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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1319081
審判番号 不服2015-1507  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-26 
確定日 2016-09-07 
事件の表示 特願2013- 44811「酸素含有半導体ウェハの処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日出願公開、特開2013-153183〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年1月20日、ドイツ連邦共和国、2006年3月29日、ドイツ連邦共和国、2006年9月4日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特願2008-550693号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年3月6日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月14日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月18日に意見書が提出されたが、同年9月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年1月26日に拒絶査定を不服とする審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成27年1月26日になされた手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成27年1月26日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?19を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?15に補正するものであり、そのうちの補正前後の請求項は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
垂直パワー半導体素子であって、
チョクラルスキー法に従って形成されていると共に酸素析出物の低い半導体ゾーン(103)を有する半導体基板(100')を備えた半導体基材と、
上記素子がオフ状態において駆動された際に逆電圧に耐え得るように設計されており、且つ、少なくとも部分的には、酸素析出物の低い上記半導体ゾーン(103)内に配置されており、且つ、水素誘起ドナーによって形成されたn型基本ドーピングを有している、素子ゾーン(23;32)とを有している、垂直パワー半導体素子。
【請求項2】
上記半導体基材は、上記半導体基板に付着されたエピタキシャル層(200)を有しており、上記逆電圧に耐え得る上記ゾーンは、部分的には上記エピタキシャル層(200)内に配置されている、請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
上記逆電圧に耐え得る上記ゾーンを形成するドリフトゾーン(23)を有するMOSFETまたはIGBTとして構成されている、請求項1または2に記載の半導体素子。
【請求項4】
上記逆電圧に耐え得る上記ゾーンを形成するn型ベースを有するサイリスタまたはダイオードとして形成されている、請求項1または2に記載の半導体素子。
【請求項5】
ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有しており、第1の面(101)と、当該第1の面(101)の反対側の第2の面(102)と、当該第1の面(101)に隣接する第1の半導体領域(103')と、上記第2の面(102)に隣接する第2の半導体領域(104')とを有している酸素含有半導体ウェハ(100)の処理方法であって、
上記第2の半導体領域(104')内に格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程を含んでいる方法。
【請求項6】
上記ウェハ(100)が700℃?1100℃の間の温度に加熱される第1の熱プロセスを行う工程をさらに含んでいる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記第1の熱プロセスの長さは、上記第2の半導体領域内に酸素凝集体が形成されるように、且つ、上記第1の半導体領域内から上記第2の半導体領域へ格子空孔が拡散するように選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記第1の熱プロセスの上記長さは、1時間?20時間の間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記ウェハは、上記熱プロセス中に、まず、790℃?810℃の間の温度に、10時間よりも短い第1の長さの時間加熱され、次に、985℃?1015℃の間の温度に、10時間よりも長い第2の長さの時間加熱される、請求項6?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記ウェハの厚さは、400μm?1000μmの間であり、照射エネルギーは、70KeV?10MeVの間である、請求項5?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
