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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1318895
審判番号 不服2014-15159  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2016-09-09 
事件の表示 特願2011-517717「ジャスモン酸及びその誘導体とナノキャリヤー又はミクロキャリヤー間の医薬製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月21日国際公開、WO2010/006392、平成23年11月10日国内公表、特表2011-527989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2009年5月28日(パリ条約による優先権主張 2008年7月15日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成25年9月2日付け拒絶理由通知に対し、平成26年3月4日付け手続補正がなされたが、同年4月2日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月1日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされた。そして、平成27年9月14日付けで当審による拒絶理由通知がなされ、平成28年3月14日付けで手続補正がなされた。

2.本願発明

本願請求項8に係る発明は、平成28年3月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項8に記載された以下のとおりのものである。
「ウイルス性、細菌性、又は真菌性疾病の治療において使用するための、請求項1?6のいずれか1項に記載の医薬製剤。」
そして、請求項8が引用する請求項1は、
「ジャスモン酸メチル、ジャスモン酸、9,10-ジヒドロジャスモン酸、2,3-ジデヒドロジャスモン酸、3,4-ジデヒドロジャスモン酸、3,7-ジデヒドロジャスモン酸、4,5-ジデヒドロジャスモン酸、4,5-ジデヒドロ-7-イソジャスモン酸、ククルビン酸、6-エピ-ククルビン酸、6-エピ-ククルビン酸ラクトン、12-ヒドロキシジャスモン酸、12-ヒドロキシジャスモン酸ラクトン、11-ヒドロキシジャスモン酸、8-ヒドロキシジャスモン酸、ホモジャスモン酸、ジホモジャスモン酸、11-ヒドロキシ-ジホモジャスモン酸、8-ヒドロキシ-ジホモジャスモン酸、ツベロン酸、ツベロン酸-O-β-グルコピラノシド、ククルビン酸-O-β-グルコピラノシド、5,6-ジデヒドロジャスモン酸、6,7-ジデヒドロジャスモン酸、7,8-ジデヒドロジャスモン酸及びそれらの低級アルキルエステルからなる群から選択される活性成分、並びにナノキャリヤー又はミクロキャリヤーを含んでなる医薬製剤であって、活性成分がナノキャリヤー又はミクロキャリヤー内に封入されているか、その内部にあるか、それと結合しているか、複合体化しているか、及び/又はそこで保持され、ナノキャリア又はミクロキャリヤーは、PEG化リポソーム、セラミドリポソーム、ポリ(エチレングリコール)-600-ヒドロキシステアレート(PEG-HS)、及びLDEから選択されるリポソームを含む、前記医薬製剤。」
であるから、請求項1を引用する請求項8を書き下すと以下のとおりである。
「ジャスモン酸メチル、ジャスモン酸、9,10-ジヒドロジャスモン酸、2,3-ジデヒドロジャスモン酸、3,4-ジデヒドロジャスモン酸、3,7-ジデヒドロジャスモン酸、4,5-ジデヒドロジャスモン酸、4,5-ジデヒドロ-7-イソジャスモン酸、ククルビン酸、6-エピ-ククルビン酸、6-エピ-ククルビン酸ラクトン、12-ヒドロキシジャスモン酸、12-ヒドロキシジャスモン酸ラクトン、11-ヒドロキシジャスモン酸、8-ヒドロキシジャスモン酸、ホモジャスモン酸、ジホモジャスモン酸、11-ヒドロキシ-ジホモジャスモン酸、8-ヒドロキシ-ジホモジャスモン酸、ツベロン酸、ツベロン酸-O-β-グルコピラノシド、ククルビン酸-O-β-グルコピラノシド、5,6-ジデヒドロジャスモン酸、6,7-ジデヒドロジャスモン酸、7,8-ジデヒドロジャスモン酸及びそれらの低級アルキルエステルからなる群から選択される活性成分、並びにナノキャリヤー又はミクロキャリヤーを含んでなる医薬製剤であって、活性成分がナノキャリヤー又はミクロキャリヤー内に封入されているか、その内部にあるか、それと結合しているか、複合体化しているか、及び/又はそこで保持され、ナノキャリア又はミクロキャリヤーは、PEG化リポソーム、セラミドリポソーム、ポリ(エチレングリコール)-600-ヒドロキシステアレート(PEG-HS)、及びLDEから選択されるリポソームを含む、ウイルス性、細菌性、又は真菌性疾病の治療において使用するための前記医薬製剤。」
これにより請求項1を引用する請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)が特定される。

