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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G05B
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G05B
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  G05B
管理番号 1318809
審判番号 無効2015-800076  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-27 
確定日 2016-08-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第5565623号発明「入出力モジュール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5565623号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯


特許第5565623号(以下、「本件特許」という。)は、平成22年8月5日に出願されたものであって、平成26年6月27日に請求項1に係る発明について設定登録され、その後、平成27年3月27日に請求人佐藤 義光から特許無効審判が請求されたものである。以下、特許無効審判が請求された以後の経緯を整理して示す。

平成27年 3月27日 審判請求

同 年 6月15日 訂正請求書、及び審判事件答弁書(被請求人 )の提出

同 年 7月29日 審判事件弁駁書(請求人)の提出

同 年 10月 7日付け 審理事項通知書

同 年 11月 4日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出

同 年 11月 6日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出

同 年 11月20日 口頭審理

同 年 12月 1日 上申書(請求人)の提出

平成28年 1月29日付け 審決の予告

同 年 4月 7日 訂正請求書及び上申書(被請求人)の提出

同 年 5月23日 審判事件弁駁書(請求人)の提出


第2 訂正の適否についての当審の判断

1 訂正の内容

被請求人は、審判長が特許法第164条の2第2項に規定する訂正を請求するために指定した期間内である平成28年4月7日に訂正請求書を提出し、特許第5565623号の明細書、特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを求めた(以下、「本件訂正」という。)。
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に
(a)「複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュール」とあるのを、「複数の外部接続端子および複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュール」とし、
(b)「前記ユーザインタフェースは、アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせたことを特徴とする」とあるのを、「前記ユーザインタフェースは、それぞれ複数の入出力信号処理系統を有し、各入出力信号処理系統がそれぞれ共通の外部接続端子に接続されたアナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせ、定義されたモジュールの機能にしたがって、組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について、複数の機能を同時有効可能な態様で個別に有効/無効にする制御部を具備したことを特徴とする」と
訂正する。

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0011】に
「複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュールにおいて、
前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け、
前記モジュールの機能は、モジュール単位または複数の入出力信号処理系統について個別に定義し、
前記ユーザインタフェースは、アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせたことを特徴とする」
とあるのを、
「複数の外部接続端子および複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュールにおいて、
前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け、
前記モジュールの機能は、モジュール単位または複数の入出力信号処理系統について個別に定義し、
前記ユーザインタフェースは、それぞれ複数の入出力信号処理系統を有し、各入出力信号処理系統がそれぞれ共通の外部接続端子に接続されたアナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせ、定義されたモジュールの機能にしたがって、組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について個別に有効/無効にする制御部を具備したことを特徴とする」
に訂正する。

2 訂正の適否についての判断

(1) 訂正事項1

ア 訂正の目的について

訂正事項1は、
(a)では、訂正前の請求項1の特定事項とされた「複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュール」に対して、「複数の外部接続端子」をも「設けられた」対象に加えることを更に付加するものであり、
(b)では、
(b-1)訂正前の請求項1の特定事項とされた「アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能」に対して、「それぞれ複数の入出力信号処理系統を有し、各入出力信号処理系統がそれぞれ共通の外部接続端子に接続された」とする事項を付加することとされ、
(b-2)訂正前の請求項1の特定事項とされた「前記ユーザインタフェース」に対して、「定義されたモジュールの機能にしたがって、組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について、複数の機能を同時有効可能な態様で個別に有効/無効にする制御部を具備した」ことを付加することとされ、
いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 新規事項追加の有無

訂正事項1のうち、(a)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)の明細書段落【0017】の「アナログ入出力モジュール5は、バスインタフェース回路50とユーザインタフェース51と外部接続端子52で構成されていて」という記載、【0026】の「なお、上記実施例では、ユーザインタフェース51がアナログ出力系統とアナログ入力系統により構成されている例について説明したが、これに限るものではなく、たとえばON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信機能などを組み合わせるようにしてもよい。」という記載、【図1】の図示で、外部接続端子52とされる箇所が2箇所図示されていることに基づくから、新たな技術的事項を導入する訂正ではない。
(b)の(b-1)は、特許明細書等の段落【0018】の「なお、アナログ出力回路512とアナログ入力回路513にはそれぞれ複数の信号処理系統が設けられていて、各信号処理系統はそれぞれ共通の外部接続端子52に接続されている。」という記載、段落【0026】の「なお、上記実施例では、ユーザインタフェース51がアナログ出力系統とアナログ入力系統により構成されている例について説明したが、これに限るものではなく、たとえばON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信機能などを組み合わせるようにしてもよい。」という記載に基づくから、新たな技術的事項を導入する訂正ではない。
また、(b-2)は、特許明細書等の段落【0020】の「制御回路511は、メモリ510のリード/ライトを制御するとともに、メモリ510に格納されているアナログ入出力モジュール5の機能定義データにしたがって、各信号処理系統について個別にアナログ出力回路512および/またはアナログ入力回路513を有効/無効にする。」という記載によれば、「制御回路511」を、訂正事項1に含まれる「ユーザインタフェース」が「具備する」とされる「制御部」に相当し、「メモリ510に格納されている」「機能定義データにしたがって」を、訂正事項1に含まれる「定義されたモジュールの機能にしたがって」に相当するものと考えた場合、上記(b-2)の訂正内容の一部である、
「定義されたモジュールの機能にしたがって、(組み合わされた)前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について、複数の機能を(同時有効可能な態様で)個別に有効/無効にする制御部を具備した」(括弧部分は非対応であることを示す)
がサポートされているということができるものの、これ以外、すなわち括弧書きで非対応とした内容である、
「2つの機能」が「組み合わされた」とする場合であり、かつ、「複数の機能を同時有効可能な態様で個別に有効/無効にする」とした点は、段落【0020】には開示されていない。
ただし、特許明細書等には、「2つの機能」を「同時有効」の「態様」、すなわち「組み合わされた」に該当する形で用いた開示が一例だけ存在しており、段落【0021】?【0024】に記載された、「2つの機能」が「デジタル入力アナログ出力機能」と「アナログ入力デジタル出力機能」の2つとした態様の箇所である。そして、この特別な2つの組み合わせ機能例以外に、本件特許明細書には組み合わせの開示はなく、これ以外の機能への拡張を示す示唆は見当たらない。
以上を総合すると、2つの機能を同時有効の態様とするべく組み合わせる場合を考えた場合、選択候補として「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」を候補に入れた内容は、特許明細書等には存在しないこととなり、訂正事項1に(b-2)として含むまれる内容は、特許明細書等に基づいた内容であるとは認められない。

