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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01M
管理番号 1319038
審判番号 不服2015-10488  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2016-09-08 
事件の表示 特願2010-183763「転がり軸受の異常診断装置および歯車の異常診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年3月1日出願公開、特開2012-42338〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年8月19日の出願であって、平成26年8月5日付けで拒絶理由が通知され、同年10月16日付けで意見書が提出されたが、平成27年3月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年6月3日に拒絶査定不服審判が請求された。
その後、当審において、平成28年2月3日付けで拒絶理由が通知され、同年3月30日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明は、平成28年6月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「転がり軸受の振動を測定するためのセンサと、
前記センサを用いて測定された振動波形に基づいて前記転がり軸受の異常を診断するための処理部とを備え、
前記処理部は、前記転がり軸受の異常により前記振動波形に周期的に表われるパルス状波形を逆のこぎり波状波形に変換する変換部を含み、
前記逆のこぎり波状波形は、前記パルス状波形の各々の包絡線よりも時間軸に沿った信号幅が広くかつ信号パワーが大きく、かつ、前記信号幅が一定であり、
前記処理部は、さらに、前記逆のこぎり波状波形の交流成分の実効値の大小によって前記転がり軸受の異常を診断する診断部を含む、転がり軸受の異常診断装置。」

ここで、「交流成分の実効値」とは、本願明細書の段落【0068】の「交流成分の実効値(『RMS(Root Mean Square値』とも称される。)」との記載及び段落【0072】の「算出された交流成分のデータの二乗平均平方根を算出することによって…交流成分の実効値をソフトウェア上で算出する」との記載から、交流成分の二乗平均平方根であると認められる。

第3 当審の拒絶理由通知
当審の平成28年4月22日付けの拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。

(理由3)
本願の請求項1?16に係る発明は、本願出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開昭58-127142号公報
刊行物2:特開平2-205727号公報
刊行物3:特開2008-134115号公報
刊行物4:特開昭53-103790号公報

第4 刊行物の記載事項
1 上記刊行物1(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(1)「第1図は本発明の軸受の傷検出装置の一実施例を示すブロック系統図である。
1は振動のセンサであり、回転中の例えばモータ、ブロア等のころがり軸受の機械的振動を電気信号に変換するものである。軸受に傷がない正常時にはその電気信号はホワイトノイズ的であり、第2図の実線で示される。又、軸受に傷やフレーキングがある異常時には周期的な衝撃振動が生じており第3図の実線で示される。次に、このセンサからの微小な電気信号を増巾器2で増幅した後例えば1KHzから数十KHzの通過特性を有する帯域濾波器3に供給し、信号中に含まれる駆動系や他の機械系から生ずる雑音及び電源の雑音等の不要な外乱成分を除去する。帯域濾波器3の出力は包絡線回路4に供給される。この包絡線回路4は例えば第4図に示すようなダイオード10と、これに直列に接続されたコンデンサ11及び抵抗器12の並列回路で構成できる。尚、コンデンサ11及び抵抗器12の時定数は第2図及び第3図の振動波形の周期より大きく、軸受の傷に基づく衝撃波形の周期より小さい例えば1m sec乃至10m sec程度の適当な時定数に選定される。従って、包絡線回路4の出力としては第2図及び第3図に破線で示す如き波形出力が得られる。包絡線回路4の出力は第1の実効値演算器5へ供給される。上述した帯域濾波器3の出力はまた第2の実効値演算器6へ供給される。この実効値演算器5,6は自乗平均平方根値即ち実効値を求めるものであるが、必ずしも実効値ではなく平均値(二乗平均値を含む)を算出する演算器でも良い。
次に第1及び第2の実効値演算器5,6の出力を割算器7へ供給して包絡線波形の実効値(平均値)を振動波形の実効値(平均値)で割って正規化し、振動波形の実効値(平均値)に対する包絡線波形の実効値(平均値)の比、即ち包絡線指数を求める。軸受に傷がない場合振動波形はどのような機械でも外乱振動が少ない時にはホワイトノイズに近いため、正規化を行なうと略一定の値となる。これに対して、軸受に傷がある異常な場合は包絡線波形が直流的に乱れて包絡線指数が上述の略一定の値より増加する。包絡線波形の乱れの程度は軸受の劣化の程度と相関性があるため、包絡線指数の値により軸受の劣化状態を知ることができる。
割算器7の出力は指示計8へ供給されて包絡線指数の値が表示されて視覚で軸受の傷の有無が識別され、必要に応じて割算器7の出力は警報回路9へも供給されて予め設定されたレベルを包絡線指数の値が越えた時に警報音が発生されて聴覚で軸受の傷の有無が識別される。」

