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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07K
管理番号 1319199
異議申立番号 異議2016-700412  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-10 
確定日 2016-09-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第5807140号発明「合成ペンタペプチドの製造法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5807140号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5807140号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年12月19日に特許出願され、平成27年9月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人高瀬彌平により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5807140号の請求項1?4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、特許第5807140号の請求項1?4の特許に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等という。)。

第3 申立て理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1?19号証(以下、各甲号証を,甲第1号証から順に「甲1」,「甲2」・・・と略記する。)を提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである旨主張している。

甲1:特許第5212371号公報
甲2:国際公開第2013/184794号
甲3:第4版実験化学講座22有機合成IV、社団法人日本化学会、平成4年11月30日発行、p. 274、275、280-283
甲4::“Cara Therapeutics Reports Positive Results from Phase 2 Clinical Trial of Novel Peripherally-Acting Kappa Opioid Receptor Agonist,I.V. CR845, for Post-Operative Pain Following Bunionectomy (カラ セラピューティクスは新規末梢作用性カッパーオピオイドアゴニストであるI.V. CR845の腱膜瘤切除後の手術後の痛みに関する第2相臨床試験のポジティブな結果を報告する)”、[online]、Cara Therapeutics, Inc.、2013年10月29日、[2016年4月22日検索]、インターネット<URL:http://www.caratherapeutics.com/files/Cara%20Press%20Release%20--%2010.29.13.pdf>
甲5:“Cara Therapeutics Successfully Completes Phase I Study With Oral Formulation of Its Novel Kappa Opioid Receptor Agonist, CR845 (カラ セラピューティクスはその新規カッパーオピオイドアゴニストであるCR845の経口製剤の第1相試験が成功裏に完了した)”、[online]、Cara Therapeutics, Inc.、2012年4月3日、[2016年4月22日検索]、インターネット<URL:http://www.caratherapeutics.com/cr845-phasel-complete-release. shtml >
甲6::“A phase Ia trial of the peripherally acting κ opioid agonist CR 845* has successfully been completed. (末梢作用性カッパーオピオイドアゴニストであるCR845の第1 a相試験が成功裏に完了した)”、[online]、Inpharma Weekly, Volume 1651,Issue 1,p10、2013年2月2日、[2016年4月22日検索]、インターネット<URL:http://rd.springer. com/article/10.2165/00128413-200816510-00018>
甲7:“新型外周Kappa阿片受体激劫剤CR845在II期臨床試験中荻阻性結果(新規末梢作用性カッパーオピオイドアゴニストであるCR845は第2相臨床試験のポジティブな結果を得た)”、[online]、Progress in Pharmaceutical Sciences 36(6)285頁、2012年、[2016年4月22日検索]、インターネット<URL:http://med.wanfangdata.com. cn/Paper/Detail?id=PeriodicalPaper_yxjz201206010>
甲8-1:“Cara Therapeutics Enters Into Development and Commercial Alliance with Maruishi for Novel Kappa Opioid Agonist, CR845, in Japan”、[online]、2013年4月29日、[2016年5月9日検索]、インターネット<URL:http://files.shareholder. com/downloads/AMDA-2C4IM7/2031302117x0x707447/19850397-6A87-4F85-86A2-5AD86E96EAAA/CARA_News_2013_4_29_General_Releases. pdf>
甲8-2:“丸石製薬株式会社とCara Therapeutics, Inc.における新規κオピオイドアゴニスト、CR845に関するライセンス契約締結のお知らせ”、[online]、2013年4月26日、[2016年4月22日検索]、インターネット<URL:http:// www.maruishi-pharm.co.jp/pdf/20130426.pdf>
甲9:第4版実験化学講座22有機合成IV、社団法人日本化学会、平成4年11月30日発行、p. 214-215
甲10:特表2001-515086号公報
甲11:特開2004-131452号公報
甲12:特許第5757641号公報
甲13:特許第5244810号公報
甲14:特開平5-186499号公報
甲15:特開平5-222092号公報
甲16: James A. Monnら、“Synthesis and Metabotropic Glutamate Receptor Activity of S-Oxidized Variants of (-)-4- Amino - 2 - thiabicyclo - (3.1.0)hexane - 4,6 -dicarboxylate : Identification of Potent, Selective, and Orally Bioavailable Agonists for mGlu2/3 Receptors”、J. Med. Chem. 2007、50、p.233-240
甲17:国際公開第2014/009295号(第227及び228、380、381頁)
甲18:富岡清(訳者代表)、(株)化学同人、ブルース有機化学(第5版)〔下〕、2014年3月1日第5版第7刷発行、p.1154-1159
甲19:第5版実験化学講座16有機化合物の合成IV、平成17年3月31日発行、p.272-273

