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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1319193 |
異議申立番号 | 異議2016-700389 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-05-02 |
確定日 | 2016-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5804144号発明「透光性ジルコニア焼結体及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5804144号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第5804144号は、平成20年12月24日に出願された特願2008-328499号の一部を平成26年6月25日に新たな出願とした特願2014-130275号の特許請求の範囲に記載された請求項1?6に係る発明について、平成27年9月11日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1?6に係る特許に対し、特許異議申立人 足立道子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2.本件発明の認定 本件特許に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる(以下、請求項ごとに「本件発明1」?「本件発明6」という。)。 【請求項1】 安定化剤として2?4mol%のイットリアを含み、添加剤としてアルミナを0.1wt%未満含むジルコニアからなり、相対密度が99.8%以上、かつ厚さ1.0mmでの全光線透過率が35%以上であり、結晶粒径が0.20?0.45μmであることを特徴とする透光性ジルコニア焼結体。 【請求項2】 140℃の熱水中に24時間浸漬させた後の単斜晶相率が20%以下である請求項1に記載の透光性ジルコニア焼結体。 【請求項3】 3点曲げ強度が1100MPa以上である請求項1又は2記載の透光性ジルコニア焼結体。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の焼結体を用いてなる歯科材料。 【請求項5】 歯科材料が歯列矯正ブラケットである請求項4に記載の歯科材料。 【請求項6】 歯科材料が義歯及び/又は義歯ミルブランクである請求項4の歯科材料。 第3.申立理由の概要 申立人は、証拠として下記甲第1?9号証(以下、「甲1?9」という。)を提出し、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反(以下、「申立理由1」という。)してされたものであり、また、同法第36条第4項第1号並びに第6項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由2」という。)特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。 甲1:大道信勝 外3名、 「ジルコニアセラミックスの水中アニールによる相転移」、 Journal of the Ceramic Society of Japan、 社団法人日本セラミックス協会、 平成11年2月1日,第107巻[2]、128-133頁 甲2:松井光二、 「3mol%イットリアドープジルコニア粉末の初期焼結メカニズム: アルミナの効果」、東ソー研究・技術報告、東ソー株式会社、 平成19年12月31日、第51巻、9-18頁 甲3:特表2003-530970号公報 甲4:宮川克己、戸田堯三著、「オプトセラミックス」、 技報堂出版株式会社、1984年12月14日、76,77,82,83,112,113頁 甲5:宗宮重行、吉村昌弘編、 「新素材シリーズ ジルコニアセラミックス 10」、 株式会社 内田老鶴圃、1989年5月15日、123-135頁 甲6:国際公開第2008/013099号 甲7:特開平8-117248号公報 甲8:特開2008-81325号公報 甲9:宗宮重行監修、「セラミックスの変態強化」、株式会社 内田老鶴圃 1992年11月25日、192-193頁 第4.申立理由1について 1.本件発明1 (1)申立人は、本件発明1について、甲1または甲2に記載された発明と、甲3?7の記載から当業者が発明をすることができたものである旨主張している(異議申立書4頁)。 (2)甲1発明の認定 甲1には、「2.実験」の項に、3mol%のイットリアを含むジルコニア粉末を成形し、1300?1500℃の温度で大気中焼成をしたこと、「3.結果及び考察」の項に、1400℃焼成で理論密度の99%に到達したことが記載され、図1に、1400℃焼成時の結晶粒径が約0.35μmであったことが図示されている。 したがって、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認められる。 「3mol%のイットリアを含むジルコニアからなり、相対密度が99%、結晶粒径が約0.35μmであるジルコニア焼結体。」 