(2)第3図から、破線で示される逆のこぎり波形の出力が見て取れる。




以上の(1)?(2)から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「振動のセンサ1は、ころがり軸受の機械的振動を電気信号に変換するものであり、
このセンサからの微小な電気信号を増巾器2で増幅した後例えば1KHzから数十KHzの通過特性を有する帯域濾波器3に供給し、信号中に含まれる駆動系や他の機械系から生ずる雑音及び電源の雑音等の不要な外乱成分を除去し、
帯域濾波器3の出力は包絡線回路4に供給され、この包絡線回路4はダイオード10と、これに直列に接続されたコンデンサ11及び抵抗器12の並列回路で構成でき、コンデンサ11及び抵抗器12の時定数は振動波形の周期より大きく、軸受の傷に基づく衝撃波形の周期より小さい例えば1m sec乃至10m sec程度の適当な時定数に選定され、包絡線回路4の出力としては逆のこぎり波形出力が得られ、
包絡線回路4の出力は第1の実効値演算器5へ供給され、帯域濾波器3の出力はまた第2の実効値演算器6へ供給され、この実効値演算器5,6は自乗平均平方根値即ち実効値を求めるものであり、
第1及び第2の実効値演算器5,6の出力を割算器7へ供給して包絡線波形の実効値を振動波形の実効値で割って正規化し、振動波形の実効値に対する包絡線波形の実効値の比、即ち包絡線指数を求め、
割算器7の出力は指示計8へ供給されて包絡線指数の値が表示されて視覚で軸受の傷の有無が識別され、割算器7の出力は警報回路9へも供給されて予め設定されたレベルを包絡線指数の値が越えた時に警報音が発生されて聴覚で軸受の傷の有無が識別される
軸受の傷検出装置。」(以下、「引用発明」という。)

2 上記刊行物2(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

「第1図は本発明の一実施例の構成を示すブロック図である。
図において、1は軸受の機械的振動を電気的振動に変換して出力するピックアップ、2はこのピックアップ1の出力を増幅する自動利得制御増幅器(東京無線器材株式会社製VCA101A)、3は増幅器2の出力から駆動系や他の機械系から生ずるノイズを除去する1?15kHzのバンドパスフィルタ、5はバンドパスフィルタ3の出力の実効値を演算し前記自動利得制御増幅器2の利得制御端子に供給する実効値演算器である。
4はバンドパスフィルタ3の出力を入力する第3図に示す構成の包絡線回路、6は包絡線回路4の出力を入力する実効値演算器、7は実効値演算器6の出力を入力しその値が所定値を越えたときランプや接点出力で警報を出す警報回路で、4,6,7は異常の有無を判定する手段を構成している。
包絡線回路4における抵抗33,コンデンサ32の時定数は、平常時の振動波形の周期より大きく、異常時のパルスの周期より小さい例えば1?10msec程度に選定し、半固定とする。
このように構成されているので、平常時、バンドパスフィルタ3の出力側には、実効値略一定の出力信号が得られ、軸受にフレーキングや傷等の異常があるときは、バンドパスフィルタ3の出力に、平常時の振動波形に間欠的に振幅の大きいパルスが加わった波形が得られ、包絡線回路4の出力の包絡線がふくらみ、実効値演算器6の出力が増大する。
実効値演算器6の出力が所定値を越えると、警報回路7によりランプの点灯,接点出力を出す等の報知が行われ、軸受の異常が検知される。なお、前記所定値は、予め実験により決定される。
判定対象の軸受の振動が大きいときは、自動利得制御増幅器2の利得が減少し、軸受の振動が小さいときは、増幅器2の利得が増大するので、手動による測定レンジの切換えを行わなくても、軸受の振動が大き過ぎて増幅器2が飽和するとか,軸受の振動が小さ過ぎて充分な信号が得られない,所定のS/Nが得られないといったことで異常検知不能になることがなく、又バンドパスフィルタ3の出力側に略一定の実効値の信号が得られるので、割算器を特に用いる必要がなく、異常の有無を判定する回路が簡単になる。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「ころがり軸受の機械的振動を電気信号に変換する」「振動のセンサ1」は、本願発明の「転がり軸受の振動を測定するためのセンサ」に相当する。

2 引用発明の「予め設定されたレベルを包絡線指数の値が越えた時に警報音が発生されて聴覚で」「ころがり」「軸受の傷の有無が識別される」「警報回路9」は、ころがり軸受の異常を診断しているものといえる。
したがって、引用発明の「ころがり軸受の機械的振動を電気信号に変換する」「振動のセンサ1」「からの微小な電気信号を」「増幅」する「増巾器2」、「帯域濾波器3」、「包絡線回路4」、「第1の実効値演算器5」、「第2の実効値演算器6」、「割算器7」、「指示計8」及び「予め設定されたレベルを包絡線指数の値が越えた時に警報音が発生されて聴覚で軸受の傷の有無が識別される」「警報回路9」からなるものは、本願発明の「前記センサを用いて測定された振動波形に基づいて前記転がり軸受の異常を診断するための処理部」に相当する。

