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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G04B
管理番号 1320198
異議申立番号 異議2016-700035  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-20 
確定日 2016-08-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5750718号発明「透光性部材、および時計」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5750718号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし12]について訂正することを認める。 特許第5750718号の請求項1ないし10、12に係る特許を維持する。 特許第5750718号の請求項11に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5750718号の請求項1ないし12に係る発明についての出願は、平成20年7月31日に出願した特願2008-198453号の一部を、平成25年7月23日に新たな特許出願(特願2013-152827号)とし、該新たな特許出願の一部を平成25年12月9日に新たな特許出願(特願2013-254502号)としたものであって、平成27年5月29日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人今村三津子により特許異議の申立てがなされ、平成28年3月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月12日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成28年7月7日付けで異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
平成28年5月12日付けでなされた訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の適否について判断する。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり」とあるのを、「前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40?50vol%であり」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載の透光性部材において、
前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が4?9層であることを特徴とする透光性部材。」とあるのを
「透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有し、
前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が4層であることを特徴とする透光性部材。」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?請求項3のいずれかに記載の透光性部材において、
該透光性部材の表面硬度が、24000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。」とあるのを、
「透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有し、
該透光性部材の表面硬度が、24000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12の「請求項1?請求項11のいずれかに記載の透光性部材を備え、」とあるのを「請求項1?請求項10のいずれかに記載の透光性部材を備え、」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張、変更
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に記載された「窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層」について、「その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量」が、本件訂正前では「30?50vol%」とされていたところを、「40?50vol%」と減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものである。
また、特許明細書の段落【0008】には、「前記反射防止層の最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40?50vol%であると、反射防止効果を維持したまま、反射防止層の耐傷性をさらに向上させることが可能となるので好ましい。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が本件訂正前の請求項1を引用して記載されていたところを、請求項1の記載を引用しないものとするとともに、「窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層」について、本件訂正前では「積層数が4?9層」とあったところを、「積層数が4層」と減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項第4号(請求項間の引用関係の解消)、及び、第1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものである。
また、特許明細書の段落【0025】には「〔反射防止層12の構成〕 反射防止層12は、基材11の上に形成され、屈折率の異なる無機薄膜を交互に積層して得られる多層膜である。図1に示すカバー部材1では、反射防止層12は、12A(高屈折率層)、12B(低屈折率層)、12C(高屈折率層)、12D(低屈折率層)の4層から構成されている。」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4が本件訂正前の請求項1から請求項3のいずれかを引用して記載されていたところ、本件訂正前の請求項1を引用する請求項4について、本件訂正前の請求項1の記載を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項第4号(請求項間の引用関係の解消)、及び、第1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正により、本件訂正前の請求項11が削除されたことに伴って、本件訂正前の請求項12が引用していた請求項から請求項11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。

(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項12は、本件訂正を請求された本件訂正前の請求項1、2、4、11を引用し、さらに、本件訂正前の請求項3、5?10を引用して記載されていたから、本件訂正前の請求項1?12は一群の請求項である。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第4号並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし10、12に係る発明(以下、「本件の請求項1ないし10、12に係る発明」、あるいは、「本件訂正発明1ないし10、12」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10、12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
「 【請求項1】
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有することを特徴とする透光性部材。
【請求項2】
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有し、
前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が4層であることを特徴とする透光性部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透光性部材において、
前記基材がサファイアガラスであることを特徴とする透光性部材。
【請求項4】
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有し、
該透光性部材の表面硬度が、24000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項5】
請求項4に記載の透光性部材において、
該透光性部材の表面硬度が、30000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれかに記載の透光性部材において、
前記フッ素含有有機ケイ素化合物が、アルコキシシラン化合物である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項7】
請求項1?請求項6のいずれかに記載の透光性部材において、
前記フッ素含有有機ケイ素化合物が、下記式(1)および(2)の少なくともいずれかで示されるパーフルオロエーテル化合物である
ことを特徴とする透光性部材。
【化1】

(式中、R_(f)^(1)はパーフルオロアルキル基を示す。Xは臭素、ヨウ素または水素を示す。
Yは水素または低級アルキル基を示し、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基を示す。
R^(1)は加水分解可能な基を示し、R^(2)は水素または不活性な1価の炭化水素基を示す。a、b、c、d、eは0または1以上の整数で、且つa+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1または2である。gは1、2または3である。hは1以上の整数である。)
【化2】

(式中、R_(f)^(2)は式:「-(C_(k)F_(2k))O-」で示される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を示す。なお、式:「-(C_(k)F_(2k))O-」におけるkは1?6の整数である。R^(3)は炭素原子数1?8の1価炭化水素基であり、Wは加水分解性基またはハロゲン原子を示す。pは0、1または2であり、nは1?5の整数である。mおよびrは、2または3である。)
【請求項8】
請求項1?請求項7のいずれかに記載の透光性部材において、
前記防汚層の厚みが0.001?0.05μmであることを特徴とする透光性部材。
【請求項9】
請求項1?請求項8のいずれかに記載の透光性部材において、
前記積層は、当該透光性部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に形成されることを特徴とする透光性部材。
【請求項10】
請求項1?請求項9のいずれかに記載の透光性部材において、
該透光性部材は、時計用カバーガラスであることを特徴とする透光性部材。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
請求項1?請求項10のいずれかに記載の透光性部材を備え、
前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる
ことを特徴とする時計。」

