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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1319014
審判番号 不服2015-3290  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-20 
確定日 2016-09-06 
事件の表示 特願2012-268392「抗菌性ビグアニド金属錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日出願公開、特開2013- 75901〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年6月27日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月27日(GB)英国〕を国際出願日として出願した特願2008-518960号の一部を、平成24年12月7日に新たな特許出願として出願したものであって、
平成26年3月24日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年9月30日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、
平成26年10月14日付けの拒絶査定に対して、平成27年2月20日付けで審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の発明は、平成26年9月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「銀(III)である金属種、並びにポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、クロルヘキシジン(1,1’-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]及びo-トリルビグアニドからなる群から選択される生物学的に許容される配位子を含み、前記生物学的に許容される配位子が前記金属種と錯体を形成している化合物を含む、抗微生物活性を得るためのコーティング組成物。」

第3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成26年3月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、平成26年3月24日付けの拒絶理由通知書には「理由2」として『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』との理由が示されるとともに、その「下記の請求項」として請求項1が指摘され、その「下記の刊行物」として、引用文献1(特表2001-508041号公報)及び引用文献3(米国特許第5223149号明細書)が提示されている。

第4 当審の判断
1.引用文献1及び3並びにその記載事項
(1)引用文献1(特表2001-508041号公報)
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献1」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1?6及び34
「1.ポリカチオン材料と金属材料との安定、単離可能、かつ実質的に水不溶性の錯体を含んでなる抗菌組成物。
2.ポリカチオン高分子材料と殺菌性金属材料との錯体を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
3.ポリカチオン有機材料がビグアニド化合物である、請求項1に記載の組成物。
4.ビグアニド化合物がポリヘキサメチレンビグアニド、その塩またはその誘導体である、請求項1に記載の組成物。
5.前記金属材料が、金属、金属酸化物、金属塩、金属錯体、金属合金およびそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の組成物。
6.金属が銀である、請求項5に記載の組成物。…
34.ポリカチオン材料と実質的に水不溶性の殺菌金属材料との錯体を含んで成る抗菌組成物を表面被膜として有する医療機器、ヘルスケア機器またはパーソナルケア製品を含んでなる製品の物品。」

摘記1b:第11頁第3?11行
「一つの側面において、抗菌材料は、ポリカチオン配位子化合物と金属材料との錯体からなる。ポリカチオン化合物と金属材料は、抗菌特性を有する安定で単離可能な配位錯体を形成する。好ましい実施形態において、ポリカチオン化合物はポリマーである。もう一つの好ましい側面において、ポリカチオン化合物自体が抗菌活性を有する。現在好ましい実施形態において、ポリカチオン化合物はポリヘキサメチレンビグアニドであり、金属は銀、最も好ましくは沃化銀である。錯体は、好ましくは、錯体の微細粒子を含んで成る粉体などの乾燥形態である。
本発明はさらに、表面上に接触殺傷性かつ非侵出性の抗菌層または被膜を形成するための液体組成物を含んで成る。」

摘記1c:第28頁第6?9行
「本材料は、病院において使用される織布および不織布に、および顔マスクからベッドシーツに及ぶヘルスケア補給品上に塗布することもできる。本材料は噴霧または布の形態をとって被覆することができ、表面に被覆して表面を抗菌性にすることができる。」

摘記1d:第36頁第10?19行
「実施例13
沃化銀とポリ(ヘキサメチレンビグアニド)との錯体の調製
10gのCosmosilCQ(DE、ウィルミントンのゼネカ(ZenecaBiocides,))、10mlのエタノール(EtOH)および1.2gの沃化カリウム(KI)を一緒に混合した。0.5%(W/V)の沃化銀および6%(W/V)の沃化カリウムを含有する400mlの水性エタノール(1:1V/V)溶液に得られた溶液を滴下した。沈降した白色ゴム様の生成物を溶液から分離し、50mlの50%(V/V)水性エタノールでリンスし、50℃において18時間真空オーブン中で乾燥した。乾燥後に得られた銀含有生成物は、10.7%の銀含有率を有する透明な明黄色の半固体樹脂であった。」

