ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B21B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B21B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B21B |
---|---|
管理番号 | 1319169 |
異議申立番号 | 異議2015-700196 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-11-18 |
確定日 | 2016-06-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5737636号発明「線材用銅」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5737636号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5737636号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第5737636号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成20年8月25日に出願された特願2008-215708号の一部を平成25年3月22日に新たな特許出願としたものであって、平成27年5月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人中川賢治により特許異議の申立てがなされ、平成28年1月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月25日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.平成28年3月25日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された線材用銅」と記載されているのを、「連続鋳造圧延材からなる銅荒引き線」に訂正し、さらに「である線材用銅。」と記載されているのを「である銅荒引き線。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載の線材用銅。」と記載されているのを「請求項1に記載の銅荒引き線。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1に記載の線材用銅。」と記載されているのを「請求項1に記載の銅荒引き線。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「前記線材用銅は、エナメル被覆銅線に用いられる請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の線材用銅。」と記載されているのを、「前記銅荒引き線は、エナメル被覆銅線に用いられる請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の銅荒引き線。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「前記銅鋳塊は、タフピッチ銅から構成されている請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の線材用銅。」と記載されているのを、「タフピッチ銅から構成されている請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の銅荒引き線。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正の目的の適否 ア 訂正事項1について 訂正前の請求項1は物の発明であるが、当該請求項1は「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された」と記載され、製造に関して経時的な要素の記載を有していたが、それを「連続鋳造圧延材からなる」と訂正することにより、物の構造又は特性により特定することで発明を明確にし、さらに当該請求項1における「線材用銅」を「銅荒引き線」と訂正することで発明の対象を明確にしたものである。 よって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 訂正事項2?4について 訂正事項2?4は、訂正事項1により「線材用銅」を「銅荒引き線」と訂正したことに伴い、請求項1を引用する請求項2?5においても記載の整合を図るため、「線材用銅」を「銅荒引き線」に訂正するものである。 よって、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 ウ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正事項1により「線材用銅」を「銅荒引き線」と訂正したことに伴い、請求項1を引用する請求項5においても記載の整合を図るため、「線材用銅」を「銅荒引き線」に訂正するものである。また、訂正前の請求項5における「前記銅鋳塊は、」の削除は、訂正事項1により「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された」を「連続鋳造圧延材からなる銅荒引き線」と訂正することに伴って記載の整合を図るためになされたものである。 