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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
管理番号 1319172
異議申立番号 異議2015-700060  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-07 
確定日 2016-06-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5696512号発明「粉末冶金用混合粉およびその製造方法ならびに切削性に優れた鉄基粉末製焼結体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5696512号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12、20?27〕、〔13?19、28?32〕について訂正することを認める。 特許第5696512号の請求項2、4?6、9?12、14、16?32に係る特許を維持する。 特許第5696512号の請求項1、3、7、8、13、15に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5696512号の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成23年 2月 8日(優先権主張 平成22年 2月18日、平成22年12月24日)に特許出願され、平成27年 2月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人天津品源科技有限公司により特許異議の申立てがなされ、当審より同年12月15日付けで取消理由通知が通知され、平成28年 2月15日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで訂正請求がなされ、この訂正請求に対して同年 3月 4日手続補正指令書(方式)が通知され、同年 3月31日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 訂正の適否
平成28年 3月31日付けの手続補正書(方式)により補正された同年 2月15日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、訂正後の請求項1?12及び請求項20?27からなる一群の請求項に係る訂正と、訂正後の請求項13?19及び請求項28?32からなる一群の請求項に係る訂正とからなる。

1 訂正後の請求項1?12及び請求項20?27からなる一群の請求項に係る訂正について
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1?12に、
「【請求項1】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とすることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項2】
前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含むことを特徴とする請求項1に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項3】
前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であることを特徴とする請求項2に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項4】
前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項5】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項6】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項8】
前記軟質金属化合物相が、SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相であることを特徴とする請求項7に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項9】
前記アルカリ金属酸化物が、Na_(2)O、K_(2)O、Li_(2)Oのいずれかまたはそれらの複合であることを特徴とする請求項8に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項10】
前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項11】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項12】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。」とあるのを、
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項5】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項6】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項10】
請求項4ないし6のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項11】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項12】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項20】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項21】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であり、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項22】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項20または21に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項23】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項20ないし22のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項24】
請求項20ないし23のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項25】
請求項20ないし23のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Na_(2)O、K_(2)O、Li_(2)Oのいずれかまたはそれらの複合であり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項26】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項24または25に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項27】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項24ないし26のいずれかに記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。」(当審注:下線部は、訂正箇所である。以下同様。)
と訂正する。

この訂正は、以下の訂正事項からなる。

訂正事項1 :特許請求の範囲の請求項1、3、7及び8を削除する。

訂正事項2-1:特許請求の範囲の請求項2について、「請求項1」の記載を引用する請求項の記載を、当該請求項1の記載を書き下した請求項の記載とする。

訂正事項2-2:特許請求の範囲の請求項4について、「請求項1ないし3のいずれか」の記載を引用する請求項の記載であるのを、
訂正前の請求項1の記載を引用する請求項4を、訂正前の請求項1の記載を書き下した請求項4、
訂正前の請求項1及び2の記載を引用する請求項4を、訂正前の請求項1及び2の記載を書き下した請求項20、
訂正前の請求項1、2及び3の記載を引用する請求項4を、訂正前の請求項1、2及び3の記載を書き下した請求項21
とする。

訂正事項2-3:特許請求の範囲の請求項9について、「請求項8」の記載を引用する請求項の記載であるのを、訂正後の請求項2の記載を引用し、訂正前の請求項7及び8の記載を書き下した請求項の記載とする。

訂正事項2-4:特許請求の範囲の請求項10について、「請求項7ないし9のいずれか」の記載を引用する請求項の記載であるのを、
訂正前の請求項7の記載を引用する請求項10を、訂正後の請求項4ないし6を引用し、訂正前の請求項7の記載を書き下した請求項10、
訂正前の請求項7及び8の記載を引用する請求項10を、訂正後の請求項20ないし23を引用し、訂正前の請求項7及び8の記載を書き下した請求項24、
訂正前の請求項7、8及び9の記載を引用する請求項10を、訂正後の請求項20ないし23を引用し、訂正前の請求項7、8及び9の記載を書き下した請求項25
とする。

訂正事項3-1:特許請求の範囲について、上記訂正事項2-2に伴い、請求項5の発明特定事項を有し、訂正後の請求項20又は21の記載を引用する、新たな請求項22とする。

訂正事項3-2:特許請求の範囲について、上記訂正事項2-2、及び、上記訂正事項3-1に伴い、請求項6の発明特定事項を有し、訂正後の請求項20ないし22のいずれかの記載を引用する、新たな請求項23とする。

訂正事項3-3:特許請求の範囲について、上記訂正事項2-4に伴い、請求項11の発明特定事項を有し、請求項24又は25の記載を引用する、新たな請求項26とする。

訂正事項3-4:特許請求の範囲について、上記訂正事項2-4、及び、上記訂正事項3-3に伴い、請求項12の発明特定事項を有し、訂正後の請求項24ないし26のいずれかの記載を引用する、新たな請求項27とする。

訂正事項4-1:特許請求の範囲について、訂正前の請求項2及び4が記載を引用している訂正前の請求項1に「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種」とあるのを、訂正後の請求項2、4、20、21において「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種」とする。

訂正事項4-2:特許請求の範囲について、訂正前の請求項2に「アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上」とあるのを、訂正後の請求項2において「アルカリ金属石鹸粉末」とする。

訂正事項4-3:特許請求の範囲について、訂正前の請求項9に「Na_(2)O、K_(2)O、Li_(2)Oのいずれかまたはそれらの複合である」とあるのを、訂正後の請求項9において「Li_(2)Oである」とする。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項2-1?2-4は、引用する請求項を、訂正前の当該引用する請求項の一部の請求項を引用するものとし、さらに引用しない形式に書き下したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項3-1?3-4は、他の訂正を行う際に、一つ一つの請求項で訂正後の発明を記載することが困難となり請求項数を増やして表現するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項4-1?4-3は、択一形式の記載の要素を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項1?4-3は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正後の請求項1?12及び請求項20?27は、一群の請求項である。

(3)まとめ
よって、訂正後の請求項1?12及び請求項20?27からなる一群の請求項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

2 訂正後の請求項13?19及び請求項28?32からなる一群の請求項に係る訂正について
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項13?19に、
「【請求項13】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項14】
前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含むことを特徴とする請求項13に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項15】
前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であることを特徴とする請求項14に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項16】
前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする請求項13ないし15のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項17】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項16に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項18】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項16または17に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項19】
請求項13ないし18のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。」とあるのを、
「【請求項13】(削除)
【請求項14】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、
前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、
前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項17】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項16に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項18】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項16または17に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項19】
請求項14、16、17、18のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。
【請求項28】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項29】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であり、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項30】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項28または29に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項31】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項28ないし30に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項32】
請求項28ないし31のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。」と訂正する。

この訂正は、以下の訂正事項からなる。

訂正事項5 :特許請求の範囲の請求項13及び15を削除する。

訂正事項6-1:特許請求の範囲の請求項14について、「請求項13」の記載を引用する請求項の記載を、当該請求項13の記載を書き下した請求項の記載とする。

訂正事項6-2:特許請求の範囲の請求項16について、「請求項13ないし15のいずれか」の記載を引用する請求項の記載であるのを、
訂正前の請求項13の記載を引用する請求項16を、訂正前の請求項13の記載を書き下した請求項16、
訂正前の請求項13及び14の記載を引用する請求項16を、訂正前の請求項13及び14の記載を書き下した請求項28、
訂正前の請求項13、14及び15の記載を引用する請求項16を、訂正前の請求項13、14及び15の記載を書き下した請求項29とする。

訂正事項7-1:特許請求の範囲について、上記訂正事項6-2に伴い、請求項17の発明特定事項を有し、訂正後の請求項28又は29の記載を引用する、新たな請求項30とする。

訂正事項7-2:特許請求の範囲について、上記訂正事項6-2、及び、上記訂正事項7-1に伴い、請求項18の発明特定事項を有し、訂正後の請求項28ないし30のいずれかの記載を引用する、新たな請求項31とする。

訂正事項7-3:特許請求の範囲について、上記訂正事項6-2、上記訂正事項7-1、及び、上記訂正事項7-2に伴い、請求項19の発明特定事項を有し、訂正後の請求項28ないし31のいずれかの記載を引用する、新たな請求項32とする。

訂正事項8-1:特許請求の範囲について、訂正前の請求項14及び16が記載を引用している訂正前の請求項13に「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種」とあるのを、訂正後の請求項14、16、28、29において「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種」とする。

