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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1319094
審判番号 不服2015-8335  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-07 
確定日 2016-09-07 
事件の表示 特願2012-552064「高注入効率極性及び非極性III族窒化物発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月11日国際公開、WO2011/097325、平成25年 5月23日国内公表、特表2013-519231〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年2月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月4日、米国、2011年1月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成23年 2月 2日 国際出願
平成25年10月 3日 拒絶理由通知(平成25年10月15日発送)
平成26年 2月17日 意見書・手続補正書
平成26年 5月30日 拒絶理由通知(平成26年 6月 3日発送)
平成26年 8月25日 意見書・手続補正書
平成26年11月27日 拒絶査定(平成27年 1月 6日謄本送達)
平成27年 5月 7日 本件審判請求
平成27年 6月 8日 手続補正書(方式)
平成27年 8月20日 拒絶理由通知(平成27年 9月 1日発送)
平成28年 3月 1日 意見書・手続補正書

第2 本願発明について
1 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年3月1日付けの手続補正による特許請求の範囲の請求項1?12に記載されている事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
極性、半極性又は非極性結晶方位にIII族窒化物合金材料を用いて作製される固体発光デバイスであって、当該固体発光デバイスは、
基板、
Pクラッド領域、
Nクラッド領域、
前記Pクラッド領域および前記Nクラッド領域の間に光閉じ込め領域を形成する多重層と、
を含み、
前記多重層は、
Pドープ導波路層、電子ブロック層、活性多重量子井戸領域及びNドープ導波路層に分類され、
前記活性多重量子井戸領域は、量子井戸と障壁層から形成される多重量子井戸層を含み、前記障壁層は、前記Nドープ導波路層のバンドギャップと概略等しいバンドギャップを有し、前記多重量子井戸層へのインジウム及び/又はアルミニウムの取り込みによって得られ、
前記多重量子井戸層の不均一な電荷キャリア分布を改善するために、前記Nドープ導波路層及び前記障壁層中のインジウムの量は、前記量子井戸と前記Nドープ導波路層及び前記障壁層との間のバンドギャップの差を低減するように選択され、
前記量子井戸の深さは、正孔で100meV、電子で200meVを超えない、
ことを特徴とする固体発光デバイス。」

2 引用文献1の記載事項、及び引用発明1
(1) 当審による平成27年8月20日付け拒絶理由通知書(以下「先の拒絶理由通知書」という。)で引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-173621号公報(以下「引用文献1」という。)には、図とともに、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付与した。)。