よって、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)一群の請求項であるか否か 本件訂正前の請求項1を、本件訂正前の請求項2?5はそれぞれ引用しているから、本件訂正前の請求項1?5に対応する本件訂正後の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (3)新規事項(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正)であるか否か ア 訂正事項1について 願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0003】には「連続鋳造機から製出される銅鋳塊を多段圧延機に供給し、この銅鋳塊を所定の線径となるように複数の圧延ロールで連続的に圧延し、銅荒引き線(線材用銅)に加工する。」との記載があり、この記載から、線材用銅、すなわち、銅荒引き線が連続鋳造圧延材であることが明らかである。 そうすると、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 イ 訂正事項2?5について 訂正事項2?5は、訂正事項1の訂正に伴う記載の整合を図るものであるから、上記アで述べたものと同じ理由により、それぞれ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (4)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと ア 訂正事項1について 「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された」ものは、「連続鋳造圧延材からなる」ものであることは明らかであるから、訂正事項1において、「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された」を「連続鋳造圧延材からなる」と訂正することは、同じ対象を物の構造又は特性によって特定することである。 また、「線材用銅」を「銅荒引き線」と訂正することは、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0003】の「銅荒引き線(線材用銅)」との記載より、「線材用銅」を明瞭な記載である「銅荒引き線」とするものであって何ら技術的事項に変更を伴うものではない。 そうすると、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 イ 訂正事項2?5について 訂正事項2?5は、訂正事項1の訂正に伴う記載の整合を図るためのものであって、上記アで述べたものと同じ理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正を認める。 第3.特許異議申立てについて 1.本件特許発明 上記第2.で述べたように本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件特許訂正発明1?5」という。)は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 連続圧延材からなる銅荒引き線であって、 任意の3箇所の断面を観察し、表面から100μm以内の環状の領域に存在する酸化銅粒子のうち、酸化銅粒子全体を包含できる最小円の直径をその酸化銅粒子の最大径とするとき、前記最大径が10μm以上の酸化銅粒子が平均2個以上15個以下であり、 捻回試験による銅粉発生量が15mg以下(但し15mgを除く)である銅荒引き線。 【請求項2】 任意の3箇所のうち、前記最大径10μm以上の酸化銅粒子が最も多い箇所において、最大径10μm以上の酸化銅粒子が最大20個以下である請求項1に記載の銅荒引き線。 【請求項3】 任意の3箇所全てにおいて、前記最大径10μm以上の酸化銅粒子が15個以下である請求項1に記載の銅荒引き線。 【請求項4】 前記銅荒引き線は、エナメル被覆銅線に用いられる請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の銅荒引き線。 【請求項5】 タフピッチ銅から構成されている請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の銅荒引き線。 2.取消理由の概要 本件訂正前の請求項1?5に係る発明に対して、平成28年1月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 (1)次のア及びイの点において、請求項1?5の記載は特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、当該請求項に係る特許は取り消されるべきものである。 ア 請求項1?5に記載の「線材用銅」とは、「形状を問わない銅(材料)」の用途として「線材」を特定しているのか、「銅線材」(=「銅の荒引き線」)を特定しているのか、との多義的な解釈ができ明確でない。 イ 請求項1?5に記載の発明は「線材用銅」という物の発明であるが、「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された線材用銅」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため、これら請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。 (2)請求項1?3及び5に係る発明は、甲第1号証(特開平11-10220号公報)に記載された発明又は同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。 (3)請求項4に係る発明は、甲第1号証(特開平11-10220号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。 なお、上記(2)及び(3)では、本件特許明細書の【0003】の「銅荒引き線(線材用銅)」との記載をもとに、「銅線材」とは「銅荒引き線」と解釈して判断する。 3.甲第1号証の記載 (1)甲第1号証には、次の(ア)?(イ)が記載されている。 (ア)「【0008】 【発明の実施の形態】・・・。 ・・・。 