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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1319594
審判番号 不服2015-21604  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2016-10-04 
事件の表示 特願2012- 80745「太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-211418、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日の出願であって、平成27年7月1日付け(同年同月7日発送)で拒絶理由が通知され、同年8月22日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたが、同年9月1日付け(同年同月8日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対して、同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審より平成28年6月1日付け(同年同月7日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年7月28日付けの手続補正で補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年7月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「半導体基板の主面上に、量子ドットおよび該量子ドットを内包しているマトリックスにより構成されてなる量子ドット層を有する太陽電池であって、前記量子ドット層は、前記量子ドットからなるコア部と、該コア部を前記マトリックスの成分で取り巻くシェル部とで構成される量子ドット複合体を複数個堆積させたものであるとともに、前記量子ドット層は、前記量子ドットとともに、該量子ドットと同等数の空隙を有しており、前記空隙が前記マトリックスを介して前記量子ドットに隣接して存在していることを特徴とする太陽電池。」

第3 原査定の拒絶理由について
1 原査定の拒絶理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2011-176225号公報
2.特開2011-258858号公報
3.特開2005-268376号公報
4.特表2006-513458号公報
5.特開平4-107971号公報
6.国際公開第2009/99071号

請求項1-5に係る発明は、引用文献1-6から、進歩性を有しない。

2 原査定の拒絶理由の判断
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
a 引用文献1には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
(a)「【0002】
省エネルギーかつ省資源でクリーンなエネルギー源として太陽電池(光電変換装置)の開発が盛んに行われている。太陽電池は、光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する電力機器である。その構成には、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、多接合構造太陽電池など多種の構造体が検討されている。中でも、単結晶シリコン上にアモルファスシリコン層を形成する、いわゆるHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin layer)型の太陽電池は高い効率を得ることができる構造であり、モジュール効率20%以上のものも開発されている。HIT型の太陽電池については、下記特許文献1などに開示されている。」
(b)「【0028】
<(1)光電変換装置の構成例>
図1は、本実施形態1における光電変換装置の構成を示す断面図である。図1に示すように、光電変換装置は、p型(第1導電型)の半導体基板であるp型単結晶シリコン基板100、i型半導体層110、及びn型(第2導電型)の半導体層であるn型半導体層120が積層されて構成される。また、本実施形態1の光電変換装置は、n型半導体層120の上に透明電極130を備え、p型単結晶シリコン基板100の下に金属電極140を備える。また、透明電極130には複数の集電極150が電気的に接続されており、金属電極140には複数の集電極150が電気的に接続されている。
【0029】
第1、第2導電型は、p型又はn型であり、p型の場合は、ホウ素(B)などのp型不純物を、n型の場合は、リン(P)などのn型不純物を有する。i型(真性、intrinsic)とは、不純物が注入されておらず、p型またはn型の層と比較し、不純物濃度が低い層を意味する。
【0030】
p型単結晶シリコン基板100は、例えば厚さ200μmの、p型の単結晶シリコンによって構成される。
【0031】
i型半導体層110は、量子ドット(ナノ粒子)111を含むアモルファスシリコンによって構成される。図2は、量子ドット111の構成を示す断面図である。図2に示されるように、本実施形態1で用いられる量子ドット111(d)はコア-シェル構造になっており、粒状材料からなるコアc、及びこのコアcの外周を被覆する被覆材料からなるシェルsとを有する。本実施形態1では、一例として、コアcとして粒径3nmの硫化鉛(PbS)を、シェルsとして2nm厚の酸化シリコン(SiO_(2))を用いる。i型半導体層110の厚さは、例えば20nmである。」
(c)「 【図1】 【図2】



b 上記(c)の図1及び段落0031の記載から、「i型半導体層110は、量子ドット(ナノ粒子)111を分散状態で含有するアモルファスシリコンによって構成され」ているといえる。そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「p型単結晶シリコン基板100、i型半導体層110、及びn型半導体層120が積層されて構成され、
i型半導体層110は、量子ドット(ナノ粒子)111を分散状態で含有するアモルファスシリコンによって構成され、
量子ドット111(d)はコア-シェル構造になっており、粒状材料からなるコアc、及びこのコアcの外周を被覆する被覆材料からなるシェルsとを有する、
太陽電池(光電変換装置)。」

イ 引用文献2
a 引用文献2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
(a)「【0013】
本発明の一実施形態では、前記課題を解決するために、基板と、前記基板上に形成された裏面電極層と、前記裏面電極層上に形成されたp型光吸収層と、前記p型光吸収層上に形成されたn型透明導電膜と、を備え、前記裏面電極層と前記p型光吸収層界面に空隙が形成されている、薄膜太陽電池を提供する。」
(b)「【0028】
空隙6内は真空ではなく、金属プリカーサー膜のセレン化時の炉内の気体(主に、窒素ガス)によって充填されている。この気体の屈折率はほぼ1であり、一方、p型光吸収層2を構成するCISの屈折率は2.5?3.5である。このように、空隙とCISとの屈折率の差が大きいので、その境界での光の反射率はかなり大きいものとなる。また、空隙6の表面は傾斜した部分が大きいため、入射光は空隙表面に対して斜めに入射し、更に反射率が上昇する。この結果、空隙6は裏面反射体(BSR)として作用し、p型光吸収層3で吸収しきれなかった入射光を高い反射率でp型光吸収層3内部に再入射させ、CIS系薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させる。ちなみに中間層2aを構成するMo(SSe)2はCISに近い屈折率を有しているため、その間の反射率は小さくBSR効果を得ることはできない。」
(c)「 【図1】



b そうすると、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「裏面電極層とp型光吸収層界面に空隙が形成されている、薄膜太陽電池において、前記空隙は裏面反射体(BSR)として作用すること。」

ウ 引用文献3
a 引用文献3には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「【0062】
量子ドット41が媒質42内に最密充填されたときの充填率は計算上74%であるので、これを基に計算すると、粒径5nm、隣り合う粒子間の距離が0.3nm?5nmの場合、充填率はおよそ10%?60%となる。また、0.3nm?2nmの場合には、充填率はおよそ30%?60%となる。」

b そうすると、引用文献3には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「量子ドット41が媒質42内に最密充填されること。」

エ 引用文献4
a 引用文献4には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
(a)「【0038】
量子ドットは、コアを包囲する、第2の材料からなる「シェル」を任意に備えてもよい。シェルは、量子ドットのコア表面を被覆する、1層の有機または無機の材料を含むことができる。シェルは、結晶、多結晶またはアモルファスのものとすることができ、任意にドーパントまたは欠陥を含む。シェル材料は、好ましくは、コア材料より大きいバンドギャップを持つ無機半導体である。さらに、好ましいシェル材料は、コアに関して良好な伝導帯および価電子帯のオフセットを有し、コアと比べて、伝導帯は望ましくはより高く、価電子帯は望ましくはより低い。その代替として、シェル材料は、コア材料よりも小さいバンドギャップを有してもよく、及び/又は、価電子帯または伝導帯のバンドオフセットは、コアと比べてそれぞれより低いまたはより高いものでもよい。シェル材料は、コア材料に接近した原子間隔を有するように任意に選択できる。」
(b)「【0264】
幾つかの実施形態に係るナノ複合材料は、内部で分散した量子ドットの均質な分布を持つ、光学的に純粋であることが好ましい。これらの量子ドットは、個々のドットとして、または制御されたサイズの凝集として(例えば、大規模に相互接続された量子ドットのサブシステムに達するより小さな凝集)実質的に均一に分散していてもよい。人工ナノ複合材料は、好ましくは光学的に均質かつ均一であり、特定の応用要求として、光が材料を通過しまたは通過したことに由来する散乱及び/又はモード攪乱が、ほとんど無いか皆無である。ある応用では、ポリマーまたは他のマトリクス材料中に分散した、局所電界効果を増強するために最適化された充填率を持つ、最密充填のミクロンまたはサブミクロンサイズの量子ドット集団が好ましいであろう。」

b そうすると、引用文献4には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「量子ドットは、コアを包囲するシェルを備え、ポリマーまたは他のマトリクス材料中に最密充填で分散すること。」

オ 引用文献5
a 引用文献5には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
(a)「太陽電池に入射した光が光活性層1内を進行し、一部はすぐに吸収されるか一部は光散乱体2に達する。光活性層1の屈折率は約3.4、光散乱体2の屈折率は1.0であるので、両者の屈折率差により光散乱体2に達した光の一部は光活性層lと光散乱体2の界面において反射され、進行方向か曲げられる。残りは光散乱体2内に進行する。光散乱体2は空隙であるので、光散乱体2内において光の減衰はほとんど無に等しく、一旦光散乱体2に入った光は、再び光活性層1と光散乱体2の界面の異なる部分に到達する。ここにおいて、再び一部か反射し一部が光活性層l内にそれぞれ方向が曲げられて進行する。以上の動作を繰り返し、光散乱体2に達した光は、光活性層1内のあらゆる方向に散乱され、その結果入射した光に対する実質的な光路長が長くなり、太陽電池の光活性層1の厚さを薄くした場合においても、入射光を有効に吸収でき変換効率を高めることが可能となる。」(第3頁左下欄第1行?第18行)

(b)「また、上記実施例では光活性層lを形成する際にできる空隙2をそのまま光散乱体2として用いたものについて述べたか、第4図に示すように、この空隙2に透明の充填剤7、例えば透明の樹脂やガラス等を埋め込んだ構造としてもよい。あるいは第5図に示すように光活性層l内の空隙の内壁に被膜8を設けてもよい。」(第4頁左上欄第11行?第17行)

(c)「 第1図 第2図

第4図 第5図


b そうすると、引用文献5には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「太陽電池に入射した光が光活性層1内を進行し、
光散乱体2に達した光は、光活性層1内のあらゆる方向に散乱され、その結果入射した光に対する実質的な光路長が長くなる太陽電池において、
前記光散乱体2は空隙であり、
前記空隙は、光活性層lを形成する際にできる空隙2とするか、空隙2に透明の充填剤7を埋め込んだ構造とするか、光活性層l内の空隙の内壁に被膜8を設ける構造とすること。」

カ 引用文献6
a 引用文献6には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
(a)「[0034](実施例1) 本実施例では、散乱体12として、直径Dが300nm未満の球状を成す空気球12を用いた。空気球12は球状以外の断面楕円状や表面凹凸状などの場合もあるが、この場合は直径D=最大径Dであるとする。この空気球12をシリコン基板10の中に形成する場合、陽極酸化法によって行う。この陽極酸化法を、図2に示す陽極酸化法の説明のためのシリコン基板の一部断面図を参照して説明する。
[0035] 陽極酸化法は、一般的に電気分解によって電極になっている金属を酸化するものである。ここでは、電解液中にシリコン基板10を入れ、このシリコン基板10を陽極+、電解液を陰極#として5?10V位の数ボルトの電圧を印加すると陽極であるシリコン基板10が酸化される。この酸化によって、シリコン基板10の受光面10aとなる表面にランダムに穴が開き、これらの穴が隣との間隔を保持したまま基板下方に進行し、図2(a)に示すように、数分で10?100μm位の細長い穴13が形成される。なお、図2(a)?(f)では各々穴13は1つのみ記載してある。
[0036] この後、穴13が開口されたシリコン基板10を800#900℃位でアニール処理することによって、図2(b)?(f)に示すように、基板下方から順に球状の空洞に空気が閉じ込められた空気球12となって配列される。この他、空洞の内部を真空とする場合は、穴13に酸素や水などを入れておけばアニール処理によって真空状態になる。
[0037] このようにシリコン基板10の中に多数の空気球12を導入し、これら空気球12で受光面10aからの入射光11を散乱させることによって、入射光11をシリコン基板10の中で矢印11a?11gで示したように散乱光として全方向に導くことができる。この際、矢印11c,11fで示すように、散乱光が受光面10aに沿った距離の長い方向に進むので、その分、光通過距離が長くなって光吸収を増加させることができるので、光電変換効率を向上させることができる。」

(b)「[0073](実施例2)
空気球12をシリコン基板10中に形成する他の形成方法を説明する。本形成方法は、シリコン基板10にイオン注入を行うイオン注入工程、シリコン基板10を陽極酸化する陽極酸化工程、及び熱処理を行うアニーリング工程を有する。本実施例では、シリコン基板10としてp^( +) Siウエハを使用した。」

(c)「 [図1]


b そうすると、引用文献6には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「受光面10aからの入射光11を散乱させることによって、光通過距離が長くし、光電変換効率を向上させるための空気球12をシリコン基板10の中に形成する方法は、
陽極酸化法か、
又はシリコン基板10にイオン注入を行うイオン注入工程、シリコン基板10を陽極酸化する陽極酸化工程、及び熱処理を行うアニーリング工程を有する方法であること。」

(2) 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
引用発明1の「p型単結晶シリコン基板100」、「量子ドット(ナノ粒子)111を含むアモルファスシリコンによって構成され」る「i型半導体層110」、「粒状材料からなるコアc」、「コアcの外周を被覆する被覆材料からなるシェルs」、「コア-シェル構造になって」いる「量子ドット111(d)」は、それぞれ本願発明の「半導体基板」、「量子ドットおよび該量子ドットを内包しているマトリックスにより構成されてなる量子ドット層」、「量子ドットからなるコア部」、「該コア部を前記マトリックスの成分で取り巻くシェル部」、「前記量子ドットからなるコア部と、該コア部を前記マトリックスの成分で取り巻くシェル部とで構成される量子ドット複合体」に相当するから、
本願発明と、引用発明1は、
「半導体基板の主面上に、量子ドットおよび該量子ドットを内包しているマトリックスにより構成されてなる量子ドット層を有する太陽電池であって、前記量子ドット層は、前記量子ドットからなるコア部と、該コア部を前記マトリックスの成分で取り巻くシェル部とで構成される量子ドット複合体を複数個含む、太陽電池。」の点で一致し、次の点で相違する。

本願発明の「量子ドット層は、」「(量子ドット複合体を複数個)堆積させたものである」とともに、「前記量子ドットとともに、該量子ドットと同等数の空隙を有しており、前記空隙が前記マトリックスを介して前記量子ドットに隣接して存在している」ものであるのに対し、引用発明1の「i型半導体層110は、量子ドット(ナノ粒子)111を分散状態で含有するアモルファスシリコンによって構成され」ている点。(以下、「相違点1」という。)

(3) 判断
以下、上記相違点1について検討する。
引用文献3に「量子ドット41が媒質42内に最密充填すること」、及び引用文献4に「量子ドットは、コアを包囲するシェルを備え、ポリマーまたは他のマトリクス材料中に最密充填で分散すること」が記載されているように、量子ドットやコアを包囲するシェルを備える量子ドットを最密充填すること、つまり堆積状態とすることは、周知技術といえるが、ポリマーまたは他のマトリクス材料の媒質内に堆積された状態であり、空隙は存在しない。
空隙については、引用文献2、5及び6に記載があるように、入射光を散乱し光通過距離を長くするためのものであり、空隙を設けることも周知技術であるといえる。
しかしながら、引用文献2、5及び6には、量子ドットに関する記載はなく、量子ドットとの関係における空隙の数や配置について示唆する記載もない。
そして、引用発明1に、引用文献3、4に記載されたコアを包囲するシェルを備える量子ドットを堆積状態とする周知技術や、引用文献2,5,6に記載された空隙を設ける周知技術を適用しても、引用発明1において、空隙を有し、コア-シェル構造の量子ドット111を堆積状態にした層が導かれるにとどまり、量子ドットとの関係における空隙の数や配置について、「該量子ドットと同等数の空隙を有しており、前記空隙が前記マトリックスを介して前記量子ドットに隣接して存在している」という構成を当業者が容易に想到し得るとはいえない。

さらに、引用文献1ないし6の他に、量子ドットとの関係における空隙の数や配置について開示又は示唆する証拠もない。

そして、本願発明は、上記の相違点1に係る構成を備えることによって、量子ドット層内に、空隙が量子ドットの数に対応する頻度で存在していることから、入射してきた太陽光が量子ドット層内のマトリックスを通過してきても、太陽光は量子ドットに隣接している空隙によってそれぞれ散乱されて、再び、各量子ドットに吸収されるようになるため、量子ドット層内における太陽光の透過を大きく低下させることができるという顕著な効果を奏するのであるから、本願発明は、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
また、請求項2、3に係る発明は、本願発明の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であり、いずれも引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。
すなわち、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)(拡大先願)
本願の請求項1,2に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公告又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

先願:特願2012-8075号(特開2013-149729号)
出願日:平成24年1月18日、公開日:平成25年8月1日
出願人:富士フイルム株式会社、発明者:蔵町照彦

先願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)の段落63、65、71、78、84-86、図11c、図12、図22b等を参照。
本願請求項1,2に係る発明と先願明細書等に記載された発明は同一である。

(2)(サポート要件)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


本願の発明の詳細な説明には、請求項1を引用する請求項2に係る発明の、量子ドットと同等数の空隙を有し、かつ、空隙が量子ドット層の出射側に多く存在するとの構成が記載されていない。
したがって、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 当審拒絶理由の判断
当審拒絶理由(1)は、補正前の請求項1及び2に対するものであり、当審拒絶理由(2)は、補正前の請求項2に対するものであったが、平成28年7月28日付けの手続補正で補正前の請求項1及び2を削除する補正がなされた。
よって、当審拒絶理由(1)(2)は解消した。

第5 結論
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。また、他に、本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-20 
出願番号 特願2012-80745(P2012-80745)
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 徹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 井口 猶二
森 竜介
発明の名称 太陽電池  

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