ところで、特許異議申立書8頁最終行?9頁5行及び28?29頁「5.証拠方法」の(6)の記載によれば、甲6は、Inpharma Weekly, Vol.1のIssue 1, p.10であり、2013年2月2日に発行されたものであるが、特許異議申立書に甲6として添付された書類には、号及び頁が記載されておらず、また、「Inpharma 1651 - 16 Aug 2008」との題目が記載され、下から1?2行に「CR845. Media Release : 5 Aug 2008」と記載されていることからみても、特許異議申立書に添付された書類が甲6であるとは認められない。したがって、甲6の内容を確認することができない。
また、特許異議申立書16頁最終行?17頁2行及び28?29頁「5.証拠方法」の(19)の記載によれば、甲19は、第4版実験化学講座16有機化合物の合成IVであるが、甲19として特許異議申立書に添付された書類は、第5版実験化学講座16有機化合物の合成IVであり、版が異なる。しかしながら、特許異議申立書の上記頁の記載によれば、甲19は平成17年3月31日に発行されたものであるところ、これは特許異議申立書に添付された第5版の発行日と同日であり、また、通常、新版と旧版が同日に発行されることはないことも考慮すると、特許異議申立書に記載の「第4版実験化学講座16有機化合物の合成IV」は、「第5版実験化学講座16有機化合物の合成IV」の誤記と認められる。

第4 刊行物の記載
(1) 甲1
甲1は、ペプチドの製造方法について記載された文献であり、H_(2)N-AA_(m)-AA_(m-1)-AA_(m-2)-........-AA_(1)-O-PG_(0)で表されるC-保護ペプチド(P_(m))(段落【0027】)が記載され、AAはアミノ酸残基(段落【0012】)、mは目的とするペプチドのアミノ酸残基数(段落【0028】)、PG_(0)はメチル等のペプチドのC末端カルボキシル基の保護基(段落【0012】、【0065】、【0073】、【0074】)であることも記載されている。また、最終脱保護工程で、C-保護ペプチド(P_(m))のカルボキシ保護基および側鎖官能基が保護されている場合は当該保護基を脱保護することにより、H_(2)N-AA_(m)-AA_(m-1)-AA_(m-2)-........-AA_(1)-OHで表される目的のペプチド(P)が得られること(段落【0026】、【0027】)が記載され、さらに、該最終脱保護工程で、保護された側鎖アミノ基を脱保護すること(段落【0065】)も記載されている。
そうすると、甲1には、下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「H_(2)N-AA_(m)-AA_(m-1)-AA_(m-2)-........-AA_(1)-O-PG_(0)で表される中間体(P_(m))であって、ここで、AAはアミノ酸残基、mは目的とするペプチドのアミノ酸残基数、PG_(0)はメチルであるC-保護ペプチド(P_(m))」

(2) 甲2
甲2は、「疼痛及び炎症を減少するための末梢κ受容体アゴニスト」(甲2は英語であるため、合議体による訳文で示す)と題される文献であり、用いられる合成ペプチドとして、D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OHなる構造であるCR845が記載されている(段落[0076])。
そうすると、甲2には、下記の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OHなる構造であるCR845」

