ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B23K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B23K |
---|---|
管理番号 | 1319195 |
異議申立番号 | 異議2015-700040 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-09-30 |
確定日 | 2016-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5692969号発明「収差補正方法,この収差補正方法を用いたレーザ加工方法,この収差補正方法を用いたレーザ照射方法,収差補正装置,及び,収差補正プログラム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5692969号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5692969号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は,平成21年5月25日(優先権主張平成20年9月1日)に特許出願され,平成27年2月13日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人 土屋 篤志により特許異議の申立てがされ,平成28年2月12日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成28年4月18日に意見書の提出があったものである。 2 本件発明 本件の請求項1ないし10に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置であって,前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段と,前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器とを備える当該レーザ照射装置の収差補正方法において, 前記媒質内部における集光位置を設定し, 前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記レーザ光が集光するように算出された補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動し, 前記レーザ光を前記媒質における集光位置へ照射する, 収差補正方法。 【請求項2】 前記媒質の屈折率をn,前記媒質の屈折率nが前記集光手段雰囲気媒質の屈折率に等しいと仮定した場合における前記媒質の入射面から前記集光手段の焦点までの深さをd,前記媒質によって発生する縦収差の最大値をΔsと定義すると, 前記レーザ光の集光点が前記媒質の入射面からn×dより大きく,n×d+Δsより小さい範囲に位置するように,前記レーザ光の集光点を設定する, 請求項1に記載の収差補正方法。 【請求項3】 前記レーザ照射装置は,前記集光手段として前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光レンズを備えており, 前記集光レンズの入射部に対応する前記空間光変調器上の任意の画素における位相変調量と,前記画素に隣接する画素における位相変調量との位相差が位相折り畳み技術を適用できる位相範囲以下であることを特徴とする, 請求項1に記載の収差補正方法。 【請求項4】 補正波面の位相値が極大点及び極小点を有するように,前記レーザ光の集光点を設定することを特徴とする,請求項1に記載の収差補正方法。 【請求項5】 レーザ光を生成する光源と,前記光源からのレーザ光の位相を変調するための空間光変調器と,前記空間光変調器からのレーザ光を加工対象物内部における加工位置に集光するための集光レンズとを備えるレーザ加工装置のレーザ加工方法において, 前記加工対象物内部における前記加工位置を設定し, 前記加工位置が,収差を補正しないときに前記加工対象物内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記加工対象物の相対移動量を設定し, 前記加工位置に前記レーザ光が集光するように補正波面を算出して,前記空間光変調器に表示し, 前記加工対象物と前記集光レンズとの距離が前記相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動し, 前記光源からのレーザ光を前記加工対象物における加工位置へ照射する, レーザ加工方法。 【請求項6】 レーザ光を生成する光源と,前記光源からのレーザ光の位相を変調するための空間光変調器と,前記空間光変調器からのレーザ光を媒質内部の所定の集光位置に集光するための集光レンズとを備える媒質内レーザ集光装置のレーザ照射方法において, 前記媒質内部における前記集光位置を設定し, 前記集光位置が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記レーザ光が集光するように補正波面を算出して,前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光レンズとの距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動し, 前記光源からのレーザ光を前記媒質における集光位置へ照射する, レーザ照射方法。 【請求項7】 光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置であって,前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段と,前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器とを備える当該レーザ照射装置の収差補正方法において, 前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成ステップと, 前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似ステップと, 前記複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似ステップと, 前記複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって,加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似ステップと, 前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と,前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶ステップと, 前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と,前記第1の高次多項式と,前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び前記複数の第3の高次多項式を用いて,任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量を求めると共に,前記複数の第2の高次多項式に相当する前記任意の加工位置の第2の高次多項式を求め,当該第2の高次多項式を用いて前記任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成ステップと, 前記任意の加工位置の補正波面を前記空間光変調器に表示するステップと, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動するステップと, を含むことを特徴とする,収差補正方法。 