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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1318524
審判番号 不服2015-54  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-05 
確定日 2016-08-24 
事件の表示 特願2012-234608「DIAPEUTIC(登録商標)剤としてのリン脂質類似体、及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月28日出願公開、特開2013- 40201〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年3月2日(パリ条約による優先権主張 2004年3月2日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2007-501917号の一部を平成24年1月13日に新たな特許出願としたものである特願2012-5213号について、さらにその一部を、平成24年10月24日に、新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりのものである。

平成24年11月22日 手続補正書
平成25年11月15日付け 拒絶理由通知書
平成26年 4月25日 意見書及び手続補正書
平成26年 8月29日付け 拒絶査定
平成27年 1月 5日 審判請求書及び手続補正書
平成27年 1月19日 手続補正書(審判請求書)
平成28年 1月27日 早期審理に関する事情説明書

2 本願発明
この出願において特許を受けようとする発明は、平成27年 1月 5日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められる(以下、これらを請求項の番号に従って、それぞれ「本願発明1」などという。)。

請求項1?7の記載は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
癌である又はその疑いのある被験者において、癌を検出し、かつ、部位を特定するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の癌があると疑われる器官が、周囲領域よりも高いレベルの当該類似体を保持するかかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記癌が、癌肉腫、腺癌、芽細胞腫、扁平上皮癌、又は神経こう腫であることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
被験者において、新生組織形成から、炎症、腺腫、過形成を識別するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の炎症、腺腫、過形成又は新生組織形成の疑いのある器官が、周囲領域より高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は新生組織形成の検出及び位置を示し、かつ、より低い保持領域は当該腺腫、過形成又は炎症を有する疑いのある器官の存在を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記新生組織形成が、癌肉腫、腺癌、芽細胞腫、扁平上皮癌、又は神経こう腫であることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
ホスホリパーゼD(PLD)を有する組織サンプル中の新生組織形成を検出するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組織サンプル中のPLD蛋白質活性レベル又はPLDmRNAレベルが定量化され、そして
前記組織サンプルが周囲の組織領域より低い蛋白質活性レベルであるかどうか測定され、ここでより低い活性領域は新生組織形成の検出及び位置を示し;又は
前記組織サンプルが周囲の組織領域より低いmRNAレベルであるかどうか測定され、ここでより低いmRNAレベル領域は新生組織形成の検出及び位置を示し;そして
前記組織サンプル中のPLD蛋白質活性レベル又はPLDmRNAレベルは、前記組織サンプルを前記リン脂質エーテル類似体と接触させることにより定量され、
前記リン脂質エーテル類似体は、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記新生組織形成が、癌肉腫、腺癌、芽細胞腫、扁平上皮癌、又は神経こう腫であることを特徴とする、組成物。
【請求項4】
癌である又はその疑いのある被験者において、癌を検出し、かつ、部位を特定するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の癌があると疑われる器官が、周囲領域よりも高いレベルの当該類似体を保持するかかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして、
前記癌が、肺癌、副腎癌、黒色腫、結腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、すい臓癌、前立腺癌、肝臓癌、皮下癌、腸癌、網膜芽腫、又は子宮けい癌であることを特徴とする、組成物。
【請求項5】
被験者において、新生組織形成から、炎症、腺腫、過形成を識別するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の炎症、腺腫、過形成又は新生組織形成の疑いのある器官が、周囲領域より高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は新生組織形成の検出及び位置を示し、かつ、より低い保持領域は当該腺腫、過形成又は炎症を有する疑いのある器官の存在を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記新生組織形成が、肺癌、副腎癌、黒色腫、結腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、すい臓癌、前立腺癌、肝臓癌、皮下癌、腸癌、網膜芽腫、又は子宮けい癌であることを特徴とする、組成物。
【請求項6】
ホスホリパーゼD(PLD)を有する組織サンプル中の新生組織形成を検出するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組織サンプル中のPLD蛋白質活性レベル又はPLDmRNAレベルが定量化され、そして
前記組織サンプルが周囲の組織領域より低い蛋白質活性レベルであるかどうか測定され、ここでより低い活性領域は新生組織形成の検出及び位置を示し;又は
前記組織サンプルが周囲の組織領域より低いmRNAレベルであるかどうか測定され、ここでより低いmRNAレベル領域は新生組織形成の検出及び位置を示し;そして
前記組織サンプル中のPLD蛋白質活性レベル又はPLDmRNAレベルは、前記組織サンプルを前記リン脂質エーテル類似体と接触させることにより定量され、
前記リン脂質エーテル類似体は、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記新生組織形成が、肺癌、副腎癌、黒色腫、結腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、すい臓癌、前立腺癌、肝臓癌、皮下癌、腸癌、網膜芽腫、又は子宮けい癌であることを特徴とする、組成物。
【請求項7】
静脈内注入により被験者に投与される、請求項1、2、4又は5に記載の組成物。」

3 刊行物及び刊行物の記載
以下の刊行物は、本願の優先日前に頒布された刊行物である。なお、刊行物6及び8は、本願優先日における周知技術を示す文献である。
刊行物2:WEICHERT J.P. et al.: "Specificity of NM404 for Hyperplasia versus Neoplasia in the Apc^(Min/+) Endogenous Mammary Adenocarcinoma Model" [Online]August 2003, 2ND ANNUAL MEETING OF THE SOCIETY OF MOLECULAR IMAGING, SAN FRANCISCO, USA; August 15-18, 2003
URL
Presentation Number: 305,抄録
刊行物4:米国特許出願公開第2002/0065429号明細書
刊行物5:COUNSELL,R.E.,PROCEEDINGS OF THE INTERNATIONAL CONFERENCE ON ISOTOPES,1999,pp.163-166
刊行物6:特表2003-503355号公報
刊行物8:国際公開第03/101495号(対応日本語パテントファミリー文献として特表2005-532343号公報がある。)

