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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1319186
異議申立番号 異議2016-700158  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-24 
確定日 2016-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第5831448号発明「試料中の分析対象物質を測定するための検査器具及びそれを用いた分析対象物質の測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5831448号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5831448号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成23年4月4日に特許出願され、平成27年11月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 株式会社 Office NC(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5831448号の請求項1?9の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明9」という。)は、それぞれ、特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

1 本件発明1?7は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反している。

2 本件発明1?9は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反している。

上記1及び2より、本件発明1?9に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2007-248101号公報
甲第2号証:国際公開第2009/037785号
甲第3号証:特開2011-017589号公報
甲第4号証:特開2004-325192号公報
甲第5号証:特開2005-283250号公報
甲第6号証:国際公開第2009/072385号

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証に記載の事項
(以下、下線は当審で付した。)

(甲1-1)「[0008]
1)本発明にかかる検査方法は、検査対象液状流体を試薬と反応させる検査器具を用いた検査方法であって、A)前記検査器具は、a1)前記検査対象液状流体を供給するための供給部、a2)前記検査器具内に設けられ、前記検査対象液状流体を前記試薬と反応させる反応室、a3)前記供給部に供給された前記検査対象液状流体を前記反応室までの移送するための流路を備え、B)前記流路および前記反応室は、通気性があり且つ非通液状性の多孔性膜を介して検査器具外部と接続されており、C)前記反応室は、第1の平面およびこれに対向する第2の平面、前記第1の平面および前記第2の平面それぞれに接し、前記第1の平面と前記第2の平面との間に空間を形成する第3の面で形成されており、D)前記流路と前記反応室とは、前記第3の面に連結孔が形成されることにより、連結されており、E)前記第1の平面および前記第2面に、異なる試薬が付着させられており、F)前記供給部に供給された検査対象液状流体を前記供給部に設けられた加圧部によって加圧して、前記反応室内に移送する。このように、第1の平面とこれに対向する第2の平面に、異なる試薬が付着させておき、前記流路から検査対象液状流体を前記反応室に移送させることにより、2種類の試薬と混合させる場合でも、濃度差が異なるものが2種類目の試薬に与えられるという問題を回避できる。」

(甲1-2)「[0014]
また、「検査対象液状流体」には、血液、唾液、尿、リンパ液、汗、細胞室間液という体液だけでなく、他の液状流体も含む。また、「反応室」とは実施形態では測定室7が該当する。」

(甲1-3)「[0018]
第3プレート3は、所定距離離れた位置に2つの円形の貫通部71、82を有してる。貫通部71、82間は、直線状の貫通溝83で連結されている(図1参照)。貫通部82は、第2プレート2と重ね合わせた状態で、貫通孔81とほぼ同心の位置に設けられる。貫通部82は、第2プレート2の貫通孔81よりも径が大きい。これは、検体Aが測定室7に導かれやすいようにするためであるが、これは必須の形状ではない。貫通孔81、貫通部82及び溝83により後述するように、試薬Aを測定室7へ導く流路8(検体Aの移送用流路)が形成される。」(なお、「試薬A」は、「検体A」の明らかな誤記であると認められる。)

(甲1-4)「[0022]
測定室7について、図3を用いて説明する。測定室7の第1底面171および、第1底面171に対向する第2底面172には異なる試薬が所定量塗布されている。これにより、有底部72,73は所定量の試薬で満たされる。かかる試薬の種類は、測定対象によって変更すればよい。たとえば、生体の体液成分である血中グルコースを測定する場合は、第1底面171に、NAD(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とテトラゾリウム塩を含んだものを、第2底面172に、グルコース脱水酵素、ジアホラーゼ、緩衝液を含んだものを、塗布して乾燥させておけばよい。なお、これらは第1底面171と第2底面172に分けて塗布すればよいので、逆に塗布することも可能である。」

