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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1319198
異議申立番号 異議2016-700363  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-27 
確定日 2016-09-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5799482号発明「耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5799482号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5799482号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2007年6月29日(優先権主張2006年8月14日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人「小川 鐵夫」により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明

本件特許の請求項1?7に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、「本件発明1?7」という。)と認められる。

【請求項1】
所定寸法に切断された厚さ3mm以上6mm未満のガラス板の端部を加工する端部加工工程と、前記端部加工工程後のガラス板を物理強化処理する物理強化処理工程とを含む強化ガラスの製造方法であって、
前記端部加工工程は、
前記端部の端面を、前記ガラス板の稜線方向と平行に研磨する端面研磨工程と、
前記端部の稜部を研磨して、前記ガラス板のガラス板面となす角度が135度以上170度以下である稜部研磨面を形成する稜部研磨工程と、を有し、
前記稜部研磨面と前記ガラス板面とでなす角部に有するカケの前記稜線方向の長さを200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅を100μm以下とし、
前記ガラス板の前記端面から面内側へ50mm以内の領域における表面の圧縮応力は、
板厚が3.0mm以上3.5mm未満で70MPa以上130MPa以下、
板厚が3.5mm以上4.5mm未満で75MPa以上135MPa以下、
板厚が4.5mm以上5.5mm未満で85MPa以上140MPa以下、
板厚が5.5mm以上6.0mm未満で95MPa以上150MPa以下
とすることを特徴とする強化ガラスの製造方法。

【請求項2】?【請求項6】 略

【請求項7】
所定寸法に切断されたガラス板が物理強化処理された厚さ3mm以上6mm未満の強化ガラスであって、
前記強化ガラスは、ガラス板面と、端面と、前記ガラス板面と前記端面に対し傾斜した稜部研磨面を有し、
前記稜部研磨面は、前記ガラス板面とのなす角度が135度以上170度以下であり、
前記稜部研磨面と前記ガラス板面とでなす角部のカケは、稜線方向の長さが200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅が100μm以下であり、
前記端面は、前記ガラス板の稜線方向と平行に研磨された面であり、
前記ガラス板の前記端面から面内側へ50mm以内の領域における表面の圧縮応力は、
板厚が3.0mm以上3.5mm未満で70MPa以上130MPa以下、板厚が3.5mm以上4.5mm未満で75MPa以上135MPa以下、板厚が4.5mm以上5.5mm未満で85MPa以上140MPa以下、板厚が5.5mm以上6.0mm未満で95MPa以上150MPa以下であることを特徴とする強化ガラス。


第3 申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1?9号証(以下、「甲1?9」という。)を提出し、本件発明1?7は甲1?9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張している。

甲1:特開平9-278468号公報
甲2:特開2001-87998号公報
甲3:特開平9-208246号公報
甲4:特開平11-79769号公報
甲5:特開平7-69669号公報
甲6:特表平6-503063号公報
甲7:ガラス工学,共立出版株式会社,昭和51年2月5日発行,272頁
甲8:特公平6-2594号公報
甲9:ガラス工学ハンドブック,株式会社朝倉書店,1999年7月5日発行,411頁


第4 当審の判断

1.引用発明の認定

甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。以下同じ。)。

(甲1-1)
「【請求項1】 全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、17?25kgf/mm^(2)の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されていることを特徴とする熱強化板ガラス。」

(甲1-2)
「【0008】従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、板ガラスのエッジ強度を増大させ、また板ガラス周縁部分の熱吸収を向上させることにより、表面圧縮応力を従来より緩和させ、品質上問題のない熱強化板ガラスを提供するところにある。」

(甲1-3)
「【0014】〔作用〕建設省告示第1125号に基づく防火試験での甲種及び乙種防火戸として通常の熱強化板ガラスを使用するには、板ガラスのエッジ強度を24kgf/mm^(2)(板ガラスの支持状態として、図2に示すように、板ガラス周縁部におけるサッシュとの係わり深さ寸法(かかり代という)(d)が10mm程度で、防火標準施工法による場合)以上に確保しないと前記熱割れ現象を生じる危険性があるが、本発明によれば17?25kgf/mm^(2)の表面圧縮応力が全面にわたってほぼ均一に付与されているから、後述するガラス板端縁部分の仕上げによるエッジ強度の増加分4kgf/mm^(2)と、板ガラスの周縁部分に形成されている暗色系の着色層による発生応力の緩和分3kgf/mm^(2)と合わせて実質的には24?32kgf/mm^(2)のエッジ強度を確保することができ、前記甲種及び乙種防火戸として問題なく使用することが可能となる。なお、前記熱強化処理による表面圧縮応力が25kgf/mm^(2)を超えると、付与される圧縮応力が板ガラスの表面において不均一になり易く不具合が生じる。」

