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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1319815
審判番号 不服2015-5125  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-17 
確定日 2016-09-21 
事件の表示 特願2012-513054号「マイクロチャネルを使用する電気エネルギー蓄積装置または電気化学エネルギー発生装置の温度を変更するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日国際公開、WO2010/138196、平成24年11月12日国内公表、特表2012-528458号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年5月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年5月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年12月19日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年12月24日)、この査定に対し、平成27年3月17日に本件審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年3月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の【請求項1】は、
「【請求項1】
外側表面および内側表面を有するハウジングと、
上記ハウジングの中の少なくとも1つの構成要素と、
上記ハウジングの少なくとも1つの上記内側表面、または、上記の少なくとも1つの構成要素に結合されている複数のマイクロチャネルと、
上記マイクロチャネルに結合されているヒートシンクと、
を備えており、
上記少なくとも1つの構成要素は、上記ハウジングの中に存在する少なくとも1つの他の構成要素、化学物質、または物質と共同で、電力を蓄積するように構成されており、
上記ヒートシンクは、上記マイクロチャネルを通過して流れる流体に熱を移送するか、または、当該流体から熱を移送するように構成され、
上記複数のマイクロチャネルそれぞれは、高さが幅に対して大きく、流体を平行に通過させ、
少なくとも1つのマイクロチャネルは、高熱伝導率体で少なくとも部分的に形成または被覆されており、
上記高熱伝導率体は、高k値を有し、そのk値は、410W/(m・K)より大きいことを特徴とする電気エネルギー蓄積装置。」
と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「高熱伝導率体」について、「熱伝導率体は、高k値を有し、そのk値は、410W/(m・K)より大きい」と、限定する補正を含むものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平9-50821号公報(以下「刊行物1」という。)には、「バッテリモジュール」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与。以下も同様。)
(ア)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来のバッテリモジュールでは、放熱時に発生する熱によりバッテリモジュールが高温になりやすい。とくにバッテリモジュールの中央部ではバッテリセルの熱が放熱しにくいため温度上昇が顕著となり、バッテリモジュール内部の温度均衡が保てなくなる。バッテリモジュールの温度が上昇すると2次電池では寿命が短くなることに加えて、各バッテリモジュールの温度が均一でなくなると、バッテリモジュールの各部の性能が異なったものとなり全体としての性能が劣化する。
【0004】また、電気自動車用バッテリのように大容量が必要な場合には、複数個のバッテリモジュールを積層することが考えられる。この場合、大容量バッテリの寿命や性能を向上させるためには、バッテリモジュールで発生した熱を効率よく放熱する必要がある。」
(イ)「【0009】
【発明の実施の形態】図1および図2により本発明によるバッテリモジュールの一発明の実施の形態を説明する。図2は本発明によるバッテリモジュールを構成するバッテリセルを示し、バッテリセルBCは、活物質3が両面に付着した陽極板2と、活物質3が両面に付着した陰極板4と、陽極板2と陰極板4との間に介在するセパレータ5aと、陽極板2および陰極板4の外側に配置されてこれらを包み込む2枚のセパレータ5bとからなる。」