(3) 甲13
甲13は、Fmoc-D-Phe-OH、Fmoc-D-Leu-OH、Fmoc-D-Lys(Boc)-OH、Boc-4-アミノ-1-Fmoc-(ピペリジン)-4-カルボン酸から、D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OHで表される化合物(2)を調製したこと(段落【0243】?【0248】)が記載されている。また、上記化合物(2)の調製において、レジンに結合した保護ペプチドを、TFA/水を用いてレジンから切断するが、これはBoc保護基も除去する役目を果たしたこと、得られた混合物を濾過、濃縮、沈殿後に化合物(2)の粗ペプチドが得られたことが記載されている(段落【0247】)。該記載及び原料化合物の構造から、上記レジンに結合した保護ペプチドは、化合物(2)において、C末端がレジンに結合し、Lysの側鎖アミノ基と、ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)のアミノ基がBocで保護された構造を有するものであるといえる。
そうすると、甲13には、下記の発明(以下、「甲13発明」という。)が記載されているといえる。
「D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys(Boc)-[ω(4-Bocアミノピペリジン-4-カルボン酸)]-O-レジン」

(4) 甲3?5,7?19
甲3?5,7?19には、それぞれ下記技術的事項が記載されている。
甲3には、カルボキシル末端に立体障害の大きいバリンやイソロイシンのようなアミノ酸残基がくるとけん化速度が著しく遅くなる傾向があることが記載されている(274頁)。また、液相法でオリゴペプチドを合成する場合であって、α-アミノ基をTFAで除去できる保護基で保護し、側鎖官能基をTFAに対して安定でかつHF等の強酸で除去される保護基で保護する方法(A法)で、さらに、C末端でセグメント縮合を行わない場合は、短鎖ペプチドであればメチルエステルやエチルエステルとしておき、合成終了後にけん化して脱保護することや、液相法における保護基の組合せが記載されている(282?283頁)。
甲4、5、7には、CR845を有効成分とする医薬の臨床試験について記載されている。
甲8-1及び8-2には、カラ セラピューティクスと丸石製薬株式会社で締結されたCR845の開発や業務提携、又は、ライセンス契約について記載されている。
甲9には、目的のペプチドが大量に必要であったり、特殊なアミノ酸を含む場合のペプチド合成には、液相法が有用であることが記載されている(215頁2?4行)。
甲10は、オリゴヌクレオチドの合成において、中サイズの特定配列がすでに同定され、薬物として承認され、キログラム量が求められる場合は、溶液での合成が有利であることが記載されている(段落【0001】、【0005】)。
甲11には、固相法は液相法と比べて精製が簡便であり、普及率も高いが、固相法は大スケールの合成が困難であり、また、固相法は液相法と比べて反応性が低いという従来技術に対し、高度にフッ素化された誘導体と、該高度にフッ素化された誘導体をペプチド合成用担体として用いてペプチドを製造する方法を提供することが記載されている(段落【0002】、【0004】)。
甲12は、RNAの製造において、液相合成は大量合成に適していることが記載されている(段落【0013】)。
甲14には、Arg-Leu-Asp-Serで表される化合物1の合成において、Boc-Arg(Z_(2))-Leu-Asp(OBn)-Ser(OBn)-OBnで表される化合物(1e)を、トリフルオロ酢酸(TFA)と反応させ、次いで10%パラジウム炭素を加え加水素分解を行ったことが記載されている(段落【0020】、【0045】、【0046】、【0052】)。
甲15には、t-Boc-Arg(Z)_(2)-Gly-Asp(OBzl)-Ser(Bzl)-OBzlで表される化合物(1e)をTFAと反応させ、化合物(1e)の脱t-Boc体を得、次いで無水コハク酸と反応させ、さらに、10%パラジウム炭素を加えて加水素分解を行うことにより、Suc-Arg-Gly-Asp-Serで表される化合物1を合成したことが記載されている(段落【0038】、【0045】?【0047】)。
甲16には、4-アミノ-2-チアビシクロ[3.1.0]ヘキサン-4-カルボン酸-2-オキシド誘導体の合成において、2-チアビシクロ[3.1.0]ヘキサン環の4位に-CO2Meと-NHBocが置換した化合物から、Boc基を先に脱保護し、次いでメチル基を脱保護する方法が記載されている(Scheme 1)。
甲17には、4位に-CO2Hと-NH2が置換したピペリジン環を有するイミダゾピリジン誘導体の合成において、4位に-CO2Meと-NHBocが置換したピペリジン環を有するイミダゾピリジン誘導体から、Boc基を先に脱保護し、次いでメチル基を脱保護する方法が記載されている(227?228頁中間体241及び中間体242,380?381頁実施例214)。
甲18には、Merrifieldの自動固相合成について記載されている(1158?1159頁)。
甲19には、けん化による保護基の除去について、反応時間は短い方がよく、あまり長くなるとペプチド結合の分解が生じるので注意することが記載されている(272頁「C.けん化による保護基の除去」)。

