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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1318815
審判番号 不服2015-11255  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-16 
確定日 2016-09-26 
事件の表示 特願2013-211608「サンプルの画分を収集しサンプルを分析するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開、特開2014- 38106、請求項の数(25)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年12月4日(パリ条約による優先権主張 平成19年12月5日、米国)を国際出願日とする特願2010-528007号の一部を平成25年10月9日に新たな特許出願としたものであって、平成26年7月18日付けで拒絶理由が通知され、同年10月21日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成27年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その後、平成28年3月4日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年8月2日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし25に係る発明は、平成28年8月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるものと認められる。
そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、分説してA)からF)の符号を付けると、以下の事項により特定される発明である。

「【請求項1】
A) クロマトグラフィーシステムでのサンプル流れ内における1つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集する方法であって、
B) クロマトグラフィーの実行中に、第1サンプル流れを形成するために、クロマトグラフィーカラムを用いて流体混合物から1つまたはそれ以上のサンプル要素を分離するステップと、
C) キャリアガスを含む第2サンプル流れを生成するステップと、
D) 前記第1サンプル流れの一部を前記第2サンプル流れに移動させるステップと、を有し、前記第2サンプル流れは少なくとも1つの破壊式検出器と流体連通しており、
E) 前記方法はさらに、クロマトグラフィーの実行中に、前記破壊式検出器から少なくとも1つの信号を生成するステップと、
F) 前記少なくとも1つの信号の変化に応答して、前記第1サンプル流れから1つ以上の成分を画分収集器内に収集するステップと、を有する、方法。」

第3 原査定の理由について

1 原査定の理由の概要

本願の請求項1ないし25に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいてその優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1.特開2004-45263号公報
引用文献2.特開2005-241580号公報

引用文献1(特に【0011】-【0019】、【図1】及びそれらに関連する記載を参照。)には、「クロマトグラフィーの実行中に、分取液体クロマトグラフ装置での試料液流れ内における1つまたはそれ以上の試料を検出および収集する方法であって、UV検出器5による検出を行う流れ(第1サンプル流れ)とELSD12による検出を行うための流れ(第2サンプル流れ)を形成し、第2サンプル流れはELSD(破壊式検出器)と流体連通しており、破壊式検出器から生成された信号の変化に応じて第1サンプル流れから成分をフラクションコレクタ(画分収集器内に収集するステップ)を有する方法」が開示されている。
同文献には、「第2サンプル流れ」が「キャリアガス」を含むことが開示されていないが、「キャリアガス」を含むサンプル流れを生成することは周知の技術であり、格別ではない。
また、引用文献2には、分離流路(第1サンプル流れ)の一部を検出流路(第2サンプル流れ)に移動させる技術が開示されており、引用文献1に開示された発明において当該技術を適用することは、当業者であれば容易に推考し得たことである。
また、引用文献1に開示されているUV検出器は、「光学吸収検出器」に相当する。
また、光学吸収検出器で2つ以上の検出応答値を生成するように、2つ以上の波長を観察することは、当業者が発明の実施にあたり適宜設計し得た事項である。

MS等の破壊式検出器による分析を行う際に、試料の移送にキャリアガスを用いることが周知であることは、例えば、特開2005-274352号公報(特に【0015】を参照)、特開2004-257786号公報(特に【0017】を参照)、特開2006-153762号公報(特に【0034】を参照)から明らかである。また、引用文献1に開示された発明において、試料をMS9やELSD12への移送にあたって何らかの移動媒質が必要なことは当然であるところ、上記周知技術であるキャリアガスを移動媒質として採用することは、当業者であれば容易に推考し得たことである。

