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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1318499
審判番号 不服2014-11943  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-24 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 特願2010-206433「場所参照式写真リポジトリ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日出願公開、特開2011- 3212〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成16年9月17日(パリ条約による優先権主張2003年9月17日,米国)に出願した特願2004-304893号の一部を平成22年9月15日に新たな特許出願としたものであって,平成26年2月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月24日に拒絶査定不服審判請求がなされ,当審において平成27年6月19日付けで拒絶理由通知(最初)がなされ,同年12月21日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年12月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

<本願発明>
「デジタル地図を更新する方法であって,
該方法は,
写真リポジトリシステムが,データネットワーク上で複数のユーザにアクセス可能なオンライン写真データ記憶リポジトリを維持するステップを有しており,
写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに前記複数のユーザによって更新される写真画像を記憶し,写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データリポジトリに,前記更新された写真画像の各々が撮られた場所を指示する位置データを記憶し,
該方法は,さらに,
写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に対する地図開発者のアクセスを提供するステップを有しており,
写真リポジトリシステムにより,物理的特徴の位置を指示する位置データと関連する特定の写真画像を識別することによって,前記地図開発者が,地理的領域に位置する対象物の物理的特徴の表示を更新できるようにし,更に,
更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップと,
前記デジタル地図に表示されていない更新された写真画像の少なくとも1つの物理的特徴を識別したときに,前記対象物の前記少なくとも1つの物理的特徴を表示するデータを含むように前記デジタル地図を更新するステップを備えた方法。」

第3 引用文献

1. 特開平10-232135号公報

当審の拒絶理由通知において引用された特開平10-232135号公報には,次の事項が記載されている(下線は,当審において付与した。)。

(発明の属する技術分野)

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えば自動車などの車両に搭載させて,自車の位置の近傍の地図などを表示させるナビゲーション装置に適用して好適な画像データ収集方法,画像データ提供方法,地図作成方法及び位置データ提供方法と,これらの方法を適用したナビゲーション装置と,このナビゲーション装置を搭載した車両に関する。」

(画像データ収集)

イ.「【0009】本例においては,端末装置を自動車などの車両(移動体)に設置してナビゲーション装置として使用するもので,端末装置は所定の場所に設置された中央装置と電話回線を介して通信を行うようにしてある。
【0010】まず,端末装置の構成について説明すると,図1は端末装置の構成を示すブロック図で,端末装置10はマイクロコンピュータで構成されるシステムコントローラ11を備え,システムコントローラ11に接続される各部のデータの演算処理を行う。即ち,この端末装置10にはGPS用アンテナ12が接続してあり,このアンテナ12で受信した信号を,GPS信号受信部13に供給する。GPS信号受信部13では,GPS(Global Positioning System )と称される測位システム用の受信処理を行う。即ち,複数の測位用人工衛星から送信されるGPS用の測位信号を受信して,その信号に含まれるデータを解析して,現在位置(緯度,経度,高度)のデータを得,現在位置のデータをシステムコントローラ11に供給する。」

ウ.「【0015】また本例の端末装置10は,第1のビデオカメラ部18と第2のビデオカメラ部19の2つの撮影部を備える。第1のビデオカメラ部18は,端末装置10の正面側に設置されて,端末装置10の前面の様子(例えば装置の前面にいる者の顔など)を撮影するもので,第2のビデオカメラ部19は,端末装置10の背面側に設置されて,端末装置10の背面の様子(例えば車両の先方の景色)を撮影するもので,それぞれのビデオカメラ部18,19での撮影はシステムコントローラ11の制御により実行され,撮影された画像を表示部16に表示させることもできる。」

エ.「【0017】そして,無線通信部21がシステムコントローラ11に接続してあり,この無線通信部21に接続されたアンテナ22を介して中央装置側と通信を行うようにしてある。ここでは無線通信部21として,所定の無線電話回線により通信を行う無線電話装置が使用され,システムコントローラ11の制御で各種データ(GPS受信部で測位された位置データ,ビデオカメラ部で撮影された画像データ,音声入出力部で扱う音声データなど)の送受信を行う。その伝送されるデータの詳細については後述する。」

オ.「【0021】次に,このように構成される端末装置10と通信を行う中央装置の構成を,図3を参照して説明する。中央装置30は,所定の電話回線1(無線電話回線など)を介してn台(nは任意の数)の端末装置10a,10b,10c‥‥10nと双方向の通信を行うようにしてあり,構成としては,データ管理部31と,そのデータ管理部31の制御で各種データの記憶を行うデータ記憶部32とを備える。」

