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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1318535 |
審判番号 | 不服2015-6174 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-02 |
確定日 | 2016-08-24 |
事件の表示 | 特願2010-221577「有機発光素子用ゲッター組成物及び前記有機発光素子用ゲッター組成物を含む有機発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日出願公開、特開2011-124216〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成22年 9月30日 出願(パリ条約による優先権主張2009年12 月 8日、韓国) 平成26年 2月19日 拒絶理由通知(同年 2月25日発送) 平成26年 5月26日 意見書及び手続補正書(当該手続補正書による補 正を、以下「本件補正前の補正」という。) 平成26年 7月 2日 最後の拒絶理由通知(同年 7月 8日発送) 平成26年10月 7日 意見書及び手続補正書 平成26年11月26日 平成26年10月 7日付け手続補正書でした補 正の却下の決定、及び、拒絶査定(同年12月 2日送達) 平成27年 4月 2日 審判請求書及び手続補正書(当該手続補正書によ る補正を、以下「本件補正」という。) 第2 補正の却下の決定 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理 由] 1 本件補正の内容 本件補正は、本件補正前の補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1を下記のとおりに補正しようとする事項を含むものである。 本件補正前の請求項1 「【請求項1】 吸湿材及びバインダーを含み、 前記バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低く、 前記吸湿材は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ストロンチウム(Sr)、及びこれらの酸化物から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、有機発光素子用ゲッター組成物。」(以下「本願発明」という。) 本件補正後の請求項1 「【請求項1】 吸湿材及びバインダーを含み、 前記バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低く、 前記吸湿材は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ストロンチウム(Sr)、及びこれらの酸化物から選択された少なくとも一つを含み、 前記バインダーは、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、またはこれらの組み合わせを含み、 前記バインダーがシリコン樹脂を含む場合、前記バインダーは、80?120℃で硬化させる時の質量損失率が0.6質量%より小さく、 前記バインダーがエポキシ樹脂を含む場合、前記バインダーは、80?120℃で硬化させる時の質量損失率が1質量%より小さく、 前記バインダーは溶媒を含まず、 透過率が30%以上であることを特徴とする、有機発光素子用ゲッター組成物。」(以下「本願補正発明」という。) (なお、上記の下線は補正箇所を示し、当合議体が付した。また、以下、下線がある場合は当合議体が付したものである。) 2 補正の適否について (1)補正事項と請求人主張の補正の根拠 ア 本件補正前の請求項2?4の発明特定事項を根拠として、請求項1を限定することを目的として、請求項1に、 「前記バインダーは、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、またはこれらの組み合わせを含み、 前記バインダーがシリコン樹脂を含む場合、前記バインダーは、80?120℃で硬化させる時の質量損失率が0.6質量%より小さく、 前記バインダーがエポキシ樹脂を含む場合、前記バインダーは、80?120℃で硬化させる時の質量損失率が1質量%より小さく、」 との発明特定事項を付加した。 イ 本件補正前の請求項5の発明特定事項を根拠として、請求項1を限定することを目的として 「前記バインダーは溶媒を含まず、」 との発明特定事項を付加した。 なお、本件補正前の請求項5は、「溶媒を含まないことを特徴とする、請求項1?4に記載の有機発光素子用ゲッター組成物」とされているところ、「バインダーは溶媒を含ま」ない構成も含まれていることは、本件補正における、本件補正前の請求項14の「前記バインダーは、溶媒を含まない」との記載を根拠として、本件補正前の請求項10を新たな請求項6とし、「前記バインダーは溶媒を含まず」との限定を行っていることからも明らかである。 ウ 【0059】?【0061】及び図4を根拠として、請求項1に 「透過率が30%以上である」 との発明特定事項を付加した。 (2)新規事項についての判断 ア 上記の補正事項ウによる補正について、請求人は、審判請求書の2頁項番(4)(c)で、「[0059]?