(ウ)「【0010】図1は本発明によるバッテリモジュールの一発明の実施の形態を示す。図1に示すように、バッテリモジュールBMは複数のバッテリセルBCを積層して成る。すなわち、各バッテリセルBCから引き出された陽極板2の上端は互いに面接触されて陽極2Aに形成され、陰極板4の下端は互いに面接触されて陰極4Aに形成されるとともに、複数のバッテリセルBCは絶縁性ポリエステルフィルム6に収納されている。」
(エ)「【0012】図4は陽極板2CEの内部構造を示すもので、この陽極板2CEは、無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面にはエッチングやプレスによりループ型の細管気密コンテナ23が形成されている。2枚の板21、22は互いに積層され、その接合面を圧接して接合されるが、細管気密コンテナ23内には適宣の方法で二相凝縮性作動流体が充填される。作動流体としては純水やフレオンが使用できる。陽極板2CEの厚みは0.3?0.5mmが好ましい。
【0013】このような陽極板2CEによる伝熱原理を図5をも参照して説明する。なお、図1に示す陽極2Aを放熱部とする。陽極板2CEの一部に熱が伝達されると、受熱部RPの細管気密コンテナ23では作動流体の核沸騰が発生する。この核沸騰により圧力波が発生し、同時に蒸気泡群が発生する。細管気密コンテナ23の左側および中央部の複数の箇所が受熱部RPとなり、これらの受熱RPでの核沸騰の相互作用により、作動流体はループ型細管気密コンテナ23内をその軸方向(矢印a)に振動しながら、抵抗の少ない方向(たとえば矢印b方向)に向かって緩やかに循環する。管軸方向の作動流体の振動に際して、管壁内表面に発生する流動境界層とコンテナ内壁を熱媒体として流体内に激しい均熱化作用を発生し、受熱した熱量を高温部から低温部に向かって効率よく輸送する。すなわち、バッテリセルBCで発生した熱量は陽極板2CEにより陽極2Aに向かって速やかに輸送される。したがって、放熱性の悪いバッテリモジュール中央のバッテリセルが効果的に冷却され、バッテリモジュールBMの不所望な温度上昇が抑制される。」
(オ)「【0016】図6は図1に示したバッテリモジュールBMを複数個積層して成るバッテリBTを示し、このバッテリBTは、複数のバッテリモジュールBMと、バッテリ陽極7と、バッテリ陰極8と、バッテリモジュールBMを積層して収納するケース9とから成る。各バッテリモジュールBMの陽極2Aおよび陰極4Aはバッテリ陽極7およびバッテリ陰極8にそれぞれ接合され、各バッテリモジュールBMの熱をバッテリ陽極7およびバッテリ陰極8に放熱するとともに、バッテリモジュールBMを並列接続することにより所定の電流容量を得ている。」
(カ)「【0017】このようなバッテリBTでは、それぞれのバッテリモジュールBMから発熱した熱量は細管ヒートパイプ式陽極板や陰極板の受熱部で受熱されて陽極2A、4Aを介してバッテリ陽極7やバッテリ陰極8で放熱される。したがって、複数のバッテリモジュールBMで発生する熱をバッテリ陽極7およびバッテリ陰極8に効率よく輸送できるので、バッテリBTを大型化することなく冷却効率を高め、小型で大容量のバッテリを構成することができる。なお、バッテリ陽極7およびバッテリ陰極8を放熱ファンにより強制冷却して冷却効率を高めてもよい。また、バッテリBを車両や各種の装置に搭載する場合には、バッテリ陽極7およびバッテリ陰極8を車両や装置と熱的に結合してもよい。」
(キ)「【0018】以上の発明の実施の形態では、複数個のバッテリセルを積層して成るバッテリモジュールにおいて、その中央部のバッテリセルBCにのみ細管ヒートパイプ式冷却機能を付加したが、全部のバッテリセルに細管ヒートパイプ式冷却機能を付加してもよい。あるいは、ヒートパイプ式の陽極板および/または陰極板を有するバッテリセルBCを所定間隔で配置してもよい。」
(ク)「【0020】また、電極板の内部に形成した細管気密コンテナを作動流体が循環するようなループ型としたが、特開平4-251189号公報に開示されている図7に示すような、細管コンテナの両端を閉鎖した非ループ型細管気密コンテナ23Aを使用した電極板2CEでも同様な効果を奏する。」

(ケ)記載事項(ク)の「電極板の内部に形成した細管気密コンテナを作動流体が循環するようなループ型としたが、・・図7に示すような、細管コンテナの両端を閉鎖した非ループ型細管気密コンテナ23Aを使用した電極板2CEでも同様な効果を奏する。」を参酌すると、記載事項(エ)の「陽極板2CEは、無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面にはエッチングやプレスによりループ型の細管気密コンテナ23が形成されている。」ことは、「陽極板2CEは、無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面には非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成されている。」ともいえる。