そうすると、訂正事項1は特許明細書等に記載した事項の範囲内とされない(b-2)に係る訂正を含むものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するとはいえない。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否

訂正事項1は、発明特定事項を形式的には直列的に付加するものではあるものの、訂正の対象とされた「前記ユーザインターフェース」に対して、「同時有効」とされる「機能」の組み合わせを特許明細書等に記載した事項の範囲から拡張することを含むから、実質上特許請求の範囲を拡張するものに該当し、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではない。

(2) 訂正事項2

ア 訂正の目的について

訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0011】に記載した
「複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュールにおいて、
前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け、
前記モジュールの機能は、モジュール単位または複数の入出力信号処理系統について個別に定義し、
前記ユーザインタフェースは、アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせたことを特徴とする。」を、
「複数の外部接続端子および複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュールにおいて、
前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け、
前記モジュールの機能は、モジュール単位または複数の入出力信号処理系統について個別に定義し、
前記ユーザインタフェースは、それぞれ複数の入出力信号処理系統を有し、各入出力信号処理系統がそれぞれ共通の外部接続端子に接続されたアナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせ、定義されたモジュールの機能にしたがって、組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について個別に有効/無効にする制御部を具備したことを特徴とする」
に訂正するものである。

よって、当該訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

イ 新規事項追加の有無

訂正事項2は、上記「(1) 訂正事項1」の「イ 新規事項追加の有無」からみて、上記と同様に新たな技術的事項を導入するものである。よって、この訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではない。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否

訂正事項2は、上記「(1) 訂正事項1」の「ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否」からみて、上記と同様に実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではない。

エ 被請求人の主張について

被請求人は、訂正事項1の(b)に関する訂正について、平成28年4月7日付け訂正請求書の「エ 訂正の原因」の「a 訂正事項1」の「(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること」の、特に「3)」欄にて、「前記ユーザインタフェースは、それぞれ複数の入出力信号処理系統を有し、各入出力信号処理系統がそれぞれ共通の外部接続端子に接続されたアナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせ、定義されたモジュールの機能にしたがって、組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について、複数の機能を同時有効可能な態様で個別に有効/無効にする制御部を具備したことを特徴とする」との訂正の根拠として、段落【0020】の記載、および段落【0022】の記載を示しつつ、特許明細書等に記載した事項の範囲内であると主張する。
しかし、被請求人が根拠として示した段落【0020】の「制御回路511は、メモリ510のリード/ライトを制御するとともに、メモリ510に格納されているアナログ入出力モジュール5の機能定義データにしたがって、各信号処理系統について個別にアナログ出力回路512および/またはアナログ入力回路513を有効/無効にする。」の記載は、「各信号処理系統」の「有効/無効」を、“個別に”することを示すに留まり、「有効」にされる「機能」が、“組み合わされた”関係にあるかは明らかとされていないこととなる。また段落【0022】の「アナログ入力回路513の該当する信号処理系統も同時に有効にしておく」の記載は、当該記載の直前及び直後の記載を併せ見ると、一方でデジタル入力アナログ出力回路512を有効とした上で、同時に共通端子に接続されているアナログ入力デジタル出力回路513を有効とするとした態様を示すものであり、係る態様を採用した場合には、PLCの外部接続端子52からアナログ出力される信号を、有効とされたアナログ入力回路513を介して「保存」し、「CPUモジュール4に伝える」ことが、追加的に(【0022】「・・・伝えることもできる。」参照)可能とされることを示すものである。ただし、「機能」の「組み合わせ」を開示する箇所はこれらの2箇所の記載に直接言及した箇所に留まり、他の機能に関して少なくとも2つの機能を組み合わせることは、特許明細書等全体を見ても予定されたものではなく、むしろ「有効/無効」にすることを、“個別に”(【0020】、【0025】参照)、“自由に定義して使用”(【0025】参照)するとされていることを鑑みると、訂正を求める「アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせ」との事項、すなわち、組み合わせの態様として「デジタル入力アナログ出力機能」と「アナログ入力デジタル出力機能」の一例に留まらない他の2機能の組み合わせを含むとした事項を、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるものとはできない。
したがって、本件特許明細書等の段落【0020】及び【0022】の記載を根拠に、「アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせ、定義されたモジュールの機能にしたがって、組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について、複数の機能を同時有効可能な態様で個別に有効/無効にする」としたことが、本件特許明細書等に記載された事項であるとする被請求人の主張を採用することができない。

3 訂正請求についてのまとめ

以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであるものの、同条第9項により準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものではない。

よって、結論のとおり、本件訂正の請求を認めることはできない。


第3 本件発明

上記のとおり、本件訂正の請求を認めることができないから、本件無効審判の対象となっている本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの以下のものであると認める。
なお、AないしEの分説符号は、請求人が審判請求書にて便宜的に付したものを採用している。また、各分説に記載された構成を、以下「構成A」などという。