カ.「【0023】ここで,中央装置30が各端末装置10から送信されるデータを受信してデータ記憶部32に蓄積させる場合の,端末装置10からの送信処理を,図4のフローチャートを参照して説明する。まず,中央装置へのデータ送信を行うのか否か判断する(ステップ101)。ここで,データ送信を行うモードであると判断した場合には,GPS受信部13などで現在位置を測位させると共に進行方向を判断し(ステップ102),第2のビデオカメラ部19で車外の景色を静止画像として撮影し,メモリ15に一旦記憶させる(ステップ103)。このときには,撮影した時刻についても記憶させておく。そして,音声メッセージを付加するか否か判断し(ステップ104),音声メッセージを付加したい場合には,音声入出力部20を使用した音声メッセージの入力処理を行う(ステップ105)。
【0024】ステップ104で音声メッセージがないと判断した場合と,ステップ105で音声メッセージの入力処理を行った後には,無線通信部21で中央装置30の電話番号への発呼処理を行い,回線が接続された段階で,画像データと,その画像を撮影した位置及び方向を示すデータと,撮影した時刻のデータと,音声データ(ある場合)とを,中央装置30側に送信する(ステップ106)。
【0025】中央装置30では,このようにして各端末装置10から送信されて集められたデータを,データ記憶部32に蓄積させる。図5は,このようにデータ記憶部32に蓄積されるデータの記憶状態の一例を示した図で,ここではレストランがある位置の画像データを蓄積させた例を示し,最初の例では,「××屋」という名前のレストランが存在する座標位置(x1,y1,z1)での各方向の画像(ここでは北向きの画像,東向きの画像,南向きの画像,西向きの画像の4方向の画像)のデータを,撮影した時刻毎に分類(例えば6時間毎に分類)して記憶させておく。例えば,時刻〔0:00?6:00〕の間に撮影した画像,時刻〔6:00?12:00〕の間に撮影した画像,‥‥のように分類しておく。そして,この座標位置で示される画像が該当するレストランの名称「××屋」とその電話番号を付属情報として記憶させておく。」

キ.「【0063】
【発明の効果】本発明の画像データ収集方法によると,移動体の所定の位置に具備された撮影手段で景色を自動的に撮影し,撮影した画像データを移動体の位置データと共に送信し,送信された画像データと位置データを受信して所定の中央装置に蓄積するようにしたことで,中央装置側では様々な位置の画像データを収集することができ,画像データのデータベースを効率良く作成することができる。」

(画像データ提供)

ク.「【0032】次に,このようにして中央装置30側に蓄積された画像データを,各端末装置10側で使用する処理を説明する。まず,端末装置10で現在地から目的地までのルート設定を行った場合の処理を,図7のフローチャートを参照して説明すると,端末装置10のシステムコントローラ11は,目的地までのルート設定を行うか否か判断し(ステップ111),ルート設定を行う場合には,目的地までのルート上に存在する主要交差点の座標と,その交差点を進行する方向を算出し,その算出した座標及び方向のデータをメモリ15に記憶させる(ステップ112)。
【0033】例えば図8に示すように,現在位置aから目的地bまでのルート設定を行って,そのルート上に交差点P1,P2,P3,P4,P5があるとき,各交差点P1,P2,P3,P4,P5の座標位置のデータ(x1,y1),(x2,y2),(x3,y3),(x4,y4),(x5,y5)と,その座標位置での進行方向のデータθ1,θ2,θ3,θ4,θ5を算出して記憶させる。
【0034】このルート上の主要交差点の座標及び方向の算出ができると,その算出された各座標位置の画像データ送信を要求するデータを,電話回線を経由して中央装置30に伝送する(ステップ113)。
【0035】この要求が中央装置30にあると,中央装置30側ではデータ記憶部32に該当する座標位置の該当する方向のデータがあるか否か判断し,その画像データが記憶されている場合には,その画像データを端末装置10に対して接続された電話回線で返送する。このとき,画像データが撮影した時刻毎に複数種類ある場合には,時刻を考慮して最も適切な画像を選択(例えば現在時刻に最も近い時刻に撮影された画像を選択)しても良い。また,該当する位置の画像データが記憶されてない場合には,画像データ無しを示すデータを端末装置10に対して返送する。
【0036】端末装置10のシステムコントローラ11では,電話回線により中央装置30から何らかのデータの返送があるか否か判断し(ステップ114),データの返送があると判断したとき,その返送されたデータに画像データがあるか否か判断し(ステップ115),画像データがあるとき,その受信した画像データを表示部16で所定の態様で表示させる(ステップ116)。」