(コ)記載事項(オ)の「バッテリBT」は、記載事項(ア)の「バッテリモジュールの温度が上昇すると2次電池では寿命が短くなることに加えて、各バッテリモジュールの温度が均一でなくなると、バッテリモジュールの各部の性能が異なったものとなり全体としての性能が劣化する。・・電気自動車用バッテリのように大容量が必要な場合には、複数個のバッテリモジュールを積層することが考えられる。この場合、大容量バッテリの寿命や性能を向上させるためには、バッテリモジュールで発生した熱を効率よく放熱する必要がある。」ことを課題とし、記載事項(カ)の「バッテリBを車両や各種の装置に搭載する場合には、バッテリ陽極7およびバッテリ陰極8を車両や装置と熱的に結合してもよい。」ものであるので、車両に搭載するバッテリBTといえる。

そうすると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。
「複数のバッテリモジュールBMと、バッテリ陽極7と、バッテリ陰極8と、バッテリモジュールBMを積層して収納するケース9とから成るバッテリBTであって、
バッテリモジュールBMは複数のバッテリセルBCを積層して成り、
バッテリセルBCは、活物質3が両面に付着した陽極板2と、活物質3が両面に付着した陰極板4と、陽極板2と陰極板4との間に介在するセパレータ5aと、陽極板2および陰極板4の外側に配置されてこれらを包み込む2枚のセパレータ5bとからなり、
陽極板2CEは、無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面には非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成され、
それぞれのバッテリモジュールBMから発熱した熱量は細管ヒートパイプ式陽極板や陰極板の受熱部で受熱されて陽極2A、4Aを介してバッテリ陽極7やバッテリ陰極8で放熱される、
車両に搭載するバッテリBT。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2006-54456号公報(以下「刊行物2」という。)には、「コンパクトなマイクロチャネル式層状熱交換のための方法及びシステム」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【0018】
早期のマイクロチャネル層状熱交換器概念は、D.B.Tuckerman 及びR.F.W.Pease著“High-Performance Heat Sinking for VLSI”,IEEE Electron Device Letters, Vol. EDL-2, No.5, May 1981(以下“タッカーマン”という)に示されており、この出版物は引用により全体が本明細書に記載されたことになる。タッカーマンは、微細にエッチングされたシリコンマイクロチャネルから形成されたコンパクトな熱交換器システムを使用して比較的高い熱除去率を生ぜしめる能力を実証している。タッカーマンは、これらのマイクロチャネルが、層状の流れる流体を使用して熱の従来にはない大きな量を吸収することができることを示している。この前に、乱流を使用する、マクロスコピック熱交換技術のみが、タッカーマンによって実証された熱流束密度のレベルを吸収することができた。」
(イ)「【0022】
図11は、タッカーマンから再現された慣用の熱交換器1100の斜視図である。我々の発明の利点及び性能を説明及び比較するために、我々はこの熱交換器の特性を使用する。熱交換器1100は、長さ10mm(l)と、幅10mm(w)と、高さ0.6mm(h)との全体寸法を有している。熱交換器1100は複数の流体案内チャネル1102を有している。各チャネルは、長さ10mm、幅57μm、高さ365μmであり、各チャネル1102の間には57μmの基板材料が存在している。タッカーマンの寸法は、彼らの一般的な熱交換器において88個の冷却流れチャネルのみを許容する。」
(ウ)図11には、複数の流体案内チャネル1102を相互にWwの基板材料で隔てて設けた熱交換器1100が記載されている。
そして、図11の構成を参酌すると、各流体案内チャネル1102は、実質的に流体を平行に通過させる構成ともいえる。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2007-266403号公報(以下「刊行物2」という。)には、「電子機器用冷却装置」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【0016】
