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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1320109
審判番号 不服2015-16473  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-08 
確定日 2016-10-25 
事件の表示 特願2014- 46193「画像処理装置および方法,プログラム,並びに,記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日出願公開,特開2014-143709,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は2011年(平成23年)3月11日(優先権主張平成22年4月1日 日本国,同年9月30日 日本国)を国際出願日とする出願である特願2012-509364号の一部を,平成26年3月10日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 3月19日 :手続補正
平成27年 1月30日付け:拒絶理由通知
平成27年 4月 3日 :手続補正
平成27年 4月24日付け:拒絶理由通知(最後)
平成27年 6月11日 :手続補正
平成27年 7月22日付け:補正却下の決定
平成27年 7月22日付け:拒絶査定
平成27年 7月28日 :拒絶査定の謄本の送達
平成27年 9月 8日 :拒絶査定不服審判の請求
平成27年 9月 8日 :手続補正
平成27年10月23日付け:前置報告
平成28年 6月16日付け:拒絶理由通知(当審)
平成28年 8月19日 :手続補正

第2 本願発明
本願の請求項1-11に係る発明は,平成28年8月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものと認められる(以下,請求項の項番を用いて「本願発明1」等という。)。その請求項1-11の記載は,以下のとおりである。

「 【請求項1】
空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに割り当てられたコードナンバを取得するコードナンバ取得部と,
前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記予測動きベクトル再構築部は,前記時間予測動きベクトルに,前記空間予測動きベクトルよりも大きな値が割り当てられる,または,前記空間予測動きベクトルよりも小さな値が割り当てられるコードナンバを用いて,前記予測動きベクトルを再構築する
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記予測動きベクトル再構築部は,前記時間予測動きベクトルのみに割り当てられるコードナンバを用いて,前記予測動きベクトルを再構築する
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記予測動きベクトル再構築部は,前記時間予測動きベクトルに割り当てられた,前記カレント領域が静止領域であるか否かに応じた値のコードナンバを用いて,前記予測動きベクトルを再構築する
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記予測動きベクトル再構築部は,前記時間予測動きベクトルに割り当てられた,前記空間予測動きベクトルの出現に応じた値のコードナンバを用いて,前記予測動きベクトルを再構築する
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記コードナンバの割り当て方が変更可能な状態であることを示す識別データと画像を符号化した符号化ストリームとを受け取る受け取り部を更に備え,
前記コードナンバ取得部は,前記受け取り部により受け取られた前記識別データが前記コードナンバの割り当て方が変更可能な状態であることを示す場合に,前記コードナンバの割り当て方に関する情報を取得し,
前記予測動きベクトル再構築部は,前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバの割り当て方に関する情報を用いて,前記予測動きベクトルを再構築する
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記識別データは,スライス毎に設定されており,
前記受け取り部は,前記識別データを前記符号化ストリームのスライスヘッダとして受け取る
請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記識別データは,ピクチャ又はシーケンス毎に設定されており,
前記受け取り部は,前記識別データを前記符号化ストリームのピクチャパラメータセット又はシーケンスパラメータセットとして受け取る
請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項9】
画像処理装置の画像処理方法であって,
コードナンバ取得部が,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに割り当てられたコードナンバを取得し,
予測動きベクトル再構築部が,前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する
画像処理方法。
【請求項10】
コンピュータを,
空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに割り当てられたコードナンバを取得するコードナンバ取得部と,
前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と
して機能させるためのプログラム。
【請求項11】
コンピュータを,
空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに割り当てられたコードナンバを取得するコードナンバ取得部と,
前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と
して機能させるためのプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(理由1)平成27年4月3日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1,9-11に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
(理由2)同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-11に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開平11-75188号公報
引用例2:特開平5-227522号公報
引用例3:特開平10-224800号公報

(1)理由1について
引用例1には,画像の処理対象であるカレント領域の,予測動きベクトルに対応するコードナンバを取得するコードナンバ取得部(0023-0024段落)と,前記コードナンバの割り当て方が変更可能な状態で,前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,前記予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部(0027段落)とを備える画像処理装置が記載されている。
したがって,同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1,9-11に係る発明は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

(2)理由2について
同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-11に係る発明は,引用例1記載の発明(請求項2については,引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明,請求項3-5については,引用例1ないし3記載の発明)を基に,当業者が容易になし得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 原査定の拒絶理由における理由1についての判断
(1)本願発明1
上記「第2 本願発明」において認定した本願発明1は,以下のとおりである。なお,次のように,当審において,(A)から(C)までの記号を,説明のために付与した。以下,構成要件A,構成要件Bなどと称することとする。

「(A)空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに割り当てられたコードナンバを取得するコードナンバ取得部と,
(B)前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と
(C)を備える画像処理装置。」

(2)引用例1に記載された発明
(2-1)引用例1の記載
引用例1には,「動きベクトル符号化装置」(発明の名称)として,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は,当審において付したものである。)。

「【0014】
【発明が解決しようとする課題】従って,本発明の主な目的は,動きベクトルの最適予測値を求めて,動きベクトルの符号化効率をより一層向上させ得る動きベクトル符号化方法及びその装置を提供することにある。」

「【0016】
【発明の実施の形態】図2には,本発明による動きベクトル符号化装置100のブロック図が示されている。ここで,動きベクトルは現フレームの探索ブロックと最小エラー関数をもたらす前フレームの対応する探索領域内の候補ブロックとの間の変位を表す。現フレーム内の各探索ブロックに対する動きベクトルの情報はメモリ110,基準動きベクトル選択部120,偏差計算部160,差分値符号化部210にラインL10を通じて入力される。動きベクトルの情報は現探索ブロックの位置データ及びその動きベクトルを表し,動きベクトルは水平及び垂直成分によって表される。
【0017】メモリ110は位置情報を用いて,各探索ブロックに対する動きベクトルを格納する。
【0018】基準動きベクトル選択部120は位置情報に基づいて,現探索ブロックの基準探索ブロックを決定し,メモリ110から基準探索ブロックの動きベクトルを取り出す。本発明の好適実施例において,前述したMPEG-4 verification moral 7.0と同様の方法で,現探索ブロックの左側,上側,右側の上に位置する3個の探索ブロックが基準探索ブロックとして選択される。本発明の他の例として,例えば,現探索ブロックの左側,上側,左側の上に位置する探索ブロックの組みが基準探索ブロックとして選択されてもよい。どの場合であっても,動きベクトルを容易にメジアンフィルタリングするためには,基準探索ブロックの数を奇数に設定することが望ましい。」

