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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D03D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D03D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D03D |
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管理番号 | 1319179 |
異議申立番号 | 異議2015-700105 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-10-20 |
確定日 | 2016-07-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5707158号発明「合成繊維からなる基布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5707158号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5707158号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5707158号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成23年2月3日に特許出願され、平成27年3月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人足立道子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年1月13日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年3月18日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、申立人より、平成28年5月9日付けで本件訂正請求について意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(3)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「総繊度が200?550dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布。」とあるのを、 「総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、カバーファクターが2100?2300であり、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布。」に訂正する(下線は、訂正箇所。以下、同じ。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に 「製織後に60?100℃の水浴層で浸漬処理されることを特徴とする請求項1または2に記載の基布。」とあるのを、 「総繊度が200?350dtexであり、単糸繊度が2.0?7.0dtexであり、かつ強度が8?10cN/dtexであるマルチフィラメントナイロン66糸条を経糸とし、該経糸と同じ糸条を緯糸として打ち込み経緯糸同織密度で製織する工程、製織後に60?100℃の水浴槽で浸漬処理する工程、その後、経方向に5?10%のオーバーフィード、緯方向に0?4%の緯入れで熱セットする工程を含む、総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布の製造方法。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1?3いずれか一項に記載の基布からなるエアバッグ。」とあるのを、 「請求項1又は2に記載の基布からなるエアバッグ。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 基布を構成するマルチフィラメントの総繊度について、訂正前の請求項1では「200?550dtex」であったものを、「200?350dtex」と総繊度の範囲を減縮するものであり、また、基布のカバーファクターについて、訂正前の請求項1では特定されていなかったものを、「2100?2300」と特定するものであるから、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項1に関連する記載として、特許明細書の段落【0014】に「基布を構成する繊維の総繊度は基布強力の観点から200?550dtexが好ましい。更に好ましくは、230?350dtexの繊維を用いることであり、エアバッグの破壊耐性と展開速度が向上する。」と記載され、同じく段落【0014】に「基布を構成する繊維の打ち込み密度は下式(1)に示すカバーファクター(CF)を1800?2400にすることが好ましい。さらに好ましくは2000?2300であり、特に好ましくは2100?2300である。」と記載されており、訂正事項1の訂正は、いずれも特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ そして、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (2)訂正事項2について ア(ア)訂正前の請求項3は、請求項1または2の記載を引用する記載であったものを、請求項1及び請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 (イ)訂正前の請求項3の記載は、「請求項1または2に記載の基布」であるから、訂正前の請求項1に係る発明の対象は、「基布」という「物」であることは明らかである。しかし、訂正前の請求項3には、「製織後に60?100℃の水浴層で浸漬処理されることを特徴とする」と特定されていることから、製織後の「基布」に関し、その「製造方法」が記載されており、この記載は、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。 そのため、訂正前の請求項3を「基布の製造方法」とする訂正は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項3を、「基布の製造方法」として、「製織後に60?100℃の水浴槽で浸漬処理する工程」を含むことを特定するように訂正するものであって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。 