ア 「【0026】
図3から7は、少なくとも1層の光閉じ込め層に窒化インジウムガリウムを含む、異なるInGaNレーザの実施例の正面断面図を示す。特に、図3から7は、積層レーザのヘテロ構造(heterostructure)の正面図を示す。これらのヘテロ構造は、図1の従来の積層へテロ構造領域の代用になり得る。図3から図5は、導波路層の変形を示し、図6及び図7は、クラッド層の変形を示す。図8は、図3から図7に示す実施例における、光閉じ込め率、及び損失特性を示す。
【0027】
図3は、n型ドープGaN層301及び、基板302の上に形成された、非対称積層InGaN構造300の実施例を示す。レーザ構造300は、InGaN多重量子井戸の活性領域304を含み、活性領域は460nmで青色レーザ光を出力する。活性領域304は、例えば、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.1)Ga_(0.9)N層のような、1個又は複数のIn_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸を含む。In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層は、隣り合う量子井戸を分離する。下方の光閉じ込め層308、及び上方の光閉じ込め層312は、活性領域304の、2個の面を挟む。
【0028】
図3は、III-V族窒化物レーザデバイスの断面構造の実施例を示す。層構造300は、有機金属気相成長法(metal organic chemical vapor deposition、MOCVD)、又は、分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy、MBE)、又は、ハイドライド気相成長法(hydride vapor phase epitaxy、HVPE)を用いて製造することができる。III-V族窒化物レーザデバイス300は、例えば、c面(0001)、a面(1120)、又はr面(0112)方位のサファイア(Al_(2)O_(3))基板302上に形成される。基板302上には、連続した半導体層が配置される。他の基板材料の例は、炭化シリコン(例えば、6H-SiC又は4H-SiC)、GaN、AlGaN、又は、AlN、ZnO、ScAlMgO_(4)、又はシリコンを含む。
【0029】
・・・
【0031】
第一のIII-V族窒化物層301は、基板302上、又は基板302を覆って形成される。第一のIII-V族窒化物層301は、n型GaN、又はInGaNシリコンドープされたバッファ層である。現在の例においては、バッファ層が、電流拡散層として機能する。様々な実施例において、第一のIII-V族窒化物層301は、約10^(16)から約10^(20)cm^(-3)の範囲のnドーピング濃度を有する。より一般的に、ドーピング濃度は、約5×10^(18)cm^(-3)である。このような実施例においては、第一のIII-V族窒化物層301は、約1ミクロンから約10ミクロンの厚さを有する。
【0032】
第二のIII-V族窒化物層320は、第一のIII-V族窒化物層301上、又はIII-V族窒化物層301を覆って形成される。第二のIII-V族窒化物層320は、第一のクラッド層320として機能する。様々な実施例において、第二のIII-V族窒化物層320は、シリコンドープされた、n型AlGaNクラッド層である。クラッド層320の屈折率は、一般的に、導波路層316(導波路)として機能する第三のIII-V族窒化物層の屈折率よりも小さい。様々な実施例において、AlGaNクラッド層320のアルミニウム含有量は、約0%から約16%である。AlGaNクラッド層320は、一般的に、約10^(16)から約10^(20)cm^(-3)の範囲のnドーピング濃度を有する。様々な実施例において、ドーピング濃度は約1×10^(18)cm^(-3)である。第二のIII-V族窒化物層320は、約0.2ミクロンから約2ミクロンの間の厚さを有する。
【0033】
第三のIII-V族窒化物層316は、第一の導波路層316として機能する。導波路層316は、第二のIII-V族窒化物クラッド層320上に、又は、III-V族窒化物クラッド層320を覆って、形成される。様々な実施例において、第三のIII-V族窒化物導波路層316は、n型InGaN:Si層である。III-V族窒化物導波路層316の屈折率が、第二のIII-V族窒化物クラッド層320の屈折率よりも大きく、活性領域304内の窒化インジウムガリウム量子井戸の屈折率よりも小さくなるように、III-V族窒化物導波路層316のインジウム含有量は、選択される。様々な実施例において、導波路層316のインジウム含有量は、約5%から約15%であり、約10%である実施例の場合もある。様々な実施例において、第三のIII-V族窒化物導波路層316の厚さは、約50nmから約200nmの範囲であり、約10^(16)から約10^(20)cm^(-3)のnドーピング濃度を有する。様々な実施例において、第三のIII-V族窒化物導波路層316のドーピング濃度は、約1×10^(17)cm^(-3)である。
【0034】
