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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K |
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管理番号 | 1319194 |
異議申立番号 | 異議2016-700301 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-12 |
確定日 | 2016-09-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5827428号発明「テルミサルタン含有錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5827428号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第5827428号は、平成27年1月15日に特許出願され、平成27年10月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人荒木利之により特許異議の申立てがされたものである。 第2.本件特許発明 特許第5827428号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」といい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。) 第3.特許異議申立人の主張の概要及び各甲号証 特許異議申立人が主張する申立理由の概要は、下記1.のとおりであり、特許異議申立人は、証拠方法として、下記2.各甲号証を提出している。 1.特許異議申立人が主張する申立理由の概要 (1)本件特許発明1?4、6は、甲第1号証に記載された発明であるし、本件特許発明5も、甲第2号証を参酌すれば、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1?6に係る特許は取り消されるべきものである。(以下、「取消理由1」という。) (2)本件特許発明1?5は、甲第1号証の実施例に記載された発明及び甲第3?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、また、本件特許発明6は、甲第1号証の実施例に記載された発明及び甲第3?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、請求項1?6に係る特許は取り消されるべきものである。(以下、「取消理由2」という。) (3)本件特許発明1?5は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、3、4、6?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、また、本件特許発明6は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、3、4、6?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、請求項1?6に係る特許は取り消されるべきものである。(以下、「取消理由3」という。) (なお、甲第12号証については、特許異議申立書中での具体的な言及はないが、本件特許発明1?6に関連する記載としては、Polyoxyl 40 stearate等のポリオキシエチレンモノステアレートが医薬品の添加剤として利用可能な非イオン性界面活性剤であることが【0041】?【0045】に記載されていることから、その観点で提示されたものと解して取消理由2、3の証拠として取り扱った。) 2.特許異議申立人が提出した各甲号証 甲第1号証:特表2006-502194号公報 甲第2号証:厚生労働省告示第65号『第十六改正 日本薬局方』(平成23年3月24日)p744?745「ステアリン酸ポリオキシル40」の項目 甲第3号証:国際公開第2013/161823号 甲第4号証:訳編日本医薬品添加剤協会『改訂 医薬品添加物ハンドブック』(2007年2月28日)(株)薬事日報社、p855-859 甲第5号証:特開2014-210772号公報 甲第6号証:特表2012-530124号公報 甲第7号証:国際公開第2014/119767号 甲第8号証:日本薬局方 グルメピリド錠 グリメピリド錠0.5mg「BMD」、グリメピリド錠1mg「BMD」、グリメピリド錠3mg「BMD」添付文書(第7版:2014年9月改訂) 甲第9号証:特開2011-46665号公報 甲第10号証:特開2004-359805号公報 甲第11号証:財団法人日本医薬情報センター(JAPIC)編集・発行『日本の新薬一新薬承認審査報告書集-』(2011年11月) 甲第12号証:特開2012-56960号公報 第4 各甲号証に記載された事項 1.甲第1号証 (1a)(【0005】?【0012】) 「【0005】 発明の簡単な説明 より簡単およびより安価な工程を用いて調製することが可能であり、かつ、薬剤としての使用の前提条件(即ち、弱酸性および中性のpH領域における十分な胃腸吸収のための、様々な気候条件下における調合物の長期持続的安定性、および、活性物質の十分な溶解性)をすべて満たす、テルミサルタンの代替固形経口調合物を提供する明確な必要性がある。 本発明の第1の目的は、前記組成物および調合物から、弱酸性および中性のpH領域における胃腸吸収に十分な溶解性をもって活性化合物が放出されることが可能であるような剤形の、テルミサルタン含有の前記の代替固形医薬組成物(例えば、顆粒剤または散剤などの剤形で)の提供である。 該調合物は、胃腸管の生理的関連pH値領域内において本質的にpH依存性を示さない、速放性および溶解性を有することが好ましい。 本発明の第2の目的は、即使用/投与可能なさらなる固形経口調合物(例えば、本発明の第1の態様において述べた前記医薬組成物から作製される、カプセル剤および錠剤の調合物)の提供である。 本発明の第3の目的は、本明細書で先に述べた前記組成物および調合物を生産する方法に関する。 【発明を実施するための最良の形態】 【0006】 発明の詳細な説明 本発明の第1の目的(医薬組成物) 驚くことに、ある溶解媒体中に分散した3から50重量%のテルミサルタンを含有する医薬組成物とすることで、テルミサルタンの溶解度を数百倍に上昇させ得ることが発見され、ここで、該溶解媒体は、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=1:1から10:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して、約1から20重量%の量の界面活性剤または乳化剤、および、(c)25から70重量%の水溶性希釈剤、を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%である。 ”溶解性錠剤媒体”の用語は、生理的水性媒体に容易に溶解する、速放(速い溶解)性を持つ薬剤錠剤基本調合物を意味する。 適切な塩基性試薬の具体例は、・・・などのアルカリ金属水酸化物;さらには、・・・などの塩基性アミノ酸;並びにメグルミン(N-メチル-D-グルカミン)である。 界面活性剤および乳化剤は、イオン性または非イオン性であってもよいが、後者が好ましい。界面活性剤および乳化剤の具体例は、ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油などである。 非イオン性の界面活性剤および乳化剤として適切なポロクサマーまたはプルロニックに関しては、メルクインデックス第12版(1996年)による定義を参照し、その定義は本明細書に含まれるものとする。適切なポロクサマーは、平均分子量が約2000から12000、好ましくは4000から10000、より好ましくは6000から10000、最も好ましくは8000から9000であり得る。具体的なポロクサマーの例は、ポロクサマー182LF、ポロクサマー331、およびポロクサマー188である。 ・・・ 【0008】 ・・・本発明の医薬組成物は、難水溶性のテルミサルタンの、4.4mg/100mlより高い濃度にまで向上した可溶化を提供し、それによって、生理的pH値における薬の溶解を促進し、また、即崩壊性媒体からの迅速な放出を提供する。 活性成分の溶解性を実質的に向上させ、さらに、本発明の固形医薬組成物の調製において、噴霧乾燥法の代わりに例えば流動層造粒法などの簡略化した製造工程の使用を可能にするためには、成分(b)(界面活性剤または乳化剤)の存在が不可欠である。 ・・・ 【0010】 さらに好ましい実施態様においては、本発明の医薬組成物は、溶解媒体中に分散した15から25重量%のテルミサルタンを含有し、ここで、該溶解媒体は、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=2:1から3:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して約2から7重量%の量の非イオン性界面活性剤または乳化剤、および、(c)35から50重量%の水溶性希釈剤を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%となる。 このさらに好ましい実施態様においては、(a)から(d)の先に記載したすべての成分が使用可能であるが、ただし、最も好ましい塩基性試薬はメグルミンであり、最も好ましい非イオン性の界面活性剤はポロクサマーから選択され、最も好ましい水溶性希釈剤は、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、およびスクロースから選択され、そして、必要により含有させてもよい最も好ましいさらなる賦形剤および/または補助剤は、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、およびステアリン酸マグネシウムから選択される。 本発明のどの実施態様においても、1つまたは複数の、非イオン性界面活性剤または乳化剤、水溶性希釈剤、並びに、賦形剤および/または補助剤が存在し得る。 【0011】 本発明の第2の目的(即使用/投与可能な調合物) 本発明の第2の目的は、即使用/投与可能な固形経口調合物(例えば、前述の医薬組成物から作製される、カプセル剤および錠剤調合物)に関する。・・・また、錠剤調合物も従来技術、例えば、前述の粉末状または顆粒状医薬組成物の直接圧縮によって調製し得る。 