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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1318878
審判番号 不服2015-13292  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-13 
確定日 2016-09-27 
事件の表示 特願2011-50006「液晶表示装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年9月27日出願公開,特開2012-185432,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
特願2011-050006号(以下「本件出願」という。)は,平成23年3月8日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年 9月22日起案:拒絶理由通知書(同年同月30日発送)
平成26年11月26日差出:意見書
平成26年11月26日差出:手続補正書
平成27年 4月15日起案:拒絶査定(同年同月21日送達)
平成27年 7月13日差出:審判請求書
平成27年 7月13日差出:手続補正書
平成28年 4月21日起案:拒絶理由通知書(同年同月26日発送)
平成28年 6月16日差出:意見書
平成28年 6月16日差出:手続補正書

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は,それぞれ,請求項1?3に記載されたとおりのものであるところ,請求項1の記載は,以下のとおりである(この請求項に係る発明を,以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
偏光子層と,偏光子保護フィルムと,前面板とをこの順に含む液晶表示装置であって,
前記偏光子保護フィルムと前記前面板との間には光学透明樹脂が介在しており,
前記偏光子保護フィルムは,基材フィルムと,前記基材フィルムの一方の面に積層される表面処理層とを備え,
前記表面処理層は防汚剤を含有し,
前記表面処理層における前記基材フィルムとは反対側の表面にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含有し,前記表面に前記光学透明樹脂が積層されている,液晶表示装置。」

なお,請求項2及び3に係る発明は,いずれも,本願発明に対して,さらに他の発明特定事項を加えた発明である。

3 原査定の拒絶の理由
本願発明は,原査定時の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下「査定時発明」という。)に対して,さらに他の発明特定事項を加えた発明である。そして,査定時発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,査定時発明は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献2:特開2009-69428号公報
なお,周知例を示す文献として,特開2009-58859号公報(引用文献1)及び特開2009-175685号公報(引用文献3)が示されている。

4 当合議体の拒絶の理由
当合議体の拒絶の理由は,概略,以下の理由1及び2である。
理由1:本願発明は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例1?3のいずれかに記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特開2009-69428号公報
引用例2:特開2006-104434号公報
引用例3:特表2004-536940号公報
なお,周知例を示す文献として,特開2006-104434号公報,特表2004-536940号公報及び特開2009-58859号公報が示されている。

理由2:この出願は,特許請求の範囲に記載された「エタノール拭き取り試験」の試験条件が明確でないため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第2 当合議体の判断
1 原査定の拒絶の理由について
(1) 引用文献2の記載
本件出願前に頒布された刊行物である引用文献2には,以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材及びハードコート層を有する光学積層体の製造方法であって,
重量平均分子量が200以上,1000未満である高屈折率樹脂A,重量平均分子量が1000以上,10万未満である高屈折率樹脂B,浸透性溶剤,及び,バインダー樹脂を含み,かつ,含まれる樹脂成分中における前記高屈折率樹脂Aと高屈折率樹脂Bとの合計量が10?80質量%(固形分比)である樹脂組成物を,前記光透過性基材上に塗布して前記ハードコート層を形成する工程を有する
ことを特徴とする光学積層体の製造方法。
【請求項2】
高屈折率樹脂A及び光屈折率樹脂Bは,屈折率が1.55?1.65である請求項1記載の光学積層体の製造方法。
【請求項3】
高屈折率樹脂Aと高屈折率樹脂Bとの含有比(高屈折率樹脂A/高屈折率樹脂B)が,固形分質量比で(95/5)?(5/95)である請求項1又は2記載の光学積層体の製造方法。
【請求項4】
浸透性溶剤は,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,メチルエチルケトン,アセトン,シクロヘキサノン,メチルイソブチルケトン及び塩化メチレンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1,2又は3記載の光学積層体の製造方法。
【請求項5】
バインダー樹脂は,屈折率が1.55未満であり,かつ,重量平均分子量200以上,1000未満である樹脂1と,屈折率が1.55未満であり,かつ,重量平均分子量1000以上,10万以下である樹脂2とを含む請求項1,2,3又は4記載の光学積層体の製造方法。
【請求項6】
樹脂組成物は,更に,ケイ素,アルミニウム,チタン,亜鉛,ゲルマニウム,インジウム,スズ及びアンチモンからなる群より選択される少なくとも1つの元素の酸化物を含有する請求項1,2,3,4又は5記載の光学積層体の製造方法。
【請求項7】
樹脂組成物は,更に,帯電防止剤を有する請求項1,2,3,4,5又は6記載の光学積層体の製造方法。
【請求項8】
光透過性基材は,ハードコート層を形成する面に帯電防止層を有する請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の光学積層体の製造方法。
【請求項9】
光透過性基材は,トリアセチルセルロースである請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載の光学積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1,2,3,4,5,6,7,8又は9記載の光学積層体の製造方法により得られることを特徴とする光学積層体。
【請求項11】
最表面に請求項10記載の記載の光学積層体を備えることを特徴とする自発光型画像表示装置。
【請求項12】
偏光素子を備えてなる偏光板であって,
前記偏光板は,偏光素子表面に請求項10記載の光学積層体を備えることを特徴とする偏光板。
【請求項13】
最表面に請求項10記載の光学積層体,又は,請求項12記載の偏光板を備えることを特徴とする非自発光型画像表示装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学積層体の製造方法,光学積層体,偏光板及び画像表示装置に関する。」