ケ.「【0040】次に,中央装置30側に蓄積された特定種類の画像データを使用して,各端末装置10側で案内表示を行う場合の処理を説明する。図9のフローチャートは,中央装置30に蓄積されたレストランの画像データを伝送させて表示させる処理を示したもので,端末装置10のシステムコントローラ11は,所望位置の近傍の特定種類のデータを収集する処理(ここではレストランのデータを収集する処理)であるか否か判断する(ステップ121)。ここで,このデータ収集処理である場合には,必要とする位置の座標をシステムコントローラ11が確認する(ステップ122)。例えば,現在位置の近傍のレストランのデータが欲しい場合には,現在位置の座標を確認する。また,現在位置以外の任意の場所の近傍のレストランのデータが欲しい場合には,例えばその位置を地図上で設定させた後,その設定された位置の座標をシステムコントローラ11が確認する。
【0041】この座標位置の確認ができると,システムコントローラ11の制御で,その確認した座標位置の近傍の特定種別(ここではレストラン)の画像データ送信を要求するデータを,電話回線を経由して中央装置30に伝送する(ステップ123)。
【0042】この要求が中央装置30にあると,中央装置30側ではデータ記憶部32に該当する座標位置の近傍(例えば座標で示される位置を中心にして半径数km以内の範囲)に,該当する種類の画像データ(ここではレストランの画像データ)が記憶されているか否か判断し,その画像データが記憶されている場合には,その画像データを端末装置10に対して接続された電話回線で返送する。このとき,画像データが撮影した時刻毎に複数種類ある場合には,時刻を考慮して最も適切な画像を選択(例えば現在時刻に最も近い時刻に撮影された画像を選択)しても良い。また,該当する位置の近傍に,その種別の画像データが記憶されてない場合には,画像データ無しを示すデータを端末装置10に対して返送する。
【0043】例えば図10に示すように,現在位置aの近傍のレストランのデータの送信要求を行ったとき,その位置の近傍のレストランとして,位置r1,r2,r3の3件のレストランのデータが中央装置30に蓄積されているとき,各位置r1,r2,r3の座標データ(x1′,y1′),(x2′,y2′),(x3′,y3′)と,その位置の画像データ及び画像データと共に記憶された付属情報(電話番号,音声メッセージなど)を端末装置10に対して送信する。
【0044】端末装置10のシステムコントローラ11では,電話回線により中央装置30から何らかのデータの返送があるか否か判断し(ステップ124),データの返送があると判断したとき,その返送されたデータに画像データがあるか否か判断し(ステップ125),画像データがあるとき,その受信した画像データを表示部16で所定の態様で表示させる(ステップ126)。」

コ.「【0065】また本発明の画像データ提供方法によると,位置データに対応した画像データが蓄積され,使用者からの位置要求があったとき,その位置に対応した蓄積された画像データを,使用者に伝送するようにしたことで,使用者に任意の場所の画像データを提供することが可能になり,例えば各使用者側で画像データなどを持たなくても,最新のデータによる的確な各種案内ができる。」

(地図作成)

サ.「【0031】また,端末装置10を搭載した自動車が,新規な道路を走行中には,自動的にそのときの走行時に得られたデータを中央装置30側に伝送するようにしても良い。例えば,端末装置10で測位される走行位置が,地図データ記憶部14に記憶されてない道路を走行中であるとシステムコントローラ11が判断したとき,その道路の連続的な座標のデータ(即ち道路の位置のデータ)と,時刻や方位のデータと,その道路を走行中に撮影した画像データとを,自動的に中央装置30に伝送する。そして,中央装置30側ではそれらのデータを受信したとき,新規道路データとして,受信したデータを記憶させておく。このように新設された道路のデータを蓄積させることで,各端末装置に新設道路のデータを送信することが可能になる。」

