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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
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管理番号 | 1318908 |
審判番号 | 不服2015-21012 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-26 |
確定日 | 2016-09-29 |
事件の表示 | 特願2011-173551「カードリーダ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月21日出願公開、特開2013- 37555、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成23年8月9日を出願日とする出願であって,平成27年1月23日付けで拒絶理由通知がなされ,同年3月23日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたが,同年8月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年11月26日付けで拒絶査定不服審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。 第2.平成27年11月26日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の適否 1.本件補正及び本件補正前の特許請求の範囲 (本件補正) 「【請求項1】 カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダにおいて, 前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に異物が取り付けられたことを検知するための異物検知装置と,前記異物検知装置の近傍に配置され前記異物検知装置の周囲温度を測定する温度センサと,前記カードリーダを制御する制御部とを備え, 前記異物検知装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え, 前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されるとともに,前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され, 前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに,前記温度センサで測定された前記異物検知装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記異物検知装置に異常が生じているとして,異常処理を実行することを特徴とするカードリーダ。 【請求項2】 前記制御部は,前記温度補正処理として,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別するために前記異物検知装置からの出力値と比較される閾値を,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じて補正することを特徴とする請求項1記載のカードリーダ。 【請求項3】 前記制御部は,前記異常処理として,前記カードリーダが搭載される上位装置へ異常発生信号を出力することを特徴とする請求項1または2記載のカードリーダ。 【請求項4】 前記異物検知装置は,金属材料を含む前記異物が前記カード挿入部の前面側に取り付けられたことを検知するための金属センサであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカードリーダ。 【請求項5】 前記カード挿入部は,前記カード挿入部の前方に向かって突出する中空状の突出部を備え, 前記金属センサおよび前記中継基板は,前記突出部の内部に配置されていることを特徴とする請求項4記載のカードリーダ。 【請求項6】 カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダにおいて, 前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に配置され磁界を発生させる磁界発生装置と,前記磁界発生装置の近傍に配置され前記磁界発生装置の周囲温度を測定する温度センサと,前記カードリーダを制御する制御部とを備え, 前記磁界発生装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え, 前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されるとともに,前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され, 前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに,前記温度センサで測定された前記磁界発生装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記温度センサで測定される前記磁界発生装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記磁界発生装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記磁界発生装置に異常が生じているとして,異常処理を実行することを特徴とするカードリーダ。 【請求項7】 前記磁界発生装置は,前記カード挿入部の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサであり, 前記制御部は,前記温度補正処理として,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別するために前記金属センサからの出力値と比較される閾値を,前記温度センサで測定される前記金属センサの周囲温度に応じて補正することを特徴とする請求項6記載のカードリーダ。 