ウ 「【背景技術】
【0002】
陰極線管表示装置(CRT),液晶ディスプレイ(LCD),プラズマディスプレイ(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD),フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の画像表示装置の最表面には,反射防止のための光学積層体が設けられている。このような反射防止用光学積層体は,光の散乱や干渉によって,像の写り込みを抑制したり反射率を低減したりするものである。
【0003】
上記反射防止用光学積層体において,蛍光等の外光から照射された光線による反射を少なくし,その表示面の視認性を高めるための方法の一つとして,屈折率の異なる層を積層することが従来より行われている(特許文献1)。しかし,屈折率の差が大きい層を積層させた反射防止積層体にあっては,互いに重なりあった層の界面において,界面反射や干渉縞が生じ,その結果,画像の視認性が低下するといった問題があった。
【0004】
このような干渉縞の発生を抑制する方法として,基材上に,基材を溶解する溶剤を含む樹脂組成物を用いてハードコート層を形成する方法が知られている(特許文献2,3)。
特許文献3では,重量平均分子量が200以上10000以下であり,かつ2超過の官能基を有する樹脂と,重量平均分子量が200以上1000以下であり,かつ2以下の官能基を有する樹脂と,浸透性溶剤とを含んでなる組成物によりハードコート層を基材上に形成することにより,界面反射と干渉縞の発生を有効に防止する光学積層体が開示されている。
【0005】
しかしながら,比較的屈折率の高いハードコート層を形成するために,ハードコート層に高屈折率樹脂を添加した場合,浸透性溶剤を使用して形成しても,干渉縞の発生の抑制が十分ではなく,視認性が低下するといった問題があった。」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,上記現状に鑑みて,界面反射と干渉縞の発生を有効に抑制し,視認性に優れる光学積層体を形成するための製造方法を提供することを目的とする。」

オ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,光透過性基材及びハードコート層を有する光学積層体の製造方法であって,重量平均分子量が200以上,1000未満である高屈折率樹脂A,重量平均分子量が1000以上,10万以下である高屈折率樹脂B,浸透性溶剤,及び,バインダー樹脂を含み,かつ,含まれる全樹脂成分中における前記高屈折率樹脂Aと高屈折率樹脂Bとの合計量が10?80質量%(固形分比)である樹脂組成物を,上記光透過性基材上に塗布して上記ハードコート層を形成する工程を有することを特徴とする光学積層体の製造方法である。
上記高屈折率樹脂A及び光学積層体Bは,屈折率が1.55?1.65であることが好ましい。
上記高屈折率樹脂Aと上記高屈折率樹脂Bとの含有比(高屈折率樹脂A/高屈折率樹脂B)が,固形分質量比で(95/5)?(5/95)であることが好ましい。
上記浸透性溶剤は,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,メチルエチルケトン,アセトン,シクロヘキサノン,メチルイソブチルケトン及び塩化メチレンからなる群より選択される少なくとも1種であるであることが好ましい。
上記バインダー樹脂は,屈折率が1.55未満であり,かつ,重量平均分子量200以上,1000未満である樹脂1と,屈折率が1.55未満であり,かつ,重量平均分子量1000以上,10万以下である樹脂2とを含むことが好ましい。
上記樹脂組成物は,更に,ケイ素,アルミニウム,チタン,亜鉛,ゲルマニウム,インジウム,スズ及びアンチモンからなる群より選択される少なくとも1つの元素の酸化物を含有することが好ましい。
上記樹脂組成物は,更に,帯電防止剤を有することが好ましい。
上記光透過性基材は,ハードコート層を形成する面に帯電防止層を有することが好ましい。
上記光透過性基材は,トリアセチルセルロースであることが好ましい。
【0008】
本発明はまた,上述の光学積層体の製造方法により得られることを特徴とする光学積層体でもある。
本発明はまた,最表面に上述の光学積層体を備えることを特徴とする自発光型画像表示装置でもある。
本発明はまた,偏光素子を備えてなる偏光板であって,上記偏光板は,偏光素子表面に上述の光学積層体を備えることを特徴とする偏光板でもある。
本発明はまた,最表面に上述の光学積層体,又は,上述の偏光板を備えることを特徴とする非自発光型画像表示装置でもある。」

