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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1319187
異議申立番号 異議2016-700514  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-03 
確定日 2016-09-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第5828996号発明「毛髪化粧料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5828996号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5828996号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成20年12月26日に特許出願され、平成27年10月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年6月3日に特許異議申立人松田 亘弘により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5828996号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、「本件発明1?4」又は単に「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)炭酸系のアンモニウム塩として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及びカルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種、並びに(B)リン酸塩としてリン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、及びリン酸水素アンモニウムナトリウムから選ばれる少なくとも一種を含有し、pHが8.5?9.5である第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とから構成され、染毛剤又は毛髪脱色剤として用いられる毛髪化粧料組成物。
【請求項2】
前記第1剤中における(A)炭酸系のアンモニウム塩の含有量は、2.5?16質量%であることを特徴とする請求項1に記載の毛髪化粧料組成物。
【請求項3】
前記第1剤中における(B)リン酸塩の含有量は、リン酸塩無水物に換算した場合0.2?2.5質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の毛髪化粧料組成物。
【請求項4】
前記第1剤中における(B)リン酸塩のリン酸塩無水物に換算した場合の含有量に対する(A)炭酸系のアンモニウム塩の含有量の質量比が1?7.5であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の毛髪化粧料組成物。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人松田 亘弘(以下、「申立人」という。)は、証拠として甲第4号証(以下、甲号証はその番号によって「甲4」などという。)を提出し、本件発明1?4に係る特許は特許法第36条第6項第1号及び同第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、また、証拠として甲1?4を提出し、本件発明1?4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲1:特開2008-127343号公報
甲2:特開2002-363048号公報
甲3:特開2006-151868号公報
甲4:特開2012-167054号公報

第4 甲号証の記載
(1)甲1
本件出願の日前に頒布された刊行物である甲1には、次の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤としてアンモニアと重炭酸アンモニウムとを1:10?10:1の重量比で含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とよりなり、上記第1剤と第2剤の少くとも一方にはその混合総和に対して0.1?3.5重量%のフィトステロ-ルを含有せしめることを特徴とする、2剤式毛髪脱色剤。
【請求項2】
上記第1剤と第2剤の少くとも一方にはその混合総和に対して1.0?6.0重量%のポリオキシエチレンアルキルエ-テル、2.0?15.0重量%の高級アルコ-ル、0.1?3.0重量%のカチオン界面活性剤、0.01?1.5重量%のアニオン界面活性剤、0.05?2.0重量%のリン酸塩類を含有せしめることを特徴とする、請求項1記載の2剤式毛髪脱色剤。
【請求項3】
上記ポリオキシエチレンアルキルエ-テル、高級アルコ-ル、カチオン界面活性剤、及びアニオン界面活性剤が各々炭素数16以上の直鎖のアルキル鎖長を有することを特徴とする、請求項1及び2記載の2剤式毛髪脱色剤。
【請求項4】
染料及びアルカリ剤としてアンモニアと重炭酸アンモニウムを1:10?10:1の重量比で含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とよりなり、上記第1剤と第2剤の少くとも一方にはその混合総和に対して0.1?3.5重量%のフィトステロ-ルを含有せしめることを特徴とする、2剤式染毛剤。
【請求項5】
上記第1剤と第2剤の少くとも一方にはその混合総和に対して1.0?6.0重量%のポリオキシエチレンアルキルエ-テル、2.0?15.0重量%の高級アルコ-ル、0.1?3.0重量%のカチオン界面活性剤、0.01?1.5重量%のアニオン界面活性剤、0.05?2.0重量%のリン酸塩類を含有せしめることを特徴とする、請求項4記載の2剤式染毛剤。
【請求項6】
上記ポリオキシエチレンアルキルエ-テル、高級アルコ-ル、カチオン界面活性剤、及びアニオン界面活性剤が各々炭素数16以上の直鎖のアルキル鎖長を有することを特徴とする、請求項4及び5記載の2剤式染毛剤。」

(1b)「【発明の効果】
【0012】
本発明は、2剤式毛髪脱色・染毛剤において、実際に使用され消費者に不快とされるアルカリ剤及び酸化剤による皮膚への一次刺激を緩和することができる。
さらに、実際に使用され消費者に不快とされる第1剤と第2剤の混合時及び塗布時のアンモニアによる刺激臭を低減し、脱色力及び染毛力に優れた2剤式毛髪脱色・染毛剤を提供することができる。」