【請求項8】 光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置であって,前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段と,前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器とを備える当該レーザ照射装置のための収差補正装置において, 前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成手段と, 前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似手段と, 前記複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似手段と, 前記複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって,加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似手段と, 前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と,前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶手段と, 前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と,前記第1の高次多項式と,前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び前記複数の第3の高次多項式を用いて,任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量を求めると共に,前記複数の第2の高次多項式に相当する前記任意の加工位置の第2の高次多項式を求め,当該第2の高次多項式を用いて前記任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と, を備え, これにより,前記レーザ照射装置では, 前記任意の加工位置の補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動する, 収差補正装置。 【請求項9】 光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置であって,前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段と,前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器とを備える当該レーザ照射装置のための収差補正プログラムにおいて, コンピュータを, 前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成手段と, 前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似手段と, 前記複数の補正波面の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって複数の第2の高次多項式を求める第2の多項式近似手段と, 前記複数の第2の高次多項式における同一次数項の係数からなる複数の係数列の高次多項式近似をそれぞれ行うことによって,加工位置をパラメータとする複数の第3の高次多項式を求める第3の多項式近似手段と, 前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と,前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数とを記憶する記憶手段と, 前記第1の高次多項式における複数の次数項の係数と,前記第1の高次多項式と,前記複数の第3の高次多項式における複数の次数項の係数及び前記複数の第3の高次多項式を用いて,任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量を求めると共に,前記複数の第2の高次多項式に相当する前記任意の加工位置の第2の高次多項式を求め,当該第2の高次多項式を用いて前記任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と, として機能させ, これにより,前記レーザ照射装置では, 前記任意の加工位置の補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動する, 収差補正プログラム。 【請求項10】 光透過性を有する媒質内部に照射光を集光する光照射装置であって,前記媒質内部に照射光を集光するための集光手段と,前記照射光の収差を補正するための空間光変調器とを備える当該光照射装置の収差補正方法において, 前記媒質内部における集光位置を設定し, 前記照射光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記照射光が集光するように算出された補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動し, 前記照射光を前記媒質における集光位置へ照射する, 収差補正方法。」 3 取消理由の概要 請求項1ないし10に係る特許に対して平成28年2月12日付けで特許権者に通知した取消理由は,要旨次のとおりである。 (1)理由1 請求項1,4,5,6及び10に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,同項に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(以下「理由1」という。) (2)理由2 請求項2に係る発明は,甲第2号証に記載された事項を考慮して,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同項に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下「理由2」という。) (3)理由3 請求項3,7,8及び9に係る発明は,甲第3号証に記載された事項を考慮して,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同項に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下「理由3」という。) 4 各甲号証の記載 (1)甲第1号証の記載 ア 甲第1号証(特開2004-341394号公報)には,図とともに以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。 (ア)「【請求項1】 光源と,前記光源から発する照明光に任意の波面変換を与える波面変換素子と,前記波面変換素子から発する波面変換後の照明光を互いに直交する方向に走査する光束走査手段と,前記光束走査手段によって進行方向を変えた照明光を物体に集光する対物レンズと,前記物体から発する信号光を検出する検出器とを備え,前記対物レンズの中で最も物体側にある光学素子が物体に対して位置を固定され,前記対物レンズは物体に対して移動するレンズを含み,その移動と同期して,前記波面変換素子を変調するように構成したことを特徴とする走査型光学顕微鏡。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,走査型光学顕微鏡に関し,特に,波面変換素子を用いたレーザー走査型顕微鏡等の走査型光学顕微鏡に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来,例えばLSM(レーザー走査型顕微鏡)において,観測する物体の三次元像を得るためには,その物体又は対物レンズを機械的に光軸方向に移動させて,物体内部の各面における光学像を順次取り込んでいく必要があった。