「【0020】メジアンフィルタ200は,基準動きベクトルに基づいてメジアンベクトルを決定する。(略)計算されたメジアンベクトルの水平,垂直成分は現探索ブロックの動きベクトルの第1候補予測値として,ラインL20を通じて分散量計算部130,スイッチ150及び比較部180に供給される。」

「【0021】分散量計算部130は,メジアンベクトルの周囲の基準動きベクトルの水平,垂直成分の分散量を計算して,この分散量を選択信号発生部140に供給する。(略)もし,分散量の和がしきい値より小さい場合は,第1選択信号を,そうでない場合には,第2選択信号をラインL30を通じてスイッチ150及びスイッチ155に発生する。」

「【0023】偏差計算部160からの偏差データの組に応じて,偏差計算部160はDIR_DIF(i)_x及びDIR_DIF(i)_yのうち最小の水平差分及び最小の垂直差分を各々決定すると共に,現動きベクトルの第2候補予測値としてスイッチ150及び比較部180に供給する。ここで,第2候補予測値は最小の水平差分をもたらす基準動きベクトルの水平成分に対応する水平成分と,最小の垂直成分をもたらす基準動きベクトルの垂直成分とから構成されている。(略)
【0024】比較部180は,第2候補予測値の水平及び垂直成分と第1候補予測値の水平及び垂直成分を各々比較して,この比較結果をヘッダエンコーダ190に供給する。このヘッダエンコーダ190は,各比較結果に対するフラグ信号または識別信号を発生する。例えば,第2候補予測値の水平(または,垂直)成分が第1候補予測値の水平(または,垂直)成分と同一であると,フラグ信号「0」が発生され,小さければフラグ信号「10」が,大きければフラグ信号「11」が発生される。上記の例において,即ち,第1候補予測値MV_MEDが(1,5)であり,第2候補予測値MV_SECが(1,3)であるので,プラグ信号「0」が第2候補予測値の水平成分として,フラグ信号「11」が第2候補予測値の垂直成分として各々発生される。その後,第2候補予測値に対するフラグ信号の組はスイッチ155に供給される。
【0025】スイッチ150は第1選択信号に応じて,メジアンフィルタ200から供給された第1候補予測値を選択するか,または第2選択信号に応じて,最小偏差選択部170から供給された第2候補予測値を選択して,そのうちの最適の予測値を差分エンコーダ210に供給する。
【0026】この差分エンコーダ210は通常のDPCM方法を用いて,最適予測値と現動きベクトルの水平,垂直成分との間の差分を計算し,例えば,VLC等の技法を用いてこの差分を符号化した後,符号化差分を現探索ブロックに対する符号化動きベクトルとしてマルチプレクサ(MUX)220に供給する。
【0027】スイッチ155はラインL30を通じて第2選択信号が入力される時のみ,ヘッダエンコーダ190からのフラグ信号をMUX220に供給する。MUX220はスイッチ155からフラグ信号を受け取った場合,差分エンコーダ210からの符号化動きベクトルを現探索ブロックの動きベクトルのデータとして多重化して,その伝送のために伝送器(図示せず)に送り出す。受信端のデコーダにおいては,基準動きベクトルの各分散量(水平及び垂直成分)の和が分散量計算部130と同じ方法で計算される。和がしきい値未満である場合,現探索ブロックの動きベクトルは基準動きベクトルのメジアンベクトル及び伝送された符号化動きベクトルに基づいて再構成される。また,和がしきい値以上である場合には,現探索ブロックの動きベクトルはフラグ信号及び伝送された動きベクトルのデータに含まれている符号化動きベクトルに基づいて再構成され得る。(後略)」

(2-2)引用発明1
上記(2-1)の摘記事項(特に,下線を付した箇所の記載事項)及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されている。以下,引用発明1の各構成要件を,付与した符号を用い,構成要件1a,構成要件1bなどと称することとする。

(引用発明1)
「(1a)現探索ブロックの左側,上側,右側の上(又は,左側,上側,左側の上)に位置する3個の探索ブロックである基準探索ブロックの各基準動きベクトルから求められた,第2候補予測値の水平成分及び垂直成分のそれぞれに対し,第1候補予測値であるメジアンベクトルの水平成分及び垂直成分との大小関係を示すものとして割り当てられたフラグ信号を取得し,
(1b)取得された前記フラグ信号を用いて,現探索ブロックの動きベクトルが再構成される,
(1c)受信側のデコーダ。」

(3)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(3-1)構成要件Aと構成要件1aとの対比
引用発明1における,「現探索ブロックの左側,上側,右側の上(又は,左側,上側,左側の上)に位置する3個の探索ブロックである基準探索ブロックの各基準動きベクトル」は,現探索ブロックと同じフレームの,現探索ブロックの周辺にあるブロックの動きベクトルであるから,空間予測動きベクトルを決定するために用いられる動きベクトルということができる。そして,これらの動きベクトル「から求められた,第2候補予測値」も,空間予測動きベクトルを求めるために用いられるものであるから,その「水平成分及び垂直成分のそれぞれに対し,第1候補予測値であるメジアンベクトルの水平成分及び垂直成分との大小関係を示すものとして割り当てられたフラグ信号」は,空間予測動きベクトルを決定する過程で割り当てられた値を示すものであり,「空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値」を示すものということができる。そして,引用発明1における,受信側のデコーダは,そのような値を取得することができるのであるから,当該取得に係る「取得部」を備えているといえる。
以上によれば,引用発明1の構成要件1aと,本願発明1の構成要件Aとは,「空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値を取得する取得部」を備える点で共通する。