(1c)「【0014】
また、第1剤と第2剤の少くとも一方に含有せしめるフィトステロ-ルとして主な主成分は、カンペステロ-ル、スティグマステロ-ル、β-シトステロ-ル、ブラシカステロ-ルなどを挙げることがでる。そして、かかるフィトステロ-ルのは第1剤と第2剤の混合総和に対して、0.1?3.5重量%であり、特に0.5?2.5重量%がより好ましい。第1剤、第2剤の混合時の混合液中にフィトステロ-ルの含有量が0.1重量%未満では十分に刺激を緩和する効果が得られず、また、含有量が3.5重量%より多く含有してもそれ以上の効果は得られず経済的ではない。
【0015】
本発明のポリオキシエチレンアルキルエ-テルとして有効なものを具体的に挙げると、ポリオキシエチレンセチルエ-テル、ポリオキシエチレンステアリルエ-テル、ポリオキシエチレンベヘニルエ-テル等が挙げられ、少なくとも一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。第1剤、第2剤の混合時の混合液中におけるポリオキシエチレンアルキルエ-テルの含有量は、1.0?6.0重量%であり、特に2.0?4.0重量%がより好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエ-テルの含有量が1.0重量%未満では十分にアンモニアによる刺激臭を低減することができず、また、含有量が6.0重量%を越えると十分にアンモニアによる刺激臭を低減することができない。炭素数16以上においてアルケニル鎖をもつポリオキシエチレンオレイルエ-テルは、刺激臭の低減には適さず、側鎖をもつものよりも直鎖のもののほうが好ましい。
【0016】
本発明の高級アルコ-ルとして有効なものを具体的に挙げると、セチルアルコ-ル、セトステアリルアルコ-ル、ステアリルアルコ-ル、ベヘニルアルコ-ル等が挙げられ、少なくとも一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。第1剤、第2剤の混合時の混合液中における高級アルコ-ルの含有量は、2.0?15.0重量%であり、特に4.0?10.0重量%がより好ましい。高級アルコ-ルの含有量が2.0重量%未満ではアンモニアによる刺激臭を低減することが難しく、また、15.0重量%を越えると、それ以上のアンモニアによる刺激臭を低減する効果が得られず、粘度が硬くなり第1剤、第2剤の混合時に取り扱いが困難であり、塗布時の伸びが悪く、使用に不都合を生じる。炭素数16以上の高級アルコ-ルの中でもアルケニル基を持つオレイルアルコ-ルや側鎖を持つイソステアリルアルコ-ルよりも直鎖を持つセチルアルコ-ル、ステアリルアルコ-ル、ベヘニルアルコ-ル等が好ましい。
【0017】
本発明の酸化染料として有効なものを具体的に挙げると、5-アミノオルトクレゾ-ル、1-アミノ-4-メチルアミノアントラキノン、3,3, -イミノジフェノ-ル、2,4-ジアミノフェノキシエタノ-ル、2,4-ジアミノフェノ-ル、トルエン-2,5-ジアミン、トルエン-3,4-ジアミン、ニトロパラフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、N-フェニルパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、オルトアミノフェノ-ル、1,4ジアミノアントラキノン、2,6-ジアミノピリジン、1,5-ヒドロキシナフタレン、パラアミノフェノ-ル、パラニトロオルトフェニレンジアミン、パラメチルアミノフェノ-ル、ピクラミン酸、ピクラミン酸ナトリウム、N,N-ビス(4-アミノフェニル)-2,5-ジアミノ-1,4-キノンジイミン、5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノ-ル、メタアミノフェノ-ル、メタフェニレンジアミン、オルトクロルパラフェニレンジアミン、4,-4-ジアミノジフェニルアミン、カテコ-ル、ジフェニルアミン、α-ナフト-ル、ヒドロキノン、ピロガロ-ル、フロログルシン、没食子酸、レゾルシンおよびそれらの塩類として塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等、直接染料等が挙げられ、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。染毛剤の第1剤中における染料の含有量は、好ましくは0.01?15.0重量%であり、特に0.1?10.0重量%がより好ましい。酸化染料の含有量が0.01重量%未満では十分な染毛力は得られにくく、また、15.0重量%を越えて配合してもそれ以上の染毛力は得られにくい。
【0018】
本発明のカチオン界面活性剤として有効なものを具体的に挙げると、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化べへニルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。第1剤、第2剤の混合時の混合液中におけるカチオン界面活性剤の含有量は、0.1?3.0重量%であり、特に、0.2?2.0重量%がより好ましい。カチオン界面活性剤の含有量が0.1重量%未満ではそれ以上の効果は得られず、また、3.0重量%を越えるとアンモニアによる刺激臭を低減することが難しい。
【0019】
本発明のアニオン界面活性剤として有効なものを具体的に挙げると、N-ステアロイルメチルタウリンナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエ-テル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエ-テル硫酸ナトリウムおよびその他の塩類等が挙げられ、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。第1剤、第2剤の混合時の混合液中におけるアニオン界面活性剤の含有量は、0.01?1.5重量%であり、特に、0.03?0.75重量%がより好ましい。アニオン界面活性剤の含有量が0.01重量%未満ではそれ以上の効果は得られず、また、1.5重量%を越えるとアンモニアによる刺激臭を低減することが難しい。
【0020】
アンモニアによる刺激臭を低減する方法として、炭素数が16以上の直鎖のアルキル鎖長を持つ高級アルコ-ルやポリオキシエチレンアルキルエ-テルなどの界面活性剤を多く使用した場合、毛髪への浸透性が極端に低下し、脱色力や染毛力が劣る。本発明では、アンモニアによる刺激臭の低減を妨げることなく脱色力や染毛力を向上させる方法としてリン酸塩類を含有する。本発明のリン酸塩類として有効なものを具体的に挙げると、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられ、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。第1剤、第2剤の混合時の混合液中におけるリン酸塩類の含有量は、0.05重量%?2.0重量%であり、特に0.2?1.0重量%がより好ましい。リン酸塩類が0.05重量%未満では十分な脱色力や染毛力が得られず、また2.0重量%を越えると、それ以上の効果が得られない。」