訂正事項8-2:特許請求の範囲について、訂正前の特許請求の範囲の請求項14に「アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上」とあるのを、訂正後の請求項14において「アルカリ金属石鹸粉末」とする。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項6-1?6-2は、引用する請求項を、当該引用する請求項の一部の請求項を引用するものとし、さらにこれらを引用せずに書き下したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項7-1?7-3は、他の訂正を行う際に、一つ一つの請求項で訂正後の発明を記載することが困難となり請求項数を増やして表現するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項8-1?8-2は、択一形式の記載の要素を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項1?4-3は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正後の請求項13?19及び請求項28?32は、一群の請求項である。

(3)まとめ
よって、訂正後の請求項13?19及び請求項28?32からなる一群の請求項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?12、20?27〕、〔13?19、28?32〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許第5696512号の請求項1?32に係る発明(以下、「本件訂正発明1?32」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?32に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。なお、下線は訂正箇所であり、請求項1、3、7、8、13、15は削除された。

【請求項1】(削除)
【請求項2】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項5】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項6】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項10】
請求項4ないし6のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項11】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項12】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項13】(削除)
【請求項14】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、
前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、
前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項17】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項16に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項18】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項16または17に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項19】
請求項14、16、17、18のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。
【請求項20】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項21】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であり、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項22】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項20または21に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項23】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項20ないし22のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項24】
請求項20ないし23のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項25】
請求項20ないし23のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Na_(2)O、K_(2)O、Li_(2)Oのいずれかまたはそれらの複合であり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項26】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項24または25に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項27】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項24ないし26のいずれかに記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項28】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項29】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であり、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項30】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項28または29に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項31】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項28ないし30に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項32】
請求項28ないし31のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?19に係る発明(以下、「本件特許発明1?19」という。)についての特許に対して、平成27年12月15日付けで特許権者に通知した取消理由は次のとおりである。

理由1 新規性進歩性について
(1)甲第1号証に基づく理由について
(1-1)本件特許発明1?3、7?9について
本件特許発明1?3、7?9は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し、その特許を取り消すべきである。
(1-2)本件特許発明13?15、19について
本件特許発明13?15、19は、甲第1号証に記載された発明と甲第7号証、甲第19号証?甲第21号証に記載されるような下記周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、その特許を取り消すべきである。

(2)甲第2号証に基づく理由について
(2-1)本件特許発明1?3、7?9について
本件特許発明1?3、7?9は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し、その特許を取り消すべきである。
(2-2)本件特許発明13?15、19
本件特許発明13?15、19は、甲第2号証に記載された発明と甲第7号証、甲第19号証?甲第21号証に記載されるような下記周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、その特許を取り消すべきである。

(3)甲第3号証に基づく理由について
本件特許発明1、13、19は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、その特許を取り消すべきである。

理由2 拡大先願について
(1)甲第8号証に基づく理由について
本件特許発明1、7は、本件特許の優先日前に国際出願された特許出願(特願2011-542053号、特表2012-513538号公報(甲第8号証))であって、国際公開(国際公開2010/074627号)がされ、その発明をした者が本件特許の出願に係る発明者と同一の者でないものであり、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、特許法第184条の13の規定により読み替えた特許法第29条の2に該当し、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、その特許を取り消すべきである。

理由3 記載要件について
(1-1)本件特許発明1及び13は、切削性改善用粉末が「酸化マグネシウム(MgO)」単体である場合を含むが、この場合に、発明の詳細な説明が、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
本件特許発明2?12、14?19も、同様の理由により、発明の詳細な説明が、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、その特許を取り消すべきである。

(1-2)本件特許発明7は、「該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなる」という発明特定事項を有しているが、発明の詳細な説明は、この発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
同様の理由により、発明の詳細な説明は、本件特許発明7のこの発明特定事項を有する本件特許発明8?12についても、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、その特許を取り消すべきである。

(2-1)本件特許発明7は、「該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなる」という発明特定事項を有しているが、発明の詳細な説明には、この発明特定事項について記載されていない。
同様の理由により、本件特許発明7のこの発明特定事項を有する本件特許発明8?12についても、発明の詳細な説明には記載されていない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、その特許を取り消すべきである。

(3-1)本件特許発明1及び13は、「前記切削性改善用粉末を、・・・、水砕スラグ粉末、・・・、のうちから選ばれた少なくとも1種とし」との発明特定事項を有しており、この「水砕スラグ粉末」の定義が不明であり、特に、「水砕スラグ粉末」が高炉水砕スラグ粉末に限定されるのか否かについて明確ではなく、本件特許発明1及び13は明確でない。
また、本件特許発明1及び13の上記発明特定事項を有する本件特許発明2?12、14?19についても同様に明確でない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、その特許を取り消すべきである。

(3-2)本件特許発明1及び13は、「前記切削性改善用粉末を、・・・、すいひ粘土粉末、・・・、のうちから選ばれた少なくとも1種とし」との発明特定事項を有しており、この「すいひ粘土」の定義が不明であり、本件特許発明1及び13は明確でない。
また、本件特許発明1及び13の上記発明特定事項を有する本件特許発明2?12、14?19についても同様に明確でない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、その特許を取り消すべきである。

3 各甲号証の記載事項・周知技術
(1)甲号証
甲第1号証 :特開平01-255603号公報
甲第2号証 :特開平01-255604号公報
甲第3号証 :特開2008-127640号公報
甲第7号証 :特開2008-169460号公報
甲第8号証 :特表2012-513538号公報
甲第19号証:特開2004-292861号公報
甲第20号証:特表2004-524450号公報
甲第21号証:特開2007-2340号公報

(2)甲第1号証について
甲第1号証には、次の(ア)?(エ)の事項が記載されている。

(ア)「焼結鋼材は、溶製鋼材よりも切削時に工具の刃先温度が60?150℃高くなることから、切削工具の短命化を招くが、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を添加すると、このMgO-SiO_(2)系混合酸化物がFeと反応して、MgO-SiO_(2)-FeO系複合酸化物を形成して比較的低融点となるために切削温度により溶融し、これが切削時に切削工具表面を保護、潤滑すると共に、切削工具と焼結鋼とのCの拡散反応を阻止することによって切削工具の組成変化を防ぐため、切削工具寿命の延長化が図られるものと推察される。
しかもMgO-SiO_(2)系混合酸化物は、元来比較的柔らかい(モース硬度1?4)のに加え、減摩作用や潤滑作用に富むため、・・・利点もある。」(第3ページ左下欄第9行?同ページ右下欄第5行)

(イ)「実施例1
重量割合で57%MgO-43%SiO_(2)組成のフォルステライト粉末に、さらに試薬のMgOまたはSiO_(2)を種々の割合で混合して焼成し、MgO/SiO_(2)モル比の影響を調べた。ここに、表1に示す組成になる6種(記号A?F)のMgO-SiO_(2)系複合酸化物を準備した。


これらのMgO-SiO_(2)系混合酸化物を粉砕、空気分級して、平均粒径(マイクロトラック法によるメジアン径。以下同様)11?15μmとし、それぞれ、アトマイズ鉄粉(-80メッシュ)に混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え、さらに慣例に従い天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%の割合いとなるように加えて混合したのち、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を該混合粉に対し1.0 wt%の割合いにて混合した。
かような混合粉から、それぞれ圧粉密度6.9g/cm^(3)の・・・試験片および・・・リング試験片を作製し、・・・、1250 ℃で60 minの焼結を施した。
・・・
かくして得られた各焼結体の引張強さならびに、切削工具の横逃面摩耗量および焼結体の表面粗さについて調べた結果を表2に示す。・・・


表2から、添加剤を加えたA?Gは、加えないHにくらべ、工具摩耗量や、表面粗さがいずれも改善されているが、工具摩耗量はとくにA?Eが少なく、表面粗さも特にA?Eが少ない。・・・。したがって、MgO/SiO_(2)モル比が1.0?3.0の範囲の、B?Eが優れた総合評価を得ている。」(第4ページ右下欄第19行?第6ページ左上欄第1行?第8行)

(ウ)「実施例4
実施例1のMgO-SiO_(2)系酸化物粉末D(MgO/SiO_(2)モル比1.97、平均粒径14μm)と併せて、73% SiO_(2)-13% Na_(2)O-10% CaO-4% MgO組成のソーダガラス粉末(平均粒径17μm)を切削性改善添加物として用い、実施例1と同様の鉄粉、銅粉、潤滑材の配合で、同様の試験を行ったが、粉末Dの添加量は0.5%とし、ソーダガラス粉末の添加量を変化させガラス複合添加の影響を調べた。結果を表5に示す。


明らかに、MgO-SiO_(2)系酸化物とガラスとの複合添加によって、一層の切削性改善が図られている。ただし、合計添加量が1.5%を超えると機械的強度の劣化が著しい。」(第6ページ右下欄第3行?第7ページ左上欄第4行)