刊行物2には、以下の記載がある(なお、刊行物2は、英文で記載されているので、その記載は、当審による日本語訳で示す。刊行物4、8についても同様である。)。
ア 「Apc^(Min/+)マウス内因性乳腺腺癌モデルにおける過形成及び新生組織形成(Neoplasia)に対するNM404の特異性」(標題)
イ 「本研究の目的は、Apc^(Min/+)マウス内因性乳腺腺癌モデルにおけるNM404の腫瘍親和性を検討することであった。同じ動物中に過形成から腺癌に及ぶ発達範囲の腫瘍が生じる点でこのモデルは独特であり、癌細胞に対するNM404の特異性の評価を可能にする。NM404は、最近、ヒト前立腺癌及び肺癌患者での診断評価のためのIND承認を取得した。様々な腫瘍タイプのイメージングにおける普遍的にみえる成功により、それは現在、肺、膵臓及び乳癌モデルにおける広範な前臨床評価を受けている。NM404は、^(125)Iで放射性ヨウ素化し、水性2%Tween-20溶液中に溶解させ、8匹の雌のApc^(Min/+)マウスに注入した(15 uCi / 20グラムマウス)。マウスを麻酔し、注入後21日間に渡り、解剖学的比較と画像融合分析のために、改良Bioscan AR2000放射性TLCスキャナー及びImTekマイクロCTスキャナーでスキャンした。犠牲としたとき、組織を生体外で画像化し、病変を摘出し重さを量り、そして放射活性を定量した。病変サンプルを、組織学的分類に供した。最初のイメージング結果は、直径2-15ミリメートルの範囲の乳腺腺癌、扁平上皮癌でNM404の顕著な取り込み及び長期保持(> 21日)を示したが、乳腺病巣肺胞の過形成にはほとんど、あるいは全く取り込まれなかった。この内因性マウス腫瘍モデルにおける予備的な結果から、NM404は、悪性腫瘍細胞内に選択的に保持されるようであった。これらの知見は、NM404は、原発及び転移性乳癌の両方に対して、その検出、特性評価、また、おそらく治療についても、有望であることを示唆する。」(本文の第3文から最終文)