量子井戸活性層304は、第三のIII-V族窒化物導波路層316上、又は、III-V族窒化物導波路層316を覆って、形成される。様々な実施例において、量子井戸活性層304は、単一、又は多重窒化インジウムガリウム量子井戸を用いて形成される。様々な実施例において、量子井戸は約10Åから約200Åの厚さを有する可能性がある。窒化インジウムガリウム量子井戸は、一般的に、非ドープである。しかしながら、いくつかの代替の実施例において、窒化インジウムガリウム量子井戸は、Siドープされるか、又は部分的にSiドープされる。ドープされる場合、一般的なSiドーピング濃度は、約10^(16)から約10^(20)cm^(-3)の間である。ある実施例において、Siドーピング濃度の一例は、約5×10^(18)cm^(-3)である。一般的に、窒化インジウムガリウム量子井戸304の組成は、量子井戸のバンドギャップエネルギーが、導波路層316と、クラッド層328及び320と、のバンドギャップエネルギーよりも小さくなるように選択されることが理解される。量子井戸の実際のインジウム含有量は、様々な値を取り得るし、目的の出力波長に依存する。量子井戸活性領域304の、ある実施例では、例えば、460nmで発光するレーザは、インジウム含有量約20%を有するInGaN量子井戸を含む。520nmで発行するレーザの量子井戸活性領域304の他の実施例においては、インジウム含有量約30%を有するInGaN量子井戸を含む可能性がある。
【0035】
GaN、又はInGaNバリア層は、InGaN量子井戸を分離する。図13は、バリア層、及び隣り合うInGaN量子井戸の拡大図を示す。隣り合う量子井戸1312、1316、1320を分離するバリア層1304、1308は、一般的に、厚さ2nmから30nmの間である。バリアのインジウム含有量は、一般的に、青色460nmレーザでは、0から10%の間、520nmの緑色レーザでは、0から20%の間である可能性があるけれども、様々な値を取り得る。窒化インジウムガリウムバリア層は、一般的に、非ドープである。しかしながら、いくつかの実施例においては、窒化インジウムガリウムバリアは、Siドープされるか、部分的にSiドープされる。ドープされる場合、一般的なSiドーピング濃度は、約10^(16)から約10^(20)cm^(-3)の間である。様々な実施例においては、Siドーピング濃度は、約5×10^(18)cm^(-3)である。
【0036】
第四のIII-V族窒化物層324が、多重量子井戸(MQW)活性領域304上に、又は、MQW活性領域304を覆って、形成される。第四のIII-V族窒化物層324は、第二の導波路層324として機能する。ある実施例において、第二の導波路層は窒化アルミニウムガリウムを含む。様々な実施例において、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324は、マグネシウムドープされた窒化ガリウム、又は窒化インジウムガリウム材料である。そのような実施例においては、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324の屈折率が、窒化インジウムガリウム量子井戸活性領域304の屈折率よりも小さくなるように、インジウム含有量が選択される。様々な実施例において、第四のIII-V族(In)GaN第二導波路層324のインジウム含有量は、約0%から約15%の間であり、いくつかの実施例においては、一般的に、約0%である。様々な実施例において、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324の厚さは、約50から約200nmの範囲であり、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324は、約10^(16)から約10^(20)cm^(-3)の間のpドーピング濃度を有する。様々な実施例において、Mgドーピング濃度は約1×10^(19)cm^(-3)である。
【0037】
第五のIII-V族窒化物層328は、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324上に、又は、導波路層324を覆って、形成される。第五のIII-V族窒化物層328は、第二のクラッド層328として機能する。様々な実施例において、第五のIII-V族窒化物第二クラッド層328は、p型窒化ガリウムクラッド層である。様々な実施例において、第五のIII-V族窒化物第二クラッド層328は、一般的に、約200nmから2000nmの範囲の厚さを有する。様々な実施例において、第五のIII-V族窒化物第二クラッド層328は、Mgドープされた窒化ガリウムを用いて形成され得る。様々な実施例において、第五のクラッド層328は、約10^(16)から約10^(21)cm^(-3)の間のMgドーピング濃度を有する。様々な実施例において、一般的なドーピング濃度は約5×10^(19)cm^(-3)である。
【0038】
・・・
【0041】
下方の光閉じ込め層308は、下方導波路層316、及び下方クラッド層320を含む。下方導波路層316は、インジウムを含み、そのインジウム濃度は活性領域304の量子井戸よりも低い。例えば、下方導波路層316の組成では、10パーセントのインジウム濃度を有し、下方導波路層316は、シリコンでn型ドープされ、厚さ100nmのIn_(0.1)Ga_(0.9)N:Si層を形成する。下方導波路層316は、下方クラッド層320を覆って形成される。ある実施例において、下方クラッド層320は、厚さ1000nmのシリコンドープされたAlGaN層、例えば、Al_(0.08)Ga_(0.92)N:Si、から形成され得る。
【0042】
上方光閉じ込め層312は、p型ドープされた構造、例えば、マグネシウムドープされた構造、によって形成される。上方光閉じ込め層312は、一般的に、上方導波路層324、及び、上方クラッド層328を含む。ある実施例において、上方導波路層324は、厚さ100nmのGaN:Mg層を含む。厚さ約500nmのGaN:Mgクラッド層328は、上方クラッド層328を覆って形成される。」