第5 判断
(1) 本件特許発明1について
ア 甲1を主引用発明とする場合
(ア) 特許異議申立人は、本件特許発明1は、(A)甲1及び2、(B)甲1、2及び3、(C)甲1、2及び9、(D)甲1、2及び10、(E)甲1、2及び3?8(さらには9?12)、に対する進歩性がないと主張している。
なお、上記第3に記載したとおり、甲6は、その内容を確認することができないため、以下の対比・判断では、甲6については言及しない。

(イ) 対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、N末端が脱保護され、C末端がメチルで保護されたC-保護ペプチドである点で一致し、甲1には本件特許発明1の式(1)で表される化合物についての具体的な記載がない点で相違する。
上記相違点について、以下に検討する。
甲2によれば、ペプチド化合物であるCR845は、本願優先日前に公知であったといえる。そして、CR845は本件特許における式(A)で表される化合物に該当する(以下、CR845を「本件化合物(A)」という。)。そうすると、甲1に記載のペプチドの製造方法により製造する目的ペプチド(ペプチド(P))として、本願優先日前に公知であった本件化合物(A)を選択することは一応容易であるともいえる。そして、甲1に記載の製造方法では、N末端の保護基がC末端の保護基よりも先に脱保護されるのであるから、甲1に記載の製造方法によって本件化合物(A)を製造しようとする場合、その中間体となるペプチドの構造として、本件化合物(A)のN末端が脱保護され、かつ、C末端にメチル基等の保護基が結合した構造を想到することまでは容易といえる。しかし、甲1、甲2のいずれにも、本件特許発明1の化合物のように、N末端及び側鎖のアミノ基がともに保護基が結合していないアミノ基であり、かつ、C末端に保護基が結合している構造を示唆する記載はないし、かかる構造が必然的にもたらされるような製造工程、すなわち、側鎖アミノ基の保護基をC末端保護基よりも優先的に脱保護することを示唆する記載もないから、甲1発明及び甲2発明から本件特許発明1が容易に発明し得たものとはいえない。なお、甲1には、上記第4(1)甲1で摘示したとおり、ペプチドに側鎖アミノ基が存在する場合、最終脱保護工程において、カルボキシ保護基及び側鎖アミノ基の保護基を脱保護させることが記載されているが、かかる記載は、側鎖アミノ基の保護基とC末端保護基の脱保護の順序について何らの教示を与えるものではないから、かかる記載が、上記の構造が必然的にもたらされるような製造工程を示唆するものであるとはいえない。
さらに、甲3?5、7?12にも、側鎖アミノ基を有するペプチドの合成において、側鎖アミノ基の保護基をC末端保護基よりも優先的に脱保護することを当業者に想到させる記載はない。
すなわち、甲3には、カルボキシル末端に立体障害の大きいバリンやイソロイシンのようなアミノ酸残基がくるとけん化速度が著しく遅くなる傾向があることが記載されているが、この記載は保護基とは無関係のものであるし、本件化合物(A)はカルボキシル末端にバリンやイソロイシンを有する化合物でもないから、甲3の記載は脱保護の順序とは関係のないものである。
甲4、5、7?8-2は、CR845、すなわち、本件化合物(A)を有効成分とする医薬の開発状況について記載するものであるが、本件化合物(A)の製造方法に関する記載はない。
甲9には、目的のペプチドが大量に必要であったり、特殊なアミノ酸を含む場合は液相法が有利なことが記載されているが、本件化合物(A)についての記載はなく、また、脱保護についての記載もない。
甲10の記載は、オリゴヌクレオチドの合成方法についての記載であり、ペプチド合成とは関係がない。
甲11には、固相法は大スケールの合成が困難であること、及び、固相法は液相法と比べて反応性が低いことが記載されているが、その課題を解決する手段としては、新規なペプチド合成用担体と、該ペプチド合成用担体を用いたペプチドの製造方法について記載されるのみで、甲1発明のような液相法に係る記載はない。
甲12の記載は、RNAの合成方法についての記載であり、ペプチド合成とは関係がない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、上記(ア)(A)?(E)のいずれの文献の組合せに基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許異議申立人の主張には根拠がない。