【請求項8】 前記制御部は,前記異常処理として,前記カードリーダが搭載される上位装置へ異常発生信号を出力することを特徴とする請求項6または7記載のカードリーダ。 (本件補正前) 「【請求項1】 カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダにおいて, 前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に異物が取り付けられたことを検知するための異物検知装置と,前記異物検知装置の近傍に配置され前記異物検知装置の周囲温度を測定する温度センサと,前記カードリーダを制御する制御部とを備え, 前記制御部は,前記温度センサで測定された前記異物検知装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記異物検知装置に異常が生じているとして,異常処理を実行し, 前記異物検知装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え, 前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されていることを特徴とするカードリーダ。 【請求項2】 前記制御部は,前記温度補正処理として,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別するために前記異物検知装置からの出力値と比較される閾値を,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じて補正することを特徴とする請求項1記載のカードリーダ。 【請求項3】 前記制御部は,前記異常処理として,前記カードリーダが搭載される上位装置へ異常発生信号を出力することを特徴とする請求項1または2記載のカードリーダ。 【請求項4】 前記異物検知装置は,金属材料を含む前記異物が前記カード挿入部の前面側に取り付けられたことを検知するための金属センサであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカードリーダ。 【請求項5】 前記カード挿入部は,前記カード挿入部の前方に向かって突出する中空状の突出部を備え, 前記金属センサおよび前記中継基板は,前記突出部の内部に配置されていることを特徴とする請求項4記載のカードリーダ。 【請求項6】 前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のカードリーダ。 【請求項7】 カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダにおいて, 前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に配置され磁界を発生させる磁界発生装置と,前記磁界発生装置の近傍に配置され前記磁界発生装置の周囲温度を測定する温度センサと,前記カードリーダを制御する制御部とを備え, 前記制御部は,前記温度センサで測定された前記磁界発生装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記温度センサで測定される前記磁界発生装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記磁界発生装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記磁界発生装置に異常が生じているとして,異常処理を実行し, 前記磁界発生装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え, 前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されていることを特徴とするカードリーダ。 【請求項8】 前記磁界発生装置は,前記カード挿入部の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサであり, 前記制御部は,前記温度補正処理として,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別するために前記金属センサからの出力値と比較される閾値を,前記温度センサで測定される前記金属センサの周囲温度に応じて補正することを特徴とする請求項7記載のカードリーダ。 【請求項9】 前記制御部は,前記異常処理として,前記カードリーダが搭載される上位装置へ異常発生信号を出力することを特徴とする請求項7または8記載のカードリーダ。」 2.補正の内容 (1)請求項1について 本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を, 「温度センサ」について,「前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」との事項を追加する補正(以下,「補正事項1」という。), また,「制御部」について,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに」との事項を追加する補正(以下,「補正事項2」という。)を含んでいる。 (2)請求項6について 本件補正は,特許請求の範囲の請求項6を, 「温度センサ」について,「前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」との事項を追加する補正(以下,「補正事項3」という。), また,「制御部」について,「前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに」との事項を追加する補正(以下,「補正事項4」という。)を含んでいる。 (3)本件補正により,平成27年3月23日付け手続補正による特許請求の範囲の請求項6は削除された。