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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24D
管理番号 1319814
審判番号 不服2015-4183  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-03 
確定日 2016-09-21 
事件の表示 特願2012-522914「被覆研磨物品及び被覆研磨物品をアブレーションする方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年2月10日国際公開、WO2011/017022、平成25年1月10日国内公表、特表2013-500869〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成22年7月23日(パリ条約による優先権主張日2009年7月28日、アメリカ合衆国)の国際出願であって、平成26年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月17日に手続補正がなされたが、同年10月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成27年3月3日に本件審判が請求されたものである。

第2.本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1?3に係る発明は、平成26年6月17日に手続補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、当該特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
被覆研磨物品であって、
裏材に固定された研磨層であって、該研磨層が、少なくとも1種の結合剤によって、該裏材の第1の主表面に固定される研磨粒子を含む、研磨層と、
前記研磨層の少なくとも一部を覆うスーパーサイズと、を含み、
前記被覆研磨物品が、前記被覆研磨物品の縁部に隣接する溶融流れゾーンを有し、該溶融流れゾーンが、100マイクロメータ未満の最大幅を有し、該溶融流れゾーンが、40マイクロメータ未満の最大高さを有する、被覆研磨物品。」

2.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶理由で引用された特表2008-546555号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「【背景技術】
【0002】
一般に、被覆研磨物品は、裏材に固定された研磨材粒子を有している。さらに典型的には、被覆研磨物品は、2つの対向する主表面を有する裏材と、前記主表面の一方に固定された研磨層とを含む。研磨層は、典型的に、研磨材粒子とバインダーとから構成され、ここで、バインダーは研磨材粒子を裏材に固定する働きをする。」
(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による被覆研磨物品は、第1および第2主表面を有する裏材と、第1主表面の少なくとも一部に固定した裏材処理剤と、裏材処理剤の少なくとも一部に固定した研磨層と、裏材処理剤の少なくとも一部に固定した研磨層とを含む。研磨層は、研磨材粒子とバインダー樹脂とを含む。裏材処理剤は、次の構成成分a)?g)の総重量に基づいて、
a)エピクロロヒドリンとビスフェノールAまたはビスフェノールFの少なくとも一方との反応によって調製可能な少なくとも1つのポリエポキシド 1?12%、
b)ホモ重合することで摂氏50度未満のガラス転移温度を有するポリマーを生じる少なくとも1つの多官能性ウレタン(メタ)アクリレート 70?90%、
c)少なくとも1つの非ウレタン多官能性(メタ)アクリレート 1?10%、
d)少なくとも1つの酸性のフリーラジカル重合性モノマー 1?10%、
e)ジシアンアミド、
f)光開始剤、および
g)任意のエポキシ硬化触媒を含む等方性裏材処理前駆体を少なくとも部分的に重合することによって調製可能である。」(当審注:「裏材処理剤の少なくとも一部に固定した研磨層と」の記載が重複している点は、誤記と認める。)
(ウ)「【0049】
代表的な一実施形態では、研磨層は、第1バインダー樹脂を含むメイク層と、メイク層に埋め込まれた研磨材粒子類と、メイク層および研磨材粒子に固定された、第2バインダー樹脂を含むサイズ層とを含んで成る。
【0050】
図1を参照すると、本発明による代表的な被覆研磨物品100は裏材110を有しており、裏材処理剤120が裏材110の主表面115に固定されており、そして研磨層130が裏材処理剤120に固定されている。研磨層130は、メイク層140によって裏材処理剤120に固定された研磨材粒子160と、メイク層140および研磨材粒子類160に固定されたサイズ層150とを順に包含する。
【0051】
メイク層とサイズ層は、研磨用途での使用に好適ないかなるバインダー樹脂を含んでいてもよい。・・・
【0052】
一実施形態では、サイズ層の少なくとも一部にスーパーサイズを適用して
もよい。」
(エ)「【0061】
所望により、被覆研磨物品類は、更に、例えば、バックサイズ、プレサイズ、および/もしくはサブサイズ(すなわち、連結層と、連結層が固定されている主表面との間のコーティング)、並びに/または裏材の主表面両面をコーティングする飽和剤を含んでもよい。被覆研磨物品類は、更に、研磨コートの少なくとも一部を覆うスーパーサイズを含んでもよい。存在する場合、スーパーサイズは、典型的に、粉砕助剤類および/または非充填物質類を包含する。
【0062】
本発明による被覆研磨物品類は、例えば、ベルト類、ロール類、ディスク類(穿孔ディスクを包含する)、および/またはシート類に変換されてもよい。ベルト応用では、研磨材シートの2つの自由端を合わせて既知の方法を用いて接合することで、継ぎ目のあるベルトが形成されてもよい。」