ここで,本願発明1では,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値が,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」割り当てられた「コードナンバ」であるところ,前記「出現」の意味内容についてみると,本願の明細書には,以下のように説明がなされている(下線は,当審において付したものである。)。
「【0150】
以上説明したCAVLC方式およびCABAC方式の場合ともに,より出現頻度の高い予測動きベクトル情報に対して,より小さなコードナンバを割り当てるべきであり,それぞれの予測動きベクトル情報の出現頻度は,シーケンスおよびビットレート毎に異なるはずである。しかしながら,非特許文献1に記載の提案においては,各予測動きベクトル情報に対して割り当てられているコードナンバは固定されたものであった。
【0151】
[本技術の概要]
そこで,図7の画像符号化装置51においては,ユーザあるいはアプリケーションが,符号化効率または主観画質を最適にするよう,コードナンバ割当部77を介して,各予測動きベクトルに対するコードナンバの割り当てをデフォルトから変えることが可能である。
【0152】
すなわち,画像符号化装置51においては,候補となる複数の予測動きベクトル情報が生成され,さらに,それぞれの予測動きベクトル情報に対するコスト関数値が生成される。そして,その値を最小にする予測動きベクトル情報と,処理対象ブロックに対する予測動きベクトル情報とし,これを用いて符号化が行われるが,その際,コスト関数値の生成および符号化には,コードナンバ割当部77により各予測動きベクトルに割り当てられたコードナンバが用いられる。
【0153】
例えば,デフォルトの設定では,コードナンバ=0が,上述した式(5)の空間予測動きベクトル情報(Spatial Predictor)に割り当てられ,コードナンバ=1が,上述した式(10)の時間予測動きベクトル情報(TemporalPredictor)に割り当てられているとする。(略)
【0155】
しかしながら,特に,低いビットレート(すなわち,高い量子化パラメータQP)の場合,コードナンバ=0に割り当てられた予測動きベクトル情報の方が,予測動きベクトル情報を表現するために必要とされるビットが少ないため,より選ばれやすくなってしまう。
【0156】
そこで,画像符号化装置51においては,各予測動きベクトルに対するコードナンバの割り当てをデフォルトから変更することが可能である。したがって,このような場合に,例えば,コードナンバ=0を,時間予測動きベクトル情報に割り当て,コードナンバ=1を,空間予測動きベクトル情報に割り当てるように変更する。これにより,符号化効率または主観画質を改善することができる。」
当該説明,特に下線箇所の記述を考慮すると,構成要件Aの「出現」については,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルのいずれが多く用いられるかという出現頻度に関する用語として理解することができる。

そうすると,上記のように共通する点はあるものの,本願発明1では,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値が,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」割り当てられた「コードナンバ」であり,また,そのために,取得部を「コードナンバ」取得部ということができるのに対し,引用発明1では,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値が,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルのいずれが多く用いられるかという出現頻度に応じて,両者に対し,割り当てられるような,「出現に応じ」て両者に割り当てられた「コードナンバ」ではなく,また,そのために,取得部を「コードナンバ」取得部ということができない点で,両発明は相違する。

(3-2)構成要件Bと構成要件1bとの対比
引用発明1における「現探索ブロック」は,本願発明1における「画像の処理対象であるカレント領域」に相当する。また,引用発明1における「取得された前記フラグ信号」は,上記(3-1)の検討を踏まえると,「前記取得部により取得された前記値」といえる。
また,引用発明1において,現探索ブロック「の動きベクトルが再構成される」ということは,その前提として,「予測動きベクトルを再構築」していることが明らかである。そして,引用発明1における,受信側のデコーダは,そのような再構築を行うのであるから,「予測動きベクトル再構築部」を備えているといえる。
以上によれば,引用発明1の構成要件1bと,本願発明1の構成要件Bとは,「前記取得部により取得された前記値を用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部」を備える点で共通する。
しかしながら,本願発明1では,前記取得部により取得された前記値が,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」割り当てられた「コードナンバ」であるのに対し,引用発明1では,前記取得部により取得された前記値が,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値ということはいえるものの,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルのいずれが多く用いられるかという出現頻度に応じて,両者に対し,割り当てられるようなコードナンバではない点で,両発明は相違する。

(3-3)構成要件Cと構成要件1cとの対比
引用発明1における「受信側のデコーダ」が画像処理装置であることは,明らかである。したがって,引用発明1における「受信側のデコーダ」は,上記(3-1)に示した相違を除き,本願発明1の「画像処理装置」に相当する。

(3-4)まとめ
上記(3-1)から(3-3)までに示した対比の結果に基づき,本願発明1と,引用発明1との間の一致点と相違点とをまとめると,以下のとおりである。

(一致点)
「空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値を取得する取得部と,
前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と
を備える画像処理装置。」

(相違点)
本願発明1では,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値が,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」割り当てられた「コードナンバ」であり,また,そのために,取得部を「コードナンバ」取得部ということができるのに対し,引用発明1では,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられた値が,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルのいずれが多く用いられるかという出現頻度に応じて,両者に対し,割り当てられるような,「出現に応じ」て両者に割り当てられた「コードナンバ」ではなく,また,そのために,取得部を「コードナンバ」取得部ということができない点

(4)本願発明1についての判断
本願発明1は,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する「画像処理装置」,すなわち,復号化側の「画像処理装置」に係るものである。他方,上記(相違点)の構成に係るコードナンバは,符号化側で割り当てられるものである。そこで,上記(相違点)の構成に係る,割当てに特徴のあるコードナンバが特定されることにより,復号化側の「画像処理装置」の構造,機能等が特定されているか否かを検討する。
本願発明1の,コードナンバは,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに割り当てられた」ものであるから,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルとに割り当てられるコードナンバは,動的に変化することになる。そうすると,復号化側の「画像処理装置」においては,予測動きベクトルを再構築するために,符号化側で割り当てたコードナンバが,空間予測動きベクトル,時間予測動きベクトルの,いずれに割り当てられたものであるのかを把握しなければならず,そのための構造ないし機能を備えなければならない。
したがって,割当てに特徴のあるコードナンバを特定した,上記(相違点)の構成は,復号化側の「画像処理装置」の構造ないし機能を特定しており,本願発明1と引用発明1との間に,単なる記載上,表現上の差異にとどまらず,実質的な差異をもたらしているものといえる。

よって,本願発明1と引用発明1との間に実質的な差異をもたらしている,上記(相違点)に係る構成を有する本願発明1が,引用例1に記載された発明である,ということはできない。

(5)本願発明2ないし11についての判断
本願発明9ないし11は,それぞれ,本願発明1を「方法」,「プログラム」,「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」として特定した発明であるから,本願発明1と同様に,引用例1に記載された発明ということはできない。
また,本願発明2ないし8は,本願発明1を更に限定したものであるので,本願発明1と同様に,引用例1に記載された発明ということはできない。