(以下,「補正事項5」という。) 3.補正の適否 (1)請求項1について 本件補正による補正事項1は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「温度センサ」について,明細書の第【0047】段落の記載に基づき「前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」との限定を付加するものである。 また,本件補正による補正事項2は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「制御部」について,本件補正前の平成27年3月23日付け手続補正による特許請求の範囲の請求項6の記載に基づき「前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに」との限定を付加するものである。 そして,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはない。 そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 ア.引用例 (ア)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2011/093340号(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与したものである。 a.「[0032]本形態のカードリーダ1は,ユーザが手動でカード2を移動させながら,カード2に記録された磁気データの読取およびカード2への磁気データの記録の少なくとも一方を行うための装置である。具体的には,カードリーダ1は,カードリーダ1の内部にカード2を挿入する際,あるいは,カードリーダ1からカード2を抜き取る際に磁気データの読取や記録を行ういわゆるディップ式のカードリーダであり,たとえば,ATM等の所定の上位装置に搭載されて使用される。 [0033]カードリーダ1は,図1,図2に示すように,磁気データの読取および磁気データの記録の少なくとも一方を行う磁気ヘッド3と,カード2に固定されるICチップに接触してデータのやりとりを行うIC接点4と,挿入されたカード2の抜取りを防止する抜取り防止レバー5と,カード2が挿入される挿入口6が形成されるカード挿入部7と,カード2が通過するカード通過路8が形成される本体フレーム9とを備えている。 [0034]本形態では,図1等に示すX方向にカード2が通過する。具体的には,X1方向にカード2が挿入され,X2方向にカード2が抜き取られる。すなわち,X1方向は,カード2の挿入方向であり,X2方向は,カード2の抜取り方向である。また,X方向に略直交する図1等のZ方向は,カード2の厚さ方向であり,X方向とZ方向とに略直交する図1等のY方向は,カード2の幅方向(短手幅方向)である。なお,以下の説明では,X1方向側を「奥(後ろ)」側,X2方向側を「手前(前)」側,Y1方向側を「右」側,Y2方向側を「左」側,Z1方向側を「上」側,Z2方向側を「下」側とする。 [0035]また,カードリーダ1は,カード2が挿入されたことを検知するためのセンサ10と,カード2の奥端がカードリーダ1の奥端側まで到達したことを検知するためのセンサ11と,カードリーダ1の前方の人間の動きを検知するための人体検知用の赤外線センサ12と,カード挿入部7の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサ13とを備えている。」 b.「[0050] 金属センサ13は,後述の励磁用コイル22,23が発生させる磁界の変化を後述の検出用コイル24で検出して金属部材を検知する磁気センサである。この金属センサ13は,カード挿入部7の前面側に配置されている。金属センサ13の詳細な構成および金属センサ13の配置の詳細については後述する。 [0051](金属センサの構成) 図4は,図2に示す金属センサ13の正面図である。図5は,図2に示す金属センサ13の構成を説明するための図である。 [0052]金属センサ13は,磁性材料で形成されるコア21と,コア21の中心軸CLを中心に巻回される一対の励磁用コイル22,23および検出用コイル24と,励磁用コイル22,23の端部が接続される端子25#27と,検出用コイル24の端部が接続される端子28,29とを備えている。この金属センサ13は,インサート成型で形成されており,コア21,励磁用コイル22,23および検出用コイル24は,絶縁性の樹脂材料で形成されたハウジング30の内部に配置されている。また,端子25#29の一端側は,ハウジング30から突出している。」 c.「[0066]ここで,図6に示すように,犯罪者によって,カード挿入部7の前面側の,検知可能領域R1,R2にスキミング用磁気ヘッド51を備えるスキミング装置52が取り付けられると,スキミング用磁気ヘッド51は少なくとも金属部材を備えているため,金属センサ13がスキミング装置52を検知する。また,スキミング装置52によって,赤外線センサ12の受光部12aの全部または一部が遮られる。 [0067]本形態では,金属センサ13が金属部材を検知すると,たとえ,赤外線センサ12が人間の動きを検知しても,抜取り防止レバー5がカード通過路8を閉鎖した状態を維持する。すなわち,本形態では,金属センサ13がスキミング装置52を検知した場合には,たとえ,赤外線センサ12が人間の動きを検知しても,抜取り防止レバー5がカード通過路8を閉鎖した状態を維持して,ユーザによるカード2の挿入を阻止する。また,金属センサ13がスキミング装置52を検知した場合には,カードリーダ1は,上位装置に対して異常が発生したことを知らせる異常信号を送信する。なお,異常信号を受信した上位装置は,たとえば,上位装置のディスプレイに異常が発生している旨を表示する,および/または,ブザーを鳴らす等の所定の動作を行って,ユーザに異常が発生していることを知らせる。」 d.