3 引用発明の「軸受の傷に基づく衝撃波形」は、「周期」を持つものであり、本願発明の「転がり軸受の異常により前記振動波形に周期的に表れるパルス状波形」に相当する。
したがって、引用発明の「包絡線回路4はダイオード10と、これに直列に接続されたコンデンサ11及び抵抗器12の並列回路で構成でき、コンデンサ11及び抵抗器12の時定数は振動波形の周期より大きく」、「ころがり」「軸受の傷に基づく衝撃波形の周期より小さい例えば1m sec乃至10m sec程度の適当な時定数に選定され」、「出力としては逆のこぎり波形出力が得られ」る「包絡線回路4」は、本願発明の「前記転がり軸受の異常により前記振動波形に周期的に表われるパルス状波形を逆のこぎり波状波形に変換する変換部」に相当する。

4 引用発明の「コンデンサ11及び抵抗器12の時定数」が「振動波形の周期より大きく、軸受の傷に基づく衝撃波形の周期より小さい例えば1m sec乃至10m sec程度の適当な時定数に選定され、包絡線回路4の出力として」「得られる」「逆のこぎり波形」は、「振動波形」の各々の包絡線よりも時間軸に沿った信号幅が広くかつ信号パワーが大きく、かつ、信号幅が振動波形のパルス幅が変化しても時定数で定まる一定の幅になることは自明であるから、本願発明の「前記逆のこぎり波状波形は、前記パルス状波形の各々の包絡線よりも時間軸に沿った信号幅が広くかつ信号パワーが大きく、かつ、前記信号幅が一定であ」ることに相当する。

5 引用発明の「実効値演算器5,6」は「自乗平均平方根値即ち実効値を求めるものであり」、交流成分を対象とすることは自明であるから、上記第2の「交流成分の実効値」の認定を踏まえれば、本願発明の「交流成分の実効値」を求めるものであるといえる。
したがって、引用発明の「包絡線回路4の出力」である「逆のこぎり波形出力」が「供給され」る「第1の実効値演算器5」と、「帯域濾波器3の出力」が「供給され」る「第2の実効値演算器6」と、「第1及び第2の実効値演算器5,6の出力」を「供給して包絡線波形の実効値を振動波形の実効値で割って正規化」し、「振動波形の実効値に対する包絡線波形の実効値の比、即ち包絡線指数を求める」「割算器7」と、「割算器7の出力」が「供給されて予め設定されたレベルを包絡線指数の値が越えた時に警報音が発生されて聴覚で」「ころがり」「軸受の傷の有無が識別される」「警報回路9」とからなるものと、本願発明の「前記逆のこぎり波状波形の交流成分の実効値の大小によって前記転がり軸受の異常を診断する診断部」とは、「前記逆のこぎり波状波形の交流成分の実効値の大小に」基づいて「前記転がり軸受の異常を診断する診断部を含む」点で共通する。

6 引用発明の「ころがり」「軸受の傷検出装置」は、本願発明の「転がり軸受の異常診断装置」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「転がり軸受の振動を測定するためのセンサと、
前記センサを用いて測定された振動波形に基づいて前記転がり軸受の異常を診断するための処理部とを備え、
前記処理部は、前記転がり軸受の異常により前記振動波形に周期的に表われるパルス状波形を逆のこぎり波状波形に変換する変換部を含み、
前記逆のこぎり波状波形は、前記パルス状波形の各々の包絡線よりも時間軸に沿った信号幅が広くかつ信号パワーが大きく、かつ、前記信号幅が一定であり、
前記処理部は、さらに、前記逆のこぎり波状波形の交流成分の実効値の大小に基づいて前記転がり軸受の異常を診断する診断部を含む、転がり軸受の異常診断装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
処理部における診断部が転がり軸受の異常を診断するために用いる「逆のこぎり波状波形の交流成分の実効値」は、本願発明では「実効値」そのものであるのに対し、引用発明では「逆のこぎり波形出力」である「包絡線波形の実効値を振動波形の実効値で割って正規化し」た「包絡線指数」である点。

(相違点について)
刊行物2には、軸受の機械的振動を電気的振動に変換して出力するピックアップ1と、その出力を増幅する自動利得制御増幅器2と、その出力から駆動系や他の機械系から生ずるノイズを除去するバンドパスフィルタ3と、その出力の実効値を演算し、前記自動利得制御増幅器2の利得制御端子に供給する実効値演算器5を備え、判定対象の軸受の振動が大きいときは、自動利得制御増幅器2の利得が減少し、軸受の振動が小さいときは、増幅器2の利得が増大し、バンドパスフィルタ3の出力側に略一定の実効値の信号が得られるので、割算器を特に用いる必要がなく、異常の有無を判定する回路が簡単になるという技術事項が、記載されている。
そして、引用発明において、割算器を用いずに、異常の有無を判定する回路を簡単にするために、刊行物2の上記技術事項を適用して相違点2に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たというべきである。

(効果について)
本願発明の奏する効果は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項から、当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-08 
結審通知日 2016-07-12 
審決日 2016-07-25 
出願番号 特願2010-183763(P2010-183763)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小川 亮
藤田 年彦
発明の名称 転がり軸受の異常診断装置および歯車の異常診断装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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