なお、以下、本願発明の「ジャスモン酸メチル、ジャスモン酸、9,10-ジヒドロジャスモン酸、2,3-ジデヒドロジャスモン酸、3,4-ジデヒドロジャスモン酸、3,7-ジデヒドロジャスモン酸、4,5-ジデヒドロジャスモン酸、4,5-ジデヒドロ-7-イソジャスモン酸、ククルビン酸、6-エピ-ククルビン酸、6-エピ-ククルビン酸ラクトン、12-ヒドロキシジャスモン酸、12-ヒドロキシジャスモン酸ラクトン、11-ヒドロキシジャスモン酸、8-ヒドロキシジャスモン酸、ホモジャスモン酸、ジホモジャスモン酸、11-ヒドロキシ-ジホモジャスモン酸、8-ヒドロキシ-ジホモジャスモン酸、ツベロン酸、ツベロン酸-O-β-グルコピラノシド、ククルビン酸-O-β-グルコピラノシド、5,6-ジデヒドロジャスモン酸、6,7-ジデヒドロジャスモン酸、7,8-ジデヒドロジャスモン酸及びそれらの低級アルキルエステル」を「ジャスモン酸化合物」という。

3.当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について

ア 特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を当該用途に使用することができないから、実施可能要件を満たすためには、本願明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができ、かつ、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。

イ そこで、まず本願明細書の発明の詳細な説明が本願発明の医薬を「製造」することができるように記載されているかを検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明をみると、段落【0001】には「本発明は、ジャスモン酸ファミリーの化合物(CA2630666)と、ナノ又はミクロカプセル化系を形成する能力を有する幾つかの化合物とを組合せた製剤に関する。」と記載されている。また、本願明細書の発明の詳細な説明段落【0007】にはリポソームがナノキャリヤーまたはミクロキャリヤーとして記載されている。これらの記載から、本願発明は、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤に関する発明であるといえる。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】には「一連のホスト分子、及び又は粒子、及び又は凝集体がナノキャリヤーとして一般的に定義され、例えば、ポリマー、及び又は交互ポリマー、及び又はコポリマー、及び又はリポソーム、及び又はデンドリマー、及び又は金属ナノ球体、及び又は混合ポリマー、及び又は生体高分子、及び又は炭素構造担体、及び又はシリカ構造担体、及び又はケイ素構造担体、及び又は注射可能なミクロ及び又はナノキャリヤーが挙げられ、、及び又はナノキャリヤーは向上した透過性及び保持効果により腫瘍選択的集積を達成し、ナノキャリヤーに接続された抗体、ペプチド、リガンド、又は核酸のような標的分子は、標的組織によるその認識及び内部移行を更に向上し、及び又はナノキャリヤーは細胞外雰囲気及び又は細胞内雰囲気において刺激-活性化し、及び又はナノ懸濁物、及び又はナノチューブ、及び又はナノワイヤー、及び又はナノカチオン性SLN担体、及び又はゼラチンNP担体、及び又はPLGA NP、及び又はPLGAナノ球体、及び又はヒドロゲルNP構造担体、及び又はCPP NP構造担体、及び又は高分子ミセルは免疫ミセル、及び又は感応化された(functionalized)NP、及び又はナノ結晶構造担体として知られる。」(下線は当審による。)と記載されており、リポソームとの文言は記載されているものの、ここでは多種多様なナノキャリヤーのうちの一例としてリポソームが挙げられているに過ぎない。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】以降ではジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が実際に作られたことを示す実験データは記載されておらず、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が製造できることを裏付ける論理的な記載もなされていない。

ウ 加えて、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】?【0045】、図5、図6には、ジャスモン酸メチルまたはジャスモン酸と、シクロデキストリン(CD)もしくはデンドリマーとにより封入化合物を形成した場合に良好な安定性が得られたことが示されている。しかしながら、これらの記載はシクロデキストリン(CD)もしくはデンドリマーを使用した場合の記載であって、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が形成されるかどうかは言及されていない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】には「本発明の調製の例」として「ジャスモン酸とナノキャリヤー又はミクロキャリヤー間の封入化合物は、ゼロではない1molまでの濃度のモルを、ホスト分子の当量の部分と混合することによって調製することができる。調製の方法は、水又は他の溶液中の溶液のジャスモン酸ファミリーの化合物を、医薬的に受容可能な塩と混合機にかけることができる。得られた溶液を、成分が溶媒中に完全に溶解するまで撹拌する。通常混合機にかける時間は数時間であり、混合物は熱力学的平衡になる(Rajewski & Stella,1996)。」と記載されているものの、ここには、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤を得るための具体的な調製条件は何ら示されていない。

