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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1320063 |
審判番号 | 不服2015-10533 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-03 |
確定日 | 2016-10-25 |
事件の表示 | 特願2010-276294「MIS型の窒化物半導体HEMT及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日出願公開、特開2012-124436、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成22年12月10日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成25年 9月 4日 審査請求 平成26年10月27日 拒絶理由通知 平成26年12月26日 意見書・手続補正 平成27年 2月27日 拒絶査定(以下,「原査定」という) 平成27年 6月 3日 審判請求・手続補正 平成28年 6月29日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という) 平成28年 9年 2日 意見書・手続補正 第2 本願発明 本願の請求項1-8に係る発明は,平成28年9月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものと認められる。 (1)本願発明1 本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 窒化物半導体層と, 前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)N_(y)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)N_(y)は,0.638≦x/y≦0.863であり,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたものであり, 前記ゲート絶縁膜は, 前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と, 前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と の積層構造を含み, 前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有していることを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMT。」 (2)本願発明2 本願の請求項2に係る発明(以下,「本願発明2」という。)は以下のとおりである。 「【請求項2】 窒化物半導体層と, 前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)O_(y)N_(z)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)O_(y)N_(z)は, x:y:z=0.256?0.384:0.240?0.360:0.304?0.456,且つx+y+z=1 を満たし,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたものであり, 前記ゲート絶縁膜は, 前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と, 前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と の積層構造を含み, 前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有していることを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMT。」 第3 原査定の理由の概要 本願発明1及び2は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1 特開2007-317805号公報 引用文献2 特開2009-176930号公報 備考: 引用文献1の段落0061-62に,「窒化珪素膜106は,珪素と窒素の原子組成比が3:4になっている。このとき,窒化珪素膜106はIV族窒化物を構成するお互いの原子が共有結合によって結合される。特に,組成の誤差が10%以内である場合,強固かつ化学的に安定な膜を実現することができる。・・・珪素と窒素の原子組成比が3:4からずれていたとしても,未結合手が水素によって終端されている場合,・・・IV族窒化物である窒化珪素膜106が水素を含有し,未結合手を水素により終端することで,珪素と窒素の原子組成比が3:4の場合と同様の効果を得ることができる。」と記載されるように,珪素と窒素の原子組成比の3:4からのずれに相当する未結合手を水素によって終端することにより,界面を安定化させうることが記載されている。界面の安定化によって,本願で問題としているコラプス現象を改善できることは自明であり,形成した窒化膜の未結合手の濃度が偶々2?5×10^(22)cm^(-3)であった場合に,水素終端基の濃度を同程度とすることは当業者であれば容易になしうる。 また,酸窒化珪素膜を備える化合物半導体装置も引用文献2(段落0032)に記載のように一般的なものであり,これに引用文献1の界面安定化手法を適用することも当業者が適宜なしうる。 引用文献2(段落0048-49)には,SiN膜上に,よりも大きなバンドギャップを有するSiO_(2)膜を,より厚く形成する構成が記載されている。 