よって、訂正前の請求項3を「基布の製造方法」とする訂正は、「発明が明確であること」という要件を満たすように訂正するものであり、訂正事項2のうち、この訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (ウ)訂正前の請求項3が引用する請求項1に記載されていた総繊度「200?550dtex」を、訂正事項2は、「200?350dtex」と総繊度の範囲を減縮するものであり、また、訂正前の請求項3に記載されていた「基布」について、訂正事項2は、その「基布」の製織に用いる経糸と緯糸について、それらが同種の糸条であり、同じ織密度の製織工程であることを特定し、さらに、製織後に施される60?100℃の水浴槽での浸漬処理の後、経方向に5?10%のオーバーフィード、緯方向に0?4%の緯入れで熱セットする仕上げ工程を含むことを特定するものであるから、訂正事項2のうち、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (エ)特許明細書の段落【0024】に、「得られた反物を開放型水浴槽にて60℃の湯に通した後、ドラム密着型乾燥機を用いて300N/mにて110℃×90秒で乾燥の後、乾燥上がりに対し経オーバーフィード8%、緯入れ3%にて200℃×60秒の熱セットを実施し、冷却ロールにて30秒冷却し巻き取った。」と記載されていることからみて、訂正前の請求項3の「浸漬処理」は、布を浸漬処理できる程度の深さがあり、湯量を貯えられる水浴「槽」で行われるものと理解できる。 一方、訂正前の請求項3の「水浴層」は、布を浸漬処理できる程度の深さがあるようには理解できず、技術的に何を意味するのか明確ではない。 よって、訂正前の請求項3の「水浴層」を「水浴槽」とする訂正は、技術的に明確ではない記載を訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものに該当する。 イ(ア)訂正事項2に関連する記載として、訂正前の請求項1に「総繊度が200?550dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであること」と記載され、同じく訂正前の請求項2に「用いられる原糸の強度が8?10cN/dtexであること」と記載され、特許明細書の段落【0014】に「基布を構成する繊維の総繊度は基布強力の観点から200?550dtexが好ましい。更に好ましくは、230?350dtexの繊維を用いることであり、エアバッグの破壊耐性と展開速度が向上する。」と記載されている。 (イ)また、特許明細書の段落【0024】に「実施例1」について「90%蟻酸相対粘度80のナイロン66ポリマーを300℃にて溶融し、紡糸口金より押し出し後、油剤を繊維に対し1%となるように付与後、1%の予備ストレッチを掛け、第1段ロール60℃、第2段ロール220℃間で2.8倍の第1段延伸後、第2段と第3段ロール間で1.8倍延伸し、第3段ロールと巻き取り機間の応力を0.18cN/dtexに調節して2700m/minにて巻き取った。このとき第3段ロールは220℃とした。得られたポリアミド66糸条の特性を表1に示す。このポリアミド66糸条を糊剤及び整経油剤を用いることなくインチ当たり73本になるように製織ビームに巻き、これを経糸とした製織をウォータージェットルームにて実施した。打ち込む緯糸は上述の糸条と同じもので、経糸と同じ密度にし、500rpmで製織した。」と記載されている。 (ウ)さらに、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0020】には、 「製織後の加工においては、60?100℃の水浴槽を用い、一旦乾燥させることが望ましい。」と記載され、同じく当初明細書の段落【0024】には、「得られた反物を開放型水浴槽にて60℃の湯に通した後、・・・・」と記載されている。 (エ)特許明細書の段落【0011】に「また加工時においては熱セット温度を150℃?200℃に、経方向を加工前反物送りに対し5?10%オーバーフィードに、緯方向を熱処理前反幅に対し0?4%の緯入れに調整することが好ましい。」と記載されている。 (オ)以上より、訂正事項2の訂正は、いずれも特許明細書に記載された事項の範囲内、あるいは、当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであるといえる。 ウ(ア)特許明細書の段落【0005】の記載から、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明の課題は、「乗員の衝撃を緩和出来るエアバッグの作製に適した基布を提供すること」であり、その解決手段は「総繊度が200?550dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPa」であり、「用いられる原糸の強度が8?10cN/dtex」であり、「製織後に60?100℃の水浴層で浸漬処理されること」である。 一方、訂正後の請求項3に係る発明の課題は、同じく特許明細書の段落【0005】の記載から、「乗員の衝撃を緩和出来るエアバッグの作製に適した基布を提供すること」であり、その解決手段は「総繊度が200?350dtexであり、単糸繊度が2.0?7.0dtexであり、かつ強度が8?10cN/dtexであるマルチフィラメントナイロン66糸条を経糸とし、該経糸と同じ糸条を緯糸として打ち込み経緯糸同織密度で製織する工程、製織後に60?100℃の水浴槽で浸漬処理する工程、その後、経方向に5?10%のオーバーフィード、緯方向に0?4%の緯入れで熱セットする工程を含む、総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであること」である。 してみると、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明と、訂正後の請求項3に係る発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明と訂正後の請求項3に係る発明における課題解決手段についても、訂正後の請求項3に係る発明は、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明を、より限定したものであり、実質的な変更はない。 したがって、訂正後の請求項3に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明の技術的意義を、実質上拡張し、又は変更するものではない。 (イ)特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前の請求項3に係る発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後の請求項3に係る発明)の実施について比較する。 「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。 すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。 そして、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明は、「総繊度が200?550dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPa」であり、「用いられる原糸の強度が8?10cN/dtex」であり、「製織後に60?100℃の水浴層で浸漬処理される」という製造方法(以下、「特定の製造方法」という。)により「基布」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「基布」に加え、前記特定の製造方法により製造された「基布」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。 一方、訂正後の請求項3に係る発明は、上記特定の製造方法をより限定した「基布の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法をより限定した方法により製造された「基布」を、特許発明の実施に含むものである。 したがって、訂正後の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。 (ウ)よって、訂正後の請求項3に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項3に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、訂正後の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正前の請求項4は、請求項1?3の記載を引用するものであったところ、訂正事項3により、請求項1又は2を引用し、請求項3を引用しないように訂正するものであって、引用する請求項を減らす訂正であるから、訂正事項3の訂正は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3の訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)一群の請求項について そして、上記訂正事項1?3に係る各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号から第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.請求項1?4に係る発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、カバーファクターが2100?2300であり、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布。 【請求項2】 用いられる原糸の強度が8?10cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載の基布。 【請求項3】 総繊度が200?350dtexであり、単糸繊度が2.0?7.0dtexであり、かつ強度が8?10cN/dtexであるマルチフィラメントナイロン66糸条を経糸とし、該経糸と同じ糸条を緯糸として打ち込み経緯糸同織密度で製織する工程、製織後に60?100℃の水浴槽で浸漬処理する工程、その後、経方向に5?10%のオーバーフィード、緯方向に0?4%の緯入れで熱セットする工程を含む、総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布の製造方法。 【請求項4】 請求項1又は2に記載の基布からなるエアバッグ。」 2.取消理由の概要 訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 [理由1] 本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。 甲第1号証:特開2008-81873号公報 [理由2] 本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号又は同条同項第2号に規定する要件を満たしていない。 ・実施可能要件について ・請求項1に係る発明の「経緯平均」との事項について ・物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されていることについて 3.判断 (1)理由2(記載要件)について ア 実施可能要件について 製織後の織物の最終的な織り密度を見込んで、製織ビームを準備することは技術常識であり、このような技術常識をふまえれば、特許明細書の段落【0024】の「インチ当たり73本になるように製織ビームに巻き」との記載は、最終的に得られる織物の織密度が、「インチ当たり73本」になるように製織ビームを準備することを意味していることは明らかである。 そうすると、特許明細書の発明の詳細な説明中の手順によっては、本件訂正発明1?4の基布が得られないとする理由は格別なく、発明の詳細な説明が、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまではいえない。 イ 請求項1に係る発明の「経緯平均」との事項について 本件訂正発明1の「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであること」の「経緯平均」は、文言上、基布の経糸方向及び緯糸方向のヤング率の「平均」を意味していることは明らかである。そして、「平均」を取る以上、極端な値を排除した「平均」としての意味がある値が得られるように測定が行われることは明らかであって、測定回数やサンプル採取の仕方は、「平均」としての意味がある値が得られるように、技術常識に従い適宜設定され得るものである。 また、経糸方向のヤング率と緯糸方向のヤング率は、エアバッグ等の用途に用いられる一枚の基布を構成する以上、大きく相違しないはずであり、相違するとしても、想定される用途に支障が生じる程には、相違するようにはしないはずであるから、「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであること」という特定を含む本件訂正発明1が、「乗員の衝撃を緩和出来るエアバッグの作製に適した基布を提供すること」という特許明細書(段落【0005】)に記載された課題を解決することができない「基布」をも包含するものであるとまではいえない。 