(1d)「【実施例1】
【0024】
以下に、本発明の一実施例を示すが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1?8、比較例1?8
表1及び表3に示す配合割合(重量%)に基づいて配合し、2剤式毛髪脱色剤の第1剤と第2剤を、表2及び表4に基づいて配合し、2剤式染毛剤の第1剤と第2剤を各々調製せしめた。そして、実施例1?6、比較例1?6について頭皮への刺激の評価試験を行い、その結果を表5に示す。また、実施例7・8、比較例7・8について頭皮への刺激の評価試験、及び第1剤、第2剤の混合時、及び塗布時のアンモニアの刺激臭低減効果、並びに脱色力、染毛力について評価試験を行い、その結果を表6・7に示す。
なお、上記評価試験方法、及び評価基準は以下の通りである。
【0026】
頭皮への刺激
20名のパネラ-を対象に各実施例に示された第1剤5g,第2剤5gを均一に混合し、頭皮に縦約3cm、横約3cmにできるだけ均一に塗布し、塗布後、1,5,10,15分後の刺激を評価した。
頭皮への刺激の評価
5点:全く刺激を感じなかった。
4点:ほとんど刺激を感じなかった。
3点:軽度の刺激を感じた。
2点:中程度の刺激を感じた。
1点:強い刺激を感じた。
全評価の最も刺激を感じた点数をその点とし平均をとって評価点とした。
【0027】
混合時のアンモニア臭
実施例7・8、比較例7・8に示された第1剤と第2剤をカップに各20g(1:1)を秤量し、混合時におけるアンモニアの刺激臭を10名のパネラ-で評価した。
混合時のアンモニア臭の評価
◎:アンモニア臭がしない。。
○:アンモニア臭が殆んどしない。
△:若干アンモニア臭がする。
×:著しくアンモニア臭がする。
【0028】
塗布時のアンモニア臭
実施例7・8、比較例7・8に示された第1剤と第2剤をカップに各20g(1:1)を秤量して混合した後、毛束に塗布している時のアンモニアの刺激臭を10名のパネラ-で評価した。
塗布時のアンモニア臭の評価
◎:アンモニア臭がしない。
○:アンモニア臭が殆んどしない。
△:若干アンモニア臭がする。
×:著しくアンモニア臭がする。
【0029】
脱色力
実施例7、比較例7に示された第1剤と第2剤をカップに各20g(1:1)を秤量して混合した後、未処理黒髪毛束に塗布し、30℃下に、30分放置したのち、水洗してシャンプ-、トリ-トメント処理をし、脱色処理を完了した。10名のパネラ-により目視にて毛束の明度を評価した。
脱色力の評価
◎:非常に脱色が良い。
○:脱色が良い。
△:若干脱色が悪い。
×:脱色悪い
【0030】
染毛力
実施例8、比較例8に示された第1剤と第2剤を、各20g(1:1)を秤量して混合した後、白髪毛束に塗布して30℃下に、30分放置したのち、水洗してシャンプ-、トリ-トメント処理をし、染毛処理を完了した。10名のパネラ-による毛束の染毛の程度を目視にて評価した。
染毛力の評価
◎:非常に染まりが良い。
○:染まりが良い。
△:若干染まりが悪い。
×:染まりが悪い
・・・
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