なお、申立人は、図1から、相対密度99.8%以上であることが看取できると主張しているが、1500℃焼成時においても、当該相対密度に到達しているとは認められない。 (3)甲1発明との対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1のうち、 「安定化剤として2?4mol%のイットリアを含むジルコニアからなり結晶粒径が0.20?0.45μmであるジルコニア焼結体。」の点は甲1発明と一致し、本件発明1が、「添加剤としてアルミナを0.1wt%未満含み、相対密度が99.8%以上、かつ厚さ1.0mmでの全光線透過率が35%以上である」のに対し、甲1発明は、アルミナを含まず、相対密度が99%、全光線透過率が不明である点で相違する。 そこでこの相違点について検討するに、甲3【0021】には、3モル%の酸化イットリウムを含むジルコニア粉末に0.01重量%のアルミナ粉末を混合、成形し、焼結後に熱間アイソスタティック圧縮(HIP)をすると理論密度の99.9%以上の密度になることが記載されているが、得られるジルコニアセラミックスが乳白色であると記載されている。 してみると、甲3の記載では、甲1発明が、添加剤として0.01重量%のアルミナを含むとき、厚さ1.0mmでの全光線透過率が35%以上になることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、甲6,7には、実施例として、0.2?0.25重量%のアルミナを含むジルコニア焼結体の密度(又は気孔率)、全光線透過率(又は色調)について記載があるが、ジルコニア粉末に0.1重量%未満のアルミナを添加することや、添加されたジルコニア粉末の焼結後の相対密度や全光線透過率を示唆するものではない。そして、甲4,5には、アルミナを含むジルコニアについて記載がない。 したがって、上記相違点を有する本件発明1は、甲1に記載された発明と甲3?7の記載から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)甲2発明の認定 甲2には、「2.[1] Specimen preparacion」の欄に、Al_(2)O_(3)を含まず、3mol%のY_(2)O_(3)を含むジルコニア粉末「3Y」を、プレス成形後1100?1500℃で2時間大気中焼成(加熱速度100℃/時)をしたことが記載され、Fig.1には、1500℃の焼成温度の時、相対密度が約100%、平均粒径が約0.5μmであったことが図示されている。 したがって、甲2には、次の甲2発明が記載されていると認められる。 「3mol%のY_(2)O_(3)を含むジルコニアからなり、相対密度が約100%、平均結晶粒径が約0.5μmであるジルコニア焼結体。」 なお、申立人は、Fig.1から、結晶粒径が0.20?0.45μmであること、Fig.3(B)から、相対密度が99.8%以上であることが看取できると主張しているが、Fig.3(B)は、Fig.1と加熱速度(5℃/分=300℃/時)が異なっており、同一の焼結体を記載したものとは認められない。 (5)甲2発明との対比・判断 本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1のうち、 「安定化剤として2?4mol%のイットリアを含むジルコニアからなり相対密度が99.8%以上であるジルコニア焼結体。」の点は甲2発明と一致し、本件発明1が、「添加剤としてアルミナを0.1wt%未満含み、かつ厚さ1.0mmでの全光線透過率が35%以上であり、結晶粒径が0.20?0.45μmである」のに対し、甲2発明は、アルミナを含まず、全光線透過率が不明であり、平均結晶粒径が約0.5μmである点で相違する。 そこでこの相違点について検討するに、甲3【0021】【0024】には、3モル%の酸化イットリウムを含むジルコニア粉末に0.01重量%のアルミナ粉末を混合、成形し、焼結後に熱間アイソスタティック圧縮(HIP)をすると理論密度の99.9%以上の密度で、平均粒度0.30?0.45μmになることが記載されているが、得られるジルコニアセラミックスが乳白色であると記載されている。 してみると、甲3の記載では、甲2発明が、添加剤として0.01重量%のアルミナを含むとき、厚さ1.0mmでの全光線透過率が35%以上になることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、甲6,7には、実施例として、0.2?0.25重量%のアルミナを含むジルコニア焼結体の結晶粒径、全光線透過率(又は色調)について記載があるが、ジルコニア粉末に0.1重量%未満のアルミナを添加することや、添加されたジルコニア粉末の焼結後の結晶粒径や全光線透過率を示唆するものではない。そして、甲4,5には、アルミナを含むジルコニアについて記載がない。 したがって、上記相違点を有する本件発明1は、甲2に記載された発明と甲3?7の記載から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2.