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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H05B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H05B |
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管理番号 | 1319177 |
異議申立番号 | 異議2015-700294 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-10 |
確定日 | 2016-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5732008号発明「電磁調理器用保護マット」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5732008号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5732008号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5732008号の請求項1ないし4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成24年8月6日(先の出願に基づく優先権主張:平成23年8月12日,特願2011-176588号)の出願であって,平成27年4月17日に特許権の設定登録がなされたところ,平成27年12月10日に異議申立人森本泰代により特許異議の申立てがなされ,当審において平成28年2月26日付けで取消理由を通知した。 これに対し,本件特許権者より,平成28年4月28日付けで訂正請求書(以下,これに係る訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出され,異議申立人より平成28年6月10日付けで意見書が提出された。 第2 本件訂正の適否の判断 1 本件訂正の内容 本件訂正の請求は,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり,訂正の内容は以下のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ガラス繊維」とあるのを,「ガラス繊維織物」に訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「前記第1被覆層は複合ヤング率」とあるのを,「前記第1被覆層は,株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出される複合ヤング率」に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許明細書【0009】に「ガラス繊維」とあるのを,「ガラス繊維織物」に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許明細書【0012】に「ELIONIX株式会社」とあるのを,「株式会社エリオニクス」に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許明細書【0015】に「複合ヤング率を測定する際の」とあるのを,「複合ヤング率を算出する際の」に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許明細書【0020】に「ELIONIX株式会社」とあるのを,「株式会社エリオニクス」に訂正する。 (7) 訂正事項7 特許明細書【0030】に「ELIONIX株式会社」とあるのを,「株式会社エリオニクス」に訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 前記訂正事項1は,請求項1において,ガラス繊維が「織物」の構成となっていることを特定したものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2) 前記訂正事項2は,請求項3において,複合ヤング率が「株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出される」ことを特定したものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (3) 前記訂正事項3は,前記訂正事項1に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (4) 前記訂正事項4は,「ELIONIX株式会社」を正しい記載である「株式会社エリオニクス」に訂正するものであるから,誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 (5) 前記訂正事項5は,前記訂正事項2に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (6) 前記訂正事項6は,「ELIONIX株式会社」を正しい記載である「株式会社エリオニクス」に訂正するものであるから,誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 (7) 前記訂正事項7は,「ELIONIX株式会社」を正しい記載である「株式会社エリオニクス」に訂正するものであるから,誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 (8) そして,特許明細書には,前記訂正事項1に関し,「基材11は,ガラス繊維の単糸(JIS規格 ECE225 1/0)を縦糸および横糸に用いて,密度が縦60±2本/25mm,横57本±2本/25mm(100g/m^(2)),厚さ0.1mmとなるように平織りして形成されたガラス繊維織物である。」