引用文献1の段落0063には,「図1(c)において,ゲート電極のための穴を窒化珪素膜106に形成しているが,形成しなくとも本発明の効力は発揮される。この場合,エッチング工程を省けるため,プロセスを簡略化することができる。」と記載されており,この場合,ゲート絶縁膜が化合物半導体層の表面とゲート電極の下面との間に配されることとなる。そして,その効果も容易に予測しうるものである。 第4 原査定の理由の判断 1 本願発明1について (1)引用文献1の記載事項 ア 引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2007-317805号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は,窒化物半導体材料,半導体素子およびその製造方法に関し,特に,III族窒化物半導体およびIV族窒化物により構成される窒化物半導体材料,半導体素子およびその製造方法に関する。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0007】 上記目的を達成するために,本発明に係る窒化物半導体材料は,III族窒化物半導体と,前記III族窒化物半導体上に形成されるIV族窒化物とを含み,前記III族窒化物半導体と前記IV族窒化物との界面は規則的な原子配列を有する。 【0008】 この構成によれば,界面においてIII族窒化物半導体とIV族窒化物が化学結合によって接合しているため,III族窒化物半導体からの余分な未結合手を効率よく終端することができる。よって,素子特性の劣化要因となる表面準位を効率的に低減することができる。さらに,III族窒化物半導体とIV族窒化物が化学結合によって強固に接合されているため,IV族窒化物からの歪応力を効率的にIII族窒化物半導体へ伝えることができる。これにより,応力によって窒化物半導体デバイスのバンド構造を効率よく変調することが可能となる。すなわち,本発明に係る窒化物半導体材料を用いることで,素子の動作特性に対する最適なバンド構造を設計することが可能となる。 ・・・ 【0036】 また,前記IV族窒化物は,水素を含有していてもよい。 この構成によれば,IV族窒化物に含まれる未結合手が水素によって終端されるため,IV族窒化物の化学的安定性および絶縁性を安定化させることが可能である。これにより,本発明に係る窒化物半導体材料を用いたデバイスの特性を安定化かつ高信頼化することができる。」 (ウ)「【0049】 図1は,本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体材料を用いた半導体素子であるヘテロ接合型電界効果トランジスタの製造過程を示す断面図である。 【0050】 まず,III族窒化物半導体である(0001)面GaN基板101上に,III族窒化物半導体である1.5μm厚アンドープ型GaN層102を結晶成長させる。さらに,GaN層102上に,窒化ガリウム(GaN)に比べて禁制帯幅が広いIII族窒化物半導体である8nm厚n型AlGaN層103を結晶成長させる。そして,n型AlGaN層103上に,IV族窒化物とのなじみを改善するために,III族窒化物半導体である1nm厚AlN層104を結晶成長させる(図1(a))。 【0051】 次に,図1(a)に示すAlN層104上に,界面105を介してIV族窒化物である窒化珪素膜106を形成する(図1(b))。・・・ ・・・ 【0053】 IV族窒化物である窒化珪素膜106を成膜した後,CF_(4)ガスを用いた誘電体反応性イオンエッチングによって窒化珪素膜106にゲート電極,ソース電極およびドレイン電極のための穴を形成する。ゲート電極のための穴を窒化珪素膜106に形成する理由は,寄生容量の低減および相互コンダクタンスを増大させるためである。さらに,塩素系ドライエッチングによってAlN層104,n型AlGaN層103およびアンドープ型GaN層102をエッチングすることで,ソース電極およびドレイン電極を介して電気伝導させるための領域を形成する(図1(c))。 【0054】 次に,図1(c)に示されている構造に,チタン/アルミニウム/チタン/金の電極をリフトオフ法によって蒸着することで,ソース電極107a,ゲート電極107bおよびドレイン電極107cを形成する(図1(d))。以上により,ヘテロ接合型電界効果トランジスタが形成される。 【0055】 図1(d)に示すヘテロ接合型電界効果トランジスタは,界面105において原子オーダで規則的に配列し,かつ,AlN層104および窒化珪素膜105が化学結合によってつながっている。これにより,界面105における界面準位を低減させることができる。さらに,窒化珪素膜106が歪によって引き起こされる応力を,界面105における化学結合を通じてAlN層104へ伝えることができる。その結果として,GaN層102において生成されている2次元電子ガス108のシートキャリア濃度を変調することができる。これにより,ソース電極107aとドレイン電極107cとの間のシート抵抗を減少させることができる。このように,少なくとも界面において原子が規則配列したIV族窒化物を用いることで,ヘテロ接合型電界効果トランジスタの特性および信頼性を向上させることが可能である。 【0056】 また,図1(d)に示すヘテロ接合型電界効果トランジスタは,GaN層102,n型AlGaN層103およびAlN層104の3層構造となっている。これにより,自発分極および圧電効果によって2次元電子ガスが効率的に生成することができる。 ・・・ 【0061】 ここで,窒化珪素膜106は,珪素と窒素の原子組成比が3:4になっている。このとき,窒化珪素膜106はIV族窒化物を構成するお互いの原子が共有結合によって結合される。