以上のa?cの記載によれば,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「カードリーダ1は,カード2に記録された磁気データの読取およびカード2への磁気データの記録の少なくとも一方を行うための装置であって,たとえば,ATM等の所定の上位装置に搭載されて使用されるものであり, カードリーダ1は,磁気データの読取および磁気データの記録の少なくとも一方を行う磁気ヘッド3と,カード2が挿入される挿入口6が形成されるカード挿入部7と,カード挿入部7の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサ13とを備え, 金属センサ13は,後述の励磁用コイル22,23が発生させる磁界の変化を後述の検出用コイル24で検出して金属部材を検知する磁気センサであり,金属センサ13は,磁性材料で形成されるコア21と,コア21の中心軸CLを中心に巻回される一対の励磁用コイル22,23および検出用コイル24と,励磁用コイル22,23の端部が接続される端子25#27と,検出用コイル24の端部が接続される端子28,29とを備えており, 犯罪者によって,カード挿入部7の前面側の,検知可能領域R1,R2にスキミング用磁気ヘッド51を備えるスキミング装置52が取り付けられると,スキミング用磁気ヘッド51は少なくとも金属部材を備えているため,金属センサ13がスキミング装置52を検知し,金属センサ13がスキミング装置52を検知した場合には,抜取り防止レバー5がカード通過路8を閉鎖した状態を維持して,ユーザによるカード2の挿入を阻止し,また,金属センサ13がスキミング装置52を検知した場合には,カードリーダ1は,上位装置に対して異常が発生したことを知らせる異常信号を送信する,カードリーダ1。」 (イ)原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-169652号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与したものである。 a.「【背景技術】 【0002】 近年,クレジットカード,キャッシュカード等を利用し決済を行う決済端末において,磁気カードデータを不正に読み取って悪用する事件が多く発生している。 【0003】 この様な事件では,磁気カードデータを不正に読み取る手段として,決済端末内部に磁気カードデータを読み取るためのスキミング装置が取り付けられていることが多い。 【0004】 この様なスキミング装置を決済端末内部に設置するためには,決済端末の上蓋を開く必要がある。 【0005】 そのため,決済端末に対する,スキミング装置を設置する等の不正工作を検出するために,決済端末の上蓋の物理的開閉を監視する方法が講じられている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかし,最近では,決済端末の上蓋を開けることなく,決済端末に穴を開け,そこからスキミング装置を設置する等の不正工作が行なわれるケースが増えている。 【0008】 そのため,上述したような,決済端末の上蓋の物理的開閉を監視する方法だけでは,不正工作を検出しきれなくなっている。 【0009】 また,決済端末の上蓋の物理的開閉を監視するスイッチ・センサは,上蓋の開閉を検出するための機械接点を有するものが多く,外部振動・衝撃に弱く,誤検出が発生するケースも多々見受けられる。 【0010】 そのため,決済端末においては,スキミング装置を設置する等の不正工作を,決済端末の上蓋の物理的開閉を監視する方法以外の方法で検出する必要があるという課題がある。 【0011】 本発明の目的は,上述した課題を解決することができる決済端末および決済端末が行う不正工作検出方法を提供することにある。」 b.「【0018】 (第1の実施形態) 図1に,本発明の第1の実施形態の決済端末の構成を示す。 【0019】 図1に示すように,本実施形態の決済端末は,内部温度センサ110と,温度センサコントロール部130と,温度コントロール部140と,異常検出制御部150と,を有している。また,本実施形態の決済端末は,上述した構成要素以外に,通常の決済処理を行うための手段(不図示)も有するものとする。 【0020】 内部温度センサ110は,決済端末の内部温度を計測する。 【0021】 温度センサコントロール部130は,内部温度センサ110が計測した決済端末の内部温度が,あらかじめ設定されている温度範囲に収まっているかを一定時間間隔で判定する。温度センサコントロール部130は,決済端末の内部温度が温度範囲に収まっていない場合,内部温度が最後に温度範囲に収まっていた時刻から,あらかじめ設定されている飽和時間が経過しているかを判定する。 【0022】 温度コントロール部140は,内部温度が最後に温度範囲に収まっていた時刻から,飽和時間が経過していない場合,決済端末の内部温度が温度範囲に収まるように決済端末の内部温度の調整を行う。 【0023】 異常検出制御部150は,内部温度が最後に温度範囲に収まっていた時刻から,飽和時間が経過している場合,不正工作が行われていると判断し,あらかじめ設定されている連絡先に異常警報を送信する。 ・・・(途中省略)・・・ 【0031】 そのため,決済端末にスキミング装置を設置する等の不正工作を行うために,決済端末の上蓋を開放もしくは穴を開けた場合,外気が流入し,飽和時間内に決済端末の内部温度が温度範囲に収まらなくなるため,不正工作が行われていると判断されることになる。」 c.以上のa及びbの記載によると,引用例2には以下の技術(以下,「引用例2記載技術」という。)が記載されているものと認められる。 