【請求項1】
A.複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュールにおいて、
B.前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け、
C.前記モジュールの機能は、モジュール単位または複数の入出力信号処理系統について個別に定義し、
D.前記ユーザインタフェースは、アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせたことを特徴とする入出力モジュール。

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法

請求人は、平成27年3月27日に、「特許第5565623号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、甲第1号証を添付して審判請求書を提出し、同年7月29日に甲第2号証を添付して弁駁書を提出(以下、「第1回弁駁書」という。)し、同年11月6日に口頭審理陳述要領書を提出し、同年12月1日に上申書を提出し、平成28年5月23日に「平成28年4月7日付け訂正請求書における訂正請求は認められないため、登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明について、特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める」とした趣旨の弁駁書を提出(以下、「第2回弁駁書」という。)している。

(無効理由1)

本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。また、仮に本件特許発明と甲1発明との間に相違点があるとしても、当該相違点は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
従って、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書5頁1?7行)
本件特許発明は、甲第1号証(以下「甲1」と略称することがある。)に記載された発明、または、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。したがって、本件特許発明は、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当し、あるいは同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。(第1回弁駁書3頁下から2行?4頁2行)

(無効理由2)

本件特許における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定された記載要件を満たしていない。
・・・(中略)・・・
従って、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書5頁9?12行、18?19行)
本件特許における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定された記載要件を満たしていない。(第1回弁駁書8頁10?12行)

(無効理由3)

また、本件特許発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。
・・・(中略)・・・
従って、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書5頁13?15行、18?19行)
本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。(第1回弁駁書9頁6?7行)

(無効理由4)

さらに、本件特許発明は明確であるとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された記載要件を満たしていない。
従って、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書5頁16?19行)
また、本件特許発明は、明確であるとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。(第1回弁駁書9頁7?9行)

そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2008-287618号公報

甲第2号証:特開平2-87204号公報


第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、「特許第5565623号の特許を維持する、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、答弁書と共に「特許第5565623号の明細書、特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」との訂正請求書を平成27年6月15日付けで提出し、同年11月4日付け口頭審理陳述要領書を提出して、本件特許は維持すべきものと主張した。
その後、審決の予告を受けて平成28年4月7日付けで訂正請求書及び上申書を提出し、該上申書にて、訂正請求が認められるとの前提で、審決の予告の「第6 無効理由に対する当審の判断」に対して意見を述べつつ、無効理由2、3、4については、平成27年6月15日付け提出の答弁書中に記載の(4)(5)(6)の通り意見するとした。
なお、前記答弁書及び前記上申書のいずれにも、訂正請求が認められない場合の意見はなされていない。

1.無効理由1について

各入出力信号処理系統に機能を割り当てる際に、本件特許発明(注:1回目の訂正請求に係る発明を指す。本審決が用いるとした「本件発明」ではない。)が、各入出力信号処理系統について個別に有効/無効とする制御を行なっており、制御対象が「組み合わされた機能の各入出力信号処理系統」であるのに対し、甲第1号証に記載された発明では、全回路を有効としたまま機器接続端子3との接続状態を切り換える制御を行なっており、制御対象が「回路選択部11」である点において、両者は相違します。
そして、この相違点により、本件特許発明は、特定の入出力信号処理系統について、異なる複数の機能を同時に有効にするという柔軟な制御が可能となる効果を奏するものであり、この相違点を埋めるための動機付けとなる記載は甲第1号証にはありません。
このため、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とは同一でなく、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて本件特許発明に想到することは当業者であっても容易ではありません。
したがいまして、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に規定する無効理由に該当しません。(答弁書4頁下から13行?5頁2行)

・・・(上申書3?5頁「(2)対比」の欄)

2.無効理由2について

本件特許の出願時である平成22年8月5日において、「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」に関するプログラマブルロジックコントローラの入出力モジュールは実用化されています。
ON/OFFのロジック信号用回路、パルスカウンタ用回路、パルス出力用回路、通信用回路自体は出願時に公知でありますので、当業者であれば、これらの回路を、本件特許の図1に示したアナログ出力回路512あるいはアナログ入力回路513と同様にユーザインタフェース51に組み込むことができます。

「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」について、入出力のどちらの機能を使用するかによって、アナログ出力回路512あるいはアナログ入力回路513に準じて適用すればよいことは、明示の記載がないとしても、当業者であれば理解することができます。出力機能であればアナログ出力回路512に準じて適用し、入力機能であればアナログ入力回路513に準じて適用すればよいことは言うまでもありません。
・・・(中略)・・・
したがいまして、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしております。(答弁書5頁10行?7頁3行)

3.無効理由3ないし4について

本件特許発明は、特許請求の範囲の記載のとおり、上述の発明特定事項A?Eを備えるものであり、(4)で示したように発明の詳細な説明には、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されています。
このため、本件特許発明は、「複数の入出力信号処理系統を有効に活用できる入出力モジュールを提供する」という課題を解決することができるものであることから、発明の詳細な説明に記載されたものであって、明確であります。よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしております。(答弁書7頁6?13行)


第6 無効理由に対する当審の判断

1.無効理由1:特許法第29条第1項第3号又は同条第2項
(1)甲号証記載事項および甲号証記載発明

(1-1)甲第1号証の記載事項及び引用発明
(下線部は、当審により付与した。)