特に,組成の誤差が10%以内である場合,強固かつ化学的に安定な膜を実現することができる。これにより,界面105を通じて窒化珪素膜106における歪応力を効率よくAlN層104へ伝達することができる。また,窒化珪素膜106は共有結合で構成されるため,AlN層104等のIII族窒化物半導体との相性がよく,密着性の向上および界面準位の低減を実現することができる。特にAlN層104を窒化珪素膜106の直下に導入することは,AlNはGaNに比べて窒化珪素となじみが良く,AlN層104の表面を覆い尽くすように窒化珪素薄膜が形成されることが,我々が行なった第一原理計算による解析の結果から分かっており,AlN層104を成膜することは,窒化珪素膜106との界面105を高品質なものにすることができる。 【0062】 また,珪素と窒素の原子組成比が3:4からずれていたとしても,未結合手が水素によって終端されている場合,本発明の効果が発揮される。すなわち,IV族窒化物である窒化珪素膜106が水素を含有し,未結合手を水素により終端することで,珪素と窒素の原子組成比が3:4の場合と同様の効果を得ることができる。 ・・・ 【0063】 また,図1(c)において,ゲート電極のための穴を窒化珪素膜106に形成しているが,形成しなくとも本発明の効力は発揮される。この場合,エッチング工程を省けるため,プロセスを簡略化することができる。」 (エ)図1(d)には,ゲート電極107bが窒化珪素膜106の穴の中とその上方に形成されることが記載されていると認められる。 イ 引用発明1 前記アより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「III族窒化物半導体であるAlN層と,AlN層上に窒化珪素膜と,窒化珪素膜に穴を形成せずにその上方にゲート電極と,を形成されたヘテロ接合型電界効果トランジスタであって,前記窒化珪素膜は,珪素と窒素の原子組成比が3:4になっており,組成の誤差が10%以内であって,前記窒化珪素膜は水素を含有し未結合手が水素によって終端されている。」 (2)引用文献2の記載事項 ア 引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2009-176930号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 (ア)「【0030】 基板10には,Si基板,GaAs基板,SiGe基板,InP基板,SiC基板,GaN基板,SiC基板上にGaNエピタキシャル層を形成した基板,SiC基板上にGaN/GaAlNからなるヘテロ接合エピタキシャル層を形成した基板,サファイア基板,若しくはダイヤモンド基板などを適用することができる。 【0031】 本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置のパッケージ構成は,例えば図2に示すように,基板と,基板上に配置された下地金属層20と,下地金属層20上に配置された電界効果トランジスタ18と,電界効果トランジスタ18の入出力部に配置された入出力整合回路17と,入出力整合回路17に接続された入出力ストリップライン15と,電界効果トランジスタ18,入出力整合回路17,および入出力ストリップライン15の一部を内包する外囲壁部12と,外囲壁部12上に接続部14を介して配置される上面パッケージ封止部16とを備える。 ・・・ 【0034】 本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置は,図3および図4に示すように,ゲート電極24,ソース電極26およびドレイン電極22上,ゲート電極24とドレイン電極22間の基板10上,およびゲート電極24とソース電極26間の基板10上に第1の絶縁膜28を備えていても良い。第1の絶縁膜28としては,例えば窒化膜(SiN_(x)膜),シリコン酸化膜(SiO_(2)膜),シリコン酸窒化膜(SiON膜)などを適用することができる。」 (イ)「【0047】 (変形例2) 本発明の第1の実施の形態の変形例2に係る半導体装置は,図6に示すように,ゲート電極24,ソース電極26およびドレイン電極22上,ゲート電極24とドレイン電極22間の基板10上,およびゲート電極24とソース電極26間の基板10上に第1の絶縁膜28を備え,さらに第1の絶縁膜28上に第2の絶縁膜32を備えている。 【0048】 第1の絶縁膜28としては,例えばSiN_(x)膜,SiO_(2)膜,SiON膜などを適用することができる。第2の絶縁膜32としては,例えば,SiO_(2)膜,SiON膜などを適用することができる。」 (ウ)図6には,基板10上にゲート電極24を備え,ゲート電極24上に第1の絶縁膜28を,第1の絶縁膜28上に第2の絶縁膜32を備えることが,記載されていると認められる。 イ 引用発明2 前記アより,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「GaN/GaAlNからなるヘテロ接合エピタキシャル層を形成した基板と,前記基板上にゲート電極と,ゲート電極上に第1の絶縁膜と,第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を備えた電界効果トランジスタにおいて,第1の絶縁膜としては,SiN_(x)膜,SiON膜を適用し,第2の絶縁膜としては,SiO_(2)膜,SiON膜を適用した。」 (3)引用文献3の記載事項 ア 引用文献3 本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2010-135640号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 (ア)「【0032】 図1は,本実施の形態に係るFETの構成を示す断面図である。 