刊行物4には以下の記載がある。
ウ 「放射性ヨウ素化リン脂質エーテル類似体及びそれを使用する方法」(発明の名称)
エ 「[0001] 本発明は、一般に放射性医薬品及び生物学的プローブの分野に関し、特に、癌の診断及び治療に有用な放射性標識したリン脂質エーテルの類似体に関するものである。
[0002] 限局された段階で疑わしい腫瘍を検出できれば、処置の成功と癌性組織の除去の機会が大幅に改善されることから、癌の早期検出は、現代のイメージング技術の主な目的の一つとなっていた。可能な限り早期に医師が正確な診断を行うのを支援するために、多数のイメージング戦略が、様々な技術及びモードを用いて設計されている。
[0003] 残念なことに、コンピュータ断層撮影(CT)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)のような従来のイメージング技術は、組織の密度又は形態の違いを観察することができるだけであるので、疑わしい病変の確定診断を提供する能力において制限される。確定診断を提供するために、より侵襲的でコストのかかる生検がしばしば必要である。一方、陽電子放出断層撮影法(PET)及び単光子放出断層撮影法(SPECT)などの核医学技術は、関心のある特定の器官又は領域の機能的又は生化学的情報を提供することができる。しかしながら、核医学イメージング技術の成功は、適切な放射性医薬品の選択的取り込みと検出に大きく依存する。選択的取り込みは、標的組織に対して特異性の高い放射性医薬品の開発に依存する。残念なことに、腫瘍学的用途のためにこれまでに開発された腫瘍局所化剤は、制限された用途のみを有していた。
・・・
[0007] 以上の特許に記載されている放射性標識リン脂質エーテル類似体の選択的な保持は、種々の齧歯類及び動物の腫瘍において実証されている。残念なことに、これらの研究から得られたデータは、放射性医薬品化合物の血液からの比較的迅速なクリアランス、及び非標的組織への望ましくない蓄積を実証している。上で述べたように、非標的組織への取り込みは、高いバックグラウンド活性を作ることによって、あるいは、注入された放射活性により、放射線に感受性の組織が過剰に被爆することで、放射線診断イメージングの有効性を減少させる可能性がある。
[0008] 腫瘍組織に対する特異性と親和力を保持していながら、非標的組織からの急激なクリアランス、及び、血漿中の半減期の延長を呈する放射性医薬品の分野における著しい必要性が残っている。そのような作用物質は、原発腫瘍及び転移の非侵襲型イメージングを助けるだけでなく、腫瘍組織を部位特異的に撲滅することのできる細胞毒性剤も提供すべきである。
[0009] 本発明は、一般式Iを有する天然由来リン脂質エーテル化合物の改良された放射性標識リン脂質エーテル類似体の提供を通じて、従来技術における問題点を解決する。
・・・
[0016] 本発明の特定の例示的な実施形態による、改善された化合物は、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンである。」([0001]?[0016])
オ 「[0025] 本発明は、従来技術で説明した放射性標識リン脂質エーテル類似体を有意に改良し、より大きな血漿半減期及び非標的器官への蓄積がかなり低い一連の放射性医薬品化合物を提供する。したがって、これらの改善された放射性薬剤は、非標的組織からのバックグラウンド放射の量を低減することによって、優れた腫瘍造影機能を提供し、非標的器官からの迅速な化合物のクリアランスはまた、放射性医薬品の放射線線量の増大を可能にし、腫瘍造影能力及び細胞傷害性癌治療の更なる向上をもたらす。
[0026] 驚くべきことに、これらの向上された性能を呈するリン脂質エーテル化合物の本質は、放射性標識したフェニル基を有する炭素鎖の延長部を有する化合物である。関連する以前のアルキルホスホコリン類似体に関する研究は、実際には、鎖長が増加するにつれて血液レベルが減少し、腫瘍レベルの増加を示した。・・・対照的に、本発明の改善された化合物は、元のより短い鎖の類似体よりも、はるかに長く循環に留まる傾向を示し、遅延された血漿からのクリアランスは、血管系を連続して循環することによって、放射性薬剤が腫瘍組織に取り込まれる追加の機会をもたらす。」([0025]?[0026])
カ 「 [0053] 当然のことながら、例えば、^(122)I、^(123)I、^(125)I、^(131)Iのような臨床的に使用されるヨウ素の同位体は、いずれも使用できる。^( 125)Iは、比較的長い半減期により実験室内におけるin vitro作業に好適である。^(123)I又は^(131)Iは、短い半減期及び好ましいイメージングエネルギーにより、ヒトの放射線診断目的のためのものに好適である。このように、上述の放射性ヨウ素化手順は、当業者に知られているように、半減期の違いを補償するために変更してもよい。」([0053])
キ 「実施例6
Walker-256癌肉腫を用いた生体分布研究
[0059] 実施例2で説明した改良C-18類似体18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(化合物XVI)を含む図5に示す3つの放射性標識化合物を調製し、2つの群の雌のSprague-Dawleyラット・・・に投与した。1つの通常群セットは、コントロールとして使用し、1つの群は、右後肢に0.2mlの生理食塩水中のWalker-256癌肉腫細胞(5×10^( 6)細胞)を接種した。・・・
[0063] 以上のデータが明確に示しているように、非標的組織からのC18類似体のクリアランスは腫瘍からよりもはるかに早く、C18類似体の投与後に肝臓、腎臓及び十二指腸において検出された放射活性の量は、C15,C12類似体研究におけるものと比較して、著しく低かった。C18類似体は、調べられた他の鎖長の異性体よりも循環中にはるかに長く保持された。表1に示すように、C-18類似体の血漿レベルは、C-12、C-15類似体のいずれの血漿レベルよりも著しく高い。さらに、120時間の時点で、C15,C12類似体の血中レベルが、それぞれ0.07±0.01、0.22±0.03であったのに対し、C18類似体の血中レベルは0.60±0.01(%Dose/g±SEM)であった。この効果は、注射後120時間までの3つの全ての類似体の血中クリアランスプロフィールを示す図6に示されている。
[0064] 非標的組織の放射線レベルが急激に低下した一方、腫瘍に存在する放射活性の低減は、非常にわずかで、C18類似体は、依然として有益な程度に、この腫瘍モデルにおける腫瘍特異性を保持していた。実際、腫瘍におけるC18のレベルが、より長時間に渡って、かなり増加し、これは、より長い血漿半減期による可能性が最も高い。
実施例7
Dunning前立腺腫瘍を用いた生体分布研究
[0065] 実施例2、3で説明した改良されたC-18類似体、それぞれ、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(化合物XVI-図7B)及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン(化合物XIV-図7C)を含む、図7A-7Cに示す3つの放射性標識化合物を用意し、2つの群の雄コペンハーゲンラット・・・に投与した。正常動物の1グループは対照として使用し、他の群は、右後肢に0.2mlの生理食塩水中のDunning前立腺腫瘍細胞(1×10^( 6) MAT-LyLu細胞)を接種した群である。Dunning(R-3327)腺癌前立腺腫瘍のサブラインMAT-LyLu細胞は、ミシガン大学の泌尿器の部門のKen Pienta博士によって提供され、ヒトにおける効果を代表する容認された細胞株である。・・・
[0066] 動物は8-10日まで自由な食物及び水の摂取を維持した。2%Tween20-滅菌水(5-10μCi、0.3-0.4mL、実施例6において前述)で製剤化された、放射性ヨウ素化リン脂質エーテル類似体は、メトファンで麻酔下で腫瘍を有する動物の尾静脈に静脈内投与した。注入後選択された時点で安楽死させ(測定時1点あたりnは3)、血液、血漿及び腫瘍及び前立腺を含む種々の組織のサンプルを放射性ヨウ素含量の測定のために収集した。・・・
[0067] 実施例6におけるWalker-256腫瘍と同様に、C-18類似体は、再び前立腺腫瘍モデルにおけるC-12類似体よりも数倍低い腎臓および肝臓レベルを示した。重要なことであるが、しかしながら、より長い鎖の類似体はまた、優れた腫瘍親和力を示し、化合物XVIの腫瘍レベルは、より短い鎖の類似体の2倍以上であった。以上のように、本発明の改良された化合物は、前立腺腫瘍のイメージング及び/又は処置に特に有利な用途を見出すことができる。
実施例8
Dunning前立腺腫瘍を用いたガンマカメラシンチグラフィー研究
[0068] 実施例7で使用したC-12類似体12-(p-ヨードフェニル)ドデシル ホスホコリン及びC-18類似体18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(化合物XVI)及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル) オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン(化合物XIV)を用いて行った比較インビボシンチグラフィー研究。イメージング研究は、上述した放射性ヨウ素化リン脂質エーテル製剤を>40μCi注射されたDunningR3327前立腺腫瘍を有する動物で行った。注入後、麻酔した動物を、選択された時間に、^(125)I帯域に設定され低エネルギーコリメータを備えるガンマカメラでイメージングした。静止15分画像は、特定の時刻に、各動物について得られた。結果は、図8A-8Cに示す。
[0069] 18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(化合物XVI)、12-(p-ヨードフェニル)ドデシル ホスホコリン及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル) オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン(化合物XIV)、に対して図8A-図8Cに示すように、Tとして指定された塊は腫瘍組織に対応している。C-18化合物は、腫瘍がほとんど見えないC-12類似体と比較して、優れた腫瘍局在化をもたらした。」([0058]?[0069])
ク 「