【0014】切削加工する表層部の深さ:銅素材の表面から20μm以上 本願発明者は線引き後の銅素材の表面を観察した。具体的には、先ず、銅素材をSCR法により溶製し連続的に圧延して直径が12mm又は10mmの銅荒引き線を作製した。そして、この銅荒引き線の表面を観察した。この結果、表面から約20μm以内の深さに圧延のカブリ並びに圧延の際に発生した酸化スケールの巻き込み及び空隙等が観察された。 【0015】切削加工する表層部の深さが銅素材の表面から20μm未満であると、圧延のカブリ、酸化スケールの巻き込み及び空隙等が残存する。従って、切削加工する表層部の深さは銅素材の表面から20μm以上とする。」 (イ)「【0017】 【実施例】以下、本発明の実施例方法について、その特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。 【0018】先ず、銅素材をSCR法により溶製し連続的に圧延して直径が12mm又は10mmの銅荒引き線を作製した。その後、下記表1に示す各実施例方法又は比較例方法により、銅荒引き線の表面を清浄化処理した。 【0019】ブラシ研磨法としては、直径が10mmの銅荒引き線を約10m/分の速度で長手方向に移動させながら、自公転する遊星ブラシにより銅荒引き線の長手方向と直交する方向に研磨を行った。このとき、銅荒引き線の切削される深さが表面から15μm、20μm又は25μmとなるように、遊星ブラシの銅荒引き線への押し込み量を調節した。 【0020】また、皮剥き法としては、直径が12mmの銅荒引き線を10.5mmの直径に伸線加工し、その後、表面から250μmの深さを皮剥きして直径を10mmとした。」 (2)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証の(ア)の記載によれば、銅荒引き線の表面を20μm以上切削加工をしたものは圧延の際に発生した酸化スケールの巻き込みを観察しなくなるということができるから、同(イ)に記載の実施例の銅荒引き線において、その表面を20μm以上切削されるものは、この酸化スケールの巻き込みがないということができる。 イ そこで、同(イ)の記載を本件特許発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、 「SCR法により溶製し連続的に圧延した直径が12mm又は10mmの銅荒引き線であって、銅素材の表面を20μm以上切削加工をして圧延の際に発生した酸化スケールの巻き込みがない銅荒引き線」の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。 4.判断 (1)特許法第36条について ア 「線材用銅」について 本件訂正により、「線材用銅」を「銅荒引き線」と訂正したことにより、本件特許訂正発明1?5は「形状を問わない銅(材料)」ではなく、「銅荒引き線」に係るものであることが明確となった。 よって、本件訂正後の請求項1?5の記載は多義的に解釈されることはなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしており、記載不備はない。 イ 物の製造方法が記載されていることについて 上記第2.(4)アで述べたように、「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された」を「連続鋳造圧延材からなる」と訂正することにより、「連続鋳造により製造された銅鋳塊を連続圧延して製造された」ものが、物の構造又は特性によって特定した「連続鋳造圧延材からなる」ものとなった。 そうすると、本件訂正後の請求項1?5の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしており、記載不備はない。 (2)特許法第29条について ア 対比・判断 (ア)本件特許訂正発明1について (ア-1)本件特許訂正発明1の「連続圧延材からなる銅荒引き線」とは、どのようなものであるか検討する。 願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0003】には「連続鋳造機から製出される銅鋳塊を多段圧延機に供給し、この銅鋳塊を所定の線径となるように複数の圧延ロールで連続的に圧延し、銅荒引き線(線材用銅)に加工する。」との記載があり、この記載をみると、 「連続圧延材からなる銅荒引き線」とは、圧延後に切削加工や研磨加工を施したものではなく、連続鋳造・連続圧延されたままの銅荒引き線であることは明らかである。 (ア-2)一方、甲第1号証発明は、「銅素材の表面を20μm以上切削加工」するとの発明特定事項を有しているから、「SCR法により溶製し連続的に圧延した」ままのものではないことは明らかである。 (ア-3)そうすると、本件特許訂正発明1と甲第1号証発明とを対比すると、 「連続鋳造・連続圧延して製造された銅荒引き線」である点で一致し、次の点で相違している。 相違点1:本件特許訂正発明1は、連続鋳造・連続圧延されたままの銅荒引き線であるのに対し、甲第1号証発明は、表面を20μm以上切削加工した銅荒引き線である点 相違点2:本件特許訂正発明1では、「任意の3箇所の断面を観察し、表面から100μm以内の環状の領域に存在する酸化銅粒子のうち、酸化銅粒子全体を包含できる最小円の直径をその酸化銅粒子の最大径とするとき、前記最大径が10μm以上の酸化銅粒子が平均2個以上15個以下」であるのに対し、甲第1号証発明では、「銅素材の表面を20μm以上切削加工をして圧延の際に発生した酸化スケールの巻き込みがない」点 相違点3:本件特許訂正発明1では、「捻回試験による銅粉発生量が15mg以下(但し15mgを除く)である」のに対して、甲第1号証発明では、かかる事項を有しているか不明である点 (ア-4)そこで、相違点1について検討する。 