シ.「【0069】また本発明の地図作成方法によると,移動体の所定の位置に具備された撮影手段で景色を撮影し,この撮影された画像データを移動体の位置データと共に送信し,この送信された画像データと位置データを受信して所定の中央装置に蓄積し,この蓄積されたデータに基づいて地図を作成するようにしたことで,随時更新される画像データに基づいて地図が作成され,常に最新の地図を作成することが可能になる。」

前記ア.?シ.によれば,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

<引用発明>

「 車両に搭載したナビゲーション装置に適用して好適な画像データ収集,画像データ提供,地図作成方法であって,
端末装置は,移動体(車両)に設置されてナビゲーション装置として使用され,現在位置のデータを得るGPS信号受信部と,車両の先方の景色を静止画像として撮影する撮影手段(ビデオカメラ部19)とが設置され,GPS信号受信部で測位された位置データと,撮影手段で撮影された画像データとを中央装置に送信し,
中央装置は,無線電話回線を介して複数台の端末装置と双方向の通信を行い,端末装置から送信されデータをデータ記憶部に蓄積し,例えば,レストランが存在する座標位置での各方向の画像データを記憶し,
端末装置は,設定されたルート上にある主要交差点の座標位置や,設定された任意の場所の座標位置などの,座標位置の画像データを中央装置に要求し,
中央装置は,データ記憶部に該当する座標位置の該当する方向のデータがあるか否か判断し,その画像データが記憶されている場合には,その画像データを端末装置に返送し,
端末装置は,中央装置から返送された画像データを表示部に表示させ,
また,移動体の所定の位置に具備された撮影手段で景色を撮影し,この撮影された画像データを移動体の位置データと共に送信し,この送信された画像データと位置データを受信して所定の中央装置に蓄積し,この蓄積されたデータに基づいて地図を作成するようにしたことで,随時更新される画像データに基づいて地図が作成され,常に最新の地図を作成することが可能になる,画像データ収集,画像データ提供,地図作成方法。」

2. 特開平6-215102号公報

当審において,新たに周知例として引用する特開平6-215102号公報には,次の事項が記載されている。

ス.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,車両用経路誘導装置(ナビゲーションシステム)などで用いられる道路地図データを更新・作成するために適用される道路地図データの収集装置に関するものである。」

セ.「【0008】そこで,従来では,収集しようとする地域に調査員が赴き,写真を撮ったり,前記付加的な情報をメモに記入するなどしていたが,人手に頼らなければならないので,作業時間とコストが膨大になるという欠点があった。」

ソ.「【0015】
【実施例】以下実施例を示す添付図面によって詳細に説明する。図1は道路地図データの収集装置の電気的構成を示すブロック図である。この装置は,例えば車両に搭載されたいわゆるナビゲーションシステム1とテレビカメラ13を利用し,車両の移動時にその位置情報を検出するとともに道路に沿った景色を同時に収録して,走行後収録された画像データ及び走行軌跡に基づいて,道路の曲率,幅,車線数,路面の種類,道路交通標識,沿線の建物の名称,陸橋,鉄道,踏切,交差点の名称,交通規制,立体交差形状などの情報を道路地図データに入力し,完成された道路地図データを得ようとするものである。」

タ.「【0021】一方,交差点付近の道路形状及び走行軌跡情報は,パーソナルコンピュータ10を通してフロッピーディスクに記憶される。所定の道路走行を終えると,技術者は,ビデオテープとフロッピーディスクとを取り出し,両者を同時に読み出す。まず,フロッピーディスクから読み出されたデータは,例えば図3に示すように道路を線Lで結び,走行軌跡を破線Sで表示した画像のデータである。破線Sには画面に表示される時刻(11時03分)に対応する車両位置Pが点表示されている。ビデオテープから読み出されたデータは,図2の景色を画面で捕らえたデータであり,ドライバが見たのとほぼ同じ画像のデータである。ただし,収録時刻が画面内に記入されている。
【0022】技術者は,同時刻の2つの画面を対比照合しながら,道路標識21,22,25,信号燈23,24,交差点名表示26,道路表示27,28,30,著名な建物30の情報をCD-ROMやICカードなどで構成され地図データベースの中に折り込んでいく。また,車線数,道路の幅,路面の種類(アスファルトなど)も,画面から判断して入力していく。
【0023】このような入力によって,地図データベースには,各種の情報が位置データ付きで記憶されるので,道路地図データは完全な形に更新されることになる。図4は,更新された道路地図データを画面に表示したものであり,信号マーク,交差点名や建物名が表示されている。また,道路の幅も実際の幅に合わせて太めに表示されている。なお,画面には現れないが,交通規制,車線数などの情報も,地図データベースに記憶されているので,車両を誘導するときなどに活用される。」