しかし,この方法は機械的駆動を必要とするために,位置制御を高い精度と再現性で実現することは困難である。また,物体を移動させる方法においては,物体が大きい場合には高速走査ができない等の問題があった。 【0003】 さらに,生体物体を観察する際に,対物レンズを物体に直接接触させるか,あるいは,物体を培養液に浸した状態で対物レンズを走査すると,その振動による悪影響を観察する物体に与えることになり,好ましくない。 【0004】 これらの問題点を解決する方法として,特許文献1記載のアダプティブ光学装置がある。特許文献1のアダプティブ光学装置は,パワーを変化させることのできる光学素子(波面変換素子)を備えた顕微鏡であって,図16,図17にその構成図を示す。この先行例では,観察光路及び/又は照明光路内に波面変換素子を有し,その波面変換素子を用いて光学系の焦点距離を変化させると共に,この焦点距離変化に伴って生じる収差も補正するものである。こうすることによって,対物レンズと物体との距離を変えることなく,物体空間での焦点の形成と移動,さらに収差補正を行うことができる。 【0005】 【特許文献1】 特開平11-101942号公報 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 上記の従来技術において,物体で焦点移動を行い,さらに収差補正を行う場合に,対物レンズの軸上での収差を補正するように波面変換素子を変調すると,対物レンズの軸外では収差が生じてしまう。焦点移動を行わない場合には,対物レンズが軸外の光束に対しても,ある程度収差が補正されるように設計されているので,軸上と軸外の光束に対しても収差が補正される場合もある。しかし,焦点の移動が行われると,その移動量に応じて軸上の収差と軸外の収差の違いが大きくなるために,対物レンズの軸上の光束を補正するために変調していると,軸外の収差を十分に補正できず,軸から離れた位置,つまり,物体高が高い所では十分な性能が確保できない場合が多い。 【0007】 本発明は従来技術のこのような問題点を解決するためになされたものであり,その目的は,軸外での性能劣化が少なく,観察する物体に影響を及ぼすことの少ない,波面変換素子を用いたレーザー走査型顕微鏡(LSM)等の走査型光学顕微鏡を提供することにある。」 (ウ)「【0008】 【課題を解決するための手段】 ・・・(中略)・・・ 【0011】 本発明においては,対物レンズの中で最も物体側にある光学素子が物体に対して位置を固定され,対物レンズは物体に対して移動するレンズを含み,その移動と同期して,波面変換素子を変調するように構成したので,焦点調節と収差補正を移動するレンズと波面変換素子に分担させることができ,補正能力が高まると共に,波面変換素子の変調量が少なくてすむようになり,軸外での性能劣化が少なく,観察する物体に影響を及ぼすことの少ない走査型光学顕微鏡を提供することができる。」 (エ)「【0012】 【発明の実施の形態】 以下に,本発明の走査型光学顕微鏡の実施形態を示す。なお,以下の説明に用いる図中において,繰り返し用いられる同一の要素には同一の記号を付し,重複する説明は行わない。また,光束が入射してくる方向を前側,出射していく方向を後側とし,光源としてレーザー発振器を用いたレーザ走査型顕微鏡(LSM)を用いて説明する。 【0013】 図1?図15を参照して本発明の1実施形態を説明する。 【0014】 図1はこの実施形態のLSMの全体の構成を示す図であり,この図において,光源としてのレーザー光源11は照明光を発し,その照明光はコリメータレンズ12によって平面波に変換される。次に,この照明光はダイクロイックミラー51を透過した後に,波面変換素子2に入射する。この波面変換素子2は,ミラーの反射面が電気的制御によって制御可能な形状可変ミラー22で構成され,この形状可変ミラー22では,後述する所定の波面変換が行われる。波面変換素子2によって波面変換が施された照明光は,その前側焦平面が波面変換素子2と略一致するように配置されている第三のリレー光学系71に入射する。第三のリレー光学系71を透過した照明光は,次に第二のリレー光学系72を透過し,その後側焦平面に配置してある光束走査手段3に入射する。ここで,第三のリレー光学系71の後側焦平面と第二のリレー光学径72の前側焦平面が略一致するように配置されているので,光束走査手段3と波面変換素子2とは共役な面となる。 【0015】 光束走査手段3は互いに直交する2つの軸で回転が可能なジンバルミラーからなり,ジンバルミラーで適切に照明光の向きを変えることで,物体面で互いに直行するx方向及びy方向に入射する照明光を走査できるようにする。 【0016】 光束走査手段3で特定の角度に反射された照明光は,第一のリレーレンズ73に入射し,次に結像レンズ74に入射し,最後に対物レンズ4を透過することで,物体Oに集光する。この対物レンズ4では,対物レンズ4中のレンズの一部が波面変換素子2と連動して移動することで,集光する位置を変化させる。ここで,第一のリレーレンズ73,結像レンズ74,対物レンズ4はテレセントリックな光学系で形成され,それぞれの前側焦平面と後側焦平面が略同一となるようになっている。 【0017】 照明光が集光した物体Oからは測定すべき反射光束が発生し,その光束は照明光が通ってきたのと逆向きの光路を進み,対物レンズ4,結像レンズ74,第一のリレーレンズ73,光束走査手段3,第二のリレーレンズ72,第三のリレーレンズ71と通過し,波面変換素子2で反射される。波面変換素子2で反射された光束は,次にダイクロイックミラー51で検出すべき特定の波長のみが反射され,集光レンズ52に入射する。集光レンズ52の後側焦平面には検出器53が配置され,目的とする波長が検出される。 【0018】 本実施形態で用いた第三のリレーレンズ71,第二のリレーレンズ72,第一のリレーレンズ73及び結像レンズ74,対物レンズ4の具体例の数値データを後記の表1に,さらに,それらの光学系の詳細を図2,特に対物レンズ4については図3に示す。 【0019】 ・・・(中略)・・・ 【0020】 本実施形態では,図3に示す対物レンズ4中のレンズ間隔d_(39)とd_(41)が変化し,その間隔間に位置するレンズ41が移動する。したがって,物体Oと直接接しているレンズは移動しないので,レンズ41の移動に伴う物体Oへの影響はほとんどない。 【0021】 ・・・(中略)・・・ 【0023】 ここで,ΔZの符号は対物レンズ4の焦平面より,対物レンズ4に近い方をマイナス,遠ざかる方向をプラスにとることにする(図3)。また,照明光はz’,y’平面内でz’軸に対して-45°の方向から入射するものとする(図2)。また,使用波長は488nmとしている。 【0024】 ΔZ=0の位置が対物レンズ4の焦点位置であるために,ΔZ=0の位置に照明光を集光させるには,波面変換素子2を平面にしておき,平面波が第三のリレーレンズ71に入射すればよい。しかし,ΔZが0でない場合には,第三リレーレンズ71に入射させる照明光は平面波でなく,補正した波面を入射させる必要がある。波面変換素子2のみを変調して,ΔZ=-25μmの物体面で,y=0.0mm(yは物体高となる。)の位置に照明光を収差なく集光させる場合を考える。この場合に,図2に示すS1面(波面変換素子2と45°をなす平面)における仮想的な波面形状のy方向の断面は図4(a)のようになる。同様に,ΔZ=-25μmの物体面でy=0.0mmの位置に照明光を収差なく集光させるときに,対物レンズ4中のレンズ41を,後記の表2に示す値で移動させた場合では,S1面において必要になる仮想的な波面の形状は図5(a)となる。図4(a),図5(a)から明らかなように,必要となる波面の光路差が波面変換素子2のみを用いる場合には9μmである。