(【0017】)旨記載されており,前記訂正事項3に関し,「ここで『複合ヤング率』とは,ELIONIX株式会社製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に,以下のように算出される。」(【0020】)旨記載されている。なお,「ELIONIX株式会社」は正しくは「株式会社エリオニクス」であると認められる(乙1)。 そうすると,本件訂正は,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。 3 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号ないし3号に掲げる事項を目的とするものであって,同条9項において準用する同法126条4項ないし6項の規定に適合するので,訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正後の請求項1ないし4に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,総称して「本件発明」という。 【請求項1】 ガラス繊維織物からなるシート状の基材と,この基材の両面にそれぞれ形成された第1被覆層および第2被覆層とを有し,前記第1被覆層は,塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり,その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上であることを特徴とする電磁調理器用保護マット。 【請求項2】 前記第2被覆層は,シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1に記載の電磁調理器用保護マット。 【請求項3】 前記第1被覆層は,株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出される複合ヤング率が22N/mm^(2)以上100N/mm^(2)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁調理器用保護マット。 【請求項4】 前記第2被覆層は,前記第1被覆層と同等の表面凹凸,摩擦係数および複合ヤング率を有することを特徴とする請求項3に記載の電磁調理器用保護マット。 2 取消理由の概要 本件訂正前の本件特許に対し,平成28年2月26日付けで通知した取消理由1ないし3は,概ね,次のとおりである。 (1) 取消理由1 特許明細書の発明の詳細な説明において,第1被覆層の表面凹凸を所定の値に設定するための事項について,当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず,「複合ヤング率」の測定に関する具体的な条件について,当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないから,本件特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。 (2) 取消理由2 請求項3において「複合ヤング率」に係る測定条件が明確でないから,本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。 (3) 取消理由3 本件特許の本件発明1ないし4は,本件特許の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。 引用例1:特開2009-140887号公報(異議申立人提出の甲1) 引用例2:実願昭58-130783号(実開昭60-38492号)のマイクロフィルム(同甲3) 引用例3:登録実用新案第3148651号公報(同甲4) 引用例4:実公昭63-31515号公報(同甲5) 引用例5:特開昭62-86690号公報(同甲6) 引用例6:特開2001-218684号公報(同甲7) 引用例7:特開2004-207121号公報(同甲2) 引用例8:特開2002-75618号公報(同甲8) 3 判断 (1) 取消理由1(36条4項1号)について ア 本件訂正により,本件発明の基材がガラス繊維織物からなることが特定されたところ,ガラス繊維織物は表面に凹凸を有しているから,その表面にシリコーンゴムを所定量塗布し,被覆層を形成することにより,被覆層の表面も凹凸状態となることは明らかである。つまり,基材の表面形態と,その表面に塗布されるシリコーンゴムの塗布量とにより,第1被覆層の表面凹凸状態が設定されることがわかる。 そして,発明の詳細な説明には,基材に関し,ガラス繊維の単糸についてのJISの種類,密度,厚さ等について記載され(【0017】),第1被覆層及び第2被覆層について塗布方法も含めて記載されているから(【0018】),本件発明の製造方法について記載されているといえ,当業者であれば,0.8μm以上4μm以下の表面凹凸を得ることができるものと認められる。 イ 本件訂正により,複合ヤング率が株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出されることが特定されたところ,当該超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)は,規格ISO14577-1に準拠した解析手法を採用し,機能性薄膜,鍍金膜,高分子材料などあらゆるサンプルの評価により,材料表面の力学特性を定量的に評価できる装置ナノ・インデンテーション・テスターであって,圧子としてバーコビッチ圧子(α=65.03°)を標準で用いるもので,試験荷重(98μN?980mN)を設定すれば自動測定されるものである(乙1)。準拠する規格ISO14577-1には,試験方法が詳細に規定されている(乙2)。 そして,これと同様の説明が,発明の詳細な説明【0020】?