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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1319791 |
審判番号 | 不服2014-21922 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-29 |
確定日 | 2016-09-21 |
事件の表示 | 特願2010-530348「3次元オブジェクトを製造するためのプロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日国際公開、WO2009/053099、平成23年 1月 6日国内公表、特表2011-500382〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年10月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2007年10月26日、アメリカ合衆国、2007年11月5日、欧州特許庁、2008年2月29日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月21日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年6月27日付け(発送日:同年7月1日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 平成26年10月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年10月29日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 平成26年10月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された 「【請求項1】 少なくとも1つの3次元オブジェクトを製造するためのプロセスであって、 固化材料を供給する工程と; 前記固化材料を固化するために、形成部に電磁放射又は相乗的刺激をパターン又はイメージで付加する工程とを含み、 前記電磁放射又は相乗的刺激の付加は、前記固化材料の特定の面積又は体積に選択的に行われ; 3次元オブジェクトの辺縁部を横切って外部へ向かう電磁放射又は相乗的刺激又は内部へ向かう電磁放射又は相乗的刺激の観察された又は予め定められた程度に基づいて、前記パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部において電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ強度を調整することによって、前記パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部における電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ密度を制御する工程をさらに含み、前記エネルギ強度の調整は、 (a)前記固化材料の前記特定の面積又は体積に加えられる電磁放射又は相乗的刺激の強度; (b)前記固化材料の前記特定の面積又は体積の全体形状又は輪郭形状; (c)前記固化材料の前記特定の面積又は体積の寸法;および (d)固化材料 のうちの少なくとも1つに依存し、 前記エネルギー密度を制御する工程は、基準強度、基準全体形状、基準輪郭形状、基準寸法及び基準材料から選択された何れかの基準特性によって定められる標準エネルギー強度を参照することによって行われ、更に前記基準特性と比較して、実際の形成済データ又は実際の形成済オブジェクトの多様性に応じて、前記辺縁部に付加される実際の前記エネルギー強度を調整することによって行われることを特徴とする、プロセス。 【請求項2】 前記制御又は調整、又は前記辺縁部における前記エネルギー密度の変動は、固化材料の標準非辺縁面積領域/体積領域に関して、1以上の辺縁部において行われることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。 【請求項3】 前記エネルギ-強度の調整は、それぞれ単独又は組み合わせて適用される以下の基準: (i)前記固化材料に含まれる充填剤の種類、サイズ又は量; (ii)前記固化材料に含まれる結合剤の種類又は量;および (iii)前記固化材料の硬化速度、粘度又は流動性 のうちの少なくとも1つに依存することを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス 。 