」(図5)
ケ 「9.一般式で表される化合物:

(式中、Xはヨウ素の放射性同位体からなる群から選択され、nは16-30の整数、YはNH_(2)、NR_(2)及びNR_(3)を含む群から選択され、Rはアルキル又はアラルキル基であることを特徴とする。) 。
・・・
11.クレーム9に記載の放射性医薬化合物の有効量をホストの身体に投与するステップ、及び、前記ホストを走査するステップを備えることを特徴とするホストの放射性イメージングの方法。 」(クレーム9?11)

刊行物5には、以下の記載がある。
コ 「

」(p.164図5)

刊行物6には、以下の記載がある。
サ 「放射性ヨウ素の種々の放射性同位体のうちのどれでも診断用剤を作るために取り込ませることができる。^(123)I(半減期=13.2時間)は、全身シンチグラフィーに用いることができ、^(124)I(半減期=4日間)は陽電子放射トモグラフィー(PET)に用いることができ、^(125)I(半減期=60日間)は代謝ターンオーバーの研究に、^(131)I(半減期=8日間)は全身計測及び遅延低分解能造影研究に用いることができる。」(【0044】)

刊行物8には以下の記載がある。
シ 「・・・特に有用な診断用放射性核種としては、限定されるものではないが、好ましくは、20?4,000keVの範囲、より好ましくは、25?4,000keVの範囲、よりさらに好ましくは、20?1,000keVの範囲、よりいっそう好ましくは、70?700keVの範囲の崩壊エネルギーを有する、^(18)F、^(52)Fe、^(62)Cu、^(64)Cu、^(67)Cu、^(67)Ga、^(68)Ga、^(86)Y、^(89)Zr、^(94m)Tc、^(94)Tc、^(99m)Tc、^(111)In、^(123)I、^(124)I、^(125)I、^(131)I、^(154-158)Gd、^(177)Lu、^(32)P、^(188)Re、又は他のγ放射体、β放射体、もしくは陽電子放射体が挙げられる。」([0053])

4 特許法第29条第2項について
(1)本願発明1について
ア 引用発明
刊行物4のクレーム11には、クレーム9に記載の放射性医薬化合物の有効量をホストの身体に投与するステップ、及び、前記ホストを走査するステップを備えることを特徴とするホストの放射性イメージングの方法が記載されている(ケ)。刊行物4の実施例6では、図5(ク)に示す3つの化合物を用いてその分布を調べたことが記載されている(キ)。ここで、図5(ク)に構造が示された3つの化合物のうち、実施例6に記載された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンという名称と一致する化学構造を有するのは、図5中、5Cの構造式であるから、実施例6では、刊行物4において化合物XVIと称され、図5の5Cの構造式で表される^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを用いたと理解できる。また、実施例7には、生体分布研究が記載され、実施例8にガンマカメラシンチグラフィーが記載されているところ、実施例7及び8にも、実験に用いた化合物として、化合物XVIである18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンが挙げられている(キ)。上記化合物XVIは、刊行物4の上記クレーム11が引用するクレーム9の一般式に該当する化合物であるから、当該化合物XVIを用いた実施例6?8は、クレーム11の実施の態様と理解できる。そして、これら実施例においては、当該化合物XVIを用い、実施例6は、癌肉腫を接種したラットを対象として、また、実施例7は、Dunning前立腺腫瘍細胞(1×10^( 6) MAT-LyLu細胞)を接種したラットを対象として、それぞれの腫瘍を検出し、かつ、部位を特定している(キ)。ここで、刊行物4のキの「Dunning(R3327)腺癌前立腺腫瘍のサブラインMAT-LyLu細胞は」との記載からみて、上記実施例7でラットに接種されたMAT-LyLu細胞は、腺癌の細胞であると理解できる。このように、刊行物4の実施例6及び7では、^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(化合物XVI)を投与して、それぞれ、癌肉腫細胞及び腺癌細胞であるMAT-LyLu細胞による腫瘍を検出し、かつ、部位を特定できたことが記載されているのであるから、刊行物4における、上記のホストの放射性イメージングの方法は、^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(化合物XVI)をホストに投与した場合に、癌肉腫又は腺癌を検出し、かつ、部位を特定できるものとして記載されていると認められる。
そして、化合物を投与する場合は、通常何らかの組成物とするものであるから、刊行物4の上記放射性イメージングの方法においても、^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンは、何らかの組成物とされていると認められる。また、刊行物4に、組成物を用いる放射性イメージングの方法が記載されているということは、刊行物4には、当該方法に用いる組成物も記載されているといえる。
そうすると、刊行物4には、以下の発明が記載されていると認められる。