また、新たに追加された請求項19-25に記載される事項のいずれも、当業者が発明の実施にあたり適宜設計し得たことである。

よって、請求項1-25に係る発明は引用文献1-2と上記周知技術に基づいて当業者が容易に推考し得たものである。したがって、出願人の主張は採用することができない。

2 原査定の理由の判断

(1)引用文献の記載事項

ア 引用文献1
上記引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加したものである。)。

(引1ア) 「【請求項1】
液体クロマトグラフで時間方向に成分分離させた試料を検出器とフラクションコレクタとに導入し、該検出器による検出情報に基づき前記フラクションコレクタで各成分を分画して採取する分取液体クロマトグラフ装置において、前記検出器として質量分析計を含む複数の検出手段を併設し、
a)該複数の検出手段による検出信号に基づいてそれぞれクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成手段と、
b)該複数のクロマトグラムをそれぞれ所定の閾値と比較し、それぞれ二値信号に変換する信号変換手段と、
c)該複数の二値信号に対して所定の論理演算処理を行う演算処理手段と、
d)該演算結果に基づいて前記フラクションコレクタの動作を制御する分取制御手段と、
を備えることを特徴とする分取液体クロマトグラフ装置。」

(引1イ) 「【0002】
【従来の技術】
従来より、高速液体クロマトグラフ(以下「HPLC」と略す)を始めとするクロマトグラフ装置を利用して、試料に含まれる複数の成分を分離して採取する、いわゆる分取クロマトグラフが知られている。
【0003】
図5は、HPLCを利用した分取クロマトグラフの構成の一例である。溶離液槽1に貯留されている溶離液(移動相)はポンプ2により吸引され、一定流量で試料導入部3を介してカラム4に流される。試料導入部3において移動相中に注入された試料溶液は移動相に乗ってカラム4に導入され、カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出する。紫外可視分光光度計である検出器(以下「UV検出器」と称す)5はカラム4から溶出する成分を順次検出し、検出信号を信号処理部6へと送る。UV検出器5を通った溶出液はその全量又は一部がフラクションコレクタ8に導入される。信号処理部6はUV検出器5から得られる検出信号に基づいてクロマトグラムを作成し、分取制御部7はそのクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクタ8に与える。フラクションコレクタ8はその制御信号に基づき電磁弁等を開閉し、溶出液を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する。
【0004】
従来、分取クロマトグラフの検出器としては、光学センサにフォトダイオードアレイ検出器を用いた紫外可視分光光度計が一般的に利用されていたが、近年、質量分析計(以下「MS」と略す)が検出器として利用されるようになってきている。MSでは、導入された試料に含まれる各種成分を質量数(質量/電荷)毎に分離して検出するため、たとえ複数の成分が時間的に重なっていた場合でも、質量数に着目することにより、それら成分を分離することができるという利点がある。従って、検出器としてMSを利用した液体クロマトグラフ質量分析装置(以下「LCMS」と略す)により分取を行えば、従来よりも高精度な分取が可能となる。」

(引1ウ) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、HPLCでは、従来より、検出器としてMSのほかにUV検出器や蒸発光散乱検出器(以下「ELSD」と称す)などを併用したマルチ検出を行うことも多い。・・・」

(引1エ) 「【0016】
【実施例】
以下、本発明の一実施例である分取液体クロマトグラフ装置(以下「分取LC」と略す)を、図面を参照して説明する。図1は本実施例の分取LCの要部の構成図である。なお、図5、図6と同一の構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
【0017】
この実施例の分取LCでは、カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方はMS9及びELSD12に送られ、他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られる。UV検出器5、MS9及びELSD12という3種類の検出器による検出信号は、所定の処理プログラムが搭載されたパーソナルコンピュータ(図中では「PC」と略す)20などで具現化される信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいてクロマトグラムが作成される。これらクロマトグラムは二値信号変換部22に与えられ、それぞれ所定の閾値と比較することによって「0」及び「1」の二値信号に変換される。論理演算部23はその3つの二値信号のうちの少なくとも2つに対して、予め設定された論理演算を実行し、その結果を分取制御部7へと送る。また、入力設定部30はパーソナルコンピュータ20に付設されており、オペレータの操作によって、二値信号変換部22における閾値や論理演算部23における演算式を含む、各種の分析処理条件が入力設定できるようになっている。」