プロトンの注入線量は、1・10^(13)cm^(-2)?1・10^(15)cm^(-2)の間である、請求項5?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)の照射前に、第2の熱プロセスを行う工程を含んでおり、
上記第2の熱プロセスでは、上記ウェハ(100)が1000℃を超える温度に加熱され、また、少なくとも上記第1の面(100)が湿潤雰囲気および/または酸化性雰囲気に曝露される、請求項5?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記第1の面および第2の面は、上記熱プロセス中に湿潤雰囲気および/または酸化性雰囲気に曝露される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記第1の熱プロセスの後または前に、第3の熱プロセスを行うさらなる工程を含んでおり、
上記第3の熱プロセスでは、少なくとも上記第1の半導体ゾーン(103)が、上記ウェハの上記第1の面(101)を介して酸素原子が上記第1の半導体ゾーン(103)から外部拡散するように加熱される、請求項6?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記第1の面および第2の面(101、102)のうち少なくともいずれか1つを介して上記ウェハ(100)にプロトンを照射することによって、上記第1の半導体ゾーン内に結晶欠陥を生じさせる工程と、
水素誘起ドナーを有するフィールドストップゾーン(29)が生じるように、上記ウェハ(100)が350℃?550℃の間の温度に加熱される熱プロセスを行う工程とによって、
上記ウェハ内にnドープされたフィールドストップゾーン(29)を形成する工程を含んでいる、請求項5?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
上記ウェハの上記第2の面(102)の上記照射は、それぞれ異なる照射エネルギーを用いた少なくとも2つの照射工程を含んでいる、請求項5?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
上記熱プロセスは、時間的に分離した少なくとも2つの熱工程を含んでおり、
上記熱工程では、それぞれの場合において、上記ウェハ(100)が加熱され、
上記熱工程の少なくとも1つは、時間的に、2つの照射工程の間において行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1の面および第2の面をそれぞれ有する第1の半導体ウェハおよび第2の半導体ウェハを設ける工程と、
上記2つの各ウェハに対して、上記2つの半導体ウェハのそれぞれに対して請求項7?17のいずれか1項に記載の方法を行って、上記ウェハの上記第1の面に隣接する低析出物ゾーンを形成する工程と、
上記第1の半導体ウェハの第1の面と上記第2の半導体ウェハの第1の面とが互いに面するように、且つ、上記第1の半導体ウェハの第1の面と上記第2の半導体ウェハの第1の面との間に絶縁層が存在するように、上記第1の半導体ウェハと上記第2の半導体ウェハとを接続する工程とを含んでいる、SOI基板の形成方法。
【請求項19】
第1の面(101)と、当該第1の面の反対側の第2の面(102)と、当該第1の面(101)に隣接していると共に酸素析出物の低い第1の半導体ゾーン(103)とを有する半導体ウェハ内に、nドープされたゾーンを形成する方法を含み、
上記nドープされたゾーンを形成する方法は、
上記第1の面(101)を介して上記ウェハにプロトンを注入することによって、上記第1の半導体ゾーン(103)内に結晶欠陥を生じさせる工程であって、プロトンが、注入エネルギーに応じて、上記半導体ウェハ内の末端域領域内に注入される工程と、
さらなる熱プロセスを行う工程とを含んでおり、当該さらなる熱プロセスでは、
上記ウェハ(100)が、水素誘起ドナーを有するn型ドープされた半導体ゾーンが生じるように、少なくとも上記第1の面(101)の上記領域内において400℃?570℃の温度に加熱され、
プロトンが上記末端域領域から上記第1の面(101)の方向に拡散するように、且つ、上記n型ドープされた半導体ゾーン(105)が、上記末端域領域と上記第1の面(101)との距離の少なくとも60%超または80%を超えるドーピングの領域と、上記プロトン注入によって形成された少なくともほぼ均質なドーピングとを有するように、且つ、均質なドーピングの上記領域内における最高ドーピング濃度と最低ドーピング濃度との割合が最大3であるように、長さおよび温度が選択される、請求項7?17のいずれか1項に記載の方法。」