このようにして得られた錠剤は、従来の技術を使用してさらに加工し得る。例えば、最終組成物の溶解特性に対して負の影響を与えない、当業者に知られた適切なコーティング剤を使用してコーティングし得る。例えば、高分子量のポリエチレングリコール、または室温(25℃)において固体であるあらゆるポリエチレングリコールを、核の錠剤上に溶かすことによって、防湿のために錠剤をシールコートし得る。ポリマーは水溶性であるが、その溶解速度は、核の錠剤の防湿性を保てる程に十分遅い。同様の水溶性および同程度の防湿性をもつ他のポリマーもまた使用可能である。 【0012】 さらに、蜜蝋、セラック、酢酸フタル酸セルロース、酢酸フタル酸ポリビニル、ゼイン、並びに、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、およびメタクリル酸高分子などのフィルム形成ポリマーを、適切な溶剤に溶解して錠剤に被覆し得る。ただし、これらコーティング剤が製剤の崩壊/溶解に実質的な影響を与えず、かつ、コーティングした製剤が生理化学的に安定であることを条件とする。 ・・・ カプセル剤および(核の)錠剤調合物の組成物は共に、好ましくは、医薬組成物に関して、前述したものと同じである。あるいは、例えば、(さらに充填剤を添加するなどして)活性化合物の濃度を特定の値に調整するため、粉末状調合物の流動性を向上させるため、(さらに滑沢剤または結合剤を添加するなどして)圧縮をしやすくするため、または当業者に知られる他の日常工程の最適化をするために、追加量の前述の任意的賦形剤および/または補助剤を、粉末状または顆粒状の医薬組成物をカプセルに充填する前、または錠剤に圧縮する前に、添加し得る。」 (1b)(実施例、【0026】?【0027】) 「【実施例】 【0026】 本発明をさらに説明するために、以下の、限定を伴わない実施例を示す: 下記の表は、本発明の固形医薬組成物を示す。調合物C、D、E、F、およびGは、カプセルへの充填が可能な顆粒状の調合物であり、さらに、D、E、F、およびGは、圧縮して錠剤を形成することも可能である。すべての調合物は40mgのテルミサルタンを含有し、一方、20または80mgのテルミサルタンを含有する代替のカプセル剤および錠剤調合物は同様の調合物である。 【0027】 」 2.甲第2号証 (2a)(「ステアリン酸ポリオキシル40」の項目) 「ステアリン酸ポリオキシル40 Polyoxyl 40 Steatate ポリオキシル40モノステアリン酸エステル 本品は酸化エチレンの縮重合体のモノステアリン酸エステルで,H(OCH_(2)CH_(2))_(n)OCOC_(17)H_(35)で表され,nは約40である. 性状 本品は白色?淡黄色のろう様の塊又は粉末で,・・・.」 3.甲第3号証 (3a)(【0079】) 「界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ポリオキシル40」 4.甲第4号証 医薬品添加剤についての一般文献であるが、「ポリオキシエチレンステアレート」の項目に、種々の数のポリオキシエチレンユニットを有するポリオキシエチレンステアレートが記載されている。特に、p855の右欄2段落目には、「ポリオキシエチレンステアレートは・・・非イオン性界面活性剤である.」との記載が、また、p857の「6.用途分類」には、ポリオキシエチレンステアレートの用途として「乳化剤」との記載がある。さらに、p859の「14.安全性」の1段落目には、Polyoxyl 40 Steatateが、経口剤にも使われていることが記載されている。 5.甲第5号証 (5a)(【0002】-【0005】) 「【0002】 アンジオテンシンII受容体拮抗薬であるテルミサルタンは、高血圧症の治療薬の1つとして広く普及している。テルミサルタンは、胃腸管の生理的pH条件下では溶解性が低いため、例えば、特許文献1には、テルミサルタンにメグルミンなどの塩基性物質と界面活性剤を添加することなどにより、溶解性が改善されることが記載されている。 【0003】 しかし、テルミサルタン錠剤を記載する非特許文献1には、分包後は吸湿して軟化、黄変することがあるので、高温・多湿を避けて保存する旨が記載されている。また、テルミサルタンと利尿薬であるヒドロクロロチアジドを含む配合錠について、非特許文献2には、分包後は吸湿して軟化することがあるので、高温・多湿を避けて保存する旨が記載されている。さらに、テルミサルタンと持続性カルシウム拮抗薬であるアムロジピンベシル酸塩を含む配合錠について、非特許文献3には、分包後は吸湿して軟化することがあるので、高温・多湿を避けて保存する旨が記載されているなど、テルミサルタン含有錠剤の保存時の安定性は十分に満足できるものではない。 【先行技術文献】 ・・・ 【非特許文献】 【0005】 【非特許文献1】ミカルディス錠添付文書 2011年6月改定 【非特許文献2】ミコンビ配合錠添付文書 2011年6月改定 【非特許文献3】ミカムロ配合錠添付文書 2012年7月改定」 (5b)(実施例、【0013】-【0017】) 「【0013】 本発明者らは、後述する実施例においても示すように、テルミサルタン含有錠剤の加湿条件下での保管安定性を改善すべく種々の添加剤について検討を行ったところ、特定の界面活性剤を添加することにより、テルミサルタン含有錠剤の保管安定性を向上させることが可能であるとことを新たに見出した。 【0014】 本発明に係るテルミサルタン含有錠剤は、テルミサルタンとラウロマクロゴール(ポリオキシエチレンラウリルエーテルともいう)とを含有する医薬組成物を含む。・・・ ・・・ 【0017】 また、一実施形態において、テルミサルタン含有医薬組成物は、ラウロマクロゴールに替えて、ポリソルベートを用いることもできる。本実施形態において利用可能なポリソルベートとしては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80等が挙げられるが、ポリソルベート80を好適に用いることができる。」 (5c)(実施例、【0037】-【0049】) 「【実施例】 【0037】 上述した本発明に係るテルミサルタン含有錠剤の具体的な製造例及び試験結果を示して、より詳細に説明する。 【0038】 (実施例1) 流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、D-マンニトール(303.6g)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101(フロイント産業)、0.40g)を給気温度90℃で混合した。そこにテルミサルタン(160.0g)、メグルミン(160.0g)、マクロゴール6000(日油、32.0g)、ラウロマクロゴール(NIKKOL BL-25(日光ケミカルズ)、16.0g)の水溶液(728.0g)を約3.3g/分でスプレーし、造粒物を得た。これを22号篩で整粒し、この整粒物に、軽質無水ケイ酸(2.40g)、ステアリン酸マグネシウム(5.6g)を混合して打錠前粉末(1)を得た。この打錠前粉末(1)を打錠機(菊水製作所製、単発打錠機)に充填して、打錠し、テルミサルタン含有錠剤を製した。 【0039】 (実施例2) 実施例1のラウロマクロゴールに替えてポリソルベート80を用いた。流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、D-マンニトール(303.6g)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101(フロイント産業)、0.40g)を給気温度90℃で混合した。そこにテルミサルタン(160.0g)、メグルミン(160.0g)、マクロゴール6000(日油、32.0g)、ポリソルベート80(NIKKOL TO-10M(日光ケミカルズ)、16.0g)の水溶液(728.0g)を約3.3g/分でスプレーし、造粒物を得た。これを22号篩で整粒し、この整粒物に、軽質無水ケイ酸(2.40g)、ステアリン酸マグネシウム(5.6g)を混合して打錠前粉末を得た。この打錠前粉末を打錠機(菊水製作所製、単発打錠機)に充填して、打錠し、テルミサルタン含有錠剤(1錠当たりのテルミサルタン含有量は実施例1と同じ)を製した。 【0040】 (比較例1) 流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、エリスリトール(322.0g)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101(フロイント産業)、0.40g)を給気温度90℃で混合した。そこにテルミサルタン(160.0g)、メグルミン(160.0g)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF-68(旭電化工業)、32.0g)の水溶液(728.0g)を約3.3g/分でスプレーし、造粒物を得た。これを22号篩で整粒し、この整粒物に、ステアリン酸マグネシウム(5.6g)を混合して打錠前粉末を得た。この打錠前粉末を打錠機(菊水製作所製、単発打錠機)に充填して、打錠し、テルミサルタン含有錠剤(1錠当たりのテルミサルタン含有量は実施例1と同じ)を製した。 【0041】 (比較例2) 流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、D-マンニトール(303.6g)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101(フロイント産業)、0.40g)を給気温度90℃で混合した。そこにテルミサルタン(160.0g)、メグルミン(160.0g)、マクロゴール6000(日油、32.0g)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF-68(旭電化工業)、16.0g)の水溶液(728.0g)を約3.3g/分でスプレーし、造粒物を得た。これを22号篩で整粒し、この整粒物に、軽質無水ケイ酸(2.40g)、ステアリン酸マグネシウム(5.6g)を混合して打錠前粉末を得た。この打錠前粉末を打錠機(菊水製作所製、単発打錠機)に充填して、打錠し、テルミサルタン含有錠剤(1錠当たりのテルミサ ルタン含有量は実施例1と同じ)を製した。 【0042】 (比較例3) 流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、エリスリトール(322.0g)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101(フロイント産業)、0.40g)を給気温度90℃で混合した。