【0029】に記載されており,当業者であれば,「複合ヤング率」を算出できるものと認められる。 ウ よって,本件訂正により取消理由1は解消された。 (2) 取消理由2(36条6項2号)について ア 本件訂正により,複合ヤング率が株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出されることが特定され,「複合ヤング率」に係る測定条件は,発明の詳細な説明の記載(【0020】?【0029】)を参酌すれば,明確に特定することができる。 イ よって,取消理由2は解消された。 (3) 取消理由3(29条2項)について ア 引用例に記載された事項 (ア) 引用例1には,以下の事項が記載されている。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電磁調理器のトッププレートと前記電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットにおいて, 磁力線の透過性を有する耐熱性のシート体よりなり, 前記シート体の熱抵抗が,2.05×10^(-3) (m^(2)・K)/W 以下であることを特徴とする,電磁調理器用汚れ防止マット。 【請求項2】 前記シート体は, 耐熱性を有する繊維より構成され,磁力線の透過性を有するシート状の素材と, 前記素材の両面に形成され,非透水性を有するコート材とからなる,請求項1記載の汚れ防止マット。 【請求項3】 前記素材はガラス繊維を含む,請求項2に記載の電磁調理器用汚れ防止マット。 【請求項4】 前記コート材はシリコーンコート材を含む,請求項2又は請求項3に記載の電磁調理器用汚れ防止マット。」 b「【0026】 これらの図を参照して,汚れ防止マット9は,磁力線の透過性を有するガラス繊維よりなる織布23の両面に非透水性のシリコーンコート24a及び24bを全面に施したものを円形に切り出してシート体11としたものある。」 c「【0030】 又,汚れ防止マット9の表面のシリコーンコート24a及び24bは,耐熱性を有するため加熱調理の際にも変性や融解等の危険がなく,鍋19の底面とトッププレート17に対して防滑性を発揮するため,より使い勝手が向上する。」 d「【0034】 ・・・ 実施例1,実施例2及び比較例1におけるシリコーン樹脂の塗布量は,いずれもガラス繊維の両面の各々に対して70g/m^(2)とした。」 e「【0052】 更に,上記第1の実施の形態では,コート材としてシリコーンコート材を用いているが,少なくとも非透水性及及び弾力性を有する他の部材を用いても良い。コート材は磁力線の透過性を有するものが好ましいが,所定厚さ以上では非透過性のものであっても,施工厚さにおいて透過性が確保出来るものであれば,同様に使用できる。」 (イ) 引用例1の記載からすると,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「ガラス繊維からなるシート状の織布23と,この織布23の両面にそれぞれ施されたシリコーンコート24a,24bとを有し,前記シリコーンコート24a,24bは,塗布量70g/m^(2)で塗布されたシリコーン樹脂からなる電磁調理器用汚れ防止マット。」 イ 対比及び判断 (ア) 本件発明1について a 本件発明1と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,両者は以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「ガラス繊維織物からなるシート状の基材と,この基材の両面にそれぞれ形成された第1被覆層および第2被覆層とを有する電磁調理器用保護マット。」 (相違点) 本件発明1は,第1被覆層が,「塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり,その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上である」のに対し,引用発明は,塗布量が70g/m^(2)で塗布されたシリコーン樹脂のシリコーンコート24a,24bであり,表面の凹凸や平均摩擦係数が不明である点。 b(a) 上記相違点について検討するに,電磁調理器のトッププレートに載置するシートにおいて,シリコーンゴムを利用する点は,周知の技術であり(引用例2?4),引用例1にシリコーンゴムを採用することの示唆もあるが(【0052】),引用発明においては,その表面の凹凸について特段着目しておらず,引用例1には,コート材としてシリコーンゴムを採用し,ガラス繊維織物の表面の形態と,その表面に塗布されるシリコーンゴムの塗布量とにより,第1被覆層の表面凹凸を所定の値に設定することについて,なんら記載はなく,示唆も認められない。 また,引用発明のシリコーンコート24a,24bは,トッププレートに対する防滑性を発揮するが(【0030】),それが表面摩擦係数との関係で着目されているものでもなく,引用例1には,表面摩擦係数を所定の値に設定することについて特段記載や示唆はない。 よって,引用発明において,第1被覆層を,「塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり,その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上である」のものとすることの動機付けが認められない。 (b) その他の引用例をみても,電磁調理器用保護マットの第1被覆層を,「塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり,その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上である」ものとすることについて,特段記載がない。 (c) そして,本件発明1は,第1被覆層が「塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり,その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下」であることにより,保護マットがトッププレートに対してずれにくく,かつトッププレートから剥がしやすい,「・・・平均摩擦係数が0.45以上である」ことにより,保護マットがトッププレートに対してずれにくいといった,トッププレートに対する防滑性やトッププレートからの剥がしやすさにおいて効果を発揮するものであって(【0019】,【0036】),この点を単なる設計的事項とすることはできない。 c そうすると,引用発明において,第1被覆層を,「塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり,その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上である」ものとすること,すなわち,相違点に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項とは認められない。 よって,本件発明1は,引用発明及び各引用例に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ) 本件発明2ないし4について 既に述べたとおり,本件発明1が,引用発明及び各引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1を特定するための事項をすべて含む本件発明2ないし4についても,その余の事項を検討するまでもなく,同様に,引用発明及び各引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 むすび 以上のとおりであるから,前記取消理由1ないし3によっては,本件特許(請求項1ないし4に係る特許)を取り消すことはできない。 また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電磁調理器用保護マット 【技術分野】 【0001】 本発明は、コンロ型の電磁調理器のトッププレートを保護する電磁調理器用保護マットに関する。 【背景技術】 【0002】 電磁調理器は、内部に埋め込んだコイルによる電磁誘導加熱の原理を利用して、鍋等の金属製容器を加熱して調理する装置であり、IH調理器などとも呼ばれている。電磁調理器は、強化ガラス製の平坦なトッププレート上に載置した金属製容器の自己発熱によって容器内部の材料を加熱する。したがって、トッププレート自体が発熱しないので焼き付きが生じにくく、また平坦なトッププレートは清掃が容易である。 【0003】 しかしながら、高温となった金属製容器によってトッププレートも加熱されて高温となるので、トッププレートに汚れが付着した場合には、焼け焦げて固着し、清掃に手間がかかってしまう。また、トッププレートが強化ガラス製であるため、鍋を移動する際にトッププレートに傷がついたり、鍋をトッププレート上に載置する際に衝撃が生じたり、平坦なトッププレートに対して鍋が滑って移動してしまい加熱効率が低下したりするという問題があった。 【0004】 これに対し、特許文献1には、トッププレートの汚れを防止するための電磁調理器用保護シートが提案されている。この保護シートは、渦電流を遮蔽せず耐熱性を有する紙製品、食品梱包用ラップフィルム、フッ素樹脂ゴムを施したガラス繊維などからなり、トッププレートを覆うことにより汚れがトッププレートに付着するのを防止するものである。 【0005】 また、特許文献2に提案された電磁調理器用防汚シートは、紙や不織布等の支持体の表面を所定の樹脂で被覆して形成されることにより、シート自体の高温化を防ぎ、安全性の向上が図られている。また、シート裏面に接着剤層が設けられていることにより、電磁調理器からのずり落ち等が防止されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】登録実用新案第3111559号公報 【特許文献2】特開2004-207121号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、従来のシートでは、電磁調理器の熱源に敷設して調理する際、調理器具の擦動によってシートの位置がずれて加熱ロスが生じ、電気代が余分にかかるといった問題があった。また、ずれたシートを熱源の中心に合わせて元の位置にセットし直さなければならず、調理の際のストレスとなっていた。 【0008】 本発明は、電磁調理器のトッププレートにおいて、鍋のような調理器具等による傷つき、汚れの付着および熱による焼け焦げ等を防止するとともに、調理時の器具の滑りを防止し、調理器具とトッププレートとの間に快適なクッション性を与えることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ガラス繊維織物からなるシート状の基材と、この基材の両面にそれぞれ形成されたシリコーンゴムからなる第1被覆層および第2被覆層とを有し、前記第1被覆層は、塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり、その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上である電磁調理器用保護マットである。 【0010】 なお、ここで「表面凹凸」とは、カトーテック株式会社製の自動化表面試験機(KES-FB4-AUTO-A)により測定される表面粗さであり、数値が大きいほど凹凸が大きいといえる。また、ここで「平均摩擦係数」とは、同じくカトーテック株式会社製の自動化表面試験機(KES-FB4-AUTO-A)により測定される摩擦力であり、数値が大きいほど滑りにくいといえる。 【0011】 この電磁調理器用保護マットをトッププレート上に敷設することにより、トッププレートに汚れが付着するのを防止できる。