3 原査定の拒絶理由における理由2についての判断
(1)本願発明1,引用発明1及び両者の一致点と相違点
本願発明1は,上記2(1)に示したとおりであり,引用発明1は,上記2(2)(2-2)に示したとおりである。また,両者の一致点と相違点は,上記2(3)(3-4)に示したとおりである。

(2)本願発明1についての判断
上記(相違点)に係る構成の容易想到性について検討するに,引用例1には,引用発明1に関し,本願発明1のコードナンバに対応するフラグ信号が,空間予測動きベクトルに関連して割り当てられることが開示されているにとどまり,そもそも,空間予測動きベクトルと,時間予測動きベクトルの,いずれに対し,どのコードナンバを,どのように割り当てるかについての技術思想は,開示されていない。

また,引用例2には,注目ブロックの動きベクトルに対して,三つの隣接ブロックの動きベクトルのうちいずれかが等しい場合における『VX=VX_(A)』,『VX=VX_(B)』,『VX=VX_(C)』の三通り,及びそうでない場合における『VX-VX_(A)を送る』,『VX-VX_(B)を送る』,『VX-VX_(C)を送る』,『VXを送る』の四通り,合計七通りを,3ビットの採用ブロック符号で表すこと(段落【0001】,【0076】-【0087】及び図19,20)について記載されているところ,この引用例2においても,上記技術思想は開示されていない。
さらに,引用例3には,動きベクトルの予測の際に,動き予測ベクトルの候補値として,画面内の隣接ブロックの三つの動きベクトルを選択する場合のほか,画面間から動きベクトル予測値候補を選択する場合があること(段落【0001】,【0027】及び図2,3)について記載されているところ,この引用例3においても,上記技術思想は開示されていない。

そして,本願発明1が,シーケンス及びビットレートごとに,空間予測動きベクトルを用いるか,時間予測動きベクトルを用いるかの出現頻度が異なってしかるべきであること,及び当該出現頻度を異ならせる状況下で,当該出現頻度に応じた高符号化効率を実現するものであることを考慮すると,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルの「出現に応じ」,コードナンバを空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルとに割り当てることは,引用発明1に対し,当業者が適宜採用し得た設計的事項であるということもできない。

したがって,上記(相違点)に係る構成は,引用発明1を基に当業者が容易に想到し得たものということができない。そして,このことは,引用例2,3に記載の技術事項を考慮しても同様である。
よって,本願発明1は,引用発明1及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本願発明2ないし11についての判断
本願発明9ないし11は,それぞれ,本願発明1を「方法」,「プログラム」,「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」として特定した発明であるから,本願発明1と同様に,当業者が引用発明1及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また,本願発明2ないし8は,本願発明1を更に限定したものであるので,本願発明1と同様に,当業者が引用発明1及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 小括
上記2において示したように,本願発明1ないし11は,引用例1に記載された発明ということはできない。
また,上記3において示したように,本願発明1ないし11は,当業者が引用発明1及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(理由1)本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由2)平成27年9月8日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1,9-11に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
(理由3)同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-4,9-11に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例4:特開2008-211697号公報
引用例2:特開平5-227522号公報
引用例3:特開平10-224800号公報

(1)理由1について
同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-11に係る発明は,例えば,コードナンバが,空間予測ベクトルに係る周辺動きベクトルを対象として,その全部に対し,動的に割り当てられる態様を含んでいるが,発明の詳細な説明には,そのような態様については開示されていない。
したがって,同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-11の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。

(2)理由2について
引用例4には,符号化対象のブロックと空間的に近傍する三つのブロックの動きベクトルであるPMV候補に対し,選択情報(本願の「コードナンバ」に相当。)が動的に割り当てられる発明について開示されている。
したがって,同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1,9-11に係る発明は,引用例4に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

(3)理由3について
同日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-4,9-11に係る発明は,引用例4記載の発明(請求項2については,引用例4記載の発明及び引用例2記載の発明,請求項3,4については,引用例4,2及び3記載の発明)を基に,当業者が容易になし得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 当審拒絶理由における理由1についての判断
平成28年8月19日付けの手続補正により,請求項1に係る発明は,上記「第2 本願発明」において本願発明1として示すとおりのものとなった。
この本願発明1においては,コードナンバの割当てが,「空間予測動きベクトル」と「時間予測動きベクトル」に対する「出現に応じ」て,「前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」対してなされることについて特定されている。
このことについては,上記「第3 原査定の理由について」の2(3)(3-1)において摘記した箇所において,本願の発明の詳細な説明に記載されている。
また,当該特定により,例えば,コードナンバが,空間予測ベクトルに係る周辺動きベクトルを対象として,その全部に対し,動的に割り当てられる発明のような,本願の発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含することもなくなった。
以上については,本願発明2ないし本願発明11においても同様である。
したがって,同日付けの手続補正により,当審拒絶理由における理由1の記載不備は解消した。