(甲1-5)「[0026]
つぎに、実際の測定方法について簡単に説明する。ユーザは、図1に示すように、検体供給口11から検体Aを供給する。そして、栓体5を検体供給口11に被せ、指で加圧する(図示せず)。これにより、測定室7や流路8内の空気が、第3プレートから外部に排出されて、検体Aが測定室7内に送り込まれる。測定室7の第1底面171および第2底面172には、それぞれ異なる試薬が塗布されており、測定室7の側面173の孔175から測定室7の空間に、検体Aが搬送されると、検体Aと2種類の試薬との反応が開始する。1の空間内で2種類の試薬とまとめて混合されるので、従来と比べて薄い部分や濃い部分ができるという問題を解決することができる。」

(甲1-6)「[0028]
測定室7での検体Aの測定方法については、従来から知られている透過光を用いた光学測定や電気測定が採用できる。たとえば、透過光を用いる光学測定の場合は、前記第2?第4プレート2?4の全体を光透過性のある樹脂で形成し、前記測定室7で試薬と検体Aにより呈色反応を行わせて、第4プレート4の下方から第2プレート2に向かってたとえば、波長565nmの透過光Bを照射し、前記測定室7での発色量を透過光Bの吸収により測定すればよい。」

上記(甲1-1)ないし(甲1-6)の記載を踏まえると、甲第1号証から以下の点が理解される。

(1)(甲1-1)には、「本発明にかかる検査方法は、検査対象液状流体を試薬と反応させる検査器具を用いた検査方法」であると記載され、(甲1-6)には、「試薬」と「検体A」により呈色反応を行わせて、従来から知られている透過光を用いた光学測定により発色量を測定すると記載されているから、「検体A」は、「液状流体」であり、「検査器具」は、「液状流体」中の「検査対象」を、「試薬」により呈色反応を行わせて、従来から知られている透過光を用いた光学測定により発色量を測定するためのものである点が理解される。

(2)「検査器具」内に、「検査対象液状流体」を「試薬」と反応させる「反応室」を設けた点が理解される。((甲1-1)参照)

(3)「反応室」とは実施形態では「測定室7」が該当し((甲1-2)参照)、この「測定室7」の「第1底面171」および、「第1底面171」に対向する「第2底面172」には「試薬」が塗布されており、該「試薬」は、塗布して乾燥されているから((甲1-4)参照)、「反応室」の「第1底面171」および、「第1底面171」に対向する「第2底面172」には「試薬」が塗布されており、該「試薬」は、さらに乾燥されている点が理解される。

(4)「検査器具」は、「検査対象液状流体」を供給するための「供給部」を備えた点が理解される。((甲1-1)参照)

(5)「検査器具」は、「供給部」に供給された「検査対象液状流体」を「反応室」までの移送するための「流路」を備えた点が理解される。((甲1-1)参照)

(6)「供給部」に供給された「検査対象液状流体」を「供給部」に設けられた「加圧部」によって加圧して、「反応室」内に移送しているから、「検査対象液状流体」は加圧によって「反応室」まで移送される点が理解される。((甲1-1)参照)

(7)「検査対象液状流体」は「供給部」に設けられた「加圧部」によって加圧されることにより「検査対象液状流体」を「反応室」に移送させ、「試薬」と混合される点が理解される。((甲1-1)参照)

上記(1)ないし(6)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「液状流体中の検査対象を、試薬と検査対象液状流体により呈色反応を行わせて、従来から知られている透過光を用いた光学測定により発色量を測定するための検査器具であって、
検査対象液状流体を試薬と反応させる反応室を有し、
反応室の第1底面171および、第1底面171に対向する第2底面172には試薬が塗布されており、該試薬は、さらに乾燥され、
検査対象液状流体を供給するための供給部と
供給部に供給された検査対象液状流体を加圧により反応室まで移送するための流路
を備え
検査対象液状流体は、供給部に設けられた加圧部によって加圧されることにより検査対象液状流体を反応室に移送させることにより、試薬と混合される
検査器具」