[0061]、図4には、本発明の一例である実施例1の透過率が30%以上になることが示されています。」と説明しているので、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の記載を確認する。 (ア)【0059】?【0061】の記載は、以下のとおり。 「【0059】 これについて、図4を参照して説明する。 【0060】 図4は実施例1及び比較例1によるゲッター組成物の吸湿度を示したグラフである。 【0061】 図4を参照すると、実施例1によるゲッター組成物(A)は、時間が経過するほど透過率が高くなるが、比較例1によるゲッター組成物(B)は、時間の経過と関係なく透過率が殆どないことが分かる。これは、実施例1によるゲッター組成物(A)は時間の経過によって空気中の水分を次第に多く吸湿して透明になる傾向を示すが、比較例1によるゲッター組成物(B)はこのような水分の吸湿性を示さないことが分かる。」 (イ)【図4】は以下のとおり。 上記図4に示されている折れ線A、Bは、共に、それぞれ9つの測定ポイントと推定される◇、□を直線で結んだ透過率(Transmittance)の変化が示されている。 そして、透過率の値が、測定開始時には、折れ線A,B共に、2?3%であったところ、折れ線Aは、100時間経過近傍以後、透過率が逐次上昇し、概ね292時間経過後で30%、概ね421時間経過後で83%程度の透過率となっていることが、また、折れ線Bは、300時間程度まで殆ど変化なく、以後微増し、概ね421時間経過後に10%程度の透過率となっていることが、看取できる。 (ウ)上記【0059】?【0061】及び図4に記載された実施例1及び比較例1については、更に以下の記載がなされている。 「【0051】 [ゲッター組成物の製造] [実施例1] 平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%(ゲッター組成物の総質量に対する質量%。以下に示されるゲッター組成物の質量%も同様である)及びシリコン樹脂70質量%を混合して、ゲッター組成物を製造した。・・(略)・・ 【0054】 [比較例1] エポキシ樹脂だけを含むゲッター組成物を製造した。・・(略)・・ 【0056】 [吸湿度の測定] 実施例1及び比較例1によるゲッター組成物の吸湿度を測定した。 【0057】 ガラス基板上に前記実施例1及び比較例1によるゲッター組成物を各々塗布した後、また他の有機基板を合着した。次に、80℃の温度で熱硬化させた。 【0058】 ゲッター組成物が水分を含湿する場合に透明になる特性を利用して、高温高湿条件で保管時間による透過率を測定した。」 イ 上記各記載を整理すると、概ね以下の3つの事項からなっている。 (ア)試料の作成に関する記載 「実施例1として、平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%及びシリコン樹脂70質量%を混合して、ゲッター組成物を製造し(【0051】)、比較例1として、エポキシ樹脂だけを含むゲッター組成物を製造し(【0054】)、ガラス基板上に前記実施例1及び比較例1によるゲッター組成物を各々塗布した後、他の有機基板を合着し、次に、80℃の温度で熱硬化させ(【0057】)た。」 (イ)透過率と吸湿度との関係に関する記載 「ゲッター組成物が水分を含湿する場合に透明になる特性を利用して、高温高湿条件で保管時間による透過率を測定した。(【0058】)」 (ウ)透過率の測定結果から、吸湿度に関する分析をしている記載 図4から、「実施例1によるゲッター組成物(A)は、時間が経過するほど透過率が高くなるが、比較例1によるゲッター組成物(B)は、時間の経過と関係なく透過率が殆どないこと(【0061】)」が分かる旨説明され、これから、上記【0058】に記載した説明を根拠として、「実施例1によるゲッター組成物(A)は時間の経過によって空気中の水分を次第に多く吸湿して透明になる傾向を示すが、比較例1によるゲッター組成物(B)はこのような水分の吸湿性を示さない(【0061】)」旨分析している。 ウ そして、図4からは、具体的な条件が不明ではあるが、高温高湿条件で保管すると、「実施例1」である「ゲッター組成物(A)」の透過率の変化が、測定開始時の2?3%程度から概ね421時間経過後の83%程度まで変化してることが看取でき、グラフには、9つの◇(以下「測定ポイント」という。)を直線で結んだ透過率(Transmittance)の変化が示されているものの、それら各測定ポイントにおける時間或いは湿度の何れの間隔においても規則性はなく、そのうちの1つが、偶々概ね292時間経過時点で透過率が概ね30%となっていることが認められるだけである。 エ 上記イ、ウのように、上記【0051】?【0061】及び図4の各記載からは、酸化カルシウム及びシリコン樹脂を混合したゲッター組成物を用いた「実施例1」(「ゲッター組成物(A))は、測定開始時において2?3%程度の透過率であったものが、高温高湿条件下において時間が経過するほど透過率が高くなることが説明及び図示されているものの、「透過率が30%以上である」ものを「有機発光素子用ゲッター組成物」として用いるとの技術思想に関して何らの説明も示唆もなされていない。 