また、マットのいずれかの面に設けられた第1被覆層に適当な凹凸形状が形成されているので、第1被覆層を下面としてトッププレート上に敷設することにより、電磁調理器のトッププレートと保護マットの第1被覆層のシリコーンゴムの粒子との間に適度に大きな摩擦抵抗が得られ、調理時のマットのずれが防止され、快適な作業が可能となる。 【0012】 この電磁調理器用保護マットにおいて、前記第1被覆層は複合ヤング率が22N/mm^(2)以上100N/mm^(2)以下であることが好ましい。この場合、マットの表面が適度な硬さであり、マット自体が適度なクッション性を有するので、調理時の接触音や衝撃音が緩和され、快適な作業が可能となる。なお、ここで「複合ヤング率」とは、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出される。 【0013】 この電磁調理器用保護マットにおいて、前記第2被覆層は、前記第1被覆層と同等の表面凹凸、平均摩擦係数および複合ヤング率を有することが好ましい。この場合、第1被覆層と第2被覆層のいずれを表にしても同様に使用することができるので、片面だけが摩耗しにくく、長期間にわたって快適な作業が可能となる。 【発明の効果】 【0014】 本発明の電磁調理器用保護マットによれば、鍋のような調理器具等による傷つき、汚れの付着および熱による焼け焦げ等を防止するとともに、調理時の器具の滑りを防止し、調理器具とトッププレートとの間に快適なクッション性を与えることができる。 【図面の簡単な説明】 【0015】 【図1】本発明の電磁調理器用保護マットの一実施形態を示す平面図である。 【図2】図1における電磁調理器用保護マットの使用状態を示す斜視図である。 【図3】図1における電磁調理器用保護マットの部分断面図である。 【図4】電磁調理器用保護マットの複合ヤング率を算出する際の押し込み深さと荷重の大きさとの関係を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明に係る電磁調理器用保護マット10の実施形態について説明する。電磁調理器用保護マット10は、図1に示すように略円形に形成され、電磁調理器のトッププレートP上に、鍋やフライパン等の調理器具Cの下面に当接するように敷設される(図2)。この保護マット10は、図3に示すように、ガラス繊維からなるシート状の基材11と、この基材11の両面にそれぞれ形成されたシリコーンゴムからなる第1被覆層12および第2被覆層13とを積層して形成されている。この保護マット10の厚さは0.14±0.02mm、重量は210±20g/m^(2)である。 【0017】 基材11は、ガラス繊維の単糸(JIS規格 ECE225 1/0)を縦糸および横糸に用いて、密度が縦60±2本/25mm、横57本±2本/25mm(100g/m^(2))、厚さ0.1mmとなるように平織りして形成されたガラス繊維織物である。ガラス繊維織物は、耐熱性および強度に優れ、加熱された調理器具Cの高温に耐えることができる。 【0018】 第1被覆層12および第2被覆層13は、耐熱性の高いシリコーンゴムを基材11の表面に塗布し、乾燥させる工程を2回繰り返すことにより形成される。この工程におけるシリコーンゴムの塗布量は、100?110g/m^(2)である。なお、このシリコーンゴムにアルミニウムペーストを混入して第1被覆層12および第2被覆層13を形成してもよい。アルミニウムペーストを混入した場合、これら第1被覆層12および第2被覆層13を銀白色に形成することができる。 【0019】 第1被覆層12は、表面凹凸が0.8μm以上4μm以下、平均摩擦係数が0.45以上0.8以下、複合ヤング率が22N/mm^(2)以上100N/mm^(2)以下である。表面凹凸の大きさは、保護マット10がトッププレート上でずれにくく、かつ保護マット10をトッププレートから剥がしやすい範囲に設定されている。平均摩擦係数が0.45以上と設定されていることにより、調理作業中に保護マット10がトッププレート上でずれるのを防止できる。また、複合ヤング率が22N/mm^(2)以上100N/mm^(2)以下であることにより、保護マット10が好適なクッション性を備えるので、鍋等の調理器具が保護マット10を介してトッププレートにぶつかった際に、不快な衝撃音を緩和することができる。 【0020】 ここで「複合ヤング率」とは、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に、以下のように算出される。まず、試験機において設定した試験荷重をF_(max)、圧子の最大押し込み深さ(除荷開始時の変位)をh_(max)とする。 【0021】 次に、除荷のグラフ(図4)より弾性変形量および塑性変形量を求める。除荷開始(h_(max))から除荷曲線の50%までを最小2乗法(2次曲線)で近似し、その2次曲線のF_(max)での接線(P=mδ+n)を延ばし、変位軸と交差した座標を“h1”、h_(max)からh1を引いた値を“h2”とする。 【0022】 次に、数式1から複合ヤング率E^(*)を求める。 【0023】 【数1】 ![]() 【0024】 ここで、Sは接触剛性、C_(A)は接触定数、A_(P)(h)は接触投影面積であり、数式2,3,4から求められる。 【0025】 【数2】 ![]() 【0026】 【数3】 ![]() 【0027】 【数4】 ![]() ただしα=65° 【0028】 したがって、複合ヤング率E^(*)は数式5から求められる。 【0029】 【数5】 ![]() 【実施例】 【0030】 本発明に係る電磁調理器用保護マットの実施例1?3および比較例1?4について、以下に説明する。表面凹凸および平均摩擦係数は、カトーテック株式会社製の自動化表面試験機(KES-FB4-AUTO-A)により測定した。また、複合ヤング率は、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定した。これらの表面特性の測定結果を表1に示す。