一方,本実施形態で用いている対物レンズ4中のレンズ41を移動させる場合には,デフォーカス成分をレンズ移動で補っているため,必要となる波面の光路差は0.5μmと大変小さくなっている。したがって,波面変換素子2(本実施形態では,形状可変ミラー22)に大きな変調量が必要ではなくなることが分かる。 【0025】 次に,物体面でy=0.0mmの位置に収差なく集光させる波面と,それ以外のy(物体高)の位置で収差なく集光させるための波面との違いについて,S1面のy方向での違いを平方和として求めた。その結果,波面変換素子2のみを用いた場合を図4(b)に,対物レンズ4中のレンズ41を移動させた場合を図5(b)に示す。これらのグラフから,波面変換素子2のみを用いて変調を行う場合には,yが0から離れる程y=0.0mmで必要な波面との間の光路差が生じることが分かる。例えばy=0.08mmでは,波面変換素子2のみの場合には,y=0.0mmとの平行和は,0.74×10^(-6)mm^(2 )に対して,対物レンズ4中のレンズ41を移動させた場合には,0.41×10^(-6)mm^(2 )と小さくなっている。これは,対物レンズ4中のレンズ41を用いてデフォーカス成分を取り除いているので,焦点の位置ずれに伴うその他の収差も小さくすることができるからである。 【0026】 ΔZ=25μmの物体面で,y=0.0mmの位置に照明光を集光させる場合について,波面変換素子2のみを用いて変調するときに,S1面で必要とされる波面形状のy方向の断面を図6(a)に,対物レンズ4中のレンズ41を移動させた場合にS1面で必要な波面形状の断面図を図7(a)に示す。さらに,y=0.0mmで必要な波面とその他の領域で必要な波面の違いをぞれぞれ図6(b),図7(b)に示す。これら,図6,図7からも,対物レンズ4中のレンズ41を移動させた場合の方が,補正すべき波面の光路差が小さく,補正すべき波面の量も小さいことが分かる。 【0027】 したがって,対物レンズ4中のレンズ41の移動と連動して波面変換素子2の変調を適切に行うことで,物体面で広い範囲にわたって収差の補正が可能であることが分かる。また,波面変換素子2の変調と対物レンズ4中のレンズ41の移動が連動しているので,波面変換素子2に必要とされる変調量が小さく,当然その制御も容易となる。 【0028】 ・・・(中略)・・・ 【0030】 同様に,ΔZ=25μmの位置に焦点を合わせた場合について説明する。対物レンズ4中のレンズ41を移動せずに,波面変換素子2である形状可変ミラー22を最適化した場合の形状可変ミラー22の形状を同様の図である図10(a1)?(a3)に示す。また,対物レンズ中4のレンズ41を連動して移動する場合のミラー形状を同様の図である図10(b1)?(b3)に示す。さらに,物体面でのy軸方向におけるStrehl比を図11に示す。図10を見れば明らかなように,ΔZ=-25μmの場合と同様で,対物レンズ4中のレンズ41を移動させない場合には,形状可変ミラー22の変位量が少なくとも10μm程度必要となる。対物レンズ4の中のレンズ41を形状可変ミラー22の変調と連動させて移動する場合には,ミラーの変位量は3.5μm程度ですむことが分かる。Strehl比に関しては,対物レンズ4の中のレンズ41を移動させない場合と移動させた場合では,物体面でのy軸方向全域にわたって常にレンズ41の移動を行った方の性能が上であることが分かる。これは,形状可変ミラー22の変形面として,上述したような自由曲面の関数としているので,補正できる収差についても限界がある。対物レンズ4中のレンズ41を移動させない場合だと,ΔZ=25μmの位置に焦点位置を合わせるための形状可変ミラー22の変形が難しく,その他の収差補正まで十分にできないためである。一方,対物レンズ4中のレンズ41を連動して移動させると,焦点位置も移動する。したがて,形状可変ミラー22では主に他の収差について補正を行えばよいことになり,補正能力がレンズ41を移動させない場合より上回る。 【0031】 なお,本実施形態における対物レンズ4中のレンズ41の移動量,及び,形状可変ミラー22の変形に関する係数は表2に示しておく。 【0032】 次に,対物レンズ4中の移動するレンズ41と形状可変ミラー22の駆動方法について説明する。 【0033】 図1において,初めに,物体Oとして蛍光ビーズを配置しておく。形状可変ミラー22を平面にし,次に,予め計測に必要な焦平面の位置に物体Oである蛍光ビーズを移動させ,検出器53で検出される光量が最大となるように対物レンズ4中のレンズ41を移動させる。次に,形状可変ミラー22を用いて検出器53で検出される光量が最大となるように形状可変ミラー22の形状を最適化する。このようにして,観測に必要なΔZに対する対物レンズ4中のレンズ41の移動量と,形状可変ミラー22の形状データ(パラメータC_(j ))をコントローラ61にテーブルとして記憶させておく。実際の計測の際には,このテーブルに従ってレンズ41の移動量と形状可変ミラー22の形状を同期させて変調を行う。」 イ 以上の記載によれば,甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「レーザー発振器を用いた光源と,前記光源から発する照明光に任意の波面変換を与える波面変換素子である形状可変ミラー22と,前記波面変換素子から発する波面変換後の照明光を互いに直交する方向に走査する光束走査手段と,前記光束走査手段によって進行方向を変えた照明光を物体に集光する対物レンズ4と,前記物体から発する信号光を検出する検出器53とを備え,前記対物レンズの中で最も物体側にある光学素子が物体に対して位置を固定され,前記対物レンズは物体に対して移動するレンズ41を含み,その移動と同期して,形状可変ミラー22を変調するように構成したレーザ走査型光学顕微鏡にあって, 初めに,物体Oとして蛍光ビーズを配置して,形状可変ミラー22を平面にし,次に,予め計測に必要な焦平面の位置に物体Oである蛍光ビーズを移動させ,検出器53で検出される光量が最大となるように対物レンズ4中のレンズ41を移動させ,次に,形状可変ミラー22を用いて検出器53で検出される光量が最大となるように形状可変ミラー22の形状を最適化し,このようにして,観測に必要なΔZに対する対物レンズ4中のレンズ41の移動量と,形状可変ミラー22の形状データ(パラメータC_(j ))をコントローラ61にテーブルとして記憶させ,実際の計測の際には,このテーブルに従ってレンズ41の移動量と形状可変ミラー22の形状を同期させて変調を行うものであり, 焦点調節と収差補正を移動するレンズと波面変換素子に分担させることができ,補正能力が高まると共に,波面変換素子の変調量が少なくてすむようになり,軸外での性能劣化が少なく, 対物レンズ4を物体に直接接触させるか,あるいは,物体を培養液に浸した状態で対物レンズ4を走査する際の振動による観察する物体への悪影響を少なくできる, レーザ走査型光学顕微鏡のレンズ41と形状可変ミラー22の駆動方法。」 (2)甲第2号証の記載 甲第2号証(「光学」久保田 広 著,岩波書店,1979年9月25日第10刷発行,第128ページ?第130ページ)には,平行平板状の硝子板を光学系に挿入した場合に球面収差が発生することが,図及び数式とともに記載されている。 (3)甲第3号証の記載 ア 甲第3号証(特開2004-348053号公報)には,図とともに以下の記載がある。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,光の球面収差を補正する球面収差補正素子及びそれを備えた光ピックアップ装置に関し,特に詳しくは,レンズの開口数(NA:Numerical Aperture)が0.6を超える高NAのレンズと400nm帯の短波長を用いて高密度の記録・再生を行う光情報記録・再生装置に用いて好適な球面収差補正素子及びそれを備えた光ピックアップ装置に関するものである。」 (イ)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 ところで,従来の光ピックアップ装置(1)では,対物レンズが単一モールドのレンズの場合には,レーザダイオード(LD)からのレーザ光の波長変動により生じる球面収差が非常に大きく,これらのレンズ群だけでは球面収差を補正しきれないという問題点があった。 また,従来の光ピックアップ装置(2)では,回折光学素子に単一ホログラムパターンを有するホログラム素子を用いているために,単一モールドの対物レンズの球面収差を,レーザダイオード(LD)の実使用波長帯域である400?415nmの波長帯域全体に亘って補正しきれないという問題点があった。 【0006】 また,従来の光ピックアップ装置(3)では,対物レンズの中心と液晶補正素子の中心との間の位置ずれによりコマ収差が生じる。この場合,このコマ収差を生じさせないためには,液晶補正素子を対物レンズを移動させるアクチュエータ内に設置する必要があるが,通常の装置では,この様な設置スペースが無く,この様な構成の液晶補正素子を用いることができないという問題点があった。 【0007】 本発明は,上記の事情に鑑みてなされたものであって,レンズの開口数(NA:Numerical Aperture)が0.6を超える高NAのレンズと,400nm帯の短波長の光を用いた場合であっても,この光の波長の変化に起因する対物レンズの球面収差を補正することができ,さらには,ディスク自体の厚みのむら,あるいは光ディスクの記録面を覆っている保護膜の厚みのむら等に起因する対物レンズの球面収差を補正することができ,その結果,大容量の情報を高密度で記録・再生することを可能とする球面収差補正素子及びそれを備えた光ピックアップ装置を提供することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するために,本発明は次のような球面収差補正素子及びそれを備えた光ピックアップ装置を提供した。 すなわち,請求項1記載の球面収差補正素子は,光の球面収差を補正する素子であって,光軸上に平凹レンズ及び回折光学素子を配置し,これら平凹レンズ及び回折光学素子の少なくとも一方は,前記光軸に沿って移動自在かつ任意の位置に固定可能とされていることを特徴とする。 【0009】 この球面収差補正素子では,前記光軸に沿って光が入射する場合に,平凹レンズ及び回折光学素子の少なくとも一方を前記光軸に沿って移動することにより,前記光軸に沿って入射した光が平凹レンズ及び回折光学素子を順次通過する間に,この光の初期の波長のばらつきに起因する球面収差を補正することが可能になる。」 (ウ)「【0033】 「第2の実施形態」 図4は本発明の第2の実施形態の光ピックアップ装置の球面収差補正素子を示す概略構成図であり,この球面収差補正素子31が,第1の実施形態の球面収差補正素子6と異なる点は,第1の実施形態のホログラム素子22を,ホログラム素子と液晶補正素子を一体化した補正素子32に替えた点である。 この補正素子32は,一対のガラス基板(透明基板)33,34と,これらガラス基板33,34に挟持される液晶35とにより構成される液晶補正素子36と,このガラス基板33の対物レンズ側の主面に形成されたホログラム素子37とにより構成されている。そして,ガラス基板33,34各々には,液晶35に所定の電圧を印加するための平板状の電極38,39が形成されている。 【0034】 この球面収差補正素子31は,これら平凹レンズ21及び補正素子32間の距離Dを調整することで球面収差を補正するようになっている。 通常では,液晶補正素子は,図5に示すように,光学系に発生する球面収差を相殺するように,これと反対の球面収差,すなわち量が同じで符号が逆の球面収差を発生させる。図中,Aはゼルニケ係数第4項(以下,Z[4]と表記)のデフォーカス状の収差,Bはゼルニケ係数第9項(以下,Z[9]と表記)のデフォーカス状の収差である。 なお,これらのゼルニケ係数は,規格化半径をr,係数をA_(4)(第4項の場合)またはA_(9)(第9項の場合)とすると, Z[4]=A_(4)(2r^(2)-1) Z[9]=A_(9)(6r^(4)-6r^(2)+1) と表すことができる。」 (エ)「【0045】 「第4の実施形態」 図8は本発明の第4の実施形態の光ピックアップ装置の液晶補正素子の一方の電極を示す平面図であり,この電極51が,第2の実施形態の電極39(または38)と異なる点は,第2の実施形態の電極39(または38)が平板状であったのに対し,本実施形態の電極51は,同心円状の複数の電極部により構成されている点である。なお,この電極51に対向する電極の形状は,上記の液晶補正素子36の電極38(または39)と同様,平板状である。 【0046】 この電極51は,液晶を挟持する一対のガラス基板のうち一方のガラス基板の液晶側の面に形成されたもので,中心部に位置する円形状の電極部52と,この電極部52の外側に形成された円環状の電極部53と,この電極部53の外側に形成された円環状の電極部54とにより構成されている。 【0047】 ・・・(中略)・・・ 【0051】 図9は,この液晶補正素子による位相シフトの一例を示す図であり,電極51の有効半径を1とした場合の中心からの位置を径方向規格化位置とし,この位置におけるZ[4]の波形の位相を図示したものである。図中,Aは位相がシフトされていない場合の波形を,Bは位相が3段階にシフトされた場合の波形を,それぞれ示している。 この図によれば,A,Bの双方ともに同一の大きさの位相の変化量であるが,Aの場合では,連続的に位相が変化するために3.4波長分の変化幅が必要になるのに対し,Bの場合では,電極部毎に-1×波長分,位相がシフトするので1.5波長分の変化幅でよいことが分かる。 【0052】 ・・・(中略)・・・ 【0053】 通常,液晶素子では,発生する収差を球面収差ではなくデフォーカス状の収差とすると,このデフォーカス状の収差の方が球面収差よりも大きな位相制御量が必要となる。しかしながら,上記の液晶素子で大きな位相制御量を得ようとすると,液晶の層厚を増大しなければならず,素子厚の増大化,印加電圧の高電圧化を招くことになる。また,素子厚が厚くなると液晶の応答速度が遅延し,高速駆動化の障害となる。 【0054】 一方,光の位相差は,その位相差を波長の整数倍変化させても等価であるという特徴がある。そこで,本実施形態のように,電極51を電極部53?55の3つに分割し,隣接する電極部間で1波長分戻すようにすれば,全体で電極部の数-1の波長分戻すことになり,位相の変化量の最大値を低く抑えることができる。」 5 対比・判断 (1)本件発明1について(理由1) ア 本件発明1と甲1発明とを比較するにあたり,まず,本件発明1における「収差」について,その技術的意味を検討する。 (ア)本件明細書には,図とともに以下の記載がある。 a「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 ところで,レーザ加工装置には,更なる微細加工が行えることが望まれている。例えば,光導波路等の改質層を形成する場合には,集光点が極力小さいものが望まれている。しかしながら,加工位置が深くなると,収差によって集光領域が伸張するため,良好な加工状態を維持することが困難となる。 【0009】 そこで,本発明は,媒質に対するレーザ照射位置が深くても,レーザ光の集光度合を高めることが可能な収差補正方法,この収差補正方法を用いたレーザ加工方法,この収差補正方法を用いたレーザ照射方法,収差補正装置,及び,収差補正プログラムを提供することを目的としている。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本願発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,媒質に対するレーザ照射位置が深くなると,レーザ光を補正するための波面のPV(peak to valley)値(PV値とは波面収差の最大値と最小値との差であり,位相変調量の大きさに相当する。)