(2)引用文献3(米国特許第5223149号明細書)
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献3」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記3a:第2欄第6?40行及び第3欄第3?22行
「本発明の主な目的は、組成物を水の供給系に添加した際に、特に水の効用を目的とした本体において、細菌及び藻類の増殖を死滅及び/又は阻害できる三価銀化合物からなる組成物の提供にある。
本発明の他の目的は、主として10分以内に100%死滅を達成可能な殺菌という、水泳プール及び温水浴についての標準EPA規格に適合可能な三価銀イオンの供給源を提供することである。
さらに本発明の他の目的は、上述の抗病原体の機能を奏し、かつ、ハロゲン化物の存在下において沈殿物の形成が問題とならない三価銀組成物の提供にある。
さらに本発明の他の目的は、上述の機能及び特徴の全てを有する一方で、その濃縮液の形態で皮膚や表面に接触した場合に、皮膚の着色や表面の変色を生じない三価銀組成物の提供にある。
さらに本発明の他の目的は、上述の機能の全てを有する一方で、水の効用を目的とした本体での実用化のための市販用濃縮液製品として処方できる三価銀組成物の提供にある。
さらに本発明の他の目的は、上述の機能及び特徴の全てを有する一方で、組成物に酸化剤を添加する必要なしに、その抗病原体の機能を奏し得る三価銀組成物の提供にある。
本発明の最後の目的は、上述の機能及び特徴の全てを有する一方で、一価の銀化合物とは異なり、光安定性でもある三価銀組成物の提供にある。
上記三価の銀錯体は、10分以内に細菌の100%死滅を要求する水泳プールのための環境保護局の議定書に従って、藻類のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の殺菌における有効性について、その後に評価された。…
濃橙色ないし茶褐色に着色した錯体は、日光への一定露光を3カ月間にわたり透明ガラス瓶の中で晒されたままにした。錯体は安定で銀に分解されなかった。
銀(III)錯体は、5000ppm程度の銀を含む濃縮形態でヒトの皮膚に適用しても、皮膚への着色を一切生じなかった。」

摘記3b:第5欄第2?24行
「実施例3 三価銀ビグアニド(Ag〔III〕bg)は、Journal of the Chemical Society(A) 1969, p.1304に記載されたD. Senの手順を微修正して調製した。化合物が6g/100ccのビグアニド硫酸(pH=2.8?3.0)を用いて蒸留水中の懸濁液の中で撹拌した。5gの炭酸水素ナトリウムをpHの調節のために徐々に添加した。最終的なpHは7.7であった。結果として、pH調節による透明な液が得られた。5ccの10%硝酸銀が透明な溶液に添加され、続いて20ccの5%過硫酸ナトリウムが添加された。2時間の最後に、栗色のAg(III)bgの美しい沈殿物が得られ、これをデカンテーションして、精製及び分離を行った。得られた化合物を蒸留水に懸濁し、Ag(III)が3ppmの溶液となるように連続して蒸留水で希釈した。過硫酸ナトリウムを、過硫酸が10ppmの最終濃度になるように溶液に添加した。得られた溶液を実施例1に記載したような同じ種類の大腸菌の効能のために同じ試験機関に寄託した。5分以内の大腸菌の100%抑制があった。」

摘記3c:請求項1
「安定な三価の銀の化合物を水に添加することからなる、水泳プール、工業用冷却塔、浴槽及び貯水槽の水の中の細菌や藻類の成長を抑制する方法。」

2.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘記1aの「1.ポリカチオン材料と金属材料との…錯体を含んでなる抗菌組成物…3.ポリカチオン有機材料がビグアニド化合物…4.ビグアニド化合物がポリヘキサメチレンビグアニド…5.前記金属材料が、金属…6.金属が銀…34.ポリカチオン材料と…殺菌金属材料との錯体を含んで成る抗菌組成物を表面被膜として有する医療機器」との記載、
摘記1bの「抗菌材料は、ポリカチオン配位子化合物と金属材料との錯体からなる。…好ましい実施形態において、ポリカチオン化合物はポリヘキサメチレンビグアニドであり、金属は銀…である。…本発明はさらに、表面上に接触殺傷性かつ非侵出性の抗菌層または被膜を形成するための液体組成物を含んで成る。」との記載、
摘記1cの「本材料は…塗布することもできる。本材料は噴霧…の形態をとって被覆することができ、表面に被覆して表面を抗菌性にすることができる。」との記載、及び
摘記1dの「実施例13 沃化銀とポリ(ヘキサメチレンビグアニド)との錯体の調製…乾燥後に得られた銀含有生成物は、10.7%の銀含有率を有する透明な明黄色の半固体樹脂であった。」との記載がなされている。
そして、摘記1dの「実施例13」で調製された「沃化銀とポリ(ヘキサメチレンビグアニド)との錯体」は、ポリカチオン配位子化合物である「ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)」と金属材料である「沃化銀」からなる錯体であって、当該錯体が抗菌材料であることは摘記1bの記載から明らかであり、当該抗菌材料を含んで成る抗菌組成物が、表面に被覆を形成するための組成物として用いられることも摘記1a、1b及び1cの記載から明らかであるから、引用文献1には、
『ポリカチオン配位子化合物〔ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)〕と金属材料(沃化銀)との錯体を含んで成る被膜を形成するための抗菌組成物。』についての発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリカチオン配位子化合物〔ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)〕」は、本願発明の「ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)」に合致する配位子化合物であるから、本願発明の「ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、クロルヘキシジン(1,1’-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]及びo-トリルビグアニドからなる群から選択される生物学的に許容される配位子」に相当する。
引用発明の「金属材料(沃化銀)」と、本願発明の「銀(III)である金属種」とは、両者とも「銀である金属種」である点において共通する。
引用発明の「ポリカチオン配位子化合物〔ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)〕と金属材料(沃化銀)との錯体」は、本願発明の「前記生物学的に許容される配位子が前記金属種と錯体を形成している化合物」に相当する。
引用発明の「被膜を形成するための抗菌組成物」は、本願発明の「抗微生物活性を得るためのコーティング組成物」に相当する。