【0038】
表5に示した実施例1?6の試験結果からも明らかなように、アンモニアと重炭酸アンモニウムにフィトステロ-ルを組み合わせることでアルカリ剤及び酸化剤による頭皮への一次刺激を緩和する効果があり、この結果は、第1剤に含有させても、第2剤に含有させても効果があることが判る。
これに対し、比較例1?6は、アンモニアと重炭酸アンモニウムを組み合わせることで、アルカリ剤及び酸化剤による頭皮への一次刺激を緩和する効果が、わずかに有るがそれだけでは十分でないことが判る。
【0039】
また、表6・7に示した実施例7・8の試験結果からも明らかなように、炭素数が16以上の直鎖のアルキル鎖をもつポリオキシエチレンアルキルエ-テル、高級アルコ-ル、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤及びリン酸塩を含有せしめた時、アルカリ剤および酸化剤による頭皮への一次刺激を緩和し、さらに第1剤、第2剤の混合時および塗布時のアンモニアによる刺激臭が低減され脱色および染毛力が向上していることが判る。
これに対し、比較例7・8は、フィトステロ-ルを組み合わせることでアルカリ剤及び酸化剤による頭皮への一次刺激を緩和しているが、一方、第1剤、第2剤の混合液中に炭素数16より小さいアルキル鎖長をもつポリオキシエチレンアルキルエ-テル、高級アルコ-ル、カチオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤を含有せしめた時、第1剤、第2剤の混合時および塗布時のアンモニアによる刺激臭の低減が十分に成されていないことがわかる。」

(2)甲2
本件出願の日前に頒布された刊行物である甲2には、次の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤とからなる2剤式染毛・脱色剤組成物用の第1剤であって、(a)アンモニア水及びモノエタノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ剤と、(b)炭酸アンモニウム及び炭酸水素アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性アンモニウム塩と、(c)多価カルボン酸及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の第一のpH調整剤と、を含有することを特徴とする2剤式染毛・脱色剤組成物用第1剤。
【請求項2】 前記(c)成分である多価カルボン酸及びこれらの塩が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びこれらの塩であることを特徴とする、請求項1に記載の2剤式染毛・脱色剤組成物用第1剤。
・・・
【請求項6】 pHが9.0?12.0であることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の2剤式染毛・脱色剤組成物用第1剤。
・・・」

(2b)「【0026】更に、本発明において、2剤式染毛・脱色剤組成物用第1剤のpHは9.0?12.0であることが好ましく、9.1?11.8であることがより好ましい。pHが9.0よりも酸性になると脱色効果が劣り、染毛効果も低下する傾向にある。他方、pHが12.0よりもアルカリ性になると、頭皮刺激が強く、毛髪の損傷も大きくなる傾向にある。」

(2c)「【0067】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の2剤式染毛・脱色剤組成物用の第1剤を用いれば、毛髪の脱色効果及び染毛効果に優れ、かつ頭皮刺激が十分に低減された2剤式染毛・脱色剤組成物、並びにそれを得るのに好適な2剤式染毛・脱色剤組成物キットを得ることが可能となる。
【0068】したがって、上記本発明に係る染毛・脱色剤組成物を用いた本発明の毛髪処理方法によれば、頭皮刺激を十分に低減した状態で、毛髪を十分に脱色及び染毛することが可能となる。」

(3)甲3
本件出願の日前に頒布された刊行物である甲3には、次の事項が記載されている。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤を含有する第1剤と過酸化水素を含有する第2剤を混合して用いる毛髪処理剤であって、第1剤がアンモニア及び炭酸塩を含有し、第2剤がホスホン酸型キレート剤を含有し、第1剤が油、水及び界面活性剤を含む乳化物であって、第1剤と第2剤との混合物中のホスホン酸型キレート剤の含有量が酸として0.01?0.2重量%である脱色剤及び染毛剤から選ばれる毛髪処理剤。
・・・」

(3b)「【発明の効果】
【0010】
本発明の毛髪処理剤、すなわち脱色剤又は染毛剤は、優れた脱色力を有し、また毛髪の色調を明るく良好な色合いにむらなく染め上げることができ、かつ良好な保存安定性を示す。また、優れた脱色力を示すので、アンモニア量を低減することにより、刺激性や刺激臭を緩和することもできる。」

(3c)「【0031】
また第1剤は25℃でpHが8?13.5であるのが好ましく、第1剤と第2剤を混合した毛髪処理剤のpHは、脱色・染色効果と皮膚刺激性の点で好ましくは8?13、より好ましくは8?12、さらに好ましくは8?11である。」

