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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1319488
審判番号 不服2015-18835  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-19 
確定日 2016-10-07 
事件の表示 特願2013-203594「トイレットロール包装用フィルム及びトイレットロール包装体」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月13日出願公開、特開2015- 67315、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月30日の出願であって、平成27年7月14日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年10月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成27年10月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
(1)補正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「複数個のトイレットロールをガセット包装するためのトイレットロール包装用フィルムであって、
複数層の樹脂層を有し、
両最外層が、融点80℃以上150℃以下のポリエチレン樹脂層であり、
中層が、融点150℃以上180℃以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層であり、
各最外層の厚みが5?15μmであり、中層の厚みが2?15μmであり、全体としての厚みが20?45μmであり、
樹脂層全体での酸素透過度が40cc/m^(2)・day・atm以下である、
ことを特徴とするトイレットロール包装用フィルム。」と補正する(下線は、変更点。以下同じ。)。

(2)補正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、
「複数個のトイレットロールが包装用フィルムによりガセット包装されたトイレットロール包装体であって、
前記トイレットロールが香料を含むものであり、
前記包装用フィルムが、複数層の樹脂層を有し、
その両最外層が、融点80℃以上150℃以下のポリエチレン樹脂層であり、
中層が、融点150℃以上180℃以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層であり、
各最外層の厚みが5?15μmであり、中層の厚みが2?15μmであり、全体としての厚みが20?45μmであり、
樹脂層全体での酸素透過度が40cc/m^(2)・day・atm以下である、
ことを特徴とするトイレットロール包装体。」と補正する。

(3)補正事項3
明細書の段落【0008】及び【0010】を、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を、上記のとおり補正することに伴い、それぞれ上記補正事項1、補正事項2と整合する記載に補正する。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「トイレットロール包装用フィルム」について、「複数個のトイレットロールをガセット包装するため」との限定を付加し、同様に両最外層の「ポリエチレン樹脂層」について、融点が「80℃以上」と下限を付加し、さらに中層の「エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層」について、融点が「150℃以上」と下限を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-331207号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の技術的事項及び発明が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する)を含有する層を含む多層フィルムにより収納物が包装されてなる多層包装体に関し、さらに詳しくは、耐ピンホール性や透明性に優れた包装材料で特に畜肉包装等の冷蔵・冷凍保管(保存)用の食品が包装された多層包装体に関する。」
(イ)「【0002】
【従来の技術】
一般的に、EVOHは、透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れており、かかる特性を生かして、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料に用いられており、かかる食品包装用途においては、特にEVOHの透明性やガスバリア性の特徴を生かして畜肉をはじめとする食品の包装用途にも多用されている。
【0003】
しかしながら、EVOHは、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂に比べて、耐ピンホール性に劣るという欠点を有するものである。
すなわち、収納物が包装された状態で、例えば、輸送や搬送時等に振動を受けるとEVOH層が屈曲疲労を受けてピンホールが発生し、その結果バリア性が低下するのである。」
(ウ)「【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、EVOHを含有する層を含む多層フィルムで収納物が包装され、かつ該フィルムが10℃以下で1?50kGyの電離放射線で照射処理されてなる多層包装体が上記の問題点を解決できることを見出して本発明を完成するに至った。
さらに、本発明においては、かかる多層フィルムがEVOHを含有する層の両面に直接または接着剤層を介して直鎖状低密度ポリエチレンの層が配されてなる層構成を有すること、また、-40?5℃の雰囲気下で電離放射線処理されてなること、さらには電離放射線がγ線であること等が好ましい実施態様である。」
(エ)「【0035】
実施例1
〔多層フィルムの製造〕
EVOH[エチレン含有量32モル%、ケン化度99.5モル%、MFR3.5g/10分(210℃、荷重2160gで測定)]、ポリエチレン[直鎖状低密度ポリエチレン、日本ポリケム社製『ノバテックLLUF331』、MFR1.0g/10min(190℃、荷重2160gで測定)]及び接着性樹脂[無水マレイン酸変性低密度ポリエチレン、三菱化学社製『モディックAP L502』]を用いて、フィードブロック3種5層の多層Tダイを備えた多層押出装置に供給して、ポリエチレン層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/ポリエチレン層の層構成(厚み40/10/30/10/40μm)を有する多層フィルムを得た。
【0036】
〔畜肉の包装〕
上記で得られた多層フィルムを、温度75℃、延伸速度50mm/secでTD方向に3倍、MD方向に3倍の同時二軸延伸を行って延伸多層フィルムを得た。次いで、上記の延伸多層フィルム2枚を用いて、横幅200mm、縦300mm、シール幅15mmの三方シール袋を作製し、その中に精肉された肩ロース肉約1kg[縦15cm、横10cm、高さ6cmの直方体形]を入れ、真空包装機で上部を真空シールした後、80℃で4秒間、熱水シャワーにより包装袋を熱収縮させ、その後5℃の水中で3分間冷却して畜肉の多層包装体を得た。
【0037】
〔電離放射線処理〕
上記で得られた包装体を-20℃で冷凍して、24時間後に加速電圧200MeV、線量25kGyのEB照射を-20℃の環境下で行って、本発明の多層包装体を得た.」
(オ)「【0046】
【発明の効果】
本発明の多層包装体は、EVOHを含有する層を含む多層フィルムで包装され、かつ5℃以下で1?50kGyの電離放射線で照射処理されているため、耐ピンホール性や透明性に優れ、特に牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉等の食用畜肉を内包する畜肉用多層包装体として有用である。」

そうすると、引用文献1には、
「ポリエチレン層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/ポリエチレン層の層構成(厚み40/10/30/10/40μm)を有する多層フィルム。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比すると、
「複数層の樹脂層を有し、両最外層が、ポリエチレン樹脂層であり、中層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層である、包装用フィルム」の点で一致している。
他方、補正発明1と引用発明は、補正発明1が、「複数個のトイレットロールをガセット包装するためのトイレットロール包装用フィルムであって」、「両最外層が、融点80℃以上150℃以下のポリエチレン樹脂層であり、中層が、融点150℃以上180℃以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層であり、各最外層の厚みが5?15μmであり、中層の厚みが2?15μmであり、全体としての厚みが20?45μmであり、樹脂層全体での酸素透過度が40cc/m^(2)・day・atm以下である」のに対し、引用発明は、最外層の厚みが40μm、中層の厚みが30μmであり、全体としての厚み、樹脂層の融点、樹脂層全体での酸素透過度及び包装用フィルムの用途について特定されていない点で相違する。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
補正発明1は、「ガスバリア性が高くしかも熱融着性に優れ、特にトイレットロールの包装に適するトイレットロール包装用フィルム、及びトイレットロール包装用フィルムによりトイレットロールを包装した香料が外部に漏れ出ないトイレットロール包装体を提供すること」(本願明細書段落【0007】)を発明の課題とするものであって、この課題を解決するために、補正発明1は、特定の融点をもつポリエチレン樹脂層とエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層とし、各樹脂層を特定の厚みとし、樹脂層全体での酸素透過度を特定するものである。
一方、引用発明は、最外層をポリエチレン樹脂層、中層をエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層とする層構造をもつ包装用の多層フィルムではあるものの、EVOH層(エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層)が「ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂に比べて、耐ピンホール性に劣るという欠点を有」しているため、「収納物が包装された状態で、例えば、輸送や搬送時等に振動を受けるとEVOH層が屈曲疲労を受けてピンホールが発生し、その結果バリア性が低下する」(引用文献1段落【0003】)ことから、引用発明は、これを解決して、「耐ピンホール性や透明性に優れた包装材料」(同段落【0001】)を得ようとするものであって、補正発明1のように、「ガスバリア性が高くしかも熱融着性に優れ」た包装用フィルムを提供しようとするものではない。
そして、補正発明1は、「両最外層が、融点80℃以上150℃以下のポリエチレン樹脂層であり、中層が、融点150℃以上180℃以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層であり、各最外層の厚みが5?15μmであり、中層の厚みが2?15μmであり、全体としての厚みが20?45μmであり、樹脂層全体での酸素透過度が40cc/m^(2)・day・atm以下」との事項(以下、「補正事項1の各数値範囲の組み合わせに係る事項」という。)を備えることにより、「ガゼット包装を行なう際に包装用フィルム同士が積層される部分、すなわち把手部35を形成する場合であっても熱が十分に伝達され良好なヒートシール性が得られ、さらに、トイレットロール20に付与した香料が包装用フィルム10を透過して外部に漏れ出ることが効果的に防止されるようになる。そのうえ、円筒形状のトイレットロール20の形状に追従する適度な柔軟性と、人の手で容易に開封できつつ意図せず破れない強度をも確保できる。」(本願明細書段落【0031】)という、引用発明のものとは異なる格別な効果を奏するものである。
そのため、「耐ピンホール性や透明性に優れた包装材料」を得ようとするものである引用発明において、各樹脂層を構成する材料の融点や各樹脂層の厚み、樹脂層全体での酸素透過度を、それぞれ設定することが、包装用フィルムを設計する際に、包装対象に応じて適宜行う事項であるとしても、補正発明1の各数値範囲の組み合わせに係る事項を備えることまでは、容易になし得るものとはいえない。
さらに、原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された特開2007-54210号公報、特開2013-28401号公報及び特開2005-8248号公報、並びに前置報告書において新たに周知技術を示す文献として引用された特開平11-197054号公報のいずれにも、補正発明1の各数値範囲の組み合わせに係る事項について、記載も示唆もされていない。

したがって、補正発明1は、引用発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
本件補正の補正事項2は、請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「ポリエチレン樹脂層」について、融点が「80℃以上」と下限を付加し、さらに「エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層」について、融点が「150℃以上」と下限を付加するものであって、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そして、本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下、「補正発明2」という。)は、補正発明1の「トイレットロール包装用フィルム」により包装された「トイレットロール包装体」であって、上記(1)で検討したとおり、補正発明1は、引用発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、補正発明2も、引用発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件補正の補正事項2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)補正事項3について
補正事項3は、明細書の段落【0008】及び【0010】を、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を補正することに伴い、記載を整合させるために補正するものであり、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。

3.むすび
以上より、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、補正発明1及び補正発明2は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明、及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明2を引用する補正発明3は、補正発明2に係る発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明、及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-23 
出願番号 特願2013-203594(P2013-203594)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 山田 由希子
井上 茂夫
発明の名称 トイレットロール包装用フィルム及びトイレットロール包装体  
代理人 永井 義久  

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