エ また、本願の出願時においては、審判請求人が審判請求書の請求の理由(3-2)で主張するとおり、リポソームには、(1)溶解性の低さが経口での生物利用可能性の低さ/結果の不一致の原因となり得ること、(2)短い半減期、(3)リン脂質成分が体内で酸化と加水分解を受けて不安定化の原因となる場合があること、(4)漏れやリポソームキャリヤーの融着が通常的な問題であること、(5)生産にかかる高い費用、(6)リポソーム生産におけるばらつき、(7)薬剤封入効率の低さ、(8)薬剤放出時間に大きなばらつきがあること、(9)放出時に局所で薬剤が高濃度となることによる毒性といった制限及び不都合があることから、リポソームを作ることは技術常識であったとしても、実際に薬剤送達において薬剤とリポソームとを組み合わせた安定な医薬製剤が得られるかは当業者でも予測がつかないといえる。このことは、審判請求人が提出した、平成26年9月26日受付けの手続補足書における参考資料1及び参考資料2からも理解される。

オ そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤を製造できることを示す具体的な記載はなく、技術常識を勘案しても、発明の詳細な説明の記載からジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤を製造できることを当業者が理解できるともいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の医薬製剤を「製造」することができる程度に記載したものとはいえない。

カ 次に、本願明細書の発明の詳細な説明が本願発明の「医薬としての有用性」を当業者が理解できるように記載されているかを検討する。
本願発明はウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において使用するための医薬製剤である。しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】には「DNA、細胞のRNA、mRNA、クローン、発癌遺伝子、原癌遺伝子、アポトーシス促進細胞の群、抗アポトーシス細胞の群、抗又は疲労促進(原文のまま)、及び又は老化、及び又はウイルス、及び又は真菌、及び又は細菌に対するその作用を伴う本発明の分子の効果。」と記載されているものの、実際にジャスモン酸化合物とリポソームを含有する医薬製剤によってウイルス性、細菌性、または真菌性疾病が有効に治療できることを示すインビトロ実験またはインビボ実験の結果は何ら本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】に「これらの処方によって形成される化合物は、ジャスモン酸ファミリーのメンバー及び誘導体を放出し、狙った特異的標的細胞における巨視鏡的に作用するための有効な系として特徴づけられる。これらの標的細胞は、癌細胞としてか、またはそうでなく、又はいずれかの他の部位として特徴づけられる。」と記載されており、段落【0012】に「シクロペンタノンとして評価した場合、ジャスモン酸は、Fleischer等によって証明されているようにin vitroにおいて強力な抗体であり、そしてin vivoにおいて腫瘍細胞を減少するために有効である(US2002/0173470)。」と記載されるように、ジャスモン酸化合物が癌(腫瘍)の治療に有効であることは本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているものの、ジャスモン酸化合物のウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療における有用性については何ら本願明細書の発明の詳細な説明には記載がなされていない。
また、例えば、特表2004-525163号公報(原審による平成25年9月2日付け拒絶理由通知書で引用された引用文献2であり、かつ、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】で記載された「US2002/0173470」の日本語ファミリー)をみても、ジャスモン酸化合物がウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において有用性を有することについて記載はなく、また、他にジャスモン酸化合物がウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において有用性を有するとの技術常識も存在しない。

キ そうすると、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤について、技術常識を勘案しても、本願明細書の発明の詳細な説明は、ウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療における有用性が当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

ク 審判請求人は、平成26年9月26日受付けの手続補足書における参考資料3として、ジヒドロジャスモン酸メチルをリポソームに担持させた製剤が、癌の増殖を抑制し得たことを示す実験成績証明書を提出している。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明は、ジャスモン酸化合物とリポソームを含有する医薬製剤を製造することができることや、当該医薬製剤のウイルス性、細菌性または真菌性疾病の治療に有用であることが当業者に理解できる程度に記載されているとは認められないことは、上記イ?キに既述のとおりである。そうすると、参考資料3は発明の詳細な説明を補充したものとはいえない。
そして、明細書の発明の詳細な説明は、医薬としての有用性が当業者が理解できるように記載されているとはいえないにもかかわらず、特許出願後に上記実験成績証明書を提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することよって、実施可能要件・サポート要件に適合させることは、先願主義を採用し、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないことから、上記実験成績証明書は参酌し得ない。
仮に参考資料3を参酌したとしても、リポソームによって運ばれたジヒドロジャスモン酸メチルが各種癌細胞の増殖を抑制することが示されているが、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤について、ウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療における有用性を確認した実験結果は何ら示されていない。そうすると、参考資料3によっても、依然として本願明細書の発明の詳細な説明が本願発明の「医薬としての有用性」を当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