が大きくなり,空間光変調器などの波面を制御する素子の性能を超えるために,収差を十分に補正できなくなることを見出した。 ・・・(中略)・・・ 【0012】 そこで,本発明の収差補正方法では,光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置の収差補正方法において,レーザ光の集光点が媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するように,レーザ光の収差を補正することを特徴とする。ここで,レーザ光の集光点が媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するとは,収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置することを意味する。 【0013】 この収差補正方法によれば,レーザ光の集光点が,媒質内部に発生する収差範囲の間に位置するように,すなわち,収差を補正しないときに媒質内部で縦収差が存在する範囲の間に位置するように,レーザ光の収差を補正するので,波面のPV値を低減することができる。その結果,位相変調量に制限がある空間光変調器を用いても,収差補正のための位相変調量を低減させることで,空間光変調器の負担を減らし,高精度な波面制御を可能とする。その結果,媒質に対するレーザ照射位置が深くても,レーザ光の集光度合を高めることができ,良好な加工状態を維持することが可能である。」 b「【0039】 図2は,集光光学系に平行平面が挿入された場合のレーザ光の光路を示す図である。図2に示すように,集光レンズ50による集光光学系に,平行平面状の光透過性を有する媒質60が挿入された場合,焦点がOからO’へとδだけずれる。この焦点ずれの値δは,集光レンズ50に入射する光の入射高Hによって変わる。このように入射光によって集光点位置が異なることにより,球面収差が発生することとなる。このとき,近軸光線の集光位置からの光軸方向のズレ量が,縦収差表現された球面収差(longitudinal spherical aberration)となり,最外縁光線でもっとも収差が大きくなる。このときの縦収差の最大値Δsは非特許文献1の第14-2節に記載の第(14-4)式を用いて,下記(1)式で表される。 ・・・(中略)・・・ 【0040】 図3は,集光点が平行平面内部にある場合のレーザ光の光路を示す図である。図3に示すように,集光レンズ50による焦点Oが平行平面状の光透過性を有する媒質60内部にある場合,焦点がOからO’へとδだけずれる。この焦点ずれの値δは,集光レンズ50に入射する光の入射高Hによって変わるので,球面収差が発生することとなる。このときの縦収差の最大値Δsは非特許文献1の第14-2節に記載の第(14-3)式を変形して,下記(2)式で表される。」 ここで,図2及び図3は以下のものである。 【図2】 【図3】 (イ)上記各記載から,本件発明1における「収差」とは,雰囲気(例えば空気)中におかれた,当該雰囲気とは異なる屈折率の光透過性物質に,集光光学系からレーザ光を照射した際に,集光レンズ50に入射する光の入射高Hによって焦点ずれの値δが変わり,このように入射光によって集光点位置が異なることにより発生する球面収差を指し,近軸光線の集光位置からの光軸方向のズレ量が,球面収差を縦収差表現したものと解される。 それゆえ,本件発明1においては,「媒質」と「レーザ光を集光するための集光手段」との間には,雰囲気(例えば空気)が介されており,それにより,「媒質内部に縦収差が存在する」ものといえる。 イ 上記アを踏まえて,本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明に係る,「レーザー発振器を用いた光源と,前記光源から発する照明光に任意の波面変換を与える波面変換素子である形状可変ミラー22と,前記波面変換素子から発する波面変換後の照明光を互いに直交する方向に走査する光束走査手段と,前記光束走査手段によって進行方向を変えた照明光を物体に集光する対物レンズ4」からなるものは,「対物レンズ4を物体に直接接触させるか,あるいは,物体を培養液に浸した状態」を想定しているものであるから,本件発明1の「光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置」に相当する。 (イ)甲1発明の「光源から発する照明光に任意の波面変換を与える波面変換素子である形状可変ミラー22」と,本件発明1の「前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器」とは,「前記レーザ光を補正するための空間光変調器」である点で一致する。 (ウ)甲1発明の「照明光を物体に集光する対物レンズ4」は,本件発明1の「前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段」に相当する。 (エ)甲1発明の「レーザ走査型光学顕微鏡のレンズ41と形状可変ミラー22の駆動方法」は,「補正能力が高まる」方法であることから,当該「駆動方法」と,本件発明1の「収差補正方法」とは,「補正方法」である点で一致する。 (オ)甲1発明の「予め計測に必要な焦平面の位置に物体Oである蛍光ビーズを移動させ」ることは,本件発明1の「前記媒質内部における集光位置を設定」することに相当する。 (カ)甲1発明の「検出器53で検出される光量が最大となるように対物レンズ4中のレンズ41を移動させ,次に,形状可変ミラー22を用いて検出器53で検出される光量が最大となるように形状可変ミラー22の形状を最適化し,このようにして,観測に必要なΔZに対する対物レンズ4中のレンズ41の移動量と,形状可変ミラー22の形状データ(パラメータC_(j ))をコントローラ61にテーブルとして記憶させ,実際の計測の際には,このテーブルに従ってレンズ41の移動量と形状可変ミラー22の形状を同期させて変調を行う」ことと,本件発明1の「前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記レーザ光が集光するように算出された補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動」することとは,「前記空間光変調器と前記集光手段を設定する」点で一致する。 (キ)甲1発明においては,「照明光を物体に集光する」のであるから,当該構成は,本件発明1の「前記レーザ光を前記媒質における集光位置へ照射する」ことに相当する。 (ク)そうすると,本件発明1と甲1発明は,以下の点で一致する。 「光透過性を有する媒質内部にレーザ光を集光するレーザ照射装置であって,前記媒質内部にレーザ光を集光するための集光手段と,前記レーザ光を補正するための空間光変調器とを備える当該レーザ照射装置の補正方法において, 前記媒質内部における集光位置を設定し, 前記空間光変調器と前記集光手段を設定し, 前記レーザ光を前記媒質における集光位置へ照射する, 補正方法。」 (ケ)一方,両者は以下の各点で相違する。 《相違点1》 本件発明1は,「収差補正方法」であるのに対して,甲1発明は「レーザ走査型光学顕微鏡のレンズ41と形状可変ミラー22の駆動方法」である点。 《相違点2》 本件発明1は「前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器」を備えるのに対して,甲1発明は「前記レーザ光を補正するための空間光変調器」に対応する構成は備えるものの,「レーザ光の収差を補正するための空間光変調器」であることまでは特定されていない点。 