(4)甲4
甲4は、本件の出願後に公開された特許公開公報であるが、次の事項が記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性の第1剤及び酸化剤が配合された第2剤を備える染毛剤又は毛髪脱色剤として用いられる毛髪処理剤であって、
前記第1剤が炭酸系アンモニウム塩及びリン酸系アンモニウム塩が配合されたpH9.8未満のものであり、かつ、
前記第1剤における炭酸系アンモニウム塩の配合濃度が7.5質量%未満であることを特徴とする
毛髪処理剤。
【請求項2】
前記第1剤のpHが、9.5以下である請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
前記第1剤のpHが、8.0以上である請求項1又は2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
前記第1剤における炭酸系アンモニウム塩の配合濃度が、0.1質量%以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
前記第1剤における炭酸系アンモニウム塩の配合量が、5.0質量%以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の毛髪処理剤。」

(4b)「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭酸系アンモニウム塩及びリン酸系アンモニウム塩が配合され且つpH9.8未満の第1剤において、炭酸系アンモニウム塩の配合濃度を所定濃度に設定することにより、第1剤のpH変更による保存安定性の差が小さくなる。」

(4c)「【0019】
なお、炭酸系アンモニウム塩5.0質量%以下(好ましくは4.0質量%以下)及びリン酸系アンモニウム塩が配合された第1剤は、リン酸系アンモニウム塩をリン酸系アルカリ金属塩(リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等)に置換した第1剤に比して、相分離発生又は相分離進行が抑制されるものとなり、毛髪処理剤を染毛剤として用いる場合には、染色性に優れる。また、第1剤における炭酸系アンモニウム塩の配合濃度が5.0質量%以下(好ましくは4.0質量%以下)であれば、第1剤のpHが低い程に生じやすい炭酸ガス発生を低減できる。」

(4d)「【実施例】
【0042】
以下に実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱することがない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(参考例1a?3a、参考例1b?3b)
先ず、炭酸系アンモニウム塩を配合した第1剤の初期pHを変更すれば、保存安定性に影響を与えることを参考例1a?3a及び1b?3bの第1剤により示す。
【0044】
下記表1に示す配合濃度の第1剤を調製した。表1において、「炭酸塩」の「所定量」は、下記表2に示す炭酸アンモニウムの配合濃度であり、「リン酸塩」の所定量は、下記表2に示すリン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムの配合濃度である。また、表1において、「pH調整剤」の「所定量」は、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)及び乳酸を適宜使用して下記表2に示すpHに調整した量である。
【0045】
【表1】

【0046】
参考例1a?1c及び1b?3bの第1剤は、概ね乳白色のO/Wエマルションであり、下記混合物(1)?(3)を用いて次の通り調製して得た。80℃程度の温度条件で、リボン羽根で攪拌されている混合物(1)に混合物(2)を配合し、エマルションを調製した。このエマルション(温度45℃以下)にポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム液を配合し、更に混合物(3)を配合した。そして、pH調整剤(AMP及び/又は乳酸)を用いてpHを適宜調整した参考例1a?1c及び1b?3bの第1剤を得た。
【0047】
混合物(1):
ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-エチルヘキサン酸セチル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(2E.O)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(2E.O)、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(2E.O)、及びポリオキシエチレンオレイルエーテル(50E.O)を80℃程度で混合したものを、混合物(1)とした。
【0048】
混合物(2):
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、1,3-ブチレングリコール、PEG1000、亜硫酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム、及び精製水を80℃程度で混合したものを、混合物(2)とした。
【0049】
混合物(3)
精製水(第1剤の40質量%相当量)、AMP(第1剤の2?3質量%相当量)、リン酸塩、及び炭酸塩の溶液を混合物(3)とした。
【0050】
保存安定性の確認は、参考例1a?1c及び2a?2cの第1剤のいずれかを収容した密栓ガラス管(直径:35mm程度、高さ:約10cm、第1剤収容量:80g)を50℃の恒温槽内に安置後、目視確認可能な離水部の高さを測ることにより行なった。
【0051】
図1は、50℃の恒温槽内に15日間安置した後の参考例1a等の第1剤を示す。図2は、50℃の恒温槽内に1ヶ月間安置した後の参考例1a等の第1剤を示す。図1及び図2においては、カラス管の下部に離水部が存在していたことを確認できる。
【0052】
また、下記表2に、配合した炭酸塩及びリン酸塩の種類及び配合濃度と共に、50℃の恒温槽内に15日間及び1ヶ月間安置した後の離水部の高さを示す。
【表2】