例えば、高温高湿条件下にゲッター組成物を配置する以前の当初から、「透過率が30%以上である」ものを「有機発光素子用ゲッター組成物」として作成すること、更に、透過率自体が吸湿の程度を示すとの当初明細書等の説明(【0058】)からすれば、「透過率が30%以上」と上限のない透過率の設定において、例えば、図4で透過率2?3%での透過率(前記説明からすれば、殆ど吸湿されていない状態)から、吸湿によって、421時間程度後の透過率83%程度或いは100%に近い透過率となったゲッター組成物が、既にどの程度の吸湿を行っており、有機発光素子のゲッターとして用いた場合にどの程度の吸湿能力を有し、有機発光素子としての機能を維持させ得るのかについても、何ら説明されていない。 結局、【0051】?【0061】及び図4の各記載からは、高温高湿条件下において、酸化カルシウム及びシリコン樹脂を混合したゲッター組成物の透明度が上がり、酸化カルシウムを用いないエポキシ樹脂のみでは、透過率がなかなか上がらないことが示されているにすぎず、特定の透過率以上のゲッター組成物を「有機発光素子用」の「ゲッター組成物」として用いる事については、何ら記載も示唆もされていない。 オ したがって、上記補正事項ウによる補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、上記補正事項ウに係る補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下されるべきものである。 3 独立特許要件 (1)本件補正による「透過率が30%以上である」ゲッター組成物を、「有機発光素子用ゲッター組成物」とする点については、上記2で検討したように新規の技術思想を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないが、酸化カルシウムを混合させた実施例1に於けるゲッター組成物が、高温高湿条件において、吸湿する事を示す目的で、間接的に、保管時間の増加に伴い透過率が高くなることを示す図4においては、2?3%の透過率であったゲッター組成物が、概ね292時間の保管時点で30%の透過率となっていること自体が看取できる。 そこで、一応、本件補正が新規事項の追加ではないものと仮定して、独立特許要件(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるのか否か)について以下、検討する。 (2)特許法36条4項1号及び6項1号に関して ア 本願補正発明は、上記1に記載した「本件補正後の請求項1」のとおりであり、本件補正によって「有機発光素子用ゲッター組成物」に関して限定された「透過率が30%以上である」との発明特定事項の補正の根拠は、審判請求書の2頁(4)(c)の記載によれば「例えば[0059]?[0061]、図4です。」と説明されており、その記載内容は、上記1(2)ア(ア)、(イ)のとおりであり、更に関連する記載は、1(2)ア(ウ)で摘記したとおりである。 当該記載箇所には、実施例1の製造方法として、 「平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%(ゲッター組成物の総質量に対する質量%。以下に示されるゲッター組成物の質量%も同様である)及びシリコン樹脂70質量%を混合して、ゲッター組成物を製造した。」(【0051】)ことが記載されているものの、「シリコン樹脂」は、一般には、シロキサン結合による主骨格を持つ合成高分子化合物の総称であり、シリコーン、シリコンゴム、シリコン樹脂あるいは略されてシリコンとも呼ばれ、種々の置換基、重合度により、種々の物性、着色度(透明度)を有する物質であることは周知の事実であり、当初明細書等には、「シリコン樹脂」自体の物質としての具体的な説明はなされていない。 即ち、本願補正発明には、物性、着色の程度等が極めて豊富な材料が含まれる任意の上位概念的な名称としての「シリコン樹脂」が示されているのみで、具体的な物質としての説明が無い当初明細書等の記載に接した当業者が、どの様な「シリコン樹脂」を採用することで、測定開始時(図4に於けるTimeが0の時点)において、透過率が2?3%であり、且つ、その条件が不明である高温高湿条件雰囲気下において、概ね292時間程度で30%、概ね421時間程度で83%程度の透過率とすることができるのか、当業者が容易にその様な「シリコン樹脂」を選択し、実施することは困難であると言わざるを得ない。 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件補正によって補正された請求項1に記載された発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは言えない。 また、「80?120℃で硬化させる時の質量損失率が1質量%より小さい」「エポキシ樹脂」についても、同様である。 よって、本件補正後の請求項1の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 イ また、実施例1の「シリコン樹脂」及び図4の結果から「80?120℃で硬化させる時の質量損失率が0.6質量%より小さ」い「シリコン樹脂」であれば、実施例1のように「平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%」と混合したゲッター組成物として、全て図4と同様な傾向を示すことについても、本願明細書及び図面には、何らの説明もされておらず、自明でもない。 また、「80?120℃で硬化させる時の質量損失率が1質量%より小さい」「エポキシ樹脂」についても同様である。 