(引用発明1)
^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを含む組成物であって、前記組成物をホストに投与するステップ及び、前記ホストを走査するステップを備えることを特徴とする放射性イメージングの方法によって癌肉腫又は腺癌を検出し、かつ、部位を特定するための前記組成物。

イ 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
本願発明1におけるリン脂質エーテル類似体と引用発明1において放射性イメージングに用いる化合物は、いずれも放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、引用発明1においては、放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを含む組成物をホストに投与するステップ及び、前記ホストを走査するステップを備えることを特徴とする放射性イメージングの方法によって癌肉腫又は腺癌を検出し、かつ、部位を特定するのであるから、引用発明1におけるホストは、本願発明1における被験者に該当する。また、刊行物4のエの記載によれば、引用発明1の技術は、癌の診断に有用な放射性標識したリン脂質エーテル化合物の類似体に関するものであり([0001])、癌の早期検出は、イメージング技術の主な目的の一つであり([0002])、また、腫瘍組織に対する特異性と親和力を保持していながら、非標的組織からの急激なクリアランス、及び血漿中の半減期の延長を呈する放射性医薬品の分野における必要性が残っている([0008])ところ、引用発明1は、従来技術における問題点を解決する([0009])というのであるから、引用発明1の組成物による癌肉腫又は腺癌である癌の検出、部位の特定は、放射性標識したリン脂質エーテル化合物の類似体を含む当該組成物が、癌である又は癌の疑いのある被験者に投与され、前記被験者の癌があると疑われる器官が周囲組織よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示すことによって、なされるものであることが理解できる。そして、引用発明1において検出し、かつ、部位を特定する対象となる癌肉腫及び腺癌は、本願発明1において検出し、かつ、部位を特定する癌の選択肢として挙げられたものに含まれる。
そうすると、本願発明1と引用発明1は、「癌である又はその疑いのある被験者において、癌を検出し、かつ、部位を特定するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の癌があると疑われる器官が、周囲領域よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記癌が、癌肉腫又は腺癌であることを特徴とする、組成物。」である点において一致し、以下の点において相違する。

(相違点1)
18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンが、本願発明1では^(124)Iで標識されているのに対し、引用発明1では^(125)Iで標識されている点

ウ 相違点についての判断
上記相違点1につき、検討する。
刊行物4の上記ウ、エ、オの記載からみて、引用発明1は、癌の検出のための核医学イメージング分野に関する技術であり、また、上記エの記載からみて、腫瘍組織を選択的に標的化できる標識化合物を得ることをその課題とし、一般式Iの化学構造を有する化合物によって、当該課題を解決したものと認められる。そして、刊行物4には、上記エの[0003]において、イメージング技術における、核医学技術として、PETも例示されている。ここで、放射線イメージングにおいては、測定手法に応じた放射性同位体が用いられるものであるところ、例えば、刊行物6のサに「放射性ヨウ素の種々の放射性同位体のうちのどれでも診断用剤をつくるために取り込ませることができる。・・・^(124)I(半減期=4日間)は陽電子放射トモグラフィー(PET)に用いることができ」と記載され、また、刊行物8のシに有用な診断用放射性ヨウ素として^(124)Iが挙げられているように、陽電子放射トモグラフィー(PET)に用いることができるヨウ素の放射性同位体が^(124)Iであることは、本願優先日における当業者には周知の事項であった。そうすると、刊行物4に接した当業者は、引用発明1における18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを、PETに用いることができるヨウ素の放射性同位体である^(124)Iで標識することが、示唆されていると理解するといえる。
したがって、刊行物4の示唆に基づき、引用発明1における18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを、^(125)Iに替えて^(124)Iで標識したものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 効果について
本願発明1の効果について、本願の明細書及び図面の記載を精査しても、【0012】及び【0073】に、^(124)Iは4日間の物理的半減期を有するので、世界中のどこへでも出荷され得る点で、半減期の短いFDGに比して有利であることが記載されるにとどまる。しかし、既に上記ウで指摘した刊行物6のサに記載されているように、^(124)Iの半減期が4日であることは、本願優先日時点の当業者に周知の事項であり、^(18)Fの半減期が110分であるFDGよりも、広範囲に出荷可能であること自体は、当業者に明らかである。
出願人(請求人)は、平成26年4月25日付け意見書において、^(124)Iで標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリン(^(124)I-CLR1404)について、2013年1月31日に標的放射線療法コンファレンスにおいて発表した実験結果の一部を参考資料として提出して、本願発明の効果が優れる旨の主張をしているので、これについても検討する。
上記意見書に添付した参考資料の図1につき、出願人(請求人)は、同意見書中で、本願明細書の表1と同様の結果であると述べている。しかし、表1は本願発明についての結果ではなく、^(124)I-CLR1404についての図1の結果と表1が同様であるということは、本願発明1の効果が引用発明1に対して、当業者の予測を越える優れた効果を奏するものでないことを示している。その理由を以下に述べる。
まず、本願明細書の表1は、【0118】?【0121】の「第2世代PLE類似体」との標題の下に記載された実験の結果であるところ、【0118】に「NM347、NM404 [18-(4-ヨードフェニル)-オクタデシル ホスホコリン]、及びNM412(図3)を、動物腫瘍細胞において、さらに画像化及び細胞内分布分析に供するために選択した。」と記載され、図3には、^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)-オクタデシルホスホコリンと一致する化学構造が記載されている(18-(4-ヨードフェニル)-オクタデシル ホスホコリンと18-(p-ヨードフェニル)-オクタデシルホスホコリンは、ヨウ素の結合位置の表記法が異なるだけで、同じ化合物の名称である。)。そうすると、表1の結果は、^(125)I標識されたものでの実験結果であって、本願発明1に該当する実験結果ではない。また、【0118】?【0121】には、^(124)Iについては何ら記載がないことから、表1が^(124)I標識18-(p-ヨードフェニル)-オクタデシル ホスホコリンを用いる本願発明1に該当する実験結果であると解する余地はない。
そして、上記イにおいて本願発明1との対比で認定したとおり、引用発明1は、周囲領域よりも高いレベルの^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示すものであることが、刊行物4の記載から理解されるところ、上記ウで指摘した刊行物4の示唆に従い、引用発明1における^(125)Iに替えて^(124)Iを採用した際にも、同様に癌の検出及び位置が可能であると当業者は予測するものと認められる。出願人(請求人)も認めるように、上記意見書に添付された参考資料の図1の^(124)I標識体についての結果が、表1の^(125)I標識体についての結果と同様であるということは、結局のところ、本願発明1の細胞内分布に対する効果が当業者の予測の範囲内であることを示すにすぎない。
また、上記意見書に添付された参考資料の図2?図4の写真についても、腫瘍モデルの作成、撮影の時期などの実験の手順が何ら明らかにされておらず、刊行物4に記載された引用発明1の効果とどのように比較できるのかも説明されていないから、これら図の写真によって、引用発明1に対する本願発明1の効果の顕著性を認めることはできない。
以上のとおり、本願発明1が、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。