ア.「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラマブルコントローラが備える外部配線を接続する接続端子の仕様に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生産工場等に設置されるファクトリーオートメーション(FA)の制御装置として、プログラマブルコントローラが用いられている。このプログラマブルコントローラには、複数のモジュールからなるビルディングブロックタイプがある。この複数のモジュールとしては、電源モジュール、CPUモジュール、入力モジュール、出力モジュール、通信モジュール等がある。CPUモジュールは、内部にCPU、I/Oメモリ、プログラムメモリ等を有し、このCPUは、入力モジュールで入力した信号をI/Oメモリに取り込むINリフレッシュ処理を行い、プログラムメモリ内のシーケンスプログラムに基づき演算実行し、その演算実行結果をI/Oメモリに書き込んで出力モジュールに送り出すOUTリフレッシュ処理を行い、その後、通信モジュールを介して通信ネットワーク上の他のPLCとデータ送受信を行ったり、CPUモジュールに備えられた通信ポートを介して外部のPC等とデータ送受信などを行ったりする周辺処理を行う一連の処理をサイクリックに繰り返す(例えば特許文献1参照)。入力モジュールにはセンサ等の入力機器が、出力モジュールにはアクチュエータ等の外部機器が接続される。センサ等の入力機器は制御装置の状態をセンシングしその情報を入力モジュールに入力し、アクチュエータ等の外部機器は出力モジュールからの出力に応答して制御装置を駆動する。
【0003】
以上のプログラマブルコントローラにおける入力モジュールや出力モジュールはユーザ側のセンサやアクチュエータ等の外部機器とこれらの作動電源とが接続する接続端子を有する。これら接続端子の仕様には直流出力、直流入力、交流出力、交流入力の各種仕様があり、それぞれに対応したモジュールを使用するのが一般的となっている。」

イ.「【0013】
図1を参照して実施の形態のプログラマブルコントローラは、外部配線のために、接続端子部1として、複数の電源接続端子(コモン端子)2と、所定数この例では16個の機器接続端子3と、を備える。電源接続端子2にはユーザ側の図示略の電源(直流電源、交流電源)が接続され、機器接続端子3にはユーザ側の図示略の外部機器(センサ、アクチュエータ等)が接続されている。電源接続端子2と機器接続端子3との間で電源と外部機器とが共通に接続される。ただし、図1では図解の煩雑さを避けるため電源接続端子2、機器接続端子3は同一符号を付している。
【0014】
図示略の電源は交流電源または直流電源であり、これらは後述する制御部6により直流出力仕様、直流入力仕様とされる場合は直流電源であり、交流入力仕様または交流出力仕様とされる場合は交流電源である。
【0015】
このプログラマブルコントローラは、操作部4、表示部5、制御部6、直流出力回路7、直流入力回路8、交流出力回路9、交流入力回路10、回路選択部11を有する。直流出力回路7、直流入力回路8、交流出力回路9、交流入力回路10は機器接続端子3の数に合わせて16回路ずつ備える。すなわち、1つの機器接続端子3が直流出力仕様、直流入力仕様、交流出力仕様、交流入力仕様のいずれの接続端子にもなりえるようにするためである。
【0016】
操作部4は、ユーザ操作により、各機器接続端子3を上記4つの仕様のいずれにするかを設定入力する。」

ウ.「【0019】
制御部6は操作部4からの仕様設定操作信号に応答して図2(a)では回路選択部11を制御して直流出力回路7を選択し、この直流出力回路7を機器接続端子3に接続制御する。また、制御部6は図2(b)では回路選択部11を制御して直流出力回路7、直流入力回路8、交流出力回路9を選択し、これらを機器接続端子3に接続制御する。
【0020】
直流出力回路7は図3(a)で示すように、電源接続端子2と機器接続端子3との間に直流電源12とアクチュエータ等の外部機器13とが直列接続され、直流出力回路7は、その外部機器を駆動または駆動停止する場合は接点14を駆動部15によりオンまたはオフに駆動する。図3(a)で一点鎖線内はプログラマブルコントローラ内であり、図3(b)ないし図3(d)も同様である。
【0021】
直流入力回路8は、図3(b)で示すように、電源接続端子2と機器接続端子3との間に直流電源16とセンサ等の外部機器である接点17とが直列接続され、直流入力回路8は、その接点17のオンオフを検出するフォトカプラ等の検出回路18を有し、検出回路18の検出信号を内部に出力する。
【0022】
交流出力回路9は、図3(c)で示すように、電源接続端子2と機器接続端子3との間に交流電源19とアクチュエータ等の外部機器20とが直列接続され、交流出力回路9は、その外部機器を駆動または駆動停止する場合は接点21を駆動部22によりオンまたはオフに駆動する。
【0023】
交流入力回路10は、図3(d)で示すように、電源接続端子2と機器接続端子3との間に交流電源23とセンサ等の外部機器である接点24とが直列接続され、交流入力回路10は、その接点24のオンオフを検出するフォトカプラ等の検出回路25を有し、検出回路25の検出信号を内部に出力する。
【0024】
制御部6は、CPUからなり、操作部4の操作に応じて図示略のメモリにダウンロードされている仕様プログラムを実行し、表示部5に上記表示動作を行わせると一方で、直流入力回路8や交流入力回路10からの入力信号に基づいてシーケンス制御プログラムの演算実行等を行い、その実行結果に対応して、直流出力回路7や、交流出力回路9を駆動する。
【0025】
以上のように実施の形態では、複数の接続端子2,3と、直流出力回路7と、直流入力回路8と、交流出力回路9と、交流入力回路10と、を有し、ユーザの選択操作により、上記接続端子2,3それぞれに上記回路7-10のいずれかに切り替え接続可能とされ、これら端子2,3を直流出力仕様、直流入力仕様、交流出力仕様、交流入力仕様のうちのいずれか1つの仕様または複数の仕様に、設定可能となっているので、1台でもって、端子2,3の入出力仕様をユーザが所望する仕様に設定可能にPLCモジュールを提供することができ、従来、仕様が異なるごとにそれに対応するモジュールを準備していた場合と比較してコスト削減ができる上に使い勝手が大きく向上する。」