(エ)「実施例5
実施例4におけるソーダガラス無添加の場合、およびソーダガラス0.50 wt%添加の場合と同一の条件の試験を標準とし、これらに、それぞれ、混合粉末の状態でバインダー添加による偏析防止処理を行ない、その効果をバインダー添加の影響としてたしかめた。すなわち、実施例4における成形に供する混合粉末(鉄粉、銅粉、黒鉛粉、切削性改善粉およびステアリン酸亜鉛)にさらにオレイン酸を0.3%添加し、混合し、105℃に加熱し、冷却した。次に実施例1と同様に、試験片を作製し、焼結を施した。結果を表6に示す。


表6に示されたとおり、バインダー添加により、切削性と機械的強度がともにより改善される。」(第7ページ左上欄第5行?同頁右下欄第2行)

以上の事項を踏まえると、甲第1号証には、(イ)の事項により、以下の「甲1-1発明」及び「甲1-3発明」が記載され、また、(ウ)の事項により、甲1号証には、以下の「甲1-2発明」が記載されていると認める。

甲1-1発明:「アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%と、MgO/SiO_(2)モル比が1.0?3.0の範囲のMgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合した混合粉であって、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を1.0 wt %の割合いにて混合した、焼結を施す混合粉。」

甲1-2発明:「アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%と、MgO/SiO_(2)モル比が1.97のMgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合した混合粉であって、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 %の割合いを占めるように加え、さらに、ソーダガラス粉末を0.10、0.50、1.0又は1.5 %加え、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を1.0 wt %の割合いにて混合した、焼結を施す混合粉。」

甲1-3発明:「アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%と、MgO/SiO_(2)モル比が1.0?3.0の範囲のMgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を1.0 wt %の割合いにて混合した、焼結を施す混合粉の製造方法。」

(2)甲第2号証について
甲第2号証には、次の(カ)?(コ)の事項が記載されている。

(カ)「焼結鋼材は、溶製鋼材よりも切削時に工具の刃先温度が60?150℃高くなることから、切削工具の短命化を招くが、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を添加すると、このMgO-SiO_(2)系混合酸化物がFeと反応して、MgO-SiO_(2)-FeO系複合酸化物を形成し、比較的低融点となるため切削温度により溶融し、これが切削時に切削工具表面を保護、潤滑すると共に、切削工具と焼結鋼とのCの拡散反応を阻止することによって切削工具の組成変化を防ぐため、切削工具寿命の延長化が図られるものと推察される。
しかもMgO-SiO_(2)系混合酸化物は、元来比較的柔らかい(モース硬度1?4)のに加え、減摩作用や潤滑作用に富むため、・・・利点もある。」(第3ページ右下欄第14行?第4ページ左上欄第10行)

(キ)「ところが、その反面、前述のように結晶水が焼結時に悪影響を及ぼすので、結晶水をもたない無水のタルクを用いる。
無水タルクを得るにはタルクを大気中1200℃で1時間程度焼成すると良い。こうして結晶水は2wt%程度まで脱水されれば事実上へい害を伴うことはない。」(第4ページ左上欄第14行目?第20行目)

(ク)「実施例1
重量割合で31.7% MgO-61.8% SiO_(2)組成のタルク粉末に、さらに試薬のMgOまたはSiO_(2)を種々の割合で混合して大気中1200℃で1時間焼成し、表1に示す組成になる4種(記号A?D)のMgO-SiO_(2)系複合酸化物を準備し、MgO/SiO_(2)モル比の影響を調べた。


これらのMgO-SiO_(2)系混合酸化物を粉砕、空気分級して、平均粒径(マイクロトラック法によるメジアン径。以下同様)11?15μmとし、それぞれ、アトマイズ鉄粉(-80メッシュ)に0.5 wt%加えた。さらに天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%添加して混合したのち、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を該混合粉に対し1.0 wt%添加混合した。
かような混合粉から、それぞれ圧粉密度6.9g/cm^(3)の・・・試験片および・・・リング試験片を作製し、・・・、1250℃で60 minの焼結を施した。
・・・。
かくして得られた各焼結体の引張強さならびに切削工具の横逃面摩耗量および焼結体の表面粗さについて調べた結果を、表2に示す。
・・・。


表2から、複合酸化物粉を加えたA?Dは、加えないEにくらべ、工具摩耗量や、表面粗さがいずれも改善されているが、一方、強度は、Eにくらべ、この発明によるA?Cは低下が少なく、好ましいのに対し、結晶水をもつタルクを用いたDは相当低下した。」(第4ページ右下欄第18行?第6ページ右上欄第2行)

(ケ)「実施例4
実施例1のMgO-SiO_(2)系酸化物粉末B(MgO/SiO_(2)モル比0.76、平均粒径12μm)と併せて、73 % SiO_(2)-13 % Na_(2)O-10 % CaO-4 % MgO組成のソーダガラス粉末(平均粒径17μm)を切削性改善添加物として用い、実施例1と同様の鉄粉、銅粉、潤滑材の配合で、同様の試験を行ったが、粉末Bの添加量は0.5%とし、ソーダガラス粉末の添加量を変化させガラス複合添加の影響を調べた。結果を表5に示す。


明らかに、MgO-SiO_(2)系酸化物とガラスとの複合添加によって、一層の切削性改善が図られている。ただし、合計添加量が1.5%を超えると機械的強度の劣化が著しい。」(第6ページ右下欄第3行?第7ページ第4行)

(コ)「実施例5
実施例4におけるソーダガラス無添加の場合、およびソーダガラス0.50 wt%添加の場合と同一の条件の試験を標準とし、これらに、それぞれ、混合粉末の状態でバインダー添加による偏析防止処理を行ない、その効果をバインダー添加の影響としてたしかめた。すなわち、実施例4における成形に供する混合粉末(鉄粉、銅粉、黒鉛粉、切削性改善粉およびステアリン酸亜鉛)にさらにオレイン酸を0.3%添加し、混合し、105℃に加熱し、冷却した。次に実施例1と同様に、試験片を作製し、焼結を施した。結果を表6に示す。


表6に示されたとおり、バインダー添加により、切削性と機械的強度がともにより改良され、好ましい実施様態である。」(第7ページ右上欄第5行?第7ページ左下欄第3行)

以上の事項を踏まえて、甲第2号証に記載された発明について検討する。
(ク)の事項の「重量割合で31.7% MgO-61.8% SiO_(2)組成のタルク粉末に、さらに試薬のMgOまたはSiO_(2)を種々の割合で混合して大気中1200℃で1時間焼成し、表1に示す組成になる4種(記号A?D)のMgO-SiO_(2)系複合酸化物」について、(キ)の事項によれば、タルクを大気中1200℃で1時間程度焼成すると結晶水は2wt%程度まで脱水され無水タルクが得られることから、「大気中1200℃で1時間焼成」する(ク)の事項のMgO-SiO_(2)系複合酸化物は、無水のMgO-SiO_(2)系複合酸化物であるといえる。
してみると、甲第2号証には、(ク)の事項によれば、以下の「甲2-1発明」及び「甲2-3発明」が記載され、また、甲2号証の(ケ)の事項によれば、以下の「甲2-2発明」が記載されていると認める。

甲2-1発明:「アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%と、MgO/SiO_(2)モル比が0.53、0.76及び0.96の無水のMgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合した混合粉であって、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を1.0 wt %の割合いにて混合した、焼結を施す混合粉。」

甲2-2発明:「アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%と、MgO/SiO_(2)モル比が0.76の無水のMgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合した混合粉であって、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 %の割合いを占めるように加え、さらに、ソーダガラス粉末を0.10、0.50、1.0又は1.5 %加え、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を1.0 wt %の割合いにて混合した、焼結を施す混合粉。」

甲2-3発明:「アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉0.5 wt%、電解Cu粉を2.0 wt%と、MgO/SiO_(2)モル比が0.53、0.76及び0.96のMgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を1.0 wt %の割合いにて混合した、焼結を施す混合粉の製造方法。」

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、次の(サ)?(セ)の事項が記載されている。

(サ)「高速ミキサーに所定量の鉄粉を装入し、ここに黒鉛,Cu粉等の合金成分と、結合剤を添加する。これらの原料を投入した後、加熱混合を開始する。・・・。混合槽内の温度が結合剤成分の少なくとも1種の融点以上になるまで加熱混合し、上記の温度で1?30分程度混合する。これらの原料を十分混合した後、混合槽内を冷却する。冷却過程で結合剤が固化するが、その際、合金成分等の副原料を鉄粉の表面に付着させる。」(段落【0012】)