《相違点3》 本件発明1は,「前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記レーザ光が集光するように算出された補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動」する構成を備えるのに対して,甲1発明は,「検出器53で検出される光量が最大となるように対物レンズ4中のレンズ41を移動させ,次に,形状可変ミラー22を用いて検出器53で検出される光量が最大となるように形状可変ミラー22の形状を最適化し,このようにして,観測に必要なΔZに対する対物レンズ4中のレンズ41の移動量と,形状可変ミラー22の形状データ(パラメータC_(j ))をコントローラ61にテーブルとして記憶させ,実際の計測の際には,このテーブルに従ってレンズ41の移動量と形状可変ミラー22の形状を同期させて変調を行う」構成は備えるものの,上記本件発明1に係る構成は備えない点。 ウ 判断 まず,上記相違点3について検討する。 (ア)相違点3について 前記アで検討したとおり,本件発明1における「収差」とは,雰囲気(例えば空気)中におかれた,当該雰囲気とは異なる屈折率の光透過性物質に,集光光学系からレーザ光を照射した際に,集光レンズ50に入射する光の入射高Hによって焦点ずれの値δが変わり,このように入射光によって集光点位置が異なることにより発生する球面収差を指し,近軸光線の集光位置からの光軸方向のズレ量が,球面収差を縦収差表現したものと解される。それゆえ,本件発明1においては,「媒質」と「レーザ光を集光するための集光手段」との間には,雰囲気(例えば空気)が介されており,それにより,「媒質内部に縦収差が存在する」ものといえる。 一方,甲1発明は,「対物レンズ4を物体に直接接触させるか,あるいは,物体を培養液に浸した状態で対物レンズ4を走査する際の振動による観察する物体への悪影響を少なくできる」ものであり,対物レンズ4と「物体」あるいは「培養液」との間に雰囲気(例えば空気)が介されることは想定されていないといえる。 また,甲1発明に係る駆動方法においては,「初めに,物体Oとして蛍光ビーズを配置して,形状可変ミラー22を平面にし,次に,予め計測に必要な焦平面の位置に物体Oである蛍光ビーズを移動させ,検出器53で検出される光量が最大となるように対物レンズ4中のレンズ41を移動させ,次に,形状可変ミラー22を用いて検出器53で検出される光量が最大となるように形状可変ミラー22の形状を最適化し,このようにして,観測に必要なΔZに対する対物レンズ4中のレンズ41の移動量と,形状可変ミラー22の形状データ(パラメータC_(j ))をコントローラ61にテーブルとして記憶させ,実際の計測の際には,このテーブルに従ってレンズ41の移動量と形状可変ミラー22の形状を同期させて変調を行う」構成を備える。しかしながら,この際には,観察時と同様の条件とすべく,「蛍光ビーズを配置」する,あるいは「蛍光ビーズを移動させ」た結果,「蛍光ビーズ」を「物体」内あるいは「培養液」内に置くとともに,前述のごとく,「対物レンズ4を物体に直接接触させるか,あるいは,物体を培養液に浸した状態」とすることが当然といえ,よって,「対物レンズ4」と,「物体」あるいは「培養液」との間に雰囲気(例えば空気)はないといえる。 そうすると,甲1発明においては,本件発明1で言う「収差」を補正することは想定されていないと言うべきであるから,相違点3に係る,本件発明1における当該「収差」の補正に係る構成である,「前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記レーザ光が集光するように算出された補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動」する構成を備えていないことは,実質的な相違点である。 (イ)相違点1及び2について 上記(ア)において検討したとおり,甲1発明においては,本件発明1で言う「収差」を補正することは想定されていないと言うべきであるから,甲1発明が,本件発明1に係る「前記レーザ光の収差を補正するための空間光変調器」を備えない点,及び,甲1発明に係る方法が,本件発明1に係る「収差補正方法」でない点は,いずれも実質的な相違点である。 エ 小括 以上のとおりであって,本件発明1は甲1発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (2)本件発明4について(理由1) 本件発明4は,本件発明1に係る構成を全て備えるところ,上記(1)のとおり,甲1発明は本件発明1に係る構成の全てを備えるものではないから,本件発明4もまた甲1発明であるとはいえない。 よって,本件発明4は,特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (3)本件発明5について(理由1) 本件発明5は,「前記加工対象物内部における前記加工位置を設定し, 前記加工位置が,収差を補正しないときに前記加工対象物内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記加工対象物の相対移動量を設定し, 前記加工位置に前記レーザ光が集光するように補正波面を算出して,前記空間光変調器に表示し, 前記加工対象物と前記集光レンズとの距離が前記相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動」するとの構成を備えるところ,当該「収差」は本件発明1と同じものであって,前記(1)ア及び(1)ウ(ア)において検討したとおり,甲1発明においては補正の対象とすることは想定されていないものであるから,甲1発明が上記本件発明5に係る構成を全て備えるとはいえない。 また,甲1発明は,「レーザ走査型光学顕微鏡のレンズ41と形状可変ミラー22の駆動方法」であって,「観察する物体への悪影響を少なくできる」ものであることから,物体そのものの加工をすることが想定されているとはいえず,この点から見ても,「レーザ加工方法」である本件発明5が,甲1発明であるとはいえない。 よって,本件発明5は,特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (4)本件発明6について(理由1) 本件発明6は,「前記媒質内部における前記集光位置を設定し, 前記集光位置が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記レーザ光が集光するように補正波面を算出して,前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光レンズとの距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動」するとの構成を備えるところ,当該「収差」は本件発明1と同じものであって,前記(1)ア及び(1)ウ(ア)において検討したとおり,甲1発明においては補正の対象とすることは想定されていないものであるから,甲1発明が上記本件発明6に係る構成を全て備えるとはいえない。 よって,本件発明6は甲1発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (5)本件発明10について(理由1) 本件発明10は,「前記媒質内部における集光位置を設定し, 前記照射光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記媒質の相対移動量を設定し, 前記集光位置に前記照射光が集光するように算出された補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記相対移動量となるように,前記集光位置を相対的に移動」するとの構成を備えるところ,当該「収差」は本件発明1と同じものであって,前記(1)ア及び(1)ウ(ア)において検討したとおり,甲1発明においては補正の対象とすることは想定されていないものであるから,甲1発明が上記本件発明10に係る構成を全て備えるとはいえない。 