エ.図1は、本発明の実施の形態に係るプログラマブルコントローラの回路ブロック図である(【0026】参照)とされ、図示左端から右方向へ順に、接続端子部1と、回路選択部11と、DC出力回路7?AC入力回路10、及び同じ並びで表示部5、操作部4と、制御部6とが図示され、図3は、図1のプログラマブルコントローラの接続端子に接続する各仕様の回路構成を示す図である(【0026】参照)とされ、(a)?(d)の4図が図示されている。

オ.上記摘記事項ア.には、複数のモジュールからなるビルディングブロックタイプのプログラマブルコントローラは、入力モジュール、出力モジュール等の複数のモジュールで構成されること、入力モジュール及び出力モジュールは、各々入力機器、外部機器が接続されるため、接続端子を有するとされることとの記載から、上記図示事項エ.を見た場合、甲第1号証の本発明の実施の形態に係るプログラマブルコントローラの回路構成は、接続端子部1が接続端子として認識され、制御部6がCPUモジュール相当として認識され、これら接続端子部1、制御部6間に挟まれている部分が、入力及び出力を司ることになるので、当該部分が入出力モジュールに当たる箇所と看取できる。

上記摘記事項ア.?ウ.、エ.の図示事項、及び、オ.の認定事項を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲1発明)
「プログラマブルコントローラの入出力モジュールであって、
入出力モジュールは、複数の機器接続端子と、回路選択部と、直流出力回路、直流入力回路、交流出力回路、交流入力回路のいずれも複数とされた回路とを備え、
プログラマブルコントローラは、ユーザ操作により、各機器接続端子3が直流出力仕様、直流入力仕様、交流出力仕様、交流入力仕様のいずれの接続端子にもなりえるようにする4つの仕様のいずれにするかを設定入力する操作部と、制御部とを備え、
前記制御部は、操作部からの仕様設定操作信号に応答して回路選択部を制御して、直流出力回路、直流入力回路、交流出力回路を選択し、これらの回路をそれぞれ複数の機器接続端子に個別に接続制御し、各回路を駆動することで、端子の入出力仕様をユーザが所望する仕様に設定可能にできるとした、
入出力モジュール。」

(1-2)甲第2号証の記載事項

ア.「〔発明が解決しようとする課題〕
上記従来技術は、多種多様の入出力を扱うプロセス入出力装置において、システム変更時や保守時の経済性について配慮されておらず、例えば、システム変更が行われ、入出力の種類が変わると、プロセス入出力に応じた種類のパツケージを準備し、今まで使用していたパツケージが不要になってしまうことがあつた。ディジタル計算機制御システムでは、このようなシステム改造は頻繁に行われるものであり問題であつた。また、このようなシステムでは高い信頼性が要求され、万一故障があった場合、不具合部分の保守を短時間に行えるように交換用のパツケージを準備しているが、種類の多いプロセス入出力部のものではパツケージを多数準備しておかねばならないなどの問題があつた。
本発明の目的は、多種多様のプロセス入出力に少ない種類のインターフエースパツケージで対応できるようにするため、多機能のパツケージとして欲する機能を選択して使用できるプロセス入出力装置を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的は、多種類のプロセス入出力インターフエースを1パツケージ化し、ディジタル計算機あるいは外部より信号を与えることにより機能選択することにより達成するようにした。
プロセスの入出力にはアナログ入出力、デイジタル入出力、パルス幅入出力、パルス数入出力等多数の種類があるが、計算機側の入出力は、バスインターフエースに規定されるため、同じデイジタル信号の回路構成である。プロセス側への入出力信号は、それぞれ入出力に合わせた変換を行った後コネクタでプロセスと接続される。従来技術においては、上記の回路を既製のIC等で構成するため、すべての機能を1パツケージで構成することは困難であつた。近年ではロジツクアレイやLSIで微小化することが可能で、1パツケージに乗せることは可能であるが、入出力部はコネクタ接続のため入出力の点数は制限されてしまう。そのため、機能選択回路によりコネクタへの入出力をプロセスに合わせる手段を採用した。
〔作用〕
プロセスとコネクタを介して接続するが、その入出力の種類に合わせプロセス入出力(P I/O)種別選択回路をセツトする。それによって入力信号の場合はP I/O入力回路でP I/Oの種類に合った処理を行い、データ入力ゲートを経てプロセス入出力装置へデータが送出される。また、出力信号の場合は、プロセス入出力装置からのデータがデータ出力ゲートを経てP I/O出力回路でP I/Oの種類に合つた信号に変換されてコネクタへ送出される。
P I/O種別選定回路のセツトは、スイツチや外部から信号を与え、プロセス入出力信号の種類を認識させる方法や計算機側からデータバスと制御信号を使つてセツトする方法などが考えられる。
従って、ハードウエア上は全く同じであるが、P I/O種別選定回路のセツトを変えると、異なつた信号の取り込みや異なつた信号で出力できるので、システムを変更して信号の種類が変つてもハードウエアを変える必要がなくなる。」(2頁左上欄1行?同頁右下欄2行)