(シ)「結合剤の種類は、加熱して溶融するもの、もしくは加熱して固化するもの、いずれのものでも使用できるが、固化した後で潤滑性を有するものが好ましい。その理由は、粉体粒子間の摩擦力を低下させ、粉体の流動性を良くし、成形初期の粒子再配列を促すためである。具体的には、金属石鹸,アミドワックス,ポリアミド,ポリエチレン,酸化ポリエチレン等を使用する。特にステアリン酸亜鉛,ステアリン酸リチウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸モノアミド,エチレンビスステアロアミドが好ましい。これらの結合剤は単体で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。」(段落【0013】)

(ス)「ステアリン酸アミドとエチレンビスステアロアミドを結合剤として、表1に示す鉄粉,Cu粉,黒鉛粉をヘンシェルタイプの高速ミキサーで加熱混合し、60℃まで冷却し、表1に示す各種流動性改善粒子と潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を添加混合した。なお、流動性改善粒子の物性は表2に示すとおりである。このようにして得られた鉄基粉末の充填性を、図1に示す充填試験機にて評価した。」(段落【0019】)

(セ)「【表1】

」(段落【0024】)

以上の事項を踏まえて、甲第3号証に記載された発明について検討する。
(セ)の事項の発明例2及び発明例6において結合剤として用いられているステアリン酸モノアミド及びエチレンビスステアロアミドについて、(シ)の事項からみて、潤滑性を有するものであり、潤滑剤ともいえる。
してみると、甲3号証には、(サ)?(セ)の事項からみて以下の「甲3-1発明」が記載されていると認める。

甲3-1発明:「97.4質量%の300Aと、2.0質量%のCu及び0.6質量%の黒鉛とからなる鉄基合金と、当該鉄基合金を100質量部とした質量比で0.6質量部又は1.0質量部のMgOと、0.3質量部のステアリン酸モノアミド及び0.3質量部のエチレンビスステアロアミドとを、ステアリン酸アミドとエチレンビスステアロアミドを結合剤として、鉄粉,Cu粉,黒鉛粉をヘンシェルタイプの高速ミキサーで加熱混合し、60℃まで冷却し、各種流動性改善粒子と潤滑剤として0.2質量部のステアリン酸亜鉛を添加混合した流動性改善粒子であって、
潤滑剤を、ステアリン酸モノアミド、エチレンビスステアロアミド、及びステアリン酸亜鉛とする流動性改善粒子。」

(4)甲第8号証について
本件特許の優先日前に国際出願された特許出願(特願2011-542053号、特表2012-513538号公報(甲第8号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には、次の(タ)?(ニ)の事項が記載されている。

(タ)「CLAIMS
1. An iron-based powder composition comprising, in addition to an iron- based powder, a minor amount of a machinability improving additive in powder form, said additive comprising at least one silicate from the group consisting of phyllosilicates.
2. The iron-based powder composition according to claim 1 , wherein the phyllosilicate is chosen from the group consisting of clay minerals.
3. The iron- based powder composition according to claim 2 wherein the clay minerals are chosen from the group consisting of kaolinite, smectites and bentonites.
・・・
6. The iron-based powder composition according to claim 1 , wherein the phyllosilicate is chosen from the group consisting of micas and wherein the content of the machinability improving additive is less than 0.5 wt%, preferably 0.4 wt% or less, such as 0.3 wt% or less, or 0.2 wt% or less.
・・・
15. Method for producing an iron-based sintered part having improved machinability, comprising: preparing an iron-based powder composition according to any one of claims 1-12; compacting the iron-based powder composition at a compaction pressure of 400-1200 MPa; sintering the compacted part at a temperature of 1000-1300 ℃; and optionally heat treating the sintered part. 」
(国際公開2010/074627号の第28ページ第1行?第29ページ第33行)
(当審訳:請求の範囲
1.鉄をベースとした粉末に加えて、粉末状のより少ない量の機械加工性改善添加剤を含み、前記添加剤がフィロケイ酸塩からなる群からの少なくとも1つのケイ酸塩を含む、鉄をベースとした粉末組成物。
2.フィロケイ酸塩が、粘土鉱物からなる群から選択される、請求項1に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
3.粘土鉱物が、カオリナイト、スメクタイト及びベントナイトからなる群から選択される、請求項2に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
・・・
6.フィロケイ酸塩が雲母からなる群から選択され、機械加工性改善添加剤の含量が、0.5重量%未満、好ましくは0.4重量%以下、例えば、0.3重量%以下、又は0.2重量%以下である、請求項1に記載の鉄をベースとした粉末組成物。
・・・
15.請求項1から12までのいずれか一項に記載の鉄をベースとした粉末組成物を調製すること、
鉄をベースとした粉末組成物を400?1200MPaの圧縮成形圧で圧縮成形すること、圧縮成形部品を1000?1300℃の温度で焼結すること、及び
場合により、焼結部品を熱処理することを含む、改善された機械加工性を有する鉄をベースとした焼結部品を製造する方法。)

(チ)「The present invention discloses a new additive for improving the machinability of sintered steels. Especially for low alloyed sintered steels having a content of alloying elements below 10 % by weight and being free from hard phase materials. The new additive is designed for improving the machinability of such sintered steels subjected to chip removing operations such as drilling, turning, milling and threading. Further the new additive can be used in components to be machined by several types of tool materials such as high speed steel, tungsten carbides, cermets, ceramics and cubic boron nitride and the tool may also be coated.」(国際公開2010/074627号の第3ページ第18行?第26行)
(当審訳:本発明は、焼結鋼の機械加工性を改善するための新規な添加剤を開示する。特に10重量%未満の合金化元素の含量を有し、硬質相物質を含まない低合金焼結鋼向けである。新規な添加剤は、ドリル穴あけ、旋削、フライス研削及びねじ切りなどの切りくず除去操作にかけられるそのような焼結鋼の機械加工性を改善するために設計されている。さらに新規な添加剤は、高速度鋼、炭化タングステン、サーメット、セラミック及び立方晶窒化ホウ素などのいくつかの種類の工具材料により機械加工される部品に用いることができ、工具は、被覆することもできる。)

(ツ)「The invention thus provides an iron-based powder composition comprising, in addition to an iron-based powder, a minor amount of a machinability improving additive, said additive comprising at least one silicate from the group of phyllosilicates. The invention also provides the use of a phyllosilicate as a machinablitiy improving agent in an iron-based powder composition. The invention further provides a method for producing an iron- based sintered part having improved machinability comprising the steps of: preparing an iron-based powder composition as above, compacting the iron- based powder composition at a compaction pressure of 400-1200 MPa, sintering the compacted part at a temperature of 1000-1300 ℃ and optionally heat treating the sintered part.」(国際公開2010/074627号の第4ページ第12行?第23行)
(当審訳:したがって、本発明は、鉄をベースとした粉末に加えて、より少ない量の機械加工性改善添加剤を含み、前記添加剤がフィロケイ酸塩の群からの少なくとも1つのケイ酸塩を含む、鉄をベースとした粉末組成物を提供する。本発明はまた、鉄をベースとした粉末組成物における機械加工性改善剤としてのフィロケイ酸塩の使用を提供する。本発明はさらに、上のような鉄をベースとした粉末組成物を調製するステップ、鉄をベースとした粉末組成物を400?1200MPaの圧縮成形圧で圧縮成形するステップ、圧縮成形部品を1000?1300℃の温度で焼結するステップ、及び、場合により、焼結部品を熱処理するステップを含む、改善された機械加工性を有する鉄をベースとした焼結部品を製造する方法を提供する。)

(テ)「The machinability enhancing agent comprises a defined silicate, classified as phyllosilicates, which may be characterised by having a Mohs hardness below 5, preferable below 4. The phyllosilicate has a flake crystal structure containing layers of silicon tetrahedrals combined with layers of octahedral structures of hydroxides. Preferably some of the silicon atoms in the tetrahedrals may be replaced by other atoms such as aluminum atoms, the silicate thus being denoted aluminate-silicate. Alternatively, the aluminum atoms are present in the octahedral structures, or the aluminum atoms will be present in both structures.」(国際公開2010/074627号の第5ページ第26行?第6ページ第2行)
(当審訳:機械加工性向上剤は、5未満、好ましくは4未満のモース硬度を有することを特徴としうるフィロケイ酸塩として分類される、定義されたケイ酸塩を含む。フィロケイ酸塩は、水酸化物の八面体構造の層と結合したケイ素四面体の層を含む薄片結晶構造を有する。好ましくは四面体におけるケイ素原子のいくつかがアルミニウム原子などの他の原子により置換されていてよく、したがって、該ケイ酸塩は、アルミン酸ケイ酸塩と表される。或いは、アルミニウム原子が八面体構造に存在するか、又はアルミニウム原子が両方の構造に存在する。)

