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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01T
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T
管理番号 1319678
審判番号 不服2015-13201  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-10 
確定日 2016-10-04 
事件の表示 特願2012-532373「イオン誘起衝突電離検出器及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日国際公開、WO2011/041750、平成25年 2月28日国内公表、特表2013-506850、請求項の数(34)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、2010年10月1日(優先権主張 2009年10月1日 米国 2009年10月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月29日付けで拒絶理由が通知され(同年10月7日発送)、平成27年2月25日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、同年3月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ(同年同月24日送達)、これに対して同年7月10日に該拒絶査定を不服として審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成28年4月28日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され(同年5月10日発送)、同年8月9日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?34に係る発明は、平成28年8月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?34に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「イオン誘起衝突電離検出器であって、
第1の面及び第2の面を有し、複数のアパーチャを画定するアノードと、
第1の面及び第2の面を有する誘電体層であって、該誘電体層の前記第1の面はアノードの前記第1の面に隣接して配置され、該誘電体層は2mm?50mmの厚さを有する、誘電体層と、
前記誘電体層を貫通して延在する複数のウェルであって、前記アノードの前記複数のアパーチャは、該複数のウェルと前記アノードの前記第2の面との間に開口を画定するように、該複数のウェルに対して配置され、前記複数のウェルのそれぞれは、前記厚さの1/10から1/1の厚さの範囲にある幅を有する、複数のウェルと、
前記誘電体層の前記第2の面に隣接して配置されて、前記複数のウェルのそれぞれの底部を形成するカソードと、
を備え、前記複数のウェルのそれぞれにおいて単一電離イベントに感度を有し、100トル未満の圧力の環境に維持され、
前記アノード及び前記カソードは、600V?900Vの電位差を与えられる、イオン誘起衝突電離検出器。」


第3 原査定の拒絶理由についての当審の判断
1 原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-29、37-75
・引用文献等 1、3-9
・備考
請求項1-29、37-45に係る発明は、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項 30-36
・引用文献 1-9
・備考
請求項30-36に係る発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2008/142715号明細書
2.米国特許出願公開第2003/146759号明細書
3.特表平1-502051号公報
4.特表平9-508750号公報
5.特表平10-501622号公報
6.特開2005-55306号公報
7.特表2007-520865号公報
8.国際公開第2009/68887号
9.米国特許第5521956号明細書

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献、引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている(当審で訳した。下線は当審で付与した。)。
(ア)「[0003] The invention is a microscale gas discharge ion detector.」
([0003] 本発明は、マイクロスケールのガス放電イオン検出器である。)

(イ)「[0012] In FIG. 1 , the device may have a planarized microscale structure. ・・・ The electrodes 11 and 12 may be approximately parallel to each other and have a distance, region or gap 13 ranging from 10 microns to 500 microns, between them. In operation, about 400 to 800 volts from a voltage source 21 may be applied across the electrodes 11 and 12 via terminals 31 and 32 , respectively, resulting in a high electric field in the region or gap 33 .」
([0012] 図1において、本装置は平板型のマイクロスケール構造を有してもよい。・・・電極11と12は互いに略平行であってよく、両電極間には10ミクロンから500ミクロンの範囲の距離、範囲又はギャップを有してもよい。操作時には、電圧源21から約400から800ボルトがそれぞれの端子31と32とを介して電極11と12との間に印加されてもよく、その範囲又はギャップ33において高い電界となる。)