加えて、「平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%」の実施例1のみが図4のデータを示しており、本件補正後の請求項1には、吸湿剤の平均粒子サイズ及び混合する質量%については何らの特定もなされていないところ、任意の平均粒子サイズであり且つ任意の混合割合でも、吸湿材として請求項1に特定されている「アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ストロンチウム(Sr)、及びこれらの酸化物から選択された少なくとも一つ」が、図4と同様な傾向を示すことが、本願明細書及び図面には、何らの説明もされておらず、自明でもない。 なお、図4のデータを示すゲッター組成物ではないが、実施例2には、「平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%」、実施例3には、「平均粒子サイズが500nmの酸化カルシウム30質量%」が記載されているものの、本件補正後の請求項1に記載されている吸湿材が、任意の平均粒子サイズ及び質量%であっても、図4と同様の傾向を示す根拠とはならないことは明らかである。 したがって、本件補正後の請求項1の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 (3)独立特許要件に関するまとめ 本件補正によって特定された「透過率が30%以上である」との発明特定事項が新規事項の追加ではないものと仮定して検討したが、その補正の根拠を踏まえれば、上記(2)ア及びイのように、補正された請求項1の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件及び特許法36条6項1号に規定する要件の何れも満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 4 まとめ よって、上記2より、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 或いは、上記3より、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 (1)本件補正は上記「第2 補正の却下の決定」での検討のとおり却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、本件補正前の平成26年 5月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る本願発明は、再掲すると請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 吸湿材及びバインダーを含み、 前記バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低く、 前記吸湿材は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ストロンチウム(Sr)、及びこれらの酸化物から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、有機発光素子用ゲッター組成物。」 (2)ここで、上記請求項1に記載された「バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低く」との点に関して、「60?120℃で加熱する時」とはどの様な状態の時を意味するのか明確でないところ、当初明細書等の下記の記載によれば、「60?120℃で加熱する時」とは、「硬化」工程時を含む「工程時及び/または駆動時」であって、「60?120℃」となる時と理解できる。 「【0039】 バインダーは、約60?120℃で2時間加熱する時に揮発度が約400ppmより低く、前記範囲内で、約10?400ppmである。バインダーの揮発度が前記範囲内であることによって、工程時及び/または駆動時にアウトガスが少なくて、バインダーが有機発光層に浸透されるのを防止することができる。それによって、工程後及び/または長期間駆動後に、表示領域においてバインダーによる表示染みまたは暗点などの表示不良が発生するのを防止することができる。 【0040】 バインダーがシリコン樹脂を含んで前記揮発度を有する場合、バインダーは、約80?120℃で硬化させる時に質量損失率が約0.6質量%より小さい。または、バインダーがエポキシ樹脂を含んで前記揮発度を有する場合、バインダーは、約80?120℃で硬化させる時に質量損失率が約1質量%より小さい。」 2 刊行物及びその摘記事項 (ア)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-277254号公報(以下「引用文献」という。)には、「有機EL素子」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付記した。) (引ア)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、有機化合物を用いた有機EL素子に関し、さらに詳細には、基板上に積層された有機EL構造体を保護するための封止構造に関する。 【0002】 【従来の技術】・・(略)・・ 【0003】ところで、有機EL素子は水分により劣化することが知られている。