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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63B
管理番号 1318708
審判番号 不服2015-11353  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-16 
確定日 2016-08-25 
事件の表示 特願2011-285303号「船舶及び船舶の復原性確保方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 8日出願公開、特開2013-133030号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成23年12月27日の出願であって、平成27年3月13日付け(同年3月17日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。その後、当審において平成28年3月22日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年5月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年5月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
船体の複数の区画と、
流路と
を具備し、
前記複数の区画は、
第1機器が配置された第1区画と、
前記第1機器と同種の第2機器が配置された第2区画と、
前記第1機器と同種の機器が配置されない第3区画と
を備え、
前記第1区画は、前記船体の左舷及び右舷の一方に配置され、
前記第2区画及び前記第3区画は、前記左舷及び前記右舷の他方に配置され、
前記流路は、前記第1区画と前記第3区画とを水が移動可能なように接続され、
前記第1区画は、前記船体の重心位置に対して第1の側に配置され、
前記第3区画は、前記重心位置に対して第2の側に配置され、
前記第1の側は、船首側及び船尾側の一方であり、
前記第2の側は、前記船首側及び前記船尾側の他方である
船舶。」

2.引用文献の記載事項及び引用発明
(1)当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-193590号公報(以下、「引用文献1」という。)には「船体損傷時の復原装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。以下、同様。)

ア.1ページ左欄17行?右欄10行
「従来の船体においては、その外板部に何らかの原因で損傷を生じ、船内の区画内に海水が浸入した場合を想定し、多数の水密横隔壁により分割された水密区画の構造をとり、これらの各水密隔壁の出入口に操舵室内などの押ボタンで油圧により閉鎖操作できる水密滑戸を設けたり、また、左右舷の区画をクロス・フラッディング・ラインで連通することにより、浸水時の船体の傾斜を減少させるクロス・フラッディング・ライン装置を設けているが、通常の船の機関室などでは、その狭いスペースの面からこれらの多数のクロス・フラッディング・ラインの弁付き配管を設けることが困難であり、また、これらの多数の弁を遠隔制御する操作が複雑である。」

イ.3ページ左上欄3?13行
「なお、この場合、その船体に水密横隔壁による水密区画があり、それらの出入口を閉鎖する水密滑戸が設けられている場合には、その船体1の外板部等の損傷時において操舵室内の押ボタンで水密滑戸を閉鎖するのは勿論である。更に、左右の水密区画を連通するクロス・フラッディング・ラインが設けられている場合には、クロス・フラッディング・ラインで左右の水密区画を連通するように操舵室の押ボタン操作を行なって船体1の傾斜を減少させることも勿論有効である。」

以上の記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「船体の左右舷に多数の水密横隔壁により分割された水密区画があり、左右の水密区画を連通させるクロス・フラッディング・ラインを設ける船舶。」

(2)当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特公昭47-2302号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

カ.1ページ左欄37行?右欄12行
「図面に示す本発明の実施例はタンクを仕切る横隔壁の数を4枚とした場合について説明したものである。左右舷に前後に各5区画のタンクを有する鉱石運搬船において、鉱石艙6の両舷タンクを左舷船首より1P,2P,3P,4P,5Pとし、右舷を同じく1S,2S,3S,4S,5Sとする。船体の浮心の位置を3の位置とすれば、3P又は3Sが損傷により浸水した場合には船はトリムすることなく左又は右舷にヒールする。第2図は浮心より前にある2Pタンクと浮心より後ろでほぼ等距離にあつて舷の異なる4Sタンクとを鉱石艙6の下部空所7内において連結管8で連結し、また2Sタンクと4Pタンクとを連結管9で連結したものである。」

キ.2ページ右欄3?11行
「以上の説明で明らかな如く本発明は船体の浮心より、前後のほぼ同じ距離に位置する両舷のタンクを左右の舷を違えて相互に連結したので損傷タンクに海水が浸入した場合何等の操作の必要なく自然流によつて連結管の中を海水が流れて、前後左右方向に浮心より対象位置にある他の1つのタンクに海水が注がれる為、トリムモーメント及び傾斜モーメントの増大が防止され、船はバランスを保つて船体の安全を保つことができる。」