オ まとめ
したがって、本願発明1は、刊行物4に記載された発明及び本願優先日における周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(2)本願発明2について
ア 引用発明
上記(1)アで認定したとおり、刊行物4には、引用発明1が記載されている。

イ 対比
本願発明2と引用発明1とを対比する。
本願発明2におけるリン脂質エーテル類似体と引用発明1において放射性イメージングに用いる化合物は、いずれも放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、引用発明1の組成物は、放射性イメージングのために、ホストに投与されるものであるから、引用発明1におけるホストは、本願発明2における被験者に該当する。また、上記(1)イで述べたのと同様の理由で、刊行物4のエの記載から、引用発明1の組成物による癌肉腫又は腺癌の検出、部位の特定は、放射性標識したリン脂質エーテル化合物の類似体を含む当該組成物が、癌肉腫又は腺癌を有する疑いのある被験者に投与され、前記被験者の癌肉腫又は腺癌があると疑われる器官が周囲組織よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示すことによって、なされるものであることが理解できる。そして、引用発明1における上記癌肉腫及び腺癌は、本願発明2において新生組織形成の選択肢として挙げられたものに含まれる。
そうすると、本願発明2と引用発明1とは、
「リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が被験者に投与され、前記被験者の新生組織形成があると疑われる器官が、周囲領域よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記新生組織形成の検出及び位置を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記新生組織形成が、癌肉腫又は腺癌であることを特徴とする、組成物。」である点において一致し、以下の点において相違する。

(相違点2a)
18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンが、本願発明2では^(124)Iで標識されているのに対し、引用発明1では^(125)Iで標識されている点
(相違点2b)
本願発明2は、新生組織形成から炎症、腺腫、過形成を識別するための組成物であり、リン脂質エーテル類似体のより低い保持領域は、当該腺腫、過形成又は炎症を有する疑いのある器官の存在を示すものであるのに対し、引用発明1が、新生組織形成から炎症、腺腫、過形成を識別するものであることについて、刊行物4には明記されていない点

ウ 相違点についての判断
まず、相違点2aにつき検討する。
相違点2aは、上記(1)イにおける相違点1と同じものであって、引用発明1を相違点1に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易に想到し得たものであることは、既に上記(1)ウで述べたとおりであるから、これと同様の理由で、相違点2aに係る構成を備えるものとすることが、当業者にとって、容易に想到し得たものであることは明らかである。
次に、相違点2bについて検討する。
刊行物2の上記イには、NM404をApc^(Min/+)マウスに注入したところ、直径2-15ミリメートルの範囲の乳腺腺癌、扁平上皮癌でNM404の顕著な取り込み及び長期保持(> 21日)を示したが、乳腺病巣肺胞過形成にはほとんど、あるいは全く取り込まれなかったとの記載がある。例えば、刊行物5の図1(コ)に、NM404の化学構造として、^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンの化学構造が記載されていることからも理解できるように、NM404は、^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンの別名である。そうすると、刊行物2の上記記載に接した当業者は、リン脂質エーテル類似体である^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンのより低い保持領域の存在によって、癌肉腫又は腺癌から過形成を識別できると理解するといえる。刊行物4のエ及びオの記載からみて、引用発明1の技術の分野においては、放射性化合物が腫瘍組織に対して特異性及び親和性を有するのに対し、非腫瘍組織における蓄積量が少ないことを利用するものであると認められるところ、化合物中の原子を同位体で置換した化合物同士の化学的性質の違いは極めて僅かであること、及び、腫瘍組織に対する化合物の親和性は、化合物の化学的性質に基づくものであることは技術常識である。そうすると、既に相違点2aに関して述べたように、引用発明1における^(125)Iを^(124)Iに替えることは、当業者が容易になし得たことであるところ、当該相違点2aに係る構成を備えた引用発明1の組成物が、引用発明1の組成物と同様に、放射性ヨウ素標識リン脂質エーテル類似体のより低い保持領域の存在によって、癌肉腫又は腺癌から過形成を識別可能なものであることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、引用発明1を、刊行物4の記載に基づき、相違点2aに係る構成を備えるものとするのに加えて、刊行物2及び4の記載に基づき、相違点2bに係る構成を備えた本願発明2とすることも、当業者が容易になし得たことである。