前記ス.?タ.によれば,引用文献2には,次の事項が記載されている。

<引用文献2の記載事項>

「ナビゲーションシステムなどで用いられる道路地図データを更新・作成するために,
従来では,地域に調査員が赴き,写真を撮ったり,付加的な情報をメモに記入するなどしていたが,人手に頼らなければならないので,作業時間とコストが膨大になるという欠点があり,
そのために,車両に搭載されたナビゲーションシステムとテレビカメラを利用し,車両の移動時にその位置情報を検出するとともに道路に沿った景色を同時に収録し,
走行後に,技術者が,収録された画像データ及び走行軌跡を画面に表示させ,車線数,道路の幅などを画面から判断して道路地図データに入力し,道路地図データを更新・作成すること。」

第4 対比

次に,本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「地図」は,ナビゲーション装置に使用される地図であり,この地図がデジタル地図であることは技術常識であるから,本願発明の「デジタル地図」に相当する。
そして,引用発明の画像データ収集,画像データ提供,地図作成方法は,このデジタル地図を,常に最新の地図となるように更新する方法といえるから,本願発明の「デジタル地図を更新する方法」に相当する。

・引用発明の「中央装置」は,複数台の端末装置と無線電話回線を介して通信を行い,端末装置で撮影された静止画像を受信してデータ記憶部に蓄積し,端末装置から「設定されたルート上にある主要交差点の座標位置や,設定された任意の場所の座標位置などの,座標位置の画像データ」が要求されると,「データ記憶部に該当する座標位置の該当する方向のデータがあるか否か判断し,その画像データが記憶されている場合には,その画像データを端末装置に返送」する。
引用発明の「静止画像」は本願発明の「写真データ」に相当し,引用発明の「無線電話回線」は本願発明の「データネットワーク」に相当し,引用発明の中央装置が,複数台の端末装置から無線電話回線を介して画像データの要求を受信すると,その画像データを返送することは,本願発明の「データネットワーク上で複数のユーザにアクセス可能」であることに相当する。
したがって,引用発明の,「中央装置」と複数台の「端末装置」と「無線電話回線」とを含む全体のシステムは,写真データを蓄積するシステムといえるから,本願発明の「写真リポジトリシステム」に相当する。
また,「中央装置」のデータ記憶部に静止画像を蓄積することは,本願発明の「写真リポジトリシステムが,データネットワーク上で複数のユーザにアクセス可能なオンライン写真データ記憶リポジトリを維持するステップ」に相当する。

・引用発明の「中央装置」が,複数台の端末装置から送信された,GPS信号受信部で測位された位置データと,撮影手段で撮影された静止画像の画像データとをデータ記憶部に蓄積することは,本願発明の「写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに前記複数のユーザによって更新される写真画像を記憶し,写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データリポジトリに,前記更新された写真画像の各々が撮られた場所を指示する位置データを記憶し」に相当する。

・引用発明の「この蓄積されたデータに基づいて地図を作成するようにしたことで,随時更新される画像データに基づいて地図が作成され,常に最新の地図を作成することが可能になる」と,本願発明の「写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に対する地図開発者のアクセスを提供するステップを有しており,
写真リポジトリシステムにより,物理的特徴の位置を指示する位置データと関連する特定の写真画像を識別することによって,前記地図開発者が,地理的領域に位置する対象物の物理的特徴の表示を更新できるようにし,更に,
更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップと,
前記デジタル地図に表示されていない更新された写真画像の少なくとも1つの物理的特徴を識別したときに,前記対象物の前記少なくとも1つの物理的特徴を表示するデータを含むように前記デジタル地図を更新するステップ」は,
「オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に基づいて,デジタル地図を更新するステップ」の点で共通する。

したがって,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

<一致点>
「デジタル地図を更新する方法であって,
該方法は,
写真リポジトリシステムが,データネットワーク上で複数のユーザにアクセス可能なオンライン写真データ記憶リポジトリを維持するステップを有しており,
写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに前記複数のユーザによって更新される写真画像を記憶し,写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データリポジトリに,前記更新された写真画像の各々が撮られた場所を指示する位置データを記憶し,
該方法は,さらに,
オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に基づいて,デジタル地図を更新するステップを備えた方法。」