第1冷却パネル1は、例えば銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの熱伝導性の良い金属材料によって形成されている。図1に示すように、第1冷却パネル1の内部には、流路11とマイクロチャネル構造12とが形成されている。また、第1冷却パネル1の上下面には、空冷フィン13がそれぞれ設けられており、空冷フィン13が設けられているエリア13Aの流路11は、放熱効果を高めるために、図2に示すように蛇行している。再び図1(a)を参照すると、空冷フィン13の近傍には、冷却ファン14が設けられている。この冷却ファン14によって、第1冷却パネル1に設けられた空冷フィン13に冷却風が供給される。」
(イ)「【0017】
図3および図4を参照しつつ、第1冷却パネル1についてさらに詳しく説明する。第1冷却パネル1は、図3に示す下側放熱板20と、図4に示す上側放熱板30とを拡散接合、ロウ付け接合、レーザ溶接等の接合技術によって接合したものである。図3に示すように、下側放熱板20には、幅6.0mm、深さ1.5mmの溝21と、幅0.5mm、深さ1.5mmの狭幅溝22とが形成されており、これらを上側放熱板30で覆うことによって、流路11およびマイクロチャネル構造12が形成されている。尚、下側放熱板20への溝21および狭幅溝22の形成は、プレスによってこれら溝を形成する方法や、これら溝を形成した状態で成型する方法や、研削によって形成する方法などが考えられる。」
(ウ)「【0019】・・・本例では、並列する38本の狭幅溝22によってマイクロチャネル構造12が形成されている。

3.本願補正発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「バッテリモジュールBMを積層して収納するケース9」は、本願補正発明の「外側表面および内側表面を有するハウジング」に相当し、以下同様に、
「陽極板2」「陰極板4」「セパレータ5a」「セパレータ5b」は、それぞれ、「ハウジングの中の少なくとも1つの構成要素」に、
それぞれ相当する。
(b)一般にマイクロチャンネルとは、微細加工技術などを使って加工した狭隘な流路のこと(日本冷凍空調学会ホームページ参照。)を指す。
そして、引用発明の「非ループ型細管気密コンテナ23A」は、細管で狭隘な流路を構成するものであるので、本願補正発明の「マイクロチャネル」に相当する。
(c)引用発明の「細管ヒートパイプ式陽極板」は、「無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面には非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成され」た「陽極板2CE」、すなわち、本願補正発明の「マイクロチャネル」に相当する構成を備えるものである。
そして、引用発明の「バッテリ陽極7」は、「バッテリモジュールBMから発熱した熱量は細管ヒートパイプ式陽極板や陰極板の受熱部で受熱されて陽極2A、4Aを介してバッテリ陽極7やバッテリ陰極8で放熱される」ものであるので、本願補正発明の「マイクロチャネルに結合されているヒートシンク」に相当する。
(d)引用発明の「車両に搭載するバッテリBT」は、記載事項(ア)に「電気自動車用バッテリ」が例示として記載されているように、2次電池、すなわち蓄積装置であることが普通であるので、本願補正発明の「電気エネルギー蓄積装置」に相当する。
また、引用発明の「陽極板2」「陰極板4」「セパレータ5a」「セパレータ5b」は、バッテリBTの構成要素であって、それらが共同してバッテリBTの機能を生じていることは自明であるので、引用発明の「活物質3が両面に付着した陽極板2と、活物質3が両面に付着した陰極板4と、陽極板2と陰極板4との間に介在するセパレータ5aと、陽極板2および陰極板4の外側に配置されてこれらを包み込む2枚のセパレータ5bとからな」る「バッテリセルBCを積層して成」る「バッテリモジュールBMを積層して収納するケース9とから成るバッテリBT」の構成は、本願補正発明の電気エネルギー蓄積装置の「上記少なくとも1つの構成要素は、上記ハウジングの中に存在する少なくとも1つの他の構成要素、化学物質、または物質と共同で、電力を蓄積するように構成されて」いる構成に相当する。
(e)引用発明の「バッテリ陽極7」は、「それぞれのバッテリモジュールBMから発熱した熱量は細管ヒートパイプ式陽極板・・の受熱部で受熱されて陽極2A・・を介してバッテリ陽極7・・で放熱される」ものであるので、その構成は、本願補正発明のヒートシンクの「上記マイクロチャネルを通過して流れる流体に熱を移送するか、または、当該流体から熱を移送するように構成され」ている構成に相当する。