そこにテルミサルタン(160.0g)、メグルミン(160.0g)、マクロゴール6000(日油、32.0g)の水溶液(728.0g)を約3.3g/分でスプレーし、造粒物を得た。これを22号篩で整粒し、この整粒物に、ステアリン酸マグネシウム(5.6g)を混合して打錠前粉末を得た。この打錠前粉末を打錠機(菊水製作所製、単発打錠機)に充填して、打錠し、テルミサルタン含有錠剤(1錠当たりのテルミサルタン含有量は実施例1と同じ)を製した。 ・・・ 【0045】 (保管安定性試験) 実施例1、2及び比較例1?3において製した錠剤について、保管安定性を評価した。保管安定性の評価は、25℃、75%RHの加湿条件下、無包装状態において1週間保存後、第十六改正日本薬局方に記載されている崩壊試験法に従い、崩壊試験を行い、評価した。崩壊試験は、試験液として水を用い、各錠剤6錠の平均崩壊時間を測定した。 ・・・ 【0047】 本発明の実施例及び比較例の測定結果を表1に示す。 【表1】 (審判合議体注;表1の記載は省略する。) ・・・ 【0048】 表1の結果から明らかなように、ラウロマクロゴールを含む実施例1及びポリソルベートを含む実施例2においては、加湿条件下保存後のサンプルにおいても、崩壊時間の遅延が認められなかったのに対して、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニック、ポロクサマー)を含むあるいは界面活性剤を含まない比較例1?3においては、大幅な崩壊時間の遅延が認められた。・・・ 【0049】 これらの結果から、ラウロマクロゴールまたはポリソルベートを添加することにより、加湿条件下保存後のサンプルの崩壊遅延が抑制されることが明らかである。」 6.甲第6号証 (6a)(【0009】) 「テルミサルタンは、20mg、40mg又は80mgのテルミサルタンを含有する経口投与用の錠剤として利用可能である。・・・錠剤は吸湿性であり、湿気からの保護を必要とする。」 7.甲第7号証 (7a)([0012]-[0014]) 「[0012] 本発明者らは、テルミサルタンとヒドロクロロチアジドとを含有する二層錠剤(以下、TLS/HCTZ二層錠剤という。)において、ヒドロクロロチアジドが4-アミノ-6-クロロ-1,3-ベンゼンジスルホンアミド(以下、DSAという。)に分解される原因について鋭意検討した。TLS/HCTZ二層錠剤の安定性試験(温度40℃、湿度75%RH、2週間保存)を行った結果、従来報告されたTLS/HCTZ二層錠剤では、10%以上のDSAが検出され、ヒドロクロロチアジドが分解されることが確認された。一方、上述のTLS/HCTZ二層錠剤のうちヒドロクロロチアジドを含有する層の構成成分のみからなる錠剤(ヒドロクロロチアジド単剤)を製造し、同条件の試験を行ったところ、DSAは1%未満しか検出されなかった。この結果から、本発明者らは、TLS/HCTZ二層錠剤において、ヒドロクロロチアジドが分解する要因は、テルミサルタンを含む層に有ると考えた。 [0013] 上述したように、ヒドロクロロチアジドは、温度や湿度により加水分解が促進されることが知られていることから、ヒドロクロロチアジドを含む層以外からの水分、即ちテルミサルタンを含む層が吸収した水分が、テルミサルタンを含む層からヒドロクロロチアジドを含む層へ移行することが推察された。さらに検討した結果、本発明者らは、テルミサルタン単体における吸湿性は比較的低いが、テルミサルタンと塩基性物質であるメグルミンとの塩(テルミサルタンメグルミン塩)はテルミサルタン単体の約10倍の吸湿性を有することを突き止めた。 [0014] 上述したように、メグルミンはテルミサルタンの溶解性を改善するために必要な成分の1つであり、このメグルミンとテルミサルタンとを配合することにより、テルミサルタンメグルミン塩が生成する。しかし、この結果生じるテルミサルタンメグルミン塩の高い吸湿性が、驚くべきことにヒドロクロロチアジドを分解する要因であることを見出した。これは、これまでに報告されていない知見であり、本発明者らが初めて報告するものである。 」 8.甲第8号証 グルメピリド錠についての添付文書であるが、最後の頁の【取扱い上の注意】の項目に、グリメピリド錠0.5mg「BMD」、グリメピリド錠1mg「BMD」、グリメピリド錠3mg「BMD」の「保管方法」として、「湿気を避けて保存してください。」と記載されている。 9.甲第9号証 (9a)(【0003】-【0008】) 「(【0003】-【0008】) 「【0003】 グリメピリドは、現在錠剤が市販されているが、水に対する溶解性が低く・・・ ・・・ 【0005】 ・・・本発明の課題は、過度の微粉砕をすることなく、グリメピリドの溶解性を改善するとともに、長期間安定な固形製剤を提供することにある。 【0006】 そこで本発明者は、グリメピリドの溶解性を改善し、かつ安定性の良好な固形製剤を開発すべく種々検討した結果、グリメピリドに脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤を配合して製剤化すると、グリメピリドの溶解性が向上するだけでなく、全く意外にも、微粉砕したグリメピリドを配合した場合に比べて長期保存しても分解物の発生が顕著に抑制され、長期間安定な固形製剤が得られることを見出し、本発明を完成した。 【0007】 すなわち、本発明は、(A)グリメピリド、及び(B)脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤を含有するグリメピリド含有固形製剤を提供するものである。 【発明の効果】 【0008】 本発明の固形製剤は、グリメピリドの水に対する溶解性が向上していることから、製剤から水中への溶出性が改善されている。また、高温多湿条件下で保存しても、分解物(不純物)の発生が抑制され、長期間安定である。」 (9b)(【0014】-【0020】) 「【0014】 本発明の固形製剤は、グリメピリドに加えて(B)脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤を含有する。グリメピリドの製剤化にあたって、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤(比較例2)やポリオキシエチレングリコール(比較例1)では、十分な溶解性の向上は得られず、脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤の配合によって溶解性が向上する。用いられる脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられ、このうちポリオキシエチレン脂肪酸エステルがより好ましい。また、これらの非イオン界面活性剤のうち、常温(25℃)で固体状のものが、グリメピリドの溶解性及び長期保存安定性の点から、より好ましい。 【0015】 ・・・また、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、・・・具体的には・・・ポリオキシエチレンステアリン酸エステル・・・等が挙げられる。・・・ポリオキシエチレンステアリン酸エステルが特に好ましい。また、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのポリオキシエチレン数は、5?100、さらに5?80が好ましい。医薬用としては、経口投与用のポリオキシエチレン数が約40のものが、日局ステアリン酸ポリオキシル40として利用できる他、ポリオキシエチレン数がそれぞれ45又は50のステアリン酸ポリオキシル45又はステアリン酸ポリオキシル55が入手可能である。 【0016】 本発明の固形製剤中の脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤の含有量は、グリメピリドの溶解性及び長期保存安定性の点から、0.2?1.2質量%、さらに0.3?0.8質量%が好ましい。また、同様の点から、グリメピリド1質量部あたり、脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤は0.1?1質量部、さらに0.15?0.5質量部含有するのが好ましい。 ・・・ 【0018】 ・・・本発明の固形製剤の剤形としては、細粒剤、顆粒剤等の造粒物、錠剤等の造粒物の圧縮成形物、造粒物を充填したカプセルが好ましい。 【0019】 このような造粒物の調製は、例えばグリメピリドに脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤及び他の添加剤を混合し、必要量の水を加えて常法により造粒すればよい。また、得られた造粒物はそのまま細粒や顆粒としてもよく、必要に応じてコーティングを施してもよい。また錠剤は、造粒物を通常の打錠機で打錠すればよい。錠剤はさらにフィルムコーティングなどを施してもよい。 【0020】 本発明の固形製剤において、グリメピリドは脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤により表面を被覆された状態にあると考えられる。製剤周囲に溶媒が存在する状態では、脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤が速やかに溶解し、グリメピリドの濡れ性や溶解性を改善する。製剤周囲に溶媒が存在しないか、存在しても極微量である場合では、脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤は溶解せずにグリメピリドを環境から保護し、安定性を向上させると考えられる。」 (9c)(【0026】?【0035】、図1) 「【0026】 実施例3 グリメピリド(平均粒子径9.87μm)5.9g、乳糖水和物386.9g、結晶セルロース50.0g、デンプングリコール酸ナトリウム40.0gを高速撹拌造粒機FS-GS-1J(深江パウテック社製)に加え、予備混合を行なった後に水60mLにポビドン10.0g、ステアリン酸ポリオキシル40 2.5gを溶かした後、軽質無水ケイ酸2.5gを加えた結合液を加えて造粒した。この顆粒を・・・乾燥した。この顆粒を・・・整粒し、V型混合機に入れ、ステアリン酸マグネシウム2.5gを加えて混合し、打錠末を得た。この打錠末を・・・打錠し、製剤1錠中にグリメピリド1mgを含有する錠剤を得た。 【0027】 比較例3 ジェットミル粉砕を行なったグリメピリド(平均粒子径2.37μm)5.9g、乳糖水和物386.9g、結晶セルロース50.0g、デンプングリコール酸ナトリウム40.0gをポビドン10.0g、軽質無水ケイ酸2.5g、ステアリン酸マグネシウム2.5gを加えて混合し、混合末を得た。 