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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1319212
異議申立番号 異議2016-700439  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-17 
確定日 2016-09-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5815757号発明「軽量、低密度の耐火性石膏パネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5815757号の請求項1ないし26に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5815757号は、平成24年2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年2月25日 米国(US))を国際出願日とする特願2013-555618号について、平成27年10月2日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1-26に係る特許に対し、特許異議申立人 高橋 昌嗣により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明の認定
上記特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1-26に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、請求項ごとに「本件発明1」-「本件発明26」という。)と認められる。

【請求項1】
「2つのカバーシート間に配置された石膏コアを含み、
前記石膏コアは、固まった石膏の結晶母体と、1560°F(約850℃)で1時間加熱された後、元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子とを含み、
前記石膏コアは、水と、スタッコと、スタッコの重量に対して5から10重量%の前記高膨張バーミキュライト粒子と、スタッコの重量に対して0.3から0.9重量%の鉱物繊維、ガラス繊維、炭素繊維、又はそれらの組み合わせとを含むスラリーから形成され、
前記石膏コアは、立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下の密度(D)を有するとともに、少なくとも11ポンド(約5kg)のコア硬度を有し、
前記石膏コアは、ASTM WK25392に基づいて決定したとき、20分以上の断熱指標(TI)を示す、
耐火性石膏パネル。」

【請求項11】
「2つのカバーシート間に配置された石膏コアを含み、
前記石膏コアは、固まった石膏の結晶母体と、1560°F(約850℃)で1時間加熱された後、元の体積の300%以上に膨張し、かつ、前記石膏コア内に分散されている高膨張バーミキュライト粒子とを含み、
前記石膏コアは、水と、スタッコと、スタッコの重量に対して5から10重量%の前記高膨張バーミキュライト粒子と、スタッコの重量に対して0.3から0.9重量%の鉱物繊維、ガラス繊維、炭素繊維、又はそれらの組み合わせとを含むスラリーから形成され、
パネルは、立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下のパネル密度を有するとともに、少なくとも11ポンド(約5kg)のコア硬度を有し、
前記石膏コア及び前記高膨張バーミキュライトは、ASTM WK25392に基づいて決定したとき、10%以下の高温収縮(S)、および、0.2以上の高温収縮(S)に対する高温厚み膨張(TE)の比(TE/S)を有する前記パネルを提供する、
耐火性石膏パネル。」

【請求項21】
「2つのカバーシート間に配置された石膏コアを含み、
固まった石膏コアは、固まった石膏の結晶母体と、結晶石膏母体内に分散された高膨張バーミキュライト粒子とを含み、
前記固まった石膏コアは、水と、スタッコと、スタッコの重量に対して5から10重量%の前記高膨張バーミキュライト粒子と、スタッコの重量に対して0.3から0.9重量%の鉱物繊維、ガラス繊維、炭素繊維、又はそれらの組み合わせとを含むスラリーから形成され、
前記固まった石膏コアは、立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下の密度を有するとともに、少なくとも11ポンド(約5kg)のコア硬度を有し、
前記高膨張バーミキュライト粒子が、加熱時に第1の非膨張段階と加熱時の第2の膨張段階とを有し、
前記パネルを、5/8インチ(約1.6cm)のパネル厚さとし、アッセンブリの一方側のパネルの表面を熱源に曝し、反対側のパネルの表面である、前記アッセンブリの非加熱側に、UL U419に準拠した複数の温度センサを設けたとき、ASTM基準E119-09aの時間-温度曲線に基づいて、前記アッセンブリが加熱されてから60分後に、前記アッセンブリの非加熱側での前記温度センサの最大単一値が、500°F(約260℃)以下である
耐火性石膏パネル。」

【請求項2】-【請求項10】、【請求項12】-【請求項20】、【請求項22】-【請求項26】略

第3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1-5号証(以下、「甲1-5」という。)を提出した。