(ト)「Examples of silicates that may be included in the new machinability enhancing additive are:

micas such as:
phlogopite KMg_(3)(OH,F)_(2)[AlSi_(3)O_(10)],
muscovite KAl_(2)(OH)_(2)[AlSi_(3)O_(10)],
biotite K(Mg,Fe)_(3)(OH)_(2)[AlSi_(3)O_(10)], and
margarite CaAl_(2)(OH)_(2)[Al_(2)Si_(2)O_(10)];

silicates belonging to the chlorite group;

clay minerals such as:
kaolinite Al_(2)(OH)_(4)[Si_(2)O_(5)];

clay minerals belonging to the smectite group such as:
aliettite Ca_(0.2)Mg_(6)(Si,Al)_(8)O_(20)(OH)_(4)*4H2O,
beidellite (Na,Ca_(0.5))_(0.3)Al_(2)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)*nH_(2)O,
hectohte Na_(0.3)(Mg,Li)_(3)Si_(4)O_(10)(OH,F)_(2),
montmorillonite (Na,Ca)_(0.33)(Al,Mg)_(2)Si_(4)O_(10)(OH)_(2)*nH_(2)O,
nontronite Na_(0.3)Fe_(2)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2) *nH_(2)O,
saponite Ca_(0.25)(Mg,Fe)_(3)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)H_(2)O,
stevensite (Ca,Na)_(x)Mg_(3)Si_(4)O_(10)(OH)_(2),
volkonskoite Ca_(0.3)(Cr,Mg,Fe)_(2)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)*4H_(2)O, and
yakhontovite (Ca,Na)_(0.5)(Cu,Mg,Fe)_(2)Si_(4)O_(10)(OH)_(2)*H_(2)O.」(国際公開2010/074627号の第6ページ第4行?第27行)
(当審訳:新規な機械加工性向上添加剤に含めることができるケイ酸塩の例は、以下の通りである。
以下のような雲母:
金雲母 KMg_(3)(OH,F)_(2)[AlSi_(3)O_(10)]、
白雲母 KAl_(2)(OH)_(2)[AlSi_(3)O_(10)]、
黒雲母 K(Mg,Fe)_(3)(OH)_(2)[AlSi_(3)O_(10)]及び
真珠雲母 CaAl_(2)(OH)_(2)[Al_(2)Si_(2)O_(10)];
緑泥石群に属するケイ酸塩;
以下のような粘土鉱物:
カオリナイト Al_(2)(OH)_(4)[Si_(2)O_(5)];
以下のようなスメクタイト群に属する粘土鉱物:
アルイエット石 Ca_(0.2)Mg_(6)(Si,Al)_(8)O_(20)(OH)_(4)*4H_(2)O、
バイデライト (Na,Ca_(0.5))_(0.3)Al_(2)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)*nH_(2)O、
ヘクトライト Na_(0.3)(Mg,Li)_(3)Si_(4)O_(10)(OH,F)_(2)、
モンモリロナイト(Na,Ca)_(0.33)(Al,Mg)_(2)Si_(4)O_(10)(OH)_(2)*nH_(2)O、
ノントロナイト Na_(0.3)Fe_(2)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)*nH_(2)O、
サポナイト Ca_(0.25)(Mg,Fe)_(3)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)*nH_(2)O、
ステベンサイト (Ca,Na)_(x)Mg_(3)Si_(4)O_(10)(OH)_(2)、
ボルコンスコアイト Ca_(0.3)(Cr,Mg,Fe)_(2)(Si,Al)_(4)O_(10)(OH)_(2)*4H_(2)O及び、
ヤコントバイト (Ca,Na)_(0.5)(Cu,Mg,Fe)_(2)Si_(4)O_(10)(OH)_(2)*3H_(2)O。」

(ナ)「 The amount of additive in the iron-based powder composition may be between 0.05 % and 1.0 by weight, preferably between 0.05% and 0.5%, preferably between 0.05 % and 0.4 %, preferably between 0.05 % and 0.3% and more preferably between 0.1 and 0.3 % by weight. Lower amounts may not give the intended effect on machinability and higher amounts may have a negative influence on mechanical properties. Thus, the amount of machinability improving agent added to the iron-based powder composition may be less than 0.5 wt%, conveniently 0.49 wt% or less, preferably 0.45 wt% or less, more preferably 0.4 wt% or less, such as 0.3 wt% or less, or 0.2 wt% or less, or 0.15 wt% or less.」(国際公開2010/074627号の第7ページ第23行?第32行)
(当審訳:鉄をベースとした粉末組成物中の添加剤の量は、0.05重量%から1.0重量%の間、好ましくは0.05%から0.5%の間、好ましくは0.05%から0.4%の間、好ましくは0.05%から0.3%の間、より好ましくは0.1重量%から0.3重量%の間であってよい。より低い量は、機械加工性に対する意図する効果をもたらさない可能性があり、より高い量は、機械的特性に負の影響を及ぼす可能性がある。したがって、鉄をベースとした粉末組成物に添加する機械加工性改善剤の量は、0.5重量%未満、好都合には0.49重量%以下、好ましくは0.45重量%以下、より好ましくは0.4重量%以下、例えば0.3重量%以下など、又は0.2重量%以下、又は0.15重量%以下であってよい。」

(ニ)「Process
The powder-metallurgical manufacture of components according to the invention may be performed in a conventional manner, i.e. by the following process: iron-based powder, e.g. the iron or steel powder, may be admixed with any desired alloying elements, such as nickel, copper, molybdenum and optionally carbon as well as the machinability improving additive according to the invention in powder form. The alloying elements may also be added as prealloyed or diffusion alloyed to the iron based powder or as a combination between admixed alloying elements, diffusion alloyed powder or prealloyed powder. This powder mixture may be admixed with a conventional lubricant, for instance zinc stearate or amide wax, prior to compacting. Finer particles in the mix may be bonded to the iron based powder by means of a binding substance. The powder mixture may thereafter be compacted in a press tool yielding what is known as a green body of close to final geometry.
Compacting generally takes place at a pressure of 400-1200 MPa. After compacting, the compact may be sintered at a temperature of 1000-1300 ℃ and is given its final strength, hardness, elongation etc. Optionally, the sintered part may be further heat-treated.」(国際公開2010/074627号の第9ページ第1行?第19行)
(当審訳:方法
本発明による部品の粉末冶金による製造は、従来の方法で、すなわち、次の方法により実施することができる:鉄をベースとした粉末、例えば、鉄又は鋼粉末をニッケル、銅、モリブデン及び場合により炭素などの任意の所望の合金化元素、並びに本発明による粉末状の機械加工性改善添加剤と混合することができる。合金化元素は、鉄をベースとした粉末へプレアロイ化され若しくは拡散合金化され、又は、混合合金化元素、拡散合金粉末若しくはプレアロイ粉末間の組合せとして添加することもできる。この粉末混合物は、圧縮成形の前に従来の潤滑剤、例えば、ステアリン酸亜鉛又はアミドワックスと混合してもよい。混合物中のより微細な粒子は、結合物質により鉄をベースとした粉末に結合させることができる。その後、粉末混合物をプレス工具で圧縮成形して、最終の形状に近い圧粉体(green body:未焼結体)として知られているものを得ることができる。圧縮成形は、一般的に400?1200MPaの圧力で行われる。圧縮成形後、圧縮成形体を1000?1300℃の温度で焼結し、その最終強度、硬度、伸長等が与えられる。場合により、焼結部品をさらに熱処理することができる。)

以上の事項を踏まえると、本件特許の優先日前に国際出願された特許出願(特願2011-542053号、特表2012-513538号公報(甲第8号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には、以下の「甲8-1発明」が記載されていると認める。

甲8-1発明:「鉄をベースとした粉末と、任意の所望の合金化元素、粉末状の機械加工性改善添加剤と、潤滑剤とを混合した鉄をベースとした粉末組成物であって、機械加工性向上剤は好ましくは4未満のモース硬度を有するフィロケイ酸塩として分類され、フィロケイ酸塩の例が雲母、カオリナイトのような粘土であり、鉄をベースとした粉末組成物中の前記機械加工性改善添加剤の量は、0.05重量%から1.0重量%の間であり、潤滑剤が、ステアリン酸亜鉛又はアミドワックスである、部品の粉末冶金による製造に用いる鉄をベースとした粉末組成物。」

(5)周知技術
甲第7号証(【0041】)、甲第19号証(【0013】)、甲第20号証(【0026】)、甲第21号証(【0012】)に記載されるように、粉末冶金用混合粉の製造にあたり、潤滑剤を2回に分けて添加し、1回目の添加と2回目の添加との間に、潤滑材の融点以上に加熱して潤滑材を溶融させて混合することは周知技術である。

4 判断
(1)訂正により削除された請求項について
本件訂正により、請求項1、3、7、8、13、15は削除されたため、本件特許の請求項1、3、7、8、13、15に対してされた特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