3 当審拒絶理由における理由2についての判断
(1)本願発明1
本願発明1は,上記「第3 原査定の理由について」の2(1)に示したとおりである。

(2)引用例4に記載された発明
(2-1)引用例4の記載
引用例4には,「符号化装置及び復号装置」(発明の名称)として,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は,当審において付したものである。)。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,所定のデータを予測符号化する符号化装置及び予測符号化された符号化データを復号する復号装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,映像符号化技術,映像符号化方式の発展はめざましく,なかでも,非特許文献1,2に記載される映像符号化方式は,その符号化効率の高さゆえに,さまざまな用途に幅広く応用されている。
これらの映像符号化方式においては,映像を構成する各静止画像(ピクチャ)を所定サイズ(16×16など)のブロックに分割し,前記ブロック単位で画面内予測方式,画面間予測方式と呼ばれる2つの予測方式を適宜切替えて予測符号化を行う。
ここで,予測符号化とは,所定の方法で符号化対象の画像についての予測画像を生成し,前記符号化対象の画像と前記予測画像との差分(差分情報)と,前記予測画像の生成方法についての情報(予測情報)とを符号化することにより,高い符号化効率を実現する符号化方法である。
また,画面内予測方式とは,所定ブロックの符号化の際,前記所定ブロックと同一ピクチャに属するブロックのうち,既に符号化済みのブロックについての再生画像を利用して,前記所定ブロックについての予測画像を生成する予測方式である。
一方,画面間予測方式とは,符号化の際,前記所定ブロックを含むピクチャ以前に符号化されたピクチャの再生画像(参照画像)を利用して,前記所定のブロックについての予測画像を生成する予測方式である。
【0003】
より具体的には,符号化対象のブロック(ブロック1)の内容が参照画像内の所定位置のブロック(ブロック2)の内容に近い場合,ブロック2からブロック1への平行移動量(動きベクトル)を画面間予測の予測情報とし,ブロック1とブロック2との内容の差分を差分情報として符号化する。
ブロック1の内容に最も近い内容を持つブロック2の位置を参照画像の中から見つけること(動き探索という)が,画面間予測符号化の符号化効率向上の観点で重要になる。
一般に,参照画像と符号化対象の画像の間に大きな変化(シーンチェンジなど)が発生しなければ,画面内予測を用いるより画面間予測を用いた方が高い符号化効率が得られる。
ただ,画面間予測方式における予測情報,すなわち動きベクトル情報は,通常水平方向と垂直方向の2成分を持ち,さらにブロック単位で符号化される。また,映像に動きが少なければ少ないほど,割り当てる符号量が短くなるように符号表が設計されることが多い。そのため,ブロック数が多い場合や動きが激しい場合,その符号量は無視できない。よって,動きベクトル情報についても,所定の方法で予測を行い,得られた予測ベクトル(以下PMVと呼ぶ)との差分ベクトル(以下MVDと呼ぶ)のみを符号化することにより,符号量を削減することが一般的である。このような動きベクトルの符号化方法は,非特許文献1,2に記載の映像符号化方式においても採用されている。
【0004】
図14は,非特許文献1に記載の映像符号化方式における,MVDの各成分の可変長符号表の一部である。左の列はMVDの各成分値,中央の列は前記MVDの各成分値に対応するビット列,右の列は前記ビット列の符号量(ビット数)を表す。本符号表から,MVDの各成分の絶対値(大きさ)が小さければ小さいほど,MVD,ひいては動きベクトルの符号化に掛かるビット数が小さいことが分かる。この関係は,符号表の中身は異なるものの,非特許文献2に記載の映像符号化方式においても成り立っている。また,図14に示す符号表からは,動きベクトルの大きさが2倍になると,符号量が2ビット増加するという関係性があることも分かる。紙面の都合上示せていないが,この関係性はMVDの大きさが20より大きいところにおいても常に成り立っている。
また,動きベクトルの予測方法としては,符号化対象のブロックと空間的あるいは時間的に近傍する複数の符号化済みブロックの動きベクトル情報をPMV候補とし,所定の方法で前記PMV候補の中から1つのPMVを選択する,という方法がある。
【0005】
図15は,符号化対象ブロックとその空間的近傍のブロックの一例を示すイメージ図である。Y01を現在の符号化対象ブロックとすると,Y02は符号化対象ブロックの左(位置Aと呼ぶ)に位置するブロック,Y03は符号化対象ブロックの上(位置B)に位置するブロック,Y04は符号化対象ブロックの右上(位置C)に位置するブロックである。ピクチャ内の各ブロックがラスタースキャン順に符号化される場合,ブロックY01の符号化を行う時点で,ブロックY02?Y04は,いずれも既に符号化済みである。そのため,これらのブロックについての動きベクトルは,ブロックY01の動きベクトルの符号化におけるPMV候補として用いることが可能である。
【0006】
そして,例えば非特許文献1,2に記載の映像符号化方式では,ブロックY02?Y04が全て画面間予測符号化されているとき,(例外はあるものの)基本的にこれら3つのブロックの動きベクトルのメジアンが,ブロックY01の動きベクトルの符号化におけるPMVとして選択される。ただし,前記3つのブロックの動きベクトルのうち,1つでも利用できない場合は,そのままではメジアンを求めることはできない。例えば,ブロックY01がピクチャの左端のブロックであった場合,ブロックY01の左に位置するブロックY02は存在しないため,利用できない。このような場合,例えば非特許文献1においては,位置Aのブロックの動きベクトルをゼロベクトルと仮定することでメジアンを求められるようにしている。一方,前記3つのブロックのうち2つのブロックの動きベクトルが利用できない場合は,残る1つのブロックの動きベクトルをPMVとする。その他にも例外はあるものの,いずれにせよ複数のPMV候補の中からPMVを特定する方法を示す情報を特に符号化することなく,PMV候補の利用可能状況などに応じた固定的な方法によりPMVは選択される。
【0007】
ここでもし,メジアン固定ではなく,ブロック毎にMVD最小となるPMVを適切に選択することが出来れば,より効率的に動きベクトル情報を符号化出来ることは言うまでもない。しかし,前記選択のために,画面間予測符号化を行う全てのブロックにPMVの選択情報などを付与して符号化するとなると,それは却って符号化効率を低下させることにもつながりかねない。
【0008】
このような状況に鑑み,特許文献1においては,動きベクトルの符号化の際,画面間予測符号化を行う全てのブロックに一律でPMVの選択情報を付与するのではなく,MVDの符号量削減が期待出来るブロックにのみ選択情報を付与する技術が提案されている。
具体的には,PMV候補間の分散を求め,その分散値が所定の閾値未満であれば選択情報は付与せず従来どおりメジアンをPMVとして選択し,そうでないときはMVDが最小となるPMVの選択を指示する選択情報を付与して符号化することにより,選択情報による符号量増加を抑えつつ,動きベクトル全体の符号化効率向上を図るという技術である。」