ケ よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、医薬を「製造」することができるように記載されておらず、かつ、「医薬としての有用性」を当業者が理解できるように記載されてもいない。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、本願発明が、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められない。

(3)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

ア 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な記載の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ まず、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0047】に「本発明は、別の方法として、全てのナノキャリヤー及び/又はミクロキャリヤーに、及び/又はそこで、及び/又はその中に組合せて保持されたこれらのジャスモン酸の使用を指摘する。具体的には、本発明は、副作用を最小にし、そして医薬、及び/又は化粧品の製造、及び/又は食品工業、及び/又は任意の製造法におけるより良好な溶液を促進するナノキャリヤー、及び/又はミクロキャリヤー内の、及び/又はそこにおける、及び/又はそれに複合された、及び/又はそれに封入された、及び/又はそれと会合した、及び/又はそれと結合したジャスモン酸ファミリーの化合物の医薬製剤である。」と記載されている。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】には「本発明は、ジャスモン酸ファミリーの化合物(CA2630666)と、ナノ又はミクロカプセル化系を形成する能力を有する幾つかの化合物とを組合せた製剤に関する。」と記載されており、段落【0007】にはリポソームがナノキャリヤーまたはミクロキャリヤーとして記載されている。これらの記載から、本願発明は、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤に関する発明であるといえる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】には「DNA、細胞のRNA、mRNA、クローン、発癌遺伝子、原癌遺伝子、アポトーシス促進細胞の群、抗アポトーシス細胞の群、抗又は疲労促進、及び又は老化、及び又はウイルス、及び又は真菌、及び又は細菌に対するその作用を伴う本発明の分子の効果。」と記載されていることから、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤の治療対象疾患はウイルス性、細菌性、または真菌性疾病が包含されるといえる。
そうすると、本願発明の解決すべき課題は、副作用を最小にした、ウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において使用するための、ジャスモン酸化合物を含有する医薬を提供することであり、その課題解決手段はジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤であるといえる。

ウ 一方、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】には「一連のホスト分子、及び又は粒子、及び又は凝集体がナノキャリヤーとして一般的に定義され、例えば、ポリマー、及び又は交互ポリマー、及び又はコポリマー、及び又はリポソーム、及び又はデンドリマー、及び又は金属ナノ球体、及び又は混合ポリマー、及び又は生体高分子、及び又は炭素構造担体、及び又はシリカ構造担体、及び又はケイ素構造担体、及び又は注射可能なミクロ及び又はナノキャリヤーが挙げられ、、及び又はナノキャリヤーは向上した透過性及び保持効果により腫瘍選択的集積を達成し、ナノキャリヤーに接続された抗体、ペプチド、リガンド、又は核酸のような標的分子は、標的組織によるその認識及び内部移行を更に向上し、及び又はナノキャリヤーは細胞外雰囲気及び又は細胞内雰囲気において刺激-活性化し、及び又はナノ懸濁物、及び又はナノチューブ、及び又はナノワイヤー、及び又はナノカチオン性SLN担体、及び又はゼラチンNP担体、及び又はPLGA NP、及び又はPLGAナノ球体、及び又はヒドロゲルNP構造担体、及び又はCPP NP構造担体、及び又は高分子ミセルは免疫ミセル、及び又は感応化された(functionalized)NP、及び又はナノ結晶構造担体として知られる。」(下線は当審による。)と記載されており、ここではリポソームとの文言が記載されているといえるものの、多種多様なナノキャリヤーのうちの一例としてリポソームが挙げられているに過ぎない。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】以降にはジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が実際に作られたことを示す実験データも記載されておらず、リポソームを用いた場合にジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が得られることを裏付ける論理的な記載もなされていない。加えて、本願明細書の発明の詳細な説明には、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤がウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において実際に使用できることを示す薬理試験結果は記載されておらず、また、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤がウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において実際に使用できることを裏付ける論理的な記載もなされていない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】?【0045】、図5、図6には、ジャスモン酸メチルまたはジャスモン酸と、シクロデキストリン(CD)もしくはデンドリマーとにより封入化合物を形成した場合に良好な安定性が得られたことが示されている。しかしながら、これらの記載はシクロデキストリン(CD)もしくはデンドリマーを使用した場合の記載であって、リポソームをした場合にジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が形成されるかどうかは言及されていない。
加えて、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】には「本発明の調製の例」として「ジャスモン酸とナノキャリヤー又はミクロキャリヤー間の封入化合物は、ゼロではない1molまでの濃度のモルを、ホスト分子の当量の部分と混合することによって調製することができる。調製の方法は、水又は他の溶液中の溶液のジャスモン酸ファミリーの化合物を、医薬的に受容可能な塩と混合機にかけることができる。得られた溶液を、成分が溶媒中に完全に溶解するまで撹拌する。通常混合機にかける時間は数時間であり、混合物は熱力学的平衡になる(Rajewski & Stella,1996)。」と記載されているものの、ここには、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤を得るための具体的な調製条件は何ら示されていない。
そうすると、発明の詳細な説明にはジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤が、当業者が本願発明の解決すべき課題、すなわち副作用を最小にした、ウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において使用するための、ジャスモン酸化合物を含有する医薬の提供という課題を解決できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