水分の影響により、例えば、発光層と電極層との間で剥離が生じたり、構成材料が変質してしまったりして、ダークスポットと称する非発光領域が生じたり、発光面積が縮小したりして所定の品位の発光が維持できなくなってしまう。 【0004】この問題を解決するための方法として、例えば、・・・(略)・・・有機EL積層構造体部分を被う気密ケース、封止層等を基板上に密着固定して外部と遮断する技術が知られている。 【0005】しかし、このような封止層等を設けたとしても、やはり、駆動時間の経過に伴い外部から侵入する水分の影響によって、発光輝度が減少したり、ダークスポットが生じたり、これが拡大したりして発光面積が縮小し、素子が劣化し、ひいては、発光不良が悪化して使用不能になってしまう。 【0006】また、有機EL構造体を気密ケース内に収納し、このケース内に乾燥剤を配置することが提案されている。例えば、・・(略)・・ 【0007】・・(略)・・微粉末固体脱水剤を外部の保護ケース内に充填する有機EL素子が開示されている。・・・(略)・・・ 【0008】・・(略)・・乾燥剤として化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物、具体的には、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物が挙げられている。これらの化合物は水分を化学吸着するので、水分の再放出が起こらず、素子の寿命は長くなる。しかし、固体乾燥剤を気密ケース内に保持することは容易でなく、しかも新たな工程を必要とし、素子の寿命としてもまだ不十分である。 【0009】・・(略)・・ 【0010】以上のように、従来の封止技術は、駆動時間の経過に伴う輝度の低下、ダークスポットの発生、拡大といった素子の劣化現象を抑制する効果が不十分であったり、ある程度の封止効果はあるとしても、封止工程が複雑になったり、コストがかかるといった問題を有していた。」 (引イ)「【0011】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、駆動時間の経過に伴う輝度の低下、ダークスポットの発生、拡大といった素子の経時劣化を有効に抑制し、初期性能を長期間維持できるとともに、簡単な封止工程で製造でき、しかも低コストの有機EL素子を実現することである。」 (引ウ)「【0013】 【発明の実施の形態】本発明の有機EL素子は、基板と、この基板上に形成された有機EL構造体と、この有機EL構造体を封止する封止板とを有し、前記封止板の内面には、乾燥剤と、シリコーン化合物との混合物が配置されている。・・(略)・・ 【0016】シリコーン化合物は、ペースト状、ゴム状、樹脂状のものが使用可能である。具体的には、・・・(略)・・・具体的には、いわゆるRTV液状シリコーンゴム等が使用可能である。これらRTV液状シリコーンゴムの中で特に縮合型液状シリコーンゴムについては水分の存在下に硬化が進むようなタイプであり、乾燥剤の存在による硬化性の低下等の問題があるため使用には注意が必要である。 【0017】また、縮合型については、硬化時に発生するアルコール、アセトン等の副生物が素子に悪影響を与える恐れが有り、硬化を十分に行い発生ガスを除いた後、封止、貼り合わせを行うことが望ましい。硬化に水分を必要としない、さらには原理的に副生物の発生しないいわゆる付加型液状シリコーンゴムが好適である。 【0018】また上記のシリコーン化合物については、含有している水分あるいは化学反応等によって乾燥剤の特性を劣化させることが無いよう選択には注意を要する。また、封止板の材質にもよるが、封止板との密着性が良好なものが好ましい。シリコーングリス、シリコーンゴムについては比較的透湿性が大きいため、樹脂表面に露出した乾燥剤だけでなく樹脂内部に分散されている乾燥剤についても効率よく水分を捕獲することが出来る。 【0019】乾燥剤としては、上記樹脂中において吸湿効果を発揮しうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、酸化ナトリウム(Na_(2)O)、酸化カリウム(K_(2)O)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)等を挙げることができる。 【0020】また、水素化カルシウム(CaH_(2))、水素化ストロンチウム(SrH_(2))、水素化バリウム(BaH_(2))および水素化アルミニウムリチウム(AlLiH_(4))等も好ましい。 【0021】上記乾燥剤のなかでも特に、水素化カルシウム(CaH_(2))、水素化ストロンチウム(SrH_(2))、水素化バリウム(BaH_(2))および水素化アルミニウムリチウム(AlLiH_(4))等が好ましい。 【0022】乾燥剤の含有量としては、上記シリコーン化合物を含めた全成分に対して、好ましくは1?70重量%、特に10?60重量%である。乾燥剤の含有量が1重量%に満たないと乾燥剤による吸水効果が十分でなくなり、70重量%を超えると乾燥剤の保持が困難となり、乾燥剤が脱落し、ひいては素子に悪影響を及ぼすおそれがある。乾燥剤は、通常、上記樹脂中に分散された状態で用いられる。乾燥剤の平均粒径としては、特に限定されるものではないが、通常、0.1?10μm 程度である。」 (引エ)「【0084】 【実施例】<乾燥剤・樹脂混合物の調整> サンプル1 シリコーン化合物として:シリコーングリース KS64(商品名):信越化学社製を用い、これに乾燥剤CaH_(2)を用いた。