(2)理由1(1)甲第1号証に基づく理由について
(2-1)本件特許発明1?3、7?9について
本件特許発明1?3、7?9は、本件訂正により本件訂正発明1?3、7?9に訂正され、このうち請求項1、3、7、8は削除されたから、本件訂正発明2及び9について、検討する。

(2-1-1)甲1-1発明に対して
ア 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲1-1発明とを対比する。

甲1-1発明の「アトマイズ鉄粉」、「天然黒鉛粉」及び「電解Cu粉」、「MgO-SiO_(2)系混合酸化物」、「固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛」、「焼結を施す混合粉」は、それぞれ、本件訂正発明2の「鉄基粉末」、「合金用粉末」、「切削性改善用粉末」、「潤滑材粉末」、「粉末冶金用混合粉」に相当する。
また、甲1-1発明の「MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え」ることについて、混合粉が、アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉と、電解Cu粉と、MgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合したものであり、また、wt%と質量%とは換算することなく同一の値をとることから、混合粉中で0.5 wt%の割合を占めることは、本件訂正発明2の「前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.5%配合してな」ることに相当する。

そうすると両者は、
「鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とする粉末冶金用混合粉。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1-1-1:切削性改善用粉末につき、本件訂正発明2が「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種と」するものであるのに対し、甲1-1発明では「MgO/SiO_(2)モル比が1.0?3.0の範囲のMgO-SiO_(2)系混合酸化物」である点。
相違点1-1-2:本件訂正発明2が「前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含む」のに対し、甲1-1発明は、かかる事項を発明特定事項としていない点。

そこで、これらの相違点について検討する。

まず、相違点1-1-2について検討すると、甲第1号証の(ウ)には、ソーダガラス粉末を切削性改善添加物として用いることが記載されているものの、甲第1号証のいずれの記載をみても、切削性改善添加物として「アルカリ金属石鹸粉末」を用いることについて、記載も示唆もされていない。
してみると、相違点1-1-2は実質的なものであって、しかも、甲第1号証に基づいて同相違点に係る本件特許発明2の発明特定事項を導出することはできない。

よって、相違点1-1-1について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、「請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、・・・SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、・・・を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oである・・・鉄基粉末製焼結体。」である。
ここで、アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることは、粉末冶金用混合粉の切削性改善添加物としてアルカリ金属石鹸(Li金属塩)を用いることによる。
してみると、上記(2-1-1)アで述べた相違点1-1-2について検討したものと同様の理由により、本件訂正発明2の粉末冶金用混合粉を成形、焼結してなる焼結体である本件訂正発明9についても同様の理由により、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明及び甲第1号証のいずれの記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2-1-2)甲1-2発明に対して
ア 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と、甲1-2発明とを対比する。

甲1-2発明の「MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 %の割合いを占めるように加え、さらに、ソーダガラス粉末を0.10、0.50、1.0又は1.5 %加え」ることは、ソーダガラス粉末をMgO-SiO_(2)系混合酸化物とソーダガラス粉末との合計量に対する質量%で、16.7%(0.10/(0.10+0.5))、50%(0.50/(0.50+0.5))、66.7%(1.0/(1.0+0.5))又は75%(1.5/(1.5+0.5))加えることに相当するから、本件発明2の「切削性改善用粉末さらに、アルカリガラス粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、16.7%、50%、66.7%又は75%配合して含むこと」に相当する。

さらに、上記(2-1-1)のアでみた検討を踏まえると、両者は、
「鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とする粉末冶金用混合粉。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1-2-1:切削性改善用粉末につき、本件訂正発明2が「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種と」するものであるのに対し、甲1-2発明では「MgO/SiO_(2)モル比が1.97のMgO-SiO_(2)系混合酸化物」である点。
相違点1-2-2:切削性改善用粉末について、本件訂正発明2が、「アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含む」のに対し、甲1-2発明は、「ソーダガラス粉末を0.10、0.50、1.0又は1.5 %加え」た点。

そこで、これらの相違点について検討する。
まず、相違点1-2-2について検討すると、甲1-2発明は、ソーダガラス粉末を用いるものであるが、甲第1号証のいずれの記載をみても、「アルカリ金属石鹸粉末」を用いることについては、記載も示唆もされていない。
してみると、相違点1-2-2は実質的なものであって、しかも、甲第1号証に基づいて同相違点に係る本件特許発明2の発明特定事項を導出することはできない。

よって、相違点1-2-1について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1-2発明ではなく、また、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、「請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、・・・SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、・・・を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oである・・・鉄基粉末製焼結体。」である。
ここで、アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることは、粉末冶金用混合粉の切削性改善添加物としてアルカリ金属石鹸(Li金属塩)を用いることによる。
してみると、上記(2-1-2)のアで述べた相違点1-2-2について検討したものと同様の理由により、本件訂正発明2の粉末冶金用混合粉を成形、焼結してなる焼結体である本件訂正発明9についても同様の理由により、甲1-2発明ではなく、また、甲1-2発明及び甲第1号証のいずれの記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2-2)本件特許発明13?15、19について
ア 本件特許発明13?15、19は、本件訂正により本件訂正発明13?15、19、32に訂正され、このうち請求項13、15は削除され、請求項32は甲1-3発明に基づく取消理由が通知されていない請求項に対応する訂正後の請求項のみを引用するものであるから、本件訂正発明14、19について検討する。

イ 本件訂正発明14について
本件訂正発明14と、甲1-3発明とを対比する。
上記(2-1-1)の検討を踏まえると両者は、
「鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、
前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とした粉末冶金用混合粉の製造方法。」である点で一致し以下の点で相違する。

相違点1-3-1:本件訂正発明14の混合方法が「前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、
さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程である」一方、甲1-3発明では、混合方法が具体的な発明特定事項とされていない点。
相違点1-3-2:本件訂正発明14が「前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含む」のに対し、甲1-3発明は、かかる事項を発明特定事項としていない点。

これらの相違点について検討する。
まず、相違点1-3-2について検討すると、この相違点は、上記(2-1-1)の相違点1-1-2と同様であるから、上記(2-1-1)のアで検討したものと同様の理由により、本件訂正発明14は、甲1-3発明ではなく、また、甲1-3発明及び甲第1号証のいずれの記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、上記甲第7号証、甲第19号証?甲第21号証に記載されるような周知技術を踏まえても、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件訂正発明19について
本件訂正発明19は、「請求項14、16、17、18のいずれか」に係る発明の発明特定事項を有するものである。
本件訂正発明14の発明特定事項を有する本件訂正発明19は、上記イの理由により甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
訂正後の請求項16?18は、甲第1号証に基づく取消理由が通知されてない訂正前の請求項16?18に対応するものであるから、本件訂正発明16、17、18のいずれかの発明特定事項を有する本件訂正発明19は、甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明19は、甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)理由1(2)甲第2号証に基づく理由について
(3-1)本件特許発明1?3、7?9について
本件特許発明1?3、7?9は、本件訂正により本件訂正発明1?3、7?9に訂正され、このうち請求項1、3、7、8は削除されたから、本件訂正発明2、9について、検討する。

(3-1-1)甲2-1発明に対して
ア 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲2-1発明とを対比する。

甲2-1発明の「アトマイズ鉄粉」、「天然黒鉛粉」及び「電解Cu粉」、「MgO-SiO_(2)系混合酸化物」、「固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛」、「焼結を施す混合粉」は、それぞれ、本件訂正発明2の「鉄基粉末」、「合金用粉末」、「切削性改善用粉末」、「潤滑材粉末」、「粉末冶金用混合粉」に相当する。
また、甲2-1発明の「MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 wt%の割合いを占めるように加え」ることについて、混合粉が、アトマイズ鉄粉と、天然黒鉛粉と、電解Cu粉と、MgO-SiO_(2)系混合酸化物と、固体潤滑剤とを混合したものであり、また、wt%と質量%とは換算することなく同一の値をとることから、混合粉中で0.5 wt%の割合を占めることは、本件訂正発明2の「前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.5%配合してな」ることに相当する。

そうすると両者は、
「鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とする粉末冶金用混合粉。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点2-1-1:切削性改善用粉末につき、本件訂正発明2が「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種と」するものであるのに対し、甲2-1発明では「MgO-SiO_(2)系混合酸化物」である点。
相違点2-1-2:本件訂正発明2が「前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含む」のに対し、甲2-1発明は、かかる事項を発明特定事項としていない点。

そこで、これらの相違点について検討する。

まず、相違点2-1-2について検討すると、甲第2号証の(ケ)には、ソーダガラス粉末を切削性改善添加物として用いることが記載されているものの、甲第2号証のいずれの記載をみても、切削性改善添加物として「アルカリ金属石鹸粉末」を用いることについて、記載も示唆もされていない。
してみると、相違点2-1-2は実質的なものであって、しかも、甲第2号証に基づいて同相違点に係る本件特許発明2の発明特定事項を導出することはできない。

