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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1318711 |
審判番号 | 不服2015-13448 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-15 |
確定日 | 2016-08-25 |
事件の表示 | 特願2010-232963「混合材の製造方法及びセメント組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月10日出願公開、特開2012- 86992〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年10月15日の出願であって、平成26年11月7日付けの拒絶理由通知に対し、平成26年12月15日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成27年5月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年7月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願に係る発明は、平成26年12月15日付けの手続補正により補正された請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、 「5?30重量部のセメントと、0?20重量部のシリカフュームと、0?14重量部のフライアッシュと、51?69重量部の高炉スラグと、を混合して100重量部の混合材を製造することを特徴とする混合材の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)である。 第3 原査定の理由 原査定の理由は、 「この出願については、平成26年11月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由1とは、 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。 この理由1における「下記の請求項」は、平成26年11月7日付け拒絶理由通知書によると、「請求項1?11」であって、その請求項1の発明特定事項は次のとおりであるから、本願発明を含むものである。 「【請求項1】 5?30重量部のセメントと、0?20重量部のシリカフュームと、0?50重量部のフライアッシュと、42?75重量部の高炉スラグと、を混合して100重量部の混合材を製造することを特徴とする混合材の製造方法。」 また、「下記の刊行物」は、平成26年11月7日付け拒絶理由通知書で引用された「引用文献1」、すなわち、特開平10-152364号公報(以下、「引用例1」という。)である。 第4 引用例に記載された事項 1 引用例1に記載された事項 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布されたことが明らかな引用例1は、【発明の名称】を「製鋼スラグを利用した水和硬化体」とする特許文献であって、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加したものである。以下同じ。) ア 特許請求の範囲 (引用例1-1) 「【請求項1】 製鋼スラグを含有する骨材と、潜在水硬性を有するシリカ含有物質とポゾラン反応性を有するシリカ含有物質のうち1種または2種を50重量%以上含有する水和反応によって硬化する結合材とを有してなることを特徴とする製鋼スラグを利用した水和硬化体。」 イ 発明の詳細な説明 (引用例1-2) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、製鉄所の副産物の一つである製鋼スラグの有効利用法、詳しくは製鋼スラグを利用したコンクリートやモルタルのような水和硬化体に関する。」 (引用例1-3) 「【0015】潜在水硬性を有するシリカ含有物質に高炉水砕スラグを用い、かつその結合材中の含有量を55重量%以上にすれば、オートクレーブ処理しても大幅な強度低下が起こらない。 【0016】ポゾラン反応性を有するシリカ含有物質として、フライアッシュおよび/またはシリカフュームを用いることは、CaOの水和反応を抑制する上でより効果的である。しかし、その結合材中の含有量が20重量%を超えると、水和硬化体のワーカビリティーが低下するばかりでなく、強度低下も起こるので、その含有量を20重量%以下にすることが好ましい。」 (引用例1-4) 「【0026】 【実施例】 (実施例1)まず、蒸気エージング処理され水浸膨張比が0.5%の転炉スラグからなる骨材(細骨材と粗骨材)に、セメントからなる結合材と水を表1に示す割合で配合した基準試料No.1を作製した。そして、試料No.1の結合材をブレーン比表面積4000cm^(2) /gの高炉水砕スラグ微粉末で25?100重量%置換させたり、フライアッシュまたはシリカフュームで50重量%置換させて試料2?10を作製した。 【0027】そして、作製後28日が経過した時点で、JIS A 1108にしたがって圧縮強度を測定した。また、作製後28日が経過した試料を180℃で5時間のオートクレーブ処理した後の圧縮強度も測定した。」 (引用例1-5) 「【0034】(実施例2)表1に示す基準試料No.1の結合材を高炉水砕スラグ微粉末とフライアッシュとシリカフュームが種々の割合で配合された混合物で置換した試料No.11?19を作製し、実施例1と同様な試験を行った。なお、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームはいずれも実施例1で用いたものと同じものである。 【0035】結果を表3に示す。高炉水砕スラグ微粉末とフライアッシュとシリカフュームが種々の割合で配合された混合物の置換量が50重量%以上であれば、作製後28日経過しても亀裂が発生することなく、また、オートクレーブ処理により破壊することもないことがわかる。強度的にも水和硬化体として問題ない。」 (引用例1-6) 2 引用例1に記載された発明 引用例1は、「水和反応によって硬化する結合材」(引用例1-1)等に関して記載するものであって、具体的には、試料No.17に関する記載から、 「10重量%のセメントと、15重量%のシリカフュームと、15重量%のフライアッシュと、60重量%の高炉水砕スラグ微粉末とからなる結合材の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 第5 当審の判断 1 本願発明と引用発明との一致点・相違点 引用発明の「高炉水砕スラグ微粉末」、「結合材」は、それぞれ本願発明の「高炉スラグ」、「混合材」に相当する。 また、「重量%」は100重量部の結合材における「重量部」に相当するから、引用発明の「重量%」は本願発明の「重量部」に相当する。 さらに、両者の「セメント」、「シリカフューム」、「高炉スラグ」の使用量は、順に、「10重量部」、「15重量部」、「60重量部」において重複する。 なお、本願発明の「混合して」は発明の詳細な説明の記載からみて、「混合材を予め製造する」、つまり、「プレミックス」によって製造することといえる。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「10重量部のセメントと、15重量部のシリカフュームと、フライアッシュと、60重量部の高炉スラグとから100重量部の混合材を製造する混合材の製造方法」である点で一致し、以下のA、Bの点(以下、各々「相違点A」、「相違点B」という。)で相違する。 相違点A:フライアッシュの含有量に関し、本願発明が0?14重量部と特定するのに対し、引用発明は15重量部である点。 相違点B:本願発明は、セメントと、シリカフュームと、フライアッシュと、高炉スラグとを「混合して」、すなわち、「混合材」を予め製造するプレミックスによって「混合材を製造」しているのに対し、引用文献1には、プレミックスを行うことが記載されていない点。 2 相違点についての判断 (1)相違点Aについて (引用例1-3)には、「【0016】ポゾラン反応性を有するシリカ含有物質として、フライアッシュおよび/またはシリカフュームを用いることは、CaOの水和反応を抑制する上でより効果的である。しかし、その結合材中の含有量が20重量%を超えると、水和硬化体のワーカビリティーが低下するばかりでなく、強度低下も起こるので、その含有量を20重量%以下にすることが好ましい。」と記載されており、また、(引用例1-6)には、フライアッシュとシリカフュームの両方を導入する際に、それぞれの結合材中の含有量が20重量部以下であれば、合計量が20重量部以上となる場合も許容されていることが記載されている(試料No.17参照)から、引用例1には、結合材中のフライアッシュとシリカフュームの合計量ではなく、それぞれの含有量が20重量部以下にすることが記載されているといえる。 そして、引用例1において、圧縮強度等を考慮しつつ、フライアッシュの含有量を変更することは当業者であれば容易に想到し得る事項であり、例えば、試料No.18に記載されているように、フライアッシュを10重量部とすることや、フライアッシュを試料No.17の15重量部の極近傍である14重量部とすることに格別の困難性はない。 ちなみに、フライアッシュを10重量部?14重量部と変更した場合、フライアッシュの減量分を他の材料のいずれに分配したとしても、本願発明の範囲内である。 