(補正後)
「 【請求項1】
ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有しており、第1の面(101)と、当該第1の面(101)の反対側の第2の面(102)と、当該第1の面(101)に隣接する第1の半導体領域(103')と、上記第2の面(102)に隣接する第2の半導体領域(104')とを有している酸素含有半導体ウェハ(100)の処理方法であって、
上記第2の半導体領域(104')内に1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔の空孔濃度の格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程を含んでいる方法。
【請求項2】
上記ウェハ(100)が700℃?1100℃の間の温度に加熱される第1の熱プロセスを行う工程をさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第1の熱プロセスの長さは、上記第2の半導体領域内に酸素凝集体が形成されるように、且つ、上記第1の半導体領域内から上記第2の半導体領域へ格子空孔が拡散するように選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記第1の熱プロセスの上記長さは、1時間?20時間の間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記ウェハは、上記熱プロセス中に、まず、790℃?810℃の間の温度に、10時間よりも短い第1の長さの時間加熱され、次に、985℃?1015℃の間の温度に、10時間よりも長い第2の長さの時間加熱される、請求項2?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
上記ウェハの厚さは、400μm?1000μmの間であり、照射エネルギーは、70KeV?10MeVの間である、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プロトンの注入線量は、1・10^(13)cm^(-2)?1・10^(15)cm^(-2)の間である、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)の照射前に、第2の熱プロセスを行う工程を含んでおり、
上記第2の熱プロセスでは、上記ウェハ(100)が1000℃を超える温度に加熱され、また、少なくとも上記第1の面(100)が湿潤雰囲気および/または酸化性雰囲気に曝露される、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記第1の面および第2の面は、上記熱プロセス中に湿潤雰囲気および/または酸化性雰囲気に曝露される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記第1の熱プロセスの後または前に、第3の熱プロセスを行うさらなる工程を含んでおり、
上記第3の熱プロセスでは、少なくとも上記第1の半導体ゾーン(103)が、上記ウェハの上記第1の面(101)を介して酸素原子が上記第1の半導体ゾーン(103)から外部拡散するように加熱される、請求項2?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
上記第1の面および第2の面(101、102)のうち少なくともいずれか1つを介して上記ウェハ(100)にプロトンを照射することによって、上記第1の半導体ゾーン内に結晶欠陥を生じさせる工程と、
水素誘起ドナーを有するフィールドストップゾーン(29)が生じるように、上記ウェハ(100)が350℃?550℃の間の温度に加熱される熱プロセスを行う工程とによって、
上記ウェハ内にnドープされたフィールドストップゾーン(29)を形成する工程を含んでいる、請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記ウェハの上記第2の面(102)の上記照射は、それぞれ異なる照射エネルギーを用いた少なくとも2つの照射工程を含んでいる、請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記熱プロセスは、時間的に分離した少なくとも2つの熱工程を含んでおり、
上記熱工程では、それぞれの場合において、上記ウェハ(100)が加熱され、
上記熱工程の少なくとも1つは、時間的に、2つの照射工程の間において行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1の面および第2の面をそれぞれ有する第1の半導体ウェハおよび第2の半導体ウェハを設ける工程と、
上記2つの各ウェハに対して、上記2つの半導体ウェハのそれぞれに対して請求項3?13のいずれか1項に記載の方法を行って、上記ウェハの上記第1の面に隣接する低析出物ゾーンを形成する工程と、
上記第1の半導体ウェハの第1の面と上記第2の半導体ウェハの第1の面とが互いに面するように、且つ、上記第1の半導体ウェハの第1の面と上記第2の半導体ウェハの第1の面との間に絶縁層が存在するように、上記第1の半導体ウェハと上記第2の半導体ウェハとを接続する工程とを含んでいる、SOI基板の形成方法。
【請求項15】
第1の面(101)と、当該第1の面の反対側の第2の面(102)と、当該第1の面(101)に隣接していると共に酸素析出物の低い第1の半導体ゾーン(103)とを有する半導体ウェハ内に、nドープされたゾーンを形成する方法を含み、
上記nドープされたゾーンを形成する方法は、
上記第1の面(101)を介して上記ウェハにプロトンを注入することによって、上記第1の半導体ゾーン(103)内に結晶欠陥を生じさせる工程であって、プロトンが、注入エネルギーに応じて、上記半導体ウェハ内の末端域領域内に注入される工程と、
さらなる熱プロセスを行う工程とを含んでおり、当該さらなる熱プロセスでは、
上記ウェハ(100)が、水素誘起ドナーを有するn型ドープされた半導体ゾーンが生じるように、少なくとも上記第1の面(101)の上記領域内において400℃?570℃の温度に加熱され、
プロトンが上記末端域領域から上記第1の面(101)の方向に拡散するように、且つ、上記n型ドープされた半導体ゾーン(105)が、上記末端域領域と上記第1の面(101)との距離の少なくとも60%超または80%を超えるドーピングの領域と、上記プロトン注入によって形成された少なくともほぼ均質なドーピングとを有するように、且つ、均質なドーピングの上記領域内における最高ドーピング濃度と最低ドーピング濃度との割合が最大3であるように、長さおよび温度が選択される、請求項3?13のいずれか1項に記載の方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりである。(なお、下線は補正箇所を示し、当審で付加したもの。)
(補正事項a)補正前の請求項1?4を削除するとともに、当該削除に伴って、請求項の番号及び引用する請求項の番号を修正すること。