「クレジットカード,キャッシュカード等を利用し決済を行う決済端末において,決済端末の上蓋を開けることなく,決済端末に穴を開け,そこからスキミング装置を設置する等の不正工作が行なわれるケースが増えていることから,スキミング装置を設置する等の不正工作を,決済端末の上蓋の物理的開閉を監視する方法以外の方法で検出する必要があるという課題を解決するために, 決済端末は,内部温度センサ110と,温度センサコントロール部130と,温度コントロール部140と,異常検出制御部150と,を有し 内部温度センサ110は,決済端末の内部温度を計測し, 温度センサコントロール部130は,内部温度センサ110が計測した決済端末の内部温度が,あらかじめ設定されている温度範囲に収まっているかを一定時間間隔で判定し, 温度センサコントロール部130は,決済端末の内部温度が温度範囲に収まっていない場合,内部温度が最後に温度範囲に収まっていた時刻から,あらかじめ設定されている飽和時間が経過しているかを判定し, 温度コントロール部140は,内部温度が最後に温度範囲に収まっていた時刻から,飽和時間が経過していない場合,決済端末の内部温度が温度範囲に収まるように決済端末の内部温度の調整を行い, 異常検出制御部150は,内部温度が最後に温度範囲に収まっていた時刻から,飽和時間が経過している場合,不正工作が行われていると判断し,あらかじめ設定されている連絡先に異常警報を送信しすることで, 決済端末にスキミング装置を設置する等の不正工作を行うために,決済端末の上蓋を開放もしくは穴を開けた場合,外気が流入し,飽和時間内に決済端末の内部温度が温度範囲に収まらなくなるため,不正工作が行われていると判断する技術。」 (ウ)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-335288号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与したものである。 a.「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 ところが,上述したような紙幣入金機の異物処理装置では,検知コイルの検出値が,予め設定したしきい値を越えたか否かによって,異物である金属物の存在を判定するようにしているが,検知コイルの発振周波数は,温度や印加電圧の変動によって変化するので,これによって紙幣装填部に金属物が存在しても,検知コイルの検出値がしきい値を越えずに当該金属物を検知できないことがあり,検知精度の点で問題があった。」 b.「【0020】 【実施例】以下,本発明に係わる混入金属検知装置の一実施例を図1?図4に基づいて説明する。図1は本発明が適用された紙幣入金機の正面概略図であって,この図において符号1は紙幣Sが集積状態で載置される紙幣載置板を示している。この紙幣載置板1の上方位置には紙幣押さえ板2が設けられている。この紙幣押さえ板2は,支軸3Aを中心として上下方向に回転自在に設けられたアーム3の先端部に,支持軸2Aを中心として回転自在に支持されているものであって,その下面で紙幣載置板1上に集積状態に載置された紙幣Sを上方から押さえるものである。 【0021】紙幣載置板1の下方位置には,紙幣Sの蹴り出し方向と直交する方向の支軸7を中心として回転し,その周面上部が紙幣載置板1の上面から僅かに突出している蹴り出しローラ6が設けられており,この蹴り出しローラ6の回転によって,紙幣載置板1上に載置された紙幣Sが下側から矢印a方向に一枚ずつ蹴り出されるようになっている。また,紙幣載置板1には,図2に示すように該紙幣載置板1上の紙幣Sの有無を検知する紙幣検知センサ5が設けられている。 【0022】一方,紙幣載置板1の裏側には,紙幣載置板1近傍に異物である金属物(例えば,硬貨,金属片など)が混入しているか否かを検知するための検知コイル4が設けられている。この検知コイル4は,図2の背面図に示すようにボビン30に巻かれることにより形成されているものであって,一定の電流を流すことにより生じた磁束中に,当該磁束を変化させる異物が入り込んで誘導起電力が生じた場合に,該異物を混入金属と判定するものである。具体的には,この検知コイル4に対して,当該検知コイル4のインダクタンスに応じた周波数を発振し,この周波数の変化によって,この検知コイル4の周辺に生じている磁束中に,異物である混入金属が存在するか否かを判定するものである(詳細は図4のフローチャートにて説明する)。なお,この蹴り出しローラ6は,紙幣載置板1及びボビン30に形成された開口部1Aを経由して該紙幣載置板1の上面から突出される。」 c.「【0041】以上詳細に説明したように本実施例に示す紙幣入金機における混入金属検知装置によれば,ステップ1にて,検知コイル4にて検出された検出値をサンプリングした後,ステップ4にて,該検知コイル4の検出値から得られたサンプリング値SDに対して,予め設定しておいた四則演算を行うことによって,紙幣載置板1近傍に混入金属が存在するか否かの基準となる設定しきい値CDを設定する。そしてその後,ステップ2・7・10にて,該ステップ4にて設定された設定しきい値CDと,ステップ1・6・9にてサンプリングされたサンプリング値SDとを比較し,当該サンプリング値SDが,ステップ4にて設定された設定しきい値CDを越えたことが検知されたとの比較結果を得た場合に(ステップ2のOVER,ステップ7のOVER,ステップ10のOVER),紙幣載置板1近傍に混入金属が存在すると判定して,紙幣Sの繰出動作前にあっては,アラームを行うとともに,繰出部機構24に対して紙幣Sの繰出動作を禁止させ,紙幣Sの繰出動作後にあっては,繰出動作を停止させた上でアラームを行うようにしている(ステップ3及びステップ13・14)。また,上述したような,紙幣載置板1の近傍に混入金属が存在しているか否かの判定基準となる設定しきい値CDは,ステップ4にて,時間の経過に合わせて順次設定変更するようにしているので,当該設定しきい値CDを,周囲の温度,印加電圧といった周辺条件に合わせた最適値とすることができ,従来のように温度,印加電圧といった周辺条件が変化した場合であっても確実に混入金属を検知できる効果が得られる。」 d.以上のa?cの記載によると,引用例3には以下の技術(以下,「引用例3記載技術」という。)が記載されているものと認められる。 