また、フライアッシュを0?10重量部とし、フライアッシュの減量分をシリカフュームが20重量部を越えない範囲で、高炉スラグ及びセメントが本願発明の範囲を満たすように各材料を分配することにも格別の困難性はない(例えば、高炉スラグを65重量部、シリカフュームを20重量部、セメントを15重量部とすること等)。 よって、相違点Aに係る構成は、引用例1に接した当業者が容易になし得るところである。 (2)相違点Bについて 後記ア?ウによれば、混合材製造分野においては、構成成分の配合比率を適正に管理し、品質安定性を高めるために、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及び高炉スラグ等の材料を予めプレミックスした混合物を作成することは本願の出願前から周知の技術(以下、「周知技術」という。)であると認められる。 したがって、引用発明においても、配合比率の適正管理、品質安定性の向上を図って、プレミックスを適用することに格別の困難性はない。 よって、相違点Bに係る構成も、引用例1に接した当業者が容易になし得るところである。 ア 周知例2(特開2008-273811号公報) 本願出願日前に頒布されたことが明らかな周知例2は、【発明の名称】を「水硬性組成物」とする特許文献であって、以下の事項が記載されている。 (周知例2-1) 「【0011】 本発明の水硬性組成物では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましく、このため樹脂成分については、粉末状の再乳化形樹脂粉末を使用する。」 (周知例2-2) 「【0019】 本発明の水硬性組成物は、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことが好ましい。 さらに、本発明の水硬性組成物は、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を含むことが、速やかな硬化特性と低収縮性を安定して得られることから特に好ましい。」 (周知例2-3) 「【0025】 本発明の水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることや、低コストで長期強度を増進させることができる。 水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10?200質量部、より好ましくは20?180質量部、さらに好ましくは30?150質量部、特に好ましくは40?120質量部とするのが好ましい。」 イ 周知例3(特開2009-132545号公報) 本願出願日前に頒布されたことが明らかな周知例3は、【発明の名称】を「セメントプレミックス製品」とする特許文献であって、以下の事項が記載されている。 (周知例3-1) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリオレフィンフィルムを用いて包装されたセメントと微粉末を含有してなるセメントプレミックス製品に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、硬化前には、自己充填性(優れた流動性と材料分離抵抗性)を有し、施工性に優れるとともに、硬化後には、機械的特性(圧縮強度、曲げ強度等)に優れる水硬性組成物が提案されている(特許文献1)。該水硬性組成物は、セメントと、BET比表面積が5?25m^(2)/gの微粉末を含有するものであり、混練時の計量の手間の低減や計量誤差による品質変動を防ぐ等の目的で、予めセメントとBET比表面積が5?25m^(2)/gの微粉末を混合したセメントプレミックス製品が多く使用されている。 【特許文献1】特開2002-338324号公報」 (周知例3-2) 「【0016】 BET比表面積が5?25m^(2)/gの微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ、石灰石粉末等が挙げられる。一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5?25m^(2)/gであり、粉砕等をする必要がないので、本発明の微粉末として好適である。また、被粉砕性や流動性等の観点から、石灰石粉末も本発明の微粉末として好適である。 上記微粉末のBET比表面積は、5?25m^(2)/g、好ましくは6?15m^(2)/gである。該値が5?25m^(2)/gの範囲外では、自己充填性を有し、施工性に優れるとともに、硬化後には、機械的特性に優れる水硬性組成物を調製することが困難になる。 上記微粉末の配合量は、セメント100質量部に対して5?40質量部、好ましくは10?40質量部である。