【0028】 試験例1(実施例1、2及び比較例1、2の溶出試験) ・・・ 【0031】 試験例2(実施例3及び比較例3の保存安定性比較試験) グリメピリドは、式(1)のような構造をしており、保存中に発生する不純物として、式(2)のスルホンアミド体が存在する。(当審合議体注;式(1)、(2)の記載は省略する。) 実施例3の打錠工程前の打錠末と比較例3をガラス瓶に入れ、蓋は閉めずに白箱に入れ、40℃75%RH条件下の保存試験を行ない、スルホンアミド体の増加を比較した。 ・・・ 【0033】 上記の試験結果を下記表2及び図1に示す。(当審合議体注;表2の記載は省略する。) ・・・ 【0035】 微粉砕を行なった比較例3に比べ、実施例3は6箇月保存後のスルホンアミド体の生成が3分の1に抑えられ、安定であった。 」 10.甲第10号証 (10a)(特許請求の範囲の請求項1) 「【請求項1】 少なくとも着色剤と、下記一般式(I)及び/又は下記一般式(II)で示される界面活性剤とを含有してなることを特徴とする水溶性固形描画材。 【化1】 R-COO-(CH_(2)CH_(2)O)_(m)-H ・・・・・(I) 〔上記式(I)中、Rは炭素数16?22のアルキル基であり、mは1?60の数である。〕 【化2】 R^(1)-COO-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-COR^(2) ・・・・(II) 〔上記式(II)中、R^(1)及びR^(2)は、共に炭素数16?22のアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよく、nは1?150の数である。〕」 (10b)(【0002】?【0014】) 「【0002】 【従来の技術】 これまでに水溶性固形描画材に関する技術は、既に数多く案出されている。 ・・・ 【0005】 しかしながら、上記特許文献1等に記載される水彩色鉛筆芯は、描画材の伸びが良好でなく、また、ポリエチレングリコールが芯表面にブリードし、白化現象を生じるという課題がある。 また、上記特許文献2に記載される水溶性着色剤組成物は、アルキル鎖が28?32と長いため、溶解度が悪く、未だ十分な描画面が得られないという課題がある。 更に、上記特許文献3及び4に記載される水溶性固形描画材等は、各界面活性剤がブリードし、白化、吸湿し軟化する点に未だ課題があり、また、固形ワックス類を多量配合(各実施例では配合量全て20重量%以上)しているため、溶解性が未だ悪く、水彩絵の具のような十分な描画面が未だ得られないという課題を有するものである。 最近では、水溶性固形描画材の更なる質的向上が求められており、その中でも溶解性に優れ、多湿下においても吸湿がなく、しかも、ザラザラ感等もない優れた筆記性を有する水溶性固形描画材の出現が望まれているのが現状である。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記従来の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、溶解性に優れ、多湿下においても吸湿が少なく、しかも、ザラザラ感等もない優れた筆記性を有する水溶性固形描画材を提供することを目的とする。 ・・・ 【0012】 本第1発明に用いる上記一般式(I)及び(II)で示される界面活性剤は、ポリエチレングルコール(以下、「PEG」という)脂肪酸エステル系の界面活性剤であり、上記一般式(I)はモノエステル型であり、上記一般式(II)はジエステル型であり、これらの界面活性剤を含有せしめることにより、水溶性固形描画材の溶解性の更なる向上、多湿下においても吸湿を少なくすると共に、優れた筆記性を発揮することができるものとなる。 ・・・ 【0014】 具体的に用いることができる上記一般式(I)及び(II)としては、モノステアリン酸PEG(m=30)・・・モノステアリン酸PEG(m=40)、モノステアリン酸PEG(m=55)・・などが挙げられる。 これらは、単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。」 (10c)(【0022】?【0031】) 「【0022】 【実施例】 次に、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、書実施例によって何等限定されるものではない。 【0023】 〔実施例1?16及び比較例1?6〕 下記表1及び表2に示す各配合成分(全量100重量%)に基づき下記方法により各水溶性固形描画材を作製した。 実施例1?12及び比較例1?5では、各配合成分を加熱混合撹拌し、更に・・・で均一にした後、押出成形により各水溶性固形描画材(直径4mm×長さ180mm)を作製した。 実施例13?16及び比較例6では、各配合成分を加熱混合撹拌し、更に・・・で均一にし、熔融状態にした後、流し込み成形により各水溶性固形描画材(直径4mm×長さ180mm)を作製した。 【0024】 得られた各水溶性固形描画材について、下記各評価方法により、溶解性、多湿下における吸湿性及び筆記性について評価した。 これらの結果を下記表1及び表2に示す。 ・・・ 【0026】 (吸湿性の評価方法) 得られた各水溶性固形描画材を25℃、湿度80%の環境下で1ヶ月間放置した後の重量を測定し、初期の重量と比較して下記評価基準で評価した。 評価基準: ◎:重量増加が1重量%未満。 ○:重量増加が1?3重量%。 ×:重量増加が3重量%以上。 【0027】 (筆記性の評価方法) 得られた各水溶性固形描画材を用いて画用紙に手で筆記した際の筆記性を下記評価基準で評価した。 評価基準: ◎:非常に滑らかに筆記できる。 ○:滑らかに筆記できる。 ×:筆跡がかすれる。 【0028】 【表1】 【0029】 【表2】 (表2の記載は省略する) 【0030】 上記表1及び表2の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1?16は、本発明の範囲外となる比較例1?6に較べて、溶解性及び筆記性に優れると共に、多湿下においても吸湿がきわめて少なく、ベタツキもなく保存安定性に優れ、画用紙の画面に描画後、水を含む絵筆で擦ると、画用紙に付着した描画材が拡散し、水彩絵の具のような綺麗な描画面が得られることが判明した。 ・・・ 【0031】 【発明の効果】 本発明によれば、溶解性及び筆記性に優れると共に、多湿下においても吸湿がきわめて少なく、ベタツキもなく保存安定性にも優れた綺麗な描画面が得られる水溶性固形描画材が提供される。」 11.甲第11号証 1錠中にテルミサルタン及びアムロジピンを含有する、販売名が「ミカムロ配合錠AP」であるテルミサルタン含有フィルムコート錠の承認審査についての報告が記載されている。 12.甲第12号証 Polyoxyl 40 stearate等のポリオキシエチレンモノステアレートが医薬品の添加剤として利用可能な非イオン性界面活性剤であることが【0041】?【0045】に記載されている。 なお、以下、甲第1号証?甲第12号証を甲1?甲12とも記載する。 第5.取消理由1(甲第1号証を引用例とする新規性)について 1.甲第1号証に記載された発明 甲第1号証(上記(1a)の【0010】1段落目)には、 「医薬組成物は、溶解媒体中に分散した15から25重量%のテルミサルタンを含有し、ここで、該溶解媒体は、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=2:1から3:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して約2から7重量%の量の非イオン性界面活性剤または乳化剤、および、(c)35から50重量%の水溶性希釈剤を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%となる。」と記載され、 該医薬組成物から作製される即使用/投与可能な調合物について、同【0011】には、 「即使用/投与可能な固形経口調合物(例えば、前述の医薬組成物から作製される・・・錠剤調合物)に関する。・・・また、錠剤調合物も従来技術、例えば、前述の粉末状または顆粒状医薬組成物の直接圧縮によって調製し得る。」と記載されている。 また、甲第1号証の医薬組成物に含まれる「非イオン性界面活性剤または乳化剤」について、甲第1号証の同【0006】には、 「界面活性剤および乳化剤の具体例は、ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油などである」と記載されている。 してみると、甲第1号証には、 「下記の医薬組成物から作製される、即使用/投与可能な錠剤調合物。 溶解媒体中に分散した15から25重量%のテルミサルタンを含有し、ここで、該溶解媒体は、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=2:1から3:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して約2から7重量%の量の非イオン性界面活性剤または乳化剤、および、(c)35から50重量%の水溶性希釈剤を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%であり、界面活性剤および乳化剤が、ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油などである、医薬組成物。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 2.本件特許発明1についての対比・判断 (1)対比 本件特許明細書の【0011】に、「本実施形態において、賦形剤に対してテルミサルタンと塩基性化合物及び・・・ステアリン酸ポリオキシルから選ばれる界面活性剤を水または水、エタノール混液に溶解した液または分散した液を噴霧し、流動層造粒することにより得られた造粒物を、滑沢剤とともに圧縮成形した錠剤である。」と、【0018】に、「本実施形態において、テルミサルタン含有錠剤には、他に賦形剤及び/または結合剤、崩壊剤、流動化剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、pH制御剤等を含む。」と、また、本件の請求項1に、「テルミサルタンと、塩基性化合物と、ステアリン酸ポリオキシルとを含有し、・・・マクロゴール及びポリソルベートを含有しない」と記載されるとおり、本件特許発明1の錠剤は、マクロゴール及びポリソルベートを含有しない以外は、他の任意の錠剤成分を含有し得るものであるし、請求項1には各錠剤成分の含有割合の特定もないことから、本件特許発明1の錠剤は、各錠剤成分を任意の含有割合で包含し得るものである。 