カ 「【0039】
また,上記樹脂組成物は,更に,帯電防止剤を有することが好ましい。
上記樹脂組成物が帯電防止剤を含有することで,形成するハードコート層に帯電防止性を付与することができる。
【0040】
上記帯電防止剤としては特に限定されず,例えば,第4級アンモニウム塩,ピリジニウム塩,第1?第3アミノ基等のカチオン性化合物;スルホン酸塩基,硫酸エステル塩基,リン酸エステル塩基,ホスホン酸塩基等のアニオン性化合物;アミノ酸系,アミノ硫酸エステル系等の両性化合物;アミノアルコール系,グリセリン系,ポリエチレングリコール系等のノニオン性化合物;スズ及びチタンのアルコキシドのような有機金属化合物;上記有機金属化合物のアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等を挙げることができる。上記に列記した化合物を高分子量化した化合物も使用することができる。また,第3級アミノ基,第4級アンモニウム基又は金属キレート部を有し,かつ,電離放射線により重合可能なモノマー又はオリゴマー又は官能基を有するカップリング剤のような有機金属化合物等の重合性化合物もまた帯電防止剤として使用できる。
【0041】
上記帯電防止剤としては,導電性ポリマーも挙げることができる。導電性ポリマーとしては特に限定されず,例えば,芳香族共役系のポリ(パラフェニレン),複素環式共役系のポリピロール,ポリチオフェン,脂肪族共役系のポリアセチレン,含ヘテロ原子共役系のポリアニリン,混合型共役系のポリ(フェニレンビニレン),分子中に複数の共役鎖を持つ共役系である複鎖型共役系,前述の共役高分子鎖を飽和高分子にグラフト又はブロック共重した高分子である導電性複合体等を挙げることができる。
【0042】
上記帯電防止剤は,導電性金属酸化物微粒子であってもよい。上記導電性金属酸化物微粒子としては特に限定されず,例えば,ZnO(屈折率1.90,以下,カッコ内の値はすべて屈折率を表すものである。),Sb_(2)O_(2)(1.71),SnO_(2)(1.997),CeO_(2)(1.95),酸化インジウム錫(略称 ITO;1.95),In_(2)O_(3)(2.00),Al_(2)O_(3)(1.63),アンチモンドープ酸化錫(略称ATO;2.0),アルミニウムドープ酸化亜鉛(略称AZO;2.0)等を挙げることができる。
【0043】
上記帯電防止剤の含有量としては,上記帯電防止剤を含有することの効果を充分に享有できるとともに,上述した本発明により製造される光学積層体に得られる効果を阻害しない範囲で,上記樹脂組成物に適宜配合されることが好ましい。」

キ 「【0079】
偏光素子の表面に,上記光学積層体を,上記光学積層体におけるハードコート層が存在する面と反対の面に設けることによって,偏光板とすることができる。このような偏光板も,本発明の一つである。
【0080】
上記偏光素子としては特に限定されず,例えば,ヨウ素等により染色し,延伸したポリビニルアルコールフィルム,ポリビニルホルマールフィルム,ポリビニルアセタールフィルム,エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等を使用することができる。上記偏光素子と本発明の光学積層体とのラミネート処理においては,光透過性基材(好ましくは,トリアセチルセルロースフィルム)にケン化処理を行うことが好ましい。ケン化処理によって,接着性が良好になり帯電防止効果も得ることができる。」