エ 効果について
上記(1)エにおいて、本願の明細書及び図面の記載及び平成26年4月25日付け意見書に添付された実験結果を検討しても、引用発明1に対する本願発明1の効果の顕著性を認めることはできないことを指摘したが、このことは、本願発明2についても当てはまる。
したがって、本願発明2も、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。

オ まとめ
したがって、本願発明2は、刊行物4及び2に記載された発明並びに本願優先日における周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(3)本願発明4について
ア 引用発明
上記(1)アにおいて、引用発明1を認定する根拠とした記載のひとつである実施例7において、腺癌前立腺腫瘍細胞を接種したラットを実験に用いていることから、刊行物4には、引用発明1における検出、部位の特定対象となる癌が腺癌前立腺腫瘍である発明も記載されているともいえる。そうすると、刊行物4には、以下の発明が記載されていると認められる。

(引用発明2)
^(125)I標識18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを含む組成物であって、前記組成物をホストに投与するステップ及び、前記ホストを走査するステップを備えることを特徴とする放射性イメージングの方法によって腺癌前立腺腫瘍を検出し、かつ、部位を特定するための前記組成物。

イ 対比
本願発明4と引用発明2を対比する。
本願発明4における有効成分と引用発明2において放射性イメージングに用いるリン脂質エーテル類似体は、いずれも放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンである。
また、上記(1)イで引用発明1について指摘したのと同様の理由で、引用発明2におけるホストは、本願発明4における被験者に該当し、刊行物4のエの記載から、引用発明2の組成物による腺癌前立腺腫瘍の検出、部位の特定は、放射性標識したリン脂質エーテル化合物の類似体を含む当該組成物が、腺癌前立腺腫瘍を有する疑いのある被験者に投与され、前記被験者の腺癌前立腺腫瘍があると疑われる器官が周囲組織よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記腺癌前立腺腫瘍の検出及び位置を示すことによって、なされるものであることが理解できる。
請求項4の記載からみて、本願発明4における癌は、前立腺癌を包含するものである。ここで、癌とは、悪性腫瘍のうち、上皮性の悪性腫瘍を呼ぶものであり、組織学的には、腺癌などと分類されるものである(南山堂 医学大辞典第19版、2006年、430頁「癌」の項を参照。)から、「前立腺癌」は、腺癌を包含するものであって、引用発明2の腺癌前立腺腫瘍は、本願発明4における前立腺癌に該当し、本願発明4において検出し、かつ、部位を特定する癌の選択肢として挙げられたものに含まれる。
そうすると、本願発明4と引用発明2とは、「癌である又はその疑いのある被験者において、癌を検出し、かつ、部位を特定するための、リン脂質エーテル類似体を含んで成る組成物であって、
前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の癌があると疑われる器官が、周囲領域よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記癌の検出及び位置を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記癌が、前立腺癌であることを特徴とする、組成物。」である点において一致し、以下の点において相違する。

(相違点3)
18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンが、本願発明4では^(124)Iで標識されているのに対し、引用発明2では^(125)Iで標識されている点

ウ 相違点についての判断
上記相違点3について検討する。
相違点3は、上記(1)イにおける相違点1と同じものであって、引用発明1を相違点1に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易に想到し得たものであることは、既に上記(1)ウで述べたとおりであるから、これと同様の理由で、引用発明2を相違点3に係る構成を備えるものとすることが、当業者にとって、容易に想到し得たものであることは明らかである。

エ 効果について
上記(1)エにおいて、本願の明細書及び図面の記載及び平成26年4月25日付け意見書に添付された実験結果を検討しても、引用発明1に対する本願発明1の効果の顕著性を認めることはできないことを指摘したが、このことは、引用発明2に対する本願発明4の効果についても当てはまる。
したがって、本願発明4は、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。

オ まとめ
したがって、本願発明4は、刊行物4に記載された発明及び本願優先日における周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(4)本願発明5について
ア 引用発明
刊行物4には、上記(3)アに示した引用発明2が記載されている。

イ 対比
本願発明5と引用発明2とを対比する。
本願発明5における有効成分と引用発明2において放射性イメージングに用いるリン脂質エーテル類似体は、いずれも放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、上記(2)イで引用発明1について述べたのと同様の理由で、引用発明2におけるホストは、本願発明5における被験者に該当する。また、刊行物4のエの記載から、引用発明2の組成物による腺癌前立腺腫瘍の検出、部位の特定は、放射性標識したリン脂質エーテル化合物の類似体を含む当該組成物が、腺癌前立腺腫瘍を有する疑いのある被験者に投与され、前記被験者の腺癌前立腺腫瘍があると疑われる器官が周囲組織よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記腺癌前立腺腫瘍の検出及び位置を示すことによってなされると理解できることは、上記(3)イで述べたとおりである。
また、引用発明2の腺癌前立腺癌は、前立腺癌に該当すると認められることは、上記(3)イで述べたとおりであるから、これは、本願発明5における新生組織形成の選択肢として挙げられたものに含まれる。
そうすると、本願発明5と引用発明2とは、
「被験者において、新生組織形成の疑いのある器官前記組成物が前記被験者に投与され、前記被験者の新生組織形成があると疑われる器官が、周囲領域よりも高いレベルの当該類似体を保持するかどうか測定され、より高い保持領域は前記新生組織形成の検出及び位置を示し、前記リン脂質エーテル類似体は、放射性ヨウ素で標識された18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンであり、そして
前記新生組織形成が、前立腺癌であることを特徴とする、組成物。」である点において一致し、以下の点において相違する。