甲1:米国特許出願公開第2005/0263925号明細書
甲2:特開平2-137781号公報
甲3:特開昭52-87405号公報
甲4:特開2002-154864号公報
甲5:特表2010-540400号公報

そして、特許異議申立人は、下記(取消理由1)及び(取消理由2)により、本件特許は取り消すべきものである旨主張している。

(取消理由1)
本件発明1-16、18-26は、甲1に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明17は、甲1に記載された発明、甲5に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1-26に係る発明は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(取消理由2)
本件発明1-5、7-16、18-26は、甲2に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲2に記載された発明、甲1に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明17は、甲2に記載された発明、甲5に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1-26に係る発明は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

1.(取消理由1)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「Fire-resistant gypsum」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア)「[0001] This invention relates to improved fire-resistant gypsum and more particularly to fire-resistant set gypsum compositions containing high-softening-temperature, reinforcement glass fibers and filaments for use in such industrial applications as gypsum wallboard.」
(日本語訳:「本発明は、耐火性が改善された石膏、特に石膏ウォールボードなどの産業用途で使用するための、高軟化点の強化ガラス繊維やフィラメント等を含む耐火性の硬化石膏組成物に関する。」
(イ)「[0030] The set gypsum composition can be formed as a wallboard core sandwiched between two opposed paper faces.」
(日本語訳:「硬化石膏組成物は、2つの対向する用紙の面の間に挟まれたウォールボードのコアとして形成することができる。」)
(ウ)「[0037] The set gypsum composition is made by mixing: 1) an aqueous solution of calcined calcium sulfate, 2) glass fibers having a high softening point, and 3) the optional additives noted above to form a slurry. 」
(日本語訳:「硬化石膏組成物は、1)焼成硫酸カルシウム水溶液、2)高軟化点を有するガラス繊維、及び3)任意の添加剤を、スラリーを形成するために混合することで形成される。」)
(エ)「[0038] After the slurry is formed, it is dispensed into a holding form. For wallboard production, the holding form is typically a facing paper or fiber glass mat that is bent upward at its edges to retain the dispensed slurry. Typically a second sheet of facing paper or fiber glass is placed on top of the dispensed slurry. The slurry is evenly distributed in the holding form, typically by rolling, and then allowed to set (harden) to form the set gypsum wallboard composition. 」
(日本語訳:「スラリーが形成された後、スラリーは保持型内に分配される。ウォールボードを製造する場合、一般的に保持型は、スラリーを保持するために、その縁部が情報に折り曲げられた化粧紙、またはガラス繊維マットである。そして、一般的には化粧紙、またはガラス繊維マットである第2シートが、分配されたスラリーの上部に配置される。スラリーは、典型的には圧延されることで保持型内で平らに分配され、その後硬化することで、硬化石膏ウォールボード組成物が形成される。」
(オ)「[0044] ・・・The core of a typical gypsum wallboard product typically comprises at least about 85 weight percent of set gypsum. Other set gypsum products may have less gypsum depending on the additives present in the composition. 」
(日本語訳:「典型的な石膏ウォールボード製品のコアは、典型的には、少なくとも約85重量%の硬化した石膏を含む。他の石膏ウォールボード製品は、組成物中の添加物の存在に応じてより少ない石膏を有していてもよい。」)
(カ)「[0058]・・・On a weight percentage basis, the glass fiber content is about 0.25 to about 0.35 wt. % of the total set gypsum composition assuming a total set gypsum composition of about 2000 pounds (907 kg) per 1000 square feet (92.9 m^(2)). 」
(日本語訳:「・・・千平方フィート(92.9m^(2))当たり約2000ポンド(907キロ)の硬化石膏組成物を想定すると、重量%に基づくガラス繊維の含有量は、全硬化石膏組成物の約0.25重量%から0.35重量%となる。」)
(キ)「[0061] A wide variety of additives can be added to the slurry of calcined calcium sulfate and glass fibers in order to affect the processing characteristics of the slurry and/or the characteristics of the set gypsum composition. Such additives include foaming agents, dispersing agents, accelerators, retarders, adhesives, agents to resist water-degradation of the set gypsum, and other fire-resistant additives such as clay, colloidal silica, colloidal alumina, feldspar-free muscovite, unexpanded vermiculite, and water-insoluble calcium sulfate anhydrite whisker fibers. 」
(日本語訳:「スラリーの処理特性および/または硬化石膏組成物の特性に影響を与えるために、焼成硫酸カルシウムとガラス繊維のスラリーに、多種多様な添加物を添加することができる。このような添加剤としては、発泡剤、分散剤、促進剤、遅延剤、接着剤、硬化石膏の水分解抑制剤、および粘度、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、長石を含まない白雲母、未膨張バーミキュライト、および水不溶性の硫酸カルシウム無水物のウィスカー繊維のような他の耐火性添加物を含む。」)
(ク)「[0062] Foaming agents such as ammonium or sodium lauryl sulfonate are used to control the density of the set gypsum composition. ・・・For typical wallboard application, the set gypsum composition has a density that ranges from about 35 to about 75 pounds/cubic foot (about 15.9 to about 34.0 kg/0.0283m^(3)). 」
(日本語訳:「アンモニウムまたはナトリウムラウリルスルホネートなどの発泡剤は、硬化石膏組成物の密度を制御するために使用される。・・・典型的なウォールボードへの適用の場合、硬化石膏組成物は、約35?約75ポンド/立方フィート(約15.9?約34.0kg/0.0283m^(3))の範囲の密度を有する。」)
(ケ)「[0063] Unexpanded vermiculite can be added to the gypsum composition in order to compensate for gypsum shrinkage as it is heated and its combined water lost. The quality, quantity and particle size of the unexpanded vermiculite should be such that it expands to equal the gypsum shrinkage. Typically vermiculite is used in amounts up to about 7.5 weight percent of the set gypsum composition with preferred amounts ranging from about 1.0 to about 3.5 weight percent. 」
(日本語訳:「加熱され、結合水を失うことによる石膏の収縮を補填するため、未膨張バーミキュライトを、硬化石膏組成物に添加することができる。未膨張バーミキュライトの質、量、粒子サイズは、石膏の収縮量と同等に膨張するものであることが好ましい。典型的にはバーミキュライトは、硬化石膏組成物の約7.5重量%までの量で、好ましくは約1.0?約3.5重量%の量で使用される。」)

(2)甲1に記載された発明の認定
記載事項(ア)(イ)によれば、甲1には、2つの対向する用紙の面の間に挟まれた耐火性の硬化石膏組成物をコアとして含むウォールボードが記載されており、記載事項(ウ)(エ)によれば、硬化石膏組成物は、焼成硫酸カルシウム水溶液、高軟化点を有するガラス繊維、及び任意の添加剤を混合したスラリーを硬化することで形成されることが記載されている。
ここで記載事項(オ)によれば、ウォールボードのコアに含まれる硬化した石膏の割合は、典型的には少なくとも約85重量%であるが、添加物の存在によっては、より少ない石膏を有していてもよいとされており、記載事項(カ)によれば、ウォールボードのコアを形成する硬化石膏組成物に含まれるガラス繊維の含有量は、全硬化石膏組成物の約0.25重量%から0.35重量%である。
記載事項(キ)によれば、甲1には、硬化石膏組成物には、添加剤として未膨張バーミキュライトを含んでよいことが記載されており、記載事項(ケ)によれば、添加剤として含まれる未膨張バーミキュライトの質、量、粒子サイズは、加熱によって結合水を失うことにより収縮する石膏の収縮量と同等に膨張する程度のものであって、量については、硬化石膏組成物の約7.5重量%まで、好ましくは約1.0?約3.5重量%である。
記載事項(ク)によれば、甲1には、ウォールボードへ適用される硬化石膏組成物が、約35?約75ポンド/立方フィートの密度を有していることが記載されている。
したがって、甲1には、
「2つの対向する用紙の面の間に挟まれた硬化石膏組成物からなるコアを含み、
硬化石膏組成物からなるコアは、典型的には少なくとも約85重量%の硬化した石膏を含み、
硬化石膏組成物は、焼成硫酸カルシウム水溶液、全硬化石膏組成物の約0.25重量%から0.35重量%の高軟化点を有するガラス繊維および添加物からなるスラリーを硬化して形成され、該添加物としては、全硬化石膏組成物の約7.5重量%までの、未膨張バーミキュライトを含み、
該未膨張バーミキュライトは、加熱によって結合水を失うことにより収縮する石膏の収縮量と同等に膨張することにより、石膏の収縮を補填する質、量、粒子サイズであり、
硬化石膏組成物からなるコアは、約35?約75ポンド/立方フィートの密度を有する、
耐火性の石膏ウォールボード。」が記載されている(以下「引用発明1」という)。

(3)本件発明1と引用発明1との対比・判断
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「2つの対向する用紙」は、本件発明1の「2つのカバーシート」に相当し、以下同様に、「硬化石膏組成物からなるコア」は「石膏コア」に、「高軟化点を有するガラス繊維」は「ガラス繊維」に、「耐火性の石膏ウォールボード」は「耐火性石膏パネル」に相当する。
本件特許明細書の段落【0062】の記載によれば、本件発明1の「スタッコ」は、「水溶性硫酸カルシウム無水物」を含む。一方、引用発明1の「硬化石膏組成物」は、「焼成硫酸カルシウム水溶液」を含むスラリーを硬化したものであって、この「焼成硫酸カルシウム」は「硫酸カルシウム無水物」である。
また、「焼成硫酸カルシウム水溶液」を含むスラリーを硬化することにより、「焼成硫酸カルシウム」は固まって「結晶」状態の石膏になるといえるから、引用発明1の「硬化石膏組成物からなるコア」は、本件発明1の、「固まった石膏の結晶母体」を含み、「水と、スタッコと、」を含む「スラリーから形成され」た「石膏コア」に相当する。
引用発明1の「未膨張バーミキュライト」は、「粒子サイズ」を有するから「粒子」であり、また、「加熱」によって収縮する石膏の収縮量と同等に「膨張する」ものであるから、本件発明1の「高膨張バーミキュライト粒子」とは、「加熱された後」に「膨張する」点で共通する。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「2つのカバーシート間に配置された石膏コアを含み、
前記石膏コアは、固まった石膏の結晶母体と、加熱された後、膨張する高膨張バーミキュライト粒子とを含み、
前記石膏コアは、水と、スタッコと、前記高膨張バーミキュライト粒子と、ガラス繊維とを含むスラリーから形成される、
耐火性石膏パネル。」である点で一致し、下記(相違点1)?(相違点5)で相違する。

(相違点1)
本件発明1の「高膨張バーミキュライト粒子」が、「1560°F(約850℃)で1時間」の加熱により、「元の体積の300%以上に膨張する」ものであるのに対し、引用発明1の「未膨張バーミキュライト」は、その膨張特性が不明である点。

(相違点2)
本件発明1の「高膨張バーミキュライト粒子」の含有量は、「スタッコの重量」に対して「5から10重量%」であるのに対し、引用発明1の「未膨張バーミキュライト」の含有量は、「全硬化石膏組成物」に対する割合での上限は「約7.5重量%」であるが、「硬化した石膏」に対する割合は明らかでない点。

(相違点3)
本件発明1の「ガラス繊維」の含有量は、「スタッコの重量」に対して「0.3から0.9重量%」であるのに対し、引用発明1の「高軟化点を有するガラス繊維」の含有量は、「全硬化石膏組成物」に対する割合での上限は「約0.25重量%から0.35重量%」であるが、「硬化した石膏」に対する割合は明らかでない点。

(相違点4)
本件発明1の「石膏コア」は、「立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下の密度(D)」を有するのに対し、引用発明1の「硬化石膏組成物からなるコア」の密度は、「約35?約75ポンド/立方フィート」であって、「立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下」に限定されない点。
この点について、特許異議申立書の第42頁第19行乃至第21行にて、引用発明1と、本件発明1とは、コアの密度において「差異はない」旨を記載しているが、引用発明1のコアの密度は「約35?約75ポンド/立方フィート」であって、本件発明1の特定事項である「立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下」とは、「約35?40ポンド/立方フィート」の範囲で共通するものの、甲1にこの範囲の密度を有するコアを用いた場合について具体的な記載はないから、コアの密度においては一致点とすることはできない。

(相違点5)
本件発明1の「石膏コア」は、「少なくとも11ポンド(約5kg)のコア硬度」を有し、「ASTM WK25392に基づいて決定したとき、20分以上の断熱指標(TI)」を示すものであるのに対し、引用発明1の「硬化石膏組成物からなるコア」は、「コア硬度」も「断熱指標(TI)」も不明である点。

まず(相違点1)について検討する。特許異議申立人は特許異議申立書の第40頁第3行乃至第41頁第6行の記載の中で、甲3の第2頁左下欄第11行乃至第17行には、「約400℃以上」で「急激に膨張する性質を有する」「バーミキュライト」が、「石膏芯材の収縮を防ぎ、芯材の耐火性、断熱性を向上させるために用いられる」ことが記載されているから、引用発明1の「未膨張バーミキュライト」として、甲3に記載された周知の「バーミキュライト」を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることであると主張している。
しかし、甲3には「バーミキュライト」の膨張率についての記載はないから、引用発明1に、甲3の「バーミキュライト」を適用しても、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」という本件発明1の特定事項を導き出すことはできない。
一方、特許異議申立人は特許異議申立書の第40頁第3行乃至第41頁第6行の記載の中で、甲4の段落【0009】には、「320℃以上」の「加熱」により「10倍?30倍」(1000%?3000%)に「膨張」する「未膨張」の「バーミキュライト」が記載されているから、引用発明1の「未膨張バーミキュライト」に、これら周知の「バーミキュライト」を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである旨についても、主張している。
しかしながら、甲4の段落【0009】に記載された加熱条件は「1000℃、1?2秒」であって、「1560°F(約850℃)で1時間」という本件発明1の加熱条件とは大きく異なるものであるから、甲4の段落【0009】に記載されたバーミキュライトが、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」であるといえるかは不明である。
さらに、甲4の段落【0005】【0008】等の記載によれば、甲4に記載された「バーミキュライト」は「調湿、消臭」を目的とするものであり、「膨張」させることを目的としていないので、当該「バーミキュイライト」を含む「建材」の高温(火災時等)での収縮を特別に防止できる旨の記載もないことから、引用発明1に、甲4の「バーミキュライト」を適用する動機づけもない。
よって、(相違点2)?(相違点5)について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に、甲3または甲4に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

次に、甲4の段落【0009】に記載された、「1000℃、1?2秒」の「加熱」により「10倍?30倍」(1000%?3000%)に「膨張」する「未膨張」の「バーミキュライト」が、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」であるといえると仮定した場合について、(相違点1)、(相違点4)を合わせて検討する。
本件特許明細書の段落【0016】-【0024】には、「非膨張バーミキュライト」を「石膏コア」に添加した従来技術についての記載があり、この中で例えば段落【0021】には、「等級No.5」の「非膨張バーミキュライト」と40cpf(ポンド/立方フィート)を超える密度の「石膏コア」の組み合わせでは、「バーミキュライト膨張の悪影響」があることが記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0076】には、「(それ自体が比較的壊れやすいと考えられる)低密度の結晶コア構造におけるこのような分布は、前記バーミキュライト粒子の著しい膨張が、前記コアを破壊し、当業者に公知であり、前述の参考文献に記載の剥離、コアの破砕およびコアの障害を引き起こすであろうと、当業者に考えさせるであろう。このことは、前記パネルコアが、比較的低密度を有し、このため、比較的高い細孔体積および顕著に低減された結晶石膏含量を有する、本開示の原理に基づいて形成された石膏パネルの実施形態に、特に当てはまるであろう。前記コア結晶石膏含量の低減は、石膏パネルの構造的な強度およびヒートシンク性能を低下すると予期されるであろう。以下にさらに記載されるように、驚くべきことに、このことは、本開示の原理に基づいて形成されたパネルの場合にはなかった。」と記載されており、本件発明1は、「著しい膨張」を示す「バーミキュライト粒子」と、「比較的高い細孔体積および顕著に低減された結晶石膏含量を有する」「低密度の結晶コア構造」との「組み合わせ」の採用により、従来技術で生じていた「バーミキュライト膨張の悪影響」のない石膏パネルが実現できるという、甲1および甲4に記載された作用効果からは想到し得ない、顕著な作用効果を奏するものであるといえる。
したがって、(相違点1)、(相違点4)を有する本件発明1は、甲1に記載された発明に、甲4に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2-26と引用発明1との対比・判断
・本件発明2-10について
本件発明2-10は、本件発明1をさらに限定する発明であるから、(3)で対比・判断したとおり、甲1に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

・本件発明11-20について
本件発明11は、本件発明1同様、「1560°F(約850℃)で1時間加熱された後、元の体積の300%以上に膨張し、かつ、前記石膏コア内に分散されている高膨張バーミキュライト粒子」と、「立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下のパネル密度」を発明特定事項とするものであるから、本件発明11と引用発明1とは、(3)で述べた(相違点1)および(相違点2)を有する。
そして、当該「1560°F(約850℃)で1時間加熱された後、元の体積の300%以上に膨張し、かつ、前記石膏コア内に分散されている高膨張バーミキュライト粒子」および「立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下のパネル密度」の「組み合わせ」は、(3)で対比・判断したように、引用発明1との顕著な作用効果を奏する相違点であるから、本件発明11および本件発明11をさらに限定する本件発明12-16、18-20は、甲1に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、甲5にも上記(相違点1)および(相違点4)についての記載はないから、本件発明11をさらに限定する発明である本件発明17は、甲1に記載された発明、甲5に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

・本件発明21-26について
本件発明21は、本件発明1同様、「前記石膏コア内に分散されている高膨張バーミキュライト粒子」と、「立方フィートあたり40ポンド(約640kg/m^(3))以下のパネル密度」を発明特定事項とするものであるが、「高膨張バーミキュライト粒子」については、「1560°F(約850℃)で1時間加熱された後、元の体積の300%以上に膨張」することの特定はない。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0065】には、「本願明細書において「高膨張バーミキュライト」と呼ばれる前記バーミキュライトは、約1560°F(約850℃)で約1時間加熱された後、元の体積の約300%以上の体積膨張を有する。」という、「高膨張バーミキュライト」の膨張特性を定義する記載があるから、本件発明21の「高膨張バーミキュライト」も、「1560°F(約850℃)で1時間加熱された後、元の体積の300%以上に膨張」するものであり、本件発明21と引用発明1とは、(3)で述べた(相違点1)および(相違点4)を有するといえる。
したがって、本件発明11-20について記載したとおり、本件発明21および本件発明21をさらに限定する本件発明22-26は、甲1に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)(取消理由1)についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件発明1-26は、甲1に記載された発明、甲5に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。

2.(取消理由2)
(1)甲2に記載された事項
甲2には、「軽量石膏ボード」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア)「焼石膏と軽量骨材と繊維を予め混合したものを又は別々に、水と減水剤及びアクリル共重合系樹脂エマルジョンの混合液に投入攪拌し、界面活性剤を発泡させた泡を練り込んで混合してなるスラリーを2枚のボード原紙間に流し込んで成形することを特徴とする軽量石膏ボードの製造方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明において使用される軽量骨材としてはパーライト、シラスバルーン、バーミキュライト又は発泡スチレンビーズ等の群から選ぶことができる。」(第2頁左上欄第18行乃至右上欄第1行)
(ウ)「本発明において、製品の厚さを7?30mmとし、製品の嵩比重を0.40?0.65にする場合、焼石膏と軽量骨材を混合した粉体をアクリル共重合系樹脂エマルジョン(濃度50%)を3?20重量部の聞で適当に選択して成形すると石膏芯材とボード用厚紙との密着性がとくに強固になり軽量で、ボードの強度も通常の石膏ボードと同程度に保持できる。」(第2頁右上欄第19行乃至左下欄第6行)
(エ)「本発明方法を更に具体的に説明すれば、焼石膏100重量部に対し、パーライト、シラスバルーン、バーミキュライトまたは発泡スチレンビーズ等の群から選ばれた1種(または混合物でもよい)を3?20重量部、無機繊維として6?25mm長のガラス繊維で分散性のよいもの0.1?0.5重量部を予めよく混合(粉末状のまま)したもの、水70?90重量部に対し、・・・よく混練して均一としてスラリーを2枚のボード用厚紙間に流し込んで成形し、厚さを7?30mmに規正して製造される製品の嵩比重は0.4?0.65のものとなる。」(第2頁左下欄第7行乃至右下欄第6行)
(オ)第2表


(2)甲2に記載された発明の認定
記載事項(ア)(ウ)によれば、甲2には、2枚のボード用厚紙間に、水と焼石膏と軽量骨材と繊維をふくむスラリーを流し込んで石膏芯材として成形した、嵩比重0.4?0.65の軽量石膏ボードが記載されている。
記載事項(イ)(エ)によれば、甲2には、軽量骨材は焼石膏100重量部に対して3?20重量部であり、バーミキュライトを用いてよく、繊維としては、焼石膏100重量部に対して0.1?0.5重量部の、6?25mm長のガラス繊維を用いてよいことが記載されている。
記載事項(オ)によれば、甲2に記載された軽量石膏ボードは、防火性の軽量石膏ボードである。
したがって、甲2には、
「2枚のボード用厚紙間に挟まれた石膏芯材を含み、
石膏芯材は、焼石膏と、軽量骨材とをふくみ、
石膏芯材は、水と、焼石膏と、焼石膏100重量部に対して3?20重量部の軽量骨材と、焼石膏100重量部に対して0.1?0.5重量部の、6?25mm長のガラス繊維とを含むスラリーから形成され、軽量骨材はバーミキュライトであり、
石膏芯材は、嵩比重0.4?0.65の密度を有する、
防火性の軽量石膏ボード。」が記載されている(以下「引用発明2」という)。

(3)本件発明1と引用発明2との対比・判断
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「2枚のボード用厚紙」は、本件発明1の「2つのカバーシート」に相当し、以下同様に、「石膏芯材」は「石膏コア」に、「6?25mm長のガラス繊維」は「ガラス繊維」に、「防火性の軽量石膏ボード」は「耐火性石膏パネル」に相当する。
「スタッコ」は「焼成石膏」のことであるから(例えば本件特許明細書の段落【0051】等参照。)、引用発明2の「焼石膏」は、本件発明1の「スタッコ」に相当し、成形後は固まって「結晶母体」となるといえる。
引用発明2の「バーミキュライト」は、「軽量骨材」として用いられるから、その形状は「粒子」であり、本件発明1の「高膨張バーミキュライト粒子」とは、「バーミキュライト粒子」である点で共通する。
引用発明2の「軽量骨材」の含有量は、「焼石膏100重量部に対して3?20重量部」であるから、本件発明1とは、「スタッコの重量に対して5から10重量%」の範囲で共通する。
引用発明2の「6?25mm長のガラス繊維」の含有量は、「焼石膏100重量部に対して0.1?0.5重量部」であるから、本件発明1とは、「スタッコの重量に対して0.3から0.5重量%」の範囲で共通する。
引用発明2の「石膏芯材」の嵩比重「0.4?0.65」を「立方フィートあたり」の「ポンド」数で表現すると、「24.9?40.61」となるから、本件発明1とは、「立方フィートあたり24.9?40ポンド」の範囲で共通する。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、
「2つのカバーシート間に配置された石膏コアを含み、
前記石膏コアは、固まった石膏の結晶母体と、バーミキュライト粒子とを含み、
前記石膏コアは、水と、スタッコと、スタッコの重量に対して5から10重量%の前記バーミキュライト粒子と、スタッコの重量に対して0.3から0.5重量%のガラス繊維とを含むスラリーから形成され、
前記石膏コアは、立方フィートあたり24.9?40ポンド(約640kg/m^(3))の密度(D)を有する、
耐火性石膏パネル。」である点で一致し、下記(相違点1)?(相違点2)で相違する。

(相違点1)
本件発明1の「高膨張バーミキュライト粒子」が、「1560°F(約850℃)で1時間」の加熱により、「元の体積の300%以上に膨張する」ものであるのに対し、引用発明2の「バーミキュライト」は、その膨張特性が不明である点。

(相違点2)
本件発明1の「石膏コア」は、「少なくとも11ポンド(約5kg)のコア硬度」を有し、「ASTM WK25392に基づいて決定したとき、20分以上の断熱指標(TI)」を示すものであるのに対し、引用発明2の「硬化石膏組成物からなるコア」は、「コア硬度」も「断熱指標(TI)」も不明である点。

まず(相違点1)について検討すると、「1.(3)」に記載したとおり、甲3の第2頁左下欄第11行乃至第17行、甲4の段落【0009】に記載されたバーミキュライトが、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」であるとはいえない。

また、仮に甲4の段落【0009】に記載されたバーミキュライトが、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」である場合も、引用発明2では、バーミキュライトは、「軽量骨材」として使用されるものであって、「加熱」による「膨張」を利用するものではないから、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」が周知であるとしても、引用発明2のバーミキュライトとして、そのような膨張特性を有するものを選択する動機づけがあるとはいえない。
そして、「1.(3)」で述べたとおり、本件発明1は、「比較的高い細孔体積および顕著に低減された結晶石膏含量を有する」「低密度の結晶コア構造」に、「著しい膨張」を示す「バーミキュライト粒子」を「組み合わせ」ることにより、顕著な作用効果を奏するものであるから、(相違点2)について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明に、甲4に記載された周知技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2-26と引用発明2との対比・判断
(3)で述べたとおりであるから、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」を発明特定事項とする本件発明1-5、7-16、18-20は、甲2に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲1、甲5にも上記(相違点1)および(相違点2)についての記載はないから、本件発明1をさらに限定する発明である本件発明6は、甲2に記載された発明、甲1に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明11をさらに限定する発明である本件発明17も、甲2に記載された発明、甲5に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、「1.(4)」で述べたように、本件発明21-26の「高膨張バーミキュライト粒子」は、本件発明1、11で特定されているのと同様、「1560°F(約850℃)で1時間」加熱された時に、「元の体積の300%以上に膨張する高膨張バーミキュライト粒子」であるといえるから、甲2に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)(取消理由2)についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件発明1-26は、甲2に記載された発明、甲1に記載された発明、甲5に記載された発明及び周知の技術などに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人が主張する(取消理由1)および(取消理由2)によっては、請求項1-26に係る特許を取り消すことはできない。

したがって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-12 
出願番号 特願2013-555618(P2013-555618)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武立木 林  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 萩原 周治
中澤 登
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5815757号(P5815757)
権利者 ユナイテッド・ステイツ・ジプサム・カンパニー
発明の名称 軽量、低密度の耐火性石膏パネル  
代理人 木村 満  
代理人 森川 泰司  
代理人 雨宮 康仁  
代理人 桜田 圭  
代理人 毛受 隆典  
代理人 石堂 毅彦  

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