【0053】
表2に示す通り、pHが9.8から9.0まで低下する程に、「離水部の高さ」が高くなったことを確認できる。また、15日後の離水部の高さの差は、参考例1aと参考例1cとの差が14mm、参考例2aと参考例2cとの差が13mmであった。
・・・
【0059】
(実施例C1?C2、比較例C)
実施例C1?C2及び比較例Cの第1剤(O/Wエマルション)を、参考例1aと同様にして調製した。この調製で使用した炭酸塩及びリン酸塩の種類及び配合濃度は、下記表5の通りである。
【0060】
また、参考例1aと同じく、50℃の恒温槽内に安置することによる保存安定性の確認を行なった。結果は、下記表5の通りである。
【0061】
【表5】

【0062】
表5の「離水部の高さ」において、実施例C1及びC2と、比較例Cとの対比により、リン酸塩としてリン酸系アンモニウム塩を用いる方がリン酸系アルカリ金属塩を用いるよりも相分離進行が抑制されたことを確認できる。」

第5 当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号について
(1)申立人は、発明の詳細な説明には、「リン酸水素二ナトリウム」、「リン酸二水素ナトリウム」又は「リン酸三ナトリウム」(以下、「リン酸系ナトリウム塩」という。)の実施例しか記載されておらず、リン酸系ナトリウム塩と「リン酸水素二アンモニウム」や「リン酸二水素アンモニウム」とは化学構造が大きく異なるから、本件発明のうち、少なくともリン酸塩として「リン酸水素二アンモニウム」や「リン酸二水素アンモニウム」を使用する態様は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内といえない旨主張している。
そこで、本件発明が、発明の詳細な説明において、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内といえるか検討する。

(2)本件発明は、「染毛剤又は毛髪脱色剤として用いられる毛髪化粧料組成物」の発明であり、その解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0005】からみて、「炭酸系のアンモニウム塩を使用する毛髪化粧料組成物において、保存安定性を向上させることができる毛髪化粧料組成物を提供すること」にあるものと認められる。

そこで、発明の詳細な説明の記載をみると、段落【0015】で「(B)リン酸塩は、(A)炭酸系のアンモニウム塩の溶解性を高め、第1剤の保存安定性の向上及び脱色処理後の毛髪の明度の向上のために配合される。リン酸塩としては、例えばリン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、及びリン酸水素アンモニウムナトリウムが挙げられる。」と、リン酸系ナトリウム塩以外の「リン酸水素二アンモニウム」、「リン酸二水素アンモニウム」などのリン酸塩を使用しても、本件発明のリン酸塩を使用すれば、炭酸系アンモニウム塩の溶解性を高め、第1剤の保存安定性を向上できると記載されている。

さらに発明の詳細な説明の記載をみると、本件発明のリン酸系ナトリウム塩を使用する態様の具合例である実施例1?18(段落【0051】?【0061】)が記載されており、段落【0054】で「<保存安定性>脱色処理前の各実施例及び比較例の毛髪脱色剤の第1剤について、ガラス瓶に入れ、50℃の恒温漕中で1ヶ月間保存した後に毛髪脱色剤の第1剤の分離状態を目視にて評価することにより溶解状態の保持効果が良いか否かを判断した。分離がほとんど認められないものを評価5、分離があまり認められないものを評価4、分離が僅かに認められるもの評価3、分離がやや認められるもの評価2、分離がかなり認められるものを評価1とした。」と記載される保存安定性について、上記実施例はいずれも評価3以上であることが示されている。

そして、技術常識に照らして、発明の詳細な説明の全記載をみても、本件発明のリン酸系ナトリウム塩と、本件発明のリン酸系ナトリウム塩以外のリン酸塩とは、リン酸塩という点で化学構造が共通しているにも関わらず、本件発明のリン酸系ナトリウム塩以外のリン酸塩を使用したのでは、リン酸系ナトリウム塩を使用した上記実施例で示された第1剤の保存安定性の向上という効果が得られないと認められるような特段の事情は認められない。

そうすると、リン酸塩として「リン酸水素二アンモニウム」、「リン酸二水素アンモニウム」を使用する態様も含めて、本件発明は、発明の詳細な説明において、上記課題を解決できることを当業者が認識できる範囲内といえる。

したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(3)甲4に基づく申立人の主張について
申立人は、甲4によれば、本件明細書の実施例にないリン酸系アンモニウム塩を用いた場合は、炭酸アンモニウムを含む第1剤において、pH9.8に比べ9.5の方が分離の程度が大きい(保存安定性が悪い)ことが実際に確認されているから、少なくともリン酸系アンモニウム塩を用いた場合には、本件発明は本件明細書に記載された効果を奏さないことが確認されており、また、リン酸系ナトリウム塩とリン酸系アンモニウム塩とでは、相分離の程度(保存安定性)において同様に扱うことができないことも実際に確認されていることから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。