(補正事項b)補正前の請求項5の「上記第2の半導体領域(104')内に格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程」を、補正後の請求項1の「上記第2の半導体領域(104')内に1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔の空孔濃度の格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程」と補正すること。

3 新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項aについて
補正事項aは、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
また、補正事項aが、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていることは、明らかである。

(2)補正事項bについて
補正後の請求項1には、「上記第2の半導体領域(104')内に1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔の空孔濃度の格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程」との事項が記載されている。
そしてこの事項は、第2の半導体領域(104')内の特定の部分の空孔濃度が「1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔」となることを規定するものであり、第2の半導体領域(104')内の他の部分の空孔濃度は任意であるといえる。
したがって、上記の事項は、第2の半導体領域(104')内の特定の部分の空孔濃度が「1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔」であり、第2の半導体領域(104')内の最大空孔濃度が1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔を上回る場合に加えて、第2の半導体領域(104')内の特定の部分の空孔濃度が「1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔」であり、第2の半導体領域(104')内の他の部分の空孔濃度が1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔未満である、すなわち、第2の半導体領域(104')内の最大空孔濃度が1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔である場合を含むものである。

他方、本願の願書に最初に添付した、特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、次の記載がある。
「 【0018】
窒化雰囲気中での熱プロセスでは、1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(12)?10^(13)空孔の空孔濃度しか達成できない。しかし、半導体基材にプロトンを照射した場合には、cm^(3)当たり10^(18)空孔を上回る空孔濃度を達成することができ、これによって例えば、所望する効果を大幅に増大させることができる。本発明のさらなる利点は、空孔形成のために窒化工程を用いる方法とは対照的に、照射エネルギーおよび照射線量を対応させながら選択することによって、半導体ウェハ内に、実質的にあらゆる所望の空孔分布を構築することができる。特に、半導体結晶の比較的深い位置においても、非常に高い空孔濃度を達成することができる。
・・略・・
【0043】
図1Dは、背面102を介してウェハに高エネルギー粒子を照射する過程における、半導体ウェハ100内の空孔分布を質的に示している。この場合、最大空孔濃度は、照射のいわゆる末端域領域内にある。この領域は、照射粒子が背面102からウェハ100内に浸入する範囲である。図1Dでは、aは、ウェハの背面102からの距離を示しており、a1は、背面102からの最大空孔濃度の距離を示している。この最大空孔濃度の位置a1は照射エネルギーに依存しており、また、2.5MeVの注入エネルギーでプロトンが注入される場合は、背面102から55μm?60μmの範囲内にある。プロトンの照射は、具体的には、背面102に対して垂直に行うことができ、あるいは、例えば5°?10°などの傾斜角で行うことができる。
【0044】
プロトンの注入線量が10^(14)cm^(-2)である場合、末端域領域内における最大空孔濃度は、約7・10^(18)空孔/cm^(3)である。領域と背面との間に配置され、これを介してプロトンが照射される半導体領域内では、注入線量が上述と同様である場合、空孔濃度は約5・10^(17)空孔/cm^(3)である。」

このように、当初明細書等には、1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔を上回る空孔濃度の格子空孔が生じるように、半導体基材にプロトンを照射することや、1立方センチメートル(cm^(3))当たり約7・10^(18)空孔の最大空孔濃度の格子空孔が生じるように、半導体ウェハ100にプロトンを照射することが記載されているものと認められる。
しかしながら、当初明細書等には、第2の半導体領域(104')内の最大空孔濃度が1立方センチメートル(cm^(3))当たり10^(18)空孔である場合を含む補正後の請求項1に記載の上記の事項は記載されていない。
また、このような上記の事項は、当初明細書等の記載から自明な事項でもない。
したがって、補正事項bによる補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、補正事項bによる補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるとは認められない。

(3)新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についてのまとめ
上記(2)より、本件補正における上記補正事項bによる補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるとは認められないから、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものとはいえず、特許法第17条の2第3項に違反するものと認める。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の新規性及び進歩性の有無について
1 本願発明について
平成27年1月26日に提出された手続補正書による手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。(再掲)

「【請求項5】
ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有しており、第1の面(101)と、当該第1の面(101)の反対側の第2の面(102)と、当該第1の面(101)に隣接する第1の半導体領域(103')と、上記第2の面(102)に隣接する第2の半導体領域(104')とを有している酸素含有半導体ウェハ(100)の処理方法であって、
上記第2の半導体領域(104')内に格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程を含んでいる方法。」