よって、相違点2-1-1について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、「請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、・・・SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、・・・を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oである・・・鉄基粉末製焼結体。」である。
ここで、アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることは、粉末冶金用混合粉の切削性改善添加物としてアルカリ金属石鹸(Li金属塩)を用いることによる。
してみると、上記(3-1-1)アで述べた相違点2-1-2について検討したものと同様の理由により、本件訂正発明2の粉末冶金用混合粉を成形、焼結してなる焼結体である本件訂正発明9についても同様の理由により、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明及び甲第2号証のいずれの記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3-1-2)甲2-2発明に対して
ア 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と、甲2-2発明とを対比する。

甲2-2発明の「MgO-SiO_(2)系混合酸化物を混合粉中で0.5 %の割合いを占めるように加え、さらに、ソーダガラス粉末を0.10、0.50、1.0又は1.5 %加え」ることは、ソーダガラス粉末をMgO-SiO_(2)系混合酸化物とソーダガラス粉末との合計量に対する質量%で、16.7%(0.10/(0.10+0.5))、50%(0.50/(0.50+0.5))、66.7%(1.0/(1.0+0.5))又は75%(1.5/(1.5+0.5))加えることに相当するから、本件発明2の「切削性改善用粉末さらに、アルカリガラス粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、16.7%、50%、66.7%又は75%配合して含むこと」に相当する。

さらに、上記(3-1-1)のアでみた検討を踏まえると、両者は、
「鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とする粉末冶金用混合粉。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点2-2-1:切削性改善用粉末につき、本件訂正発明2が「カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種と」するものであるのに対し、甲2-2発明では「MgO/SiO_(2)モル比が1.97のMgO-SiO_(2)系混合酸化物」である点。
相違点2-2-2:切削性改善用粉末について、本件訂正発明2が、「アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含む」のに対し、甲2-2発明は、「ソーダガラス粉末を0.10、0.50、1.0又は1.5 %加え」た点。

そこで、これらの相違点について検討する。
まず、相違点2-2-2について検討すると、甲2-2発明は、ソーダガラス粉末を用いるものであるが、甲第2号証のいずれの記載をみても、「アルカリ金属石鹸粉末」を用いることについては、記載も示唆もされていない。

してみると、相違点2-2-2は実質的なものであって、しかも、甲第2号証に基づいて同相違点に係る本件特許発明2の発明特定事項を導出することはできない。

よって、相違点2-2-1について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2-2発明ではなく、また、甲2-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、「請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、・・・SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、・・・を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oである・・・鉄基粉末製焼結体。」である。
ここで、アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることは、粉末冶金用混合粉の切削性改善添加物としてアルカリ金属石鹸(Li金属塩)を用いることによる。
してみると、上記(3-1-2)のアで述べた相違点2-2-2について検討したものと同様の理由により、本件訂正発明2の粉末冶金用混合粉を成形、焼結してなる焼結体である本件訂正発明9についても同様の理由により、甲2-2発明ではなく、また、甲2-2発明及び甲第2号証のいずれの記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3-2)本件特許発明13?15、19について
ア 本件特許発明13?15、19は、本件訂正により本件訂正発明13?15、19、32に訂正され、このうち請求項13、15は削除され請求項32は甲1-3発明に基づく取消理由が通知されていない請求項に対応する訂正後の請求項のみを引用するものであるから、本件訂正発明14、19について検討する。

イ 本件訂正発明14について
本件訂正発明14と、甲2-3発明とを対比する。
上記(3-1-1)の検討を踏まえると両者は、
「鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、
前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、すいひ粘土粉末、酸化マグネシウム(MgO)粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とした粉末冶金用混合粉の製造方法。」である点で一致し以下の点で相違する。

相違点2-3-1:本件訂正発明14の混合方法が「前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、
さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程である」一方、甲2-3発明では、混合方法が具体的な発明特定事項とされていない点。
相違点2-3-2:本件訂正発明14が「前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含む」のに対し、甲2-3発明は、かかる事項を発明特定事項としていない点。

これらの相違点について検討する。
まず、相違点2-3-2について検討すると、この相違点は、上記(3-1-1)の相違点2-1-2と同様であるから、上記(3-1-1)のアで検討したものと同様の理由により、本件訂正発明14は、甲2-3発明ではなく、また、甲2-3発明及び甲第2号証のいずれの記載をみても当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、上記甲第7号証、甲第19号証?甲第21号証に記載されるような周知技術を踏まえても、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件訂正発明19について
本件訂正発明19は、「請求項14、16、17、18のいずれか」に係る発明の発明特定事項を有するものである。
本件訂正発明14の発明特定事項を有する本件訂正発明19は、上記イの理由により甲第2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
訂正後の請求項16?18は、甲第2号証に基づく取消理由が通知されてない訂正前の請求項16?18に対応するものであるから、本件訂正発明16、17、18のいずれかの発明特定事項を有する本件訂正発明19は、甲第2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明19は、甲第2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)理由1(3)甲第3号証に基づく理由について
本件訂正により、請求項1及び13は削除された。
また、本件訂正により、請求項19は、この取消理由通知が通知されていない請求項14、16、17、18のいずれかの記載を引用するものとなったから、本件訂正発明19は、甲第3号証に記載された発明ではない。

(5)理由2について
本件訂正により、請求項1及び7は削除された。
よって、この理由について、対象となる請求項が存在しない。

(6)理由3(1-1)について
本件訂正により、本件訂正発明1?32は、切削性改善用粉末が「酸化マグネシウム(MgO)」単体である場合を含まないものとなった。
よって、理由3(1-1)により、発明の詳細な説明が、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。

(7)理由3(1-2)及び理由3(2-1)について
本件特許発明7?12が、本件訂正により訂正された本件訂正発明9?12、24?27(請求項7及び8は削除された。)は、それぞれ、
「該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり」
又は、
「該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり」
という発明特定事項を有するものである。

はじめに、上記の各発明特定事項が表す技術的意味について、本件特許の発明の詳細な説明をみてみる。

本件特許の発明の詳細な説明には、
「【0035】
・・・そこで本発明では、Fe-Cu-C系鉄基粉末焼結体(金属粉末としての鉄基粉末と、合金用粉末としての黒鉛粉および銅粉とを用いた場合)の焼結体の基地相の平均硬さを参照してその中央値である200HV(モース硬度約4)を、焼結体の基地相の平均硬さと定義した。」
と記載されているから、上記の各発明特定事項における「200HV」とは、Fe-Cu-C系鉄基粉末焼結体(金属粉末としての鉄基粉末と、合金用粉末としての黒鉛粉および銅粉とを用いた場合)の焼結体の基地相の平均硬さを参照してその中央値を、焼結体の基地相の平均硬さと定義したものであり、焼結体の基地相の平均硬さを、具体的なビッカース硬度で単に言い換えているものといえる。

また、
「【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、焼結体の切削性に及ぼす各種要因、とくに添加材の影響について鋭意考究した。・・・とくに、少なくともSiO_(2)およびMgOを含む粉末は、焼結時に鉄基粉末表面の酸化鉄層とSiO_(2)、MgOが反応し、低融点相を形成し、焼結体の基地相の平均硬さより低い硬さの非晶質の軟質相として基地中に分散するとともに、反応の度合によって焼結体の基地相の平均硬さより高い硬さのファイアライト等のSiO_(2)を含む酸化物相を形成して、硬質相として基地相中に分散する。このような、焼結体の基地相中に、非晶質の軟質金属化合物相と、硬質金属化合物相としてのSiO_(2)を含む酸化物相とを、分散させることにより、旋盤での切削性(旋削性)とドリルによる切削性(ドリル切削性)とを共に向上でき、焼結体の切削性改善に有効であることを知見した。
【0012】
また、本発明者らは、切削性改善用粉末(添加材)として、少なくともSiO_(2)および/またはMgOを含む粉末に加えてさらに、アルカリガラス粉末またはアルカリ金属塩粉末を混合することにより、アルカリガラスまたはアルカリ金属塩がフラックスとして作用して、物質拡散が促進され、さらに容易に焼結処理後の焼結体中に、非晶質の軟質相(SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質粒子、MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質粒子)と、硬質相(SiO_(2)を含む酸化物粒子、金属化合物粒子)とを同時に、基地中に分散させることができることを見出した。」
と記載されているから、この「非晶質の軟質金属化合物相」は、焼結体の基地相の平均硬さより低い硬さの軟質相、すなわち、「SiO_(2)およびMgOを含む粉末が焼結時に鉄基粉末表面の酸化鉄層とSiO_(2)、MgOが反応し生じる非晶質の相」である「SiO_(2)-MgO系非晶質相」や、「SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質粒子」、「MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質粒子」であり、また、この「硬質金属化合物相としてのSiO_(2)を含む酸化物相」は、焼結体の基地相の平均硬さより高い硬さの硬質相、すなわち、「ファイアライト等のSiO_(2)を含む酸化物粒子」であるといえる。