(f)引用発明の「非ループ型細管気密コンテナ23A」は、「無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面には非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成され」たものであって、一般に銅は高熱伝導率体として扱われているものであるので、本願補正発明のヒートシンクの「少なくとも1つのマイクロチャネルは、高熱伝導率体で少なくとも部分的に形成または被覆され」ている構成に相当する(なお、「高熱伝導率体は、高k値を有し、そのk値は、410W/(m・K)より大きい」点では、相違する。)。
(g)引用発明の「非ループ型細管気密コンテナ23A」と、本願補正発明の「上記ハウジングの少なくとも1つの上記内側表面、または、上記の少なくとも1つの構成要素に結合されている複数のマイクロチャネル」とは、前者が「陽極板2CEは、無酸素銅からなる2枚の板21、22を有し、一方の板21の内部の面には非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成され」たものであるので、「少なくとも1つの構成要素に結合されているマイクロチャネル」である点で共通する。

(2)両発明の一致点
「外側表面および内側表面を有するハウジングと、
上記ハウジングの中の少なくとも1つの構成要素と、
上記ハウジングの少なくとも1つの上記内側表面、または、上記の少なくとも1つの構成要素に結合されているマイクロチャネルと、
上記マイクロチャネルに結合されているヒートシンクと、
を備えており、
上記少なくとも1つの構成要素は、上記ハウジングの中に存在する少なくとも1つの他の構成要素、化学物質、または物質と共同で、電力を蓄積するように構成されており、
上記ヒートシンクは、上記マイクロチャネルを通過して流れる流体に熱を移送するか、または、当該流体から熱を移送するように構成され、
少なくとも1つのマイクロチャネルは、高熱伝導率体で少なくとも部分的に形成または被覆されている、
電気エネルギー蓄積装置。」

(3)両発明の相違点
相違点1:マイクロチャネルが、本願補正発明は「複数の」マイクロチャネルであり、「複数のマイクロチャネルそれぞれは、高さが幅に対して大きく、流体を平行に通過させ」るものであるのに対して、引用発明の非ループ型細管気密コンテナ23Aは、「複数の」ものでなく、「それぞれは・・・流体を平行に通過させ」るものでもなく、「高さ」と「幅」の関係も不明である点。
相違点2:マイクロチャネルを形成する高熱伝導率体が、本願補正発明は「高k値を有し、そのk値は、410W/(m・K)より大きい」ものであるのに対して、引用発明は、「無酸素銅」(銅の熱伝導率は、400W/(m・K)程度)である点。

4.容易想到性の検討
(1)相違点1について
(a)刊行物2には、記載事項(ア)の「マイクロチャネルが、層状の流れる流体を使用して熱の従来にはない大きな量を吸収すること」とともに、記載事項(イ)に、「複数の流体案内チャネル1102を有し」、「各チャネルは、長さ10mm、幅57μm、高さ365μm」である熱交換器1100が、「慣用」、「一般的な」熱交換器として記載されている。
刊行物2記載事項(ア)の「複数の流体案内チャネル1102」は、チャネルが「幅57μm」であって、狭隘な流路であるので、本願補正発明の「複数のマイクロチャネル」に相当し、以下同様に、「各チャネルは、長さ10mm、幅57μm、高さ365μm」である構成は、「複数のマイクロチャネルそれぞれは、高さが幅に対して大」きい構成に相当する。
また、各流体案内チャネル1102は、実質的に流体を平行に通過させる構成である。
(b)また、刊行物3記載事項(イ)(ウ)には、「下側放熱板20には・・幅0.5mm、深さ1.5mmの狭幅溝22とが形成されており・・マイクロチャネル構造12が形成され」、「並列する38本の狭幅溝22によってマイクロチャネル構造12が形成されている」ことが記載されている。
刊行物3記載事項(イ)(ウ)の「並列する38本の狭幅溝22」は、「マイクロチャネル構造12」を形成するものであるので、本願補正発明の「複数のマイクロチャネル」に相当し、以下同様に、狭幅溝22が「幅0.5mm、深さ1.5mm」である構成は、「複数のマイクロチャネルそれぞれは、高さが幅に対して大」きい構成に相当する。
また、並列する38本の狭幅溝22は、実質的に流体を平行に通過させる構成ともいえる。
(c)そして、刊行物2、3記載の高さが幅に対して大きく、流体を平行に通過させる複数のマイクロチャネルは、刊行物2記載事項(ア)に「慣用」、「一般的な」と記載されているように、周知のものともいえる。