本件発明2?6について (1)申立人は、本件発明2について、本件発明1同様、甲1に記載された発明と、甲3?7の記載から当業者が発明をすることができたものである旨主張している(異議申立書4頁)が、本件発明2は、本件発明1をさらに限定したものであるから、「第4.1.(3)」で述べたとおり、甲1に記載された発明と、甲3?7の記載から当業者が発明をすることができたものではない。 (2)申立人は、本件発明3?6について、甲1に記載された発明と、甲3?9の記載から当業者が発明をすることができたものである旨主張している(異議申立書4頁)。 そこで検討するに、甲8には、実施例として、0.17?0.31重量%のアルミナを含むジルコニア焼結体の密度について記載があるが、ジルコニア粉末に0.1重量%未満のアルミナを添加し焼結した場合の全光線透過率を示唆するものではない。また、甲9には、アルミナを含むジルコニアについて記載はない。 してみると、本件発明3?6は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるところ、甲8,9の記載からも、「第4.1.(3)」で検討した相違点に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 したがって、本件発明3?6は、甲1に記載された発明と、甲3?9の記載から当業者が発明をすることができたものではない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5.申立理由2について 1.「2?4molのイットリアを含み・・・単斜晶相率が20%以下」について (1)申立人は、甲1記載の図7を根拠に、イットリアが2.8mol%を下回ると熱水処理後の単斜晶相率が20%を超えるのは技術常識であり、一方、本件明細書には、3mol%の実施例しか記載されていないから、本件発明2の上記発明特定事項は、実施可能要件違反、サポート要件違反である旨主張している(異議申立書23?24頁)。 (2)そこで検討するに、図7の横軸に記載されたイットリア濃度は、ジルコニア焼結体のイットリア濃度ではなく、焼成温度がそれぞれ異なる3mol%のイットリアを含むジルコニア焼結体における正方晶のイットリア濃度である(表1参照)。すなわち、図7は、2.8mol%を下回るイットリアを含むジルコニア焼結体において、熱水処理後の単斜晶相率が20%を超えることを示したものではなく、1400℃で焼成した3mol%のイットリアを含むジルコニア焼結体(上述した「甲1発明」)において、正方晶のイットリア濃度が2.8mol%に減少し、熱水処理後の単斜晶相率が20%を超えることを示したものである。 これに対し、本件明細書記載の実施例は、甲1発明と同様、1400℃で焼成した3mol%のイットリアを含むジルコニア焼結体において、熱水処理後の単斜晶相率が10%以下に抑えられたことを示している。 すなわち、本件明細書記載の実施例は、アルミナの添加によって、図7に示されるような熱水処理後の単斜晶相率の上昇が生じないことを示すものといえる。 したがって、上記主張は採用できない。 2.「2?4molのイットリアを含み・・・3点曲げ強度が1100MPa以上」について (1)申立人は、甲9記載の図4.50を根拠に、イットリアが3.5mol%以上のときの曲げ強さは1000MPaを下回るのは技術常識であり、一方、本件明細書には、3mol%の実施例しか記載されていないから、本件発明3の上記発明特定事項は、実施可能要件違反、サポート要件違反である旨主張している(異議申立書24?25頁)。 (2)そこで検討するに、図4.50には、1400℃で常圧焼結したイットリアを3mol%含むジルコニア焼結体の曲げ強さが約1000MPaであることが示されている。 これに対し、本件明細書記載の実施例は、1400℃で常圧焼結したイットリアを3mol%含むジルコニア焼結体の曲げ強さが1120?1280MPaになることを示している。 すなわち、本件明細書記載の実施例は、アルミナの添加によって、120?280MPaの強度向上がもたらされること示すものであるから、イットリアが3.5mol%以上になったからといって、曲げ強さが1000MPaを下回ることはないと認められる。 したがって、上記主張は採用できない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 第6.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-09-02 |
出願番号 | 特願2014-130275(P2014-130275) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B) P 1 651・ 536- Y (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 末松 佳記、立木 林、植前 充司 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
永田 史泰 大橋 賢一 |
登録日 | 2015-09-11 |
登録番号 | 特許第5804144号(P5804144) |
権利者 | 東ソー株式会社 |
発明の名称 | 透光性ジルコニア焼結体及びその用途 |