<相違点>
「オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に基づいて,デジタル地図を更新するステップ」が,
本願発明では「写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に対する地図開発者のアクセスを提供するステップを有しており,
写真リポジトリシステムにより,物理的特徴の位置を指示する位置データと関連する特定の写真画像を識別することによって,前記地図開発者が,地理的領域に位置する対象物の物理的特徴の表示を更新できるようにし,更に,
更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップと,
前記デジタル地図に表示されていない更新された写真画像の少なくとも1つの物理的特徴を識別したときに,前記対象物の前記少なくとも1つの物理的特徴を表示するデータを含むように前記デジタル地図を更新するステップ」であるのに対し,
引用発明では,中央装置に蓄積されたデータに基づいて地図を作成するようにしたことで,随時更新される画像データに基づいて常に最新の地図を作成することが可能になるものの,その際に,本願発明の上記各ステップを有するかどうか不明である点。

第5 判断

次に,相違点に係る各ステップについて検討する。

1. 「写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に対する地図開発者のアクセスを提供するステップ」について

本願明細書には,上記ステップに関して,次の事項が記載されている。

「【0054】
別の実施形態によれば,ユーザによって写真リポジトリに記憶された写真は,新しい地図を生成するためにまたは既存の地図を更新するために地図開発者によって用いることができる。リポジトリに記憶された写真は,場所によって索引されるので,地図開発者は,写真における場所に関する情報を得るためにユーザによって撮影された写真を用いることができる。例として,ユーザによって撮影された写真が橋を示す場合には,地図開発者は,車線の数,橋の高さ,橋の長さ,道路標識,等のような,橋に関する情報を得るために写真を調べることができる。」

上記記載によれば,上記ステップは,地図開発者が,地図を生成・更新するために,写真リポジトリに記憶された写真を用いることに対応する。
これに対し,引用発明も,地図を生成・更新するために,写真リポジトリに記憶された写真を用いるものである。引用発明は,誰が地図を生成・更新するのかを明示していないものの,地図制作会社のような「地図開発者」が,地図を作成し更新することは周知事項にすぎない。
周知例として示す引用文献2には,地図を作成・更新するために,車両に搭載されたテレビカメラで画像データを収録し,車両の走行後に,技術者が,収録された画像データを画面に表示させ,車線数,道路の幅などを画面から判断して,これらの情報を道路地図データに入力することが記載されている。この技術者は,「地図開発者」であり,引用発明と同様に,移動体の撮影手段で撮影された画像データに基づいて地図を作成・更新する。

したがって,引用発明において,中央装置に蓄積された画像データに基づいて地図を更新するために,周知の「地図開発者」が,中央装置にアクセスして画像データを調べ,この中央装置へのアクセス手順を,上記相違点に係る「写真リポジトリシステムが,前記オンライン写真データ記憶リポジトリに記憶された前記写真画像に対する地図開発者のアクセスを提供するステップ」とすることは容易に想到し得ることである。

2. 「写真リポジトリシステムにより,物理的特徴の位置を指示する位置データと関連する特定の写真画像を識別することによって,前記地図開発者が,地理的領域に位置する対象物の物理的特徴の表示を更新できるようにし,更に,
更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップ」について

上記ステップについて,本願明細書には次の事項が記載されている。
「【0054】
・・・(中略)・・・リポジトリに記憶された写真は,場所によって索引されるので,地図開発者は,写真における場所に関する情報を得るためにユーザによって撮影された写真を用いることができる。例として,ユーザによって撮影された写真が橋を示す場合には,地図開発者は,車線の数,橋の高さ,橋の長さ,道路標識,等のような,橋に関する情報を得るために写真を調べることができる。同様に,建物のユーザの写真は,建物の高さ,フットプリント(設置面積),アドレス,等に関する情報を得るために地図開発者によって用いることができる。このようにして得た情報は,地図を生成するかまたは更新するために地図開発者によって直接用いられうる」