「紙幣入金機の異物処理装置では,検知コイルの検出値が,予め設定したしきい値を越えたか否かによって,異物である金属物の存在を判定するようにしているが,検知コイルの発振周波数は,温度や印加電圧の変動によって変化するので,これによって紙幣装填部に金属物が存在しても,検知コイルの検出値がしきい値を越えずに当該金属物を検知できないことがあり,検知精度の点で問題があったという課題を解決するために, 紙幣入金機の紙幣Sが集積状態で載置される紙幣載置板の裏側に,紙幣載置板1近傍に異物である金属物(例えば,硬貨,金属片など)が混入しているか否かを検知するための検知コイル4が設けられ,この検知コイル4に対して,当該検知コイル4のインダクタンスに応じた周波数を発振し,この周波数の変化によって,この検知コイル4の周辺に生じている磁束中に,異物である混入金属が存在するか否かを判定するものであり, 紙幣入金機における混入金属検知装置によれば,ステップ1にて,検知コイル4にて検出された検出値をサンプリングした後,ステップ4にて,該検知コイル4の検出値から得られたサンプリング値SDに対して,予め設定しておいた四則演算を行うことによって,紙幣載置板1近傍に混入金属が存在するか否かの基準となる設定しきい値CDを設定し,そしてその後,ステップ2・7・10にて,該ステップ4にて設定された設定しきい値CDと,ステップ1・6・9にてサンプリングされたサンプリング値SDとを比較し,当該サンプリング値SDが,ステップ4にて設定された設定しきい値CDを越えたことが検知されたとの比較結果を得た場合に(ステップ2のOVER,ステップ7のOVER,ステップ10のOVER),紙幣載置板1近傍に混入金属が存在すると判定し, 紙幣載置板1の近傍に混入金属が存在しているか否かの判定基準となる設定しきい値CDは,ステップ4にて,時間の経過に合わせて順次設定変更するようにしているので,当該設定しきい値CDを,周囲の温度,印加電圧といった周辺条件に合わせた最適値とすることができ,従来のように温度,印加電圧といった周辺条件が変化した場合であっても確実に混入金属を検知できる効果が得られる,技術。」 イ.対比 補正発明1と引用発明を対比する。 (ア)補正発明1の「カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダ」との事項について,引用発明の「カードリーダ1は,カード2に記録された磁気データの読取およびカード2への磁気データの記録の少なくとも一方を行うための装置であって,たとえば,ATM等の所定の上位装置に搭載されて使用されるものであり」及び「カードリーダ1は,磁気データの読取および磁気データの記録の少なくとも一方を行う磁気ヘッド3と,カード2が挿入される挿入口6が形成されるカード挿入部7と,カード挿入部7の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサ13とを備え」との事項によると,「カードリーダ1」は,「カード2に記録された磁気データの読取およびカード2への磁気データの記録の少なくとも一方を行うための装置」であり,また,「カードリーダ1」は「磁気データの読取および磁気データの記録の少なくとも一方を行う磁気ヘッド3」を備えている。 そうすると,補正発明1と引用発明は, 「カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダ」 である点で一致する。 (イ)補正発明1の「前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に異物が取り付けられたことを検知するための異物検知装置と,前記異物検知装置の近傍に配置され前記異物検知装置の周囲温度を測定する温度センサと,前記カードリーダを制御する制御部とを備え」との事項について,引用発明の「カードリーダ1は,磁気データの読取および磁気データの記録の少なくとも一方を行う磁気ヘッド3と,カード2が挿入される挿入口6が形成されるカード挿入部7と,カード挿入部7の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサ13とを備え」との事項によると,引用発明も「カード2が挿入される挿入口6が形成されるカード挿入部7」を備えており,これは補正発明1の「前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部」に相当するものである。 また,引用発明は「カード挿入部7の前面側に金属材料を含む異物が取り付けられたことを検知するための金属センサ13」を備えており,この「金属センサ13」は補正発明1の「異物検知装置」の一つであるから,補正発明1の「前記カード挿入部の前面側に異物が取り付けられたことを検知するための異物検知装置」に相当するものである。 そうすると,補正発明1と引用発明は, 「前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に異物が取り付けられたことを検知するための異物検知装置とを備え」 る点で共通し, 補正発明1の「前記異物検知装置の近傍に配置され前記異物検知装置の周囲温度を測定する温度センサと,前記カードリーダを制御する制御部」を引用発明が備えていない点で相違している。 (ウ)補正発明1の「前記異物検知装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え」との事項について,引用発明の「金属センサ13は,後述の励磁用コイル22,23が発生させる磁界の変化を後述の検出用コイル24で検出して金属部材を検知する磁気センサであり,金属センサ13は,磁性材料で形成されるコア21と,コア21の中心軸CLを中心に巻回される一対の励磁用コイル22,23および検出用コイル24,励磁用コイル22,23の端部が接続される端子25#27と,検出用コイル24の端部が接続される端子28,29とを備えており」によると,引用発明の「金属センサ13」も,「磁性材料で形成されるコア21」と,「コア21の中心軸CLを中心に巻回される一対の励磁用コイル22,23および検出用コイル24」を備えるものである。 そうすると,補正発明1と引用発明は, 「前記異物検知装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え」 る点で一致する。 (エ)補正発明1の「前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに,前記温度センサで測定された前記異物検知装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記異物検知装置に異常が生じているとして,異常処理を実行する」との事項について,引用発明の「犯罪者によって,カード挿入部7の前面側の,検知可能領域R1,R2にスキミング用磁気ヘッド51を備えるスキミング装置52が取り付けられると,スキミング用磁気ヘッド51は少なくとも金属部材を備えているため,金属センサ13がスキミング装置52を検知し,金属センサ13がスキミング装置52を検知した場合には,抜取り防止レバー5がカード通過路8を閉鎖した状態を維持して,ユーザによるカード2の挿入を阻止し,また,金属センサ13がスキミング装置52を検知した場合には,カードリーダ1は,上位装置に対して異常が発生したことを知らせる異常信号を送信する」との事項によると,引用発明も「カード挿入部7の前面側の,検知可能領域R1,R2にスキミング用磁気ヘッド51を備えるスキミング装置52が取り付けられる」と,「金属センサ13がスキミング装置52を検知し」,「抜取り防止レバー5がカード通過路8を閉鎖した状態を維持して,ユーザによるカード2の挿入を阻止し」,また,「カードリーダ1は,上位装置に対して異常が発生したことを知らせる異常信号を送信する」などのいわゆる異常処理を実行するものであるから,補正発明1の「前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理」により「異常処理を実行する」点で共通している。 また,引用発明の「カードリーダ1」でも,読み取り及び書き込み制御,上記「金属センサ13」による異物の検知及び異常処理のための制御が行われていることは明らかであって,記載がなくとも「カードリーダ1」を制御する制御部が存在することは当業者であれば自明である。 そうすると,補正発明1と引用発明は, 「カードリーダを制御する制御部」を備える点,及び「前記制御部は,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理により,異常処理を実行する」 点で共通し, 補正発明1では「前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに,前記温度センサで測定された前記異物検知装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記異物検知装置に異常が生じているとして,異常処理を実行する」ものであるが,引用発明ではそのようになっていない点で相違する。 (オ)以上の(ア)?(エ)によると,補正発明1と引用発明は以下の点で一致し,また,相違する。 (一致点) 「カードに記録された磁気データの読取および/または前記カードへの磁気データの記録を行う磁気ヘッドを備えるカードリーダにおいて, 前記カードが挿入される挿入口が形成されるカード挿入部と,前記カード挿入部の前面側に異物が取り付けられたことを検知するための異物検知装置と,前記カードリーダを制御する制御部とを備え, 前記異物検知装置は,磁性材料で形成されるコアと,前記コアに巻回される励磁用コイルおよび検出用コイルとを備え, 前記制御部は,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理により,異常処理を実行することを特徴とするカードリーダ。」 (相違点) <相違点1> 補正発明1では「前記異物検知装置の近傍に配置され前記異物検知装置の周囲温度を測定する温度センサ」を備えているのに対し,引用発明は備えていない点。 <相違点2> 補正発明1では「前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されるとともに,前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」ているのに対し,引用発明はそのようになっていない点。 <相違点3> 補正発明1では「前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに,前記温度センサで測定された前記異物検知装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記異物検知装置に異常が生じているとして,異常処理を実行する」ものであるが,引用発明ではそのようになっていない点。 ウ.判断 上記相違点1?3は,どれも「温度センサ」に関する相違点であるのでまとめて検討する。 上記引用例2記載技術によれば,決済端末の内部に温度センサを設け,スキミング装置を設置するための不正工作を,上記温度センサにより計測した決済端末内の温度があらかじめ設定されている温度範囲に収まっているかにより検出するものが示されてはいるが,そもそも補正発明1の「異物検知装置」との配置関係,つまり相違点1でいう「前記異物検知装置の近傍に配置され前記異物検知装置の周囲温度を測定する」点,及び,相違点2の「前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されるとともに,前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」る点,また,「異物検知装置」との協同処理である相違点3の「前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行」する点については,記載も示唆もない。 また,上記相違点3の「前記カード挿入部の前面側に前記異物が取り付けられたか否かを判別する異物検知処理の際に前記温度センサで測定される前記異物検知装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行」する点について,上記引用例3記載技術によれば,紙幣入金機において異物である金属物を検知するための検知コイルの発振周波数が,温度や印加電圧の変動によって変化するために,検知精度に問題があるという課題があるという点において,上記相違点3の「温度補正処理」と共通の課題であるとはいえるものの,そもそも引用例3記載技術では温度センサを使用したものではないから,引用発明に当該引用例3記載技術を適用しても上記相違点3の「温度補正処理」の構成とはならないことは明らかであるし,また,引用発明に上記引用例2記載技術の温度センサを適用し,さらに上記引用例3記載技術を適用するとしても,上述したようにこの温度センサは「異物検知装置」と協同処理するためのものではないから,上記相違点3の「温度補正処理」の構成が導き出せるものではない。 