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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21D
管理番号 1318465
審判番号 不服2015-13907  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-23 
確定日 2016-08-18 
事件の表示 特願2010-132457「原子力設備」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日出願公開、特開2011-257281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年6月9日の出願であって、平成26年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年7月28日付けで、意見書及び手続補正書が提出され、同年12月10日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年4月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がされ、平成28年3月10日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に記載された発明は、平成28年4月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。
「放射性物質で汚染される以前の構造物、または放射線に縛され放射化される以前の構造物における想定した保守部位に対して自走装置の移動を案内する案内手段が設置されており、当該案内手段は、前記構造物に溝、穴、埋め込み、帯状のライン、帯状の発光体またはトンネルとして形成されていることを特徴とする原子力設備。」

3.当審の拒絶理由の概要
当審の拒絶理由の概要は、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-124458号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

4.引用例
(1)引用例の記載
引用例には、「超音波探傷装置」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
ア 「〔発明の技術分野)
本発明は原子力発電プラント内の配管等の探傷検査に使用される超音波探傷装置に関する。
〔発明の技術的背景〕
一般に、原子力発電プラントにおいては供用期間中検査が定期的に実施されている。そして、この供用期間中の検査において万一欠陥が発見された場合には、速やかに欠陥部を除去、補修して原子力発電プラントの健全性、安全性を確保し、原子炉運転中の不慮の事故を未然に防止せんとしている。この供用期間中検査項目の中には機器、配管等の溶接部の探傷検査が含まれる。
ところで、探傷検査の方法としては肉眼による方法、X線透過による方法または超音波による方法等種々の方法が考えられる。しかし、肉眼による方法では内部の欠陥を発見できないという欠点がある。また、X線透過による方法ではX線発生装置が必要となるが、このX線発生装置は比較的大型であるためプラント内の狭い空間で使用するに適さないばかりか、原子力発電プラント内の機器、配管等は放射化されているためX線検出に困難を伴う。そこで、原子力発電プラントにおいては前述のような欠点のない超音波による方法が採用されている。この超音波による方法は原子力発電プラントの配管等に使用されている材料が主に対超音波伝搬性に優れる炭素鋼である点からも好適であると言える。」(1頁右下欄7行?2頁14行)
イ 「〔発明の概要〕
本発明は、被検体に吸着して走行する自走式走行車と、被検体と一定間隔を置くようにして前記走行車に搭載される非接触型の超音波トランスジューサと、この超音波トランスジューサの超音波送受信信号を処理する超音波送受信信号処理装置と、前記走行車を検査部分に沿って誘導する走行誘導機構とを有するものである。」(3頁左下欄9?16行)
ウ 「第8図および第9図は、溶接線部の詳細を示すもので、溶接を行なう配管10は、溶接リング44aを介して接合される。ここで完全に接合できるように配管10と溶接リング44aは相互に直交するように配置され、その接合面は研磨されており、その後溶接部44bが肉盛りされる。
超音波探傷は、溶接部44bの全体を残りなく行なわねばならない。それには、走行車22が完全に溶接線44の上を、トレースせねばならない。走行車22に、ガタがある場合や、垂直状の配管10を探傷する場合には、走行車22を単純に走行させただけでは、溶接線44上を確実に走行するのは困難になる。つまり、走行車22が完全に直進する性能を持っているとしても、走行車22を配管10にセットする時点で、確実に走行車22を溶接線44上に設置できるとは限らない。このため、もし、溶接線44上に向きがややずれて、走行車22が設置されて走行すると、走行距離が長くなるに従って走行車22が溶接線44から離れてしまう。
これを防止するために走行車22を案内する必要があるが、従来においては溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープや、超音波発振器や、レーザー光源等を配管10に設けることが一般例である。
しかし、この場合テープを配管10に巻回して取付けたり、レーザ光源を取付ける作業が必要となる。また、走行車22の走行性能がこれらのテープ等に著しく左右されるので、精度よく取付けることも必要となる。
ところが、実際の配管10は外径が1m近くもあり、人が行なうにはかなりの時間を要し、これによって作業時の被曝量も増大する。
そのため本発明においては配管10に案内機能を設けることなく、溶接線44に沿って走行車22を正確に走行させるため、第10図(a)?(d)に示す走行誘導機構を設けている。」(4頁右上欄18行?右下欄15行)
エ 第8図

オ 第9図

5.引用発明の認定
(1)上記4(1)イより、引用例に記載された「本発明」は、「被検体に吸着して走行する自走式走行車と、被検体と一定間隔を置くようにして前記走行車に搭載される非接触型の超音波トランスジューサと、この超音波トランスジューサの超音波送受信信号を処理する超音波送受信信号処理装置と、前記走行車を検査部分に沿って誘導する走行誘導機構とを有するもの」であるということができる。