上記主張について検討する。
甲4の摘示(4d)の【表2】(段落【0052】)の参考例1a?2cで確認されているのは、「炭酸系アンモニウム塩及びリン酸系アンモニウム塩が配合され且つpH9.8未満の第1剤において、炭酸系アンモニウム塩の配合濃度を所定濃度に設定することにより、第1剤のpH変更による保存安定性の差が小さくなる。」(摘示(4b))という甲4記載の発明の効果を示すためであり、「炭酸系のアンモニウム塩を使用する毛髪化粧料組成物において、保存安定性を向上させることができる。」(本件明細書の段落【0010】)という本件発明の効果を示すためではないから、甲4において、リン酸系アンモニウム塩を使用した場合は、炭酸アンモニウムを含む第1剤において、pH9.8に比べ9.5の方が分離の程度が大きいことが実際に確認されていても、第1剤のpHが9.5の場合は、上記本件発明の効果を奏さないとまではいえない。
また、甲4でリン酸系ナトリウム塩とリン酸系アンモニウム塩とでは、相分離の程度において同様に扱うことができないことが実際に確認されていても、甲4で確認されているのは、リン酸系アンモニウム塩を使用した場合は、リン酸系ナトリウム塩を使用した場合よりも、相分離発生又は相分離進行が抑制される旨である(摘示(4c)、(4d)の【0062】)。そうすると、甲4によれば、むしろ、本件明細書の実施例において、リン酸系アンモニウム塩よりも相分離発生又は相分離進行の抑制の点で劣るリン酸系ナトリウム塩を用いた場合に、本件発明は本件明細書に記載された効果を奏することが示されているのであるから、リン酸系ナトリウム塩よりも相分離発生又は相分離進行を抑制する点で優れるリン酸系アンモニウム塩を使用した場合でも、本件発明は本件明細書に記載された効果を奏するといえることになる。
したがって、申立人の主張は採用することはできない。

2.特許法第36条第4項第1号について
(1)申立人は、発明の詳細な説明には、本件発明を調製する際の温度条件や各成分の配合順序などの具体的な調製方法が全く記載されておらず、また、炭酸系アンモニウムとリン酸塩を含有したpHが8.5?9.5である第1剤を、保存安定性の向上という本件発明の効果を奏するように製造することは周知でもないから、いわゆる当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨述べている。
そこで、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものであるか検討する。

(2)本件発明は、「染毛剤又は毛髪脱色剤として用いられる毛髪化粧料組成物」という物の発明であって、上記1で述べたように、発明の詳細な説明に記載したものであるから、「炭酸系のアンモニウム塩を使用する毛髪化粧料組成物において、保存安定性を向上させることができる。」(本件明細書の段落【0010】)という効果を奏するものである。

そこで、発明の詳細な説明をみると、本件発明の具体例である実施例1?18(段落【0051】?【0061】)が配合成分と共に記載されており、また、本件発明の配合成分は、段落【0012】?【0037】、【0044】?【0048】にも記載されている。

ここで、上記実施例では、「表1?5に示す各成分を含有する、毛髪脱色剤の第1剤及び第2剤を調製した。」(段落【0051】)と記載されているだけで、発明の詳細な説明の全記載をみても、本件発明を調製する際の温度条件や各成分の配合順序などの具体的な調製方法は記載されていない。
しかしながら、上記のような具体的な調製手法は、当業者が技術常識を参酌して適宜設定し得る程度と認められる。
そして、上記実施例で第1剤の保存安定性の向上(段落【0054】)が確認されており、また、上記1で述べたように、実施例で保存安定性が確認されていない「リン酸水素二アンモニウム」、「リン酸二水素アンモニウム」などのリン酸系ナトリウム塩以外のリン酸塩を使用する態様も含めて、本件発明は、発明の詳細な説明において、上記課題を解決できることを当業者が認識できる範囲内といえる。

したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(3)甲4に基づく申立人の主張について
申立人は、甲4によれば、リン酸系アンモニウム塩を使用した場合には、本件発明は本件明細書に記載された効果を奏さないことが確認されているから、リン酸系アンモニウム塩を使用した場合でも、リン酸系ナトリウム塩を使用した場合と同様に本件明細書に記載された効果を奏するのであれば、それは発明の詳細な説明に記載されていない特別な調整方法が存在しているからであるといえ、したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

上記主張について検討すると、上記1(3)で述べたように、甲4をみても、リン酸系アンモニウム塩を使用した場合には、本件発明は本件明細書に記載された効果を奏さないことが確認されているとまではいえないから、リン酸系アンモニウム塩を使用した場合でも、リン酸系ナトリウム塩を使用した場合と同様に本件明細書に記載された効果を奏しても、それは発明の詳細な説明に記載されていない特別な調整方法が存在しているからであるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