してみれば,上記引用例2記載技術,及び引用例3記載技術を適用したとしても,上記相違点1-3を当業者が容易に想到し得たものということはできない。 したがって,補正発明1は,引用発明,引用例2記載技術,及び引用例3記載技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 よって,本件補正の補正事項1及び2は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 (2)請求項6について 本件補正による補正事項3は,請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「温度センサ」について,明細書の第【0047】段落の記載に基づき「前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」との限定を付加するものである。 また,本件補正による補正事項4は,請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「制御部」について,本件補正前の平成27年3月23日付け手続補正による特許請求の範囲の請求項6の記載に基づき「前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに」との限定を付加するものである。 そして,本件補正前の請求項7に記載された発明と本件補正後の請求項6に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはない。 そこで,本件補正後の請求項6に記載された発明(以下,「補正発明2」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 ア.引用例 上記第2.3.(1)ア.に示したとおりである。 イ.対比 補正発明2と引用発明を対比する。 補正発明2は,補正発明1における「異物検知装置」に代えて,「磁界を発生させる磁界発生装置」としたものであるが,引用発明の「金属センサ13」も磁界を発生させる磁界発生装置であることは明らかであることから,補正発明1と同様に以下の点で相違するものである。 <相違点1> 補正発明2では「前記磁界発生装置の近傍に配置され前記磁界発生装置の周囲温度を測定する温度センサ」を備えているのに対し,引用発明は備えていない点。 <相違点2> 補正発明2では「前記温度センサは,前記励磁用コイルの端部および前記検出用コイルの端部が接続される端子が実装された中継基板に実装されるとともに,前記中継基板の,前記端子が接続されるランドの近傍に実装され」ているのに対し,引用発明はそのようになっていない点。 <相違点3> 補正発明2では「前記制御部は,前記温度センサからの出力信号を継続的に監視するとともに,前記温度センサで測定された前記磁界発生装置の周囲温度が所定の上限値以下でかつ所定の下限値以上である場合,前記温度センサで測定される前記磁界発生装置の周囲温度に応じた温度補正処理を実行し,前記温度センサで測定される前記磁界発生装置の周囲温度が前記上限値を超えるか前記下限値未満である場合,前記磁界発生装置に異常が生じているとして,異常処理を実行する」ものであるが,引用発明ではそのようになっていない点。 ウ.判断 上記相違点について検討する。 上記相違点については,補正発明1と同様の相違点であり,前記第2.3.(1)ウ.で示したように,上記引用例2記載技術,及び引用例3記載技術を適用しても,上記相違点1-3を当業者が容易に想到し得たものということはできない。 したがって,補正発明2は,引用発明,引用例2記載技術,及び引用例3記載技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 よって,本件補正の補正事項3及び4は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 (3)補正事項5について 補正事項5は,本件補正前の請求項6を削除するものであり,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。 3.むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3.本願発明 本件補正は,上記のとおり,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして,本件補正により補正された請求項1に係る発明(補正発明1)及び請求項6に係る発明(補正発明2)は,上記第2.3.のとおり,当業者が引用発明,引用例2記載技術,及び引用例3記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 また,請求項1を直接または間接的に引用する請求項2-5は,補正発明1をさらに限定した発明であり,また,請求項6を直接または間接的に引用する請求項7及び8は,補正発明2をさらに限定した発明であるから,同様に当業者が引用発明,引用例2記載技術,及び引用例3記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-09-13 |
出願番号 | 特願2011-173551(P2011-173551) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06K)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 久保 正典 |
特許庁審判長 |
手島 聖治 |
特許庁審判官 |
金子 幸一 野崎 大進 |
発明の名称 | カードリーダ |
代理人 | 小平 晋 |