(2)上記4(1)ウの「走行車22を案内する必要があるが、従来においては溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープや、超音波発振器や、レーザー光源等を配管10に設けることが一般例である。」という記載から、「従来」より、「溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープや、超音波発振器や、レーザー光源等を配管10に設けることが」一般的に行われていたことが理解できる。

(3)上記4(1)ウの「そのため本発明においては配管10に案内機能を設けることなく、溶接線44に沿って走行車22を正確に走行させるため、第10図(a)?(d)に示す走行誘導機構を設けている。」という記載からみて、従来より、一般的な「超音波探傷装置」は、引用例に記載された「本発明の」「超音波探傷装置」の「走行誘導機構」に替えて、「溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープや、超音波発振器や、レーザー光源等」の「案内機能」を「配管10」に設けたものであるということができる。

(4) ア 上記4(1)アに記載された「供用期間中」に「定期的に実施され」る「原子力発電プラント」の「機器、配管等の溶接部」の「探傷検査」は、「定期的に実施され」る検査である以上、該「探傷検査」の対象となる「機器、配管等の溶接部」は、供用される前の時点から予定されている検査であるということができる。
そして、供用される前から予定されている検査がある場合には、その検査が行うことができるように、「機器、配管等」の配置を考慮して、必要とされる設備等は、供用前に予め準備しておくことが普通であると認められる。
また、上記4(1)ウの「溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープや、超音波発振器や、レーザー光源等を配管10に設ける」ことを、被曝量の危険性があると考えられる、該「配管10」が供用されてからわざわざ行うと理解すべきではない。

イ 上記4(1)アには、「原子力発電プラント内の機器、配管等は放射化されている」という記載から、引用例に記載された「原子力発電プラント内の機器、配管等」は「放射化」されていることを前提としていることがわかる。
一方、「機器、配管等」は、供用される前は放射化されていないことは明らかであり、供用された後に放射性物質と接することで「放射化」されるものであることも明らかある。

ウ そうすると、上記4(1)ウの「この場合テープを配管10に巻回して取付けたり、レーザ光源を取付ける作業が必要となる。また、走行車22の走行性能がこれらのテープ等に著しく左右されるので、精度よく取付けることも必要となる。
ところが、実際の配管10は外径が1m近くもあり、人が行なうにはかなりの時間を要し、これによって作業時の被曝量も増大する。」という記載において、「作業時の被曝量が増大する」理由は、「配管10」が既に供用され放射化されているということではなく、他の「原子力発電プラント内の機器、配管等」が「放射化」されていることから、作業に「時間を要」すると、既に「放射化」された、該他の「原子力発電プラント内の機器、配管等」によって、「作業時の被曝量」が「増大する」と理解すべきである。

エ 上記ア?ウから、引用例の上記4(1)ウの「走行車22を案内する必要があるが、従来においては溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープや、超音波発振器や、レーザー光源等を配管10に設けること」は、「機器、配管等の溶接部」が、供用される前に行われるものと解すべきである。

(5)(1)?(4)から、引用例には、従来より一般的に用いられた「超音波探傷装置」について、
「原子力発電プラント内の配管の溶接部44bの探傷検査に使用される超音波探傷装置において、
被検体に吸着して走行する自走式走行車と、被検体と一定間隔を置くようにして前記走行車に搭載される非接触型の超音波トランスジューサと、この超音波トランスジューサの超音波送受信信号を処理する超音波送受信信号処理装置とを有し、
走行車22を溶接線44の上を確実に走行させるための、前記走行車を検査部分に沿って誘導する、溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための案内機能を、配管が供用される前に配管10に設けたものであって、
該案内機能は、光反射テープ、超音波発振器、又は、レーザー光源を、供用される前の配管10に設けたものである超音波探傷装置。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

6.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「原子力発電プラント内の配管」に設けられた「案内機構」は、該配管が供用される前に設けられているから、引用発明の「供用される前」は、本願発明の「放射性物質で汚染される以前」に相当し、引用発明の「案内機構」が設けられた「供用される前」の「原子力発電プラント内の配管」は、本願発明の「放射性物質で汚染される以前の構造物、または放射線に縛され放射化される以前の構造物」に相当する。
また、引用発明の「溶接部44b」、「自走式走行車」、「溶接線44に沿って走行車22の位置を検出して溶接線44上を走行するように案内するための光反射テープ」及び「超音波探傷装置」は、本願発明の「想定した保守部位」、「自走装置」、「自走装置の移動を案内する案内手段」及び「原子力設備」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「光反射テープ」は、「帯状のライン」であることは明らかであるから、引用発明の「光反射テープ」が「走行車22を」「溶接線44上を走行するように案内する」構成は、本願発明1の「当該案内手段は、前記構造物に帯状のラインとして形成されている」構成に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とに、実質的な差異は認められない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-15 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-05 
出願番号 特願2010-132457(P2010-132457)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松川 直樹
川端 修
発明の名称 原子力設備  
代理人 酒井 宏明  

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