3.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
ア.甲1記載の発明
甲1には、特許請求の範囲に記載された2剤式毛髪脱色剤(摘示(1a)(特に請求項2)?(1c))を具体化したものとして、実施例7(摘示(1d)の【表3】)の2剤式毛髪脱色剤の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されている。

「フィトステロール 4.0重量%、セトステアリルアルコール 8.0重量%、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム 1.6重量%、ポリオキシエチレンステアリルエーテル 4.6重量%、リン酸一アンモニウム 1.5重量%、エデト酸二ナトリウム 0.2重量%、亜硫酸ナトリウム 0.3重量%、28重量%アンモニア 6.8重量%、重炭酸アンモニウム 3.2重量%、精製水 残量からなる第1剤と、35%過酸化水素 16.6重量%含む第2剤とよりなる、2剤式毛髪脱色剤」

また、甲1には、特許請求の範囲に記載された2剤式毛染毛剤(摘示(1a)(特に請求項5)?(1c))を具体化したものとして、実施例8(摘示(1d)の【表4】)の2剤式毛染毛剤の発明(以下、「甲1-2発明」という。)も記載されている。

イ.甲1-1発明に基づく対比・判断
(ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の第1剤の「重炭酸アンモニウム」が、重炭酸アンモニウムの別称が炭酸水素アンモニウムであるという技術常識から、本件発明1の第1剤の(A)成分である「炭酸水素アンモニウム」に相当する。
また、甲1-1発明の第1剤の「リン酸一アンモニウム」が、リン酸一アンモニウムの別称がリン酸二水素アンモニウムであるという技術常識から、本件発明1の第1剤の(B)成分である「リン酸二水素アンモニウム」に相当する。
さらに、甲1-1発明の第1剤が「28重量%アンモニア」を含むことは、本件明細書の段落【0044】において、本件発明1の第1剤のアルカリ剤としてアンモニアを含有してもよいと記載されていることからみて、本件発明1との間の相違点とはならないし、また、甲1-1発明の第1剤が「セトステアリルアルコール」、「臭化ステアリルトリメチルアンモニウム」、「ポリオキシエチレンステアリルエーテル」、「エデト酸二ナトリウム」、「亜硫酸ナトリウム」、「精製水」を含むことも、本件明細書の段落【0020】?【0034】において、本件発明1の第1剤に高級アルコール、界面活性剤、キレート剤、酸化防止剤、水を含有してもよいと記載されていることからみて、本件発明1との間の相違点とはならない。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明は、以下の一致点、相違点を有する。

一致点:
「(A)炭酸系のアンモニウム塩として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及びカルバミン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種、並びに(B)リン酸塩としてリン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、及びリン酸水素アンモニウムナトリウムから選ばれる少なくとも一種を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とから構成され、染毛剤又は毛髪脱色剤として用いられる毛髪化粧料組成物。」

相違点1:
第1剤について、前者は「pHが8.5?9.5である」と特定しているのに対し、後者はそのような特定を有していない点。
相違点2:
第1剤について、後者は「フィトステロール 4.0重量%」を含むと特定しているのに対し、前者はそのような特定を有していない点。

(イ)上記相違点について検討する。
まず、上記相違点1について検討すると、甲2、3をみても、甲1-1発明において、第1剤のpHを「8.5?9.5」という特定の値とすることまでは記載も示唆もされていない。
また、本件発明1の「炭酸系のアンモニウム塩を使用する毛髪化粧料組成物において、保存安定性を向上させることができる。」(本件明細書の段落【0010】)という効果は、甲1?3をみても、予測し得ない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1?3記載の発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、甲4によれば、本件発明1は上記効果を奏さないのであるから、本件発明1は、甲1?3記載の発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているが、本件発明1が発明の詳細な説明に記載したものであって、上記効果を奏するものであることは上記1で述べたとおりである。
したがって、申立人の主張は採用することができない。

ウ.甲1-2発明に基づく対比・判断
甲1-2発明の組成等は、甲1-1発明の組成等と同様であるから(摘示(1d)の【表3】、【表4】)、甲1-2発明に基づく対比・判断は、上記イで述べた甲1-1発明に基づく対比・判断と同様である。
したがって、本件発明1は、甲1?3記載の発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記(1)で示したのと同様の同様の理由により、甲1?3記載の発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-22 
出願番号 特願2008-333009(P2008-333009)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 光本 美奈子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 関 美祝
小久保 勝伊
登録日 2015-10-30 
登録番号 特許第5828996号(P5828996)
権利者 ホーユー株式会社
発明の名称 毛髪化粧料組成物  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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