(ウ)「[0013] FIG. 2 shows device 20 that is situated in a planarized microscale structure like that of device 10 . However, instead of spacer 18 , device 20 may have an insulator layer 22 that is situated effectively over the cathode 12 surface. Device 20 has other structural and operational characteristics that distinguish it from device 10 . Situated in the insulator layer 22 may be holes, openings, channels or cavities 17 that go from one broad surface proximate to a terminal or anode 11 through the layer to the other broad surface of layer 22 proximate to cathode 12 . The holes, channels or cavities 17 may be round or of any other shape. They may have a longitudinal dimension or length 13 between 10 microns and 500 microns. This dimension may be the same as the thickness 13 of the region or gap 33 of device 10 . The holes, channels or cavities 17 may have a lateral dimension, width or diameter 23 between 0.5 micron and 25 microns. For a given detector 20 , the holes, channels and cavities 17 may have similar magnitudes for the lateral dimensions 23 and longitudinal 13 dimensions, respectively.
[0014] The lateral dimension 23 may depend on the pressure of the gas in the cavity, hole or channel 17 . The relationship may be inversely proportional. For instance, the lateral dimension 23 may be selected from one micron to 100 microns for a pressure range of 1000 torr to 10 torr, respectively. For a one atmosphere device, dimension 23 may be about 1.3 microns, depending on structural features of the device 20 and the kind of gas present.」
([0013] 図2は装置10と同様の構造である平板型のマイクロスケール構造に配置された装置20を示す。しかしながら、スペーサ18の換わりに、装置20はカソード12の表面上に有効に配置された絶縁層22を有してもよい。装置20は、装置1と相違する他の構造的及び操作上の特徴を有している。絶縁層22には、端子又はアノード11に近接する一方の広い表面からカソード12に近接する他方の表面にまで通じるホール、開口、チャネル、又はキャビティ17が配置されてもよい。ホール、チャネル又はキャビティ17は円形又はその他の形状でもよい。それらは、10ミクロンから500ミクロンの縦の大きさ又は長さ13を有してもよい。この大きさは、装置10の範囲又はギャップ33の厚さ13と同じでもよい。ホール、チャネル又はキャビティ17は0.5ミクロンから25ミクロンの間の横の大きさ、幅、径でよい。与えられた検出器20にとって、ホール、チャネル、キャビティ17は、それぞれ横の大きさ23、長さ13と同様の大きさでよい。
[0014] 横の大きさ23はキャビティ、ホール又はチャネル17のガス圧に依存するだろう。その関係は反比例する。例えば、横の大きさ23は1000トルから10トルの圧力の範囲に対して1ミクロンから100ミクロンまでで選択されてもよい。1気圧の装置に対して、大きさ23は約1.3ミクロンでよいが、装置20の構造的な特徴やガスの種類に依存する。)

(エ)「[0019] ・・・Thus, when an ion 14 passes through the anode grid and enters the high electric field region 13 , it may be accelerated by the electric field and initiate an avalanche breakdown or discharge 15 .・・・」
([0019]・・・そのようにして、単一のイオン14がアノードグリッドを通って高い電界領域13に入射すると、単一のイオンは電界によって加速され、アバランシェブレークダウン又は放電15を引き起こすだろう。・・・)

(オ)図2


(カ)図4


(キ)上記(オ)の図2から絶縁層22の厚さはホール17の縦の大きさ13と等しいことが看取できる。
また、上記(ウ)の「絶縁層22には、端子又はアノード11に近接する一方の広い表面からカソード12に近接する他方の表面にまで通じるホール、開口、チャネル、又はキャビティ17が配置されてもよい。ホール、チャネル又はキャビティ17は円形又はその他の形状でもよい。それらは、10ミクロンから500ミクロンの縦の大きさ又は長さ13を有して」いるとの記載事項により、絶縁層22は10ミクロンから500ミクロンの厚さを有するといえる。

上記(ア)?(キ)と、より、引用文献1には、
「ガス放電イオン検出器であって、
カソード12の表面上に有効に配置された絶縁層22を有し、
前記絶縁層22には、アノード11に近接する一方の広い表面から前記カソード12に近接する他方の表面にまで通じるホール17が配置され、
前記絶縁層22は10ミクロンから500ミクロンの厚さを有し、
前記ホールの横の大きさ23は1000トルから10トルの圧力の範囲に対して1ミクロンから100ミクロンまでで選択され、
単一のイオンは電界によって加速され、アバランシェブレークダウンすなわち放電15を引き起こす、
ガス放電イオン検出器。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

イ 引用文献2には、以下の事項が記載されている(当審で訳した)。
(ア)「[0015] The present invention meets these needs by providing a nanodosimeter which includes a particle tracking and energy measuring system that is capable of multi-axis position-sensitive detection of primary particles passing through the detector within the nanodosimeter, and of energy measurement of these primary particles. Using the particle tracking and energy measuring system, a method of calibrating the nanodosimeter to correlate the radiobiological data of DNA damage to radiation quality, thereby relating the physics of energy deposition to radiobiological effects, is also provided. 」
([0015] 本発明は、ナノドシメータ内の検出器を通過する一次粒子の多軸である位置の検出が可能であるとともに、これらの一次粒子のエネルギー測定が可能である粒子追跡やエネルギー測定システムを含むナノドシメータを提供することで、これらのニーズに応えるものである。粒子追跡やエネルギー測定システムを用いることで、DNA損壊の放射性生物学的データを修正するナノドシメータを較正する方法、それによってエネルギーデポジションを放射性生物学的効果に関連づけることも、提供される。)

(イ)「[0036] FIG. 2 is a conceptual diagram of the single ion counting method used in nanodosimeter 15 , showing how a wall-less sensitive volume 21 can be formed in ionization chamber 10 filled with a low-pressure density gas 23 of approximately 1 Torr. 」
([0036] 図2は、ナノドシメータ15において用いられる単一イオンカウント方法の概念図であり、壁を除去した容器21が、約1トルの低圧のガス23で満たされたイオン化チャンバー10内でどのように構成されることができるかを示したものである。)

(ウ)図2


ウ 引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
1.検査見本上の放射能源を検出するための装置であって、この装置は
気体充満チャンバを有するカウンタを含み、前記チャンバは、電導性のプレーナ状窓と前記窓から間隔を隔てられた平行な半導電性表面により形成され、かつ前記窓と前記半導電性表面の間の格差の電圧により前記チャンバ内に電界が課されるようにされ、
前記半導電性表面から間隔を隔てられかつその上に幾何学的に配列された要素を有し、前記チャンバヘの放射性粒子の入来に応答して前記チャンバ内で起こるイオンアバランシェにより前記要素に誘導された電荷を受けるためのエンコーダ表面と、
前記半導電性表面と前記エンコーダ表面の間の誘電層とを含み、前記半導電性表面が前記層の一方の側に被覆を形成し、さらに前記配列された要素が前記層の反対側に被覆を形成し、
互いに電気的に絶縁された行のワイヤおよび列のワイヤに前記各要素を結合し、それにより予め選択された小部分の結合された電荷電流が1個の要素を規定する各ワイヤに伝達されるようにするための手段を含み、それぞれの伝達された電荷の小部分の振幅がその要素に関連する電荷電流の位置に依存し、
複数個の電荷感応性積分増幅器を含み、1個のそのような増幅器がそれぞれ各行のワイヤに接続され、さらに1個のそのような増幅器がそれぞれ各列のワイヤに接続され、複数個のサンプルおよび保持回路を含み、そのような回路の各々が前記増幅器のそれぞれの1個に接続されて、前記誘導された電荷により作られたアナログ信号を選択的にサンプリングしかつ保持し、
前記サンプルおよび保持回路を制御し、前記サンプルおよび保持回路すべての合計出力が予め定められたしきい値レベルを超過すると前記アナログ信号を選択的に保持するための手段と、
前記各アナログ信号を対応するディジタル信号に変換し、かつそれぞれの行のワイヤおよび列のワイヤの各アナログ信号の相対的な振幅に基づいて前記エンコーダ表面の各対応する誘導された電荷の位置を計算するための手段とを含む、装置。」

エ 引用文献4には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
1. ガスの充填された囲い(1)を有し、内部に比例カウンタ(2)が配置された電離放射線検出器であって、前記カウンタ(2)が、それ自体と囲い(1)の上方壁部との間に、放射線によりガスが電離される吸収域(A)形成している形式のものにおいて、
比例カウンタが、少なくとも1個の下方電極(6)と、少なくとも1個の上方電極(5)とを有しており、これらの電極が互いに平行に配置され、かつ絶縁層(7)によって隔離されており、さらに、上方電極(5)と絶縁層(7)とが、少なくとも1個の孔又は開口(8)を備え、この孔内には事実上均等な電界が支配し、かつまたこの孔(8)が、放射線の電離の結果生じる電子を増倍する増倍域を形成していることを特徴とする、電離放射線検出器。」

オ 引用文献5には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
1. 放射能域を測定する装置のための検知器であって、前記装置は、電極間に電圧が印加される二つの電極と、カウンターガスとを有し;前記電極は、支持体の対向面に配置されていて、前記電極と前記支持体とを貫通するチャンネルを含んでおり、これによって、前記カウンターガスは、前記チャンネルを介して前記電極に接触する構成。」

カ 引用文献6には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
絶縁基板背面に少なくとも1本以上の幅50[μm]以下の陽電極ストリップを、また絶縁基板表面に少なくとも1本以上の陰電極ストリップを陽電極ストリップと直交する方向に配置し、陽電極ストリップの極近傍の強電界勾配の下でガス中の電子を増倍させ、それぞれの陽電極ストリップまたは陰電極ストリップから、あるいはその両方から放射線検出電気信号を出力させて放射線を検出する原理に基づいた一次元または二次元位置検出マイクロストリップガスカウンタ型放射線センサー素子において、電子及びイオンを自由に通過させる目的で陽電極ストリップ及び陰電極ストリップがプリントされていない絶縁基板面に少なくとも1個以上の径方向断面が円形、楕円形及び四角形等をしたスルーホール(貫通孔)を設けた構造を特徴とした多次元位置検出マイクロストリップガスカウンタ型放射線センサー素子。」

キ 引用文献7には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
放射線源(10)からの電離放射線によって一次電子がガス中に放出され、前記放射線源(10)の近傍に位置する浮遊電極(11)に負の電圧を印加することによって発生する電界(2)により、読み出し電極(1)にその一次電子がドリフトされる放射線検出器であって、
電界集中領域のマトリックスであって、前記集中領域のそれぞれが、前記一次電子の1つから前記ガス中に電子なだれを発生させるのに十分な局所電界勾配を発生させ、それによりガス電子増倍管が、前記一次電子のための増幅器として動作する、電界集中領域のマトリックスと、
前記浮遊電極(11)に対して正の電圧が印加される読み出し電極(1)を備える位置感知信号検出器と、
を備え、
前記電界集中領域のマトリックス及び前記信号検出器が、同じ二重目的の物理的構造(3)内に一体化されていることを特徴とする放射線検出器。」

ク 引用文献8には、以下の事項が記載されている(なお、引用文献8のパテントファミリーである特表2011-505656号公報を参照して当審で訳した。)。
「Claims
1. A mass spectrometer comprising a Gas Electron Multiplier ion detector.
2. A mass spectrometer as claimed in claim 1, further comprising a device arranged and adapted either:
(a) to maintain said ion detector at a pressure selected from the group consisting of: (i) < 1000 mbar; (ii) < 100 mbar,- (iii) < 10 mbar; (iv) < 1 mbar; (v) < 0.1 mbar; (vi) < 0.01 mbar; (vii) < 0.001 mbar; (viii) < 0.0001 mbar; and (ix) < 0.00001 mbar; and/or
(b) to maintain said ion detector in a mode of operation at a pressure selected from the group consisting of: (i) > 1000 mbar; (ii) > 100 mbar; (iii) > 10 mbar; (iv) > 1 mbar; (v) > 0.1 mbar; (vi) > 0.01 mbar; (vii) > 0.001 mbar; and (viii) > 0.0001 mbar and/or
(c) to maintain said ion detector in a mode of operation at a pressure selected from the group consisting of: (i) 0.0001-0.001 mbar; (ii) 0.001-0.01 mbar; (iii) 0.01-0.1 mbar; (iv) 0.1-1 mbar;
(v) 1-10 mbar; (vi) 10-100 mbar; and (vii) 100-1000 mbar.」
(請求項
1.質量分析計であって、ガス電子増幅イオン検出器を備える、質量分析計。
2. 請求項1に記載の質量分析計であって、さらに、
(a)前記イオン検出器を(i)1000ミリバール未満の値、(ii)100ミリバール未満の値、(iii)10ミリバール未満の値、(iv)1ミリバール未満の値、(v)0.1ミリバール未満の値、(vi)0.01ミリバール未満の値、(vii)0.001ミリバール未満の値、(viii)0.0001ミリバール未満の値、(ix)0.00001ミリバール未満の値、からなる群から選択される圧力に維持する、及び/又は、
(b)前記イオン検出器を(i)1000ミリバールより大きい値、(ii)100ミリバールより大きい値、(iii)10ミリバールより大きい値、(iv)1ミリバールより大きい値、(v)0.1ミリバールより大きい値、(vi)0.01ミリバールより大きい値、(vii)0.001ミリバールより大きい値、(viii)0.0001ミリバールより大きい値、からなる群から選択される圧力における動作モードに維持する、及び/又は、
(c)前記イオン検出器を(i)0.0001から0.001ミリバールの範囲の値、(ii)0.001から0.01ミリバールの範囲の値、(iii)0.01から0.1ミリバールの範囲の値、(iv)0.1から1ミリバールの範囲の値、(v)1から10ミリバールの範囲の値、(vi)10から100ミリバールの範囲の値、(vii)100から1000ミリバールの範囲の値、からなる群から選択される圧力における動作モードに維持する、
ように配置および構成されるデバイスを備える、
質量分析計。)

ケ 引用文献9には、以下の事項が記載されている(当審で訳した。)。
「As represented in the aforementioned figure, it is indicated that device forming the subject matter of the present invention comprises a source, denoted S, of ionizing radiation which emits a divergent ionizing-radiation beam, and a longitudinal slit, denoted F, extending orthogonally to the plane of the sheet on which FIG. 1a is represented, this slit F forming a diaphragm and making it possible to deliver a sheet-form illumination beam. This sheet-form beam is, in the conventional manner, distributed substantially in a plane containing the longitudinal slit F and the source S. A detection module 1 is provided, this detection module making it possible to detect a beam transmitted by a body CO to be observed. This body CO is, for example, the body of a patient which is illuminated by the sheet-form illumination beam, the body to be observed then transmitting a transmitted ionizing-radiation beam which has undergone various absorptions as a function of the density of the body through which it has passed.」(第4欄第16行?第33行)
(前述した図に描かれているように、放射線状の電離線ビームを放出する符号Sで示される電離線の線源、符号Fで示される縦スリットからなる本発明の主要な構成を形成する装置が示されていて、図1aが描かれる紙面に直交して拡張しており、このスリットFは絞りを形成し、シート状の照射ビームを伝達することを可能にするものである。このシート状のビームは、従来の方式におけるものであって、縦スリットFと線源Sとを含む面内に実質的に配置されるものである。検出モジュール1は、観測される人体COに透過されるビームを検出することを可能とする検出モジュールが提供されるものである。この人体COは、例えば、シート状照射ビームによって照射される患者の人体であって、透過する人体の密度の関数として様々な吸収を受ける透過された電離線ビームを観測される人体である。)

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明と引用発明は、
「イオン誘起衝突電離検出器であって、
第1の面及び第2の面を有し、複数のアパーチャを画定するアノードと、
第1の面及び第2の面を有する誘電体層であって、該誘電体層の前記第1の面はアノードの前記第1の面に隣接して配置される、誘電体層と、
前記誘電体層を貫通して延在する複数のウェルであって、前記アノードの前記複数のアパーチャは、該複数のウェルと前記アノードの前記第2の面との間に開口を画定するように、該複数のウェルに対して配置される、複数のウェルと、
前記誘電体層の前記第2の面に隣接して配置されて、前記複数のウェルのそれぞれの底部を形成するカソードと、
を備え、前記複数のウェルのそれぞれにおいて単一電離イベントに感度を有る、イオン誘起衝突電離検出器。」
の点で一致し、以下の相違点1?4で相違する。

<相違点1>
「誘電体層」の「厚さ」が、本願発明では、「2mm?50mm」であるのに対して、引用発明の「絶縁層22」の厚さは「10ミクロンから500ミクロン」である点。

<相違点2>
「ウェルのそれぞれ」の「幅」が、本願発明では、「誘電体層」の「厚さの1/10から1/1」であるのに対して、引用発明では、「ホールの横の大きさ23は1ミクロンから100ミクロンまでで選択され」る点。

<相違点3>
本願発明では、「100トル未満の圧力の環境に維持され」るのに対して、引用発明では、「1000トルから10トルの圧力」である点。

<相違点4>
「前記アノード及び前記カソード」が、本願発明では、「600V?900Vの電位差を与えられる」のに対して、引用発明では、「アノード11」と「カソード12」との電位差は明らかでない点。

(3)判断
上記相違点1?4について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の「絶縁層22」の厚さは「10ミクロンから500ミクロン」であるから、0.001mmから0.5mmであり、本願発明1の「誘電体層」の「厚さ」より一桁小さいものである。
また、引用文献1には、「絶縁層22」の厚さを大きくするという技術思想は記載されていない。

イ 相違点2について
引用発明の「ホールの横の大きさ23は1ミクロンから100ミクロンまでで選択され」るものであり、0.001mmから0.1mmまでで選択されるものである。
これに対して、本願発明の「誘電体層」の「厚さ」は「2mm?50mm」であり、「ウェルのそれぞれ」の「幅」が「誘電体層」の「厚さの1/10から1/1」であるから、本願発明の「ウェルのそれぞれ」の「幅」は0.2mm?50mm程度である。
すると、引用発明の「ホールの横の大きさ23」は、本願発明の「ウェルのそれぞれ」の「幅」より小さいものである。
また、引用文献1には、「ホールの横の大きさ23」を大きくするという技術思想は記載されていない。

ウ 相違点3について
引用発明の圧力は100トル未満であるかどうか明確ではないものの、本願発明の圧力と数値範囲が重複している。

エ 相違点4について
引用文献1には、図1の実施例として「電圧源21から約400から800ボルトがそれぞれの端子31と32とを介して電極11と12との間に印加されてもよい」(上記「(1)」「ア」「(イ)」)と記載されているものの、引用発明の「アノード11」と「カソード12」との電位差は明らかでない。

オ イオン誘起衝突電離検出器においては、誘電体層の厚さ、ウェルの幅、環境の圧力、アノード及びカソードの電位差をすべて勘案して設計するのであって、これらの要素それぞれを単独で設計するものではないところ、上記ア、イ、エで示したように、引用文献1に「絶縁層22」の厚さを大きくすること、「ホールの横の大きさ23」を大きくするという技術思想は記載されておらず、電位差も不明であるので、引用発明は本願発明と圧力の数値範囲が一部重複しているといえども、上記相違点1?4に係る全体構成は、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、容易に想到し得えたとはいえない。

カ 引用文献2?9にも上記相違点1?4に係る全体構成は記載されていない。

キ そして、本願発明は、上記相違点1?4に係る全体構成により、本願明細書に記載された「或特定の実施形態では、ずっと厚い(例えば、数mmの)検出器構造は、イオンがセルを通過するときにイオン衝突の高い確率を提供できる。」(【0114】)との顕著な作用効果を奏するものである。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2?27に係る発明は、本願発明をさらに限定するものであるから、同様に、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項28は、本願発明の「イオン誘起衝突電離検出器」を「イオン検出器素子」としたものでカテゴリーが異なるものであるから、同様に、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項29?34に係る発明は、本願の請求項28に係る発明をさらに限定するものであるから、同様に、引用発明及び引用文献1?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審の拒絶理由についての当審の判断
1 当審の拒絶理由は以下のとおりである。

「理由1(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(明確性要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


理由1(サポート要件)について
(1)請求項1においては、「該誘電体層は約2mm?50mmの厚さを有する」と記載されているものの、誘電体層のウェルの直径、ウェル内の圧力、印加される電圧が特定されていない。
そして、複数のウェルにおいて単一電離イベントに感度を有し、イオン誘起衝突電離検出器として機能するようにするためには、誘電体層の厚さだけでなく、誘電体層のウェルの直径、ウェル内の圧力、印加される電圧を特定する必要があることは、当業者にとって明らかである。
したがって、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
請求項1を引用する請求項についても同様である。

(2)請求項38においては、「アノード」が複数のアパーチャを画定することが記載されていないので、複数のアパーチャを画定しない「アノード」も包含するものである。
しかしながら、発明の詳細な説明においては、複数のアパーチャを画定しない「アノード」は具体的に記載されておらず、記載されていることが自明であるとも認められない。
したがって、請求項38に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
請求項38を引用する請求項についても同様である。

(3)以上から、請求項1?44に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

理由2(明確性要件)について
(1)請求項1?3、12?16、18、19、25、27、28、38において、「約」がどの程度の範囲であるのか不明確である。
請求項1、13、15、25、38を引用する請求項も同様である。

(2)請求項6、8、9、17、「実質的」がどの程度の範囲であるのか不明確である。
請求項9、17を引用する請求項も同様である。

(3)請求項17の「低圧」は、どの程度の圧力であるのか不明確である。
請求項17を引用する請求項も同様である。

(4)請求項22の「超高圧」は、どの程度の圧力であるのか不明確である。

(5)請求項24の「1つ又は複数の正イオン」は、請求項1の「単一電離イベント」との関係が不明確である。
請求項24を引用する請求項も同様である。

(6)請求項29の「電離クラスターを識別すること」は、請求項1の「単一電離イベント」との関係が不明確である。
請求項29を引用する請求項も同様である。

(7)請求項29の「凝縮物質内に異常を誘起する」は、どのような意味であるのか不明確である。

(8)請求項33の「凝縮物質内の初期エネルギー付与の空間分布」は、どのような意味であるのか不明確である。
請求項33を引用する請求項も同様である。

(9)請求項34の「撮像するステップからの測定値を前記凝縮物質における放射線作用に相関させること」は、どのような意味であるのか不明確である。

(10)請求項35の「単一電離イベント及びクラスター化電離イベント」は、請求項1の「単一電離イベント」との関係が不明確である。

(11)以上から、請求項1?44に係る発明は明確でない。」

2 当審拒絶理由の判断
(1)理由1(サポート要件)について
平成28年8月9日付け手続補正書によって、請求項1において、「ウェル」の「幅」、「ウェル」の「圧力」、「電圧差」が特定され、請求項28において、「ウェル」の「幅」が特定されたので、当審拒絶理由1は解消された。

(2)理由2(明確性要件)について
ア 上記「(1)」について、平成28年8月9日付け手続補正書によって、請求項1?3、12?15、17、22、24?25、28において「約」が削除された。

イ 上記「(2)」について、平成28年8月9日付け手続補正書によって、請求項6、8?9、16において「実質的」が削除された。

ウ 上記「(3)」について、平成28年8月9日付け手続補正書によって、請求項16において「圧力」が特定された。

エ 上記「(4)」、「(6)」?「(10)」について、平成28年8月9日付け手続補正書によって、対象となる請求項22、29、33?35は削除された。

オ 上記「(5)」について、平成28年8月9日付け手続補正書によって、請求項21において「前記単一電離イベントによって電離された」が挿入された。

カ 上記ア?オから、当審拒絶理由2は解消された。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-21 
出願番号 特願2012-532373(P2012-532373)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01T)
P 1 8・ 537- WY (G01T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋田 将行関根 裕  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 松川 直樹
井口 猶二
発明の名称 イオン誘起衝突電離検出器及びその使用  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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