2 甲第2号証に記載の事項

(甲2-1)「[0002]
体液成分の分析器具として、微量の体液の試料を試薬が保持された試験片に滴下し、試料が試薬と反応した後の光学的特性などを測定することによって体液成分の分析が可能となる器具についての技術が知られている(特許文献1、2参照)。この検査器具は、試験片に設けられた試料供給口に体液の試料を供給したのち、当該試料を流路を通じて試薬が備えられた試薬保持室に移送し、当該試薬保持室にて呈色反応を発生させた後、測定室にて吸光度を測定することによって所望の体液成分を測定することができるように構成されている。
[0003]
当該分析器具は複数のプレート部材の積層によって構成されており、試料供給口から測定室に至る流路は一部の層に設けられた溝などによって形成される。また、前記試薬保持室は一部の層に凹部が設けられることによって形成され、当該凹部の中に試薬が塗布、乾燥されて保持されている。」

3 甲第3号証に記載の事項

(甲3-1)「[0002]
血液試料に光を照射し、透過光(または反射光、散乱光)を測定して測定対象物の検出を行う方式の血液分析装置が広く知られている。これらの血液分析装置では、赤血球が測定に不都合な影響を与える場合があるため、多くの場合、全血から血漿や血清を分離したものが試料として用いられる。
[0003]
全血から血漿や血清を分離する手段としては遠心分離機が広く知られているが、医療現場では分析装置を設置するスペースが限られており、かつ、騒音や振動を抑えたいニーズがあるため、遠心分離機を用いるのは適切ではない。
[0004]
このため、試薬チップ内に設けた血漿分離膜(血球成分除去層)を用いて血漿を血液から分離する構造のものが従来から用いられている(特許文献1の図1、特許文献2の図1)。具体的には、図8に示すような血液分析装置200であり、試料Aを試料供給口211に滴下して、栓体205を手指操作で押圧して試料供給口211内の試料Aを加圧することにより血漿分離膜206で分離した血漿を流路208に沿って移動させ、反応室207において反応した体液の成分が分析される。」

4 甲第4号証に記載の事項

(甲4-1)「[請求項10]
検体と第1試薬を混合した、混合液中の終濃度が5?100ng/mLとなる量のハプテン結合蛋白質を含有する第1試薬、および抗ハプテン抗体結合金コロイドを含有する第2試薬を含む、ハプテン測定用キット。」

(甲4-2)「[0002]
[従来の技術]
近年、臨床検査などの各種検査では自動化および測定時間の短縮が図られている。例えば、臨床検査においては、生体試料中の微量物質を測定するために免疫反応を利用する免疫測定方法が広く用いられている。免疫測定法としては、RIA法、EIA法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、金属コロイド凝集法などの多くの方法がある。この中でもラテックス凝集法および金属コロイド凝集法は、反応液の分離や洗浄を行う必要がないため、自動化に適している。しかし、低分子物質であるハプテンの測定においては、通常の免疫測定とは異なり競合法による免疫反応を利用するため、その測定を高感度かつ短時間に行うことが困難であり、自動化の妨げとなっている。」

(甲4-3)「[0008]
[課題を解決するための手段]
上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、まず、ハプテンを含有する検体と、ハプテン結合蛋白質を含有する第1試薬とを混合した後、抗ハプテン抗体結合金コロイドを含有する第2試薬を添加して混合し、金コロイドの免疫反応凝集による吸光度変化を測定することによって、ng/mL濃度のハプテン測定を、高感度かつ短時間に行うことが可能であることを見出し、本発明を完成した。」

(甲4-4)「[0010]
すなわち、本発明は、検体中のハプテン量を測定する方法を提供し、この方法は、(a)該検体と、ハプテン結合蛋白質を含有する第1試薬とを混合する工程、(b)該混合液に、抗ハプテン抗体結合金コロイドを含有する第2試薬を添加して混合する工程、および(c)該ハプテン結合蛋白質と該抗ハプテン抗体結合金コロイドとの免疫反応凝集による吸光度変化を、500nm?580nmで2回以上測定した吸光度、または、500nm?580nmを主波長および620nm?800nmを副波長とする二波長で2回以上測定した吸光度より求める工程を含む。」