イ.「〔実施例〕
以下本発明の実施例を第1図?第5図を用いて詳細に説明する。
第1図は本発明のプロセス入出力装置のデイジタル制御システムのプロセス入出力の一実施例を示す全体構成図である。第1図において、プロセスへの出力時、CPUIはメモリ2よりデータをCPUデータバス5へ乗せ、CPU制御信号6によりプロセス入出力装置3へ送出する。プロセス入出力装置3は、同様にしてデータをP I/Oデータバス7に乗せ、P I/O制御信号8によりどのプロセス入出力インターフエース4に出力するかを選定して出力する。プロセス入出力インターフエース4ではプロセスに合つた信号に変換して出力する。
入力時はプロセスからの信号をプロセス入出力インターフエース4でP I/Oデータバス7に乗せられる信号に変換し、出力時と逆の方向ヘプロセス入出力装置3を経てメモリ2ヘデータを転送する。このとき、プロセス入出力インターフエース4のハードウエアは、接続されるプロセス入力信号の種類が違つていても全く同じものであることが特徴である。
第2図は第1図のプロセス入出力装置3とプロセス入出力インターフエース4の一実施例を示す具体的構成例を示す図である。プロセス入出力装置3のデータレジスタ11はCPUデータバス5からのデータをバツフアリングしてP I/Oデータバス7へ出力する。データコントロールレジスタ10はデータをどのプロセス入出力インターフェース4へ入出力するか選択するかの信号を送出するレジスタである。入出力制御レジスタ9はデータの入出力のタイミングをとるための信号を発生し、データコントロールレジスタ10,データレジスタ11,プロセス入出力インターフエース4を制御している。
プロセス入出力インターフエース4では、出力時にはアドレスデコーダ12によりデータ出力ゲート14を開き、P I/Oデータバス7のデータをP I/O出力回路16へ送る。このときP I/O出力回路16ではP I/O種別選定回路17の信号によりプロセスに合つた信号に変換する。変換されたデータはコネクタ18を経てプロセスへ送出されるが、P I/O種別選定回路17はあらかじめプロセスの入出力に合わせた信号を設定されている。また、入力時はコネクタ18より入力されたプロセス信号をP I/O入力回路15でP I/O種別選定回路17の信号を得てP I/Oデータバス7の信号に合つたデータ変換を行い、データ入力ゲート13を経てプロセス入出力装置3へ送る。
第3図は第2図のP I/O種別選定回路17の信号セツトをCPU側で設定できるようにしたときのプロセス入出力インターフエース4の一実施例を示す構成図である。プロセスの入出力信号に合わせてあらかじめCPUからデータコントロールバス19とP I/O制御信号8の信号によりアドレスレジスタ12によりP I/O種別選定回路17を設定しておくものである。
プロセス入力には、アナログ入力、デイジタル人力、パルス入力等が、また、プロセス出力には、アナログ出力、デイジタル出力、パルス出力等があり、PI10種別選定回路17の設定により特定の入力形式あるいは出力形式のプロセス入出力インターフエースに変身できる。
第4図には従来のプロセス入出力装置の構成例を示す。プロセス入出力インターフエース4′は、図に示すように回路構成は簡単であるが、上方のものはデイジタル入力用としてしか働かないし、下方のものはデイジタル出力用でしか働かない。
第5図は第2図をさらに詳細に説明した実施例である。プロセス入出力インターフエース4をパルス入力用とする場合、P I/O種別選定回路17をパルス入力用に設定することによりデイジタル入力回路27,アナログ入力回路29,デイジタル出力回路30,パルス出力回路31,アナログ出力回路32は働かないように制御され、パルス入力回路28のみが働き、プロセス信号はコネクタ18を経てパルス入力回路28へ入力される。パルス入力回路28では、パルスカウンタ等の変換回路でCPUが取り込めるような信号に変換して、入力レジスタ24、データ入力ゲート13を経てP I/Oデータバス7へ出力される。同様にアナログ入力の場合は、アナログ入力回路29及びアナログスイッチ25を経てアナログバス33へ送出されるが、アナログ信号の場合は、デイジタル信号に変換するため、プロセス入出力装置3のA/D変換回路22を経てP I/Oデータバス7へ出力される。
プロセス出力の場合は、P I/Oデータバス7のデータはデータ出力ゲート14を経て一旦出力レジスタ26にデータセツトされる。デイジタル出力として設定されているときは、デイジタル出力回路30を経てコネクタ18よりプロセスへ出力される。パルス出力として設定されているときは、パルス出力回路31で出力レジスタ26にセツトされている数のパルスを作り、プロセスへ出力される。また、アナログ出力として設定されているときは、アナログ出力回路32でD/A変換し、プロセスへ出力される。
以上のように、P I/O種別選定回路17の設定如何によりどのようなプロセス入出力信号にも対応でき、システム変更にも柔軟に対応でき、保守用ユニットも最小限にできるため経済的効果がある。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明によれば、選択信号により多種類のプロセス入出力に対応したインターフエースが選べるので、システム改造などによりプロセス入出力が変わってもハードウエアを変える必要なく、また、一種類のプロセス入出力装置で多数のプロセス入出力に対応できるので、保守部品を大幅に低減でき、保守性が向上するという効果がある。」(2頁右下欄3行?4頁左欄16行)

(2)対比

本件発明と、甲1発明とを対比する。

本件発明の「入出力モジュール」は、本件特許明細書の【0001】に「本発明は、入出力モジュールに関し、詳しくは、プログラマブルロジックコントローラ(以下、PLCという)などに実装される入出力モジュールの改良に関するものである。」として説明されているとおり、プログラマブルロジックコントローラなどに実装される入出力モジュールであるところから見て、甲1発明の「プログラマブルコントローラの入出力モジュール」は、本件発明の「入出力モジュール」に相当する。
また、甲1発明の「入出力モジュールは、複数の機器接続端子と、回路選択部と、直流出力回路、直流入力回路、交流出力回路、交流入力回路のいずれも複数とされた回路とを備え」は、本件発明の信号処理系統に関しては、本件特許明細書の【0018】に「なお、アナログ出力回路512とアナログ入力回路513にはそれぞれ複数の信号処理系統が設けられていて、各信号処理系統はそれぞれ共通の外部接続端子52に接続されている。」と記載されているところから見て、各種信号処理回路中に「複数」の「信号処理系統」が存在する態様を含むと解されるため、本件発明の構成Aとされる「複数の入出力信号処理系統が設けられた」とする事項に相当する。
さらに、甲1発明の「ユーザ操作により、各機器接続端子3が直流出力仕様、直流入力仕様、交流出力仕様、交流入力仕様のいずれの接続端子にもなりえるようにする4つの仕様のいずれにするかを設定入力する操作部」を「プログラマブルコントローラ」が「備え」るとした点は、甲1発明の「機器接続端子」がそもそも「複数」とされ、上記第6の1.(1)(1-1)記載事項ウ.から同時に4つの機能設定がなされた態様(図2(b)参照)も示されているところから見て「設定入力」が可能な個数は明らかに単数である制限が課されないと言える上、甲1発明の操作部が「設定」する「仕様」は、明らかにプログラマブルコントローラが実行すべき「機能」と同義であるから、本件発明の構成Bとされる「前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け」かつ構成Cの「前記モジュールの機能は、」「複数の入出力信号処理系統について個別に定義し、」に相当する。