3.対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「多数の水密横隔壁により分割された水密区画」は、その技術的意義及び構造からみて、本願発明の「複数の区画」に相当し、引用発明の「船体の左右舷に多数の水密横隔壁により分割された水密区画があ」ることと、本願発明の「第1機器が配置された第1区画と、前記第1機器と同種の第2機器が配置された第2区画と、前記第1機器と同種の機器が配置されない第3区画とを備え、前記第1区画は、前記船体の左舷及び右舷の一方に配置され、前記第2区画及び前記第3区画は、前記左舷及び前記右舷の他方に配置され、」「前記第1区画は、前記船体の重心位置に対して第1の側に配置され、前記第3区画は、前記重心位置に対して第2の側に配置され、前記第1の側は、船首側及び船尾側の一方であり、前記第2の側は、前記船首側及び前記船尾側の他方である」こととは、「複数の区画」が、「船体の左舷及び右舷に配置され」る限りで共通する。

・引用発明の「クロス・フラッディング・ライン」は、引用文献1の記載事項ア.の「左右舷の区画をクロス・フラッディング・ラインで連通することにより、浸水時の船体の傾斜を減少させるクロス・フラッディング・ライン装置を設けている」との記載内容からみて左右舷の区画を連通し流体を移動させるものにほかならないから、本願発明の「流路」に相当し、引用発明の「左右の水密区画を連通させるクロス・フラッディング・ライン」と、本願発明の「前記第1区画と前記第3区画とを水が移動可能なように接続する流路」とは、「船体の左舷に配置された区画と右舷に配置された区画とを水が移動可能なように接続する流路」である限りで共通する。

以上のことから、両者は、

「船体の複数の区画と、
流路と
を具備し、
前記複数の区画は、
前記船体の左舷及び右舷に配置され、
前記流路は、船体の左舷に配置された区画と右舷に配置された区画とを水が移動可能なように接続する
船舶。」

である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「船体の左舷及び右舷に配置され」る「複数の区画」が、「第1機器が配置された第1区画と、前記第1機器と同種の第2機器が配置された第2区画と、前記第1機器と同種の機器が配置されない第3区画とを備え、前記第1区画は、前記船体の左舷及び右舷の一方に配置され、前記第2区画及び前記第3区画は、前記左舷及び前記右舷の他方に配置され、」「前記第1区画は、前記船体の重心位置に対して第1の側に配置され、前記第3区画は、前記重心位置に対して第2の側に配置され、前記第1の側は、船首側及び船尾側の一方であり、前記第2の側は、前記船首側及び前記船尾側の他方である」とともに、「船体の左舷に配置された区画と右舷に配置された区画とを水が移動可能なように接続する」「流路」が、「前記第1区画と前記第3区画とを」接続するのに対し、引用発明は、そのような構成を備えるとはされていない点。

(2) 判断
上記相違点について検討する。

ア.引用文献1の記載事項ア.の「多数の水密横隔壁により分割された水密区画の構造をとり、これらの各水密隔壁の出入口に操舵室内などの押ボタンで油圧により閉鎖操作できる水密滑戸を設けたり、また、左右舷の区画をクロス・フラッディング・ラインで連通することにより、浸水時の船体の傾斜を減少させるクロス・フラッディング・ライン装置を設けている」との記載を参酌すると、「各水密隔壁」は「多数の水密横隔壁」を受けているものであり、「左右舷の区画」の「区画」は「水密区画」を受けているものであるから、引用発明の「水密区画」(本願発明の「区画」に相当。)は、多数の水密横隔壁の出入口に水密滑戸を設けたものを含むものと解される。
そして、水密滑戸を設ける水密区画であれば、通常作業員等が出入り可能なものであり、例えば当審拒絶理由に刊行物2として引用された特開2004-142552号公報の段落【0021】の記載及び【図3】に示されているような区画内に発電機等を配置する事例をみても、水密区画内に機器を配置することは充分考えられるものである。