上記記載によれば,上記ステップの前半部分の「写真リポジトリシステムにより,物理的特徴の位置を指示する位置データと関連する特定の写真画像を識別することによって,前記地図開発者が,地理的領域に位置する対象物の物理的特徴の表示を更新できるようにし」は,地図開発者が,車線の数,橋の高さ,橋の長さ,道路標識,等のような,橋に関する情報を得るために写真を調べ,得られた情報を,地図を生成するかまたは更新するために用いることに対応する。
また,上記ステップの後半部分の「更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップ」は,本願明細書に明示的な記載がないものの,地図の更新とは,実在の対象物の物理的特徴が地図の表示と異なる場合に行われる作業であることから,その更新作業の内容をより明確にしたものと解される。

一方,引用発明は,最新の地図を作成するために,画像データからどのような情報を得たのか,また,得られた情報を利用して,どのような更新作業を行ったのかを明らかにしていない。
しかしながら,地図を更新しようとすれば,道路や建物のような対象物の物理的特徴に関する情報が必要になることは自明である。なぜなら,地図に表示される対象物(道路,建物等)は,実在の対象物の物理的特徴を表しているからである。例えば,地図上に表示される橋の長さは,実在の橋の長さを縮尺に応じて縮小したものであり,地図上に表示される建物も,実在の建物の大きさ,形状を縮尺に応じて縮小したものである。したがって,地図を更新しようとすれば,対象物の物理的特徴に関する情報を得るために画像データを調べ,得られた情報を用いて地図を更新することは,普通に想到されることである。
周知例として引用した引用文献2には,技術者が,画面に表示した画像データから,車線数,道路の幅などを判断して道路地図データに入力し,道路地図データを更新・作成することが記載されている。この車線数,道路の幅は物理的特徴であり,地図開発者は,画像データから対象物の物理的特徴に関する情報を得て,その情報を地図の生成・更新に用いる。
また,地図の更新は,道路や建物等の新設・変更により,地図の表示が実際とは異なるようになったときに,それを一致させるように地図を修正する作業である。したがって,地図を更新しようとすれば,地図の表示が実際とは異なる箇所を探し出す必要があり,そのために画像データに写っている対象物の物理的特徴が,地図に表示されてるかどうかを識別するために地図と比較することは普通に想到されることである。更新の際に行われるこのような比較手順を,「更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップ」とすることは格別困難ではない。
よって,引用発明において,画像データに基づいて最新の地図を作成するために,画像データから対象物の物理的特徴に関する情報を得て,その情報が地図に表示されてるかどうかを識別し,表示されていなければ,一致するように地図を更新し,これらの更新作業を「写真リポジトリシステムにより,物理的特徴の位置を指示する位置データと関連する特定の写真画像を識別することによって,前記地図開発者が,地理的領域に位置する対象物の物理的特徴の表示を更新できるようにし,更に,
更新された写真画像に示された対象物の物理的特徴の表示を,前記物理的特徴がデジタル地図に表示されているかどうかを識別するためにデジタル地図と比較するステップ」とすることは容易に想到し得ることである。

3. 「前記デジタル地図に表示されていない更新された写真画像の少なくとも1つの物理的特徴を識別したときに,前記対象物の前記少なくとも1つの物理的特徴を表示するデータを含むように前記デジタル地図を更新するステップ」について

前記2.のとおり,地図の更新は,道路や建物等の新設・変更により,地図の表示が実際と異なる場合に,それを修正する作業であるから,「前記デジタル地図に表示されていない更新された写真画像の少なくとも1つの物理的特徴を識別したときに,前記対象物の前記少なくとも1つの物理的特徴を表示するデータを含むように前記デジタル地図を更新するステップ」は,画像データに基づいて地図を更新するときに,当然に行う作業にすぎない。
したがって,引用発明において,画像データに基づいて常に最新の地図を作成するために,画像データから得られた対象物の物理的特徴が地図に表示されていなければ,地図を更新して,この更新作業を「前記デジタル地図に表示されていない更新された写真画像の少なくとも1つの物理的特徴を識別したときに,前記対象物の前記少なくとも1つの物理的特徴を表示するデータを含むように前記デジタル地図を更新するステップ」とすることは容易に想到し得ることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知事項から,当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-18 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-05 
出願番号 特願2010-206433(P2010-206433)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梅本 達雄  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 手島 聖治
川崎 優
発明の名称 場所参照式写真リポジトリ  
代理人 上杉 浩  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 須田 洋之  
代理人 大塚 文昭  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 近藤 直樹  
代理人 西島 孝喜  
代理人 辻居 幸一  

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