一方、引用発明の「細管ヒートパイプ式陽極板・・の受熱部で受熱され・・バッテリ陽極7・・で放熱」においても、刊行物2記載の「熱の・・大きな量を吸収すること」は望ましいことと認識されるものであるので、引用発明の非ループ型細管気密コンテナ23Aに換えて、刊行物2、3記載の周知の高さが幅に対して大きく、流体を平行に通過させる複数のマイクロチャネルを用いて本願補正発明の相違点1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
(a)例えば、刊行物3記載事項(ア)に「第1冷却パネル1は、例えば銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの熱伝導性の良い金属材料によって形成されている。」と記載されているように、受熱・放熱を意図する部材を熱伝導性の良い材料によって形成することは、技術常識であり、引用発明の「バッテリモジュールBMから発熱した熱量は細管ヒートパイプ式陽極板・・の受熱部で受熱され・・バッテリ陽極7・・で放熱」する陽極板にあってもそのことが変わるものではないので、基本的に、引用発明の陽極板2CEの非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成される部分の材質として、可及的に熱伝導率の高いものを選択することは当業者が容易になしえることである。
(b)次に、材質として、可及的に熱伝導率の高いものを選択するにあたり、相違点2に係る「410W/(m・K)より大きい」値のものを選択することに特段の困難性があるかについて検討する。
(b1)理科年表等により広く知られている一般的な材料の熱伝導率を踏まえれば、熱伝導率の高い材料として、カーボンナノチューブ3000?5500W/(m・K)、ダイヤモンド1000?2000W/(m・K)、銀420W/(m・K)、銅398W/(m・K)、アルミニウム236W/(m・K)等が周知である。
そして、
(b2)熱交換装置において、銅等の金属よりもさらに高熱伝導率の410W/(m・K)をこえる素材を用いて熱交換効率を向上することも、例えば、特開2007-95732号公報(特に、「【0003】しかしながら、特許文献1に記載の冷却システムは、金属の薄板の材料として、銅を前提としており・・冷却が不十分・・【0004】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、熱交換効率の高いマイクロチャンネル構造体、熱交換システム及び電子機器を提供することを目的とする。」「【0008】・・本発明に係るマイクロチャンネル構造体では、材質に、例えば、面方向の熱伝導率が600?800W/mK、厚さ方向の熱伝導率が20W/mKの特性を有するグラファイトを用いることにより、微細流路の配列方向に比べ、微細流路の配列方向に交差する面方向に大きな熱伝導率を有する構成となる。これにより、発熱部の熱は、銅の熱伝導率400W/mKに比べ約2倍も、発熱部に対して垂直方向に伝達されることになる。」等参照。)、実用新案登録第3123990号公報(特に、「【0002】・・公知の熱伝導板3の構造は多くが「固体」の銅プレートを採用して製造されてなる・・銅の熱伝導の係数は402W/MKとなり、グラファイトの熱伝導の係数503W/MKとは差があるため、熱伝導効果は最も理想的であるわけではない。」「【0007】・・グラファイト10の熱伝導係数は503W/MKであり、銅の熱伝導係数は402W/MK、アルミの熱伝導係数は226W/MKである。そのため、グラファイトプレート、銅プレート、アルミプレートによって組み合わさった熱伝導係数は、公知の銅プレート(図1参照)の熱伝導板の402W/MK以上の熱伝導効果を有する。そのため、本考案はより好適な熱吸収、熱伝導の効率を得ることができる。」等参照。)に記載されているように周知のことであること、
(b3)また、例えば、特開平9-13188号公報(特に、「【0001】・・電池、太陽光発電及び化学センサ等に利用され・・るダイヤモンド電極に関する。」「【0002】・・ダイヤモンドは・・熱伝導率が大・・という他の物質よりも優れた物理的特性も有している。」等参照。)、特開2005-293850号公報(特に、「【0007】・・導電性ダイヤモンドには、種々の用途が期待されている。その一つに電気化学用の電極としての利用がある。・・ダイヤモンド電極と一般的に呼ばれるに至っている。」「【0010】・・導電性ダイヤモンド基板上にカーボンナノチューブを成長させたものを負極として用いて二次電池系を構築することにより、二次電池の負極としての機能のみならず、電気二重層キャパシタとしての機能も同一電解液中で同時に発現できるとの知見を得た。」等参照。)に記載されているように、ダイヤモンドやカーボンナノチューブが、電池等の電極材料として使用さる材料であることも周知であること、