イ.また、引用文献1の記載事項イ.の「その船体に水密横隔壁による水密区画があり、それらの出入口を閉鎖する水密滑戸が設けられている場合には、その船体1の外板部等の損傷時において操舵室内の押ボタンで水密滑戸を閉鎖するのは勿論である。更に、左右の水密区画を連通するクロス・フラッディング・ラインが設けられている場合には、クロス・フラッディング・ラインで左右の水密区画を連通するように操舵室の押ボタン操作を行なって船体1の傾斜を減少させる」との記載を参酌すると、「更に、左右の水密区画を連通するクロス・フラッディング・ライン」の「水密区画」は「水密区画があり、それらの出入口を閉鎖する水密滑戸が設けられている」の「水密区画」を受けているものと解し得、さらに上記ア.で述べたとおり、水密区画は水密滑戸を設けたものを含むものと解されるから、引用発明の「クロス・フラッディング・ライン」(本願発明の「流路」に相当。)は出入口を閉鎖する水密滑戸が設けられている左右の水密区画を連通するものと解される。

ウ.さらに、引用発明の「クロス・フラッディング・ライン」は、「船体1の傾斜を減少させる」ものである(記載事項イ.を参照。)。そして、船体の傾斜には、船体の左右に傾くローリングや前後に傾くピッチング等があることは技術常識であり、左右の水密区画を連通させるクロス・フラッディング・ラインを設ける際には、傾斜の種類に応じて設計が可能であるところ、引用文献2には「浮心より前にある2Pタンクと浮心より後ろでほぼ等距離にあって舷の異なる4Sタンクとを連結管8で連結し、トリムモーメント及び傾斜モーメントの増大が防止され、船はバランスを保つて船体の安全を保つこと」(以下、「引用文献2に記載されている事項」という。)が記載されている。ここで引用文献2の「浮心より前にある2Pタンク」と「浮心より後ろでほぼ等距離にあって舷の異なる4Sタンク」のいずれか一方が本願発明の「第1区画」に相当するとともに他方が「第3区画」に相当し、引用文献2の「連結管8」は本願発明の「流路」に相当する。そうすると引用文献2には、本願発明の上記相違点に係る「前記第1区画は、前記船体の重心位置に対して第1の側に配置され、前記第3区画は、前記重心位置に対して第2の側に配置され、前記第1の側は、船首側及び船尾側の一方であり、前記第2の側は、前記船首側及び前記船尾側の他方である」とともに、「船体の左舷に配置された区画と右舷に配置された区画とを水が移動可能なように接続する」「流路」が「前記第1区画と前記第3区画とを」接続することが開示されているといえる。そして、前掲の特開2004-142552号公報の【図3】に示されるように船首側から船尾側にわたって水密区画を配置することは技術常識であるところ、引用発明の「クロス・フラッディング・ライン」を、引用文献2に記載されている事項を参考にして、浮心より前にある水密区画と浮心より後ろでほぼ等距離にあって舷の異なる水密区画とを連通させるように設けることは想起し得ることである。

エ.加えて、前掲の特開2004-142552号公報の【図3】及び【図11】や当審拒絶理由に刊行物4として引用された特開2008-126829号公報の【図2】に示されるように同じ機器は左右対称に左舷と右舷に配置される場合が多いので、浮心より前にある水密区画と浮心より後ろでほぼ等距離にあって舷の異なる水密区画とでは異なる機器等が配置される蓋然性が高いところ、同じく特開2008-126829号公報の段落【0010】及び当審拒絶理由に刊行物5として引用された特開2010-285013号公報の段落【0008】に記載されているように機器の冗長性(トラブルへの対応、バックアップ機能)を確保することは当然考慮に入れるべきことであるから、浮心より前にある水密区画と浮心より後ろでほぼ等距離にあって舷の異なる水密区画とを連通させる際に、同種の機器等が配置されている水密区画同士を連通させないことは合理的かつ自然なことである。

オ.以上のことを総合的に踏まえると、引用発明に引用文献2に記載されている事項を適用して、引用発明の「クロス・フラッディング・ライン」を浮心より前にある水密区画と浮心より後ろでほぼ等距離にあって舷の異なる水密区画とを連通させるように設ける態様を採用し、かつ同種の機器等が配置されている水密区画同士を連通させないことに、格別の困難性があるとはいえない。

よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

本願発明の奏する作用効果をみても、引用発明及び引用文献2に記載されている事項から予測し得る範囲内のものであって、格別でない。

よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用文献2に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-16 
結審通知日 2016-06-22 
審決日 2016-07-05 
出願番号 特願2011-285303(P2011-285303)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須山 直紀  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
尾崎 和寛
発明の名称 船舶及び船舶の復原性確保方法  
代理人 工藤 実  

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