引用発明の「塩基性試薬」は、本件特許発明1の「塩基性化合物」に相当するし、引用発明の「医薬組成物から作製される、即使用/投与可能な錠剤調合物」は、本件特許発明1の「剤形が素錠である錠剤」に相当する。 また、引用発明の「モノステアリン酸ポリエチレングリコール」が、本件特許発明1の「ステアリン酸ポリオキシル」と同義であること、及び、これが、界面活性剤/乳化剤であることは、甲2の記載(上記(2a))を勘案すると、明らかである。 さらに、本件特許発明1において含有しないとされる成分である「マクロゴール及びポリソルベート」は、本件特許明細書の【0017】に、「テルミサルタン含有錠剤に配合するマクロゴール、ポリソルベート、・・・から選ばれる界面活性剤」と記載されるとおり、界面活性剤である。 してみると、本件特許発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「テルミサルタンと、塩基性化合物と、界面活性剤または乳化剤とを含有し、かつ、剤形が素錠である錠剤」 <相違点> 本件特許発明1では、素錠である錠剤が含有する界面活性剤または乳化剤が、「ステアリン酸ポリオキシル」に限定され、「マクロゴール及びポリソルベートを含有しない」と特定されているのに対し、引用発明では、「ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油から選択されるもの」と特定されている点。(以下、「相違点1」という。) (2)本件特許発明1についての判断 (1)で記載するとおり、本件特許発明1と引用発明とは、上記相違点1の点で相違しているのであるから、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であると認めることはできない。 よって、特許異議申立人の主張する無効理由1によっては、本件特許発明1についての特許を取り消すべきであるとすることはできない。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、本件特許発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとする根拠として、甲第1号証の【0006】の「界面活性剤および乳化剤」の具体例の中に、「モノステアリン酸ポリエチレングリコール」が列記されていることを指摘している(特許異議申立書のp2表中)。 選択肢として列記されている事項から選択肢を選択した場合の発明が、記載されているに等しい発明であるといえる場合もあり得るので、念のために、この点についても検討する。 (i)引用発明は、甲1によれば、テルミサルタン製剤を、従来の高価な噴霧乾燥工程を経ることなく、流動層造粒法などのより簡単で安価な工程を用いて調製することが可能な製剤とすることができるものであり、また、従来から、薬剤としての使用の前提条件(即ち、弱酸性および中性のpH領域における十分な胃腸吸収のための、様々な気候条件下における調合物の長期持続的安定性、および、活性物質の十分な溶解性)をすべて満たす、テルミサルタンの代替固形経口調合物を提供する明確な必要性があったところ、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=1:1から10:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して、約1から20重量%の量の界面活性剤または乳化剤、および、(c)25から70重量%の水溶性希釈剤、を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%である、溶解媒体に分散した3から50重量%のテルミサルタンを含有する医薬組成物とすることで、テルミサルタンの溶解度を数百倍に上昇させ得ることができるものであり、医薬組成物からの調合物が、胃腸管の生理的関連pH値領域内において、速放性および溶解性を有し、即使用/投与可能な固形経口調合物(例えば、錠剤の調合物)が提供できるものである(上記(1a)の【0005】、【0006】)。 また、引用発明では、活性成分の溶解性を実質的に向上させ、固形医薬組成物の調製において噴霧乾燥法の代わりに例えば流動層造粒法などの簡略化した製造工程の使用を可能にするために、成分(b)(界面活性剤または乳化剤)の存在が不可欠とされている(同【0008】)。 以上の甲1の記載によれば、引用発明は、テルミサルタン製剤を、従来よりも簡単で安価な工程を用いて調製することが可能な製剤であって、胃腸管の生理的pH条件下で速放性および溶解性を有し、即使用/投与可能なテルミサルタン含有固形経口調合物を提供するものであるといえる。 (ii)これに対し、本件特許明細書によれば、従来、テルミサルタンは胃腸管の生理的pH条件下では溶解性が低いため、塩基性物質と界面活性剤を添加することにより、溶解性を改善させたテルミサルタン錠剤とされているが、テルミサルタン錠剤は、吸湿して軟化、黄変することがあり、テルミサルタン含有錠剤の保存時の安定性は十分に満足できるものではないという問題があったのを、本件特許発明は、界面活性剤として、ステアリン酸ポリオキシルを配合することにより、上記の問題を解決したものであって、高湿度環境下におけるテルミサルタン含有錠剤の保管後、素錠においては錠剤のべたつき、軟化、フィルムコーティング錠においては錠剤表面の湿潤、べたつきが抑制されたテルミサルタン含有錠剤を提供できることが記載されている(段落【0002】、【0003】【0006】及び【0007】)。 また、本件特許明細書の実施例3、5には、界面活性剤として、ステアリン酸ポリオキシル40を配合し流動層造粒法を経て製造したテルミサルタン含有錠剤(素錠)(【0030】)、及び、そのフィルムコーティング錠が(【0032】)、それぞれ記載され、試験例1に、「高湿度環境下での保管安定性の評価」として、各実施例及び比較例の素錠、フィルムコーティング錠の保管安定性の評価結果が記載され、実施例3、5の錠剤では、界面活性剤を含有しない比較例1の素錠や界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを配合した比較例2の素錠、比較例1の素錠からのフィルムコーティング錠でみられる、「錠剤のべたつき」や「錠剤の軟化」がなかったことが示されている(【0036】-【0040】、特に、表2及び表3) すなわち、本件特許明細書によれば、本件特許発明は、塩基性物質と界面活性剤を添加することにより、溶解性を改善させた従来のテルミサルタン錠剤が有する、高湿度環境下での保管後問題点を解決したものであって、界面活性剤として「ステアリン酸ポリオキシル」を選択することで、例えば「ラウリル硫酸ナトリウム」を選択した場合とは異なり、高湿度環境下での保管後、テルミサルタン錠剤(素錠或いはフィルムコーティング錠)の湿潤による軟化、べたつきが抑制されるという効果が奏されるものである。 さらには、加湿条件下でのテルミサルタン錠剤の保管安定性試験の結果を開示する甲5に、「ポリソルベートを含む実施例2においては、加湿条件下保存後のサンプルにおいても、崩壊時間の遅延が認められなかったのに対して、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニック、ポロクサマー)を含むあるいは界面活性剤を含まない比較例1?3においては、大幅な崩壊時間の遅延が認められた」(上記(5c)の【0048】)と記載されていることからすると、界面活性剤が、甲1の実施例で採用されているポロクサマー188である場合には、本件特許発明の有するテルミサルタン錠剤の湿潤による軟化、べたつきが抑制されるという効果は奏されない蓋然性が高い。 (iii)そうすると、甲第1号証の【0006】の界面活性剤および乳化剤の具体例の選択肢中に、モノステアリン酸ポリエチレングリコールが列記されているとしても、本件特許発明1は、選択肢の中からモノステアリン酸ポリエチレングリコールを選択することで、他の選択肢を選択した場合には奏されない独特の効果が発揮されるものであるといえ、この効果は甲1の記載からは予期し得ないものなのであるから、甲1の上記列記の記載をもって、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。 したがって、特許異議申立人の主張を検討しても、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。 3.本件特許発明2?6についての対比・判断 本件特許発明2?6は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。 第6.取消理由2(甲第1号証の実施例に記載の発明を主引用例とする進歩性)について 1.甲第1号証の実施例に記載された発明 甲1の実施例の表2(上記第4.の(1b)【0026】及び【0027】)には、「テルミサルタンを40.0mg、メグルミンを40.0mg、ポロクサマー188を8.0mg、D-マンニトールを80.6mg、ステアリン酸マグネシウムを1.4mg配合した錠剤調合物D」が記載されている。(以下、錠剤調合物Dを、「引用発明D」という。) また、同表2には、「テルミサルタンを40.0mg、メグルミンを40.0mg、ポロクサマー188を8.0mg、エリスリトールを80.5mg、軽質無水ケイ酸を0.1mg、ステアリン酸マグネシウムを1.4mg配合した錠剤調合物E」(以下、「引用発明E」という。)、「テルミサルタンを40.0mg、メグルミンを40.0mg、ポロクサマー188を8.0mg、D-マンニトールを70.6mg、ソルビトールを10.0mg、ステアリン酸マグネシウムを1.4mg配合した錠剤調合物F」(以下、「引用発明F」という。)、「テルミサルタンを40.0mg、メグルミンを40.0mg、ポロクサマー188を8.0mg、スクロースを80.6mg、ステアリン酸マグネシウムを1.4mg配合した錠剤調合物G」(以下、「引用発明G」という。)が、それぞれ、記載されている。 (以下、「引用発明D」、「引用発明E」、「引用発明F」及び「引用発明G」をまとめて、「甲1実施例発明」という。) 2.本件特許発明1についての対比・判断 (1)対比 本件特許発明1と甲1実施例発明(引用発明D?G)を対比する。 甲1によれば、甲1実施例発明の「メグルミン」は、「塩基性試薬」であって、これは、本件特許発明1の「塩基性化合物」に相当するし、甲1実施例発明の「ポロクサマー188」は「界面活性剤」である((上記第4.