N_(2)雰囲気下で前記シリコーングリース100重量部に対して乾燥剤を15重量部添加して混練・分散した。得られた乾燥剤・樹脂混合物を、ガラス封止板の内面側(有機EL構造体と対向する側)となる部位上に塗布した。このときの塗布量は、約0.05g/cm^(2)とした。これにより、ガラス封止板上に極めて容易に乾燥剤が固定されることが確認できた。 【0085】サンプル2 シリコーン化合物として:硬化型シリコーンゴム、KE109(商品名):信越化学社製を用い、これに乾燥剤CaH_(2)を用いた。N_(2)雰囲気下で前記シリコーンゴム主剤100重量部に対して乾燥剤を80重量部添加して混練・分散した。得られた混合物に、硬化剤を主剤100重量部に対して硬化剤80重量部添加、混合し、この混合物を、ガラス封止板の内面側(有機EL構造体と対向する側)となる部位上に塗布した。このときの塗布量は、約0.05g/cm^(2)とした。次いで、この乾燥剤・液状シリコーンゴム混合物が塗布されたガラス封止板を、150℃で2時間加熱し、液状シリコーンゴムを硬化した。これにより、ガラス封止板上に極めて容易に乾燥剤が固定されることが確認できた。 比較サンプル 乾燥剤・樹脂混合物を塗布しないサンプル(比較例1)を用意した。」 (引オ)「【0086】<有機EL素子の作製>ガラス基板としてコーニング社製商品名7059基板を中性洗剤を用いてスクラブ洗浄した。 【0087】この基板上にITO酸化物ターゲットを用いRFマグネトロンスパッタリング法により、基板温度250℃で、膜厚200nmのITOホール注入電極層を形成した。 【0088】ITO電極層等が形成された基板の表面をUV/O_(3)洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10^(-4)Pa以下まで減圧した。 【0089】次いで、蒸着法により、4,4’,4”-トリス(-N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)を蒸着速度0.1nm/secで55nmの厚さに蒸着してホール注入層を形成し、N,N’-ジフェニル-N,N’-m-トリル-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル(TPD)を蒸着速度0.1nm/secで20nmの厚さに蒸着してホール輸送層を形成した。 【0090】さらに、減圧を保ったまま、N,N,N’,N’-テトラキス(m-ビフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD)と、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3))と、ルブレンとを、全体の蒸着速度0.2nm/secとして100nmの厚さに蒸着し、発光層とした。TPD:Alq_(3)=1:1(重量比)、この混合物に対してルブレンを10体積%ドープした。 【0091】次いで、減圧を保ったまま、AlLi(Li:7at%)を1nmの厚さに蒸着し、続けてAlを200nmの厚さに蒸着し、電子注入電極および補助電極とした。 【0092】最後に前記乾燥剤・樹脂混合物が配置されているサンプル1,2のガラス封止板を貼り合わせ、有機EL素子を得た。このときの接着剤は、エポキシ系光硬化型接着剤を用いた。また、比較サンプルとして、前記乾燥剤・樹脂混合物を塗布しない封止板を貼り合わせた比較サンプルを用意した。 【0093】得られた各サンプル1,2、および比較サンプルの有機EL素子各10サンプルを、60℃-RH95%の保存条件下で10mA/cm^(2)の電流密度で連続駆動させ、500時間駆動した後に発光面を観察して各画素のダークスポットを観察した。その結果、本発明サンプル1,2は直径50μm 以下のダークスポットが3個程度発見されたにとどまったが、比較サンプルでは、いずれのものも直径50μm 以上のダークスポットが15個以上確認された。 【0094】 【発明の効果】以上のように本発明によれば、駆動時間の経過に伴う輝度の低下、ダークスポットの発生、拡大といった素子の経時劣化を有効に抑制し、初期性能を長期間維持できるとともに、簡単な封止工程で製造でき、しかも低コストの有機EL素子を実現することができる。」 上記摘示事項(引エ)によれば、引用文献には次の発明が開示されている。 「シリコーン化合物として、硬化型シリコーンゴムであるKE109(商品名)(信越化学社製)を用い、乾燥剤としてCaH_(2)を用いて、N_(2)雰囲気下で前記シリコーンゴム主剤100重量部に対して乾燥剤を80重量部添加して混練・分散し、得られた混合物に、硬化剤を主剤100重量部に対して硬化剤80重量部を添加、混合し、この混合物を、ガラス封止板の内面側(有機EL構造体と対向する側)となる部位上に塗布し、次いで、この乾燥剤・液状シリコーンゴム混合物が塗布されたガラス封止板を、150℃で2時間加熱し、液状シリコーンゴムを硬化した、乾燥剤・樹脂混合物。」(以下「引用発明」という。) 3 対比・判断 ア 本願発明と刊用発明とを対比すると、 (ア)引用発明の「乾燥剤」及び「シリコーン化合物」は、本願発明の「吸湿材」及び「バインダー」に相当する。 (イ)引用文献の摘記事項中(引ア)及び(引イ)の記載から、引用発明の「乾燥剤・樹脂混合物」は、有機EL素子が水分により劣化するために、当該水分を除去することを目的とする混合物であることは明らかであり、また、「混合物を、ガラス封止板の内面側(有機EL構造体と対向する側)となる部位上に塗布」して用いるものであるから、本願発明の「有機発光素子用ゲッター組成物」に相当する。 そうすると、両者は、 「吸湿材及びバインダーを含む ことを特徴とする、有機発光素子用ゲッター組成物。」 の点で一致するものの、次の点で相違する。 *相違点1:バインダーに関して、本願発明では、「60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低」いのに対して、引用発明ではその様な特定がなされていない点。 *相違点2:吸湿材として、本願発明では、「アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ストロンチウム(Sr)、及びこれらの酸化物から選択された少なくとも一つを含む」のに対して、引用発明では、「CaH_(2)」である点。 イ 相違点についての判断 ここで、上記各相違点について検討する。 (ア)相違点1について a 引用文献の摘記事項(引ウ)には、シリコーン化合物としてのRTV液状シリコーンゴムのうち、「縮合型液状シリコーンゴム」は、「硬化時に発生するアルコール、アセトン等の副生物が素子に悪影響を与える恐れが有り、硬化を十分に行い発生ガスを除いた後、封止、貼り合わせを行うことが望ましい。」ことが記載されており、これに対して「付加型液状シリコーンゴム」は、「硬化に水分を必要としない、さらには原理的に副生物の発生しない」ため、「好適である」ことが説明されている。 そして、引用発明のシリコーン化合物は、硬化型シリコーンゴムであるKE109(商品名)(信越化学社製)であること、硬化に際して、「シリコーンゴム主剤」と、「硬化剤」とを用い、水或いは他の溶媒は用いていないことから、引用発明のシリコーン化合物は、「硬化に水分を必要としない、さらには原理的に副生物の発生しない」「付加型液状シリコーンゴム」である。 b 一方、本願発明の「バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低」いとの発明特定事項に関しては、上記1(2)のように、「「硬化」工程時を含む「工程時及び/または駆動時」であって、「60?120℃」となる時」と認められ、また、当初明細書等の下記【0051】?【0076】の記載から、少なくとも、下記の(a)?(e)の事項が認められる。 (a)どの様な物質がどの程度揮発したかについては、具体的な測定は行っていないこと。 (b)ゲッター組成物としての実施例2が「平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%及びエポキシ樹脂70質量%を混合したゲッター組成物」であり、比較例2が「平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%、エポキシ樹脂60質量%、及びエタノール10質量%を含むゲッター組成物」であるから、ゲッター組成物としての実施例2と比較例2とは、エタノールの有無のみであること。 (c)有機発光装置としての実施例2は、「実施例2によるゲッター組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様な方法で製造した有機発光装置」であり、比較例2が、「比較例2によるゲッター組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様な方法で製造した有機発光装置」であるから、有機発光装置としての実施例2と比較例2とは、ゲッター組成物中のエタノールの有無のみであること。 (d)ゲッター組成物中のエタノールの有無のみが相違することで、「85℃の温度、85%の湿度環境で100時間放置した後に」実施例2では、「表示染みがほとんど視認され」ず、比較例2では、「表示染みが複数視認される」こと。 (e)上記「表示染み」の有無が、「バインダーの揮発度」を示すものであるが、揮発度自体の定量的な測定はなされておらず、表示染み自体から揮発度を定量化する手段も開示されていないこと。 <当初明細書等の記載事項> 「【0051】 [ゲッター組成物の製造]・・(略)・・ 【0052】 [実施例2] 平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%及びエポキシ樹脂70質量%を混合して、ゲッター組成物を製造した。・・(略)・・ 【0055】 [比較例2] 平均粒子サイズが100nmの酸化カルシウム30質量%、エポキシ樹脂60質量%、及びエタノール10質量%を含むゲッター組成物を製造した。・・(略)・・ 【0062】 [有機発光装置の製造] [実施例1] ガラス基板上にITOをスパッタリングで形成した後にパターニングし、その上に電子伝達層としてAlq3を蒸着し、発光層・・(略)・・をドーピングして共蒸着し、正孔注入層及び正孔伝達層・・(略)・・を順次に蒸着した。次に、その上にAlを順次に蒸着して、有機発光素子を形成した。 【0063】 次に、ディスペンサーを使用してガラス基板の周縁に沿ってシーリング材を適用した。次に、前記有機発光素子及び前記シーリング材の間に前記実施例1によるゲッター組成物を適用した。 【0064】 次に、前記ガラス基板と同一規格のガラス基板を合着した後、固体レーザーを使用してシーリング材を硬化させた。 