これらの記載事項を、技術常識を考慮しながら整理すると、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「被覆研磨物品100であって、
裏材処理剤120が裏材110の主表面115に固定されており、そして研磨層130が裏材処理剤120に固定されており、
研磨層130は、バインダー樹脂を含むメイク層140によって裏材処理剤120に固定された研磨材粒子160を包含し、
メイク層140および研磨材粒子類160に固定されたサイズ層150の一部にスーパーサイズを適用された、被覆研磨物品。」

3.対比
本願発明と引用発明とを比較する。
(ア)引用発明の「被覆研磨物品100」は、本願発明の「被覆研磨物品」に相当する。
(イ)引用発明の「裏材110」「研磨層130」「バインダー樹脂」「研磨材粒子160」は以下に示すように、それぞれ本願発明の「裏材」「研磨層」「結合剤」「研磨粒子」に相当する。
引用発明において、「裏材処理剤120」が「裏材110」の主表面に固定されており、そして「研磨層130」が「裏材処理剤120」に固定されているから、引用発明の「研磨層130」は、「裏材処理剤120」を介して「裏材110」に固定されている。また、引用発明において、バインダー樹脂は、「研磨材粒子160」を「裏材110」に固定する働きをする(段落0002)ものであるから、引用発明の「研磨材粒子160」は、バインダー樹脂によって「裏材110」に固定されている。したがって、引用発明の「研磨層130」は、「裏材110」に固定された研磨層であり、「裏材110」に固定される「研磨材粒子160」を含むものであるから、本願発明の、「裏材」に固定された研磨層であって、該研磨層が、少なくとも1種の結合剤によって、該「裏材」の第1の主表面に固定される「研磨粒子」を含む、「研磨層」に相当する。
(ウ)引用発明の「スーパーサイズ」は、メイク層140および研磨材粒子類160に固定されたサイズ層150の一部に適用されるものであるから、本願発明の、研磨層の少なくとも一部を覆う「スーパーサイズ」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致している。
「被覆研磨物品であって、
裏材に固定された研磨層であって、該研磨層が、少なくとも1種の結合剤によって、該裏材の第1の主表面に固定される研磨粒子を含む、研磨層と、
前記研磨層の少なくとも一部を覆うスーパーサイズと、を含む、被覆研磨物品。」

そして、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点]本願発明では、「被覆研磨物品が、前記被覆研磨物品の縁部に隣接する溶融流れゾーンを有し、該溶融流れゾーンが、100マイクロメータ未満の最大幅を有し、該溶融流れゾーンが、40マイクロメータ未満の最大高さを有する」のに対して、引用発明では、溶融流れゾーンについて特定がない点。