甲第1号証には、 「【0008】 【発明の実施の形態】本願発明者等が前記課題を解決するために鋭意実験研究を重ねた結果、素材となる銅又は銅合金線材の表面から適切な深さを機械的に切削加工することにより清浄化処理して、コンフォームによる押出加工に使用することにより、膨れ等の品質の低下を防止することができることを見出した。 【0009】以下、本願発明者等が本発明方法に係る製造方法に想到した経緯を具体的に説明する。先ず、本願発明者等は圧延上がりの素材の表面部分近くには局部的に圧延のカブリと呼ばれる外傷又は圧延時に生じる酸化スケールの巻き込みが必ず存在し、これらが押出加工時に巻き込まれ、押出加工された銅製品の品質の低下の主原因となっていることを明らかにした。 【0010】また、酸洗い法によって銅素材の表面に存在する酸化物、油分及び防錆剤等を除去することはできるものの、圧延のカブリに内包された異物及び汚れ並びに酸化スケールの巻き込み部等の欠陥をほとんど除去することはできない。このため、この状態の銅素材をコンフォームにより押出加工した場合には、銅素材の組織中に異物等が巻き込まれ、押出された銅製品の品質に悪影響を及ぼしていた。 【0011】更に、酸洗い法による清浄化処理を行った場合には、上記圧延のカブリ及び酸化物の巻き込み部に酸及び水洗時の汚れ分が残留しやすく、乾燥条件が悪い場合には、押出加工された銅製品の組織中でこれらが異物又は空隙となり、機械的特性等の品質に更に悪影響を与える原因となっていた。 【0012】そこで、上述のカブリ及び酸化物の巻き込みを表面より完全に取り除くことが必要であることに想到し、上述のカブリ及び酸化物の巻き込みが表面から約20μm以内の深さに存在することを突き止めた。そして、本発明方法においては、この部分をブラシ研磨又は皮剥き等の機械的な切削加工を行うことにより連続的に且つ完全に取り除き、銅素材をコンフォームに供給することとする。」 と、記載されているから、甲第1号証においては、圧延後にブラシ研磨又は皮剥き等の機械的な切削加工を行うことは不可欠である。 そうすると、相違点1は、実質的な相違点であって、しかも、甲第1号証発明において、切削加工を行わないという動機付けは見当たらない。 (ア-5)よって、相違点2及び3を検討するまでもなく、本件特許訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ)本件特許訂正発明2?5について 本件特許訂正発明2?5は、本件特許訂正発明1を発明特定事項の全てを発明特定事項として含むものであるから、上記(ア)で述べたものと同じ理由により、これら発明は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 5.異議申立人の主張について 異議申立人は、本件訂正請求に対する平成28年5月13日付けの意見書において、「連続鋳造材からなる銅荒引き線」と、ビレット押出方式、DIPフォーミング方式などで製造された銅荒引き線との差異が不明であるから、「連続鋳造材からなる銅荒引き線」という記載は明確でないと主張する。 しかし、「連続圧延材からなる銅荒引き線」とは、圧延後に切削加工や研磨加工を施したものではなく、連続鋳造・連続圧延されたままの銅荒引き線であって(上記4.(2)ア(ア)(ア-1))、「連続鋳造・連続圧延されるぐらいの長尺材で、かつ圧延肌を有する材料からなる銅の荒引き線である」ことは明らかであるから、「連続圧延材からなる銅荒引き線」という記載は明確である。 そして、ビレット押出方式、DIPフォーミング方式などで製造された銅荒引き線との物としての差異の明確・不明確は、これら方式によって製造された銅荒引き線との同一性を判断するために対比するときに生じるものであって、その対比を必要としない限りにおいて、「連続鋳造材からなる銅荒引き線」という記載の明確・不明確を左右するものではない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 連続鋳造圧延材からなる銅荒引き線であって、 任意の3箇所の断面を観察し、表面から100μm以内の環状の領域に存在する酸化銅粒子のうち、酸化銅粒子全体を包含できる最小円の直径をその酸化銅粒子の最大径とするとき、前記最大径が10μm以上の酸化銅粒子が平均2個以上15個以下であり、 捻回試験による銅粉発生量が15mg以下(但し15mgを除く)である銅荒引き線。 【請求項2】 任意の3箇所のうち、前記最大径10μm以上の酸化銅粒子が最も多い箇所において、最大径10μm以上の酸化銅粒子が最大20個以下である請求項1に記載の銅荒引き線。 【請求項3】 任意の3箇所全てにおいて、前記最大径10μm以上の酸化銅粒子が15個以下である請求項1に記載の銅荒引き線。 【請求項4】 前記銅荒引き線は、エナメル被覆銅線に用いられる請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の銅荒引き線。 【請求項5】 タフピッチ銅から構成されている請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の銅荒引き線。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-06-17 |
出願番号 | 特願2013-59439(P2013-59439) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B21B)
P 1 651・ 121- YAA (B21B) P 1 651・ 113- YAA (B21B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 酒井 英夫、本多 仁、坂巻 佳世、深草 祐一 |
特許庁審判長 |
鈴木 正紀 |
特許庁審判官 |
富永 泰規 木村 孔一 |
登録日 | 2015-05-01 |
登録番号 | 特許第5737636号(P5737636) |
権利者 | 住友電気工業株式会社 |
発明の名称 | 線材用銅 |
代理人 | 山野 宏 |
代理人 | 山野 宏 |