このFETは,基板101と,バッファ層102と,第1の窒化物半導体層103と,第2の窒化物半導体層104と,第3の窒化物半導体層105と,第4の窒化物半導体層106と,絶縁膜107と,ドレイン電極108と,ソース電極109と,ゲート電極110と,素子分離層111とを備えている。 ・・・ 【0039】 第1の窒化物半導体層103及び第2の窒化物半導体層104のヘテロ接合界面と,第3の窒化物半導体層105及び第4の窒化物半導体層106のヘテロ接合界面とには,自発分極及びピエゾ分極により例えば1×10^(13)cm^(-2)程度の電荷が生じており,ゲートがオンの状態ではヘテロ接合界面を電子が走行し,特にFETにおいて横方向の抵抗を大きく下げることができる。 ・・・ 【0044】 絶縁膜107は,凹部120の底面及び側面並びに第4の窒化物半導体層106表面に形成されている。凹部120の底面及び側面に形成された絶縁膜107は,第2の窒化物半導体層104,第3の窒化物半導体層105及び第4の窒化物半導体層106とゲート電極110とに挟み込まれている。 【0045】 絶縁膜107は,例えば窒化シリコン(SiN),酸化シリコン(SiO),窒化アルミニウム(AlN),酸化アルミ(AlO),SiN及びAlNの積層構造体,並びにSiN及びAlOの積層構造体等から構成される。絶縁膜107がSiN又はSiOから構成される場合,絶縁膜107は例えばプラズマ化学気相成長(CVD)法や減圧CVD法により成膜される。一方,絶縁膜107がAlN又はAlOにより構成される場合,絶縁膜107は例えばスパッタ法や原子層堆積装置を用いた原子層堆積法(アトミックレイヤーデポジション:ALD法)により成膜される。」 イ 引用発明3 前記アより,引用文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「窒化物半導体層のヘテロ接合界面からなるFETにおいて,絶縁膜は窒化物半導体層とゲート電極とに挟み込まれており,前記絶縁膜は,SiN及びAlNの積層構造体,SiN及びAlOの積層構造体から構成される。」 (4)対比 ア 引用発明1の「III族窒化物半導体であるAlN層」及び「ゲート電極」は,それぞれ本願発明1の「窒化物半導体層」及び「ゲート電極」に相当すると認められる。 イ 引用発明1の「窒化珪素膜」は「上方にゲート電極」が形成されかつ「AlN層上」に形成されるから,本願発明1の「ゲート絶縁膜」に相当し,本願発明1における「前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)N_(y)を絶縁材料として含有しており」を満たし,本願発明1における「前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極」も満たされると認められる。 また,引用発明1の窒化珪素の「珪素と窒素の原子組成比が3:4になっており,組成の誤差が10%以内」であるから,本願発明1の「前記Si_(x)N_(y)は,0.638≦x/y≦0.863」を満たすものであると認められる。 ウ 引用発明1の「ヘテロ接合型電界効果トランジスタ」は,ゲート絶縁膜を有し,「III族窒化物半導体」により2次元電子ガスを生成するものである(前記(1)ア(イ)【0056】)から,下記相違点1及び2を除いて,本願発明1の「MIS型の窒化物半導体HEMT」に相当すると認められる。 エ そして,本願発明1と引用発明1とを対比すると,下記(ア)の点で一致しているが,下記(イ)の点で相違すると認められる。 (ア)一致点 「窒化物半導体層と, 前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)N_(y)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)N_(y)は,0.638≦x/y≦0.863である ことを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMT。」 (イ) 相違点 ・相違点1 本願発明1においては「前記Si_(x)N_(y)は,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたもの」であるのに対し,引用発明1においては窒化珪素膜は水素を含有し未結合手が水素によって終端されているものの,水素終端基濃度については開示がない点。 ・相違点2 本願発明1の「前記ゲート絶縁膜は,前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と,前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜との積層構造を含み,前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有している」のに対し,引用発明1の「窒化珪素膜」は積層構造でなく,第2の絶縁膜を有さない点。 (5)判断 相違点1について検討すると,ゲート絶縁膜を構成するSi_(x)N_(y)は,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされることについて,いずれの引用文献にも開示も示唆もない。本願発明1においてはゲート絶縁膜を構成するSi_(x)N_(y)は,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とすることにより,ゲート絶縁膜として十分な絶縁性を担保し,ゲート絶縁膜としての優れた特性を保ちつつ,ダングリングボンドを水素で十分に終端することができるというもの(本願明細書段落【0032】)であり,この課題についてもいずれの引用文献にも開示も示唆もないので,相違点1に係る構成を想到することは当業者が容易になし得ることではない。 (6)小括 したがって,本願発明1は,当業者が引用発明1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 2 本願発明2について (1)引用文献1ないし3の記載事項 引用文献1ないし3には,それぞれ前記1(1)ア,同(2)ア及び同(3)アのとおりの記載があり,それぞれ引用発明1ないし3が記載されていると認められる。 (2)対比 本願発明2と引用発明1とを対比すると,前記1(4)ア及びウより,両者は下記アの点で一致しているが,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「窒化物半導体層と, 前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配される ことを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMT。」 イ 相違点 (ア)相違点1 本願発明2の「ゲート絶縁膜」は「Si_(x)O_(y)N_(z)を絶縁材料として含有しており,前記Si_(x)O_(y)N_(z)は,x:y:z=0.256?0.384:0.240?0.360:0.304?0.456,且つx+y+z=1を満たす」のに対し,引用発明1にはSi_(x)O_(y)N_(z)は開示されていない点。 (イ)相違点2 本願発明2においては,「前記Si_(x)O_(y)N_(z)は,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたもの」であるのに対し,引用発明1においてはSi_(x)O_(y)N_(z)は開示されておらず,窒化珪素膜は水素を含有し未結合手が水素によって終端されているものの,水素終端基濃度については開示がない点。 (ウ)相違点3 本願発明2の「前記ゲート絶縁膜は,前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と,前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜との積層構造を含み,前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有している」のに対し,引用発明1の「窒化珪素膜」は積層構造でなく,第2の絶縁膜を有さない点。 (3)判断 相違点2について検討すると,ゲート絶縁膜を構成するSi_(x)O_(y)N_(z)は,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされることについて,いずれの引用文献にも開示も示唆もない。本願発明2においてはゲート絶縁膜を構成するSi_(x)O_(y)N_(z)は,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とすることにより,リーク電流量が少なく,ダングリングボンドの少ない優れたゲート絶縁膜とする(本願明細書段落【0082】)ものであり,この課題についてもいずれの引用文献にも開示も示唆もないので,相違点2に係る構成を想到することは当業者が容易になし得ることではない。 (4)小括 したがって,本願発明2は,当業者が引用発明1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 3 まとめ 本願の請求項3及び4に係る発明は本願発明1をさらに限定したものであり,同請求項5に係る発明は本願発明1に係る物の製造方法であり,同請求項6に係る発明は本願発明2に係る物の製造方法であり,同請求項7及び8に係る発明は同請求項5又は6に係る発明をさらに限定したものであるので,本願発明1又は2と同様に,当業者が引用発明1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 第5 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ・請求項1ないし8について 本願の発明の詳細な説明に開示された内容は,MIS型の窒化物半導体HEMTを前提とした課題とその解決手段である。そして,ゲート-チャネル構造が異なればゲート絶縁膜のデバイス特性に与える影響も異なるというのが技術常識であって,してみると,MIS型の窒化物半導体HEMTを前提とした開示を,ゲート-チャネル構造が異なる他のトランジスタにまで拡張ないし一般化できるとはいえない。 ところが,請求項1ないし8には,「MIS型の窒化物半導体HEMT」であることの限定がなく,上位概念の「化合物半導体装置」又は「化合物半導体装置の製造方法」として記載されているから,請求項1ないし8に係る発明は,発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとなっている。 2 当審拒絶理由の判断 平成28年9月2日付け手続補正書によって,本願の特許請求の範囲は次のように補正された。(下線は補正個所を示すものとして,当審で付加した。) 「【請求項1】 窒化物半導体層と, 前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)N_(y)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)N_(y)は,0.638≦x/y≦0.863であり,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたものであり, 前記ゲート絶縁膜は, 前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と, 前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と の積層構造を含み, 前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有していることを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMT。 【請求項2】 窒化物半導体層と, 前記窒化物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)O_(y)N_(z)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)O_(y)N_(z)は, x:y:z=0.256?0.384:0.240?0.360:0.304?0.456,且つx+y+z=1 を満たし,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたものであり, 前記ゲート絶縁膜は, 前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と, 前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と の積層構造を含み, 前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有していることを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMT。 【請求項3】 前記ゲート絶縁膜は,前記絶縁材料の原子間水素濃度が2×10^(21)/cm^(3)以上6×10^(21)/cm^(3)以下のものであることを特徴とする請求項1に記載のMIS型の窒化物半導体HEMT。 【請求項4】 前記第2の絶縁膜は,前記第1の絶縁膜よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載のMIS型の窒化物半導体HEMT。 【請求項5】 窒化物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と, 前記窒化物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)N_(y)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)N_(y)は,0.638≦x/y≦0.863であり,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたものであり, 前記ゲート絶縁膜は, 前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と, 前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と の積層構造を含み, 前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMTの製造方法。 【請求項6】 窒化物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と, 前記窒化物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と を含み, 前記ゲート絶縁膜は,前記窒化物半導体層の表面と前記ゲート電極の下面との間に配され,Si_(x)O_(y)N_(z)を絶縁材料として含有しており, 前記Si_(x)O_(y)N_(z)は, x:y:z=0.256?0.384:0.240?0.360:0.304?0.456,且つx+y+z=1 を満たし,水素終端基濃度が2×10^(22)/cm^(3)以上5×10^(22)/cm^(3)以下の範囲内の値とされたものであり, 前記ゲート絶縁膜は, 前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と, 前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と の積層構造を含み, 前記第2の絶縁膜は,Al_(2)O_(3),AlN,及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とするMIS型の窒化物半導体HEMTの製造方法。 【請求項7】 前記絶縁材料を,プラズマCVD法により,RF電力を20W以上200W以下の範囲内の値として堆積することを特徴とする請求項5又は6に記載のMIS型の窒化物半導体HEMTの製造方法。 【請求項8】 前記ゲート絶縁膜は,前記絶縁材料の原子間水素濃度が2×10^(21)/cm^(3)以上6×10^(21)/cm^(3)以下のものであることを特徴とする請求項5?7のいずれか1項に記載のMIS型の窒化物半導体HEMTの製造方法。」 そして,本願明細書における,本願に係る発明の課題に関する記載(【0002】,【0004】),及び課題解決手段に関する記載(【0015】,【0033】ないし【0037】,【0073】,【0082】)より,補正後の請求項1ないし8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。 よって,当審拒絶理由は解消した。 第6 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-10-11 |
出願番号 | 特願2010-276294(P2010-276294) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 儀同 孝信 |
特許庁審判長 |
河口 雅英 |
特許庁審判官 |
深沢 正志 柴山 将隆 |
発明の名称 | MIS型の窒化物半導体HEMT及びその製造方法 |
代理人 | 國分 孝悦 |