(甲4-5)「[0024]
[発明の実施の形態]
本発明の方法は、検体中のハプテン量を測定する方法であり、(a)検体と、ハプテン結合蛋白質を含有する第1試薬とを混合する工程、(b)該混合液に、抗ハプテン抗体結合金コロイドを含有する第2試薬を添加して混合する工程、および(c)該ハプテン結合蛋白質と該抗ハプテン抗体結合金コロイドとの免疫反応凝集による吸光度変化を、500nm?580nmで2回以上測定した吸光度、または、500nm?580nmを主波長および620nm?800nmを副波長とする二波長で2回以上測定した吸光度より求める工程を含む。」

(甲4-6)「[0047]
(ハプテン量の測定方法)
本発明の方法による検体中のハプテン量の測定は、簡単にいえば、検体と上記第1試薬とを混合し、一定の時間後、上記第2試薬を添加して混合した後、金コロイドの凝集による吸光度変化を、500nm?580nmで2回以上測定、または、500nm?580nmを主波長および620nm?800nmを副波長とする二波長で2回以上測定した吸光度より求めることによって行われる。これは、抗ハプテン抗体結合金コロイドの免疫凝集により、主波長域(正のピーク)での吸光度が低下し、副波長域(負のピーク)での吸光度が上昇するという原理に基づく。具体的には、吸光度変化の測定は、第2試薬の添加後2分以内に一回目の吸光度測定を行って主波長と副波長との吸光度差を求め、一回目の測定より8分以内に二回目の吸光度測定を行って二回目の吸光度差を求め、一回目と二回目との吸光度差の変化を求める。または、第2試薬添加後2分以内より吸光度測定を開始し、8分間より短い時間内での吸光度変化(時間当たり)を求めてもよい。検体と第1試薬とを混合した時点から、全ての測定が終了するまでに要する時間は、好ましくは15分以内であり、より好ましくは10分以内である。測定温度は、好ましくは20?45℃であり、より好ましくは30?40℃、さらに好ましくは37℃である。」

(甲4-7)「[0058]
実施例8:市販のEIA試薬による測定法との相関性
ハロペリドール投与中のヒト患者の血清の55検体ならびに血清に標準品を添加した7検体を用いて、上記実施例7と同様の操作を行って、血清中のハロペリドールを測定した。一方、市販のEIA試薬である「マーキット(登録商標)MハロペリドールII」(大日本製薬株式会社販売)を用いて同一の血清についてハロペリドール濃度を測定した。測定は本製品の添付文書に従い行った。これらの測定結果についての相関を図2に示す。相関係数は0.995と良好であり、10分間の測定時間であっても、従来の方法と同様に、精度良く測定できることを確認した。」

5 甲第5号証に記載の事項

(甲5-1)「[0003]
金コロイド凝集法を用いる測定は、種々知られており、生体試料の各種物質が測定されている(特許文献1および2、非特許文献1?3)。これらの金コロイド凝集反応の測定では、いずれも、金コロイドの最大吸収を示す540nm付近の波長を測定波長としている。しかし、現在、それらの技術を用い、かつ臨床検査分野で普及している自動分析装置を利用して、10分間での測定が行われているが、さらに測定の感度や測定精度の面での向上が求められている。特に微量物質の測定を行う場合には、臨床的に求められる低濃度域での測定精度を向上させることが重要である。」

6 甲第6号証に記載の事項

(甲6-1)「近年、臨床検査などの各種検査では自動化および測定時間の短縮が図られている。その検査の方法として、生体試料中の物質を測定するために免疫反応を利用する測定方法が広く用いられている。免疫学的測定方法としては、RIA法、EIA法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法などの多くの方法がある。その中でも、ラテックス凝集法や金コロイド凝集法は、反応液の分離や洗浄操作を必要としないホモジニアス系での測定が可能なため、測定の自動化や短時間での測定に適している。特に、金コロイド粒子は5nm?100nmの大きさであり、これはラテックス粒子より小さいため、より微量物質の測定に利用可能である(特開2005-283250号公報および特開2004-325192号公報)。」(第1頁第11-20行)