ク 「【0081】
本発明は,最表面に上記光学積層体又は上記偏光板を備えてなる画像表示装置でもある。上記画像表示装置は,LCD等の非自発光型画像表示装置であっても,PDP,FED,ELD(有機EL,無機EL),CRT等の自発光型画像表示装置であってもよい。
【0082】
上記非自発光型の代表的な例であるLCDは,透過性表示体と,上記透過性表示体を背面から照射する光源装置とを備えてなるものである。本発明の画像表示装置がLCDである場合,この透過性表示体の表面に,本発明の光学積層体又は本発明の偏光板が形成されてなるものである。
【0083】
本発明が上記光学積層体を有する液晶表示装置の場合,光源装置の光源は光学積層体の下側から照射される。なお,STN型の液晶表示装置には,液晶表示素子と偏光板との間に,位相差板が挿入されてよい。この液晶表示装置の各層間には必要に応じて接着剤層が設けられてよい。
【0084】
上記自発光型画像表示装置であるPDPは,表面ガラス基板(表面に電極を形成)と当該表面ガラス基板に対向して間に放電ガスが封入されて配置された背面ガラス基板(電極および,微小な溝を表面に形成し,溝内に赤,緑,青の蛍光体層を形成)とを備えてなるものである。本発明の画像表示装置がPDPである場合,上記表面ガラス基板の表面,又はその前面板(ガラス基板又はフィルム基板)に上述した光学積層体を備えるものでもある。
【0085】
上記自発光型画像表示装置は,電圧をかけると発光する硫化亜鉛,ジアミン類物質:発光体をガラス基板に蒸着し,基板にかける電圧を制御して表示を行うELD装置,又は,電気信号を光に変換し,人間の目に見える像を発生させるCRT等の画像表示装置であってもよい。この場合,上記のような各表示装置の最表面又はその前面板の表面に上述した光学積層体を備えるものである。
【0086】
本発明の画像表示装置は,いずれの場合も,テレビジョン,コンピュータ,ワードプロセッサ等のディスプレイ表示に使用することができる。特に,CRT,液晶パネル,PDP,ELD,FED等の高精細画像用ディスプレイの表面に好適に使用することができる。」

ケ 「【発明の効果】
【0087】
本発明の光学積層体の製造方法は,上述した光透過性基材上にハードコート層を形成する工程を有するため,界面反射と干渉縞が抑制され,優れた視認性を有する光学積層体を製造することができる。本発明により製造された光学積層体は,陰極線管表示装置(CRT),液晶ディスプレイ(LCD),プラズマディスプレイ(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD),フィールドエミッションディスプレイ(FED)等に好適に適用することができる。」

(2) 引用発明
引用文献2には,請求項1,7,9,10及び12の記載を引用して記載された請求項13に係る発明として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「【請求項13】最表面に光学積層体を備える非自発光型画像表示装置であって,
【請求項12】偏光板は,偏光素子表面に光学積層体を備え,
【請求項1】光学積層体は,
重量平均分子量が200以上,1000未満である高屈折率樹脂A,重量平均分子量が1000以上,10万未満である高屈折率樹脂B,浸透性溶剤,及び,バインダー樹脂を含み,かつ,含まれる樹脂成分中における前記高屈折率樹脂Aと高屈折率樹脂Bとの合計量が10?80質量%(固形分比)である樹脂組成物を,光透過性基材上に塗布してハードコート層を形成する工程を有する【請求項10】製造方法により得られ,
【請求項9】光透過性基材は,トリアセチルセルロースであり,
【請求項7】樹脂組成物は,更に,帯電防止剤を有する,
【請求項13】非自発光型画像表示装置。」

(3) 対比
ア 偏光子層
引用発明の「偏光素子」は,その文言のとおり「偏光子」として機能するものである。また,引用発明の「偏光素子」は,その「表面に光学積層体を備え」ているから,「光学積層体」とかさなりをなす「層」といえる。
したがって,引用発明の「偏光素子」は,本願発明の「偏光子層」に相当する。

イ 偏光子保護フィルム
引用発明の「光学積層体」は,「偏光素子表面に」「備え」られた「トリアセチルセルロース」の「光透過性基材」を含む積層体であるから,技術的にみて,「偏光素子」を保護する機能を具備したフィルム状のものといえる。
したがって,引用発明の「光学積層体」は,本願発明の「偏光子保護フィルム」に相当する。