の(1a)【0010】)。 また、第5の2.(1)で記載したとおり、本件特許発明1の「ステアリン酸ポリオキシル」は、「界面活性剤」であるし、本件特許発明1の錠剤は、界面活性剤であるマクロゴール及びポリソルベートを含有しない以外は、他の任意の錠剤成分を任意の配合量で含有し得るものである。 さらに、甲1実施例発明(引用発明D?G)の「錠剤調合物D」?「錠剤調合物G」は、いずれも、本件特許発明1の「剤形が素錠である錠剤」に相当するし、「錠剤調合物D」?「錠剤調合物G」は、マクロゴール及びポリソルベートを含有していない。 してみると、本件特許発明1と甲1実施例発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「テルミサルタンと、塩基性化合物と、界面活性剤または乳化剤とを含有し、かつ、剤形が素錠である錠剤であって、 マクロゴール及びポリソルベートを含有しない、前記錠剤。」 <相違点> 素錠である錠剤が含有する界面活性剤または乳化剤が、本件特許発明1では、「ステアリン酸ポリオキシル」であるのに対し、甲1実施例発明では、「ポロクサマー188」である点。(以下、「相違点2」という。) (2)本件特許発明1についての判断 上記相違点2について検討する。 (i)甲1には、甲1実施例発明(引用発明D?G)の調合物D、E、F、及びGが、「本発明をさらに説明するため」の「限定を伴わない実施例」であると記載されている(上記(1b)の【0026】)。そして、甲1の記載(上記(1a)の【0006】、【0010】及び【0011】)によれば、該「本発明」の実施態様の発明として、甲1には、第5.の1.で記載したとおり、以下の発明が記載されているといえる。 「下記の医薬組成物から作製される、即使用/投与可能な錠剤調合物。 溶解媒体中に分散した15から25重量%のテルミサルタンを含有し、ここで、該溶解媒体は、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=2:1から3:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して約2から7重量%の量の非イオン性界面活性剤または乳化剤、および、(c)35から50重量%の水溶性希釈剤を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%であり、界面活性剤および乳化剤が、ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油などである、医薬組成物。」(第5.の1.で記載した引用発明) そして、上記引用発明において、甲1実施例発明において具体化されている「ポロクサマー188」に対応するものは、「界面活性剤または乳化剤」である「ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油から選択されるもの」である。 そして、第5.の2.(1)でも記載したとおり、「モノステアリン酸ポリエチレングリコール」は「ステアリン酸ポリオキシル」と同義であるから、甲1には、甲1実施例発明の「ポロクサマー188」に替え得る界面活性剤の選択肢の1つとして、「ステアリン酸ポリオキシル」が記載されているといえる。 しかしながら、第5.の2.(3)(ii)にも記載したとおり、本件特許明細書によれば、本件特許発明は、塩基性物質と界面活性剤を添加することにより、溶解性を改善させた従来のテルミサルタン錠剤が有する、高湿度環境下での保管後の問題点を解決したものであって、界面活性剤として「ステアリン酸ポリオキシル」を選択することで、例えば「ラウリル硫酸ナトリウム」を選択した場合とは異なり、高湿度環境下での保管後、テルミサルタン錠剤(素錠或いはフィルムコーティング錠)の湿潤、軟化、べたつきが抑制されるという効果が奏されるものである。 一方、第5.の2.(3)(i)に記載したとおり、甲1には、胃腸管の生理的pH条件下での溶解性が低いテルミサルタン錠剤を、塩基性物質と界面活性剤を添加することにより、溶解性を改善させ、また、従来の高価な噴霧乾燥工程を経ることなく、流動層造粒法といったより簡単で安価な工程を用いて調製することが可能な製剤を提供できることは記載されているが、この効果は、本件特許発明が前提とする従来技術の範疇の効果に過ぎないものといえる。 そうすると、本件特許発明の上記の効果が、甲1の記載からは当業者が予測することができないものなのであるから、本件特許発明1は、甲1実施例発明(引用発明D?G)に基づいて、当業者が容易に発明をし得たものとはいえない。 (ii)これに関し、特許異議申立人は、特許異議申立書のp15?17において、概略以下の(イ)?(ウ)の主張をして本件特許発明1は、甲1実施例発明及び甲第3?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。 (イ)ステアリン酸ポリオキシルは、甲1に界面活性剤の例として挙げられている(甲1の請求項3、段落【0006】)から、甲1実施例発明の非イオン性界面活性剤をステアリン酸ポリオキシルとすることは当業者が当然に試みることである。 また、テルミサルタンを含有する錠剤には、とりわけ塩基性物質と併用する場合において、吸湿性が高く、高湿度環境下での保存時にべたつき、軟化するという課題が存在することが本件特許の出願時に周知であった(甲5?7)。 そして、このような吸湿性が高い物質に起因する課題に対して、非イオン性界面活性剤としてステアリン酸ポリオキシルを使用することは、甲9に記載されているし、甲10は、ステアリン酸ポリオキシルが、多湿下における吸湿によるべたつきや軟化を抑制する一般的性質を有することを教示している。 吸湿により軟化やべたつきを生じるという課題を有する組成物に、吸湿を防ぐという性質を有するステアリン酸ポリオキシルを用いることにより、軟化やべたつきを抑制しうることは、すでに知られていたのであるから、当業者にとっては、甲1にテルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤の界面活性剤としてステアリン酸ポリオキシルが記載されているから試したといえる以上に、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤が有する高湿度環境下でのべたつき、軟化という課題を解決するために、ステアリン酸ポリオキシルを選択する積極的な動機すら存在した。 したがって、甲1実施例発明の非イオン性界面活性剤としてステアリン酸ポリオキシルを用いるという構成は、当業者にとって容易に想到し得たことに過ぎない。 (ウ)相違点にかかる構成としたことによる顕著な効果がないこと 上記(イ)で述べたとおり、本件特許の優先日当時、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤が、多湿条件下で軟化・べたつきを生じることから、保存安定性に難があるという課題を有することが知られていた。また、ステアリン酸ポリオキシルが吸湿を防ぐという一般的性質を有することが知られており(甲10)、実際に、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤と同様の課題を有していたグリメピリド固形製剤の、多湿条件下での分解物を抑制するために用いられていたのであるから(甲9)、吸湿性が高いことに起因する課題をステアリン酸ポリオキシルによって解決可能であることも知られていた。 したがって、当業者は、ステアリン酸ポリオキシルの、上記効果に期待して、これを選択しえたのであるから、甲1実施例発明の非イオン性界面活性剤としてステアリン酸ポリオキシルを用いたことによる、当業者の予測を超える顕著な効果は存在しえない。 (iii)特許異議申立人の主張について検討する。 まず、異議申立人の(イ)の主張のうち、甲1実施例発明の非イオン性界面活性剤をステアリン酸ポリオキシルとすることは当業者が「当然に」試みることであるとの主張については、甲1実施例発明の「ポロクサマー188」は、甲1において、「最も好ましい非イオン性の界面活性剤はポロクサマーから選択され」(上記(1a)の【0010】の2段落目)と記載されているものの1種であり、具体的ポロクサマーの1つとして甲1に例示されているものである(同【0006の最終段落】)。 そうすると、甲1に選択可能な非イオン性界面活性剤として、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(ステアリン酸ポリオキシル)が記載されていることをもって、最も好ましいとされる甲1実施例発明のポロクサマー188に替えてモノステアリン酸ポリエチレングリコールを選択することが、当業者が「当然に」試みることであるとまではいえない。 次に、特許異議申立人がテルミサルタンを含有する錠剤は、とりわけ塩基性物質と併用する場合において、吸湿性が高く、高湿度環境下での保存時にべたつき、軟化するという課題が存在することが本件特許の出願時に周知であったと主張する点については、甲5?7によれば、テルミサルタンを含有する錠剤、特に、塩基性物質を含有する錠剤の場合、吸湿性が高いことは、本件特許の出願時に当業者に周知の事項であったといえる(上記(5a)の特に【0003】、(6a)、(7a)の特に[0013]。)し、分包後は吸湿して軟化するという問題があることから、高温・多湿を避けて保存する必要があることは知られていたといえる(上記(5a)の特に【0003】)が、甲5?7には、テルミサルタンを含有する錠剤が、高湿度環境下での保存時にべたつきの問題があったことについての直接の記載はない。 そして、特許異議申立人の、甲9及び甲10をあげての、吸湿により軟化やべたつきを生じるという課題を有する組成物に、吸湿を防ぐという性質を有するステアリン酸ポリオキシルを用いることにより、軟化やべたつきを抑制しうることは、すでに知られていたから、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤が有する高湿度環境下でのべたつき、軟化という課題を解決するために、ステアリン酸ポリオキシルを選択する積極的な動機すら存在したと主張する点については、次のとおり、かかる特許異議申立人の主張は、採用できない。 甲9には、市販のグリメピリド錠剤は、水に対する溶解性が低いこと、グリメピリドの溶解性を改善し、かつ安定性の良好な固形製剤を開発すべく検討した結果、グリメピリドに脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤を配合して製剤化すると、グリメピリドの溶解性が向上するだけでなく、意外にも、微粉砕したグリメピリドを配合した場合に比べて長期保存しても分解物の発生が顕著に抑制され、長期間安定な固形製剤が得られることを見出して発明を完成したことが記載されている(上記(9a))。 