を考慮すると、引用発明の陽極板2CEの非ループ型細管気密コンテナ23Aを形成する部分の材質として、可及的に熱伝導率の高いものを選択するにあたり、電池等の電極材料として使用され得る材料であるカーボンナノチューブ(3000?5500W/(m・K))やダイヤモンド(1000?2000W/(m・K))、及び、熱交換装置で使用される材料である上記グラファイト(600?800W/(m・K)、503W/(m・K)))等の熱伝導率として既知である「410W/(m・K)より大きい」値のものを選択することに特段の困難性があるとはいえない。
(c)そうすると、引用発明の陽極板2CEの非ループ型細管気密コンテナ23Aが形成される部分の材質として、熱伝導率の高い材料として既知である「410W/(m・K)より大きい」値のものを選択して本願補正発明の相違点2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)総合判断
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、刊行物2に記載された事項、刊行物3に記載された事項、及び上記当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項、刊行物3に記載された事項、及び上記当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項、刊行物3に記載された事項、及び上記当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本件出願の請求項1に係る発明
平成27年3月17日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成26年10月30日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
外側表面および内側表面を有するハウジングと、
上記ハウジングの中の少なくとも1つの構成要素と、
上記ハウジングの少なくとも1つの上記内側表面、または、上記の少なくとも1つの内部構成要素に結合されている複数のマイクロチャネルと、
上記マイクロチャネルに結合されているヒートシンクと、
を備えており、
上記少なくとも1つの構成要素は、上記ハウジングの中に存在する少なくとも1つの他の構成要素、化学物質、または物質と共同で、電力を蓄積するように構成されており、
上記ヒートシンクは、上記マイクロチャネルを通過して流れる流体に熱を移送するか、
または、当該流体から熱を移送するように構成され、
上記複数のマイクロチャネルそれぞれは、高さが幅に対して大きく、流体を平行に通過させ、
少なくとも1つのマイクロチャネルは、高熱伝導率体で少なくとも部分的に形成または被覆されている、
ことを特徴とする電気エネルギー蓄積装置。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3とその記載事項は、前記の「第2 2.」の「(1)」?「(3)」に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
両発明の対応関係は、前記の「第2 3.(1)」に記載したのと同様である。

(2)両発明の一致点
両発明の一致点は、前記の「第2 3.(2)」に記載したのと同様である。

(3)両発明の相違点
両発明の相違点は、前記の「第2 3.(3)」の相違点1と同様である。

4.容易想到性の検討
相違点1についての判断は、前記の「第2 4.」の「(1)」に記載したと同様である。
そして、本願発明の作用効果は、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び刊行物3に記載された事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-12 
結審通知日 2016-04-19 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2012-513054(P2012-513054)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 嘉紀坂本 聡生高橋 優斗  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 矢島 伸一
中川 真一
発明の名称 マイクロチャネルを使用する電気エネルギー蓄積装置または電気化学エネルギー発生装置の温度を変更するシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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