なお、表1において、「表」とはフライパンに接触する第2被覆層、「裏」とはトッププレートに接触する第1被覆層を指している。 【0031】 (実施例1?3) 厚さ0.1mmのガラス繊維製基材の両面にシリコーンゴムを塗布して第1被覆層および第2被覆層を形成した本発明に係る電磁調理器用保護マットについて、測定子の移動方向や測定箇所を変更しながら、表裏面の表面特性を測定した。各実施例の保護マットは、表面凹凸および平均摩擦係数が本発明の範囲に含まれる値となっている。 【0032】 (比較例1?4) 厚さ0.1mmのガラス繊維製基材の両面にシリコーン被覆層を形成してなる電磁調理器用保護マットについて、実施例と同様に表裏面の表面特性を測定した。比較例の保護マットは、表面凹凸および平均摩擦係数のいずれかが本発明の範囲から逸脱している。なお、比較例3,4は、それぞれ比較例1,2を裏返して測定した結果である。 【0033】 これら実施例および比較例について、各保護マットのトッププレートに対する防滑性、各保護マット上でのフライパンの振りやすさ、トッププレート上からの各保護マットの剥がしやすさ、各保護マットを介してフライパンをトッププレートに衝突させた際の衝撃音の緩和性、および調理時の異物感の無さについて評価した。結果を表1に示す。 【0034】 【表1】 ![]() 【0035】 トッププレートに対する防滑性は、調理終了後、マットが設置場所から全く移動していなかったときに○、少しでも移動したときに×とした。フライパンの振りやすさは、鍋振り時にマット装着による抵抗を感じなかったときに○、抵抗を感じたときに×とした。トッププレートからの剥がしやすさは、人差し指と親指で軽くつまんで引き上げる程度の力で簡単に剥がせたときに○、それ以上の力が必要なときに×とした。衝撃音の緩和性は、衝撃によるカチカチ音がマットを敷かない場合に比べて少しでも緩和されたと感じたときに○、緩和されていないと感じたときに×とした。調理時の異物感の無さは、マットを敷いて調理を行った際、異物を敷いた感じが認められなかったときに○、明らかに何か異物を敷いている感覚が認められたときに×とした。 【0036】 この比較実験により、シリコーンゴムにより形成された被覆層の表面凹凸が0.8μm以上4μm以下であると、保護マットがトッププレートに対してずれにくく、かつトッププレートから剥がしやすいことが確認できた。一方、表面凹凸が0.8μmよりも小さいと保護マットをトッププレートから剥がしにくく、表面凹凸が4μmよりも大きいと保護マットがトッププレートに対してずれやすいため調理がしにくいことが確認できた。 【0037】 また、被覆層の平均摩擦係数が0.45以上であると保護マットがトッププレートに対してずれにくいが、0.45よりも小さいとトッププレートに対してずれやすいことが確認できた。 【0038】 また、複合ヤング率が100N/mm^(2)よりも大きいとクッション性が不足して衝撃音が発生し、22N/mm^(2)よりも小さいと調理の際に異物を敷いたような違和感を覚え、快適な調理の妨げとなってしまった。 【0039】 以上説明したように、本発明の電磁調理器用保護マットによれば、鍋のような調理器具等による傷つき、汚れの付着および熱による焼け焦げ等を防止するとともに、調理時の器具の滑りを防止し、調理器具とトッププレートとの間に快適なクッション性を与えることができる。 なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。 【符号の説明】 【0040】 10 電磁調理器用保護マット 11 基材 12 第1被覆層 13 第2被覆層 C 調理器具 P トッププレート (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ガラス繊維織物からなるシート状の基材と、この基材の両面にそれぞれ形成された第1被覆層および第2被覆層とを有し、前記第1被覆層は、塗布量100?110g/m^(2)で塗布されたシリコーンゴムからなり、その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上であることを特徴とする電磁調理器用保護マット。 【請求項2】 前記第2被覆層は、シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1に記載の電磁調理器用保護マット。 【請求項3】 前記第1被覆層は、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT-1100a)により測定される結果を元に算出される複合ヤング率が22N/mm^(2)以上100N/mm^(2)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁調理器用保護マット。 【請求項4】 前記第2被覆層は、前記第1被覆層と同等の表面凹凸、摩擦係数および複合ヤング率を有することを特徴とする請求項3に記載の電磁調理器用保護マット。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-07-01 |
出願番号 | 特願2012-174425(P2012-174425) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H05B)
P 1 651・ 537- YAA (H05B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 長浜 義憲 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 山崎 勝司 |
登録日 | 2015-04-17 |
登録番号 | 特許第5732008号(P5732008) |
権利者 | 三菱アルミニウム株式会社 |
発明の名称 | 電磁調理器用保護マット |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |