• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1319202
異議申立番号 異議2016-700332  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-20 
確定日 2016-09-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5798922号発明「インサート成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5798922号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5798922号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成22年8月19日に国際特許出願され(優先権主張平成21年8月21日、日本国)、平成27年8月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人澤山政子により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年6月16日付けで取消理由を通知し、平成28年8月17日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明は、以下のとおりである。

【請求項1】
アクリル樹脂で形成されたフィルムおよび基材を含み、基材は下記式(a)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂により形成された成形品。
【化1】

【請求項2】
ポリカーボネート樹脂は、240℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート6080sec^(-1)の条件下で0.01×10^(3)?0.30×10^(3)Pa・sの範囲にある請求項1記載の成形品。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂中の式(a)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の含有量は、全カーボネート結合単位に対して100?30モル%である請求項1記載の成形品。
【請求項4】
(i)アクリル樹脂で形成されたフィルムを金型内にインサートし、
(ii)下記式(a)
【化2】



で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂を金型内に射出し成形する、
各工程を含むインサート成形品の製造方法。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂は、240℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート6080sec^(-1)の条件下で0.01×10^(3)?0.30×10^(3)Pa・sの範囲にある請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂中の式(a)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位の含有量は、全カーボネート結合単位に対して100?30モル%である請求項4記載の製造方法。

3.取消理由の概要
当審において、請求項1ないし6に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

本件特許の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.特開2005-139416号公報
2.特開2009-74029号公報
3.特開2009-1704号公報
4.角岡正弘「光硬化物の評価および硬化過程の追跡」コンバーテック2008年8月号、株式会社加工技術研究会、2008年8月15日発行、38?41ページ
5.福島洋「プラスチック基材の耐擦傷性を改善するハードコート材料」機能材料2002年2月号、株式会社シーエムシー出版、2002年1月5日発行、30?35ページ
6.特開2009-79190号公報

請求項1?6に係る発明は、主たる証拠である甲1に、甲2又は甲3を組み合わせることにより、容易想到である。

4.甲各号証の記載
甲1号証には、以下が記載されている。

「【請求項1】
巾20mmの試験片を初期のチャック間距離25mm、速度50mm/min、温度23℃の条件で、終点のチャック間距離33mmとなるように引張試験を行った後の試験片をJIS K7136(曇価の測定方法)の試験方法にて測定した値と、試験前の試験片をJIS K7136(曇価の測定方法)の試験方法にて測定した値との差が30%以下であり、かつ、鉛筆硬度(JIS K5400に基づく測定)が2B以上であるアクリル樹脂フィルム状物(A)。
【請求項2】
少なくとも片面の60°表面光沢度が100%以下である請求項1記載のアクリル樹脂フィルム状物(A)。
【請求項3】
熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上である請求項1または2記載のアクリル樹脂フィルム状物(A)。
【請求項4】
さらに、少なくとも片面に加飾層を有する請求項1?3のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム状物(A)。」

「【請求項12】
請求項1?4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム状物(A)、請求項5または6記載のアクリル樹脂積層フィルム、請求項7または8記載の光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシート、請求項9または10記載の積層フィルムまたはシート、及び、請求項11記載の建材用積層フィルムまたはシートからなる群より選ばれる1つを、基材(E)に積層したことを特徴とする積層成形品。
【請求項13】
請求項1?4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム状物(A)、請求項5または6記載のアクリル樹脂積層フィルム、請求項7または8記載の光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシート、請求項9または10記載の積層フィルムまたはシート、及び、請求項11記載の建材用積層フィルムまたはシートからなる群より選ばれる1つに、射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施し、その後、該射出成形金型内で前記基材(E)となる樹脂を射出成形して一体化することにより得られる請求項12記載の積層成形品。
【請求項14】
請求項1?4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム状物(A)、請求項5または6記載のアクリル樹脂積層フィルム、請求項7または8記載の光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシート、請求項9または10記載の積層フィルムまたはシート、及び、請求項11記載の建材用積層フィルムまたはシートからなる群より選ばれる1つに、真空成形または圧空成形を施し、その後、射出成形金型内に挿入し、該射出成形金型内で前記基材(E)となる樹脂を射出成形することにより得られる請求項12記載の積層成形品。」

「【0001】
本発明は、アクリル樹脂フィルム状物、アクリル樹脂積層フィルム、光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシート、積層フィルムまたはシート、及び、これらを積層した積層成形品に関する。」

「【0049】
本発明は、インサート成形またはインモールド成形を施した時に、成形品が白化しない、かつ車輌用途に用いることができる表面硬度、耐熱性、および透明性または艶消し性を有するアクリル樹脂フィルム状物またはアクリル樹脂積層フィルムを提供することを目的とする。また、インサート成形またはインモールド成形を施した時に、成形品が白化しない、かつ車輌用途に用いることができる耐熱性、耐擦傷性、表面硬度を有する光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシートまたは積層フィルムまたはシートを提供することを目的とする。また、寒冷地でVカット加工やラッピング加工等の加工を施す工程において成形品が白化しない、かつ耐擦傷性、耐艶戻り性を満足する建材用積層フィルムまたはシートを提供することを本発明の目的とする。さらに、本発明は、これらを基材に積層した積層成形品を提供することを目的とする。」

「【0333】
<積層フィルムまたはシート、及び、積層成型品>
本発明では、本発明の、アクリル樹脂フィルム状物(A)、アクリル樹脂積層フィルム、及び、光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシートからなる群より選ばれる1つを、基材(E)に積層した積層成形品とすることができる。あるいは、本発明の、アクリル樹脂フィルム状物(A)、アクリル樹脂積層フィルム、及び、光硬化性アクリル樹脂フィルム又はシートからなる群より選ばれる1つと、熱可塑性樹脂層(C)とを有する積層フィルムまたはシートを、基材(E)に積層した積層成形品とすることもできる。例えば、真空成形または圧空成形等の予備成形を施し、予備成形品を別の金型内に挿入した後、基材である樹脂を射出成形しアクリル積層成形品を得るインサート成形法の場合は、積層フィルムまたはシートを用いることが好ましい。」

「【0361】
基材(E)となる樹脂は、種類は問わず、公知の全ての樹脂が使用可能である。そのような樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、エチレン-プロピレン共重合体樹脂、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン系共重合体)系樹脂、AS(アクリロニトリル/スチレン系共重合体)系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等の汎用の熱可塑性または熱硬化性樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂等のスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。」

甲2号証には、以下が記載されている。

「【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含有するポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、充填材(B成分)1?200重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】




「【0001】
本発明は、新規なポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。更に詳しくは、生物起源物質である糖質から誘導され得る部分を含有し、耐熱性と熱安定性のいずれも良好で、剛性および寸法安定性に優れ、各種成形材料やポリマーアロイ材料の素材として有用なポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。」

「【0094】
<電気・電子機器外装部品の製造について>
本発明の樹脂組成物から形成される電気・電子機器外装部品は、シリンダー温度220?270℃の範囲で射出成形して得ることができる。ポリマーの分解による着色や分子量低下を抑制するために、この温度範囲は230?260℃の範囲がより好ましく、230?250℃の範囲が更に好ましい。シリンダー温度が270℃を超えると、ポリマーの分解が大きく促進されてしまう。金型温度は40?140℃の範囲で好ましく行うことができるが、成形サイクルを短縮し、樹脂の溶融滞留時間を短くするため、40?120℃がより好ましく、さらに好ましくは40?100℃の範囲である。
【0095】
該電気・電子機器外装部品を得るための射出成形に関しては、通常のコールドランナー方式の成形法だけでなく、ホットランナー方式の成形法も可能である。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。」

「【0099】
該自動車部品を得るための射出成形に関しては、通常のコールドランナー方式の成形法だけでなく、ホットランナー方式の成形法も可能である。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。」

甲3号証には、以下が記載されている。

「【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位からなり、250℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600sec^(-1)の条件下で0.2×10^(3)?4.0×10^(3)Pa・sの範囲にあるポリカーボネート樹脂(A成分)を、シリンダー温度220?270℃の範囲で射出成形して得られる射出成形品。
【化1】




「【0001】
本発明は、特定のポリカーボネート樹脂からなる射出成形品に関する。更に詳しくは、特定のポリカーボネート樹脂を特定の射出成形条件で成形することにより得られた、耐熱性、機械特性、耐環境特性に優れた射出成形品に関する。」

「【0080】
本発明は、バイオマス資源を原料としたポリカーボネート樹脂から得られる成形品であって、良好な耐熱性、機械特性、および耐環境特性を有し、加えて環境負荷の低減された射出成形品であることから、各種光学部材、電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、遊戯具および雑貨などの各種用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。」

5.判断
(1)請求項1に係る発明について
甲1には、「アクリル樹脂で形成されたフィルム(A)を、ポリカーボネート系樹脂を含む全ての樹脂からなる基材(E)に積層した積層成形品」が記載されているが、請求項1に係る発明が特定する、ポリカーボネート系樹脂が、「式(a)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含む(以下「PC-ISS」という)」点は記載がない。
甲2、甲3には、いずれにも「PC-ISSからなる射出成形品」が記載されている。
甲1は、「インサート成形またはインモールド成形を施した時に、成形品が白化しない、かつ車輌用途に用いることができる表面硬度、耐熱性、および透明性または艶消し性を有するアクリル樹脂フィルム状物またはアクリル樹脂積層フィルムを提供することを目的」(段落0049)とし、「アクリル樹脂で形成されたフィルム(A)」に特徴を有している(請求項1?4)。
すなわち、基材(E)は、甲1の段落0361に示されるごとく、「全ての樹脂」から選択すれば良いものであり、多くの種類がありうる。
甲2、甲3には、「PC-ISSからなる射出成形品」が記載されているものの、甲1に記載された発明である「アクリル樹脂で形成されたフィルム(A)を、ポリカーボネート系樹脂を含む全ての樹脂からなる基材(E)に積層した積層成形品」において、多くの種類の樹脂から選択可能な基材(E)を、PC-ISSとする動機を見出すことはできない。

申立人は、PC-ISSは、剛性、表面硬度に優れるから、甲1に記載された発明に適用する動機がある旨、主張する。
しかし、剛性、表面硬度に優れる樹脂は、PC-ISSのほかにも、特開昭64-69625号公報(乙1)の実施例1の「2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂」、特開平9-52944号公報(乙2)の実施例2の「ビスフェノールC:3,3’-ジヒドロキシビフェニル=82:18のポリカーボネート共重合体」、特開平10-7782号公報(乙3)の実施例1の「25モル%の1,1-ビス-2-ナフトールと75モル%のビスフェノールAとのポリカーボネート共重合体」のように、多くのものが知られているから、あえて、PC-ISSを選択する必然性はない。
申立人の主張は根拠がない。

以上、請求項1に係る発明を、甲1に記載された発明に、甲2又は甲3に記載された事項を適用して、容易に発明をすることができたとすることはできない。

(2)請求項2?6に係る発明について
請求項2?3に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記と同様の理由により、請求項2?3に係る発明を、容易に発明をすることができたとすることはできない。
請求項4?6に係る発明は、請求項1?3に係る発明の「製造方法」であり、いずれも「PC-ISS」であることが特定されているから、上記と同様の理由により、請求項4?6に係る発明を、容易に発明をすることができたとすることはできない。

6.むすび
したがって、上記取消理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-05 
出願番号 特願2011-527728(P2011-527728)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 井上 茂夫
千葉 成就
登録日 2015-08-28 
登録番号 特許第5798922号(P5798922)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 インサート成形品  
代理人 白石 泰三  
代理人 大島 正孝  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