「【0030】
以下,MVDの符号化データ,または,PMVの選択情報の符号化データのことを総称して,動きベクトル符号化データと呼ぶ。
また,説明を簡単にするためと,前記従来技術の説明との整合を取るために,M=3とし,3つのPMV候補は,上記非特許文献1,2に記載の映像符号化方式と同様にして選択されるものとする。また,選択情報を付与しない場合に選択されるPMV(基準PMV候補と呼ぶ)は,以下においても,3つのPMV候補のメジアンであるとするが,固定的に位置Aについての動きベクトルとするなど,他の方法で基準PMV候補を選択しても構わない。
【0031】
図5は,符号化装置11が,1つの動きベクトルを符号化する際の動作フローチャートの一例である。
動きベクトルの符号化処理開始後,まず,符号化対象の動きベクトルをメモリ部12にて保持する(ステップS1)。ステップS1にて保持される動きベクトルは,後の動きベクトルの符号化においてPMV候補として参照される。メモリ部12は,その実現に必要十分な容量を持つものとする。
次に,PMV候補抽出部13にて,メモリ部12に保持されている既に符号化済みの動きベクトルの中からPMV候補3つを選択,抽出する(ステップS2)。このとき,各PMV候補にはインデクスを付与する。例えば,抽出されたPMV候補のうち,メジアンと等しい値を持つものにはインデクス0,メジアンより小さい値を持つものにはインデクス1,メジアンより大きい値を持つものにはインデクス2,などというように,成分ごとに独立したインデクスの付与を行っておく(インデクス付与方法1)。なお,PMVの選択が,成分ごとではなく,ベクトルごとに出来れば十分という場合には,必ずしも成分ごとに独立したインデクスを付与する必要はなく,各PMV候補について1つのインデクスを付与するようにしてもよい。
【0032】
図11は,ベクトルごとにインデクスの付与をする方法の一例を示すイメージ図である。PMV候補のうち,水平成分,垂直成分ともに基準PMV候補と等しい値を持つものにはインデクス0を付与し,残りの2つのPMV候補のうち,位置的に左側にあるブロックの動きベクトルにはインデクス1,位置的に右側にあるブロックの動きベクトルにはインデクス2を付与する。図11に示すインデクスの付与方法を,インデクス付与方法2と命名する。インデクス付与方法2によりインデクスの付与を行うためには,水平成分,垂直成分ともに基準PMV候補と等しい値を持つ動きベクトルが,位置A,B,Cのうちのいずれかに存在しなければならない。一方,位置A,B,Cの動きベクトルのうち2つが水平成分,垂直成分がともに基準PMV候補と等しい値を持つ場合には,前記2つのPMV候補にインデクス0を付与し,残る1つのPMV候補に対し,インデクス1を付与するとよい。
【0033】
次に,MVD候補計算部14にて,各PMV候補に対応したMVD候補を導出する(ステップS3)。
次に,MVD偏差評価部15にて,選択情報の付与がコストに見合うか否かを,各MVD候補とM個のPMV候補に対する所定の演算の結果から判定し,選択情報付与情報を生成する(ステップS4)。
このように,本発明の符号化装置においては,選択情報の付与・非付与の判定のために,PMV候補だけでなく,MVDを用いる点で前記従来技術と異なっている。選択情報の付与・非付与の判定に,MVDを用いることの効果については,後述する各実施例において説明する。
なお,選択情報の付与・非付与の判定は,ベクトルごとに行ってもよいし,成分ごとに行ってもよい。前記判定を,ベクトルごとに行う方法を選択情報判定方法1,成分ごとに行う方法を選択情報判定方法2と命名する。以下では,特に記載がない限り,成分ごとに判定する(つまり選択情報判定方法2を採用する)ものとして説明する。
【0034】
ステップS4にて,3つのMVD候補の各候補についてそれぞれの選択情報付与情報を求めた後,インデクス選択部16にて,使用インデクスを選択する(ステップS5)。使用インデクスの選択についても,ベクトルごと,成分ごとのいずれかで行うことができるが,選択情報の付与・非付与の判定を選択情報判定方法2で行った場合には,使用インデクスの選択をベクトルごとに行うことはできない。なぜなら,一方の成分で選択情報を付与すると判定され,他方の成分で選択情報を付与しないと判定された場合,使用インデクスをベクトルで1つだけ選択することは必ずしもできないためである。前記選択を,ベクトルごとに行う方法をインデクス選択方法1,成分ごとに行う方法をインデクス選択方法2と命名する。以下では,特に記載がない限り,成分ごとに選択する(つまりインデクス選択方法2を採用する)ものとして説明する。なお,インデクス選択部16の具体的な動作フローの例は,図6を用いて後述する。
【0035】
次に,MVD符号化部17にて,使用インデクスが指し示すMVD候補を正式なMVDとして符号化する(ステップS6)。
最後に,選択情報符号化部18にて,使用インデクスが指し示す選択情報付与情報が選択情報を付与することを示している場合のみ,3つのPMV候補のうちのいずれを正式なPMVとして選んだかを示す選択情報を符号化して(ステップS7),処理を終了する。例えば,インデクス付与方法1に従ってPMV候補にインデクスが付与されているならば,図16の符号表を用いて,使用インデクスが0のときはビット列「0」,使用インデクスが1のときはビット列「10」,使用インデクスが2のときはビット列「11」,と符号化する(使用インデクス符号化方法1)。」