そうしてみると、本願発明と引用発明の両者は『銀である金属種、並びにポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、クロルヘキシジン(1,1’-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]及びo-トリルビグアニドからなる群から選択される生物学的に許容される配位子を含み、前記生物学的に許容される配位子が前記金属種と錯体を形成している化合物を含む、抗微生物活性を得るためのコーティング組成物。』に関するものである点において一致し、
銀である金属種が、本願発明においては三価の「銀(III)」であるのに対して、引用発明においては「沃化銀」であって、酸化剤による処理もなされていないことから、実質的に一価の「銀(I)」である点において相違する。

4.判断
上記相違点について検討する。
摘記3aの「一価の銀化合物とは異なり、光安定性でもある三価銀組成物の提供…三価の銀錯体は、10分以内に細菌の100%死滅を要求する水泳プールのための環境保護局の議定書に従って、藻類のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の殺菌における有効性について、その後に評価された。…錯体は、日光への一定露光を3カ月間にわたり透明ガラス瓶の中で晒されたままにした。錯体は安定で銀に分解されなかった。…銀(III)錯体は、5000ppm程度の銀を含む濃縮形態でヒトの皮膚に適用しても、皮膚への着色を一切生じなかった。」との記載、
摘記3bの「実施例3 三価銀ビグアニド(Ag〔III〕bg)は、…6g/100ccのビグアニド硫酸…を用い…5ccの10%硝酸銀が…添加され、続いて20ccの5%過硫酸ナトリウムが添加され…最後に、栗色のAg(III)bgの美しい沈殿物が得られ、…精製及び分離を行った。…5分以内の大腸菌の100%抑制があった。」との記載、及び
摘記3cの「安定な三価の銀の化合物を水に添加することからなる、水泳プール、工業用冷却塔、浴槽及び貯水槽の水の中の細菌や藻類の成長を抑制する方法。」との記載にあるように、
引用文献3には、実施例3の具体例として、本願明細書の段落0060に記載された酸化剤に合致する「過硫酸ナトリウム」を用いて三価銀ビグアニド(Ag〔III〕bg)の錯体を美しい沈殿物として実際に調製したことが記載され、さらに当該銀(III)錯体が5分以内の大腸菌100%抑制という抗菌作用を示したことが記載されている。また、引用文献3に記載された発明としての銀(III)錯体が、3カ月間にわたる露光に晒されても錯体としての安定性を保ち、ヒトの皮膚に適用しても着色を一切生じないという機能を有することも記載されている。
そうしてみると、銀ビグアニド系錯体を用いた抗菌組成物の技術分野において、銀ビグアニド系錯体の銀をAg(III)の三価にまで酸化した場合に、優れた抗菌作用を示し、一価の場合に比べて安定性を有し、ヒトの皮膚に適用しても着色を生じないという優れた機能を発揮できることは、引用文献3に記載されているから、同じく銀ビグアニド系錯体を用いた抗菌組成物の技術分野に属する引用発明について、その銀ビグアニド系錯体の銀をAg(III)の三価にまで酸化して、その安定性や抗菌性を高めるようにしてみることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

次に、本願発明の効果について検討する。
本願明細書の段落0068の「粉末コーティングまたは吹き付け…によって物品に塗布することができる」という効果について、摘記1cの「本材料は…塗布することもでき…噴霧…の形態をとって被覆することができ、表面に被覆して表面を抗菌性にすることができる」との記載からみて、本願発明の塗布できるという効果が格別予想外であるとは認められない。
そして、本願明細書の段落0069の「長期間…保存することができる」という効果について、摘記3aの「錯体は、日光への一定露光を3カ月間にわたり透明ガラス瓶の中で晒されたままにした。錯体は安定で銀に分解されなかった」との記載にあるように、銀ビグアニド系錯体の銀を三価にまで酸化した場合に3カ月間保存しても分解されない程度の安定性が得られることが知られているから、本願発明の長期保存性という効果が格別予想外であるとは認められない。
また、本願明細書の段落0055の「銀化合物のモルベースの抗微生物効果は…銀(I)化合物の抗微生物効果を上回る」という効果について、摘記3bの「実施例3…5分以内の大腸菌の100%抑制があった」との記載にあるように、銀を三価にまで酸化した場合に5分以内の大腸菌100%抑制を示すという高い抗菌作用が得られることが知られているから、本願発明の高い抗微生物効果という効果が格別予想外であるとは認められない。
そうしてみると、本願発明に当業者にとって予想外の格別顕著な効果があるとは認められない。

したがって、本願発明は、引用文献1及び引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-18 
結審通知日 2016-03-28 
審決日 2016-04-15 
出願番号 特願2012-268392(P2012-268392)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 辰己 雅夫
木村 敏康
発明の名称 抗菌性ビグアニド金属錯体  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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