(引1オ) 「図1



(引1カ) 上記(引1ア)ないし(引1オ)を含む引用文献1全体の記載を総合し、方法の発明として整理すると、引用文献1には、次のような発明(以下、引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「a) 分取液体クロマトグラフ装置において、
b) 溶離液槽1に貯留されている溶離液(移動相)はポンプ2により吸引され、
c) 一定流量で試料導入部3を介してカラム4に流し、
d) 試料導入部3において移動相中に注入された試料溶液は移動相に乗ってカラム4に導入され、
e) カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出し、
f) カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方は質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12に送られ、他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られ、
g) UV検出器5、質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12という3種類の検出器による検出信号は、信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいてクロマトグラムが作成され、
h) UV検出器5を通った溶出液はその全量又は一部がフラクションコレクタ8に導入され、
i) 分取制御部7はそのクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクタ8に与え、
j) フラクションコレクタ8はその制御信号に基づき電磁弁等を開閉し、
k) 溶出液を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する、
方法。」

イ 引用文献2
上記引用文献2には、以下の記載がある(下線は当審において付加したものである。)。

(引2ア) 「【請求項1】
試料を注入するインジェクションポートと試料を成分に分離する分離カラムを流路上に備えて、前記インジェクションポートに注入された試料を移動相とともに前記分離カラムに移送して成分に分離する分離流路と、
検出器を流路上に備えて試料成分を前記検出器に導き試料成分の検出を行なう検出流路と、
前記分離流路の分離カラムの下流側及び前記検出流路の検出器の上流側でこれらの流路間に接続され、前記分離流路から溶出液の一部を前記検出流路に導入する切換えバルブ型スプリッタと、を備え、
前記検出流路は、検出器よりも上流において、前記切換えバルブ型スプリッタの上流側と下流側との間を直接接続するバイパス流路と、前記切換えバルブ型スプリッタの下流側の前記バイパス流路との合流点より下流側に設けられたミキサとを備えていることを特徴とする液体クロマトグラフ。」

(引2イ) 「【0013】
分離流路4と検出流路8との間には、分離流路4においては分離カラム14の下流で、検出流路8においてはPDA22の上流に流路切換えバルブ型スプリッタ2が設けられている。流路切換えバルブ型スプリッタ2は分離流路4と検出流路8との間を一本の小さな溝2aが往復することにより接続する流路を切り換え、その溝2aの容積や周期によりスプリット比を調節できるようになっている。
【0014】
溝2aが分離流路4側にある場合には、分離カラム14からの溶出液は溝2aを流れてフラクションコレクタ16に導かれる。分離流路4で流路切換えバルブ型スプリッタ2より下流の部分を分画流路と呼ぶ。流路切換えバルブ型スプリッタ2が切り換えられると溝2aが検出流路8側に移動し、溝2aを流れていた溶出液は溝2aとともに検出流路8に移動し、メイクアップポンプ20からの移動相とともに検出器側に導入される。」

(引2ウ) 「図1



(引2エ) 上記(引2ア)ないし(引2ウ)の記載より、引用文献2には、次の技術が記載されている。

「分離流路4と検出流路8との間に、前記分離流路から溶出液の一部を前記検出流路に導入する、流路切換えバルブ型スプリッタ2を設ける技術。」(以下、「引用文献2記載技術」という。)

(2)対比
本願発明と引用発明を対比する。

ア 本願発明A)の特定事項について
引用発明の「a)分取液体クロマトグラフ装置」は、
「e) カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出し、」
「f) カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方は質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12に送られ、」
「l) 溶出液を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する方法」であり、a)の分取液体クロマトグラフ装置を用い、f)の工程で試料に含まれる成分を分析して検出し、l)の工程で、成分毎に異なるバイアル瓶に分画しているから、本願発明の「A) クロマトグラフィーシステムでのサンプル流れ内における1つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集する方法」に相当する。

イ 本願発明E)の特定事項について
(ア) 引用発明h)の「質量分析計9」及び「蒸発光散乱検出器12」は、本願発明E)の「破壊式検出器」に相当する。

(イ) 引用発明の「e) カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出」するクロマトグラフを実行し、「g) 他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られる工程」で、「h) ・・・質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12による検出信号は、信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいてクロマトグラムが作成され」る工程は、本願発明の「E) 前記方法はさらに、クロマトグラフィーの実行中に、前記破壊式検出器から少なくとも1つの信号を生成するステップ」に相当する。