「【0047】
具体的な動きベクトルの復号の流れについては,以下で説明する。
図2は,本発明の実施形態における復号装置の構成の概要を示すブロック図である。
図示の復号装置21において,符号化装置11と同一のブロックには,同一符号を付し,その説明は省略する。22は,動きベクトル符号化データを入力し,MVDを復号,結果を後段に出力する,MVD復号部である。23は,選択情報付与情報と動きベクトル符号化データを入力として,PMVを特定するためのインデクスを導出,前記インデクスを後段に出力する,インデクス再生部である。24は,PMV候補とインデクスとMVDを入力とし,動きベクトルを再生し,後段に出力する,動きベクトル再生部である。動きベクトル再生部24はさらに,再生された動きベクトルをメモリ部12に保存する。
【0048】
図7は,復号装置21が,1つの動きベクトルを復号する際の動作フローチャートの一例である。
動きベクトルの復号処理開始後,まず,MVD復号部22にて,動きベクトル符号化データからMVDを抽出,復号する(ステップS21)。
次に,PMV候補抽出部13にて,メモリ部12に保持されている既に復号済みの動きベクトルの中からPMV候補3つを選択,抽出する(ステップS22)。このとき,各PMV候補にはインデクスを付与する。前記インデクスの付与の方法は,符号化処理におけるインデクスの付与の方法と同一であるとする。
【0049】
次に,MVD偏差評価部15にて,PMVの選択情報が符号化されているか否かを,ステップS21で復号されたMVDとM個のPMV候補に対する所定の演算の結果から判定し,選択情報付与情報を生成する(ステップS23)。なお,前記所定の演算の内容は,符号化時のMVD偏差評価部15にて施される演算の内容と同一であるとする。
次に,インデクス再生部23にて,PMV候補を特定するためのインデクスを再生,出力する(ステップS24)。
インデクス再生部23は,ステップS23にて生成された選択情報付与情報がPMVの選択情報が符号化されていないことを示す場合は,動きベクトル符号化データからは何も読み出さず,無条件でPMV候補のメジアンを指し示すインデクスを後段に出力する。
【0050】
一方,前記選択情報付与情報がPMVの選択情報が符号化されていることを示す場合,インデクス再生部23は,まず動きベクトル符号化データから前記選択情報を読み出す。例えば,前記選択情報が図16の符号表を用いて符号化されている場合,動きベクトル符号化データからまず1ビット(ビット1)を読み出す。ビット1の内容が「0」の場合,前記選択情報の符号化ビット列を「0」として確定する。他方,ビット1の内容が「1」であった場合には,さらにもう1ビット(ビット2)を読み出し,ビット2の内容に応じて,前記選択情報の符号化ビット列を「10」または「11」として確定する。そして,インデクス再生部23は,読み出された選択情報のビット列に応じて,PMV候補を特定するインデクスを再生し,出力する。例えば,符号化装置11が,インデクス付与方法1に従ってPMV候補にインデクスを付与していたのであれば,符号化時とは逆に,符号化ビット列「0」はインデクス0,符号化ビット列「10」はインデクス1,符号化ビット列「11」はインデクス2,とすることで,符号化時における使用インデクスを再生できることになる。
【0051】
次に,動きベクトル再生部24は,インデクス再生部23が出力するインデクスにより,PMV候補抽出部13が出力するPMV候補の中から動きベクトルの再生に用いるPMVを特定し,MVD復号部22が出力するMVDに前記PMVを加算することで,動きベクトルを再生,出力する(ステップS25)。
最後に,ステップS25にて再生された動きベクトルを,以降の動きベクトル再生におけるPMV候補として再利用するため,メモリ部12に保持して処理を終了する(ステップS26)。」

(2-2)引用発明4
上記(2-1)の摘記事項(特に,下線を付した箇所の記載事項)及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例4には,以下の(ア)ないし(ウ)に示す事項が記載されているといえる。

(ア) 符号化装置において,符号化対象のブロックと空間的に近傍する三つのブロックの動きベクトルであるPMV候補の中から正式な候補を選び,符号化対象ブロックの動きベクトルの予測符号化を行い,また,いずれの動きベクトルを選択したかを示す選択情報を符号化すること。
(イ) 符号化装置において,前記PMV候補に対し,以下の(a)又は(b)の方法により,選択情報を付与する,すなわち割り当てること。
(a) 三つのPMV候補のメジアンと等しい値を持つ動きベクトルには,選択情報としてインデクス0を付与し,メジアンより小さい値を持つ動きベクトルには,選択情報としてインデクス1を付与し,メジアンより大きい値を持つ動きベクトルには,選択情報としてインデクス2を付与する方法
(b) 三つのPMV候補のメジアンと等しい値を持つ動きベクトルには,選択情報としてインデクス0を付与し,残りの二つのPMV候補のうち,位置的に左側にある動きベクトルには,選択情報としてインデクス1を付与し,位置的に右側にある動きベクトルには,選択情報としてインデクス2を付与する方法
(ウ) 復号装置において,予測符号化されたデータを復号すること,及び前記選択情報を読み出し,動きベクトルの再生に用いるPMVを特定し,そのPMVを用いて動きベクトルを再生すること。

上記(イ)(a)及び(b)によれば,PMV候補のいずれが,メジアンと等しい値を持つ,あるいは,基準MVPであるかによって,どのPMV候補に,どの選択情報が割り当てられるかが異なることになる。したがって,引用例4には,上記選択情報が動的に割り当てられることについて記載されているということができる。

以上の記載事項を踏まえると,引用例4には,次の発明(以下「引用発明4」という。)が開示されているといえる。以下,引用発明4の各構成要件を,付与した符号を用い,構成要件4a,構成要件4bなどと称することとする。

(引用発明4)
「(4a)符号化対象のブロックと空間的に近傍する三つのブロックの動きベクトルであって,予測符号化に用いられるPMV候補に対し,動的に割り当てられた選択情報を読み出し,
(4b)当該選択情報を読み出してから,動きベクトルを再生する,
(4c)復号装置。」

(3)対比
本願発明1と引用発明4とを対比する。

(3-1)構成要件Aと構成要件4aとの対比
引用発明4における「符号化対象のブロックと空間的に近傍する三つのブロックの動きベクトルであって,予測符号化に用いられるPMV候補」,「選択情報」は,それぞれ,本願発明1の「空間予測動きベクトル」,「コードナンバ」に相当するといえる。
引用発明4の復号装置は,当該「選択情報を読み出」すことができるのであるから,「選択情報」が本願発明1の「コードナンバ」に相当することも踏まえると,コードナンバを「取得」しているといえ,また,そのための「コードナンバ取得部」を備えている,ということができる。
したがって,引用発明4の構成要件4aと,本願発明1の構成要件Aとは,「空間予測動きベクトルに割り当てられたコードナンバを取得するコードナンバ取得部」を備える点で共通する。
しかしながら,本願発明1のコードナンバは,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」割り当てられるものであるのに対し,引用発明4の選択情報は,動的に割り当てられるものであるが,空間予測動きベクトルに係るPMV候補に対し,割り当てられるものであり,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルのいずれが多く用いられるかという出現頻度に応じて,両者に対し,割り当てられるような,「出現に応じ」て両者に割り当てられたものではない点で,両発明は相違する。

(3-2)構成要件Bと構成要件4bとの対比
引用発明4における「当該選択情報」は,上記(3-1)の検討を踏まえると,本願発明1の「前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバ」に相当する。
引用発明4において,復号装置は,「動きベクトルを再生する」に当たり,PMV候補に割り当てられた選択情報「を読み出し」ており,復号装置において,選択情報「を用いて,画像の処理対象であるカレント領域の前記予測動きベクトルを再構築」していることは明らかである。そして,引用発明4の復号装置は,当該再構築のための「予測動きベクトル再構築部」を備えているということができる。
以上によれば,引用発明4の構成要件4b「当該選択情報を読み出してから,動きベクトルを再生する,」は,本願発明1の構成要件B「前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と」に相当するといえる。