イ 甲2を主引用発明とする場合
(ア) 特許異議申立人は、本件特許発明1は、甲2及び3に対する進歩性がないと主張している。

(イ) 対比・判断
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、ペプチド化合物のC末端が、本件特許発明1ではR^(1)(アルキル基、アラルキル基)で保護されているのに対し、甲2発明では遊離のカルボキシル基である点で相違する。
上記相違点について検討するに、甲3には、短鎖のペプチドであれば、C末端はメチルエステルやエチルエステルとしておき、合成終了後にけん化して遊離のカルボン酸へと導けばよいことが記載されているが、一方で、甲3にはアミノ基等の側鎖の反応性官能基は保護しておかなければならないこと(281頁下から4行?282頁14行、表2・2)も記載されている。そして、甲2発明は、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を構成アミノ酸とするものであるから、甲2発明の製造において、甲3に記載の合成方法を適用したとしても、C末端と側鎖アミノ基の両者が保護された中間体化合物が得られるに過ぎず、該中間体化合物は本件特許発明1の化合物とは異なる。また、甲3には、C末端と側鎖アミノ基の脱保護の順序についての記載はないから、C末端と側鎖アミノ基の両者が保護された中間体化合物から、側鎖アミノ基の保護基を脱保護し、C末端のみ保護された化合物を得ることの動機付けはない。

したがって、本件特許発明1は、甲2及び3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許異議申立人の主張には根拠がない。

ウ 甲13を主引用発明とする場合
(ア) 特許異議申立人は、本件特許発明1は、甲1?18に対する進歩性がないと主張している。
なお、上記第3に記載したとおり、甲6は、その内容を確認することができないため、以下の対比・判断では、甲6については言及しない。