(甲6-2)「本発明において、被測定物質または被測定物質の類似体と第2の特異的結合物質とを共に結合させるための不溶性担体は、免疫測定試薬に使用され得る微小粒子であればよい。ラテックスおよび金属コロイドが好ましい。金属コロイドの場合、金コロイドが一般的に利用されやすい点で好ましい。金コロイド粒子は、市販されているものを用いてもよく、あるいは当業者が通常用いる方法(例えば、塩化金酸をクエン酸ナトリウムで還元する方法)により調製したものを用いてもよい。金コロイド粒子の粒径は、通常10nm?100nm、好ましくは30nm?60nmの範囲である。」(第7頁第5-12行)

(甲6-3)「金コロイドを用いる場合、反応開始後の吸光度変化は、一波長測定であっても二波長測定であってもよい。二波長測定の場合は、測定波長は、第一波長610nm?800nm、好ましくは630nm?750nmと、第二波長360nm?580nm、好ましくは500nm?550nmである。一波長測定の場合は、上記二波長測定の場合の第一波長または第二波長のいずれか一方の波長領域の波長で測定することができる。本発明の方法において吸光度変化とは、以下の2通りの測定により得られた値であり、いずれであってもよい」(第10頁第10-17行目)

(甲6-4)「(実施例4:ジアセチルスペルミンの測定例1)
本実施例では、第一試薬として実施例3で調製したジアセチルスペルミン測定例1用第一試薬を、第二試薬として実施例2で調製したジアセチルスペルミンと抗マウスIgGラットモノクローナル抗体とを結合した金コロイド試薬を用いた。ジアセチルスペルミンを、それぞれ0、5、10、25、50、75、100および200nMの濃度になるように、試料を調製した。ジアセチルスペルミン含有試料10μLに、第一試薬を160μL添加し、37℃で約5分間加温した後、第二試薬を80μL加えて37℃にて反応させて、日立7070自動分析装置により、波長546nmおよび660nmでの測光ポイントとして18から31ポイントにおける吸光度変化量を測定した。図1および表1にジアセチルスペルミン濃度と吸光度変化量との関係を示す。」(第13頁第4-15行目)

第5 判断
1 本件発明1について

(1)本件発明1と甲1発明との対比

ア 甲1発明の「液状流体」及び「検査対象」は、それぞれ本件発明1の「液状試料」及び「分析対象物質」に相当する。

イ 甲1発明の「反応室の第1底面171および、第1底面171に対向する第2底面172には試薬が塗布されており、該試薬は、さらに乾燥され」は、本件発明1の「反応室を構成する面の少なくとも一部に試薬が乾燥付着され」に相当する。

ウ 甲1発明の「検査対象液状流体」は、「供給部」に設けられた「加圧部」によって加圧されることにより「反応室」に移送されているから、「加圧部」は「供給部」と「反応室」との間に圧力差を生じさせているといえ、その結果、「検査対象液状流体が試薬と混合され」ているから、甲1発明の「検査対象液状流体を反応室に移送させることにより、試薬と混合さ」せるために、「加圧部」が「供給部」と「反応室」との間に圧力差を生じさせることは、本件発明1の「供給部に供給された液状試料を、流路を経由して反応室内に移送させて乾燥付着された試薬を液状試料に接触させて液状試料中に分散させるための供給部と反応室に圧力差を発生させ」ることは、ともに「供給部に供給された液状試料を、流路を経由して反応室内に移送させて乾燥付着された試薬を液状試料に接触させうるための供給部と反応室に圧力差を発生させ」る点で共通するものといえる。