また、甲9には、試験例2として、脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤であるステアリン酸ポリオキシル40を含有した実施例3のグリメピリド含有固形製剤は、40℃75%RHという高温多湿条件下での保存試験において、界面活性剤を含有しない比較例3の錠剤と比較して、グルメピリドの分解物であるスルホンアミド体の生成量が抑制されたことが示されている(上記(9c))。 ここで、スルホンアミド体は、グルメピリドの加水分解により生じたと認められるから、甲9の記載に接した当業者は、脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤であるステアリン酸ポリオキシル40を含有した製剤とすることで、湿度条件下における製剤中のグリメピリドの加水分解が抑制できることは認識できるとしても、甲9には、グリメピリド含有固形製剤が吸湿によりべたついたり、軟化する問題があることは全く記載されていないのであるし、甲1実施例発明のテルミサルタンは、甲9に記載のグリメピリドとは異なり、湿度条件下で加水分解可能な化学構造を有しているとも認められない。 その上、甲1実施例発明の錠剤調合物D?Gには、非イオン性界面活性剤であるポロクサマー188は4.7重量%(8.0mg÷170.0mg×100)含まれるところ、甲9には、「固形製剤中の脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤の含有量は、グリメピリドの溶解性及び長期保存安定性の点から、0.2?1.2質量%、さらに0.3?0.8質量%が好ましい」と記載されており(上記(9b))、甲1実施例発明の錠剤調合物D?Gの非イオン界面活性剤の含有量は、甲9において長期保存安定性の点から好ましいとされる上限範囲を大きく超えている。 そうすると、甲9の記載からは、特許異議申立人が主張するような、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤が有する高湿度環境下での吸湿、軟化という課題を解決するために、甲1実施例発明のポロクサマー188に替えて、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(ステアリン酸ポリオキシル40)を採用する積極的な動機があるとは到底いえないし、ましてや、甲1にも甲9にも記載のないテルミサルタン含有錠剤の「べたつき」の問題を解決するためにステアリン酸ポリオキシル40を採用する積極的な動機があるとはいえないから、この点の特許異議申立人の主張は採用できない。 また、甲10は、水溶性固形描画材に関する技術を開示するものである(上記(10a)、(10b))が、水溶性固形描画材の技術分野は、甲1実施例発明の医薬分野とは全く異なる筆記具の技術分野であって、医薬分野とは技術的関連性もないことから、そもそも、甲1実施例発明の技術分野の当業者が、甲10に記載された技術を参酌しようとする動機付けが存在しない。 仮に、甲10の記載を参酌したとしても、甲10には、水溶性固形描画材の基剤である、モノステアリン酸PEG(m=30、60)(当審合議体注;mはPEGの重合度であり、モノステアリン酸PEGは、本件特許発明1のステアリン酸ポリオキシルに相当する。)が、多湿下での重量増加が1重量%未満と吸湿性が低いことや、べたつきがないことが記載されているのみであり(上記(10c))、甲10の記載から、当業者は、特定の重合度のモノステアリン酸PEG基剤が吸湿が少なくべたつかない性質であることを理解できるとしても、錠剤調合物170.0mg中にテルミサルタン及び塩基性試薬であるメグルミンを40.0mg、ポロクサマー188を8.0mg含む甲1実施例発明のテルミサルタン錠剤調合物D?Gにおいて、非イオン性界面活性剤であるポロクサマー188を、甲10に記載されるモノステアリン酸PEG(m=30、60)に変更することで、塩基性試薬を併用したテルミサルタン錠剤自体の、吸湿による軟化やべたつきの問題が解決できることまでは、甲10の記載を参酌しても、当業者は理解できない。 そうすると、甲10の記載からも、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤が有する高湿度環境下での吸湿、軟化という課題を解決するために、甲1実施例発明のポロクサマー188に替えて、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(ステアリン酸ポリオキシル40)を採用する積極的な動機付けがあるとは到底いえない。 特許異議申立人の(ウ)の主張については、既に(イ)の主張についての検討で記載したとおり、本件特許の優先日当時、テルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤が、多湿条件下で吸湿し、軟化することは知られていたが、べたつきの問題があったことについては、甲5?7のいずれにも記載がないし、主引用例である甲1にも全く記載されていない。 また、甲10から、甲10に記載のモノステアリン酸PEG(ステアリン酸ポリオキシル)自体が吸湿性が低くてべたつきがないことが理解できるとしても、これを、甲1実施例発明のテルミサルタンと塩基性物質とを含む錠剤調合物に配合した場合に、錠剤自体の吸湿が抑制され、錠剤の軟化やべたつきが抑制できることは甲10の記載からは当業者は推認できないし、錠剤のべたつきについての言及が全くなされていない甲9についても同様である。 一方、既に第5.の2.(3)(ii)及び(iii)で述べた様に、本件特許明細書によれば、本件特許発明では、塩基性物質と界面活性剤が添加され溶解性が改善させたテルミサルタン錠剤において、界面活性剤として「ステアリン酸ポリオキシル」を選択することで、高湿度環境下での保管後の問題点である錠剤の湿潤、軟化、べたつきが抑制されるという効果が奏されるものであって、この効果は甲1及び甲9、10の記載からは予期し得ないものである。また、異議申立人が提出した他の証拠の記載を検討しても、本件特許発明の上記効果を推認させるような記載は見当たらない。 したがって、甲1実施例発明の非イオン性界面活性剤として、ステアリン酸ポリオキシルを選択することにより奏される本件特許発明1の効果は、当業者の予測を超えるものと認められ、本件特許発明1の効果が当業者の予測を超えるものではない旨の特許異議申立人の主張は採用できない。 以上述べたとおりの理由によって、本件特許発明1は、甲1実施例発明及び甲第3?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 3.本件特許発明2?6についての対比・判断 本件特許発明2?6は、本件特許発明1をさらに減縮したものである。 よって、本件特許発明2?5についても、上記2.における本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証の実施例に記載された発明及び甲第3?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 また、本件特許発明6についても、追加で提示される甲11は、テルミサルタン含有のフィルムコート錠の承認審査についての報告書であり、請求項6で限定されている事項について開示するのみであるから、2.で記載したとおり、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証の実施例に記載された発明及び甲第3?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 第7.取消理由3(甲第5号証を主引用例とする進歩性)について 1.甲第5号証に記載された発明 甲5の実施例2には、テルミサルタン160.0g、メグルミン160.0g、マクロゴール6000 32.0g、ポリソルベート80 16.0g、D-マンニトール303.6g、軽質無水ケイ酸0.40gを配合した造粒物からの整粒物に、軽質無水ケイ酸2.40g、ステアリン酸マグネシウム5.6gを混合し打錠前粉末とし、これを打錠した、テルミサルタン含有錠剤が記載されている(上記第4.の(5c)の【0039】)。(以下、実施例2のテルミサルタン含有錠剤を、「甲5発明」という。) 2.本件特許発明1についての対比・判断 (1)対比 甲5によれば、甲5発明の「メグルミン」は、「塩基性物質」であって((5a)の【0002】)、これは、本件特許発明1の「塩基性化合物」に相当する。甲5発明の「ポリソルベート80」、「マクロゴール6000」は、本件特許発明1で含有しないとされている「ポリソルベート」、「マクロゴール」に相当する。 また、第5の2.(1)で記載したとおり、本件特許発明1の「ステアリン酸ポリオキシル」は、「界面活性剤」であるし、本件特許発明1の錠剤は、界面活性剤であるマクロゴール及びポリソルベートを含有しない以外は、他の任意の錠剤成分を任意の配合量で含有し得るものである。 さらに、甲5発明のテルミサルタン含有錠剤は、本件特許発明1の「剤形が素錠である錠剤」に相当する。 してみると、本件特許発明1と甲5発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「テルミサルタンと、塩基性化合物と、界面活性剤を含有し、かつ、剤形が素錠である錠剤。」 <相違点> 本件特許発明1では、錠剤に含まれる界面活性剤が「ステアリン酸ポリオキシル」であって、「マクロゴール及びポリソルベートを含有しない」と特定されているのに対し、甲5発明の錠剤には、マクロゴール6000及びポリソルベート80が含有されている点。(以下、「相違点3」という。) (2)本件特許発明1についての判断 上記相違点3について検討する。 (i)甲5には、甲5発明のテルミサルタン含有錠剤に含まれる「マクロゴール6000」及び「ポリソルベート80」に関し、「テルミサルタン含有錠剤の加湿条件下での保管安定性を改善すべく種々の添加剤について検討を行ったところ、特定の界面活性剤を添加することにより、テルミサルタン含有錠剤の保管安定性を向上させることが可能である・・・ことを新たに見出した」と記載されている(上記(5b)の【0013】)。そして、甲5には、テルミサルタン含有錠剤の保管安定性を向上させることが可能な特定の界面活性剤が、「ラウロマクロゴール(ポリオキシエチレンラウリルエーテルともいう)」(同【0014】)または「ポリソルベート」(同【0017】)であることが記載され、実施例2は、「実施例1のラウロマクロゴールに替えてポリソルベート80を用いた」例であると記載されている(上記(5c)の【0039】)。 