2 引用文献及び周知例の記載と引用発明、周知の技術的事項及び原出願の優先日前の技術水準
(1)引用文献の記載と引用発明
ア 引用文献:特開平05-308076号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の優先日前である1993年11月19日に日本国内において頒布された刊行物である上記引用文献には、図9、10とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付加した。以下同じ。)

(ア)「【0002】
【従来の技術】種々の半導体装置用基板として用いられるシリコンウエーハはチョクラルスキー法による円筒状のシリコン単結晶インゴットを輪切りにして製造される。インゴットから切り出されたままのシリコンウエーハは不純物として多量の酸素を含有するので半導体装置用基板として用いるには、熱処理を行うことにより、シリコンウエーハ表層の酸素を除去すると共に、シリコンウエーハ内部に酸素析出物を形成し、半導体装置の製造プロセスで混入する重金属不純物を内部の酸素析出物により捕獲して表層の素子活性領域に重金属不純物が混入しないようにするイントリンシック・ゲッタリング(IG)技術が注目されている。
【0003】従来のシリコンウエーハの酸素析出方法では、図1(a)に示すように、切り出されたシリコンウエーハに対し、約1000?1200℃の高温に加熱して表層の酸素を外方に拡散した後、窒素又は酸素雰囲気中において、酸素の析出核を形成させるために約600?900℃の熱処理を行い、引き続き、酸素析出物を成長させるために約900?1150℃の高温熱処理を行っていた。
【0004】シリコンウエーハに形成される半導体装置の高集積化に伴い、素子活性領域であるシリコンウエーハ表層のDZ(デヌーテッドゾーン)層の完全性への要求が厳しくなっている。このDZ層内の主たる欠陥であり、リーク電流の原因となる酸素に起因する欠陥を減少させるため、シリコン単結晶の酸素濃度を低下させる必要がある。」

(イ)「【0031】・・略・・
[実施例3]本実施例のシリコンウエーハの酸素析出方法を図9(a)及び図10を用いて説明する。
【0032】まず、シリコンウエーハを約1100℃の高温に加熱して表層の酸素を外方に拡散する外方拡散熱処理を窒素雰囲気中で約90分行った後、図10に示すように、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素をイオン注入することにより添加する。その後、窒素又は酸素の雰囲気中での熱処理に切り換え、約500℃の温度での低温熱処理を行った。その後、約10℃/分の勾配で温度を上昇させ、約700℃の温度で約30?150分間熱処理を行い、シリコンウエーハ内部に酸素の析出核を形成した。その後、約2℃/分、約3℃/分、又は約4℃/分の勾配で温度を上昇させ、約1100℃の温度で約30分間熱処理を行い、シリコンウエーハ内部に酸素析出物を形成した。
【0033】本実施例では、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から、図10(a)に示すように、水素又は重水素又は三重水素をイオン注入した結果、図10(b)に示すように、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面の表面近傍のみに水素原子又は分子を凍結させることができる。したがって、酸素析出処理を行った結果、図10(c)に示すように、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面の表面近傍のみに酸素の析出核が形成された。
【0034】なお、本実施例において水素、重水素又は三重水素をドープする代わりにヘリウムをドープしても同様である。」

イ 引用発明
上記アより、引用文献には、実施例3として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 シリコンウエーハを約1100℃の高温に加熱して表層の酸素を外方に拡散する外方拡散熱処理を窒素雰囲気中で約90分行う工程と、
その後、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程と、
約700℃の温度で約30?150分間熱処理を行い、シリコンウエーハ内部に酸素の析出核を形成する工程と、
その後、約1100℃の温度で約30分間熱処理を行い、シリコンウエーハ内部に酸素析出物を形成する工程と、
を有する、シリコンウエーハの酸素析出方法。」

(2)周知例の記載と周知の技術的事項及び原出願の優先日前の技術水準
ア 周知例1:半導体用語大辞典編集委員会編、「半導体用語大辞典」、1999年3月20日、株式会社日刊工業新聞社発行、p.222
原出願の優先日前である1999年3月20日に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例1には、以下の事項が記載されている。