イ 「【0045】
図4は、レーザ構造300に電流ブロック層404を加えて形成した、レーザ構造400を示す。電流ブロック層は、活性領域の電気的閉じ込めを改善する。図4において、Al_(0.1)Ga_(0.9)N:Mg層は、電流ブロック層404として機能する。電流ブロック層、又は、「トンネルバリア層」は、薄く、一般的に、10から20nmのオーダーの厚さである。図8の行808は、1.23%の光閉じ込め率と、1センチメートル当たり2のモード損失を示す。行808のパラメータは、行804のパラメータと大きな違いはなく、薄い電流ブロック層の光学的効果をほとんど無視できることを確認できる。図4の電流閉じ込め層404は、より低い、又は、より高いアルミニウム含有量を有することもできる。」

ウ 電流ブロック層、又は「トンネルバリア層」を有する、非対称積層InGaNレーザ構造を示す正面断面図である図4は、次のものである。


エ 青色レーザの活性領域を示す拡大図であって、個々の量子井戸のバリア層による分離を示す図13は、次のものである。


(2) 引用発明1
上記(1)イの【0045】の記載及び上記(1)ウの図4から、引用発明1を認定する。
この際、上記(1)イの【0045】には、「図4は、レーザ構造300に電流ブロック層404を加えて形成した、レーザ構造400」と記載されているから、上記(1)アの「レーザ構造300」の記載を参酌する。

ア 上記(1)アの【0033】の記載に照らして、上記(1)ウの図4を見ると、
第三のIII-V族窒化物導波路層316は、n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Si層であり、導波路層316のインジウム含有量は、10%であることがわかる。

イ 上記(1)アの【0027】、【0035】の記載に照らして、上記(1)エの図13を見ると、
活性領域304は、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1320、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1308、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1316、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1304、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1312、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層を含むことがわかる。

ウ 上記(1)アの【0036】、上記(1)イの【0045】の記載に照らして、上記(1)ウの図4を見ると、
電流ブロック層404が、多重量子井戸(MQW)活性領域304上に、又は、MQW活性領域304を覆って形成され、
第四のIII-V族窒化物層324が、電流ブロック層404上に、又は、電流ブロック層404を覆って形成されることが見てとれる。

エ 以上より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「c面(0001)、a面(1120)、又はr面(0112)方位のサファイア(Al_(2)O_(3))基板302上に形成されるIII-V族窒化物レーザデバイスであって、
第一のIII-V族窒化物層301は、基板302上、又は基板302を覆って形成され、
第二のIII-V族窒化物層320は、第一のIII-V族窒化物層301上、又はIII-V族窒化物層301を覆って形成され、第二のIII-V族窒化物層320は、シリコンドープされた、n型AlGaNクラッド層であり、
第三のIII-V族窒化物層316は、第一の導波路層316として機能し、導波路層316は、第二のIII-V族窒化物クラッド層320上に、又は、III-V族窒化物クラッド層320を覆って形成され、第三のIII-V族窒化物導波路層316は、n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Si層であり、導波路層316のインジウム含有量は、10%であり、
量子井戸活性層304は、第三のIII-V族窒化物導波路層316上、又は、III-V族窒化物導波路層316を覆って形成され、活性領域304は、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1320、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1308、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1316、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1304、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1312、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層を含み、
電流ブロック層404が、多重量子井戸(MQW)活性領域304上に、又は、MQW活性領域304を覆って形成され、
第四のIII-V族窒化物層324が、電流ブロック層404上に、又は、電流ブロック層404を覆って形成され、第四のIII-V族窒化物層324は、第二の導波路層324として機能し、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324は、マグネシウムドープされた窒化ガリウム、又は窒化インジウムガリウム材料であり、
第五のIII-V族窒化物層328は、第四のIII-V族窒化物第二導波路層324上に、又は、導波路層324を覆って形成され、第五のIII-V族窒化物第二クラッド層328は、p型窒化ガリウムクラッド層であり、
下方の光閉じ込め層308は、下方導波路層316、及び下方クラッド層320を含み、
上方光閉じ込め層312は、上方導波路層324、及び、上方クラッド層328を含む、
III-V族窒化物レーザデバイス。」