【請求項4】 前記固化材料が、充填剤のセラミック粒子を含むことを特徴とする、請求項1?3の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項5】 前記固化材料が、フォトポリマー及び接着剤からなる群から選択された結合剤を含むことを特徴とする、請求項1?4の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項6】 前記固化材料が、第1結合物質及び第2結合物質を含み、該第1結合物質が光硬化樹脂を含むことを特徴とする、請求項1?4の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項7】 前記エネルギー密度を制御する工程は、多角形の断面形状を有し且つ線状輪郭線を有す基準オブジェクトによって定められた標準エネルギー密度を参照することによって行われ、前記エネルギ-強度の調整は、前記実際の形成済データ又は前記実際の形成済オブジェクトの前記辺縁部の凸状又は凹状輪郭線に関する多様性に基づいて行われることを特徴とする、請求項1?6の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項8】 前記エネルギー密度を制御する工程は、基準固化材料によって定められた標準エネルギー密度を参照することによって行われ、前記エネルギー強度の調整は、実際に用いた固化材料に関する多様性に基づいて行われることを特徴とする、請求項1?7の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項9】 電磁放射又は相乗的刺激の前記選択的な付加は、電磁放射又は相乗的刺激を前記固化材料の特定の面積又は体積に選択的に付加するためにマスク又は投射部を用いることを含むことを特徴とする、請求項1?8の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項10】 電磁放射又は相乗的刺激の前記選択的付加は、あらかじめ設定された数の個別の撮像素子又はピクセルを含む撮像部に基づき;前記エネルギー強度の調整は、少なくとも前記辺縁部をカバーする前記ピクセルの少なくとも一部に割り当てられるグレー値又はカラー値を調整することを含むことを特徴とする、請求項1?9の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項11】 電磁放射又は相乗的刺激の前記選択的付加は、あらかじめ設定された数の個別の撮像素子又はピクセルを含む撮像部に基づき;前記エネルギー密度は、その場で即時に生成される1以上のビットマップマスクで制御されることを特徴とする、請求項1?10の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項12】 前記3次元オブジェクトはオブジェクトキャリア又は支持体上に形成され、該オブジェクトキャリア又は支持体は、前記形成済3次元オブジェクトが成長するにしたがって上方向に移動することを特徴とする、請求項1?11の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項13】 前記固化材料は、電磁放射又は相乗的刺激を付加する段階で、透明フィルム上の前記形成部に供給されることを特徴とする、請求項1?12の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項14】 前記固化材料は、樹脂ソースから可動フィルム上の前記形成部に運ばれることを特徴とする、請求項1?13の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項15】 マスク投射器が、前記フィルムを介してイメージを投射するために、前記フィルムの下に配置されていることを特徴とする、請求項14に記載のプロセス。 【請求項16】 前記マスク投射器が、デジタル光投射器であることを特徴とする、請求項15に記載のプロセス。 【請求項17】 前記3次元オブジェクトは、電磁放射又は相乗的刺激付加装置の上に位置するオブジェクトキャリア又は支持体上に形成され、透明板が、前記透明のオブジェクトキャリア又は支持体と前記電磁放射又は相乗的刺激付加装置との間に配置されていることを特徴とする、請求項1?16の何れか一項に記載のプロセス。」を、 補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された 「【請求項1】 少なくとも1つの3次元オブジェクトを製造するためのプロセスであって、 固化材料を供給する工程と; 前記固化材料を固化するために、形成部に電磁放射又は相乗的刺激をパターン又はイメージで付加する工程とを含み、 前記電磁放射又は相乗的刺激の付加は、前記固化材料の特定の面積又は体積に選択的に行われ; 3次元オブジェクトの辺縁部を横切って外部へ向かう電磁放射又は相乗的刺激又は内部へ向かう電磁放射又は相乗的刺激の観察された又は予め定められた程度に基づいて、前記パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部において電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ強度を調整することによって、前記パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部における電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ密度を制御する工程をさらに含み、前記エネルギ強度の調整は、 (a)前記固化材料の前記特定の面積又は体積に加えられる電磁放射又は相乗的刺激の強度; (b)前記固化材料の前記特定の面積又は体積の全体形状又は輪郭形状; (c)前記固化材料の前記特定の面積又は体積の寸法;および (d)固化材料 のうちの少なくとも1つに依存し、 前記エネルギー密度を制御する工程は、基準強度、基準全体形状、基準輪郭形状、基準寸法及び基準材料から選択された何れかの基準特性によって定められる標準エネルギー強度を参照することによって行われ、更に前記基準特性と比較して、実際の形成済データ又は実際の形成済オブジェクトの多様性に応じて、前記辺縁部に付加される実際の前記エネルギー強度を調整することによって行われ、 前記固化材料は、結合剤と、充填剤とを含む、プロセス。 【請求項2】 前記制御又は調整、又は前記辺縁部における前記エネルギー密度の変動は、固化材料の標準非辺縁面積領域/体積領域に関して、1以上の辺縁部において行われることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。 【請求項3】 前記エネルギ-強度の調整は、それぞれ単独又は組み合わせて適用される以下の基準: (i)前記固化材料に含まれる充填剤の種類、サイズ又は量; (ii)前記固化材料に含まれる結合剤の種類又は量;および (iii)前記固化材料の硬化速度、粘度又は流動性 のうちの少なくとも1つに依存することを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス。 【請求項4】 前記固化材料が、充填剤のセラミック粒子を含むことを特徴とする、請求項1?3の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項5】 前記固化材料が、フォトポリマー及び接着剤からなる群から選択された結合剤を含むことを特徴とする、請求項1?4の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項6】 前記固化材料が、第1結合物質及び第2結合物質を含み、該第1結合物質が光硬化樹脂を含むことを特徴とする、請求項1?4の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項7】 前記エネルギー密度を制御する工程は、多角形の断面形状を有し且つ線状輪郭線を有す基準オブジェクトによって定められた標準エネルギー密度を参照することによって行われ、前記エネルギ-強度の調整は、前記実際の形成済データ又は前記実際の形成済オブジェクトの前記辺縁部の凸状又は凹状輪郭線に関する多様性に基づいて行われることを特徴とする、請求項1?6の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項8】 前記エネルギー密度を制御する工程は、基準固化材料によって定められた標準エネルギー密度を参照することによって行われ、前記エネルギー強度の調整は、実際に用いた固化材料に関する多様性に基づいて行われることを特徴とする、請求項1?7の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項9】 電磁放射又は相乗的刺激の前記選択的な付加は、電磁放射又は相乗的刺激を前記固化材料の特定の面積又は体積に選択的に付加するためにマスク又は投射部を用いることを含むことを特徴とする、請求項1?8の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項10】 電磁放射又は相乗的刺激の前記選択的付加は、あらかじめ設定された数の個別の撮像素子又はピクセルを含む撮像部に基づき;前記エネルギー強度の調整は、少なくとも前記辺縁部をカバーする前記ピクセルの少なくとも一部に割り当てられるグレー値又はカラー値を調整することを含むことを特徴とする、請求項1?9の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項11】 電磁放射又は相乗的刺激の前記選択的付加は、あらかじめ設定された数の個別の撮像素子又はピクセルを含む撮像部に基づき;前記エネルギー密度は、その場で即時に生成される1以上のビットマップマスクで制御されることを特徴とする、請求項1?10の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項12】 前記3次元オブジェクトはオブジェクトキャリア又は支持体上に形成され、該オブジェクトキャリア又は支持体は、前記形成済3次元オブジェクトが成長するにしたがって上方向に移動することを特徴とする、請求項1?11の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項13】 前記固化材料は、電磁放射又は相乗的刺激を付加する段階で、透明フィルム上の前記形成部に供給されることを特徴とする、請求項1?12の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項14】 前記固化材料は、樹脂ソースから可動フィルム上の前記形成部に運ばれることを特徴とする、請求項1?13の何れか一項に記載のプロセス。 【請求項15】 マスク投射器が、前記フィルムを介してイメージを投射するために、前記フィルムの下に配置されていることを特徴とする、請求項14に記載のプロセス。 【請求項16】 前記マスク投射器が、デジタル光投射器であることを特徴とする、請求項15に記載のプロセス。 【請求項17】 前記3次元オブジェクトは、電磁放射又は相乗的刺激付加装置の上に位置するオブジェクトキャリア又は支持体上に形成され、透明板が、前記透明のオブジェクトキャリア又は支持体と前記電磁放射又は相乗的刺激付加装置との間に配置されていることを特徴とする、請求項1?16の何れか一項に記載のプロセス。」 と補正するものである。 なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりである。 本件補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「固化材料」を「固化材料は、結合剤と、充填剤とを含む」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2 引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2003-321704号公報(以下、「刊行物」という。)には、「積層造形法およびそれに用いる積層造形装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線部は合議体が付した。 (1)「【0008】 【発明が解決しようとする課題】上記のような機械部品などの製造のための積層造形工程(レーザ焼結工程)においては、粉末材料の薄層にレーザ光を照射すると、その照射スポットを中心に一定の範囲が熱融合して焼結がなされることになる。この照射スポットを中心にした熱融合による硬化範囲を仮に「焼結単位」と呼ぶとして、この焼結単位はレーザ光の照射量(通常は単位面積当たりの照射エネルギー量として表される)に応じた大きさとなる。すなわち焼結単位は、レーザ光の照射量が多いと大きくなり、少ないと小さくなる。そして焼結単位の大小に応じて一次中間体の表面精度が決まり、それに応じて最終的な製品の造形精度も決まってしまう。このことから、レーザ焼結による積層造形においては、粉末材料に照射するレーザ光の照射量が製品の造形精度に関してきわめて重要であることがわかる。」 (2)「【0011】・・・すなわち光造形法では、レーザ光の照射量を多くするとレーザ光照射パターンの外縁における散乱光の影響が大きくなる。そしてこの散乱光によりレーザ光の照射パターンの外側にまで感光性樹脂の硬化を生じると、造形精度が損なわれることになる。・・・ 【0012】本発明は、以上のような従来の事情を背景になされてものであり、必要な造形精度を確保し、なおかつ積層造形物に十分な強度を与えることを可能とする積層造形法の提供を目的としている。」 (3)「【0020】第1の実施形態の説明にあたっては、仮に図2に示すような断面形状の製品、すなわち曲折した角筒状の中空部分Pを有する直方体形の実用製品Mを目的の製品として積層造形法を実施するものとする。この目的製品が例えば3次元CADシステムで設計されているとすると、その3次元CADデータから目的製品を多数の層にスライスし、それで得られる図3に示すような各スライス面Sに関する形状データを作成する。そしてこのデータに基づいて図1の積層造形装置におけるミラー6を制御系11の照射パターン設定手段12で制御することにより、前記スライス面の形状に応じたパターンで粉末材料の薄層にレーザ光を照射して一つのスライス面の形状に対応する形状の一つの単位造形層を形成する。一つの単位造形層の形成を終えたら、その厚み分だけ焼結台ピストン1を下降させる。以降、このような処理を順次繰り返すことで単位造形層を所定積層数まで積層して目的製品の一次中間体(積層造形物)を造形する。このようにして得られた一次中間体は本焼結を施されることで二次中間体となり、さらにこの二次中間体に溶浸処理を施すことで最終的な目的の製品が完成する。 【0021】ここまでは実用製品の製造における従来の積層造形法と同様である。本発明ではこの単位造形層の形成に際して、レーザ光の照射パターン内を高強度処理部と高精度処理部造に区分けし、これら両部位についてレーザ光の照射量を異ならせることを主眼としている。すなわち高強度処理部については、強度重視とし、従来におけるレーザ焼結処理(積層造形)で用いられていたのより多い照射量である第2の照射量レベルでレーザ光を照射することにより、十分な強度を確保する、つまりレーザ焼結工程で得られる一次中間体にその取扱いを容易にするのに十分な強度を与えることができるようにする。一方、高精度処理部については、造形精度重視とし、高強度処理部に対する照射量よりも少ない照射量である第1の照射量レベルでレーザ光を照射することにより、十分な造形精度を確保する。造形精度重視の第1の照射量レベルは、従来のレーザ焼結法で用いられていたのと同様に、金属粉末粒子に熱融合温度が200℃程度の合成樹脂バインダーをコーティングした粉末材料を用いる場合であれば、0.2?0.7J/mm2程度とするのが通常である。一方、強度重視の第2の照射量レベルは、第1の照射量レベルの2倍以上とし、より好ましくは5倍以上とする。 【0022】このように高強度処理部と高精度処理部とでレーザ光の照射量を異ならせるために、本実施形態では、高精度処理部に対する照射時と高強度処理部に対する照射時とでレーザ光の照射強度の設定を変えるようにしている。その設定の変更は照射強度設定手段13にて行なう。照射強度設定手段13による照射強度の設定は、作動電流を制御するなどしてレーザ4の作動状態を制御することで行なうのが一つの手法である。この他にも、例えばレーザ光5の光路にビーム径調節手段(図示せず)を設け、このビーム径調節手段を照射強度設定手段13で制御してレーザ光5のビーム径を調節することにより照射強度を設定するような手法も可能である。 【0023】高強度処理部に対しては、上記のように高精度処理部に対する照射強度の2?5倍以上の照射強度でレーザ光を照射する。このように強力なレーザ光の照射は急激な加熱により粉末材料を飛散させる場合がある。そこで高強度処理部への照射に際してはレーザ光5の照射スポットの径を大きくして加熱の急激性を緩和させるようにするのが好ましい。レーザ光5の照射スポット径を大きくするには、照射スポット径調節手段14でレンズ系7を制御してレーザ光5の照射面(粉末材料の薄層面)における収束度を弱める。つまり通常はレンズ系7の焦点を照射面に合わせるようにしてあるのをずらして焦点を照射面に対してぼかした状態にする。 【0024】(省略) 【0025】図4に、レーザ光照射パターン内における高強度処理部Fと高精度処理部Dの区分けパターンの一例を示す。このような区分けパターンは、レーザ光の照射パターンに予め組み込んでおくのが通常である。図の例に見られるように、高強度処理部と高精度処理部の区分けには、一つの重要な条件がある。それは、レーザ光照射パターン内には造形精度に直接影響を及ぼす部位があるので、この部位は必ず高精度処理部に含ませるということである。造形精度に直接的に影響を及ぼす部位は、レーザ光照射パターンの輪郭L(これは単位造形層の輪郭でもある)に沿う一定範囲の領域である。すなわちレーザ光照射パターンの輪郭に沿う一定範囲の領域では、そこにおける前述の焼結単位の大きさが単位造形層の表面精度に直接的に影響を与え、その表面精度が造形精度を規定するということである。このレーザ光照射パターンの輪郭に沿う一定範囲、つまり高精度処理部に含ませるべき範囲は、焼結単位の一般的な大きさに相関する。具体的には、輪郭Lから少なくとも200μm程度の範囲がそれに当たる。」 (4) 上記記載事項(1)ないし(3)(特に下線部)及び(4)の図面の図示内容(特に【図2】及び【図3】)を総合すると、刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「少なくとも1つの直方体形の実用製品Mを製造するための積層造形法であって、 粉末材料を供給する工程と; 粉末材料を焼結するために、スライス面の形状に応じたパターンで粉末材料の薄層にレーザ光を照射して一つのスライス面の形状に対応する形状の一つの単位造形層を形成する工程とを含み、 レーザ光の照射は、粉末材料の特定の面積又は体積に選択的に行われ; レーザ光の照射パターン内を高強度処理部と高精度処理部造に区分けし、これら両部位についてレーザ光の照射量を異ならせる、すなわち高強度処理部については、強度重視とし、従来におけるレーザ焼結処理(積層造形)で用いられていたのより多い照射量である第2の照射量レベルでレーザ光を照射し、高精度処理部については、造形精度重視とし、高強度処理部に対する照射量よりも少ない照射量である第1の照射量レベルでレーザ光を照射し、高精度処理部に対する照射時と高強度処理部に対する照射時とでレーザ光の照射強度の設定を変える工程をさらに含み、 上記造形精度重視の第1の照射量レベルは、従来のレーザ焼結法で用いられていたのと同様に、金属粉末粒子に熱融合温度が200℃程度の合成樹脂バインダーをコーティングした粉末材料を用いる場合であれば、0.2?0.7J/mm^(2)程度とし、一方、強度重視の第2の照射量レベルは、第1の照射量レベルの2倍以上とするものであり、 粉末材料は、合成樹脂バインダーと、金属粉末粒子とを含む、 積層造形法。」 3 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「直方体形の実用製品M」は、その機能、性質及び構造からみて、本願補正発明の「3次元オブジェクト」に相当し、同様に、「積層造形法」は「プロセス」に、「粉末材料」は「固化材料」に、「焼結する」ことは「固化する」ことに、「薄層」及び「レーザ光」は「形成部」及び「電磁放射又は相乗的刺激」に相当するから「形状に応じたパターンで粉末材料の薄層にレーザ光を照射する工程」は「形成部に電磁放射又は相乗的刺激をパターン又はイメージで付加する工程」に、「スライス面の形状に応じたパターンで粉末材料の薄層にレーザ光を照射して一つのスライス面の形状に対応する形状の一つの単位造形層を形成する」ことは「電磁放射又は相乗的刺激の付加は、固化材料の特定の面積又は体積に選択的に行われ」ることに、「高精度処理部」及び「高強度処理部」は「辺縁部」及び「非辺縁部」に、「合成樹脂バインダー」は「結合剤」に、「金属粉末粒子」は「充填剤」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「レーザ光の照射パターン内を高強度処理部と高精度処理部造に区分けし、これら両部位についてレーザ光の照射量を異ならせる、すなわち高強度処理部については、強度重視とし、従来におけるレーザ焼結処理(積層造形)で用いられていたのより多い照射量である第2の照射量レベルでレーザ光を照射し、高精度処理部については、造形精度重視とし、高強度処理部に対する照射量よりも少ない照射量である第1の照射量レベルでレーザ光を照射し」、「第2の照射量レベルは、第1の照射量レベルの2倍以上とする」ことは、本願補正発明の「パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部において電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ強度を調整する」ことに相当する。 また、引用発明の「高精度処理部に対する照射時と高強度処理部に対する照射時とでレーザ光の照射強度の設定を変える工程」は、本願補正発明の「パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部における電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ密度を制御する工程」に相当する。 さらに、引用発明の「造形精度重視の第1の照射量レベルは、従来のレーザ焼結法で用いられていたのと同様に、金属粉末粒子に熱融合温度が200℃程度の合成樹脂バインダーをコーティングした粉末材料を用いる場合であれば、0.2?0.7J/mm^(2)程度と」することは、「照射量レベル」が「粉末材料」に依存することであるから、本願補正発明の「エネルギ強度の調整は、(d)固化材料に依存」することに相当する。 以上の点からみて、本願補正発明と引用発明とは、 [一致点] 「少なくとも1つの3次元オブジェクトを製造するためのプロセスであって、 固化材料を供給する工程と; 固化材料を固化するために、形成部に電磁放射又は相乗的刺激をパターン又はイメージで付加する工程とを含み、 電磁放射又は相乗的刺激の付加は、固化材料の特定の面積又は体積に選択的に行われ; パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部において電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ強度を調整することによって、パターン又はイメージの非辺縁部に比べて辺縁部における電磁放射又は相乗的刺激のエネルギ密度を制御する工程をさらに含み、エネルギ強度の調整は、 (a)固化材料の特定の面積又は体積に加えられる電磁放射又は相乗的刺激の強度; (b)固化材料の特定の面積又は体積の全体形状又は輪郭形状; (c)固化材料の特定の面積又は体積の寸法;および (d)固化材料 のうちの少なくとも1つに依存し、 固化材料は、結合剤と、充填剤とを含む、プロセス。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点] 相違点1 本願補正発明では、「3次元オブジェクトの辺縁部を横切って外部へ向かう電磁放射又は相乗的刺激又は内部へ向かう電磁放射又は相乗的刺激の観察された又は予め定められた程度に基づいて」との特定事項を備えているのに対して、引用発明では、当該特定事項を備えているか不明である点。 相違点2 本願補正発明では、「エネルギー密度を制御する工程は、基準強度、基準全体形状、基準輪郭形状、基準寸法及び基準材料から選択された何れかの基準特性によって定められる標準エネルギー強度を参照することによって行われ、更に前記基準特性と比較して、実際の形成済データ又は実際の形成済オブジェクトの多様性に応じて、前記辺縁部に付加される実際の前記エネルギー強度を調整することによって行われ」るとの特定事項を備えているのに対して、引用発明では、当該特定事項を備えているか不明である点。 4 判断 (1)相違点1について 刊行物の「照射スポットを中心に一定の範囲が熱融合して焼結がなされることになる」(段落【0008】)との記載、「レーザ光の照射量を多くするとレーザ光照射パターンの外縁における散乱光の影響が大きくなる」(段落【0011】)との記載及び「積層造形物に十分な強度を与えることを可能とする積層造形法の提供を目的としている」(段落【0011】)との記載から、引用発明の直方体形の実用製品Mに照射されるレーザ光は、照射スポットを中心に一定の広がりを有し、照射パターンの外縁において散乱するから、引用発明において直方体形の実用製品Mの高精度処理部を横切って外部へ向かうレーザ光又は内部へ向かうレーザ光が存在すると解するのが合理的である。 そして、刊行物の「図4に、レーザ光照射パターン内における高強度処理部Fと高精度処理部Dの区分けパターンの一例を示す。このような区分けパターンは、レーザ光の照射パターンに予め組み込んでおくのが通常である」(段落【0016】)との記載に照らせば、高強度処理部と高精度処理部の照射強度は異なるのだから、引用発明の直方体形の実用製品Mに照射されるレーザ光は、高強度処理部と高精度処理部の区分に応じて予め定められた程度に照射されるといえる。 そうすると、上記相違点1に係る特定事項は、実質的な相違点ではなく、仮に、相違するとしても、上記相違点1に係る特定事項とすることは、刊行物の上記各記載に基いて当業者が容易に推考し得ることである。 (2)相違点2について 引用発明は、「造形精度重視の第1の照射量レベルは、従来のレーザ焼結法で用いられていたのと同様」としているから、「造形精度重視」の場合、「従来のレーザ焼結法で用いられていた」「照射量レベル」を基準強度、すなわち標準エネルギー強度としているといえる。 また、引用発明は、「金属粉末粒子に熱融合温度が200℃程度の合成樹脂バインダーをコーティングした粉末材料を用いる場合であれば、0.2?0.7J/mm^(2)程度」とし、「粉末材料」に応じて「照射量レベル」を設定しているから、基準特性として材料を基準としているといえ、上記基準強度、すなわち標準エネルギー強度は、基準材料の基準特性によって定められるといえる。 さらに、引用発明は、「スライス面の形状に応じたパターンで粉末材料の薄層にレーザ光を照射して一つのスライス面の形状に対応する形状の一つの単位造形層を形成する」から、引用発明は、直方体形の実用製品Mの実際の出来上がり「形状」に応じてレーザ光を照射するものであり、該「形状」は、「オブジェクトの多様性」の一つといえる。そして、実際の成形結果をみてレーザ光の照射のような成形条件を変更することは慣用手段であるから、「実際の形成済」オブジェクトの多様性に応じて、高精度処理部に付加される照射量レベルを調整することは、当業者が適宜なし得る。 そうすると、引用発明において、上記相違点2に係る特定事項とすることは、当業者が容易に推考し得ることである。 そして、本願補正発明による効果も、引用発明から当業者が予測し得た程度のものにすぎない。 (3)まとめ よって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成25年9月24日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」の「1」に補正前の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物の記載事項及び引用発明は、上記「第2」の「2」に記載したとおりのものである。 3 対比・判断 本願発明は、本願補正発明に係る「固化材料」につき「結合剤と、充填剤とを含む」との発明特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記「第2」の「3」及び「4」に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 まとめ したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-04-21 |
結審通知日 | 2016-04-26 |
審決日 | 2016-05-11 |
出願番号 | 特願2010-530348(P2010-530348) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川端 康之、平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
小柳 健悟 大島 祥吾 |
発明の名称 | 3次元オブジェクトを製造するためのプロセス |
代理人 | 佐々木 眞人 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 荒川 伸夫 |
代理人 | 堀井 豊 |