「イオン注入損傷 -ちゅうにゅうそんしょう 〔ion implantation damage〕 固体表面にイオン照射を行うと,格子欠陥などによって形成された損傷領域が発生する.イオン注入したときに生じる注入損傷は,イオン種,注入エネルギー,注入量,注入中の基板温度などによってその程度がことなる.シリコン基板への不純物注入では,一般に低濃度注入で格子間元素や空孔などの点欠陥が形成される.・・略・・」(第222ページ右欄第10行?第31行)

イ 周知例2:菅野卓雄監修、「半導体大辞典」、1999年12月20日、株式会社工業調査会発行、p.450
原出願の優先日前である1999年12月20日に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例2には、以下の事項が記載されている。

「1)|イオン注入過程 ion implantation process
?数keVの低いエネルギーでイオンを固体表面に照射すると,イオンの持つ運動エネルギーにより固体ヒュお面の原子が弾き出されるスパッタリング現象が起こる。しかし,イオン注入で用いる数10keVから数100keV(高エネルギー注入では数MeV)のエネルギー範囲ではスパッタリング現象よりイオンが固体内部に深く侵入する注入現象が支配的になる。
イオン注入の基礎過程は,イオン注入損傷の発生と損傷回復のためのアニーリング,注入イオンの分布である。半導体基板にイオンを注入すると,イオンは基板内の原子および電子と衝突し,ノックオン原子(または反跳原子ともいう)を発生し,注入損傷(結晶欠陥)が生成され,同時にイオンは運動エネルギーを失い,最後に静止する。・・略・・」(第450ページ左欄第3行?第37行)

ウ 周知例3:特開昭58-040864号公報
原出願の優先日前である1983年3月9日に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例3には、以下の事項が記載されている。
「この後、半導体の電気的性質に寄与しないプロトンを照射する。エネルギーとドーズ量は不純物イオンのイオン種、エネルギー、ドーズ量、所要接合深さ全考慮して決定するが、所賛・接合深さ以内にプロトンが分布するように選ぶ。
この状態における注入イオン、プロトン及びプロトン照射により生じた原子空孔の深さ方向の分布は一例として第2図のようになる。」(第2ページ右上欄第2行?第10行)

エ 周知例4:特開平08-321594号公報
原出願の優先日前である1996年12月3日に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例4には、以下の事項が記載されている。
「【0006】図1(a)に示すシリコン基板11に真空中でHeイオン、Hイオン、Arイオン又はSiイオンを注入すると、図1(b)に示すようにイオン注入損傷領域12が形成され、このイオン注入損傷領域12では格子位置のシリコン原子が放出されて格子間シリコン原子14(図中、※印で示す)になるとともに格子位置に空孔15(図中、○印で示す)が形成される。続いて酸化性雰囲気中で1000℃?1400℃の温度でこのシリコン基板11をアニール処理すると、図1(c)及び(d)に示すように酸素原子16(図中、●印で示す)は基板表面でSi層を酸化することにより酸化層11cを形成しつつ基板内部に拡散律速により拡散していく。He等はシリコンと反応しないため、雰囲気中の基板外に放出される。拡散してきた酸素原子はイオン注入損傷領域12の空孔15の存在により優先的にSiOxを形成する。この拡散律速により酸化が進行するために格子間シリコン原子の急激な発生はなく、微小欠陥は殆ど発生せず、転位欠陥を抑制することができる。」

オ 周知例5:特開2003-297839号公報
原出願の優先日前である2003年10月17日に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例5には、以下の事項が記載されている。
「【0011】単結晶育成中に取り込まれた酸素は、温度の低下により過飽和の状態で固溶しているので、安定して存在出来る場所(サイト)が有れば、そこに析出核のような物が形成され、一旦、核が形成されればそこへ優先的に酸素は凝集して酸素析出物が形成されることとなる。このようなサイトとしては結晶中に存在する空孔が最適であり、空孔が複数個集合すれば、より容易に酸素析出物の基となる析出核を形成することができると考えられる。従って、ウエーハ内部により多くの空孔を注入することができれば、より析出サイトが増大し、その後のデバイス工程における熱処理によって酸素析出物密度を増大させることが可能となる。一般的に、点欠陥を考慮した酸素析出物の反応式として、下記の(1)式が簡略的に用いられている。」

カ 周知例6:特表2005-515633号公報
原出願の優先日前である2005年5月26日に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例6には、以下の事項が記載されている。
「【0036】
C.ドーピング及び熱処理したシリコンウエハの急速クーリング工程
工程S2が完了すると、工程S3において、単結晶シリコンの中で結晶格子空孔が比較的移動し得る温度範囲を通って、少なくともシリコン内で結晶格子空孔が比較的移動し得ない温度T2へ、ウエハを急速に冷却する。
・・略・・
【0038】
工程S3の間、ウエハ内の空孔と自己格子間酸素原子とは相互作用して、酸素析出核形成中心を生じる。酸素析出核形成中心の濃度は主として空孔濃度に依存し、そして同様に、酸素析出核形成中心のプロファイルは空孔の濃度プロファイルに対応する。特に、高空孔領域(ウエハバルク部)には酸素析出核形成中心が生成し、低空孔領域(ウエハ表面の近くの部分)には酸素析出核形成中心が生成しない。このように、ウエハを種々の空孔濃度の領域に分けることによって、酸素析出核形成中心のテンプレートが形成される。更に、ウエハバルク部における酸素析出核形成中心の分布は、空孔の分布に対応する。即ち、その分布は不均一であって、例えば、中央平面の部分又はその近くの部分に最大濃度を有し、前方表面及び後方表面の方向へ低下する「M字形状」又は非対称の分布を有することによって特徴付けられるプロファイルを有し得る。」

キ 周知の技術的事項
上記ア?エより、半導体基板にイオンを注入すると、イオンは基板内の原子と衝突し、ノックオン原子が発生し、格子間元素や空孔などの点欠陥が生成されることは、原出願の優先日前、当該技術分野では周知の技術的事項であるといえる。
また、上記ウ、エより、プロトンやHeイオンを注入した場合においても空孔などの点欠陥が生成されることも、原出願の優先日前、当該技術分野では周知の技術的事項であるといえる。

ク 原出願の優先日前の技術水準
上記オ、カより、空孔が、酸素析出核を生成するものであることや、酸素析出核の濃度が空孔の濃度に対応することは、原出願の優先日前、当該技術分野では普通に知られていたことであるといえる。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明は、「シリコンウエーハを約1100℃の高温に加熱して表層の酸素を外方に拡散する外方拡散熱処理を窒素雰囲気中で約90分行う工程」や、「シリコンウエーハ内部に酸素析出物を形成する工程」を有するものであることから、引用発明の「シリコンウエーハ」は、酸素を含有していると認められる。
また、引用発明の「シリコンウエーハの素子形成面」は、本願発明の「第1の面」に相当し、引用発明の「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面」は、本願発明の「当該第1の面の反対側の第2の面」に相当する。
また、引用発明の「シリコンウエーハ」の「素子形成面」に隣接する領域は、本願発明の「第1の半導体領域(103')」に相当し、引用発明の「シリコンウエーハ」の「素子形成面の反対側の面」に隣接する領域は、本願発明の「上記第2の面(102)に隣接する第2の半導体領域(104')」に相当する。
したがって、本願発明の「ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有しており、第1の面(101)と、当該第1の面(101)の反対側の第2の面(102)と、当該第1の面(101)に隣接する第1の半導体領域(103')と、上記第2の面(102)に隣接する第2の半導体領域(104')とを有している酸素含有半導体ウェハ(100)」と、引用発明の「シリコンウエーハ」とは、「第1の面と、当該第1の面の反対側の第2の面と、当該第1の面に隣接する第1の半導体領域と、上記第2の面に隣接する第2の半導体領域とを有している酸素含有半導体ウェハ」である点で共通する。

(2)本願発明の「酸素含有半導体ウェハ(100)の処理方法」と、引用発明の「シリコンウエーハの酸素析出方法」とは、「酸素含有半導体ウェハの処理方法」である点で共通する。

(3)本願発明の「上記第2の半導体領域(104')内に格子空孔が生じるように、上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程」と、引用発明の「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程」とは、「ウェハの第2の面にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程」である点で共通する。