ウ 本願発明F)の特定事項について
(ア) 引用発明j)の「フラクションコレクタ8」は、本願発明F)の「画分収集器」に相当する。
また、引用発明のf)の工程で「カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され」、f)「一方は質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12に送られ」、「g) 他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られ」ることとなるから、このg)の「他方」の流れは画分収集器であるフラクションコレクターに送られる流れとなる。そうすると、引用発明g)の「他方」の流れは、本願発明の「第1サンプルの流れ」に相当する。

(イ) 引用発明の「h) UV検出器5・・・による検出信号は、信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいて」生成された「クロマトグラム」は、本願発明の「F) 前記少なくとも1つの信号の変化」に相当する。

(ウ) そして、引用発明のg)「他方」の流れを、g)「フラクションコレクタ8に送」り、「h) ・・・質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12・・・による検出信号は、信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいてクロマトグラムが作成され」、j)「そのクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクタ8に与え」「k) フラクションコレクタ8はその制御信号に基づき電磁弁等を開閉し」、「l) 溶出液を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する」ことは、本願発明の「F) 前記少なくとも1つの信号の変化に応答して、前記第1サンプル流れから1つ以上の成分を画分収集器内に収集するステップ」に相当する。

エ 本願発明B)の特定事項について
上記「イ」、「ウ」に照らせば、引用発明の「a) 分取液体クロマトグラフ装置」によるクロマトグラフィー実行中に、引用発明のg)「他方」の流れを形成するために、「e) カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出」する工程は、本願発明の「B) クロマトグラフィーの実行中に、第1サンプル流れを形成するために、クロマトグラフィーカラムを用いて流体混合物から1つまたはそれ以上のサンプル要素を分離するステップ」に相当する。

オ 本願発明C)及びD)の特定事項について
(ア) 本願発明のD)「前記第1サンプル流れの一部を前記第2サンプル流れに移動させる」ことで作られるC)「キャリアガスを含む第2サンプル流れ」は、D)「前記第2サンプル流れは少なくとも1つの破壊式検出器と流体連通し」とあるから、第1サンプル流れから分かれた所から第2サンプル流れが始まり、破壊式検出器までの流れを第2サンプル流れというものと理解される。

(イ) 引用発明f)の「質量分析計9」及び「蒸発光散乱検出器12」は、本願発明D)の「破壊式検出器」に相当する。

(ウ) 引用発明の「f) カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方は質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12に送られ」る工程で作られる「二流路に分岐され」た「一方」の流れは、破壊検出器である質量分析計9に送られることとなるから、本願発明C)及びD)の「第2サンプル流れ」に相当する。

(エ)そうすると、引用発明の「f) カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方は質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12に送られ」る工程において、該工程で作られる「一方」の流れは液体の流れであると理解されることから、本願発明の「C) キャリアガスを含む第2サンプル流れを生成するステップ」とは、「C)’ 第2サンプル流れを生成するステップ」という点で共通する。

(オ) また、上記「ウ」で述べたように、引用発明g)の「他方」の流れは、本願発明の「第1サンプルの流れ」に相当するから、引用発明の「f) カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方は質量分析計9及び蒸発光散乱検出器12に送られ、g) 他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られ」ることは、f)「二流路に分岐される」際に、g)の「他方」の流れの一部が、「一方」の流れに移動されているともみることができ、「一方」の流れが、質量分析計9に連通しているから、本願発明の「D) 前記第1サンプル流れの一部を前記第2サンプル流れに移動させるステップと、を有し、前記第2サンプル流れは少なくとも1つの破壊式検出器と流体連通して」いることに相当する。

カ 以上のことから、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

<一致点>
「A) クロマトグラフィーシステムでのサンプル流れ内における1つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集する方法であって、
B) クロマトグラフィーの実行中に、第1サンプル流れを形成するために、クロマトグラフィーカラムを用いて流体混合物から1つまたはそれ以上のサンプル要素を分離するステップと、
C)’ 第2サンプル流れを生成するステップと、
D) 前記第1サンプル流れの一部を前記第2サンプル流れに移動させるステップと、を有し、前記第2サンプル流れは少なくとも1つの破壊式検出器と流体連通しており、
E) 前記方法はさらに、クロマトグラフィーの実行中に、前記破壊式検出器から少なくとも1つの信号を生成するステップと、
F) 前記少なくとも1つの信号の変化に応答して、前記第1サンプル流れから1つ以上の成分を画分収集器内に収集するステップと、を有する、方法。」