配合量が5?40質量部の範囲外では、自己充填性を有し、施工性に優れるとともに、硬化後には、機械的特性に優れる水硬性組成物を調製することが困難になる。 【0017】 本発明のセメントプレミックス組成物においては、ブレーン比表面積が3500?10000cm^(2)/gの無機粉末を含有することができる。該無機粉末を含有することにより、硬化前の流動性や硬化後の機械的特性が向上する。無機粉末としては、セメント以外の無機粉末であり、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、フライアッシュ、石灰石粉末、石英粉末は、コストの点や硬化後の品質安定性の点で好ましく用いられる。」 ウ 周知例4(特開2003-160174号公報) 本願出願日前に頒布されたことが明らかな周知例4は、【発明の名称】を「セメントプレミックス製品」とする特許文献であって、以下の事項が記載されている。 (周知例4-1) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、主に土木・建築分野で使用される、包装された結合材と骨材を含有してなるセメントプレミックス製品に関する。」 (周知例4-2) 「【0009】本発明におけるセメントとしては、普通、早強等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュ等を混合した各種混合セメント、及び低熱ポルトランドセメント等が使用できる。」 (周知例4-3) 「【0013】なお、本発明の結合材と骨材からなるセメントプレミックス組成物には、従来から添加されている混和材(例えば、微粉高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微分、及び粘土鉱物等)、セメント急硬材、可塑剤、繊維材料、収縮低減剤、増粘剤、消泡剤、防錆剤、高分子エマルジョン、発泡剤、凝結遅延剤、及び凝結促進剤等のうち一種又は二種以上を、本発明の目的に影響しない範囲で配合することができる。」 3 本願発明の効果について ア 平成26年12月15日付けの手続補正について 平成26年12月15日付けの手続補正は、本件補正前の請求項1の「0?50重量部のフライアッシュ」を「0?14重量部のフライアッシュ」とする補正(以下、「補正1」という。)、及び、「42?75重量部の高炉スラグ」を「51?69重量部の高炉スラグ」とする補正(以下、「補正2」という。)である。 イ 本願明細書の記載 本願明細書には、以下の点が記載されている。 (本願明細書1) 「【0015】 このような混合材の製造方法によれば、0?20重量部のシリカフュームと、0?50重量部のフライアッシュと、42?75重量部の高炉スラグとの3種類の材料のうちの少なくとも2種類の材料を混合した混合材を提供することが可能である。このような混合材は、例えば地盤改良のために地盤に混合する混合材としても適している。また、混合材には、CO_(2)の排出量の低減と強度発現と品質確保との両立を図ることのできるセメント組成物の製造に適した量のシリカフューム、フライアッシュ、及び、高炉スラグの少なくとも2種類の材料が含まれるので、全ての材料に対して各々個別に貯蔵するためのサイロ等の収容器を必要としない。このため、貯蔵スペース及びコストを低減することが可能である。また、シリカフューム、フライアッシュ、及び、高炉スラグの少なくとも2種類の材料を混合するので、少なくとも2種類の材料は予め工場等にて混合することが可能である。このため、工場等の設備を用いることにより正確に材料を計量することができ、全ての材料を生コンプラントにて混合する場合より高い品質が確保されるとともに均一な品質を備え、汎用性に優れた混合材を提供することが可能である。また、既に混合された混合材を使用するので、生コンプラントにおける練り混ぜ時間を短縮することが可能である。さらに、例えばセメントとともに地盤に混合して地盤改良することが可能な混合材を製造することが可能である。」 (本願明細書2) 「【発明の効果】 【0019】 本発明によれば、CO_(2)の排出量の低減と強度発現と品質確保との両立を図ることのできるセメント組成物の製造に適した混合材の製造方法、及び、セメント組成物の製造方法を提供することが可能である。」 (本願明細書3) 「【0023】 そこで、本実施形態では以下に示すような検討により、CO_(2)の低減とコンクリートのフレッシュ性状及び強度発現のバランスを考慮した材料構成のコンクリートの開発を行った。以下の説明では、試験を実施した、配合割合等が互いに異なるコンクリートの各サンプルをサンプル番号(サンプルNo.)にて示し、各表における各サンプルに対する条件と結果とを対応付けている。 【0024】 (1)結合材の使用割合の検討: 前述したようにCO_(2)排出量の多いセメントの使用量を極力少なくし、CO_(2)排出量の少ない結合材を増やすようにした。