(4)以上によれば、本願発明と引用発明との一致点と相違点は、次のとおりであると認められる。

ア 一致点
「 第1の面と、当該第1の面の反対側の第2の面と、当該第1の面に隣接する第1の半導体領域と、上記第2の面に隣接する第2の半導体領域とを有している酸素含有半導体ウェハの処理方法であって、
上記ウェハの上記第2の面にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程を含んでいる方法。」

イ 相違点
・相違点1
本願発明は、「酸素含有半導体ウェハ(100)」が、「ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有して」いるものであるのに対して、引用発明は、「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程」における「シリコンウエーハ」は、そのドーピング状態が不明なものである点。

・相違点2
本願発明は、「上記ウェハ(100)の上記第2の面(102)にプロトンまたはヘリウムイオンを照射する工程」が、「上記第2の半導体領域(104')内に格子空孔が生じるように」行われるものであるのに対して、引用発明は、「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程」が、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面に隣接する領域内に格子空孔が生じるように行われるものであるのか不明である点。

4 相違点についての検討
(1)相違点1について
上記2(1)ア(ア)より、引用発明のシリコンウエーハは、半導体装置用基板、すなわち、半導体装置を形成するための基板として用いられる、半導体装置を形成する前の基板である。
したがって、引用発明のシリコンウエーハは、「ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有して」いるものと認められる。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
また、そうでないとしても、引用発明において、シリコンウエーハを、「ドープされていないか、あるいは排他的に基本ドーピングのみを有して」いるものとすることは、当業者が普通に行い得るものである。
以上から、相違点1は、本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえず、また、そうでないとしても、引用発明において当業者が普通に行い得るものと認められる。

(2)相違点2について
上記2(2)キのとおり、半導体基板にイオンを注入すると、イオンは基板内の原子と衝突し、ノックオン原子が発生し、格子間元素や空孔などの点欠陥が生成されることは、原出願の優先日前、当該技術分野では周知の技術的事項であるといえる。
したがって、引用発明の「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程」においても、イオン注入した水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムは、シリコンウエーハ内のシリコンと衝突し、ノックオン原子が発生し、格子間元素や空孔などの点欠陥が生成されるものと認められる。
そうすると、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。
また、そうでないとしても、引用発明において、「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程」を、シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面に隣接する領域内に格子空孔が生じるように行うことは、当業者が普通に行い得るものである。
以上から、相違点2は、本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえず、また、そうでないとしても、引用発明において当業者が普通に行い得るものと認められる。

5 本願発明が奏する作用効果
審判請求の理由において請求人は、以下のとおりの効果についての主張をしている。
「 さらに、本願発明では、照射プロセスなどによって形成される空孔-酸素中心が、酸素析出物の核生成種として機能するため、第2の半導体領域(104')内に安定した酸素凝集体が形成される余地が生まれます。そして、第1の半導体領域(103')内に低空孔半導体ゾーンが生じるという効果を奏します。」
そこで、この効果について検討する。
上記4(2)のとおり、引用発明の「シリコンウエーハの素子形成面の反対側の面から水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムをイオン注入することにより添加する工程」においても、イオン注入した水素又は重水素又は三重水素又はヘリウムは、シリコンウエーハ内のシリコンと衝突し、ノックオン原子が発生し、格子間元素や空孔などの点欠陥が生成されるものと認められる。
また、上記2(2)クのとおり、空孔が、酸素析出核を生成するものであることや、酸素析出核の濃度が空孔の濃度に対応することは、原出願の優先日前、当該技術分野では普通に知られていたことである。
さらに、上記2(1)イのとおり、引用発明は、水素原子がイオン注入されたシリコンウエーハの素子形成面の反対側の面の表面近傍のみに酸素の析出核が形成されるものである。
したがって、上記主張の効果は、引用発明、周知の技術的事項及び原出願の優先日前の技術水準から当業者が予測できる範囲のものである。

6 まとめ
以上検討したとおり、本願の請求項5に係る発明(本願発明)は、引用文献に記載の発明(引用発明)と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、そうでないとしても、引用文献に記載の発明(引用発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-30 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-21 
出願番号 特願2013-44811(P2013-44811)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土谷 慎吾溝本 安展  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 鈴木 匡明
綿引 隆
発明の名称 酸素含有半導体ウェハの処理方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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