(甲1-4)
「【0033】まず、前記板ガラス(3)は、端面部(3a)を板ガラス(3)の厚み方向での中間部ほど、板ガラス(3)の面方向の外方に突出する曲面形状となるように研磨処理(研磨された面の最大凹凸は0.05mm以下)を行う研磨工程を経て、前記端面部(3a)と前記板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)を、前記研磨工程よりさらに滑らか(仕上げ面の最大凹凸は0.007mm以下)に加工仕上げ工程を実施して端縁部分(2)の仕上げを行ってある。
【0034】具体的には、前記研磨工程は、図2(イ)に示すように、軸心廻りに回転する円筒ホイール(10)の外周面を使って研磨する平廻り円筒ホイール型研磨方式の研磨方法によって実施するもので、前記円筒ホイール(10)は、軸心方向での中間部ほど外径寸法が小径になるようにその外周面を形成してあり、被研磨部分となる板ガラス(3)の端面部(3a)が、外方に突出した曲面形状に研磨されるように構成してある。そして、前記円筒ホイール(10)の外周面は、#200番手より細かな研磨部に形成してある。
【0035】(略)
【0036】さらには、研磨工程での研磨方向は、板ガラス(3)の端面部(3a)の長手方向に沿って設定してあるから、研磨に伴う筋(キズ)は、同様に端面部(3a)の長手方向に沿って形成され、このため板ガラス(3)の板面に沿って作用する熱破壊力等の集中を回避し易くなる。
【0037】前記仕上げ工程は、図2(ロ)に示すように、二軸の回転軸に張り廻されて回転する研磨用ベルト(11)の外周面を使って研磨するバフ磨き方式の研磨方法によって実施するものである。(略)
【0038】次に、前記研磨処理が施された板ガラス(3)に対して熱強化処理を施し、前記板ガラス(3)の全面にわたって表面圧縮応力をほぼ均一に付与させる。(略)」

甲1-1、1-4の記載によれば、甲1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「板ガラスの端面部を加工する研磨工程及び仕上げ工程と、仕上げ工程後の板ガラスを熱強化する熱強化処理とを含む、熱強化板ガラスの製造方法であって、
板ガラスの端面部を長手方向に沿って研磨する研磨工程と、
板ガラスの端縁部分である端面部と板ガラス表裏の平面部との境部を研磨する仕上げ工程と、を有し、
板ガラスの全面にわたって表面圧縮応力が17?25kgf/mm^(2)である熱強化板ガラスの製造方法」

2.発明の対比

本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「板ガラス」、「熱強化板ガラス」、「熱強化処理」はそれぞれ本件発明1の「ガラス板」、「強化ガラス」、「物理強化処理」に相当する。
甲1の図2の記載も参酌すると、板ガラスの端縁部分である端面部と板ガラス表裏の平面部との境部を研磨する仕上げ工程によって形成される加工面は本件発明1の「稜部」に相当し、引用発明の「研磨工程」、「仕上げ工程」はそれぞれ「端面研磨工程」、「稜部研磨工程」に相当するとともに、引用発明の「研磨工程及び仕上げ工程」が本件発明1の「端部加工工程」に相当する。

以上を総合すると、本件発明1と引用発明とは
「ガラス板の端部を加工する端部加工工程と、前記端部加工工程後のガラス板を物理強化処理する物理強化処理工程とを含む強化ガラスの製造方法であって、
前記端部加工工程は、
前記端部の端面を、前記ガラス板の稜線方向と平行に研磨する端面研磨工程と、
前記端部の稜部を研磨して、稜部研磨面を形成する稜部研磨工程と、を有る強化ガラスの製造方法」である点で一致し、以下の4点(以下、各々「相違点1?4」という。)で相違する。
(以下において、「kgf/mm^(2)」、「kgf/cm^(2)」、「kg/cm^(2)」(「kgf/cm^(2)」の誤記と思われる。)、「N/mm^(2)」で記載されているものについて、「MPa」に変換した値を併記する。)

相違点1:本件発明1は、所定寸法に切断されたガラス板の厚さが3mm以上6mm未満であるのに対し、引用発明は板ガラスを所定寸法に切断すること、及び、板ガラスの厚さが不明な点。

相違点2:本件発明1は、ガラス板のガラス板面と稜部のなす角度が135度以上170度以下であるのに対し、引用発明は、板ガラスの表面と仕上げ加工された面とのなす角度が不明な点。