したがって、本件発明と甲1発明とは、以下の点で一致しかつ相違する。

[一致点]
複数の入出力信号処理系統が設けられた入出力モジュールにおいて、
前記モジュールの機能を定義するユーザインタフェースを設け、
前記モジュールの機能は、複数の入出力信号処理系統について個別に定義したことを特徴とする入出力モジュール。

[相違点1]
「ユーザインタフェース」に関し、本件発明では、「アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせた」としているのに対し、甲1発明の「操作部」が「設定」する「仕様」は、「直流出力仕様、直流入力仕様、交流出力仕様、交流入力仕様」の「4つの仕様」とされ、直接的には本件発明の選択肢に含まれる「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」を含むとされていない点。

[相違点2](下記表記中、“●●/▲▲”は、●●が本件発明の記載を、▲▲が甲1発明の記載を、それぞれ指す。)
「ユーザインタフェース」/「操作部」が行う、「機能」「定義」/「仕様」「設定」に関し、
本件発明は、「アナログ出力、アナログ入力、ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信を含む機能のうち、少なくとも2つの機能を組み合わせた」、すなわち、対象機能数を「少なくとも2つ」としつつ、「定義」により選ばれた「機能」同士は「組み合わせ」の関係にあるとしているのに対し、
甲1発明の「制御部」は、「操作部からの仕様設定操作信号に応答して回路選択部を制御して、直流出力回路、直流入力回路、交流出力回路を選択し、これらの回路をそれぞれ複数の機器接続端子に個別に接続制御し、各回路を駆動することで、端子の入出力仕様をユーザが所望する仕様に設定可能にできるとした」としており、「端子の入出力仕様」とされる「ユーザが所望する仕様」が「組み合わせ」に該当するか否かが直接的には明らかとされていない点。

(3)判断

上記[相違点1]、[相違点2]について検討する。

ア 相違点1に対する判断
上記相違点1に係る相違とは、プログラマブルコントローラの入出力モジュールに接続され、コントローラが処理する信号種に関係する相違である。
しかしながら、本件発明が示す機能乃至信号種であって、甲1発明で扱うことが直接示されていないとする、「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」については、いずれも当業者に周知の信号種と認められる。
周知であることを例示するものとしては、以下の文献が存在する。
上記第6の1.(1)(1-2)に記した甲第2号証には、ディジタル制御システムに関する摘記事項ア.に記載されているとおり、そもそもコントローラが処理する信号種として、相違点1に係る事項である「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」のうち、パルスカウンタ、パルス出力をも扱うとした事項が示されている(下線部を参照)。
また、本件の当初明細書の背景技術欄に【特許文献1】として掲載された、特開平8-95624号公報には、アクチュエータコントローラが周辺装置と接続された関係でコントローラが扱う信号種の中に、リミットスイッチによるON/OFFのロジック信号が含まれるとした事項が示されている。
さらに、甲1号証の背景技術欄に【特許文献1】として掲載された、特開2005-259079号公報には、図3として、PLC10が通信サーバ機能を備えつつ外部のツール30と通信する様子が図示されているように、コントローラが通信も信号種として扱うとした事項が示されている。
以上のことから、当該相違点1に係る相違は、コントローラが扱う当業者に周知の一般的な信号種を単に明記したに過ぎず、実質的な相違ではない。

イ 相違点2に対する判断
上記相違点2に係る両者の発明特定事項を子細に見ると、本件発明と、甲1発明との、各々の制御部は、以下に示す内容で制御を行っていると整理できる。
-本件発明の「ユーザインタフェース」
用いる情報は、「定義されたモジュールの機能」であり、行う動作は、「少なくとも2つの機能」の「組み合わせ」である。
-甲1発明の制御部の設定
用いる情報は、「操作部からの仕様設定操作信号」であり、行う動作は、「回路選択部を制御して、直流出力回路、直流入力回路、交流出力回路を選択し、これらの回路をそれぞれ複数の機器接続端子に個別に接続制御し、各回路を駆動する」動作である。
前記整理に従うと、当該相違点2は、用いる情報の点、行う動作の点の2点で検討し、相違が実質的なものであるか、実質的な相違であった場合であっても容易想到かの判断を行うこととなる。
まず、用いる情報の点について検討する。
既に上記「(2)対比」にて、甲1発明の「操作部」に関係した「設定」される「仕様」は、プログラマブルコントローラが実行すべき「機能」と同義であることが明らかであることを根拠として、本件発明の「定義されたモジュールの機能」に相当するとされているため、本件発明の「ユーザインタフェース」も甲1発明の「操作部」も、機能設定に用いる情報の点で見ればなんら内容が相違するものではない。
次に、行う動作について検討する。
甲1発明の制御部が行っている動作は、「仕様」の発現を得るに当たって、直流出力や直流入力や交流出力とされた個々の回路のうち、設定により選択された複数の回路を、回路選択部の制御によりそれぞれ複数の機器接続端子に個別に接続させる動作を行っている。また、最終的に設定される仕様は、機器接続端子が複数(図1、2、【0013】の例示では「16個」の例示がなされている。)あり、これら端子はすべて何らかの機能の割り当てがなされることにより、結果として必ず複数個の機能がなんらかの意図的な選択によるセットとされることとなる。そうすると、甲1発明が果たすこの状態は、機器接続端子⇔選択された個別回路⇔プログラマブルコントローラ本体に至る信号処理系統を複数確立させる作用を生じせしめることが明らかであり、複数の選択された機能、要するに少なくとも2以上の組み合わせられた機能群が個別に有効とされるものと判断される。更に加えて、被請求人は答弁書において、「少なくとも2つの機能を組み合わせたこと」に関し、無効理由2ないし4に対する答弁として、
『「ON/OFFのロジック信号、パルスカウンタ、パルス出力、通信」を組み合わせた場合、』(答弁書第6頁参照)として組み合わせの例示を示しつつ、『当業者であれば理解できます。』と答弁している。この答弁で示された、有効とされる複数の「機能」は、その組み合わせに特別な作用効果を発現するものとはなっておらず、PLCとして使用したい機能が複数有効になっていればよいとされるというべきであり、「機能の組み合わせ」との特定になんらかの特別な事情は見受けられず、甲1発明で設定される複数の仕様となんら変わるところはない。
そうすると、両者が行っている動作の点でも、なんら内容が相違するものではない。
以上により、当該相違点2は実質的な相違とは認められない。