(3-3)構成要件Cと構成要件4cとの対比
引用発明4における「復号装置」が画像処理装置であることは,明らかである。したがって,引用発明4における「復号装置」は,上記(3-1)に示した相違を除き,本願発明1の「画像処理装置」に相当する。

(3-4)まとめ
上記(3-1)から(3-3)までに示した対比の結果に基づき,本願発明1と,引用発明4との間の一致点と相違点とをまとめると,以下のとおりである。

(一致点)
「空間予測動きベクトルに割り当てられたコードナンバを取得するコードナンバ取得部と,
前記コードナンバ取得部により取得された前記コードナンバを用いて,画像の処理対象であるカレント領域の予測動きベクトルを再構築する予測動きベクトル再構築部と
を備える画像処理装置。」

(相違点)
本願発明1におけるコードナンバは,「空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルに対する出現に応じて前記空間予測動きベクトルと前記時間予測動きベクトルとに」割り当てられるものであるのに対し,引用発明4の選択情報は,空間予測動きベクトルに対し,動的に割り当てられるものであるが,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルのいずれが多く用いられるかという出現頻度に応じて,両者に対し,割り当てられるような,「出現に応じ」て両者に割り当てられたものではない点

(4)本願発明1についての判断
上記(相違点)に係る構成のように,コードナンバの割り当て方が特定されることによって,復号化側の「画像処理装置」の構造,機能等が特定されていることについては,「第3 原査定の理由について」の2(4)の説示と同様である。
したがって,コードナンバの割り当て方を特定した,上記(相違点)の構成は,復号化側の「画像処理装置」の構造ないし機能を特定しており,本願発明1と引用発明4との間に,単なる記載上,表現上の差異にとどまらず,実質的な差異をもたらしているものといえる。

よって,本願発明1と引用発明4との間に実質的な差異をもたらしている,上記(相違点)に係る構成を有する本願発明1が,引用例4に記載された発明である,ということはできない。

(5)本願発明2ないし11についての判断
本願発明9ないし11は,それぞれ,本願発明1を「方法」,「プログラム」,「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」として特定した発明であるから,本願発明1と同様に,引用例4に記載された発明ということはできない。
また,本願発明2ないし8は,本願発明1を更に限定したものであるので,本願発明1と同様に,引用例4に記載された発明ということはできない。

4 当審拒絶理由における理由3についての判断
(1)本願発明1,引用発明4及び両者の一致点と相違点
本願発明1は,上記「第3 原査定の理由について」の2(1)に示したとおりであり,引用発明4は,上記3(2)(2-2)に示したとおりである。また,両者の一致点と相違点は,上記3(3)(3-4)に示したとおりである。

(2)本願発明1についての判断
上記(相違点)に係る構成の容易想到性について検討する。
引用発明4は,構成要件4aに示されるように,本願発明のコードナンバに相当する選択情報が,空間予測動きベクトルに対し,動的に割り当てられるものである。
また,引用発明4が開示されている引用例4には,上記3(2)(2-1)に摘記した段落【0001】及び【0002】において,画面間予測方式,すなわち,時間予測動きベクトルを用いた動きベクトルの予測方式がどのようなものであるのかに関する記載がなされている。
そうすると,引用例4には,動きベクトルの予測に,時間予測動きベクトルをも用いることについて示唆されているということができる。
さらに,例えば,上記「第3 原査定の理由について」の3(2)で示したように,引用例3には,動きベクトルの予測に,時間予測動きベクトルを用いる技術が開示されており,当該技術は,本願出願前において周知であったものと認められる。
したがって,動きベクトルの予測に当たり,空間予測動きベクトルにコードナンバを動的に割り当てるとともに,時間予測動きベクトルに所定のコードナンバを割り当てることについては,引用発明4を基に当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

しかしながら,本願発明1は,コードナンバの動的な割当てが,「空間予測動きベクトル」のみならず「時間予測動きベクトル」に対してもなされ,しかもその動的な割当てが両者の「出現に応じ」てなされるものであるところ,この技術思想については,引用例4に何ら開示されていない。
また,上記「第3 原査定の理由について」の3(2)で示した引用例2,及び上記引用例3においても,当該技術思想については,何ら開示されていない。なお,平成27年10月23日付け前置報告において,引用文献2として引用されている米国特許出願公開第2002/0075957号明細書においても,当該技術思想については,何ら開示されていない。
そして,本願発明1が,シーケンス及びビットレートごとに,空間予測動きベクトルを用いるか,時間予測動きベクトルを用いるかの出現頻度が異なってしかるべきであること,及び当該出現頻度を異ならせる状況下で,当該出現頻度に応じた高符号化効率を実現するものであることを考慮すると,空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルの「出現に応じ」,コードナンバを空間予測動きベクトルと時間予測動きベクトルとに割り当てるという上記技術思想に係る構成については,引用発明4に対し,当業者が適宜採用し得た設計的事項であるということもできない。

したがって,上記(相違点)に係る構成は,引用発明4を基に当業者が容易に想到し得たものということもできない。そして,このことは,引用例2,3に記載の技術事項を考慮しても同様である。
よって,本願発明1は,引用発明4及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本願発明2ないし11についての判断
本願発明9ないし11は,それぞれ,本願発明1を「方法」,「プログラム」,「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」として特定した発明であるから,本願発明1と同様に,当業者が引用発明4及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また,本願発明2ないし8は,本願発明1を更に限定したものであるので,本願発明1と同様に,当業者が引用発明4及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 小括
上記2において示したように,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという記載不備は解消した。
また,上記3において示したように,本願発明1ないし11は,引用例4に記載された発明ということはできない。
さらに,上記4において示したように,本願発明1ないし11は,当業者が引用発明4及び引用例2,3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
そうすると,もはや,当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2014-46193(P2014-46193)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04N)
P 1 8・ 537- WY (H04N)
P 1 8・ 113- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡辺 努
戸次 一夫
発明の名称 画像処理装置および方法、プログラム、並びに、記録媒体  
代理人 西川 孝  
代理人 稲本 義雄  

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