相違点3:本件発明1は、稜部研磨面とガラス板面とでなす角部に有するカケの稜線方向の長さが200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅が100μm以下であるのに対し、引用発明にはカケのサイズが不明な点。

相違点4:本件発明1は、ガラス板の端面から面内側へ50mm以内の領域における表面の圧縮応力が、
板厚が3.0mm以上3.5mm未満で70MPa以上130MPa以下、 板厚が3.5mm以上4.5mm未満で75MPa以上135MPa以下、 板厚が4.5mm以上5.5mm未満で85MPa以上140MPa以下、板厚が5.5mm以上6.0mm未満で95MPa以上150MPa以下であるのに対し、引用発明は、板ガラスの表面圧縮応力が全面にわたってほぼ均一で17?25kgf/mm^(2)(166.7?245.2MPa)である点。

3.相違点の判断

事案に鑑み、相違点4から検討するに、甲1には、甲1-2、1-3に記載されているように、表面圧縮応力の下限値の17kgf/mm^(2)(166.7MPa)が単なる設計的事項ではなく、当該数値を下限値とすることに所望のエッジ強度を確保するという技術的意義が記載されているから、引用発明に150MPa以下の表面圧縮応力値を採用することには阻害要因が存在している。

これに関し、甲3には、【0023】に、「これら熱強化処理条件を勘案すると、実操上、ガラス板の加熱温度を該ガラスの粘度が109ポイズに相当する温度、またはそれ以下の温度であって、ガラス板の表面圧縮応力は2400Kg/cm^(2)(235.4MPa)以下とするのが適正である。なお表面圧縮応力が1700Kg/cm^(2)(166.7MPa)未満では耐火安定性、再現性を考慮すれば乙種防火戸用として推奨し難い。」と記載されているが、表面圧縮応力を150MPa以下とすることは記載されていない。
一方、甲4には、【0034】に、「さらに、前述の端面の加工を行わず稜部のみ#500番で研磨する実施例の方法で、寸法1200×1700mmのソーダライムガラスを、呼称板厚8mmと6mmの2種類製作し、JISR3222倍強度ガラスに記載の示差屈折計によりJISR3222に示された測地点での測定の平均での表面圧縮応力が約1500kgf/cm^(2)(147.1MPa)になるように、それぞれ熱強化処理を施した。この結果、端面より50mmまでの部分での熱処理による表面圧縮応力が1500kgf/cm^(2)(147.1MPa)以上となり、この熱強化処理を施した2種類のガラスを、建設省告示第1125号による乙種防火戸試験を実施したところ、何れも良好な結果が得られた。なお、防火戸試験はガラスのかかり代を約10mmで実施した。」と記載されており、甲5には、【0005】に、「こうしたガラスの高い熱膨脹係数は、前記板ガラスが、板ガラスの厚さに関係なく、一様な120N/mm^(2)(120MPa)の高い圧縮応力、該板ガラスの該冷たい縁部と該熱い中央部の間で、単に約200?220Kの温度差抵抗(TUF)を持つことを意味するものである。」と記載されており、甲6には、第3頁右上欄第21行?第3頁左下欄第1行に、「本発明に従い、この目的は、厚さ1.5から4ミリメートルの少なくとも1のガラス板から成り、熱的な強化処理を受けるガラスであって、表面圧縮応力が40から100MPa、好ましくは50から70MPa、更に好ましくは60から65MPaであるような中央領域と、50から100MPaの縁部応力を有する縁部領域と、ガラス板全厚に配置される、10MPaより小さい引張応力に対応する異方性の厚さ応力を有する、中央領域及び縁部領域の間に配置される中間領域、とを有するガラスによって達成される。」と記載されており、表面圧縮応力を150MPa以下とする記載がある。
しかしながら、甲4?6には、甲1に記載されているように、熱強化板ガラスに用いるために必要なエッジ強度となるように、板ガラスの表面圧縮応力を他のエッジ強度の増加成分を考慮した範囲にするという技術思想についての記載も示唆もない。

してみると、甲3?6の記載では、表面圧縮応力を150MPa以下とすることについて阻害要因を有する引用発明において、相違点4を解消することが当業者にとって容易になし得たこととはいえない。
なお、甲2、7?9には、ガラス板の表面圧縮応力に関する記載がない。

したがって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1?9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2?6についても同様である。

さらに、本件発明7と引用発明の製造方法により得られた熱強化板ガラスとを対比すると、本件発明1の相違点4と同様の相違点が存在するため、本件発明1と同様に、本件発明7は、甲1?9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第5 むすび

したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-29 
出願番号 特願2008-529826(P2008-529826)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
後藤 政博
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5799482号(P5799482)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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