よって,本件発明10は甲1発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (6)本件発明2について(理由2) 本件発明2は,本件発明1に係る構成を全て備えるところ,上記(1)のとおり,甲1発明は本件発明1に係る構成の全てを備えるものではなく,また,甲第2号証には,平行平板状の硝子板を光学系に挿入した場合に球面収差が発生することが,図及び数式とともに記載されているものの,前記(1)アにおいて検討したとおり,甲1発明は,本件発明1で言う「収差」を補正することは想定されておらず,また,当該「収差」を補正することは,甲第2号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものともいえない。 よって,本件発明2は,甲第2号証の記載を参酌しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)本件発明3について(理由3) 本件発明3は,本件発明1に係る構成を全て備えるところ,甲1発明は,本件発明3に係る「集光レンズ」に対応する「対物レンズ4」を備えるものの,上記(1)のとおり,本件発明1に係る構成の全てを備えるものではなく,また,甲第3号証には,空間光変調器上の任意の部分における位相変調量と,前記部分に隣接する部分における位相変調量との位相差を位相折り畳み技術を適用できる位相範囲以下とすることが示されているといえるが,前記(1)アにおいて検討したとおり,甲1発明は,本件発明1で言う「収差」を補正することは想定されておらず,また,当該「収差」を補正することは,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものともいえない。 よって,本件発明3は,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (8)本件発明7について(理由3) 本件発明7は,「前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成ステップと, 前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似ステップと,・・・,任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量を求めると共に,・・・前記任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成ステップと, 前記任意の加工位置の補正波面を前記空間光変調器に表示するステップと, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動するステップ」を備えるところ,当該「収差」は本件発明1と同じものであって,前記(1)アにおいて検討したとおり,甲1発明においては補正の対象とすることは想定されておらず,また,当該「収差」を補正することは,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。 よって,本件発明7は,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (9)本件発明8について(理由3) 本件発明8は,「前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成手段と, 前記複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離の高次多項式近似を行うことによって第1の高次多項式を求める第1の多項式近似手段と,・・・,任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量を求めると共に,・・・前記任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と,を備え, これにより,前記レーザ照射装置では, 前記任意の加工位置の補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動する」との構成を備えるところ,当該「収差」は本件発明1と同じものであって,前記(1)アにおいて検討したとおり,甲1発明においては補正の対象とすることは想定されておらず,また,当該「収差」を補正することは,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。 よって,本件発明8は,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (10)本件発明9について(理由3) 本件発明9は,「前記レーザ光の集光点が,収差を補正しないときに前記媒質内部で縦収差が存在する範囲に位置するように,前記レーザ光の収差を補正するための補正波面であって,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の当該補正波面と,前記媒質内部の複数の加工位置にそれぞれ対応する複数の媒質表面から媒質がないときの集光点の位置までの距離とを求める第1の補正波面生成手段と,・・・任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量を求めると共に,・・・当該第2の高次多項式を用いて前記任意の加工位置の補正波面を求める第2の補正波面生成手段と,として機能させ, これにより,前記レーザ照射装置では, 前記任意の加工位置の補正波面を前記空間光変調器に表示し, 前記媒質と前記集光手段との距離が前記任意の加工位置に対する前記媒質の相対移動量となるように,前記加工位置を相対的に移動する」との構成を備えるところ,当該「収差」は本件発明1と同じものであって,前記(1)アにおいて検討したとおり,甲1発明においては補正の対象とすることは想定されておらず,また,当該「収差」を補正することは,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。 よって,本件発明9は,甲第3号証に記載された事項を考慮しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 むすび 以上のとおりであるから,理由1によって本件請求項1,4,5,6及び10に係る特許を,理由2によって本件請求項2に係る特許を,理由3によって本件請求項3,7,8及び9に係る特許を,それぞれ取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-09-01 |
出願番号 | 特願2009-125759(P2009-125759) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(B23K)
P 1 651・ 121- Y (B23K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 河原 正 |
特許庁審判長 |
河原 英雄 |
特許庁審判官 |
小松 徹三 近藤 幸浩 |
登録日 | 2015-02-13 |
登録番号 | 特許第5692969号(P5692969) |
権利者 | 浜松ホトニクス株式会社 |
発明の名称 | 収差補正方法、この収差補正方法を用いたレーザ加工方法、この収差補正方法を用いたレーザ照射方法、収差補正装置、及び、収差補正プログラム |
代理人 | 山下 武志 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 柴山 健一 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 廣田 浩一 |
代理人 | 流 良広 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 石田 悟 |
代理人 | 松田 奈緒子 |