3 対比
(1) 本願発明と引用発明1を対比する。

ア 引用発明1の「c面(0001)、a面(1120)、又はr面(0112)方位のサファイア(Al_(2)O_(3))基板302上に形成されるIII-V族窒化物レーザデバイス」と、
本願発明の「極性、半極性又は非極性結晶方位にIII族窒化物合金材料を用いて作製される固体発光デバイス」とを対比する。

(ア) 引用発明1の「c面(0001)」は極性面であり、引用発明1の「a面(1120)」は非極性面であり、引用発明1の「r面(0112)」は半極性面であるところ、引用発明1の「III-V族窒化物」が基板の結晶方位に形成されることは明らかである。
(イ) 引用発明1の「III-V族窒化物レーザデバイス」は、本願発明の「III族窒化物合金材料を用いて作製される固体発光デバイス」に相当する。
(ウ) してみれば、両者は相当関係にある。

イ 引用発明1の「サファイア(Al_(2)O_(3))基板302」は、本願発明の「基板」に相当する。

ウ 引用発明1の「第五のIII-V族窒化物層328」は、「p型窒化ガリウムクラッド層」であるから、本願発明の「Pクラッド領域」に相当する。

エ 引用発明1の「第二のIII-V族窒化物層320」は、「n型AlGaNクラッド層」であるから、本願発明の「Nクラッド領域」に相当する。

オ 引用発明1の「『第三のIII-V族窒化物導波路層316』、『量子井戸活性層304』、『電流ブロック層404』、『第四のIII-V族窒化物第二導波路層324』」と、
本願発明の「前記Pクラッド領域および前記Nクラッド領域の間に光閉じ込め領域を形成する多重層」とを対比する。

(ア) 引用発明1の「『第三のIII-V族窒化物導波路層316』、『量子井戸活性層304』、『電流ブロック層404』、『第四のIII-V族窒化物第二導波路層324』」は、「第五のIII-V族窒化物層328」と「第二のIII-V族窒化物層320」との間に形成される「多重層」であるといえる。
(イ) 引用発明1の「下方の光閉じ込め層308」は、「下方導波路層316」である「第三のIII-V族窒化物導波路層316」、及び「下方クラッド層320」である「第二のIII-V族窒化物層320」を含むものであり、
引用発明1の「上方光閉じ込め層312」は、「上方導波路層324」である「第四のIII-V族窒化物第二導波路層324」、及び「上方クラッド層328」である「第五のIII-V族窒化物層328」を含むものである。
してみれば、引用発明1の「『第三のIII-V族窒化物導波路層316』、『量子井戸活性層304』、『電流ブロック層404』、『第四のIII-V族窒化物第二導波路層324』」は、光閉じ込め領域を形成するものであるといえる。
(ウ) 以上より、両者は相当関係にある。

カ 引用発明1の「『第三のIII-V族窒化物導波路層316』、『量子井戸活性層304』、『電流ブロック層404』、『第四のIII-V族窒化物第二導波路層324』」と、
本願発明の「Pドープ導波路層、電子ブロック層、活性多重量子井戸領域及びNドープ導波路層に分類され」る「前記多重層」とを対比する。

(ア) 引用発明1の「第三のIII-V族窒化物導波路層316」は、「n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Si層」であるから、本願発明の「Nドープ導波路層」に相当する。
(イ) 引用発明1の「量子井戸活性層304」は、「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1320、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1308、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1316、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1304、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1312、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層を含」んでおり、多重量子井戸活性層であるといえるから、本願発明の「活性多重量子井戸領域」に相当する。
(ウ) 引用発明1の「電流ブロック層404」は、本願発明の「電子ブロック層」に相当する。
(エ) 引用発明1の「第四のIII-V族窒化物第二導波路層324」は「マグネシウムドープされた窒化ガリウム、又は窒化インジウムガリウム材料」からなるものであるから、本願発明の「Pドープ導波路層」に相当する。
(オ) したがって、両者は相当関係にある。