以上の事から、両発明は、

「液状試料中の分析対象物質を定量的に測定するための検査器具であって;
少なくとも液状試料を試薬と反応させる反応室を有し、反応室を構成する面の少なくとも一部に試薬が乾燥付着されており、
さらに、液状試料を供給するための供給部
およびその供給部に供給された液状試料を加圧によって反応室まで移送するための流路を備え、
供給部に供給された液状試料を、流路を経由して反応室内に移送させて乾燥付着された試薬を液状試料に接触させうるための供給部と反応室に圧力差を発生させる、検査器具。」

で一致し、以下の点で相違する。

<相違点> 本件発明1が、分析対象物質を、「分光光度計を用いた貴金属コロイド凝集測定法により定量的に測定するための」検査器具であり、試薬は、「分析対象物質を貴金属コロイド凝集測定法で測定可能な」試薬であって、供給部と反応室との圧力差により液状試料中に分散するものであるのに対し、甲1発明は、分析対象物質を、「呈色反応を行わせて、従来から知られている透過光を用いた光学測定により発色量を測定することにより測定するための」検査器具であり、試薬は、「検査対象液状流体と呈色反応するための」試薬であって、供給部に設けられた加圧部によって加圧されることにより検査対象液状流体が反応室に移送されることにより、検査対象液状流体と混合され反応するものである点。

(2)甲第2号証及び甲第3号証について
甲第2号証及び甲第3号証には、甲1発明と同様な、呈色反応により変化した色を測定することにより、体液の成分を分析する分析機器(甲第3号証では分析装置)が記載されているから、本件発明1と甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明とは、少なくとも、上記相違点で相違するものであるといえる。

(3) 判断
上記相違点について検討する。

分光光度計を用いた貴金属コロイド凝集測定法は、甲第4号証ないし甲第6号証に見られるように周知である。
貴金属コロイド凝集測定法に使用される試薬は、通常、液体試料に対し不溶性であって、液体試料中に分散させて使用するものであり、如何に均一に分散させるかが課題となるものである。
それに対し、甲1発明は、呈色反応により検査対象物質を測定するものであって、その試薬は、通常、液溶性で、液体試料中に溶かして使用するものであり、如何に均一に溶かすかが課題となるものであるから、甲1発明の試薬は、貴金属コロイド凝集測定法に使用される試薬とは、その性質も内在する課題も全く相違するものである。そして、甲第1号証には、液体試料に対し不溶性の試料を使用する点に関する記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明の、呈色反応により検査対象物質を測定する試薬に変えて、溶液に対する性質やその課題が全く異なる貴金属コロイド凝集測定法に使用される試薬を用いることに動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲第2号証及び甲第3号証にも、液体試料に対し不溶性の試料を使用する点に関する記載も示唆もなく、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明は、甲1発明同様、呈色反応により検査対象物質を測定するものであるから、上記と同様の理由により、これらの発明に、貴金属コロイド凝集測定法に使用される試薬を用いることに動機付けがあるとはいえない。
そして、甲第2号証及び甲第3号証には、甲1発明と同様の呈色反応により検査対象物質を測定するための検査器具が記載されているから、甲1発明と同様の呈色反応により検査対象物質を測定するための検査器具は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術であるといえるが、呈色反応により検査対象物質を測定するための検査器具の試薬として、貴金属コロイド凝集測定法に使用される試薬を用いることは、例え、呈色反応により検査対象物質を測定するための検査器具が周知技術であったとしても、上記と同様の理由により動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2 請求項2ないし9に係る発明について
本件発明2ないし9は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件発明2ないし9は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された周知技術及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるもいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-19 
出願番号 特願2012-510620(P2012-510620)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加々美 一恵西浦 昌哉黒田 浩一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 福島 浩司
渡戸 正義
登録日 2015-11-06 
登録番号 特許第5831448号(P5831448)
権利者 日東紡績株式会社
発明の名称 試料中の分析対象物質を測定するための検査器具及びそれを用いた分析対象物質の測定方法  
代理人 松下 正  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 古谷 栄男  

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