エ 次に、本願発明が当業者が出願時の技術常識等に照らして本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
本願の出願時においては、審判請求人が審判請求書の請求の理由(3-2)で主張するとおり、リポソームには、(1)溶解性の低さが経口での生物利用可能性の低さ/結果の不一致の原因となり得ること、(2)短い半減期、(3)リン脂質成分が体内で酸化と加水分解を受けて不安定化の原因となる場合があること、(4)漏れやリポソームキャリヤーの融着が通常的な問題であること、(5)生産にかかる高い費用、(6)リポソーム生産におけるばらつき、(7)薬剤封入効率の低さ、(8)薬剤放出時間に大きなばらつきがあること、(9)放出時に局所で薬剤が高濃度となることによる毒性といった制限及び不都合があることから、リポソームを作ることは技術常識であったとしても、実際に薬剤送達において薬剤を安定に封入したリポソームが得られるかは当業者でも予測がつかないといえる。このことは、審判請求人が提出した、平成26年9月26日受付けの手続補足書における参考資料1及び参考資料2からも理解される。
また、例えば、特表2004-525163号公報(原審による平成25年9月2日付け拒絶理由通知書で引用された引用文献2であり、かつ、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】で記載された「US2002/0173470」の日本語ファミリー)をみても、ジャスモン酸化合物がウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において有用性を有することについて記載はなく、また、他にジャスモン酸化合物がウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において有用性を有するとの技術常識も存在しない。
そうすると、技術常識に照らしても、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の解決すべき課題、すなわち副作用を最小にした、ウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において使用するための、ジャスモン酸化合物を含有する医薬の提供という課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められない。

オ 審判請求人は、平成26年9月26日受付けの手続補足書における参考資料3として、ジヒドロジャスモン酸メチルをリポソームに担持させた製剤が、癌の増殖を抑制し得たことを示す実験成績証明書を提出している。
しかしながら、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤は、出願時の技術常識に照らしても発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の解決すべき課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないことは上記イ?エで既述のとおりである。そうすると、参考資料3は発明の詳細な説明を補充したものとはいえない。
そして、特許出願後に上記実験成績証明書を提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することよって、実施可能要件・サポート要件に適合させることは、先願主義を採用し、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないことから、上記実験成績証明書は参酌し得ない。
仮に参考資料3を参酌したとしても、参考資料3にはリポソームによって運ばれたジヒドロジャスモン酸メチルが各種癌細胞の増殖を抑制することが示されているが、ジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤のウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療における有用性を確認した実験結果は何ら示されていない。そうすると、参考資料3によっても、依然としてジャスモン酸化合物とリポソームとを組み合わせた医薬製剤によって、副作用を最小にした、ウイルス性、細菌性、または真菌性疾病の治療において使用するための、ジャスモン酸化合物を含有する医薬を提供できることが当業者に認識できるように明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

カ そうすると、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明でなく、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないし、当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

4.むすび

以上のとおり、本願請求項1を引用する請求項8に係る発明は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の要件を満たさず特許を受けることができないから、ほかの請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-15 
結審通知日 2016-04-18 
審決日 2016-05-02 
出願番号 特願2011-517717(P2011-517717)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 文彦  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 穴吹 智子
横山 敏志
発明の名称 ジャスモン酸及びその誘導体とナノキャリヤー又はミクロキャリヤー間の医薬製剤  
代理人 中濱 明子  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
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