キ 引用発明1の「量子井戸活性層304は、・・・In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1320、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1308、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1316、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層1304、In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸1312、In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層を含」むことと、
本願発明の「前記活性多重量子井戸領域は、量子井戸と障壁層から形成される多重量子井戸層を含み、前記障壁層は、前記Nドープ導波路層のバンドギャップと概略等しいバンドギャップを有し、前記多重量子井戸層へのインジウム及び/又はアルミニウムの取り込みによって得られ」ることとを対比する。

(ア) 引用発明1の「In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸」及び「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」は、それぞれ本願発明の「量子井戸」及び「障壁層」に相当する。
(イ) 引用発明1の「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」は「In_(0.1)Ga_(0.9)N」からなるから、「量子井戸活性層304」へのインジウムの取り込みによって得られるものであるといえる。
(ウ) してみれば、両者は、「前記活性多重量子井戸領域は、量子井戸と障壁層から形成される多重量子井戸層を含み、前記障壁層は、・・・前記多重量子井戸層へのインジウムの取り込みによって得られ」る点で一致する。

(2) 以上より、本願発明と引用発明1との一致点及び一応の相違点は、次のとおりである。

一致点:
「極性、半極性又は非極性結晶方位にIII族窒化物合金材料を用いて作製される固体発光デバイスであって、当該固体発光デバイスは、
基板、
Pクラッド領域、
Nクラッド領域、
前記Pクラッド領域および前記Nクラッド領域の間に光閉じ込め領域を形成する多重層と、
を含み、
前記多重層は、
Pドープ導波路層、電子ブロック層、活性多重量子井戸領域及びNドープ導波路層に分類され、
前記活性多重量子井戸領域は、量子井戸と障壁層から形成される多重量子井戸層を含み、前記障壁層は、前記多重量子井戸層へのインジウムの取り込みによって得られる、
固体発光デバイス。」

相違点1:
「障壁層」は、
本願発明では、「前記Nドープ導波路層のバンドギャップと概略等しいバンドギャップを有」するのに対し、
引用発明1の「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」は、そのようなものであるのか否か明らかでない点。

相違点2:
本願発明では、「前記多重量子井戸層の不均一な電荷キャリア分布を改善するために、前記Nドープ導波路層及び前記障壁層中のインジウムの量は、前記量子井戸と前記Nドープ導波路層及び前記障壁層との間のバンドギャップの差を低減するように選択され」、「前記量子井戸の深さは、正孔で100meV、電子で200meVを超えない」ものであるのに対し、
引用発明1では、そのようなものであるのか否か明らかでない点。

4 判断
以下、相違点1?2について検討する。

(1) 相違点1について検討する。
ア 引用発明1の「第三のIII-V族窒化物導波路層316」は、「n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Si層」であるところ、引用発明1の「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」と「第三のIII-V族窒化物導波路層316」とは、ともにインジウム含有量が10%の「In_(0.1)Ga_(0.9)N」からなる層である。

イ してみれば、引用発明1の「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」は、「第三のIII-V族窒化物導波路層316」のバンドギャップと概略等しいバンドギャップを有するものであるといえる。

ウ よって、引用発明1は、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を実質的に備えており、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(2) 相違点2について検討する。
ア 引用発明1の「第三のIII-V族窒化物導波路層316」は、「n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Si層」であるところ、引用発明1の「In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸」のインジウムの組成(x=0.2)と、引用発明1の「第三のIII-V族窒化物導波路層316」及び「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」のインジウムの組成(x=0.1)との差は、0.1である。