そうすると、甲5発明のテルミサルタン含有錠剤に含まれる「ポリソルベート80」は、甲5発明において、テルミサルタン含有錠剤の保管安定性を向上させるために必須の特定の界面活性剤なのであるから、これを他のポリソルベート化合物に変更することはあっても、ポリソルベートそのものを含有しないものとすることはできない。 したがって、甲5発明に基づいて、「ポリソルベートを含有しない」本件特許発明が当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 そして、第5.の2.(3)(ii)で述べたとおり、本件特許明細書によれば、本件特許発明では、塩基性物質と界面活性剤が添加され溶解性が改善させたテルミサルタン錠剤において、界面活性剤として「ステアリン酸ポリオキシル」を選択することで、高湿度環境下での保管後の問題点である錠剤の湿潤、軟化、べたつきが抑制されるという効果が奏されるものであって、この効果は甲5の記載からは予期し得ないものである。 (ii)特許異議申立人は、特許異議申立書のp21?22において、以下の(イ)?(ウ)の主張をして本件特許発明1は、甲5発明及び甲第1、3、4、6?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。 (イ)発明の構成の容易想到性 甲第1号証は、テルミサルタンと塩基性化合物とを含有する錠剤に用いる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましいとしているところ、ポリソルベート、マクロゴール6000(ポリエチレングリコール)、及びステアリン酸ポリオキシルは、ともに非イオン性界面活性剤であって、甲第1号証記載の発明に用いる界面活性剤の例として挙げられている(甲第1号証段落【0006】参照)。したがって、甲5発明のポリソルベート80及びマクロゴール6000に代えて、ステアリン酸ポリオキシルを用いることは、そもそも当業者にとって当然に試みることである。 また、上記理由2において述べたとおり、テルミサルタンを含有する錠剤には、とりわけ塩基性物質と併用する場合において、吸湿性が高く、高湿度環境下での保存時にべたつき、軟化するという課題が本件特許の出願時に周知であったところ、かかる課題がステアリン酸ポリオキシルを用いて解決しうることも知られていたのであるから、甲5発明の保存安定性をさらに高めるために、非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート80及びマクロゴール6000に代えて、多湿下において吸湿によるべたつきや軟化を抑制する効果をも有するステアリン酸ポリオキシルを選択する、さらに強い動機付けがあったといえる。 したがって、ポリソルベート80及びマクロゴール6000の代わりにステアリン酸ポリオキシルを用いるという構成は、当業者にとって容易に想到し得たことに過ぎない (ウ)相違点にかかる構成としたことによる顕著な効果がないこと 本件特許発明1の効果は、テルミサルタン含有錠剤に非イオン性界面活性剤であるステアリン酸ポリオキシルを加えることにより、高湿度環境下における錠剤のべたつき、軟化を抑制し保管安定性を改善することである。 しかしながら、理由2においても述べたとおり、ステアリン酸ポリオキシルの「吸湿を少なくする効果」は、当業者の予測を超えるものではない。 また、本件特許明細書(当審合議体注;特許異議申立書p22の2行目には「甲5」と記載されているが、内容から見て「本件特許明細書」の誤記と認められる。)の実施例1、2及び3は、それぞれ、テルミサルタンと塩基性化合物とを含む錠剤の非イオン性界面活性剤として、マクロゴール6000、ポリソルベート及びステアリン酸ポリオキシルを用いているところ、マクロゴール6000を用いた結果(本件特許明細書【実施例1】【0028】)、及びポリソルベートを用いた結果(同【実施例2】【0029】)、とステアリン酸ポリオキシルを用いた結果(同【実施例3】【0030】)とは、いずれも「錠剤のべたつき」及び「錠剤の軟化」が「なし」とされている(同段落【0038】【表2】参照)。 このように本件特許明細書は、本件特許発明1に、甲5発明と比較して有利な効果が存在しないことを自認している。 したがって、本件特許発明1は、甲5における既知の効果と同等の効果しか有しておらず、甲5発明に比して顕著な効果が存在することはありえない。 (iii)特許異議申立人の主張について検討する。 まず、異議申立人の(イ)の主張のうち、甲1に、テルミサルタンと塩基性化合物とを含有する錠剤に用いられる非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート、マクロゴール6000、及びステアリン酸ポリオキシルが挙げられているから、甲5発明のポリソルベート80及びマクロゴール6000に代えて、ステアリン酸ポリオキシルを用いることは、当業者にとって当然に試みることである旨の主張について検討すると、(i)で述べたとおり、「ポリソルベート80」は、甲5発明において、必須の界面活性剤なのであるから、これをステアリン酸ポリオキシルに変更して、ポリソルベート化合物を含有しないものとすることはできないから、この点の特許異議申立人の主張は採用できない。 次に、特許異議申立人が、テルミサルタンを含有する錠剤には、とりわけ塩基性物質と併用する場合において、吸湿性が高く、高湿度環境下での保存時にべたつき、軟化するという課題が本件特許の出願時に周知であったところ、かかる課題がステアリン酸ポリオキシルを用いて解決しうることも知られていたから、甲5発明のポリソルベート80及びマクロゴール6000に代えて、多湿下において吸湿によるべたつきや軟化を抑制する効果をも有するステアリン酸ポリオキシルを選択する強い動機付けがあったと主張する点については、既に、第6.2.(2)(iii)において述べたとおり、特許異議申立人が証拠として提示する甲5?7には、テルミサルタンを含有する錠剤が、高湿度環境下での保存時にべたつきの問題があったことについての直接の記載はないし、第6.2.(2)(iii)において、述べたとおりの理由によって、甲9、10の記載を参酌しても、ステアリン酸ポリオキシルを用いることで、テルミサルタン錠剤の高湿度環境下での保存時にべたつき、軟化の問題が解決できることが知られていたとはいえない。 そうすると、甲5発明のポリソルベート80及びマクロゴール6000に代えて、ステアリン酸ポリオキシルを選択する強い動機付けがあった旨の特許異議申立人の主張も採用できない。 特許異議申立人の(ウ)の主張に関し、「理由2においても述べたとおり、ステアリン酸ポリオキシルの「吸湿を少なくする効果」は、当業者の予測を超えるものではない。」との主張については、既に第6.(取消理由2について)の2.(2)(iii)において、述べたとおりの理由によって、この点の特許異議申立人の主張は採用できない。 次に、特許異議申立人が、本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明1は、甲5における既知の効果と同等の効果しか有しておらず、甲5発明に比して顕著な効果が存在することはありえないと主張する点について検討する。 仮に、ステアリン酸ポリオキシルを含有する本件特許発明1のテルミサルタン含有錠剤が、ポリソルベート80を含有する甲5発明のテルミサルタン錠剤と同等の効果しか有さない場合であっても、ステアリン酸ポリオキシルを含有させることで、テルミサルタンと塩基性化合物とを含有するテルミサルタン錠剤の、高湿度環境下での保管後の錠剤の軟化、べたつきという問題が解決できるという効果は、本件特許の出願明細書により初めて明らかにされた知見である。また、当該効果は、ステアリン酸ポリオキシルについての言及が全くなく、テルミサルタン錠剤の「べたつき」についての直接の記載もない甲5からは予測し得ない効果であるといえるし、特許異議申立人が提示した他の甲号証の記載からもこの点の効果が予測し得ないことも、第6.2.(2)(iii)で述べたとおりである。 よって、この点の特許異議申立人の主張も採用できない。 以上のとおりであるので、本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、3、4、6?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 3.本件特許発明2?6についての対比・判断 本件特許発明2?6は、本件特許発明1をさらに減縮したものである。 よって、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2?5は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、3、4、6?10、12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 また、本件特許発明6についても、追加で提示された甲11はテルミサルタン含有のフィルムコート錠の承認審査についての報告書であり、請求項6で限定されている事項について開示するのみであるから、2.で記載したとおり、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第5号証に記載された発明及び甲第1、3、4、6?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。 第8.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由(取消理由1?3)及び証拠によっては、本願の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
異議決定日 | 2016-08-31 |
出願番号 | 特願2015-18834(P2015-18834) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 星 功介、吉田 佳代子 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 山本 吾一 |
登録日 | 2015-10-23 |
登録番号 | 特許第5827428号(P5827428) |
権利者 | 日新製薬株式会社 |
発明の名称 | テルミサルタン含有錠剤 |
代理人 | 鈴木 一寿 |
代理人 | 大串 寿人 |
代理人 | 佐藤 俊彦 |