ウ 液晶表示装置
引用発明は,「最表面に光学積層体を備える非自発光型画像表示装置であって」,「偏光板は,偏光素子表面に光学積層体を備え」たものであるから,引用発明の,「非自発光型画像表示装置」は,「偏光素子」と「光学積層体」とをこの順に含むものである。
また,引用発明の「非自発光型画像表示装置」は,「偏光板」を具備する「非自発光型画像表示装置」であるから,事実上,「液晶表示装置」である(引用文献2の段落【0081】?【0087】において例示されている「非自発光型画像表示装置」も,「液晶ディスプレイ(LCD)」である。)。
したがって,引用発明の「非自発光型画像表示装置」は,本願発明の「液晶表示装置」に相当し,また,引用発明の「非自発光型画像表示装置」と本願発明の「液晶表示装置」は,「偏光子層と,偏光子保護フィルム」「とをこの順に含む液晶表示装置」の点で共通する。

エ 基材フィルム及び表面処理層
引用発明の「光学積層体」は,「光透過性基材上に」「ハードコート層を形成」してなるものである。ここで,引用発明の「光透過性基材」は,「基材」であり,また,技術的にみてフィルム状のものであるから,本願発明の「基材フィルム」に相当する。
また,「表面処理層」に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0009】には,「表面処理層としては,たとえば,ハードコート層,防眩層,光拡散層,反射防止層を挙げることができる。」と記載されているから,引用発明の「ハードコート層」は,本願発明の「表面処理層」に該当する。
加えて,引用発明の「ハードコート層」は,「樹脂組成物を,光透過性基材上に塗布して」形成されたものであるから,光透過性基材の一方の面に積層されたものである。
したがって,引用発明の「光学積層体」は,本願発明の「前記偏光子保護フィルムは,基材フィルムと,前記基材フィルムの一方の面に積層される表面処理層とを備え」の要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「 偏光子層と,偏光子保護フィルムとをこの順に含む液晶表示装置であって,
前記偏光子保護フィルムは,基材フィルムと,前記基材フィルムの一方の面に積層される表面処理層とを備える,
液晶表示装置。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の「液晶表示装置」は,「前面板」を備え,偏光子層と,偏光子保護フィルムと,「前面板」とをこの順に含む液晶表示装置であり,「前記偏光子保護フィルムと前記前面板との間には光学透明樹脂が介在」しているのに対して,引用発明の「非自発光型画像表示装置」は,「前面板」を具備せず,したがって,偏光子層と,偏光子保護フィルムと,「前面板」とをこの順に含む液晶表示装置ではなく,また,「前記偏光子保護フィルムと前記前面板との間には光学透明樹脂が介在」していない点。

(相違点2)
本願発明の「前記表面処理層」は「防汚剤を含有」し,「前記表面処理層における前記基材フィルムとは反対側の表面にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含有し,前記表面に前記光学透明樹脂が積層されている」のに対して,引用発明の「ハードコート層」は,「防汚剤を含有し」,前記表面処理層における前記基材フィルムとは反対側の表面に「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含有し」ているとは特定されておらず,また,「前記表面に前記光学透明樹脂が積層されている」ものではない点。

(5) 判断
本件出願の発明の詳細な説明には,以下のとおり記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶パネルと前面板との間に光学透明樹脂を充填する場合には,液晶パネルの前面側表面,すなわち前面側(視認側)の偏光子保護フィルム表面に硬化前の樹脂組成物を塗布し,その上に前面板を積層し,ついで樹脂組成物を硬化させる方法が一般的に用いられる。しかしながら,従来の偏光子保護フィルムにおいては,偏光子保護フィルム表面への樹脂組成物の濡れ性が低く(樹脂組成物を弾き易く),前面板を積層する工程や樹脂組成物を硬化させる工程で,樹脂組成物が弾かれた部分が気泡となり外観品質を損ない,また場合によっては気泡による光の屈折,散乱,反射によって液晶表示装置の視認性が低下するという問題があった。この問題は,偏光子保護フィルムの最表層である表面処理層が,たとえば防汚剤などの樹脂組成物を弾き易くする成分を含む場合にとりわけ顕著である。
【0006】
そこで本発明は,上述の光学透明樹脂を形成する樹脂組成物の濡れ性が良好な最表面を有しており,もって液晶パネルと前面板との間に光学透明樹脂を介在させた液晶表示装置に適用した場合においても,光学透明樹脂との界面に気泡を生じさせることなく,優れた外観品質および視認性が得られる偏光子保護フィルムおよびこれを用いた偏光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,意外にも偏光子保護フィルム表面にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含有させると,光学透明樹脂を形成する樹脂組成物と偏光子保護フィルム表面との親和性が向上し,樹脂組成物の弾きが極めて効果的に抑制されることを見出した。
…(省略)…
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,光学透明樹脂を形成する樹脂組成物との親和性が良好であり,該樹脂組成物の弾きを効果的に抑制できる表面を有する偏光子保護フィルムおよび偏光板を提供することができる。本発明の偏光子保護フィルムおよび偏光板によれば,光学透明樹脂との界面における気泡の発生を効果的に抑制することができ,これにより液晶表示装置の外観品質および視認性を向上させることが可能となる。」