4.相違点の検討
まず、上記相違点に係る請求項1の発明特定事項である「溶融流れゾーン」の技術的意義について検討する。
「溶融流れゾーン」に関連する明細書の記載を参酌するに、主な記載は、以下のとおりである。
(ア)「【0015】
更に別の態様では、本開示は被覆研磨物品を用意し、該研磨物品は、裏材に固定された研磨層であって、該研磨層が、少なくとも1種の結合剤によって裏材の第1の主表面に固定される研磨粒子を含み、研磨層の少なくとも一部に配置されるスーパーサイズと、を含み、被覆研磨物品は、被覆研磨物品の縁部に隣接する溶融流れゾーン(melt flow zone)を有し、溶融流れゾーンは、100マイクロメータ未満の最大幅を有し、溶融流れゾーンは、40マイクロメータ未満の最大高さを有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、溶融流れゾーンは、80マイクロメータ未満の最大幅を有し、溶融流れゾーンは、15マイクロメー未満の最大高さを有する。いくつかの実施形態では、研磨材層は、メイク層とサイズ層とを含む。いくつかの実施形態では、研磨層は、複数の成形された研磨複合体を含む。いくつかの実施形態では、溶融流れゾーンは、赤外線レーザービームによって生じる。
【0017】
有利には、本開示に従ってアブレーションされる被覆研磨物品は、被覆研磨材の分野で実施される従来のレーザー変換方法を用いる場合にしばしばみられるような粘着剤残留物の問題を、ほとんど又は全く有さない。更に、本開示に従ってアブレーションされる被覆研磨物品は、一般に、これも同様に被覆研磨材の分野で実施される従来のレーザーアブレーション方法を用いる場合にしばしばみられるような、被覆研磨物品の縁部の近くの固まった残留物に起因する不都合なスクラッチの低減を示す。」(当審注:段落0016の「マイクロメー未満」は、「マイクロメータ未満」の誤記と認める。)
(イ)「【0021】
一実施形態では、研磨粒子は、メイク層及びサイズ層の組み合わせにより、裏材に固定される。このような被覆研磨物品の1つが、図1に示されている。ここで、図1を参照すると、代表的な被覆研磨物品100は裏材110を含む。研磨層114は、裏材110の第1の主表面115に固定され、その中に研磨粒子118が埋め込まれるメイクコート(make coat)116と、メイクコート116及び研磨粒子118を覆うサイズコート(size coat)117と、を含む。任意のスーパーサイズ119は、サイズコート117を覆う。溶融流れゾーン130aは、周辺縁部132に隣接して配置され、溶融流れゾーン130bは、穿孔134に隣接している。任意の感圧接着剤層160は、第1の主表面115と反対側である裏材110の第2の主表面125上に配置される。任意の剥離ライナー170は、任意の感圧接着剤層160の上に配置される。」

Fig.1
(ウ)「【0024】
・・・溶融流れゾーン230aは、周辺縁部232に隣接して配置され、溶融流れゾーン230bは、穿孔234に隣接している。任意の感圧接着剤層260は、第1の主表面215の反対側である裏材210の第2の主表面225上に配置される。任意の剥離ライナー270が、任意の感圧接着剤層260の上に配置される。・・・
【0026】
・・・研磨効果が低減しないように、あらゆる溶融流れゾーンの高さを、研磨粒子及び/又は成形された研磨複合体の平均粒径よりも低く保つのが特に望ましい。」
(エ)「【0039】
・・・図3A?図3Bを参照すると、比較例Aに関して形成された溶融流れゾーン330の寸法は、対応する図4A?図4Bに示される実施例1の溶融流れゾーン430よりも実質的に大きくかつより隆起しているのが明らかである。
【0040】
本開示の方法に従って、溶融流れゾーンに形成される隆起特徴部の高さを減少させながら、被覆研磨物品、特に、例えば、ステアリン酸亜鉛(融解範囲120?130℃)などの低融点スーパーサイズを有する研磨物品をレーザーアブレーションすることが可能である。例えば、本開示による溶融流れゾーンは、100マイクロメータ未満、80マイクロメータ未満、又は更に50マイクロメータ未満の最大幅、及び、40マイクロメータ未満、15マイクロメータ未満、又は更に5マイクロメータ未満の最大高さを有してもよい。研磨粒子が溶融流れゾーンの隆起特徴部よりも小さい場合があり、このことは結果として粗いスクラッチを生じさせるので、隆起特徴部の高さを減少させながらレーザーアブレーションすることは、例えば、ステアリン酸亜鉛スーパーサイズ及びP800?P1500の研磨粒度を有する被覆研磨ディスクのようなより小さな砥粒寸法にとって、特に重要であり得る。」