本実施形態では、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームを結合材として用いた。但し、結合材は、CO_(2)排出の他に強度発現やフレッシュ性状に影響するため、セメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、水の使用割合のバランスを検討した。 本実施形態では、セメントとして普通ポルトランドセメントと耐硫酸塩ポルトランドセメントとについて検討し、シリカフュームとしては、フェロシリコン起源のシリカフュームとジルコニア起源のシリカフュームについて検討し、フライアッシュとしては、JISA6201により規定されたフライアッシュI種とフライアッシュII種とについて検討した。」 (本願明細書4) 「【0026】 (3)水量の検討: CO_(2)を低減するにはセメントを含む結合材の量を低減することが有効である。一方、強度は水結合材比(水量と結合材量の割合)に依存する。従って、結合材の量を低減させる場合の水量(単位水量)も併せて検討した。」 (本願明細書5) ウ 審判請求書における主張について 審判請求書には、本発明の効果に関して、以下の点が記載されている。 (主張1) 「本願の目的は、当初明細書の段落[0005]に記載されているとおり、「CO2の排出量の低減と強度発現と品質確保との両立を図ることのできるセメント組成物の製造に適した混合材の製造方法及びセメント組成物の製造方法を提供することにある。」であり、平成26年12月15日付け意見書に記載されているとおり、「CO2の排出量の低減を目標とし、セメント量を減らした低炭素型のセメント組成物を、バランスのとれた結合材(混合材)配分で安定的に供給するために、結合材(混合材)をプレミックス化することを目的としたものであり」、出願時も補正後も変わりません。 本願発明の本質は、上記目的を達成する「セメント」「シリカフューム」「フライアッシュ」「高炉スラグ」の4つの結合材のバランス配合にあり、このバランス配合を実効化する各結合材の数値範囲を規定したところに意義があります。」 (主張2) 「本願発明の4つの結合材は、水和反応により以下の効果を奏します。 「セメント」は、水和反応により水酸化カルシウムを生成し、強度発現に寄与するとともに、アルカリ性を付与するが、下限値より少ないと強度発現不足と中性化問題を生じ、上限値を超えると、CO2の排出量の低減効果が減じます。 「シリカフューム」は、流動性を付与し、28日を超える長期の強度発現に寄与するが、上限値を超えると、セメントが相対的に減じ、28日圧縮強度にあまり寄与しません。 「フライアッシュ」も、流動性を付与し、28日を超える長期の強度発現に寄与するが、上限値を超えると、セメントが相対的に減じ、28日圧縮強度にあまり寄与しません。 「高炉スラグ」は、潜在水硬性を有しているため、セメントの水和反応により生成された水酸化カルシウム(アルカリ性)に刺激されて強度発現に寄与するが、下限値より少ないと、高炉スラグ不足に伴う上記のアルカリ刺激反応の減少による強度発現不足を生じ、上限値を超えると、セメントが相対的に減じ、セメント水和反応不足と、高炉スラグ過剰・セメント減少による上記のアルカリ刺激反応の減少による強度発現不足と中性化問題を生じます。 上記の効果は、各々の結合材の個別の性質に基づく効果(以下、「絶対的効果」という)と、その結合材自身が100%ではなく、限定的な数値範囲を持つことで他の結合材の「絶対的効果」に依存する効果(以下、「相対的効果」という)と、を有し、「絶対的効果」と「相対的効果」を合わせた効果(以下、「総合的効果」という)により、上記目的を達成しています。 」 (主張3) 「ここで、審査官殿は「実施例の近傍及び文献1、2に記載の範囲内で配合比を調整することに格別の困難性は見出せない。」と主張致しますが、上述のとおり、本願発明の本質は、上記目的を達成する「セメント」「シリカフューム」「フライアッシュ」「高炉スラグ」の4つの結合材のバランス配合にあり、このバランス配合を実効化する各結合材の数値範囲を規定したところに意義があり、その各結合材の数値範囲の規定により、上述の「絶対的効果」と「相対的効果」を合わせた「総合的効果」により、上記目的を達成したことに進歩性を有すると思料します。 なお、当初請求項1は、セメントと高炉スラグの2成分、セメントとシリカヒュームと高炉スラグ、または、セメントとフライアッシュと高炉スラグの3成分、セメントとシリカヒュームとフライアッシュと高炉スラグの4成分を範囲としていたが、上記補正により、セメントとシリカヒュームと高炉スラグ、または、セメントとフライアッシュと高炉スラグの3成分、セメントとシリカヒュームとフライアッシュと高炉スラグの4成分を範囲とするものに限定されました。 