(相違点4a)
18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンが、本件補正発明5では^(124)Iで標識されているのに対し、引用発明2では^(125)Iで標識されている点
(相違点4b)
本願発明5は、新生組織形成から炎症、腺腫、過形成を識別するための組成物であり、リン脂質エーテル類似体のより低い保持領域は、当該腺腫、過形成又は炎症を有する疑いのある器官の存在を示すものであるのに対し、引用発明2が、新生組織形成から炎症、腺腫、過形成を識別するものであることについて、刊行物4には明記されていない点

ウ 相違点についての判断
まず、相違点4aにつき検討する。
相違点4aは、上記(1)イにおける相違点1及び上記(2)イにおける相違点2aと同じものであって、引用発明1を当該相違点に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易に想到し得たものであることは、既に上記(1)ウ及び(2)ウで述べたとおりであるから、これと同様の理由で、引用発明2を相違点4aに係る構成を備えるものとすることが、当業者にとって、容易に想到し得たものであることは明らかである。
次に、相違点4bについて検討する。
相違点4bは、(2)イにおける相違点2bと同じものである。
そして、引用発明1を、刊行物4の記載に基づき、相違点2aを備えるものとするのに加え、刊行物2及び4の記載に基づき、相違点2bに係る構成を備えた本願発明2とすることが当業者にとって容易に想到し得たものであることは、既に(2)ウで述べたとおりであるから、これと同様の理由で、引用発明2を、刊行物4の記載に基づき、相違点2aに係る構成を備えるものとするのに加え、刊行物2及び4の記載に基づき、相違点4bに係る構成を備える本願発明5とすることが、当業者にとって、容易に想到し得たものであることは明らかである。

エ 効果について
上記(1)エにおいて、本願の明細書及び図面の記載及び平成26年4月25日付け意見書に添付された実験結果を検討しても、引用発明1に対する本願発明1の効果の顕著性を認めることはできないことを指摘したが、このことは、引用発明2に対する本願発明5の効果についても当てはまる。
したがって、本願発明5は、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。

オ まとめ
したがって、本願発明5は、刊行物4及び2に記載された発明及び本願優先日における周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、刊行物4には、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンを^(124)Iで標識した化合物を生体内で用いることについて、記載も示唆もなく、^(122)I、^(123)I、^(125)I及び^(131)Iのみが挙げられ、刊行物4は、PET造影については何ら言及されておらず、^(124)Iが明確に除外されているものと考えられるから、本願発明は、引用された刊行物の記載から容易に発明をすることができたものでない旨を主張している。また、請求人は、ヨウ素の放射性同位体は、それぞれ異なる半減期、エネルギーレベル、崩壊メカニズムを有し、その使用においては、ヨウ素内の中性子数による影響を十分に考慮する必要があるため、これらを互換的に使用できず、引用された刊行物の記載から放射性ヨウ素として^(124)Iを使用した本願発明を、当業者が容易に想到し得ない旨を主張している。
請求人はさらに、早期審理に関する事情説明書においても、引用された刊行物には、^(124)Iで標識した18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル ホスホコリンが特定の癌の検出、特にPET造影に有用であることの記載も示唆もなく、^(125)I及び^(131)Iは、陽電子を放射しないため、これらの同位体で標識した化合物はPETでは検出できないのに対し、^(124)Iは陽電子を放出し、電子と接触する前に極めて短い距離を進み、PET検出器によって同時に検出される光子対を産生する点を指摘し、本願発明の容易想到性が否定される旨の主張をしている。
しかし、刊行物4には、上記エの[0003]において、イメージング技術における核医学技術としてPETが例示されていることから、刊行物4にPET造影の言及がないとの請求人の主張は正しくない。そして、刊行物4に接した当業者は、引用発明1におけるヨウ素の放射性同位体として、PETに利用できるヨウ素の放射性同位体を採用することが示唆されていると理解するといえ、刊行物6のサ及び刊行物8のシなどの記載などからも明らかなとおり、PETに利用できるヨウ素の放射性同位体が^(124)Iであることも、本願優先日時点の当業者に周知の事項であったから、引用発明1及び2のヨウ素の放射性同位体を^(124)Iとすることが、当業者が容易になし得たことである点は、既に上記(1)ウにおいて述べたとおりである。そして、放射性核種の半減期、エネルギーレベル、崩壊メカニズムの違いがあり、ヨウ素の放射性同位体のうち、陽電子を放出する^(124)IはPETに使用でき、^(125)I及び^(131)IはPETでは検出できないという技術常識によれば、結局のところ、ヨウ素の放射性同位体を、刊行物4に示唆されたPETに用いる場合には、^(124)Iを用いることに結びつくのであるから、請求人の上記主張によって、本願発明が進歩性を有するということはできない。

5 むすび
以上のとおり、本願において、請求項1、2、4及び5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-22 
結審通知日 2016-03-29 
審決日 2016-04-11 
出願番号 特願2012-234608(P2012-234608)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美長岡 真  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 齋藤 恵
新留 素子
発明の名称 DIAPEUTIC(登録商標)剤としてのリン脂質類似体、及びその方法  
代理人 池田 達則  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 中島 勝  

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