そして、両者は以下の点で相違する。

<相違点>
破壊式検出器まで流体連通する第2サンプル流れに関して、本願発明は、第2サンプル流れがキャリアガスを含む流れであるのに対して、引用発明は、キャリアガスを含む流れではない点。

(3)判断
上記の相違点について、以下に検討する。
引用文献2には、上記「(1)引用文献の記載事項」「イ 引用文献2」に記載した事項が記載されている。

しかしながら、引用文献2には、「第2サンプル流れがキャリアガスを含む流れ」である点が記載も示唆もされていない。
この点に関してさらに検討すると、「サンプル流れ」を形成するにあたって、「ガスを含む流れ」とすること自体は、本願優先日前周知の事項ではあるといえるが、「キャリアガスを含む第2サンプル流れ」に対して、「前記第1サンプル流れの一部を前記第2サンプル流れに移動させるステップ」を備えるように構成することは、本願優先日前周知の事項とはいえない。

そして、本願発明は、「キャリアガスを含む第2サンプル流れ」を採用することによって、明細書の発明の詳細な説明の段落【0060】に記載されているように、「キャリア流体としてガスを用いることは他の利点もある。たとえば、蒸発性光散乱検出器、または他の検出技術とともに用いる場合、ここでサンプルは霧状にされ、ガスはサンプルを輸送するのに用いることができ、またサンプルを霧状にするのに用いることができ、また、別個の霧形成ガス供給の必要をなくすことができる。さらに、ガスは蒸発させる必要がないので、周囲のドリフトチューブ温度は、ドリフトチューブ加熱器の必要性を取り除くのに用いることができる。」等の作用効果を奏することができると認められる。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本願の請求項2ないし11、19ないし21に係る発明は、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、請求項12に係る発明は、「方法」の発明である本願発明1のカテゴリーを「装置」に変更したものに過ぎない。したがって、請求項12に係る発明は、本願発明と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、請求項13ないし18、22ないし25に係る発明は、請求項12に係る発明の発明特定事項をすべて含み、請求項12に係る発明をさらに限定したものであるので、請求項12に係る発明と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について

1 当審の平成28年3月4日付け拒絶理由

当審の平成28年3月4日付け拒絶理由は、次のとおりである。

本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項9において、「前記能動的に移動させるステップ」とあるが、請求項9において、この記載以前に「能動的に移動させるステップ」との記載は無く、また、請求項9が引用する請求項1においても、「能動的に移動させるステップ」との記載が存在しないことから、「前記能動的に移動させるステップ」が何をさすのか不明であり、請求項9に係る発明が明確に把握できない。
よって、請求項9に係る発明は明確でない。

(2)請求項12において、「前記成分の少なくとも1つに対応する少なくとも1つの画分を収集するように構成される画分収集器」と記載されているが、「前記成分」に関して、この記載以前に「成分」についての記載が存在しないことから、「前記成分」が何をさしているのか不明であり、請求項12に係る発明が明確に把握できない。
請求項12の記載を引用する請求項13?18に係る発明についても同様である。
よって、請求項12?18に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由の判断

平成28年8月2日に提出された手続補正書によって、請求項9における「前記能動的に移動させるステップ」の記載が、「前記移動させるステップ」に補正されたことで、当審拒絶理由の(1)は解消され、請求項12における「第1サンプル流れ内における1つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集するため」の記載を「第1サンプル流れ内における1つまたはそれ以上の成分を検出および収集するため」に補正することにより、「前記成分」の記載より前に「成分」の記載が存在するようにしたことで、当審拒絶理由の(2)は解消された。
したがって、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび

以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2013-211608(P2013-211608)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01N)
P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 東松 修太郎  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
小川 亮
発明の名称 サンプルの画分を収集しサンプルを分析するための方法および装置  
代理人 鐘ヶ江 幸男  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  

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