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし12に係る特許に対して平成28年3月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のア、イのとおりである(なお、本件訂正前の請求項11は、本件訂正により削除されたので、取消理由イは理由のないものとなった。)。
ア 請求項1ないし5、7ないし10、12に係る発明は、次の刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術に基づき、容易に発明をすることができたものであり、請求項6に係る発明は、次の刊行物1に記載された発明並びに刊行物2、刊行物5及び刊行物6に記載された技術に基づき、あるいは次の刊行物1に記載された発明及び刊行物4に記載された技術に基づき、容易に発明をすることができたものであり、請求項11に係る発明は、次の刊行物1に記載された発明並びに刊行物2及び刊行物3に記載された技術に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。

刊行物1:特開2004-271480号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開2007-286232号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開2005-3817号公報(甲第3号証)
刊行物4:特開平5-96681号公報
刊行物5:特開平9-202648号公報
刊行物6:特開2003-238577号公報

イ 請求項11、12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 刊行物の記載
(刊行物1)
刊行物1には、図面とともに、次の技術事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。
ア「【請求項1】
ガラス基材のおもて面と裏面のそれぞれにSiO_(2)からなる層とSi_(x)N_(y)(xとyは0より大きい任意の数字であり、y>xである)からなる層とを交互に積層した反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、積層するSiO_(2)からなる層とSi_(x)N_(y)からなる層との合計が5層以上、50層以下であり、少なくともおもて面の最表層がSiO_(2)層であり、該SiO_(2)層の厚さが50nm以上である時計用カバーガラス。」

イ「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、時計用カバーガラスに係わり、特に、長期間に亘る反射防止機能と耐傷性に優れた時計用カバーガラスに関する。」

ウ「【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決して、時刻を表示する文字板や指針に対する視認性に優れ、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することにある。」

エ「【0011】
(作用)
本発明者は、時計用カバーガラスにおける反射防止膜について鋭意、検討を進めた結果、ガラス基材のおもて面と裏面のそれぞれにSiO_(2) からなる層とSi_(x)N_(y)からなる層を交互に積層し反射防止膜を作製する際、おもて面と裏面それぞれの面における層の合計が5層以上、50層以下であれば、時計の文字板を見る角度によって生じるカバーガラスからの赤や青、紫などの反射光が見えず、殆ど無色に見えるようになり、文字板と指針の位置を容易に読みとることができるようになることを見いだした。これはSiO_(2)層の屈折率の一例が1.44であり、Si_(x)N_(y)層の一例としてのSi_(3)N_(4)層の屈折率の一例が1.95とすると、光学設計シミュレーションによる最適化から、可視光域で450nmから700nmまでの反射率が3%以下となり、この間では殆ど吸収光のない平坦な反射率曲線を得ることが可能となるからである。その結果カバーガラスからの赤や青、紫などの反射光が無くなり、カバーガラスは無色に見えるようになる。
【0012】
そのためには少なくとも表面の最表層をSiO_(2) 層とした5層以上の反射防止膜が必要となることが本発明者によって見いだされた。また、層数の上限は50層であり、これよりも多く積層すると、膜の応力によって剥離する可能性がある。
【0013】
また、本発明の時計用カバーガラスは、少なくともおもて面の反射防止膜最表層のSiO_(2)層の厚さが50nm以上であると、膜厚の厚さによる耐摩耗性の効果が発揮されることを見いだした。このようにして、カバーガラスの反射光が着色していないために時刻を表示する文字板や指針に対する視認性に優れており、硬度が高く、耐摩耗性にも優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となる。また、成膜中の基板温度を100℃以上にすることによって緻密で強固な膜が得られることも分かった。」

オ「【0016】
反射防止膜の特性は積層するSiO_(2)層とSi_(x)N_(y)層の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存しており、仕様を満足する反射率特性をシミュレーションによって計算し、最適化することができる。また、SiO_(2)およびSi_(x)N_(y)の屈折率は成膜条件によって変えることも可能である。本発明ではSiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層の合計が5層以上、50層以下であり、少なくともおもて面の最表層はSiO_(2)層であり、このSiO_(2)層の厚みが50nm以上になるようにして最適な光学膜設計を行った。」

カ「【0018】
【実施例】
以下に本発明の具体的な実施例について、図1?図4を参照しながら説明する。
(実施例1)
本実施例における時計用カバーガラスは、図1に示すようにサファイヤガラス10のおもて面には反射防止膜110が、裏面には反射防止膜210が被覆されている。反射防止膜110と反射防止膜210の膜構成は同じであり、今回はSiO_(2)とSi_(x)N_(y)としてSi_(3)N_(4)を用い、交互に積層した5層構造とした。SiO_(2)の屈折率は1.44であり、Si_(3)N_(4)の屈折率は1.95とした。最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、最下層(第n層)はSiO_(2)層となっている。光学設計シミュレーションから可視光域400?750nmまでの反射率が3%で、この間の反射率曲線が吸収のない平坦になるように膜厚を最適化した。その際の膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmである。また、SiO_(2)層およびSi_(3)N_(4)層の屈折率はスパッタリング条件によっても変えることも可能である。」

キ「【0044】
【表1】

【0045】
表から分かるように、実施例1?3においては耐摩耗性を評価するための摺動摩耗試験結果では、100回以上摺動しても傷の発生も剥離も全くなく、良好な耐摩耗性が得られ、ビッカース硬度も高い値を示した。また視認性の評価である反射光の色も無色であり、文字板が明瞭に見えることを確認した。反射率特性は摺動摩耗試験後も図3に示すままであり、550nmにおける透過率は96%以上であった。」

ク 刊行物1の「【0044】」の【表1】には、「実施例1」のビッカース硬度(HV)が1000と記載されている。

以上の記載によれば、刊行物1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「サファイヤガラスからなるガラス基材のおもて面と裏面のそれぞれにSiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜を備えた時計用カバーガラスであって、積層するSiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計が5層であり、最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmである、ビッカース硬度が高い値(1000)を示す、
時計用カバーガラス。」

(刊行物2)
刊行物2には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。
ケ「【請求項1】
光学物品の表面に防汚層を有する防汚性光学物品であって、
前記防汚層は、前記光学物品の外周側面を除く最表面に形成されていることを特徴とする防汚性光学物品。
【請求項2】
請求項1に記載の防汚性光学物品において、
前記防汚層が含フッ素シラン化合物からなり、前記含フッ素シラン化合物が下記一般式(1)で表されることを特徴とする防汚性光学物品。

(但し、式中、Rf^(1)はパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1)は水酸基または加水分解可能な基、R^(2)は水素または1価の炭化水素基を表す。a、b、c、d、eは0または1以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1または2を表す。gは1、2または3を表す。hは1以上の整数を表す。)
【請求項3】
請求項1に記載の防汚性光学物品において、
前記防汚層が含フッ素シラン化合物からなり、前記含フッ素シラン化合物が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする防汚性光学物品。

(但し、式中、Rf^(2)は式:「-(C_(k)F_(2k))O-」で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。なお、式:「-(C_(k)F_(2k))O-」におけるkは1?6の整数である。R^(3)は炭素原子数1?8の1価炭化水素基であり、Wは加水分解性基またはハロゲン原子を表す。pは0、1または2を表す。nは1?5の整数を表す。m及びrは2または3を表す。)」

コ「【0028】
反射防止層13は、眼鏡レンズLの表面反射を防止するために、これより下層に形成されたハードコート層12、およびレンズ基材11よりも低屈折の層として形成される。また、反射防止層13は、無機被膜、有機被膜の単層または多層で構成される。
【0029】
無機被膜の材質としては、SiO_(2)、SiO、ZrO_(2)、TiO_(2)、TiO、Ti_(2)O_(3)、Ti_(2)O_(5)、Al_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、CeO_(2)、MgO、Y_(2)O_(3)、SnO_(2)、MgF_(2)、WO_(3)等の無機物が挙げられ、これらを単独または2種以上を交互に積層して用いることができる。また、多層膜構成とした場合は、最外層はSiO_(2)とするのが好ましい。」

サ「【0034】
図2(a)において、防汚層14が形成される眼鏡レンズLは、レンズ基材11の表面にハードコート層12、反射防止層13が設けられている。
そして、図2(b)に示すように、除去層形成工程において、この眼鏡レンズLの外周側面Lcに、除去層20が形成される。
・・・
【0044】
・・・そして、除去層20が形成された眼鏡レンズLは、洗浄工程に移行する。
【0045】
洗浄工程は、除去層20が形成された眼鏡レンズLが、例えば、プラズマ処理装置の処理槽内に投入されて洗浄される。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥空気、電極間距離:24cm、電源出力:DC1KV、処理時間:15secで行われる。
そして、洗浄された眼鏡レンズLは、防汚層形成工程に移行する。」

シ「【0049】
これらの含フッ素シラン化合物の具体例としては、例えば、フルオロアルキルシラン(例えば、信越化学工業株式会社製、商品名:KY-130、あるいは、ダイキン工業株式会社製、商品名:オプツールDSX)等が挙げられる。」

ス「【0056】
防汚性処理液の塗膜の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.001?0.5μmの範囲であり、より好ましくは0.001?0.03μmの範囲である。防汚層14の膜厚が薄すぎると防汚効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層14を反射防止層13表面に設けた本実施形態の場合には、防汚層14の厚さが0.03μmを超えて厚くなると反射防止効果が低下するため好ましくない。」

セ「【0067】
以上の実施形態において、光学物品としてプラスチックから成る眼鏡レンズLの場合を説明したが、各種の光学物品に適用することができる。眼鏡レンズLの他に、携帯電話の表示板、各種ディスプレイのカバー、光学機器用のガラスレンズおよびプラスチックレンズ、それらのハイブリットレンズ、腕時計のカバーガラスなどが挙げられ、取り扱う際の滑り易さに伴なう不具合を防いだ防汚性光学物品を得ることができる。
【0068】
また、防汚層14が形成される眼鏡レンズLは、レンズ基材11の表面にハードコート層12、反射防止層13が設けられた場合で説明したが、ハードコート層12が形成されていない場合、あるいはハードコート層12と反射防止層13が形成されていない場合など、防汚層14の下層の膜構成は、どんな構成であっても良い。」

以上の記載によれば、刊行物2には以下の技術(以下「刊行物2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる(なお、【化1】を、以下「一般式(1)」といい、【化2】を、以下「一般式(2)」という。)。

「光学物品の表面に防汚層を有する防汚性光学物品であって、防汚層14の下層に反射防止層13が形成され、反射防止層13は、SiO_(2)等の無機物を単独または2種以上を交互に積層して用いることができ、多層で構成され、多層膜構成とした場合は最外層はSiO_(2)とするのが好ましく、前記防汚層は、前記防汚層が含フッ素シラン化合物からなり、前記含フッ素シラン化合物が一般式(1)

(但し、式中、Rf^(1)はパーフルオロアルキル基、Xは水素、臭素、またはヨウ素、Yは水素または低級アルキル基、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基、R^(1)は水酸基または加水分解可能な基、R^(2)は水素または1価の炭化水素基を表す。a、b、c、d、eは0または1以上の整数で、a+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、d、eでくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1または2を表す。gは1、2または3を表す。hは1以上の整数を表す。)、
又は、
一般式(2)

(但し、式中、Rf^(2)は式:「-(C_(k)F_(2k))O-」で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。なお、式:「-(C_(k)F_(2k))O-」におけるkは1?6の整数である。R^(3)は炭素原子数1?8の1価炭化水素基であり、Wは加水分解性基またはハロゲン原子を表す。pは0、1または2を表す。nは1?5の整数を表す。m及びrは2または3を表す。)
で表され、塗膜の厚みは、より好ましくは0.001?0.03μmの範囲であり、光学物品としては、腕時計のカバーガラスなどが挙げられる、防汚性光学物品。」

(刊行物3)
刊行物3には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。
ソ「【0067】
レンズ材料として、ハードコート膜、反射防止膜(最外層がSiO_(2)膜)の層を有する眼鏡用プラスチックレンズ(「セイコースーパーソブリン」セイコーエプソン株式会社製)を用意し、その表面を洗浄するためにプラズマ処理を行った。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥air、電極間距離24cm:電源出力:DC1KV、処理時間:15secとした。
【0068】
プラズマ処理したレンズをDip用処理液に浸漬して1min保持した後40cm/minにて引き上げ、その後、60℃、60%RHに設定した恒温恒湿槽に投入し、2時間保持することで防汚層を形成した。」

以上の記載によれば、刊行物3には、次の技術(以下、「刊行物3に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「反射防止膜(最外層がSiO_(2)膜)の層の表面を洗浄するためにプラズマ処理を行ない、防汚層を形成する技術。」

(刊行物4)
刊行物4には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。
タ「【0010】弗素原子を有するシラン化合物としては,特に限定されないが,基材であるガラス,セラミックス,金属と化学的に反応して,欠陥のない被膜を形成し易いという観点から代表的には化1の式の化合物が用いられる。
【0011】
【化1】

【0012】具体的には化2の化合物等があげられるがこれに限定されるものではない。
【0013】
【化2】

【0014】このような化合物を単独あるいは混合物として,好適には0.0001?0.1mol/リットルの溶液を調整する。溶媒としては非水系の溶媒が任意に用いられ,具体的にはn-ヘキサン,n-ヘプタン,四塩化炭素,ジクロルメタン,クロロホルム等が上げられる。これらは単独で用いてもよく,あるいは混合物で用いてもよい。このような溶液は被覆を形成したい物品を浸漬してもよく,あるいは容器内面であれば容器内にこの溶液を満たしてもよい。反応温度は室温から溶媒沸点の間で適宜温度を選択できる。
【0015】このようにしてシラン化合物溶液と基材を接触させると,基材表面の-OH基あるいは,化学吸着水とシラン化合物の化3の基が反応して水素結合を形成し,単分子層あるいは,多分子層に被膜が形成される。
【0016】

【0017】こうして形成された被膜は,弗素原子の効果できわだった撥水性,非粘着性が得られる。さらに,透視性は極めてすぐれ,非被覆品と目視では判別できない程である。」

チ「【0022】
【発明の効果】本発明により,ガラス基材の透明性を著しく失うことなく,ガラス表面に撥水性,非粘着性を付与し,しかも強固な密着性と耐熱性を有する窓材等が得られる。従って,電子レンジやオーブントースター等の窓材等の厨房用品,家電製品や,複写機トナーボックス等の事務機器,電話ボックス窓材,高層ビル窓材等の建材,自動車,列車,航空機等や計器類,時計文字盤等およびものを透視するための窓材の撥水性,防汚染性を向上させることが可能となる。尚,ガラス製のフライパンや鍋,自動車サイドミラーや交差点のコーナーミラー,風呂場の鏡等にも有効である。」

以上の記載によれば、刊行物4には、次の技術(以下、「刊行物4に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「時計文字盤等のガラス基材の表面に、CF_(3)(CF_(2))_(7)(CH_(2))_(2)Si(OMe)_(3)等の弗素原子を有するシラン化合物溶液を接触させ、基材表面の-OH基あるいは、化学吸着水とシラン化合物の「-OCH_(3)」基が反応して水素結合を形成し、単分子層あるいは、多分子層に皮膜を形成し、被膜は、きわだった撥水性、非粘着性が得られ、透視性は極めてすぐれ、非被覆品と目視では判別できない程となる技術。」

(刊行物5)
刊行物5には、時計の文字盤のカバーガラス等(段落【0039】)の防汚層に用いられる含フッ素シラン化合物の「加水分解性基」について、「上記R^(1) は、水酸基又は加水分解可能な置換基を表す。上記加水分解可能な置換基としては・・・より好ましくは、塩素、-OCH_(3) 、-OC_(2) H_(5) である。」(段落【0016】)と記載されている。

(刊行物6)
刊行物6には、防汚層に用いられる含フッ素シラン化合物の「加水分解性基」について、「Xは加水分解性基を表す。その具体例としては、・・・中でもアルコキシ基、アルケニルオキシ基等のオルガノオキシ基、クロル基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好ましい。」(段落【0025】)と記載されている。

4 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と、引用発明1とを対比する。
本件訂正発明1と、引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「サファイヤガラスからなるガラス基材」が、本件訂正発明1における「透光性を有する基材」に相当する。
(イ)引用発明1における「サファイヤガラスからなるガラス基材」に「反射防止膜を備えた時計用カバーガラス」が、本件訂正発明1における「透光性を有する基材を備える透光性部材」に相当する。
(ウ)引用発明1における「おもて面と裏面のそれぞれ」は、本件訂正発明1における「前記基材の表面の少なくとも一部」に相当する。
(エ)引用発明1における「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜」としての積層が、本件訂正発明1における「窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層」としての「積層」に相当する。
(オ)引用発明1における「積層」は、「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計が5層であり、最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層_(3)、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」って、このことは、積層の最表層(第1層)から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が、33.3vol%であることに相当するから、本件訂正発明1における「前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40?50vol%であ」ることとは、前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲に、窒化ケイ素が所定のvol%含有されている点で共通する。

イ すると、本件訂正発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、また相違する。
(一致点)
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲に、窒化ケイ素が所定のvol%含有されていることを特徴とする透光性部材。

(相違点1)
本件訂正発明1では、「前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有する」のに対し、引用発明1では、積層の表面にフッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有することは示されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明1における積層は、本件訂正により、「その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40?50vol%であ」るとされているのに対し、引用発明1における積層は、「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N4からなる層との合計が5層であり、最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」って、このことは、積層の最表層(第1層)から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が、33.3vol%である点。

ウ そこで、上記相違点について判断する。
(ア)(相違点1)について
腕時計のカバーガラスのおもて面(汚れる可能性のある面)に防汚処理を施すことは一般的なことである。そして、刊行物2に記載された技術には、光学物品として「腕時計のカバーガラス」が挙げられているから、引用発明1の「時計用カバーガラス」に、刊行物2に記載された技術を適用し、引用発明1の「ガラス基材のおもて面」の「反射防止膜を備えた時計用カバーガラス」において、「最表層」の「SiO_(2)層」上に、「含フッ素シラン化合物からなり、前記含フッ素シラン化合物が一般式(1)又は一般式(2)で表される」防汚層を形成し、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)(相違点2)について
引用発明1が、積層について、「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計が5層であり、最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」るとしているのは、「光学設計シミュレーションから可視光域400?750nmまでの反射率が3%で、この間の反射率曲線が吸収のない平坦になるように膜厚を最適化した」(刊行物1の段落【0018】参照。)結果である。
そして、刊行物1の段落【0016】に記載されているとおり、「反射防止膜の特性は積層するSiO_(2)層とSi_(x)N_(y)層の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存して」いるのであるから、引用発明1における最適化した膜厚の組み合わせを、改めて光学設計シミュレーションを行うことなく、任意に変更することは、当業者に動機付けられないことである。
そして、刊行物2ないし刊行物6には、SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜における、反射率曲線が吸収のない平坦な特性が得られる最適な膜厚の組み合わせについて何ら記載されていないから、引用発明1において、各層の膜厚を変更し、積層の最表層(第1層)から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量を40?50vol%とし、本件訂正により訂正された上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2について
ア 本件訂正発明2と、引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「サファイヤガラスからなるガラス基材」が、本件訂正発明2における「透光性を有する基材」に相当する。
(イ)引用発明1における「サファイヤガラスからなるガラス基材」に「反射防止膜を備えた時計用カバーガラス」が、本件訂正発明2における「透光性を有する基材を備える透光性部材」に相当する。
(ウ)引用発明1における「おもて面と裏面のそれぞれ」は、本件訂正発明2における「前記基材の表面の少なくとも一部」に相当する。
(エ)引用発明1における「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜」としての積層が、本件訂正発明2における「窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層」としての「積層」に相当する。
(オ)引用発明1における「積層」は、「最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」って、このことは、積層の最表層(第1層)から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が、33.3vol%であることに相当するから、本件訂正発明2における「前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であ」ることに相当する。
(カ)引用発明1における「積層」は「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計が5層」であるから、本件訂正発明2における「前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が4層であること」とは、「前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が多層である」点で共通する。

イ すると、本件訂正発明2と引用発明1とは、次の点で一致し、また相違する。
(一致点)
「透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が多層であることを特徴とする透光性部材。」

(相違点1)
本件訂正発明2では、「前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有」するのに対し、引用発明1では、積層の表面にフッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有することは示されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明2では、本件訂正により、「反射防止層」における窒化ケイ素を含む層と酸化ケイ素を含む層との積層数が「4層」とされているのに対し、引用発明1では「反射防止膜」における「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計」が「5層」である点。

ウ そこで、上記相違点について検討する。
(ア)(相違点1)が当業者にとって容易になし得たことは、上記「(1)本件訂正発明1について」「ウ」「(ア)」で述べたとおりである。

(イ)(相違点2)について
刊行物1の段落【0018】に、「反射防止膜110と反射防止膜210の膜構成は同じであり、今回はSiO_(2)とSi_(x)N_(y)としてSi_(3)N_(4)を用い、交互に積層した5層構造とした。」、「光学設計シミュレーションから可視光域400?750nmまでの反射率が3%で、この間の反射率曲線が吸収のない平坦になるように膜厚を最適化した。その際の膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmである。」と記載されているとおり、引用発明1は、「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計が5層であ」るものについて、「光学設計シミュレーションから可視光域400?750nmまでの反射率が3%で、この間の反射率曲線が吸収のない平坦になるように膜厚を最適化した」結果を開示しているものである。
すると、引用発明1において、「最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」ることと、積層数が「5層」であることとは、反射率曲線が吸収のない平坦になるように膜厚を最適化する上で、一体不可分の条件であるといえる。
さらに、刊行物1の段落【0011】、【0012】に記載されているとおり、「SiO_(2)からなる層とSi_(x)N_(y)からなる層を交互に積層し反射防止膜を作製する際」、「時計の文字板を見る角度によって生じるカバーガラスからの赤や青、紫などの反射光が見えず、殆ど無色に見えるようになり、文字板と指針の位置を容易に読みとることができるようになる」ためには、「5層以上の反射防止膜が必要となる」のであるから、引用発明1において、積層数を5層から「4層」に変更することは、当業者に動機付けられないことである。
そして、刊行物2ないし刊行物6には、SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜において、「最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」るとしたまま積層数を4層とした場合に、依然として吸収のない平坦な反射率曲線が得られるか否か、何ら記載されていないから、引用発明1において、「反射防止膜」における「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層との合計」を「4層」とし、本件訂正により訂正された上記相違点2に係る本件訂正発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

エ まとめ
以上のとおり、本件訂正発明2は、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1、2に「前記基材がサファイアガラスである」との限定を付加した発明である。
これに対し、引用発明1は、ガラス基材として「サファイヤガラス」を用いているが、本件訂正発明1、2が、上記のとおり、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明3も、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明4について
ア 本件訂正発明4と、引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「サファイヤガラスからなるガラス基材」が、本件訂正発明4における「透光性を有する基材」に相当する。
(イ)引用発明1における「サファイヤガラスからなるガラス基材」に「反射防止膜を備えた時計用カバーガラス」が、本件訂正発明4における「透光性を有する基材を備える透光性部材」に相当する。
(ウ)引用発明1における「おもて面と裏面のそれぞれ」は、本件訂正発明4における「前記基材の表面の少なくとも一部」に相当する。
(エ)引用発明1における「SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜」としての積層が、本件訂正発明4における「窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層」としての「積層」に相当する。
(オ)引用発明1における「積層」は、「最表層からSiO_(2)層1、Si_(3)N_(4)層2、SiO_(2)層3、・・・・・の順番であり、膜厚は最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nmであ」って、このことは、積層の最表層(第1層)から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が、33.3vol%であることに相当するから、本件訂正発明4における「前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であ」ることに相当する。

イ すると、本件訂正発明4と引用発明1とは、次の点で一致し、また相違する。
(一致点)
「透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
該透光性部材の表面硬度が、24000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。」

(相違点1)
本件訂正発明4では、「前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有」するのに対し、引用発明1では、積層の表面にフッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有することは示されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明4では、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有する「該透光性部材の表面硬度が、24000N/mm^(2)以上である」のに対し、引用発明1では、時計用カバーガラスはビッカース硬度が高い値(1000)を示すとされているものの、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を含めた表面硬度が、24000N/mm^(2)以上であることは示されていない点。

ウ そこで、上記相違点について検討すると、
(ア)(相違点1)が当業者にとって容易になし得たことは、上記「(1)本件訂正発明1について」「ウ」「(ア)」で述べたとおりである。

(イ)(相違点2)について
引用発明1に示されたビッカース硬度(HV)である1000を、一応の値ではあるが、ISO14577で規格化されたナノインデンテーション硬さに、
HV[kgf/mm^(2)]=76.23×HIT[GPa]+6.3
にて変換してみる(出典:http://www.scientaomicron.co.jp/products/hysitron/nanoindentation/faq.html)と、約13000[N/mm^(2)]となる。
これに対し、本件訂正発明4における(防汚層を含んだ)表面硬度は、「24000N/mm^(2)以上」であって、引用発明1の時計用カバーガラスの表面硬度の約2倍の表面硬度である。
ここで、本件特許明細書の段落【0016】に「また、防汚層の厚みが0.05μm以下であると、透光性部材の表面硬度を低下させてしまうおそれも少ない。」と記載されていることからすれば、防汚層を設けた場合には、表面硬度が低下するのが通常であると考えられるから、刊行物1に記載された時計用カバーガラスの表面に、刊行物2?6に記載されたフッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を設けた場合には、その防汚層を含めた表面のビッカース硬度(HV)が低下するものと予想するのが普通である。
よって、刊行物1の段落【0013】に「硬度が高く、耐摩耗性にも優れ、長期間携帯しても傷の入りにくい反射防止機能を有した時計用カバーガラスを提供することが可能となる」と記載されているとしても、刊行物1の時計用カバーガラスの表面に、通常では表面硬度を低下させることとなる、刊行物2ないし刊行物6に記載されたフッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を敢えて設け、防汚層を含めた表面硬度を「24000N/mm^(2)以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よつて、引用発明1において、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を含めた「表面硬度」が、24000N/mm^(2)以上となるものとし、上記相違点2に係る本件訂正発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、本件訂正発明4は、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正発明5
本件訂正発明5は、本件訂正発明4において、(防汚層を含んだ)表面硬度の範囲をさらに限定し、「表面硬度が、30000N/mm^(2)以上である」とした発明であるから、本件訂正発明4について述べたのと同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明1ないし5における「フッ素含有有機ケイ素化合物」について、「アルコキシシラン化合物である」との限定を付加した発明である。
これに対し、刊行物2に記載された技術の一般式(1)の「R^(1)は水酸基または加水分解可能な基」、あるいは一般式(2)の「Wは加水分解性基」として、「-OCH_(3) 、-OC_(2) H_(5) 」、「メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基」を用いることは、刊行物5、刊行物6に記載されている。また、刊行物4には、撥水性、非粘着性、透視性にすぐれた皮膜を形成するための溶液として「CF_(3)(CF_(2))_(7)(CH_(2))_(2)Si(OMe)_(3)等の弗素原子を有するシラン化合物」が示されている。
しかし、本件訂正発明1ないし5が、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記のとおりであるから、これらの発明に上記限定を付加した本件訂正発明6についても、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件訂正発明7について
本件訂正発明7は、本件訂正発明1ないし6について、「フッ素含有有機ケイ素化合物」が、下記式(1)および(2)の少なくともいずれかで示されるパーフルオロエーテル化合物である」との限定を付加した発明である。
(なお、「下記式(1)および(2)」に対応する一般式(1)および(2)は、上記「第3 特許異議申立てについて」「1 本件発明」の請求項7に記載したとおりであるから、省略する。)
これに対し、刊行物2に記載された技術の一般式(1)、一般式(2)には、本件訂正発明7に係るフッ素含有有機ケイ素化合物(パーフルオロエーテル化合物)が示されている。
しかし、本件訂正発明1ないし6が、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記のとおりであるから、これらの発明に上記限定を付加した本件訂正発明7についても、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)本件訂正発明8について
本件訂正発明8は、本件訂正発明1ないし7の透光性部材に「防汚層の厚みが0.001?0.05μmである」との限定を付加した発明である。
これに対し、刊行物2に記載された技術には、塗膜の厚みとして「より好ましくは0.001?0.03μmの範囲」であることが示されている。
しかし、本件訂正発明1ないし7が、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記のとおりであるから、これらの発明に上記限定を付加した本件訂正発明8についても、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、本件訂正発明1ないし8の透光性部材おいて「前記積層は、当該透光性部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に形成される」との限定を付加した発明である。
これに対し、引用発明1において、SiO_(2)からなる層とSi_(3)N_(4)からなる層とを交互に積層した反射防止膜は、「サファイヤガラスからなるガラス基材のおもて面と裏面のそれぞれ」に設けられている。
しかし、本件訂正発明1ないし8が、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記のとおりであるから、これらの発明に上記限定を付加した本件訂正発明9についても、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(10)本件訂正発明10について
本件訂正発明10は、本件訂正発明1ないし9の透光性部材おいて「透光性部材は、時計用カバーガラスである」との限定を付加した発明である。
引用発明1は「時計用カバーガラス」に係る発明であるが、本件訂正発明1ないし9が、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、上記のとおりであるから、これらの発明に上記限定を付加した本件訂正発明10についても、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(11)本件訂正発明12について
本件訂正発明12は、本件訂正発明1ないし10に係る透光性部材を備え、前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる時計についての発明である。
これに対し、引用発明1に係る「時計用カバーガラス」は、通常、時計体を収容するケースに設けられるものではあるが、本件訂正発明1ないし10が、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明1ないし10に係る透光性部材を備え、前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる時計とした本件訂正発明12についても、同様の理由により、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 異議申立人の意見について
(1)異議申立人の意見
異議申立人は、上記「4 対比・判断」で述べたことに関し、意見書において、参考資料1(特開2004-21550号公報)の記載を引用しつつ、次のように意見を述べている(その他の主張については、本件訂正発明1ないし10、12の進歩性についての結論に影響しないので、省略する。)。
ア 本件訂正発明1について
(窒化ケイ素の含有量について)
刊行物1の段落【0013】、【0016】の記載より、SiO_(2)層とSi_(x)N_(y)層の膜厚を適宜設計することにより、反射防止特性と膜の耐傷性の両立を図ることが可能であることが容易に理解でき、また、参考資料1の段落【0076】の表6には、最表面層から150nmまでの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40vol%の反射防止膜が例示されているから、刊行物1において、反射防止膜の最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量を40?50vol%に調整することは、単なる設計事項に過ぎない。

イ 本件訂正発明2について
(積層数について)
成膜コストの低減を図る目的で、多少の特性を犠牲にしてでも、積層数を減少させることは一般的に行われていることであり、参考資料1の段落【0076】の表6に記載のように、4層の反射防止層も公知である。

ウ 本件訂正発明4について
(表面硬度について)
刊行物1の段落【0007】に記載のように、刊行物1は、硬度が高い反射防止機能を有する時計用カバーガラスを提供することを目的とするものであるから、刊行物1に刊行物2に記載された技術を適用する際、刊行物1の時計用カバーガラスの表面硬度をできるだけ高くし、24000N/mm^(2)以上にしようとすることは、当業者にとって容易である。
また、刊行物1には、防汚層を除く、本件特許発明4の全ての構成を有する反射防止膜と基材が開示されており、その反射防止膜の表面に刊行物2の防汚層を形成する場合にも、表面硬度を低下させないような厚みに設計することは当業者にとって当然のことである。

(2)異議申立人の意見に対する当審の判断
ア 上記「(1)」「ア 本件訂正発明1について」及び「イ 本件訂正発明2について」について
刊行物1の段落【0016】の「反射防止膜の特性は積層するSiO_(2)層とSi_(x)N_(y)層の層数、配列順序、各膜の屈折率と膜厚に大きく依存しており、仕様を満足する反射率特性をシミュレーションによって計算し、最適化することができる」との記載は、反射防止膜の特性が、各膜の膜厚や積層する層数に大きく依存するものであることを強調する記載である。そして、刊行物1では、この点を踏まえた上で、反射率曲線が吸収のない平坦になるように光学設計シミュレーションによって膜厚を最適化すると、「最表層(第1層)から100nm、70nm、30nm、20nm、20nm」という膜厚の組み合わせになること(刊行物1の段落【0018】)、及び「SiO_(2)からなる層とSi_(x)N_(y)からなる層を交互に積層し反射防止膜を作製する際」、「時計の文字板を見る角度によって生じるカバーガラスからの赤や青、紫などの反射光が見えず、殆ど無色に見えるようになり、文字板と指針の位置を容易に読みとることができるようになる」ためには、「少なくとも表面の最表層をSiO_(2) 層とした5層以上の反射防止膜が必要となる」(刊行物1の段落【0011】、【0012】)ことが記載されているのであるから、引用発明1において、最適化された膜厚を変更したり、「5層」より少ない積層数を採用したりすることは、当業者にとって、動機付けられないことである。
また、同様の理由により、参考資料1に、最表面層から150nmまでの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40vol%の、4層の反射防止層の一例が記載されているからといって、かかる一例を、より少ない積層数を採用することができない引用発明1の反射防止膜として採用することも、当業者にとって、動機付けられないことである。

イ 上記「(1)」「ウ 本件訂正発明4について」について
刊行物2ないし刊行物6には、防汚層の厚みと表面硬度との関係に着目した記載はなされていない。そして、「(4)本件訂正発明4について」「ウ」「(イ)」で述べたとおり、防汚層を設けた場合には、表面硬度が低下するのが通常であるから、時計用カバーガラスの表面硬度をできるだけ高くすることが望ましいのであれば、防汚層を設けないようにするのが普通であって、引用発明1に刊行物2ないし刊行物6に記載された防汚層を敢えて設け、しかも、防汚層の厚みを0.05μm以下とする等により、防汚層を含む表面硬度を「24000N/mm^(2)以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ウ 以上のとおり、異議申立人の意見は採用できない。

6 小括
本件訂正発明1ないし10、12は、引用発明1及び刊行物2ないし刊行物6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明1ないし10、12の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件の請求項1ないし10、12に係る特許を取り消すことができない。
本件の請求項11に係る特許は、本件訂正により、削除されため、本件特許の請求項11に対して、異議申立人今村三津子がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
また、他に本件の請求項1ないし10、12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が40?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有することを特徴とする透光性部材。
【請求項2】
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有し、
前記積層は、前記窒化ケイ素を含む層と前記酸化ケイ素を含む層とを積層して、積層数が4層であることを特徴とする透光性部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透光性部材において、
前記基材がサファイアガラスであることを特徴とする透光性部材。
【請求項4】
透光性を有する基材を備える透光性部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部には、
窒化ケイ素を含む層と、酸化ケイ素を含む層とを含む反射防止層としての積層を備え、
前記積層は、その最表面から150nmの深さまでの範囲における窒化ケイ素の含有量が30?50vol%であり、
前記積層の表面には、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む防汚層を有し、
該透光性部材の表面硬度が、24000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項5】
請求項4に記載の透光性部材において、
該透光性部材の表面硬度が、30000N/mm^(2)以上である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれかに記載の透光性部材において、
前記フッ素含有有機ケイ素化合物が、アルコキシシラン化合物である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項7】
請求項1?請求項6のいずれかに記載の透光性部材において、
前記フッ素含有有機ケイ素化合物が、下記式(1)および(2)の少なくともいずれかで示されるパーフルオロエーテル化合物である
ことを特徴とする透光性部材。
【化1】

(式中、R_(f)^(1)はパーフルオロアルキル基を示す。Xは臭素、ヨウ素または水素を示す。Yは水素または低級アルキル基を示し、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基を示す。R^(1)は加水分解可能な基を示し、R^(2)は水素または不活性な1価の炭化水素基を示す。a、b、c、d、eは0または1以上の整数で、且つa+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1または2である。gは1、2または3である。hは1以上の整数である。)
【化2】

(式中、R_(f)^(2)は式:「-(C_(k)F_(2k))O-」で示される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を示す。なお、式:「-(C_(k)F_(2k))O-」におけるkは1?6の整数である。R^(3)は炭素原子数1?8の1価炭化水素基であり、Wは加水分解性基またはハロゲン原子を示す。pは0、1または2であり、nは1?5の整数である。mおよびrは、2または3である。)
【請求項8】
請求項1?請求項7のいずれかに記載の透光性部材において、
前記防汚層の厚みが0.001?0.05μmであることを特徴とする透光性部材。
【請求項9】
請求項1?請求項8のいずれかに記載の透光性部材において、
前記積層は、当該透光性部材の内側の部分および外側の部分のうち、少なくとも外側の部分に形成されることを特徴とする透光性部材。
【請求項10】
請求項1?請求項9のいずれかに記載の透光性部材において、
該透光性部材は、時計用カバーガラスであることを特徴とする透光性部材。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
請求項1?請求項10のいずれかに記載の透光性部材を備え、
前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる
ことを特徴とする時計。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-07-27 
出願番号 特願2013-254502(P2013-254502)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫻井 仁  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 清水 稔
大和田 有軌
登録日 2015-05-29 
登録番号 特許第5750718号(P5750718)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 透光性部材、および時計  
代理人 高橋 太朗  
代理人 高田 聖一  
代理人 高田 聖一  
代理人 高橋 太朗  
代理人 大林 章  
代理人 大林 章  

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