(イ) 対比・判断
本件特許発明1と甲13発明とを対比すると、両者は、ペプチド化合物のC末端が、本件特許発明1ではR^(1)(アルキル基、アラルキル基)で保護されているのに対し、甲13発明ではレジンである点、側鎖のアミノ基が、本件特許発明1では遊離のアミノ基であるのに対し、甲13発明ではBoc保護基で保護されたアミノ基である点で相違する。
上記相違点について検討すると、下記に指摘するように、甲1?5、7?12、14?18には、甲13発明における「レジン」を本件発明1のR^(1)に相当する保護基に変更し、かつ、甲13発明におけるBocで保護されたアミノ基を遊離のアミノ基に変更することを当業者に想到させる記載はない。
すなわち、甲1、甲3及び甲9には、液相法によるペプチド合成が記載されているが、N末端保護基が脱保護され、C末端と側鎖アミノ基の両者が保護されている場合の脱保護の順序についての記載はなく、側鎖アミノ基が存在する場合に、側鎖アミノ基の保護基が脱保護され、C末端のみ保護されている化合物を得ることの記載はない。
甲2には、本件化合物(A)と同じ構造の化合物がCR845として記載されているが、その製造方法についての記載はない。
甲4,5,7?8-2には、CR845が医薬として開発されていたことが記載されているが、その製造方法についての記載はない。
甲10の記載は、オリゴヌクレオチドの合成方法についての記載であり、ペプチド合成とは関係がない。
甲11は、固相法は大スケールの合成が困難であること、及び、固相法は液相法と比べて反応性が低いことが記載されているが、その課題を解決する手段としては、新規なペプチド合成用担体と、該ペプチド合成用担体を用いたペプチドの製造方法について記載されるに過ぎない。
甲12の記載は、RNAの合成方法についての記載であり、ペプチド合成とは関係がない。
甲14及び甲15は、本件化合物(A)とは異なる短鎖ペプチドの液相合成法において、先にN末端を脱保護し、次いでC末端を脱保護して製造する方法が記載されているが、この順で脱保護を行った理由は記載されておらず、ペプチド合成一般において、この順に脱保護を行うことが周知であるとはいえない。また、C末端保護基及び側鎖保護基の脱保護を10%パラジウム炭素を用いた加水素分解、すなわち接触還元により行っているが、これは、例えば甲3や甲16、甲17に記載されたけん化とは異なる反応である。
甲16及び甲17は、CO_(2)MeとNHBocが隣接する中間体において、N末端のBoc基を先に脱保護し、次いでC末端のメチル基を脱保護する方法が記載されているが、上記の順で脱保護を行った理由については記載されていない。また、用いられている化合物は本件化合物(A)とは異なるものであるし、ペプチド化合物でもないから、甲16及び甲17の記載をもって、ペプチド合成一般において、上記の順で脱保護を行うことが周知であるとはいえない。
甲18は、Merrifieldの自動固相合成において、N末端の脱保護に次いで、C末端を脱保護することが記載されているが、液相法についての記載はない。

したがって、本件特許発明1は、甲13及び甲1?5、7?12、14?18に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許異議申立人の主張には根拠がない。

エ 効果について
(ア) 特許異議申立人は、甲3及び甲19の記載から、反応時間が長いと純度が低くなることは当然に予想されることであること、本件特許明細書に記載された比較例1は、反応時間が長く、実施例と比較して、得られる化合物の純度が低くなるような悪条件下で行われているものであるから、正当な対比実験ではないこと等を述べ、本件特許発明1の効果は、当業者に予想外のものではない旨主張している。

(イ) しかしながら、上記(1)ア?ウに記載したとおり、甲1?19は、本件特許発明1の化合物を中間体化合物とする本件化合物(A)の製造方法について教示するものではなく、当該方法とすることにより、反応時間が短くなり、本件化合物(A)が高い純度で得られることも、甲1?19には何ら記載されていないから、特許異議申立人の主張には根拠がない。

(2) 本件特許発明2?4について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1?5、7?19に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明4は、請求項1?3のいずれかに記載の化合物又はその塩を出発物質とする、式(A)で表される化合物又はその塩の製造法であるところ、上述のとおり、請求項1?3に記載の化合物は、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、該化合物を出発物質とする本件特許発明4についても、甲1?5、7?19に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 甲6について
甲6は、上記第3に記載したとおり、その内容を確認することができないが、仮に、甲6が、特許異議申立書に甲6として添付された書類であることが明らかになったとしても、甲6は、CR845を有効成分とする医薬の臨床試験が行われていることを開示する文献であり、甲4,5,7と同様の技術的事項を示す文献に過ぎないから、上記の判断に影響するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-02 
出願番号 特願2015-524274(P2015-524274)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 荒木 英則  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 新留 素子
福井 美穂
登録日 2015-09-11 
登録番号 特許第5807140号(P5807140)
権利者 丸石製薬株式会社
発明の名称 合成ペンタペプチドの製造法  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 高野 登志雄  
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