現される」ことが記載されているということができる。

カ 引用例1には、「第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良く、この場合は、LUTを作成することが適している」ことが記載されている(【0097】)(なお、「押さえて」は「抑えて」の誤記と認められる。)。

キ 引用例1の「【0098】第3色空間第2色範囲の定義においては、彩度の強調度合いを第3色空間第1色範囲に比べて大きく変化させても違和感を覚えにくく、また色相を少しずつ変化させても大きな違和感を与えることはない‥‥‥第3色空間第1色範囲の定義は一定のまま第3色空間第2色範囲の定義を変更させたLUTを作成し、‥‥‥彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域ぎりぎりまで使用することが好ましい」との記載から、第3色空間第2色範囲は、彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用するものとしてもよいこと、及び「第3色空間第1色範囲の定義は一定のまま第3色空間第2色範囲の定義を変更させたLUTを作成」することが記載されているといえる。
したがって、引用例1には、「第3色空間第2色範囲は、彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用し、第3色空間第1色範囲の定義は一定のまま第3色空間第2色範囲の定義を変更させたLUTを作成」することが記載されているということができる。

ク 引用例1には、「第3色空間第2色範囲の色は、カラー画像表示部の色再現域に応じて、色相を連続的に変化させながら彩度を強調した鮮やかな映像をカラー画像表示部にて再現可能となる」ことが記載されている(【0103】)。

したがって、上記引用例1に記載された事項、図面の記載、及び上記アないしクを総合すると、引用例1には、次の事項が記載されている(以下、引用発明という。)。

「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置であって、
入力映像信号は色変換部により色変換され、カラー画像表示部で表示され、
入力映像信号が表すことのできる色全体を表した空間を第1色空間とし、カラー画像表示部が再現可能な色空間を第2色空間とし、
第1色空間と第2色空間から新たに第3色空間を定義し、第1色空間から第3色空間への変換は、第1色空間を、第1色範囲と第2色範囲の複数の色範囲に分けた上で行い、第1色空間第1色範囲は、第3色空間第1色範囲に変換され、第1色空間第2色範囲は、第3色空間第2色範囲へと変換され、
第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままとし、第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され、
第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良く、この場合は、LUTを作成することが適し、
第3色空間第2色範囲は、彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用し、第3色空間第1色範囲の定義は一定のまま第3色空間第2色範囲の定義を変更させたLUTを作成し、
第3色空間第2色範囲の色は、カラー画像表示部の色再現域に応じて、色相を連続的に変化させながら彩度を強調した鮮やかな映像をカラー画像表示部にて再現可能な、
カラー画像表示装置。」


(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の基礎となる出願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-125125号公報(平成14年4月26日公開、以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、環境適応型の画像表示システム、プログラムおよび情報記憶媒体に関する。」

「【0006】特に、照明光等の環境光の影響を受ける状態では、明るさのために色の彩度が低下し、適切な色の再現ができない状態となってしまう。
【0007】本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、環境光の影響を受ける状態であっても、適切な色を再現できる環境適応型の画像表示システム、プログラムおよび情報記憶媒体を提供することにある。」

「【0077】図3は、本実施形態の一例に係るプロジェクタ20内の画像処理部の機能ブロック図である。
【0078】画像処理部は、RGBの各信号を入力する入力信号処理部401と、色制御処理部420と、補正手段として機能するキャリブレーション部430と、出力信号処理部405と、L/V駆動部406とを含んで構成されている。
【0079】入力信号処理部401は、R1、G1、B1の各アナログ映像信号をR2、G2、B2の各デジタル映像信号に変換するA/D変換部440を含んで構成されている。
【0080】色制御処理部420は、色情報の補正に用いられる3D-LUT(3次元ルックアップテーブル)記憶部403と、明るさ情報の補正に用いられる1D-LUT記憶部404とを含んで構成されている。」