上記補正は、「絶対的効果」を限定して明確化しつつ、その比重を減少して自由度を減じ、「相対的効果」への依存度を高めて明確化しつつ、その比重を増加して自由度を高め、結果として「総合的効果」を明確化するものであり、言い換えれば、上記目的を達成する「セメント」「シリカフューム」「フライアッシュ」「高炉スラグ」の4つの結合材のバランス配合を実効化する各結合材の数値範囲を規定した臨界的意義は、従来技術にないものであり、進歩性を有すると思料します。」 エ 本願発明の効果についての検討 前記アのとおり、補正1によって、フライアッシュが0?14重量部、補正2によって高炉スラグが51?69重量部と限定する補正がなされた。 前記イのとおり、高炉スラグが51?69重量部となるサンプルはNo.10?22、25?31が対応しているが、フライアッシュが0?14重量部となるサンプルは一切記載されていない。 ここで、本願明細書の【0019】、【0023】には、「CO_(2)の排出量の低減」、「強度発現」及び「品質確保」をバランスよく満たすことが効果としてあげられていると認められる。 本願明細書の【0024】、【0026】等の記載からみて、セメントの少ない結合材を用いることで、「CO_(2)の排出量の低減」が図られることが記載されているものと認められるが、引用発明も本願発明と同程度のセメント量であることからみて、「CO_(2)の排出量の低減」は引用発明でも奏される効果と推認される。 また、スラグ、フライアッシュ及びシリカフュームがセメントの強度に寄与することは周知の技術的事項(例えば、引用例1、本願明細書で先行技術文献としてあげられた特許3844457号の【0017】?【0018】等)であり、これらを含むセメントの強度発現の効果は当業者が予測し得るものである。 さらに、「品質保証」は、本願明細書の【0015】等の記載からみて、予め混合(プレミックス)することによる効果であり、プレミックスによって品質管理が可能となることは、「(2)相違点Bについて」に記載したように周知の技術であり、当業者が予測し得るものである。 してみると、本願発明において、「CO_(2)の排出量の低減」、「強度発現」及び「品質確保」についての「定性的な効果」、つまり、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及び高炉スラグを用いることの効果は認められるが、引用例1にも、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及び高炉スラグを用いることが記載されており、本願発明は、引用例1に対して格別顕著な「定性的な効果」が認められない。 さらに、本願明細書には、フライアッシュが0?14重量部となるサンプルは一切記載されていないため、「CO_(2)の排出量の低減」、「強度発現」及び「品質確保」をバランスよく満たすセメント組成物の製造に適した「混合材の製造方法」について、実施例による実証がなく、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及び高炉スラグを本願発明で規定された範囲とすることの「定量的な効果」も認められない。 したがって、本願発明の効果は、引用例1、周知技術を考慮すると格別顕著な効果とはいえない。 なお、請求人は審判請求書において、(主張1?3)を主張しているが、いずれの主張も各成分の数値範囲のバランスによる意義を主張するものと認められるところ、実施例による裏付けがなく、主張は前提を欠くものである。 4 まとめ 以上を総合すれば、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。 第6 むすび 以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第1項第2号に該当し、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-24 |
結審通知日 | 2016-06-28 |
審決日 | 2016-07-13 |
出願番号 | 特願2010-232963(P2010-232963) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C04B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 永田 史泰 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
山本 雄一 板谷 一弘 |
発明の名称 | 混合材の製造方法及びセメント組成物の製造方法 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |