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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1320118
審判番号 不服2015-18395  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-08 
確定日 2016-10-04 
事件の表示 特願2010-289807「無線通信システムにおけるエラー制御のためのデータ生成装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日出願公開,特開2011-139465〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年12月27日(パリ条約による優先権主張 2009年12月30日 韓国,2010年1月13日 韓国)の出願であって,平成27年6月1日付けで拒絶査定され,これに対し,同年10月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成27年10月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成27年10月8日付けの手続補正の概要
平成27年10月8日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,
(1)平成27年1月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「【請求項1】
無線通信システムにおける送信端でARQブロックの送信方法であって,
再送信待機状態で
前記ARQブロックの再送信を待機する過程と,
前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程と,
前記再配列状態で
前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,
前記ARQ下位ブロックを再送信する過程と,
前記ARQブロック又は前記ARQブロックの ARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程と,
前記ARQブロックに対するACKを受信した場合,完了状態に遷移する過程とを含むことを特徴とする方法。」(以下,「本願発明」という。)

「【請求項1】
無線通信システムにおける送信端でARQブロックの送信方法であって,
再送信待機状態で
前記ARQブロックの再送信を待機する過程と,
前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程と,
前記再配列状態で
前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,
前記ARQ下位ブロックを再送信する過程と,
前記ARQブロックの全てのARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程と,
前記全てのARQ下位ブロックに対するACKを受信した場合,完了状態に遷移する過程とを含む
ことを特徴とする方法。」(以下,「補正後の発明」という。)
とし,

(2)同じく平成27年1月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された
「【請求項2】
送信待機状態で前記ARQブロックを送信し,前記ARQブロックに対するARQフィードバックの受信を待機する未解決状態に遷移する過程と,
前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程と,
前記未解決状態で前記ARQブロックに対するNACKを受信する場合,再送信待機状態に遷移する過程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。」を
「【請求項2】
送信待機状態で前記ARQブロックを送信し,前記ARQブロックに対するARQフィードバックの受信を待機する未解決状態に遷移する過程と,
前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程と,
前記未解決状態で前記ARQブロックに対するNACKを受信する場合,再送信待機状態に遷移する過程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。」
とすることを含むものである。
([当審注]:上記下線部は補正箇所を示す。)


2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正,目的要件について
ア 請求項2についての上記1(2)の補正は,本件補正前の「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程」を,本件補正後は「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程」とするものである。すなわち,本件補正後の請求項2に係る発明は,「ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定」すると,実際にはまだ再送信していなくても,再送信待機状態から未解決状態に遷移することを含むものである。
しかしながら,そのような「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程」は,出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面については記載されていない。ここで,発明の詳細な説明の【0036】に「前記ARQブロックの再送信待機状態204で前記NACKに対したARQブロックをARQ下位ブロックに分割せずに前記受信端に再送信する場合(227),前記ARQブロックは,前記未解決状態202に遷移する。」との記載があるが,図2の「227」は「分割せずに前記受信端に再送信する」場合であるから,実際に「再送信する」ことにより状態遷移が生じるものであって,再配列無しで再送信すると「決定する」ことにより状態遷移が生じるものではない。そして,「【0037】前記ARQブロックの再送信待機状態204で前記NACKに対したARQブロックを少なくとも二つのARQ下位ブロックに分割して再送信すると決定した場合(231),前記ARQブロックは,再配列状態206に遷移する。前記送信端は,前記再配列状態206で前記ARQブロックを少なくとも二つのARQ下位ブロックに分割して再送信する。」との記載を勘案すれば,分割して再送信するか否かの「決定」動作と「再送信」動作とは異なる概念であり,当該動作が為される「状態」も異なることから,「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程」は,前記【0036】の記載内容とは明らかに異なるものである。
したがって,上記1(2)の補正の前後で,技術的内容が変更されていることは明らかであるから,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。

イ 本件補正前の「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合」と,本件補正後の「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定した場合」とは,決定内容が全く正反対であるから,発明の内容が変更されており,本件補正前の構成を更に限定するものではない。
そして,上記アのとおりであるから,「前記再送信待機状態で前記ARQブロックを再配列無しで再送信すると決定した場合,前記未解決状態に遷移する過程」とすることは,不明瞭な記載の釈明又は誤記の訂正と解することはできない。
したがって,上記1(2)の補正の目的は,特許法第17条の2第5項各号に掲げる他のいずれの事項にも該当しない。そして,特許法第17条の2第4項の規定も,満たしているとはいえない。

ウ したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3?5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)独立特許要件について
上記(1)のとおりであるが,請求項1についての上記1(1)の補正は,ARQフィードバック及びACKを「前記ARQブロックの全てのARQ下位ブロックに対するARQフィードバック」及び「前記全てのARQ下位ブロックに対するACK」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
このため,更に進めて,請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものか否かについて検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は,上記1(1)において「補正後の発明」とした以下のとおりのものと認める。
「無線通信システムにおける送信端でARQブロックの送信方法であって,
再送信待機状態で
前記ARQブロックの再送信を待機する過程と,
前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程と,
前記再配列状態で
前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,
前記ARQ下位ブロックを再送信する過程と,
前記ARQブロックの全てのARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程と,
前記全てのARQ下位ブロックに対するACKを受信した場合,完了状態に遷移する過程とを含む
ことを特徴とする方法。」(再掲)

イ 引用発明及び周知技術
[引用発明]
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-032077号公報(以下,「引用例」という。)には,「送信制御装置,受信制御装置,通信制御システム及び通信制御方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0010】更に,従来の方式において,送信側は,データ送信に対する受信側からの受信応答(正常受信(ACK),再送要求(NAK))を誤り等で正常に受け取れなかった場合,送信側は受信応答待ちタイムアウトにより再送データを送信することになる。ところで,誤ったブロックのみを含む再送データに対するタイムアウトが発生した場合,このときの再送データには,誤ったブロックのみが含まれていることになる。受信側は,この誤ったブロックのみが含まれている再送データを正常に受信すると,ACKを返答し,その後に全ブロックが含まれている送信パケットを受信することを期待して待つことになる。ところが,当該ACKが送信側に届かなかった場合,送信側からは再度誤ったブロックのみが含まれているパケットを再送してくる。このため,受信側は,通信手順上,送られてきた再送データを新たなデータだと解釈して受信するが,この受け取ったパケットには誤ったブロックのみが含まれており全てのブロックが含まれていないため,正しいデータでないと判断して再送要求を行うことになる。すなわち,既に正常に受信したデータを再び再送要求することになり,不要なデータ伝送が発生するとともに送信側と受信側での状態の不一致が発生することになりうる。
(中略)
【0037】実施の形態1.図1は,本実施の形態における通信制御装置を示したブロック構成図である。この通信制御装置は,本発明に係る送信制御装置としての機能並びに受信制御装置としての機能の双方を有している。
【0038】通信制御装置2は,端末インタフェース3,CPU4,メモリ5,ブロック化部6,ブロック組立部7及び無線インタフェース8を有している。端末インタフェース3は,送信データを発行する若しくは受信したデータを最終的に受け取るデータ端末1を接続するための手段である。CPU4は,OS,通信プロトコル,アプリケーション等を動作させることによって,本装置2における送受信制御のみならず装置全体の動作制御を一括して行う。また,CPU4は,再送制御手段として設けられており,データを送信する通信制御装置(送信制御装置)側としては,データ送信に誤りが検出された場合,その誤りが検出されたブロックデータのみを更に複数のブロックに分割した後再送する。また,データを受信する通信制御装置(受信制御装置)側としては,誤りが検出された場合にその誤りのあったブロックを指定して再送要求を送信する。メモリ5は,通信データを一時的に格納する記憶手段である。ブロック化部6は,送信パケットを複数のブロックに分割するブロック化手段であり,データ送信時に動作する。ブロック組立部7は,正常に受信したブロックを受信パケットとして組み立てるブロック組立手段であり,また,受信したパケットに含まれているブロックの誤り検出を行う誤り検出手段である。ブロック組立部7は,データ受信時に動作する。無線インタフェース8は,ブロック化した送信データを送信するデータ送信手段,また,ブロック化されたデータを受信するデータ受信手段であり,無線機9を介して他の通信制御装置と無線によりデータ伝送を行う。
【0039】なお,再送データも実際には無線インタフェース8を介して送信されることになるため,厳密には,無線インタフェース8も再送処理を行う再送制御手段の一部であると言える。同様に,上記説明では,CPU4を再送制御手段としたが,再送時にもブロックデータを生成するため,ブロック化部6も再送制御手段の一部となる。また,上記構成以外にも,例えば送信側の通信制御装置2において受信側から送出された再送要求や受信応答(ACK)などを受け取り解釈する手段等は当然ながら有しているが,これらは従来からあるものを利用すればよく本発明の特徴的な構成要素ではないため特に説明しない。なお,本実施の形態においては,説明の便宜上再送は2回まで行うこととする。後述する他の実施の形態においても同様とする。
【0040】図2は,本実施の形態において使用する送信データのフレームフォーマットを示した図である。図2において,(a)はブロック化したパケットのフォーマットであり,ブロック番号フレームは3バイトで,1バイトはブロック番号,残りの2バイトは再送時のサブブロック番号に使用するため,0を挿入する。(b)は再送1回目のフォーマットであり,再送ブロックをサブブロックに分割し,ブロック番号フレームの2バイト目にサブフレーム番号を入れる。(c)は再送2回目のフォーマットであり,再送するサブブロックを更にサブブロックに分割し,ブロック番号フレームの3バイト目にサブフレーム番号を入れる構成となっている。
【0041】図3は,本実施の形態において通信制御装置2が送信制御装置(データ送信側)として動作するときのフローチャートであり,図4は,本実施の形態において通信制御装置2が受信制御装置(データ受信側)として動作するときのフローチャートである。以下,これらの図に基づいて本実施の形態における動作について説明する。なお,本実施の形態ではデータ端末A(通信制御装置A)からデータ端末B(通信制御装置B)にデータを送信する場合を例にして説明する。
【0042】まず,データ端末Aにおいてパケットの送信要求が発生した場合(S1),パケットは,端末インタフェース3を介してメモリ5に転送される。メモリ5に転送された送信パケットは,ブロック化部6により一定の固定ブロック長に分割され(S2),各ブロックにはブロック番号及び誤り検出用の符号CRCが付加される(S3)。ブロック番号は,ブロック番号フレームの1バイト目に入れ,残りの2バイトは0とする。図2(a)のようにブロック化されたパケットは,無線インタフェース8で同期ビット等の無線伝送用のデータが付加された後無線機9を介して通信制御装置Bへ送信される(S4)。
【0043】受信側の通信制御装置Bは,ブロック組立部7により無線インタフェース8を介して受信したパケットに含まれている各ブロックの誤り検出を行い(S21,22,23),正常に受信できたブロックをメモリ5に記憶する(S24)。全く誤りがなければ通信制御装置Aに受信応答を送出すると共に(S25,26),組み立てたデータをメモリ5に転送し端末インタフェース3を介してデータ端末Bに送信する(S27)。また,誤りの発生したブロックがある場合は,そのブロック番号を再送要求パケットに入れて通信制御装置Aに送信する(S25,28)。
【0044】通信制御装置Aは,再送要求を受けると(S6,7,9),再送要求パケットに入っているブロック番号に基づき,該当するブロックをメモリ5から読み出し,ブロック化部6でブロックを2つのサブブロックに分割し(S10),それぞれのブロック番号フレームに上述したルールに従いブロック番号,サブブロック番号と誤り検出符号を付加して送信する(S11,4)。
【0045】通信制御装置Bは,ブロック組立部7により無線インタフェース8を介して受信したデータに対してパケットに含まれている各ブロックの誤り検出を行い(S21,22,23),正常に受信できたブロックをメモリ5に記憶する(S24)。全く誤りがなければ通信制御装置Aに受信応答を送出すると共に(S25,26),最初に正常に受信したブロック及び再送により正常に受信したブロックとで組み立てたデータをメモリ5に転送し端末インタフェース3を介してデータ端末Bに送信する(S27)。また,再送時において誤りの発生したブロックがある場合は,そのブロック番号を再送要求パケットに入れて通信制御装置Aに送信する(S25,28)。全て誤り無く受信できるまで(S25?27),または,再送を2回までこの手順を繰り返しパケット送信が完了する(S29)。
【0046】図5は,本実施の形態における伝送シーケンスの一例を示した図であり,この図5を用いて上記処理手順についてより具体的に説明する。
【0047】通信制御装置Aは,1回目にブロック1から3までを送信する。通信制御装置Bでは1回目の送信で第1ブロックのみ正しく受信し,ブロック2,3の再送要求を行うとともに第1ブロックを記憶する。通信制御装置Aはブロック2,3をそれぞれサブフレーム(ブロック2-1,2-2及びブロック3-1,3-2)に分割した後再送する。通信制御装置Bでは,正しく受信できたブロック2とブロック3のサブフレーム3-1のみを記憶すると共に,誤りの発生したブロック3のサブフレーム3-2のみの再送要求を行う。通信制御装置Aは,ブロック3のサブフレーム3-2を更に2つのサブフレーム(ブロック3-2-1及びブロック3-2-2)に分割した後再送する。通信制御装置Bは,ブロック3-2のサブフレーム3-2-1,3-2-2を正常に受信すると,受信応答を送信すると共に,記憶する。このような手順で正常に受信した全てのブロックを組み立てデータ端末Bに送信する。
【0048】以上のように,本実施の形態によれば,1パケットを複数のブロックに分割し,更に再送時には誤りのあったブロックのみをサブブロックに分割して再送することにより,悪い回線状況においても効率の良い伝送をすることができる。すなわち,誤りのあったブロックのみを再送することで転送データ量の減少を図り,かつ当該ブロック長を半分にすることでブロック誤り率を軽減することができる。この結果,再送回数,再送時間を相対的に短くすることができ,スループット及び回線利用効率を向上させることができる。
【0049】上記例では,通信制御装置Aから通信制御装置Bに対するデータ送信であったが,その逆においても同様の手順でデータ送信を行うことができる。また,データ送信機能のみを持つ送信制御装置からデータ受信機能のみを持つ受信制御装置へデータ送信であっても全く同様の手順でデータ送信を行うことができる。
【0050】なお,データ送信側においてデータ送信処理において発生する誤りは,受信側の通信制御装置からの再送要求パケットを受信することで検出し,誤りのあったブロックは,再送要求パケットに含まれるブロック番号により特定することができるが,再送要求パケットを使用しない他の通信手順にも応用することは可能である。受信応答が所定時間内に受信側から受け取れなかった場合なども全ブロックに誤りが検出されたとみなして全ブロックのサブブロックに分割するなどして本実施の形態を応用することができる。」(5ページ7?8欄,8ページ13欄?9ページ16欄)

上記の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,
a 【0038】,【0042】?【0045】の記載及び図1,図3によれば,データを送信する通信制御装置(送信制御装置)側は,データ送信に誤りが検出された場合,その誤りが検出されたブロックデータのみを更に複数のブロックに分割した後再送するものであり,通信制御装置2の無線インタフェース8は,ブロック化した送信データを送信するデータ送信手段,また,ブロック化されたデータを受信するデータ受信手段であって,無線機9を介して他の通信制御装置と無線によりデータ伝送を行うものである。
したがって,引用例には,通信制御装置(送信制御装置)側でブロック化した送信データを無線により送信する方法について記載されていると認められる。

b 【0010】,【0043】?【0045】の記載及び図3,図4によれば,受信側の通信制御装置Bは,受信した各ブロックの誤り検出を行い(S21,22,23),全く誤りがなければ通信制御装置Aに受信応答(ACK)を送出し(S25,26),誤りの発生したブロックがある場合は再送要求(NAK)を通信制御装置Aに送信する(S25,28)ものであり,通信制御装置Aは,図3のS7にて受信したものが受信応答(ACK)であればS1に進み,再送要求(NAK)であればS9に進み,「N>3?」が「NO」であればS10に進み,ブロック化部6でブロックを2つのサブブロックに分割し,それぞれのブロック番号フレームに上述したルールに従いブロック番号,サブブロック番号と誤り検出符号を付加して送信するものである。
したがって,引用例には, 再送要求(NAK)を受信すると,所定の条件の場合に,誤りの発生したブロックを各々サブブロック番号を有するサブブロックに分割して,サブブロックを再送信することが記載されていると認められる。

c 上記【0044】,【0045】の記載及び図2?図4によれば,サブブロックには誤り検出符号が付加されており,図4ではNAK送信の後にS21に戻り,図3ではサブブロックに誤り検出符号等を付加した後にS4に戻るのであり,図5によれば分割されたサブブロックについての再送要求(NAK)の受信がなされているから,通信制御装置B側でサブブロックについて誤り検出及び再送要求(NAK)の送信がなされ,通信制御装置A側でサブブロックに対する再送要求(NAK)の受信がなされていると解するのが自然である。
そして,上記【0045】,【0046】の記載及び図4,図5の記載によれば,全て誤り無く受信できるまで(S25?27),または,再送を2回まで,サブブロックに分割して再送する手順を繰り返してパケット送信が完了し,全く誤りがなければ通信制御装置Aに受信応答(ACK)を送出するものである。
したがって,引用例には,サブブロックに対する再送要求(NAK)を受信し,全く誤りがなければ受信応答(ACK)を受信することが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「通信制御装置(送信制御装置)側でブロック化した送信データを無線により送信する方法であって,
再送要求(NAK)を受信すると,
所定の条件の場合に,誤りの発生したブロックを各々サブブロック番号を有するサブブロックに分割して,サブブロックを再送信し,
サブブロックに対する再送要求(NAK)を受信し,
全く誤りがなければ受信応答(ACK)を受信する,方法。」

[周知技術]
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-221795号公報(以下,「周知例1」という。)には,「広帯域無線接続通信システムにおける自動再伝送要求運用装置及び方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(イ)「【0008】
図1は,通常の広帯域無線接続通信システムでMAC階層のPDU(Packet Data Unit)フォーマットを示す。
【0009】
図1に示すように,無線区間を通じて伝送されるMAC階層のパケットデータユニット(PDU)は,ペイロード(payload)103の前に汎用MACヘッダー(Generic MAC Header)101が付加され,その後にCRC(Cyclic Redundancy Checking)105が付加される形態を有する。したがって,ARQモードを遂行する場合に,PDU単位で再伝送がなされる。
【0010】
図2は,従来技術による広帯域無線接続通信システムにおけるMAC階層のARQ状態遷移(state machine)を示す。
【0011】
図2に示すように,ARQ状態は,非伝送状態(Not sent)200と,待機状態(outstanding)202と,再伝送状態(waiting for retransmission)204と,廃棄状態(Discard)206と,完了状態(Done)208とを含む。
【0012】
図2を参照すると,まず,非伝送状態200でパケット(MAC PDU)伝送がなされると,MAC階層は,待機状態202に遷移してARQ再伝送タイマーを駆動する。待機状態202で受信部からNACKメッセージが受信され,或いは予め定められた再伝送タイマーが終了すると,MAC階層は再伝送状態204に遷移する。再伝送状態204に遷移したMAC階層は,パケットを再伝送し,待機状態202に再び遷移する。
【0013】
一方,再伝送状態204で受信部からACKメッセージが受信されると,MAC階層は完了状態208に遷移し,継続的な再伝送が失敗して予め定められた生存時間ARQ_BLOCK_LIFETIMEが終了すると,廃棄状態206に遷移する。待機状態202で受信部からACKメッセージが受信されると,MAC階層は完了状態208に遷移する。また,待機状態202で生存時間ARQ_BLOCK_LIFETIMEが終了すると,MAC階層は廃棄状態206に遷移して該当パケットを廃棄する。また,廃棄状態206で受信部からACKメッセージが受信されると,MAC階層は完了状態208に遷移する。
【0014】
このように,送信部のMAC階層は,ARQブロックを送信した後に,受信部からフィードバックされるACKメッセージを待機する。この状態で,ACKメッセージが正常に受信されると,該当ARQブロックに対する再伝送制御を完了し,或いはACKメッセージが受信される前に再伝送タイマーが満了すると,該当ARQブロックを再伝送する。また,継続的な再伝送が失敗してARQブロックの生存時間が終了すると,該当ARQブロ
ックを廃棄する。」(5?6ページ)


同じく原査定の拒絶の理由に引用された特表2007-517458号公報(以下,「周知例2」という。)には,「移動通信システムにおけるパケット再送方法及びそのプログラムが記録されたコンピュータで読取り可能な記録媒体」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ウ)「【0016】
図9は本発明の実施形態によるARQ送信機の動作状態を示した状態ダイヤグラムである。
以下では図9に示された実施形態のARQ送信機及び受信機で使用されるパラメータを
定義する。以下で説明するパラメータは送信部のARQ送信機の状態を遷移させるのに考慮する値に相当する。
【0017】
ARQ_BSN_MODULUS:固有ブロックシークエンス番号の個数
ARQ_BLOCK_LIFETIME:最初の伝送発生時,ARQ送信機によって管理されるARQブロックの最大時間
ARQ_RETRY_TIMEOUT:ACKされなかったブロックの再送前に待機される時間
【0018】
次に,図9に示された実施形態のARQ送信機状態ダイヤグラムにおける各々の状態を定義する。
【0019】
Not-sent(ST1):パケットが1度も伝送されていない状態を意味する
Outstanding(ST2):パケット伝送中である状態(再送を含む)
Done(ST3):ACKを受けた状態
Waiting-for-retransmission(ST4):NACKメッセージを受けたり,伝送後ACKメッセージを受ける前の経過時間がARQ_RETRY_TIMEOUTを超えた場合
Discarded(ST5):初期伝送後,ACKを受ける前の経過時間がARQ_BLOCK_LIFETIMEを超過した状態
【0020】
以下,説明を簡単にするために,各々の状態を状態(ST1)乃至状態(ST5)と称する。
本発明の実施形態で送信端から受信端にパケットが伝送されれば,成功的なパケット受信を示すACKメッセージを待機する。ACKメッセージを受信すると,ARQ送信機は状態(ST3)に遷移する。
一方,伝送中であるパケットに対してNACKメッセージを受けた場合または待機時間(ARQ_RETRY_TIMEOUT)を超えた場合には状態(ST4)に進入して再送を要求する。状態(ST4)で再送によってパケットを成功的に受信した場合には,ACKメッセージを受信してARQ送信機は状態(ST3)に遷移する。
しかし,再送状態(ST2)または再送待機のための状態(ST4)で既に定められた時間(ARQ_BLOCK_LIFETIME)が超過する場合には,ARQ送信機は状態(ST5)に遷移する。
本発明の実施形態は状態(ST5)では伝送したパケットに対して廃棄状態に進入したためARQ廃棄メッセージの伝送可否に関係なくACKメッセージのみ受信する場合には状態(ST3)に遷移し,伝送したパケットを廃棄処理する。つまり,本発明の実施形態ではARQ_BLOCK_LIFETIMEが超過した場合には廃棄メッセージに対するACKであるか,伝送したパケットに対するACKメッセージであるかに関係なくARQフィードバックメッセージとしてACKのみを受信した場合には状態(ST3)に遷移され,バッファー内の伝送しようしたパケットは廃棄される。つまり,伝送したデータパケットが成功的に受信されてACKを受けたり,所定の廃棄条件によってバッファーで廃棄する場合,全てバッファー内のパケットは廃棄させることがバッファーの管理面で効率的であるためである。
したがって,本発明の実施形態では廃棄メッセージに対する応答が一般的なARQフィードバックメッセージを通じて行われ,廃棄メッセージの伝送可否に関係なくACKを受信した場合には状態(ST3)に遷移するようにために効率的なバッファー管理が可能であり,廃棄メッセージ応答のためのARQフィードバックメッセージのオーバーヘッドを節減できる。
【0021】
図10は本発明の他の実施形態によるARQ送信機の動作状態を示した状態ダイヤグラ
ムである。
以下,図10に示されたARQ送信機及び受信機で使用されるパラメータを定義する。
【0022】
ARQ_BSN_MODULUS:固有ブロックシークエンス番号の個数
ARQ_BLOCK_LIFETIME:最初の伝送発生時,ARQ送信機によって管理されるARQブロックの最大時間
ARQ_RETRY_TIMEOUT:ACKがされていないブロックの再送前に待機する時間
ARQ_MAX_RETRANSMIT:再送の最大回数
【0023】
以下,図10に示された実施形態のARQ送信機状態ダイヤグラムで各々の状態を定義する。
【0024】
Not-sent(ST1):パケットが1度も伝送されていない状態を意味する
Outstanding(ST2):パケット伝送中である状態(再送を含む)
Done(ST3):ACKを受けた状態
Waiting-for-retransmission(ST4):NACKメッセージを受けたり,伝送後ACKメッセージを受ける前の経過時間がARQ_RETRY_TIMEOUTを超えた場合
Discarded(ST5a):初期伝送後,ACKを受ける前の経過時間がARQ_BLOCK_LIFETIMEを超過した状態または“Outstanding”状態でNACKを受けた後,再送回数が最大再送回数を超えた状態
【0025】
図10に示された実施形態では送信端から受信端にパケットが伝送されれば,成功的なパケット受信を示すACKメッセージを待機する。ACKメッセージを受信するとARQ送信機は状態(ST3)に遷移する。
一方,伝送中であるパケットに対してNACKメッセージを受けた場合または待機時間を超えた場合には,状態(ST4)に進入して再送を要求する。状態(ST4)で再送によってパケットを成功的に受信した場合にはACKメッセージを受信して,ARQ送信機は状態(ST3)に遷移する。
しかし,再送状態(ST2)または再送待機のための状態(ST4)で既に定められたARQ_BLOCK_LIFETIMEが超過する場合には,ARQ送信機は状態(ST5a)に遷移する。また,図10で示された実施形態では状態(ST4)でNACKを受信した場合には再送を行うが,前記再送の回数が既に定められた最大再送回数(ARQ_MAX_RETRANSMIT)を超過する場合にも状態(ST5a)に遷移する。
つまり,図10に示された実施形態ではNACKを受信した場合にはARQ_BLOCK_LIFETIMEが全て経過しなくても,既に定められた最大再送回数を超過した場合には状態(ST5a)に進入してパケット廃棄のための動作を行う。したがって,NACKを受けた場合とNACKを受けていない場合の廃棄メッセージ伝送のタイミングを異ならせて管理できる。
NACKを受けた場合とNACKを受けていない場合を区分する理由は,再送回数において公正性を確保するためである。例えば,あるパケットは1度再送されて廃棄され,あるパケットは何度も再送されて廃棄されると,パケット間の再送機会が同等であると見られない。つまり,ARQ_BLOCK_LIFETIMEのみを考慮して当該セッションQoS統計量を計算すれば,実際に多くの再送が行われたセッションとそれより少ない再送が行われたセッションが同一な虚偽統計値を有する。
したがって,図10に示された実施形態では,このような虚偽統計量が発生することを防止して,今後効率的なスケジューリングを提供できる。
図10に示された実施形態でも状態(ST5a)では伝送したパケットに対して廃棄状態で進入したため廃棄メッセージの伝送可否に関係なくARQフィードバックメッセージとしてACKメッセージのみ受信する場合には状態(ST3)に遷移し,伝送したパケットをバッファーで廃棄処理する。つまり,本発明の実施形態ではARQ_BLOCK_LIFETIMEが超過したり,NACKを受けた状態で最大再送回数が超えた場合には,ARQ廃棄メッセージに対するACKであるか伝送したパケットに対するACKメッセージであるかに関係なくACKメッセージだけ受信した場合には状態(ST3)に遷移されてバッファー内に伝送しようとしたパケットは廃棄される。
したがって,図10に示された実施形態でも廃棄メッセージに対する応答が一般的なARQフィードバックメッセージを通じて行われるので,ARQ送信機の効率的なバッファー管理が可能である。」(7?10ページ)


上記(イ),(ウ)の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,
「ARQブロックの送信において,送信待機状態(NOT SENT),未解決状態(OUTSTANDING),再送信待機状態(WAITING FOR RETRANSMISSION),完了状態(DONE),廃棄状態(DISCARD)などの各状態に遷移すること。」は周知であると認められる(以下,「周知技術1」という。)。
また,上記(イ),(ウ)の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,
「ARQブロックの送信において,ARQブロックに対するACKを受信した場合,完了状態(DONE)に遷移すること。」は周知であると認められる(以下,「周知技術2」という。)。

本件の最先の優先日前に公開された特開昭63-228838号公報(以下,「周知例3」という。)には,「通信制御処理方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(エ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
前記のようにして伝送するブロックは,ブロック長が長い程,伝送エラーに遭遇する可能性が大きいことは明らかであり,且つ伝送エラーが発生すれば比較的長時間の再送時間を要するという不利がある。
一方,正常に伝送される場合には,ブロックを長くした方が,チェックバイトその他の付加及びACK授受等によるオーバヘッドの割合が少なくなって,回線の利用率を向上できることも明らかであるので,例えば適当な通信回線の回線品質がある場合には,極端に長いテキスト以外は,lテキストを1ブロックとして送信する。
しかし,このようにすると交換回線等のように,通信ごとに回線品質が変動し得る場合には,長時間の再送を繰り返しても,結局送信出来ないというような事態が生じるという問題がある。
〔問題点を解決するための手段〕
第1図は,本発明の構成を示す処理の流れ図である。
図は回線制御部の送信処理の流れを示し,20?27は処理ステップである。
〔作 用〕
回線制御部は送信処理において,処理ステップ20?22で従来のように,送信テキストのブロックを作成して送信し,相手の応答を待ち,ACK応答を受信すれば処理を終わる。
ACKを受信しない場合の再送処理において,先ず処理ステップ23で所定の方法でテキストを分割し,それぞれ個別の送信ブロックを作成する。
処理ステップ24?26により,この分割ブロックを,テキスト内の配列の順に1ブロックづつ取り出して順次送信し,各分割ブロックごとに従来のように応答を確認し,全分割ブロックを正常に送信すれば送信処理を終わる。
伝送エラーの分割ブロックが生じた場合には,処理ステップ27でそのブロックの再送処理を行い,それで再送に成功しない場合には送信,要求元に異常の旨を通知して送信処理を中止する。
以上の処理方法により,通信回線の品質が変動する場合にも,通信回線を効率良く使用することができる。
〔実施例〕
回線制御部1は応用処理部4からの送信要求を受けると,処理ステップ20で従来のように送信テキストのブロックを作成し,処理ステップ21でこのブロックを送信し,処理ステップ22で相手の応答を待ち,ACK応答を受信した場合には送信処理を終了する。
ACKを受信しない場合の再送処理において,先ず処理ステップ23で所定の方法でテキストを分割し,それぞれ個別の送信ブロックを作成する。
この分割の第1の方法では,例えばテキストのバイト数をカウントして,予め設定されている分割数(例えば2)によってほゞ等分割する。
第2の分割方法では,テキストの先頭から予め設定されている一定バイト長づつ切り出して,それぞれ同長のブロックとし,末尾はこの一定バイト長以内のテキスト部分で1ブロックとする。
又,第3の方法として,テキストが一定バイト長より大きい場合のみ,一定分割数で等分割するようにしてもよい。
処理ステップ23では,以上のような分割方法で分割したテキストごとに,従来のようにして送信ブロックを作成する。但し最後の分割ブロックを除く各分割ブロックの末尾はETXではなく,中間のブロックであることを示す所定のバイト(例えばETBバイト)にする。
このようにすることにより,受信側の回線制御部3では,分割ブロックを受信したときに,ETBのあるブロックのテキストは回線制御部3の中に保持しておき,ETXのブロックを受信したとき,それまでに受信したテキストを一括して応用処理部5に渡すようにする。
回線制御部1は処理ステップ24で,前記の分割ブロックをテキスト内の配列の順に1ブロックづつ送信し,処理ステップ25で応答を待つ。
ACKが来れば処理ステップ26でチェックして,未送信の分割ブロックがあれば処理ステップ24に戻り,次の分割ブロックの送信を始め,このようにしてすべての分割ブロックを送信すれば処理を終わる。
処理ステップ25でACKを受信出来ない場合は処理ステップ27で,この分割ブロックの再送処理を行う。
この再送処理は例えば前記従来のように,ACKを受信するか,所定の再送回数まで,同じ分割ブロックの再送を繰り返す方法による。
又,分割ブロックを更に前記のような方法で複数のブロックに分割して,再送信するようにしてもよい。
このようにして,再送に成功した場合には,処理ステップ26に進み,前記のように次の分割ブロックの送信を開始するか,又は全分割ブロックの送信を終わった場合には処理を終了する。
又再送によっても分割ブロックを送信できない,再送不成功の場合には,応用処理部4に異常の旨を通知して送信処理を中止する。」(2ページ左下欄16行?3ページ右下欄16行)


同じく本件の最先の優先日前に公開された特開2004-040493号公報(以下,「周知例4」という。)には,「パケット通信装置及びパケット通信方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(オ)「【0038】
また,サービスデータ単位であれ,パケット全体であれ,分割の仕方は2分割に限られず,3つ以上に分割するとしても良い。また,必ずしも等分割である必要はない。
更に,サービスデータ単位のデータ長が余りに小さいと,却って帯域の有効利用に反する場合があるので,サービスデータ単位を分割しない条件を定めても良い。例えば,サービスデータ単位が所定のデータ長以下ならば分割しないとして良いし,或いは,分割後のサービスデータ単位が所定のデータ長以下となる場合には分割しないとしても良い。
(中略)
【0054】
図6は,通信端末30が通信端末31へパケットを送信する際の通信手順であって,通信端末30がパケットの損失が検出した際に実行される通信手順を示すシーケンス図である。図6に示すように,通信端末30は,先ず,シーケンス番号「X」を付与したパケットを通信端末31に向けて送信する。これに対して,通信端末31は,当該パケットを正常に受信して,通信端末30にACKを返信する。
【0055】
本変形例においては,パケットとACKとの対応関係を明示するために,通信端末31は,対応するパケットのシーケンス番号をACKに付与する。例えば,シーケンス番号Xを付与されたパケットに対応するACKについては,通信端末31は,シーケンス番号Xを付与する。
続いて,通信端末30は,シーケンス番号「Y」を付与したパケットを,通信端末31に向けて送信する。図6においては,当該シーケンス番号「Y」を付与されたパケットは,何らかの原因により発生した損失により,通信端末31には到達しない。通信端末30は,更に,シーケンス番号「Z」を付与したパケットを送信する。
【0056】
通信端末31は,当該パケットを正常に受信し,前回受信したパケットのシーケンス番号「X」と今回受信したパケットのシーケンス番号「Z」とを比較する。この比較により,通信端末31は,シーケンス番号「Y」のパケットが到達しなかったことを検出すると,シーケンス番号「Y」を指定して,通信端末30に再送を要求する。
【0057】
通信端末30は,当該再送要求を受け付けると,内部バッファからシーケンス番号「Y」のパケットを読み出した後,当該パケットを前半部分と後半部分との2つに分割し,それぞれシーケンス番号「Y1」,「Y2」を付与したパケットとする。そして,通信端末30は,先ず,シーケンス番号「Y1」のパケットを送信する。
【0058】
通信端末30は,当該パケットに対応するACKを受信すると,シーケンス番号「Y2」のパケットを送信する。通信端末30は,当該パケットに対するACKを受信すると,再送処理を終了する。そして,通信端末30は,シーケンス番号「Z」のパケットを送信し,これに対するACKを受信すると,一連の手順を終了する。」(7ページ,9?10ページ)


同じく本件の最先の優先日前に公開された特開2008-053854号公報(以下,「周知例5」という。)には,「データの再送方法,通信装置,およびコンピュータプログラム」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(カ)「【0045】
〔再送用フレーム8を送信する第一のタイミング〕
図6は基地局1と端末装置2との間のデータのやり取りの例を示す図である。
【0046】
L-PDUフレーム7を再送すべき旨の要求を再送要求受付部102が携帯電話端末2から受け付けると,再送用フレーム生成部103は,図5で説明したように,そのL-PDUフレーム7を複数の再送用フレーム8に分割する。
【0047】
フレーム送信制御部104は,従来であればそのL-PDUフレーム7を再送していたところ,その代わりに,再送用フレーム8を順次送信する。例えば,図6に示すように,TSNが「#4」であるL-PDUフレーム7を「Pr#A」のプロセスで送信したが,そのL-PDUフレーム7についての再送の要求があった場合は,そのL-PDUフレーム7を2つに分割することによって再送用フレーム生成部103が生成した再送用フレーム8を,そのプロセスによって順次送信する。この際に,それぞれの再送用フレーム8に対しては,「#4-1」,「#4-2」というTSNを与えればよい。再送用フレーム8に対するTSNの与え方は,様々である。これについては,後に説明する。
【0048】
なお,図6において,基地局(BTS)1から携帯電話端末(MS)2に向かう実線または点線の矢印は,基地局1から携帯電話端末2に宛てて送信されるL-PDUフレーム7または再送用フレーム8を示している。実線の矢印は,「Pr#A」のプロセスに係るデータまたは信号のやり取りを示しており,点線の矢印は,それ以外のプロセスに係るデータまたは信号のやり取りを示している。後に説明する図7,図9,図14においても同様である。
【0049】
〔再送用フレーム8を送信する第二のタイミング〕
図7は基地局1と端末装置2との間のデータのやり取りの例を示す図である。
(中略)
【0053】
再送の要求が1回目である場合は,フレーム送信制御部104は,そのL-PDUフレーム7を再送用フレーム8に分割することなく同じプロセスによってそのまま再送する処理を行う。
【0054】
再送の要求が2回目つまり閾値Paと同数である場合は,再送用フレーム生成部103はそのL-PDUフレーム7を分割し複数の再送用フレーム8を生成する。そして,フレーム送信制御部104は,これらの再送用フレーム8を同じプロセスによって順次送信する処理を行う。
(中略)
【0107】
図17において,基地局1は,携帯電話端末2からL-PDUフレーム7の再送の要求を受け付けると(S1),そのL-PDUフレーム7を複数の再送用フレーム8に分割する(S2)。分割の方法は,前に説明したように,様々である。」(7?8ページ,13ページ)


上記(エ)の第1図及びその説明,(オ)の図6,(カ)の【0046】,【0047】,図7,17の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,「ARQブロックの再送時に,サブブロックに分割して再送し,サブブロック単位でACKを送ること。」は,周知であると認められる。
そして,上記(エ)の「処理ステップ24?26により,この分割ブロックを,テキスト内の配列の順に1ブロックづつ取り出して順次送信し,各分割ブロックごとに従来のように応答を確認し,全分割ブロックを正常に送信すれば送信処理を終わる。」及び「全分割ブロックの送信を終わった場合には処理を終了する。」との記載,(オ)の【0056】?【0058】の記載によれば,全ての分割ブロックのACKが受信されると再送処理が終了することになるから,「ARQブロックの再送時に,サブブロックに分割して再送し,サブブロック単位でACKを送り,全てのサブブロックに対するACKを受信した場合,再送を終了すること。」は,周知であると認められる(以下,「周知技術3」という。)。

また,上記(エ)の「又,第3の方法として,テキストが一定バイト長より大きい場合のみ,一定分割数で等分割するようにしてもよい。」との記載,(オ)の【0038】,(カ)の【0053】,【0054】の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,「ARQブロックの再送時に,サブブロックに分割して再送するか否か決定すること。」は,周知であると認められる(以下,「周知技術4」という。)。

ウ 対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると,
(ア)引用発明の「通信制御装置(送信制御装置)側」は,「無線通信システムにおける送信端」といえる。
また,引用発明は,通信制御装置(受信制御装置)で受信したデータに誤りがあると,通信制御装置(送信制御装置)は再送要求(NAK)を受信することによりデータの再送信をし,誤りがなければ受信応答(ACK)を受信するのであるから,これらの処理はARQ(自動再送要求)といえ,通信制御装置(送信制御装置)側から無線により送信される「ブロック化した送信データ」を「ARQブロック」と称するのは任意である。

(イ)本願明細書の【0033】によれば,送信端が受信端からARQブロックに対するNACKを受信する場合(225),ARQブロックは,再送信待機状態204に遷移するのであるから,補正後の発明の「再送信待機状態で」と引用発明の「再送要求(NAK)を受信すると」とは,「送信端が受信端からARQブロックに対するNACKを受信した状態で」の点で共通する。

(ウ)引用発明の「サブブロック」は,誤りの発生したブロックを分割したものであるから,補正後の発明の「ARQ下位ブロック」に相当する。そして,引用発明のサブブロックは各々サブブロック番号を有するものであり,引用例の図2によれば当該サブブロック番号はサブブロック各々に順次割り当てるシーケンス番号といえる。
したがって,補正後の発明の「前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程と,前記再配列状態で 前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,前記ARQ下位ブロックを再送信する過程」と,引用発明の「所定の条件の場合に,誤りの発生したブロックを各々サブブロック番号を有するサブブロックに分割して,サブブロックを再送信し,」とは,以下の相違点1は別として,「前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,前記ARQ下位ブロックを再送信する過程」の点で共通する。

(エ)引用例の【0045】及び図5によれば,引用発明は,通信制御装置Aはサブブロックに対する再送要求を受信し,通信制御装置Bが全て誤り無く受信できるまで又は再送を2回まで手順を繰り返してパケット送信が完了するものであり,全く誤りがなければ通信制御装置Aは受信応答(ACK)を受信することを含むものである。そして,全く誤りがなければ受信する受信応答(ACK)は,全てのサブブロックに誤りがなくなった場合に受信するものであるから,当該受信応答(ACK)は「全てのサブブロックに関するACK」といえる。
一方,補正後の発明の「前記全てのARQ下位ブロックに対するACKを受信した場合」は,全てのARQ下位ブロックが全く誤りがない場合であるから,「全てのARQ下位ブロックに関するACKを受信した場合」といえる。
したがって,補正後の発明の「前記ARQブロックの全てのARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程と,前記全てのARQ下位ブロックに対するACKを受信した場合,完了状態に遷移する過程」と,引用発明の「サブブロックに対する再送要求(NAK)を受信し,全く誤りがなければ受信応答(ACK)を受信する」とは,以下の相違点2は別として,「前記ARQブロックのARQ下位ブロックに関するARQフィードバックを待機する過程と,全てのARQ下位ブロックに関するACKを受信する過程」の点で共通する。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「無線通信システムにおける送信端でARQブロックの送信方法であって,
送信端が受信端からARQブロックに対するNACKを受信した状態で
前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,
前記ARQ下位ブロックを再送信する過程と,
前記ARQブロックのARQ下位ブロックに関するARQフィードバックを待機する過程と,
全てのARQ下位ブロックに関するACKを受信する過程とを含む,方法。」

(相違点1)
一致点の「送信端が受信端からARQブロックに対するNACKを受信した状態」に関し,補正後の発明は「再送信待機状態」であり,当該状態で「前記ARQブロックの再送信を待機する過程と,前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程」を有するのに対し,引用発明は各「状態」が明らかにされておらず,また,補正後の発明は「前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定」する決定動作を有しているのに対し,当該決定に係る事項が明らかにされていない点。

(相違点2)
一致点の「前記ARQブロックのARQ下位ブロックに関するARQフィードバックを待機する過程と,全てのARQ下位ブロックに関するACKを受信する過程」に関し,補正後の発明は「前記ARQブロックの全てのARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程と,前記全てのARQ下位ブロックに対するACKを受信した場合,完了状態に遷移する過程」であって,各ARQ下位ブロック毎にARQフィードバック(ACK,NACK)を受信するのに対し,引用発明は再送要求(NAK)はサブブロック毎に受信されるものの,受信応答(ACK)はサブブロック毎ではなく,全く誤りがない場合に受信されるものであり,また,補正後の発明はACKを受信した場合に完了状態に遷移するのに対し,引用発明は当該事項が明らかにされていない点。

以下,各相違点について検討する。
(相違点1について)
各動作を状態遷移図と対応させることは常套手段であって,周知技術1のとおり,「ARQブロックの送信において,送信待機状態(NOT SENT),未解決状態(OUTSTANDING),再送信待機状態(WAITING FOR RETRANSMISSION),完了状態(DONE),廃棄状態(DISCARD)などの各状態に遷移すること。」は周知である。してみると,引用発明の「再送要求(NAK)を受信すると」の動作に対応する状態を「再送信待機状態」と称し,「サブブロックに分割して,サブブロックを再送信し」の動作に対応する状態を「再配列状態」と称することは任意である。

また,再送処理においては,通常,再送要求を受信してから実際に再送がなされるまでには時間があり,これら「前記ARQブロックの再送信を待機する過程」と称することは任意である。

また,引用発明は,引用例の図3のS9に示されるように,再送要求(NAK)を受信(S7のNO)の場合でも,所定の条件(N>3)の場合にはサブブロックに分割しない(S10に進まない)ものである。そして,周知技術4のとおり,「ARQブロックの再送時に,サブブロックに分割して再送するか否か決定すること。」は周知であることに鑑みれば,「前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程」は,当業者が適宜なし得ることに過ぎない。

(相違点2について)
再送処理においては,ACK/NACKの双方を受信すること,ACKのみを受信し受信しない場合はNACKに解すること,NACKのみを受信し受信しない場合はACKに解すること等,様々な態様があり,周知技術3のとおり「ARQブロックの再送時に,サブブロックに分割して再送し,サブブロック単位でACKを送り,全てのサブブロックに対するACKを受信した場合,再送を終了すること。」は周知であるから,ARQ下位ブロック毎にARQフィードバック(ACK,NACK)を受信するようにすることは適宜なし得ることである。
また,周知技術2のとおり,「ARQブロックの送信において,ARQブロックに対するACKを受信した場合,完了状態(DONE)に遷移する。」ことは周知であるから,引用発明において「全く誤りがなければ受信応答(ACK)を受信する」場合に完了状態(DONE)に遷移することも,当業者が容易になし得ることに過ぎない。

補正後の発明の作用効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおり,補正後の発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3 結語
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3?5項の規定に違反し,また,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年10月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,補正後の発明は,上記1(1)において「本願発明」とした以下のとおりのものと認める。
「無線通信システムにおける送信端でARQブロックの送信方法であって,
再送信待機状態で
前記ARQブロックの再送信を待機する過程と,
前記ARQブロックを再配列して再送信すると決定した場合,再配列状態に遷移する過程と,
前記再配列状態で
前記ARQブロックを各々に順次割り当てるシーケンス番号を有するARQ下位ブロックに分割する過程と,
前記ARQ下位ブロックを再送信する過程と,
前記ARQブロック又は前記ARQブロックの ARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程と,
前記ARQブロックに対するACKを受信した場合,完了状態に遷移する過程とを含むことを特徴とする方法。」(再掲)


2 引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。


3 対比・判断
そこで,本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。そうすると,引用発明の「サブブロックに対する再送要求(NAK)を受信し」は,本願発明の「前記ARQブロックの ARQ下位ブロックに対するARQフィードバックを待機する過程」に相当し,また,引用発明の「全く誤りがなければが受信応答(ACK)を受信する」は,本願発明の「前記ARQブロックに対するACKを受信した場合」に相当する。
してみると,本願発明と引用発明との相違点は,補正後の発明と引用発明との相違点1,及び相違点2のうちの「補正後の発明はACKを受信した場合に完了状態に遷移するのに対し,引用発明は当該事項が明らかにされていない点。」である。
そうすると,本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ 対比・判断」の項で検討したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。


4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-06 
結審通知日 2016-05-09 
審決日 2016-05-25 
出願番号 特願2010-289807(P2010-289807)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H04L)
P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 561- Z (H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
菅原 道晴
発明の名称 無線通信システムにおけるエラー制御のためのデータ生成装置及び方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 木内 敬二  
代理人 阿部 達彦  
代理人 崔 允辰  

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