してみると、上記の各発明特定事項における「該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相」及び「該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相」とは、「SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相」及び「SiO_(2)-MgO系非晶質相」でありさえすれば、「該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相である」であるといえ、また、上記の各発明特定事項における「前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相」とは、「ファイアライト等のSiO_(2)を含む酸化物粒子」でありさえすれば、「前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相」であるといえる。

そして、本件訂正発明9?12、24?27が、上記の各発明特定事項を有することの技術的意義は、発明の詳細な説明の上記記載(【0011】?【0012】)からみて、焼結体の基地相中に、非晶質の軟質金属化合物相と、硬質金属化合物相としてのSiO_(2)を含む酸化物相とを、分散させることにより、旋盤での切削性(旋削性)とドリルによる切削性(ドリル切削性)とを共に向上できることであることは明らかである。

そして、発明の詳細な説明の実施例(【0053】?【0062】)には、「SiO_(2)-MgO系非晶質相」と「ファイアライト」と金属窒化物とを含む本発明例(焼結体No.6、7、27)、及び、「SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相」と「ファイアライト」とを含む本発明例(焼結体No.5、8)について、これらの旋盤切削試験、及び、ドリル切削試験の結果が優れることが示されており、「SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相」又は「SiO_(2)-MgO系非晶質相」、及び、「ファイアライト等のSiO_(2)を含む酸化物粒子」が存在することによって、旋盤切削試験、及び、ドリル切削試験の結果が優れることが具体的に示されているといえ、上記の各発明特定事項について、その技術的意義が具体的に裏付けられている。また、発明の詳細な説明の実施例(【0053】?【0062】)には、混合粉の配合方法、圧粉方法、焼結方法が具体的に記載され、組織観察により、焼結体中の軟質相と硬質相とについて、「SiO_(2)-MgO系非晶質相」と「ファイアライト」と金属窒化物とを含む本発明例(焼結体No.6、7、27)、及び、「SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相」と「ファイアライト」とを含む本発明例(焼結体No.5、8)が得られることが記載されているから、発明の詳細な説明は、上記の各発明特定事項について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。

してみると、本件特許の発明の詳細な説明には、「SiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相」、「SiO_(2)-MgO系非晶質相」及び「ファイアライト等のSiO_(2)を含む酸化物相」が存在することにより、旋盤での切削性(旋削性)とドリルによる切削性(ドリル切削性)とが改善することが記載されており、また、これらの相を得ることについて、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、硬さを具体的に測定することが記載されていないとしても、本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明9?12、24?27について、理由3(1-2)によって、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないといえず、また、理由3(2-1)によって、本件訂正発明9?12、24?27が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないともいえない。

(8)理由3(3-1)について
「水砕スラグ粉末」について、発明の詳細な説明には、「切削性改善用粉末として混合粉に添加する、・・・水砕スラグ粉末は、・・・脱酸生成物である。Si、Mg、Oを含有する化合物であるこれら粉末はいずれも、混合粉を成形した圧粉体を焼結する際に、低融点の非晶質相を形成し、焼結体の基地相中に軟質金属化合物相として分散させることができる。なお、焼結時に形成される低融点の非晶質相は、SiO_(2)-MgO系非晶質相である。」(【0036】)と記載されている。
当該記載からみて、「水砕スラグ粉末」とは、「脱酸生成物」であるスラグを水砕により粉末にしたものであって「Si、Mg、Oを含有する化合物である」といえ、その定義が明確であるといえる。なお、当該「水砕スラグ粉末」は、その製造方法が特定されたものではないから、高炉水砕スラグ粉末に限定されるものではないといえる。
よって、理由3(3-1)により、本件訂正発明1?32が明確でないとはいえない。

(9)理由3(3-2)について
本件訂正により、切削性改善用粉末の択一的記載の要素のひとつである「酸化マグネシウム(MgO)粉末」及び「すいひ粘土粉末」が削除された。
よって、理由3(3-2)により、本件訂正発明1?32が明確でないとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本件訂正発明2、4?6、9?12、14、16?32に係る特許は、取消理由によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に本件訂正発明2、4?6、9?12、14、16?32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1、3、7、8、13、15は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項1、3、7、8、13、15に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項5】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項6】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
請求項2に記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Li_(2)Oであることを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項10】
請求項4ないし6のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項11】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項12】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項13】(削除)
【請求項14】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリ金属石鹸粉末を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、
前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製浩方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、該切削性改善用粉末の配合量が、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%であり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、
前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項17】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項16に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項18】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項16または17に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項19】
請求項14、16、17、18のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。
【請求項20】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項21】
鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに切削性改善用粉末と、潤滑剤粉末とを混合してなる粉末冶金用混合粉であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で10?80%配合して含み、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であり、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含むことを特徴とする粉末冶金用混合粉。
【請求項22】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項20または21に記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項23】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項20ないし22のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉。
【請求項24】
請求項20ないし23のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項25】
請求項20ないし23のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉を用いて、成形、焼結してなる焼結体であって、該焼結体の基地相中に、該基地相の平均硬さである200HVより低い硬さの軟質金属化合物相であるSiO_(2)-MgO-アルカリ金属酸化物系非晶質相と、前記基地相の平均硬さである200HVより高い硬さの硬質金属化合物相であるSiO_(2)を含む酸化物相を分散させてなり、前記アルカリ金属酸化物が、Na_(2)O、K_(2)O、Li_(2)Oのいずれかまたはそれらの複合であり、前記硬質金属化合物相がさらに、金属窒化物を含むことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項26】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項24または25に記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項27】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項24ないし26のいずれかに記載の切削性に優れた鉄基粉末製焼結体。
【請求項28】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項29】
鉄基粉末と、合金用粉末と、切削性改善用粉末と、さらに潤滑剤粉末とを配合し、混合して混合粉とする混合粉の製造方法であって、前記切削性改善用粉末を、カオリン粉末、マイカ粉末、水砕スラグ粉末、および、シリカ(SiO_(2))と酸化マグネシウム(MgO)との混合粉末、のうちから選ばれた少なくとも1種とし、前記切削性改善用粉末を、前記鉄基粉末、前記合金用粉末および前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、0.01?1.0%配合してなり、前記潤滑剤粉末を、潤滑剤粉末(但し、金属硼化物粉末、硫化マンガン粉末を除く)とし、前記切削性改善用粉末がさらに、アルカリガラス粉末、アルカリ炭酸塩粉末、アルカリ金属石鹸粉末のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記切削性改善用粉末の合計量に対する質量%で、10?80%配合して含み、前記アルカリガラス粉末が、ソーダガラス粉末、カリウムガラス粉末、リチウムガラス粉末のいずれか、あるいはそれらの混合であり、前記切削性改善用粉末がさらに、金属窒化物粉末を含み、前記混合が、前記鉄基粉末と前記合金用粉末に、一次混合材として前記切削性改善用粉末の一部または全部と、さらに前記潤滑剤粉末の一部を添加し、前記潤滑剤の融点のうちの最低値以上に加熱し、少なくとも1種の潤滑剤を溶融させて、混合したのち、所定の温度以下に冷却して固化させる一次混合と、さらに前記切削性改善用粉末の一部および/または前記潤滑剤の一部を二次混合材として添加し、混合する二次混合とからなる工程であることを特徴とする粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項30】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、Si_(3)N_(4)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項28または29に記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項31】
前記金属窒化物の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項28ないし30のいずれかに記載の粉末冶金用混合粉の製造方法。
【請求項32】
請求項28ないし31のいずれかに記載の製造方法で製造された混合粉を、金型に挿入し、所定の圧力で圧粉成形して成形体とする成形工程と、該成形体に焼結処理を施して焼結体とする焼結工程とを順次施すことを特徴とする切削性に優れた鉄基粉末製焼結体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-06-22 
出願番号 特願2011-24946(P2011-24946)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B22F)
P 1 651・ 113- YAA (B22F)
P 1 651・ 536- YAA (B22F)
P 1 651・ 537- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 富永 泰規
木村 孔一
登録日 2015-02-20 
登録番号 特許第5696512号(P5696512)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 粉末冶金用混合粉およびその製造方法ならびに切削性に優れた鉄基粉末製焼結体およびその製造方法  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 上田 精一  

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