これら明細書の記載によれば、本願発明の「溶融流れゾーンが、100マイクロメータ未満の最大幅を有し、該溶融流れゾーンが、40μメータ未満の最大高さを有する」ことの技術的意義は、被覆研磨物品に対してレーザーアブレーションすることによって生じる溶融流れゾーンが、被覆研磨物品の表面から突出して、スクラッチの原因となることを防止することである。
ここで、研磨物品の技術分野において、レーザービームによる切断後の研磨物品のエッジ付近が盛り上がらないよう配慮することは、例えば、特開2000-246473号公報(以下、「引用文献2」という。)の段落0001、0016、特開平1-159178号公報(以下、「引用文献3」という。)の第2ページ左下欄第18行?第3ページ左上欄第19行に示されるように、従来周知の技術的事項である。そうすると、引用発明においても被覆研磨物品に係る発明である以上研磨を行うために適宜に切断することが必要となるから、上記従来周知のレーザーによる切断を行おうとすることは当業者が当然試みることであり、その際のレーザービームによる切断により不必要な突出部が生じることは、当業者にとって自明な事項である。したがって、生じる縁部付近の不必要な突出部を可及的に小さくしようとすることは、当業者が通常考慮する事項に過ぎない。
しかも、上記突出部について、「100マイクロメータ未満の最大幅を有し」「40マイクロメータ未満の最大高さを有する」とした数値範囲は、単に、上記突出部の大きさの上限を設定したにすぎないものであって、本願発明が数値範囲の上限のみを特定したことにより、引用発明及び上記周知技術から予測することのできない格別の作用効果を生ずるものとも解されない。
したがって、上記相違点に係る構成は、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。

これに対し、審判請求人は、審判請求書において、次のように主張している。
「引用文献2には、・・・赤外線レーザーアブレーションを適用した場合であっても問題点が生じること、更にはスーパーサイズを含む被覆研磨物品に赤外線レーザーアブレーションを適用した場合に溶融流れゾーンが生じること(すなわち本願発明の課題)は一切認識されていない。
したがって、引用文献2において、そもそも「被覆研磨物品が、被覆研磨物品の縁部に隣接する溶融流れゾーンを有し」という事項すら導き出すことができない。
また、引用文献3には・・・「粉末状スーパーサイズ(例えば、ステアリン酸亜鉛スーパーサイズ)を含むコーティングされた研磨材の場合、赤外線レーザーアブレーションにより、研磨粒子が溶融したスーパーサイズで覆われ、それによって、スーパーサイズの抗ローディング性能が低下し、かつ研磨表面にスクラッチを誘起する可能性があり得る」といった問題点に着目する動機がそもそもない。
加えて・・・引用文献2、3を参酌し得たとしても、引用文献1に記載の発明にスーパーサイズを含む被覆研磨物品に赤外線レーザーアブレーションを適用した場合の被覆研磨物品における溶融流れゾーンに着目し、その上で「被覆研磨物品が、被覆研磨物品の縁部に隣接する溶融流れゾーンを有し、該溶融流れゾーンが、100マイクロメータ未満の最大幅を有し、該溶融流れゾーンが、40マイクロメータ未満の最大高さを有する」という構成を採用する動機があるともいえない。」(第10頁第17行?第12頁第2行)
しかしながら、本願特許請求の範囲の請求項1には、そもそも赤外線レーザーアブレーションを適用することすら特定されていないものであるから、請求人による上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することができないものである。

以上のことから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-19 
結審通知日 2016-04-26 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2012-522914(P2012-522914)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B24D)
P 1 8・ 121- WZ (B24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 渡邊 真
刈間 宏信
発明の名称 被覆研磨物品及び被覆研磨物品をアブレーションする方法  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 正人  
代理人 池田 成人  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 城戸 博兒  

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