本願発明の目的,課題を解決するための手段及び発明の効果を考慮すると,本願発明は,前記相違点1に係る構成において前記相違点2に係る構成を採用することにより,本願発明の効果を得たものと解される。
したがって,相違点1及び2について,ひとまとまりの相違点として検討すると,以下のとおりである。
すなわち,引用文献2の段落【0002】?【0006】には,前記「1」ウ及びエのとおり,背景技術及び発明が解決しようとする課題が記載されているから,引用発明の「非自発光型画像表示装置」は,まさしく,「最表面に光学積層体を備える」ものであって,その表面に「前面板」を設けることは,引用発明において予定されていないというべきである。
したがって,引用発明において,相違点1及び2に係る構成を採用することについては,阻害要因がある。
したがって,たとえ当業者といえども,引用発明において相違点に係る構成を採用することについて,容易に思到し得たということはできない。

なお,引用発明のハードコート層は帯電防止剤を含有するところ,帯電防止剤としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンは周知の物質である。
しかしながら,引用文献2の段落【0040】?【0042】には,前記「1」カのとおり,帯電防止剤としては特に限定されないことが記載されているから,たとえ,「帯電防止剤」として「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン」が周知であるとしても,本願発明の,「偏光子保護フィルム表面にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含有させると,光学透明樹脂を形成する樹脂組成物と偏光子保護フィルム表面との親和性が向上し,樹脂組成物の弾きが極めて効果的に抑制されることを見出した。」(段落【0007】)という知見,及び「本発明によれば,光学透明樹脂を形成する樹脂組成物との親和性が良好であり,該樹脂組成物の弾きを効果的に抑制できる表面を有する偏光子保護フィルムおよび偏光板を提供することができる。本発明の偏光子保護フィルムおよび偏光板によれば,光学透明樹脂との界面における気泡の発生を効果的に抑制することができ,これにより液晶表示装置の外観品質および視認性を向上させることが可能となる。」という効果は,引用文献2の記載に接した当業者が予測できる範囲を超えたものである。

いずれにせよ,本願発明は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(6) 小括
以上のとおりであるから,原査定の拒絶の理由によっては,もはや本件出願を拒絶することはできない。

2 当合議体の拒絶の理由について
(1) 理由1について
理由1の拒絶の理由において容易推考の出発点とされた引用例1は,原査定の拒絶の理由の容易推考の出発点とされた引用文献2と同一のものである。
したがって,引用例1の記載,引用発明,対比及び判断は,前記1(1)?(6)に記載したとおりであり,引用例1を容易推考の出発点とする理由1によっても,もはや本件出願を拒絶することはできない。

理由1の拒絶の理由において容易推考の出発点とされた引用例2又は3には,帯電防止剤としての「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン」が開示されている。しかしながら,たとえ,「帯電防止剤」として「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン」が周知であるとしても,前記1(5)で述べた本願発明に関する知見及び効果は,引用例2及び3の記載に接した当業者が予測できる範囲を超えたものである。
したがって,引用例2又は3を容易推考の出発点とする理由1によっても,もはや本件出願を拒絶することはできない。

(2) 理由2について
本件補正により,特許請求の範囲から,理由2の対象となった発明特定事項が削除された。
したがって,理由2によっては,もはや本件出願を拒絶することはできない。

第3 まとめ
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-13 
出願番号 特願2011-50006(P2011-50006)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 樋口 信宏
清水 康司
発明の名称 液晶表示装置およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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