イ 本願の最先の優先日時点における技術常識1
In_(x)Ga_(1-x)Nの価電子帯のバンド端のエネルギー値Evの組成xに対する傾きは、最大で+0.7eV程度であり、In_(x)Ga_(1-x)Nの伝導帯のバンド端のエネルギー値Ecの組成xに対する傾きは、最小で-1.4eV程度であり、伝導帯の最小エネルギー値Ecと価電子帯の最大エネルギー値Evとの差であるバンドギャップは、In_(x)Ga_(1-x)Nの組成xが大きくなるにつれて小さくなることは、本願の最先の優先日時点における技術常識(必要ならば、先の拒絶理由通知書で引用した、特開2002-111059号公報(特に【0010】?【0013】、図7)参照。)(以下「技術常識1」という。)である。

ウ 本願の最先の優先日時点における技術常識2
多重量子井戸構造において、井戸層と障壁層とのエネルギー差が大きいと、キャリアが注入されにくくなり、キャリア分布が不均一になることは、本願の最先の優先日時点における技術常識(必要ならば、先の拒絶理由通知書で引用した、特開2000-101199号公報(特に【0003】、【0012】)、特開2006-324690号公報(特に【0041】?【0042】)参照。)(以下「技術常識2」という。)である。

エ 本願の最先の優先日時点における技術常識3
量子井戸構造において、次の点は、本願の最先の優先日時点における技術常識(必要ならば、特開平5-95158号公報(特に【0005】?【0008】、図5)、特開平6-140713号公報(特に【0005】?【0009】、図1)、特開2001-156328号公報(特に【0008】?【0009】、図6?7)参照。)(以下「技術常識3」という。)である。

(ア) 「井戸層の価電子帯に形成される量子準位のエネルギー値」は、「井戸層の価電子帯のバンド端のエネルギー値」と「障壁層の価電子帯のバンド端のエネルギー値」との間の値であり、
正孔の「量子井戸の深さ」である「『井戸層の価電子帯に形成される量子準位のエネルギー値』と『障壁層の価電子帯のバンド端のエネルギー値』との差」は、「『井戸層の価電子帯のバンド端のエネルギー値』と『障壁層の価電子帯のバンド端のエネルギー値』との差」よりも小さい点。

(イ) 「井戸層の伝導帯に形成される量子準位のエネルギー値」は、「障壁層の伝導帯のバンド端のエネルギー値」と「井戸層の伝導帯のバンド端のエネルギー値」との間の値であり、
電子の「量子井戸の深さ」である「『障壁層の伝導帯のバンド端のエネルギー値』と『井戸層の伝導帯に形成される量子準位のエネルギー値』との差」は、「『障壁層の伝導帯のバンド端のエネルギー値』と『井戸層の伝導帯のバンド端のエネルギー値』との差」よりも小さい点。

オ 上記技術常識1を踏まえると、引用発明1の「第三のIII-V族窒化物導波路層316」及び「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」は、インジウムを含んでいることによって、「In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸」と「第三のIII-V族窒化物導波路層316」及び「In_(0.1)Ga_(0.9)Nバリア層」との間のバンドギャップの差を低減するものであり、
さらに上記技術常識2を踏まえると、引用発明1の「量子井戸活性層304」の不均一な電荷キャリア分布を改善するものであるといえる。

カ 上記技術常識1を踏まえると、引用発明1において、「『井戸層の価電子帯のバンド端のエネルギー値』と『障壁層の価電子帯のバンド端のエネルギー値』との差」は、最大でも0.7×0.1=0.07eV=70meV程度であり、「『障壁層の伝導帯のバンド端のエネルギー値』と『井戸層の伝導帯のバンド端のエネルギー値』との差」は、最大でも1.4×0.1=0.14eV=140meV程度であるところ、
さらに上記技術常識3を踏まえると、引用発明1における、正孔の量子井戸の深さは、70meVを超えないものであり、電子の量子井戸の深さは、140meVを超えないものであるといえる。

キ 以上より、引用発明1は、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を実質的に備えており、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

5 小括
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-23 
結審通知日 2016-03-29 
審決日 2016-04-14 
出願番号 特願2012-552064(P2012-552064)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
山口 裕之
発明の名称 高注入効率極性及び非極性III族窒化物発光素子  
代理人 山川 茂樹  
代理人 山川 政樹  

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