ウ 本件発明の作用効果
本件発明が奏する効果は、本件特許明細書の【0010】に目的として記載された、複数の入出力信号処理系統を有効に活用できる入出力モジュールを提供することとされ、甲1発明の奏する効果は、端子の入出力仕様をユーザが所望する仕様に設定可能にできる点にあるとされるから、両発明が奏する効果にさしたる違いは認められない。
してみれば、本件発明の奏する効果は、甲1発明及び周知技術から予測される範囲内であって、格別なものでない。

エ 被請求人の反論について

(ア)
被請求人は、答弁書、口頭審理陳述要領書、及び口頭審理の場(第1回口頭審理調書を参照)にて、以下の(a)ないし(e)のとおり、訂正発明と甲1発明とが相違する点等を挙げ、訂正発明の新規性及び進歩性を主張しているので、念のために検討する。

(a)「本件特許発明では、各入出力信号処理系統について個別に有効/無効とすることから、特定の入出力信号処理系統について、異なる複数の機能を同時に有効にするという柔軟な制御も可能となります。・・・(中略)・・・アナログ出力から所望のデータが出力されているかどうかをアナログ入力により検証する場合等に効果的に適用することができます。」(答弁書)

(b)「3-2)甲第1号証について・・・(中略)・・・同一の機器接続端子3に異なる回路7-10を同時に接続することはできません。」(答弁書)

(c)「1つの回路を選択して接続することを前提としているため、回路7-10を、各機器接続端子3について個別に有効/無効とすることを示唆する記載もありません。」(答弁書)

(d)「しかしながら、甲第1号証に記載された発明は、いずれかの回路が選択されて接続されると、他の回路は必然的に非選択となって非接続状態になるものです。このため、甲第1号証には「択一的に接続する」ことが記載されているに過ぎず、「個別に有効/無効とする」ことは記載されていません。
さらに、請求人は、選択された回路との接続が果たされる状態を「系統」が「有効」されたものと表しておりますが、本件の接続の切り替えを伴わない「有効/無効」とは概念が異なるものです。」(口頭審理陳述要領書)

(e)訂正発明の「組み合わされた前記少なくとも2つの機能を各入出力信号処理系統について個別に有効/無効にする制御部」中の「個別に」という記載の意味は、1つの端子に2つの機能が有効にされた態様(本件明細書【0022】参照)が可能であるため、この点において、「個別」は、いわゆる「選択」とは異なる。(第1回口頭審理調書)

(イ)
しかしながら、上記(a)に係る被請求人の指摘は、特許請求の範囲の記載から把握される訂正発明の構成を根拠としたものでなく、設定登録時のとおりとされる本件発明で言う「少なくとも2つの機能の組み合わせ」について直接の関係を有さないものでもある。
強いていえば、特許明細書等に記載された、ある特定の態様を根拠とした場合に限っての有利な効果について言及したものであり、当該主張から直ちに無効理由1の当否を論じるには能わない。
また、上記(b)、(c)、及び(d)に係る指摘は、そもそも訂正発明の構成が、機器接続端子と複数の回路との結線に係る特定を伴うものではないことに加えて、必ずしも訂正発明の構成が、ある機器接続端子に対して接続される信号処理系統を択一とする甲1発明を積極的に排除できる合理的理由に欠けることから見て、訂正発明と甲1発明との相違とは無関係の主張である。そうすると、訂正が認められずに設定登録時の記載のとおりとされた本件特許発明についてその主張が妥当とされる余地がないことは明らかであり、採り上げることができない。
さらに、上記(e)に係る指摘は、訂正発明の技術的範囲に属する一態様のみに注目した場合にはじめて選択ないし択一と異なる状況が発生する限りにおいては肯首できるものの、甲1発明が訂正発明の技術的範囲に属しないことを立証したものではないし、本件特許に対する訂正が認められない状況においてはなおさら採用できない。よって、被請求人の主張はいずれも無効理由1を理由がないとする積極的な根拠とはならない。

(4)まとめ

本件発明は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび

したがって、無効理由1以外の無効理由について検討するまでもなく、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-30 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2010-175983(P2010-175983)
審決分類 P 1 113・ 841- ZB (G05B)
P 1 113・ 121- ZB (G05B)
P 1 113・ 854- ZB (G05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柿崎 拓  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
平岩 正一
登録日 2014-06-27 
登録番号 特許第5565623号(P5565623)
発明の名称 入出力モジュール  
代理人 福田 康弘  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 鳥野 正司  
代理人 津田 俊明  
代理人 瀧野 文雄  

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