「【0087】以下、色の補正について説明し、次に、明るさの補正について説明する。
【0088】(色の補正)キャリブレーション部430は、キャリブレーション(校正)用画像信号を入力信号処理部401に入力するキャリブレーション画像提示部407と、3D-LUT記憶部403に記憶された変換先の色をRGB表色系からXYZ表色系に変換する色変換部408と、色光センサー417から入力される環境情報に基づいて色と明るさの補正を行う色制御処理更新部460とを含んで構成されている。
【0089】なお、RGBはプロジェクタ20等の入出力デバイスによって変化するデバイス依存型の色であり、XYZは、デバイスによらずに同一であるデバイス非依存型の色である。
【0090】3D-LUT記憶部403にRGB形式で記憶された色情報(Ri、Gj、Bk。ただし、i、j、kは1?nの整数。以下、同様。すなわち、複数の階調単位で色情報は管理されている。)は、色変換部408に出力され、色情報(Xi、Yj、Zk)に変換される。
【0091】そして、色変換部408は、当該色情報(Xi、Yj、Zk)を、3D-LUT記憶部409に一時的に記憶し、色制御処理更新部460に出力する。
【0092】色制御処理更新部460は、色光センサー417からの環境情報に基づき、3D-LUT記憶部409に記憶された色情報(Xi、Yj、Zk)を変換する。
【0093】色光センサー417は、視環境を把握する視環境把握手段として機能する。色光センサー417としては、例えば、被表示領域の輝度値を計測する輝度センサー、被表示領域のRGB値やXYZ値を計測する色光センサー(例えば、3眼の輝度センサー等)等のうちの1つまたはこれらの組み合わせを適用できる。
【0094】投写画像における照明光等の環境光の影響は、環境光だけでなく、投影面の性質(分光反射率など)や投写距離にも依存する。このような場合、環境情報として照度を用いるよりも、環境情報として輝度値や輝度値を反映したRGB値やXYZ値を用いて視環境を把握する色光センサー417を用いることにより、投影面の性質や投影面までの距離も含めたより適切な視環境を把握することができる。
【0095】また、環境情報としては、色補正用環境情報および明るさ補正用環境情報がある。
【0096】ここで、色補正用環境情報としては、例えば、照明の白色色度、色度補正要求情報(色差、色度の差分等)、色相、色温度の変更要求情報、照明の相関色温度等が該当する。
【0097】また、明るさ補正用環境情報としては、例えば、照明の明るさ(輝度)、画像信号明るさの補正要求情報(ΔY等)、画像出力調整情報、画像のコントラスト、コントラスト補正要求情報等が該当する。
【0098】なお、環境情報として、色補正用環境情報および明るさ補正用環境情報を一体化した情報(例えば、xyY等)を適用してもよい。」

「【0102】色制御処理更新部460は、このようにして求めた三刺激値(X’i、Y’j、Z’k)を補正済み3D-LUT記憶部414に出力する。
【0103】そして、色変換部408は、補正済み3D-LUT記憶部414の(X’i、Y’j、Z’k)を(R’i、G’j、B’k)に変換し、変換後の(R’i、G’j、B’k)を3D-LUT記憶部403に出力する。
【0104】3D-LUT記憶部403では、(R’i、G’j、B’k)を用いて3D-LUTの対応先の色情報を書き換える。
【0105】このようにして、視環境に基づき、3D-LUT記憶部403の3D-LUTの色情報が書き換えられることにより、視環境に応じた適切な色を再現できるようになる。」

したがって、引用例2には、次の事項が記載されているということができる(下線は、当審で付した。)。

「環境光の影響を受ける状態であっても、適切な色を再現できる環境適応型の画像表示システムであって(【0001】、【0007】)、
色制御処理部420を含んで構成され(【0078】)、
色制御処理部420は、色情報の補正に用いられる3D-LUT(3次元ルックアップテーブル)記憶部403を備え(【0080】)、
3D-LUT記憶部403に記憶された変換先の色をRGB表色系からXYZ表色系に変換する色変換部408と、色光センサー417から入力される環境情報に基づいて色と明るさの補正を行う色制御処理更新部460とを含んで構成され(【0088】)、
色制御処理更新部460は、色光センサー417からの環境情報に基づき、色情報(Xi、Yj、Zk)を変換し(【0092】)、
このようにして求めた三刺激値(X’i、Y’j、Z’k)を(R’i、G’j、B’k)に変換し、(R’i、G’j、B’k)を用いて3D-LUTの対応先の色情報を書き換え(【0102】ないし【0104】)、
このようにして、視環境に基づき、3D-LUT記憶部403の3D-LUTの色情報が書き換えられることにより、視環境に応じた適切な色を再現できるようにする(【0105】)、
画像表示システム。」

したがって、引用例2には次の技術的事項が記載されているということができる。

(A)「環境光の影響を受ける状態であっても、適切な色を再現できる環境適応型の画像表示システムであって、色情報の補正に用いられる3D-LUT(3次元ルックアップテーブル)記憶部403を備え、
視環境に基づき、3D-LUT記憶部403の3D-LUTの色情報が書き換えられることにより、視環境に応じた適切な色を再現できるようにする」こと。

(B)「3D-LUT記憶部403に記憶された変換先の色をRGB表色系からXYZ表色系に変換する色変換部408と、色光センサー417から入力される環境情報に基づいて色と明るさの補正を行う色制御処理更新部460とを含んで構成され(【0088】)、
色制御処理更新部460は、色光センサー417からの環境情報に基づき、色情報(Xi、Yj、Zk)を変換」すること。


3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」は、「本願補正発明の「カラー画像を生成する装置」に相当する。

(2)一般に、「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」において、色変換をコンピュータで行うことは常套手段であり、また、コンピュータが、システムバスを通じて通信する中央演算処理ユニット及びメモリを備える構成は、コンピュータとしてごく普通の構成であるから、引用発明の「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」は、本願補正発明の、「当該装置は、システムバスを通じて通信する中央演算処理ユニット及びメモリを備えるコンピュータを備え」るものということができる。

(3)
ア 引用発明は、「入力映像信号が表すことのできる色全体を表した空間を第1色空間とし、」「第1色空間から第3色空間への変換は、第1色空間を、第1色範囲と第2色範囲の複数の色範囲に分けた上で行い、第1色空間第1色範囲は、第3色空間第1色範囲に変換され、第1色空間第2色範囲は、第3色空間第2色範囲へと変換され」、「第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され、」「第3色空間第2色範囲の色は、カラー画像表示部の色再現域に応じて、色相を連続的に変化させながら彩度を強調した鮮やかな映像をカラー画像表示部にて再現可能な」ものである。
ここで、第1色空間は、入力映像信号が表すことのできる色全体を表した空間であって、「第1色空間」の「入力映像信号が表すことのできる色」は、本願補正発明の「入力画像の色の値」に相当し、第3色空間第2色空間の色は、「カラー画像表示部にて再現可能な」色であるとともに、第3色空間第1色空間の色も、カラー画像表示部にて再現される色の範囲に含まれるから、引用発明の「第3色空間」の色は、本願補正発明の「色空間内で規定される出力色の値」に相当する。
したがって、引用発明の「第1色空間から第3色空間への変換」と、本願補正発明の「入力画像の色の値を視覚色空間内で規定される出力色の値への変換を含む」こととは、「入力画像の色の値を色空間内で規定される出力色の値への変換を含む」点で共通する。

イ また、引用発明は、「第1色空間から第3色空間への変換」にあたり、「第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良く、この場合は、LUTを作成することが適し、」「第3色空間第2色範囲は、彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用し、第3色空間第1色範囲の定義は一定のまま第3色空間第2色範囲の定義を変更させたLUTを作成」するものであって、いずれも「LUTを作成」して変換し得るものであり、また、「LUT」をコンピュータに備えられたメモリ(上記(2))に格納することは常套手段であるから、引用発明の「第1色空間から第3色空間への変換」を行う「LUT」と本願補正発明の「前記メモリは、‥‥‥入力色及び出力色の値の少なくとも三次元のルックアップテーブルを格納して」いることとは、「前記メモリは、‥‥‥入力色及び出力色の値のルックアップテーブルを格納して」いる点で共通する。

ウ 上記ア、イから、引用発明の「第1色空間から第3色空間への変換」を行う「LUT」を備えることと、本願補正発明の「前記メモリは、人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、入力画像の色の値を視覚色空間内で規定される出力色の値への変換を含む、入力色及び出力色の値の少なくとも三次元のルックアップテーブルを格納しており、前記ルックアップテーブルの前記値は、当該装置に接続可能な画像レンダリングユニット内で入力画像の色データを出力画像のデータに変換」することとは、「前記メモリは、入力画像の色の値を色空間内で規定される出力色の値への変換を含む、入力色及び出力色の値のルックアップテーブルを格納しており、前記ルックアップテーブルの前記値は、入力画像の色データを出力画像のデータに変換」する点で共通する。

(4)
ア 引用発明は「入力映像信号は色変換部により色変換され」る「カラー画像表示装置」であって、色変換にあたり、「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままとし、第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され」るものであって、「第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良」いことから、第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲であって、少なくとも肌色は「記憶色」ということができる。
そして、第3色空間第1色範囲の色は、変換前の「入力映像信号が表すことのできる色全体を表した」第1色空間第1色範囲の色に対応するものであって、入力映像信号が示す色に対応するから、引用発明の「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」の「入力映像信号」(本願補正発明の「入力画像のデータ」に相当。)は「記憶色」を含むものである。

イ また、引用発明において、「第3色空間第2色範囲の色は、カラー画像表示部の色再現域に応じて、色相を連続的に変化させながら彩度を強調した鮮やかな映像をカラー画像表示部にて再現可能な」ものであって、カラー画像表示部の色再現域に応じて色相や彩度を変更するものであるから、記憶色ではなく非記憶色ということができる。そして、第3色空間第2色範囲の色は、変換前の「入力映像信号が表すことのできる色全体を表した」第1色空間第1色範囲の色に対応するものであって、入力映像信号が示す色に対応するから、引用発明の「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」の「入力映像信号」は、「非記憶色」を含むものである。

ウ 上記ア、イから、引用発明の「映像信号の色変換を行うカラー画像表示装置」の「入力映像信号」は、本願補正発明において「ここで入力画像のデータは記憶色及び非記憶色を含」むとされる「入力画像のデータ」に相当する。


(5)
ア 引用発明は、「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままと」するものであって、このような処理を、コンピュータが行うことは常套手段であり(上記(2))、その際にアルゴリズムを用いることは明らかであるから、引用発明と本願補正発明とは、「前記コンピュータがさらに、前記入力画像のデータの前記記憶色が実質的に維持されることを特定する工程」を行うアルゴリズムを有する点で共通する。

イ また、引用発明の「第3色空間第2色範囲」は「彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用」する一方、第1色空間の色相を保持したままとするものであるから、本願補正発明の「それらの色度に関して前記記憶色及び前記非記憶色を特徴付ける工程」を行うアルゴリズムを有するものである。

ウ 引用発明は、「第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され」るものであるから、本願補正発明の「前記画像レンダリングユニットを使用して実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程とを行うアルゴリズム」とは、「実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程とを行うアルゴリズム」を有する点で共通する。

エ 上記アないしウから、引用発明は、本願補正発明と、「前記コンピュータがさらに、前記入力画像のデータの前記記憶色が実質的に維持されることを特定する工程と、それらの色度に関して前記記憶色及び前記非記憶色を特徴付ける工程と、実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程とを行うアルゴリズムを備え」る点で共通する。

(6)引用発明は、「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままと」するものである一方、引用発明の「第3色空間第2色範囲」は、第1色空間の色相を保持する第3色空間第1色範囲とは異なり、「彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用」するものであるから、第1色範囲の肌色のような記憶色(上記(4))については、彩度をわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第2色範囲の非記憶色(上記(4))については、彩度を強調するものであり、記憶色とは異なって変更されるということができる。
したがって、引用発明の「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに」、「第3色空間第2色範囲」は「彩度を強調し、‥‥‥彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用」することと、本願補正発明の「前記非記憶色の知覚された彩度、輝度、及びコントラストは、前記記憶色の知覚された彩度、輝度、及びコントラストとは異なって変更される」こととは、「前記非記憶色の知覚された彩度は、前記記憶色の知覚された彩度とは異なって変更される」点で共通する。


すると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。

<一致点>
「カラー画像を生成する装置であって、当該装置は、システムバスを通じて通信する中央演算処理ユニット及びメモリを備えるコンピュータを備えており、前記メモリは、入力画像の色の値を色空間内で規定される出力色の値への変換を含む、入力色及び出力色の値のルックアップテーブルを格納しており、前記ルックアップテーブルの前記値は、入力画像の色データを出力画像のデータに変換し、
ここで入力画像のデータは記憶色及び非記憶色を含んでおり、及び、前記コンピュータがさらに、前記入力画像のデータの前記記憶色が実質的に維持されることを特定する工程と、それらの色度に関して前記記憶色及び前記非記憶色を特徴付ける工程と、実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程とを行うアルゴリズムを備え、前記非記憶色の知覚された彩度は、前記記憶色の知覚された彩度とは異なって変更されることを特徴とする装置。」

<相違点>ア
本願補正発明が、「人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、」入力画像の色の値を「視覚」色空間内で規定される出力色の値への変換を含むのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

<相違点>イ
ルックアップテーブルについて、本願補正発明が、「少なくとも三次元の」ルックアップテーブルであるのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

<相違点>ウ
本願補正発明が、「当該装置に接続可能な画像レンダリングユニット内で」入力画像の色データを出力画像のデータに変換し、また、「前記画像レンダリングユニットを使用して」実質的に維持された記憶色を有する画像を生成する工程を行うのに対し、引用発明は、画像レンダリングユニットについて特定がない点。

<相違点>エ
本願補正発明が、前記非記憶色の知覚された彩度、「輝度、及びコントラスト」は、前記記憶色の知覚された彩度、「輝度、及びコントラスト」とは異なって変更されるのに対し、引用発明は、輝度、及びコントラストについて特定がない点。


4 判断

<相違点>アについて

(1)引用発明は、「第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良」いものであって、記憶色については、その再現を考慮するために、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといったことも行うものであるから、明度も含めて人が記憶した色に近づけて表示し得るよう、すなわち人間の視覚系の知覚に順応した表示となるよう明度等を補正するものということができる。そして、このような場合において、モデルを用いることは当業者が適宜なし得ることであるから、本願補正発明のように「人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、」入力画像の色の値を変換することは格別なことではなく、また、人間の視覚系を用いるものであるから、視覚色空間を用いることは、当業者が適宜なし得る事項である。
また、引用例2には、「環境光の影響を受ける状態であっても、適切な色を再現できる環境適応型の画像表示システムであって、色情報の補正に用いられる3D-LUT(3次元ルックアップテーブル)記憶部403を備え、視環境に基づき、3D-LUT記憶部403の3D-LUTの色情報が書き換えられることにより、視環境に応じた適切な色を再現できるようにする」(上記2(2)(A))こと、及びXYZ表色系において、環境情報に基づいて色情報と明るさの補正を行うことが記載されているから(上記2(2)(B))、引用例2に記載のものも、環境光の影響を受ける状態においても、適切な色を再現できるよう色情報を補正すること、すなわち、人間の視覚系の知覚に順応した表示となるよう色情報を補正するものであり、本願補正発明のように「人間の視覚系の知覚順応のモデルに基づき、」入力画像の色の値を「視覚」色空間内で規定される出力色の値への変換を含むようにすることは、当業者が容易になし得る事項である。

よって、本願補正発明の<相違点>アに係る構成のようにすることは格別なことではない。

なお、請求人は、審判請求書4.(4)において、「今般行った補正において色テーブルの設計にIPT色空間のような視覚色空間を用いることが明確になりましたので、出願人の主張が請求項の記載に基づくものとなり、本願発明が特許を受けるに足るものであることを確信いたします。」と主張しているが、視覚色空間がIPT空間であるとしても、視覚色空間としてIPT空間は周知な色空間であって、これを用いることは当業者が適宜なし得る事項である。
よって、請求人の前記主張を採用することができない。

<相違点>イについて

引用発明は「第3色空間第1色範囲は、肌色や青空や緑葉の色を含む範囲とし、第3色空間第1色範囲の彩度強調度合いはわずかな強調あるいは全く強調しないようにするとともに、第1色空間の色相を保持したままとし、第3色空間第1色範囲へ変換される色は映像信号の色空間での色相を維持して再現され、第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良く、この場合は、LUTを作成することが適」するものであって、肌色について、彩度、色相のほか、明度も考慮し得るものであり、この場合にはLUTを作成するものである。
そして、明度を考慮する場合は、彩度、色相、明度の3次元となるものであって、その場合には3次元のLUTを用いることになるから、本願補正発明のように「少なくとも三次元の」ルックアップテーブルを用いることに格別の困難性を有しない。
また、引用例2に記載されている(上記2(2)(A))ように、色情報の補正において、3D-LUT(三次元ルックアップテーブル)を用いることは周知技術であるから、このことからも、「少なくとも三次元の」ルックアップテーブルを用いることに格別の困難性を有しない。

よって、本願補正発明の<相違点>イに係る構成のようにすることは格別なことではない。

<相違点>ウについて
本願補正発明の<相違点>ウに係る構成である、「当該装置に接続可能な画像レンダリングユニット内で」入力画像の色データを出力画像のデータに変換することにおいて、「当該装置」は「カラー画像を生成する装置」である。
ここで、「画像レンダリング」は、コンピュータのプログラムを用いて画像などを生成することであって、このような機能をユニット化して設けることは適宜なし得ることであるから、「画像レンダリングユニット内で」入力画像の色データを出力画像のデータに変換し、また、「前記画像レンダリングユニットを使用して」実質的に維持された記憶色を有する画像を生成することに格別の困難性を有しない。
また、一般に、処理ユニットと、処理結果を出力する装置を接続可能とすることは、周知慣用手段であるから、「画像レンダリングユニット」と「カラー画像を生成する装置」を接続可能とすることは、当業者が適宜なし得る事項である。

よって、本願補正発明の<相違点>ウに係る構成のようにすることは格別なことではない。

<相違点>エについて

(ア)引用発明は、「第3色空間第1色範囲を定義する際には、肌色の彩度を抑えて明度を上げるといった記憶色の再現を考慮した補正を行っても良」いものであって、明度、明るさ(輝度)は相関関係にあるから、記憶色を再現するために、非記憶色と記憶色の輝度を異なって変更することに格別の困難性を有しない。
(イ)そして、「第3色空間第2色範囲」(本願補正発明の「非記憶色」の範囲に対応。)は「彩度を強調し、色相を少しずつ変化させて、彩度に関しては最終的に表示装置の色再現域まで使用」することから、表示において、一般的な変数である明るさ(輝度)においても表示装置の再現域まで使用するようにすることは当業者が適宜なし得る事項であり、また、コントラストの制御も表示装置において通常調整されるものであるから、非記憶色のコントラストについても、記憶色のコントラストとは異なって変更されるようにすることに格別の困難性を有しない。

よって、本願補正発明の<相違点>エに係る構成のようにすることは格別なことではない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載された技術的事項及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


5 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成27年5月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項13に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1 」の本件補正前の「請求項13」として記載したとおりのものである。 ここで、平成26年10月3日付け手続補正書は、同日付で2通提出されているが、提出時刻が遅いものを採用する(なお、両手続補正書の請求項13に係る発明に変更はない。)。

2 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2 引用例及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、本願補正発明から、上記「第2 1本件補正」で検討した本件補正に係る限定を削除するものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 [理由] 4 判断」に示したとおり、引用発明、引用例2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-14 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-04-05 
出願番号 特願2012-527000(P2012-527000)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 清水 稔
酒井 伸芳
発明の名称 カラー画像を生成する方法及び当該方法を使用した画像化装置  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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