【0065】 [実施例2] 実施例1によるゲッター組成物の代わりに実施例2によるゲッター組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様な方法で有機発光装置を製造した。・・(略)・・ 【0067】 [比較例2] 実施例1によるゲッター組成物の代わりに比較例2によるゲッター組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様な方法で有機発光装置を製造した。・・(略)・・ [表示特性の評価-2] 実施例2及び比較例2による有機発光装置を85℃の温度、85%の湿度環境で100時間放置した後に、表示染みが発生したか否かを確認した。 【0073】 これについて、図6A及び図6Bを参照して説明する。 【0074】 図6Aは実施例2による有機発光装置の100時間の経過による表示特性を示した写真であり、図6Bは比較例2による有機発光装置の100時間の経過による表示特性を示した写真である。 【0075】 図6Aを参照すると、実施例2による有機発光装置は、100時間後に表示染みがほとんど視認されず、図6Bを参照すると、比較例2による有機発光装置は、100時間後に表示染みが複数視認されることが分かる。 【0076】 これは、時間の経過と共に、ゲッター組成物に含まれているバインダーの揮発成分が有機発光層に浸透して不純物を構成し、これが外部から視認されるものであり、本発明の実施例によるゲッター組成物を使用した場合に、バインダーの揮発度を制限することによって、表示染みが大きく減少することが分かる。それによって、有機発光装置の表示特性及び寿命を改善することができる。」 c 当初明細書等においては、上記指摘事項b(a)?(e)から、吸湿材と樹脂とが同じものであり、比較例2としてエタノールのみを混合した場合に、「表示染み」が発生し、これにより「バインダー」から、特定されていない何らかの揮発が生じていたものとしており、結局、水或いはエタノール等の溶媒を含まなければ、バインダーからの揮発成分がなく、本願発明の「バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低」くなるものと説明されていると理解するのが相当である。 d したがって、上記a?cから、引用発明の硬化型シリコーンゴムであるKE109(商品名)(信越化学社製)即ち「硬化に水分を必要としない、さらには原理的に副生物の発生しない」「付加型液状シリコーンゴム」は、実質的に、「バインダーは、60?120℃で加熱する時の揮発度が400ppmより低」いものと認められる。 (イ)相違点2について 引用発明は、乾燥剤としてCaH_(2)を用いているが、引用文献には、従来技術の課題として「乾燥剤として化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物、具体的には、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物が挙げられている」(【0008】)と説明し、これらの「固体乾燥剤を気密ケース内に保持することは容易でなく、しかも新たな工程を必要とし、素子の寿命としてもまだ不十分である」(【0008】)として、「乾燥剤と、シリコーン化合物との混合物」をその解決手段としたものであるから、引用発明における乾燥剤が「CaH_(2)」に限定されるものではないことは明らかである。 そして、引用文献自体にも、「乾燥剤としては、上記樹脂中において吸湿効果を発揮しうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、酸化ナトリウム(Na_(2)O)、酸化カリウム(K_(2)O)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)等を挙げることができる。」(【0019】)と説明していることから、引用発明におけるCaH_(2)を、上記引用文献自体に例示された酸化マグネシウム(MgO)に変更することは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。 (ウ)また、上記各相違点1,2にかかる本願発明の各構成を採用したことによる格別な効果も見いだせない。 4 結言 したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明及び技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の請求項2?19に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-03-25 |
結審通知日 | 2016-03-29 |
審決日 | 2016-04-11 |
出願番号 | 特願2010-221577(P2010-221577) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B) P 1 8・ 561- Z (H05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中山 佳美 |
特許庁審判長 |
鉄 豊郎 |
特許庁審判官 |
清水 康司 藤原 敬士 |
発明の名称 | 有機発光素子用ゲッター組成物及び前記有機発光素子用ゲッター組成物を含む有機発光装置 |
代理人 | アイ・ピー・ディー国際特許業務法人 |