そうすると、「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであること」という特定を含む本件訂正発明1が、明確でないとまではいえず、また、発明の詳細な説明に記載したものではないとまでもいえない。 ウ 物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されていることについて 請求項3について、本件訂正請求の訂正により、「物を生産する方法」の発明に訂正され、併せて、「物」の発明である請求項4について、「物」の発明である請求項1又は2を引用し、「物を生産する方法」の発明である請求項3を引用しないように訂正されており、本件訂正発明3及び本件訂正発明4のいずれも、明確でないとはいえない。 (2)理由1(新規性)について ア 甲第1号証には、以下の各発明が記載されている。 (ア)「経糸・緯糸として、ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を持つ平均単繊維繊度が3.5dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度470dtexで、強度8.6cN/dtex、カバーファクターが2262である、エアバッグ用基布。」(以下、「甲1実施例1及び4発明」という。) (イ)「経糸・緯糸として、ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を持つ平均単繊維繊度が2.4dtexの単繊維144フィラメントで構成され、総繊度350dtexで、強度8.5cN/dtex、カバーファクターが2094である、エアバッグ用基布。」(以下、「甲1実施例2発明」という。) (ウ)「経糸・緯糸として、ナイロン6・6からなり、円形の断面形状を持つ平均単繊維繊度が3.3dtexの単繊維144フィラメントで構成され、総繊度470dtexで、強度8.6cN/dtex、カバーファクターが2231である、エアバッグ用基布。」(以下、「甲1実施例3発明」という。) イ 本件訂正発明1と甲第1号証に記載された各発明を対比すると、本件訂正発明1とは、甲1実施例1及び4発明が総繊度470dtex(本件訂正発明1は総繊度が200?350dtex)であることで、甲1実施例2発明がカバーファクターが2094(本件訂正発明1はカバーファクターが2100?2300)であることで、甲1実施例3発明が総繊度470dtex(本件訂正発明1は総繊度が200?350dtex)であることで、それぞれ相違する。 その上、本件訂正発明1の「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaである」との特性について、甲第1号証には記載も示唆もされていないし、基布の「総繊度」や「カバーファクター」が相違して、基布自体が本件訂正発明1のものとは相違する甲第1号証に記載された各発明のエアバッグ用基布が、「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaである」との特性を有するものとは直ちにはいえない。 よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 ウ 本件訂正発明2、4について検討する。 本件訂正発明2、4は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を有しているから、本件訂正発明2、4は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 エ 本件訂正発明3について検討する。 本件訂正発明3は、「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布」の製造方法に係る発明であり、甲第1号証には、「7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布」について記載も示唆もされていないし、そのような基布の製造方法についても記載されていないから、本件訂正発明3も、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、カバーファクターが2100?2300であり、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布。 【請求項2】 用いられる原糸の強度が8?10cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載の基布。 【請求項3】 総繊度が200?350dtexであり、単糸繊度が2.0?7.0dtexであり、かつ、強度が8?10cN/dtexであるマルチフィラメントナイロン66糸条を経糸とし、該経糸と同じ糸条を緯糸として打ち込み経緯糸同織密度で製織する工程、製織後に60?100℃の水浴層で浸漬処理する工程、その後、経方向に5?10%のオーバーフィード、緯方向に0?4%の緯入れで熱セットする工程を含む、総繊度が200?350dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントナイロン66から構成される、7cN/dtexの応力下でのヤング率が経緯平均で2?6GPaであることを特徴とする基布の製浩方法。 【請求項4】 請求頂1又は2に記載の基布からなるエアバッグ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-06-28 |
出願番号 | 特願2011-21893(P2011-21893) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(D03D)
P 1 651・ 537- YAA (D03D) P 1 651・ 113- YAA (D03D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
千葉 成就 井上 茂夫 |
登録日 | 2015-03-06 |
登録番号 | 特許第5707158号(P5707158) |
権利者 | 旭化成せんい株式会社 |
発明の名称 | 合成繊維からなる基布 |
代理人 | 小野田 浩之 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 小野田 浩之 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 三間 俊介 |