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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C25D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C25D 審判 全部申し立て 2項進歩性 C25D |
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管理番号 | 1320200 |
異議申立番号 | 異議2015-700272 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-03 |
確定日 | 2016-08-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5728711号発明「ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤、ジンケート型亜鉛系めっき浴および亜鉛系めっき部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5728711号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第5728711号の請求項1?11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5728711号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成25年 7月31日に特許出願され、平成27年 4月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人大隅庸平により特許異議の申立てがなされ、特許権者に対して、平成28年 2月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年 4月22日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成28年 4月28日付けで訂正請求書に対する手続補正指令が通知され、その指定期間内である平成28年 5月18日に手続補正書の提出がなされたものであり、特許異議申立人に対して、平成28年 6月 2日付けで訂正請求があった旨が通知され、平成28年 7月 7日に特許異議申立人より意見書の提出がなされた。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 (1)請求項1に記載された 「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)を含む水溶性共重合体のそれぞれを含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化1】 」 を 「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)のそれぞれを含んでおり、前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である水溶性共重合体を含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化1】 」 に訂正する(以下、「訂正事項1」という)。 (2)請求項3に記載された 「前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有する、請求項1または2に記載の亜鉛系めっき浴添加剤。 【化2】 (上記式(3)中において、aは1?5の整数のいずれか、bは1?5の整数のいずれか、dは1?5の整数のいずれか、eは1?5の整数のいずれか、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、fは1?5の整数のいずれか、gは1?5の整数のいずれか、hは1?5の整数のいずれか、iは1?5の整数のいずれか、nは0?5の整数のいずれかを表す。)」 を 「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化2】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有しており、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである亜鉛系めっき浴添加剤。 【化3】 (上記式(3)中において、a、b、dおよびeはいずれも1であり、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、f、g、hおよびiはいずれも1であり、nは0?5の整数のいずれかを表す。)」 に訂正する(以下、「訂正事項2」という)。 (3)請求項4に記載された 「前記連結基(U3)を示す上記式(3)中のa、b、dおよびeはいずれも1であり、前記連結基(U4)を示す上記式(4)中のf、g、hおよびiはいずれも1である、請求項3に記載の亜鉛めっき浴添加剤。」 を 「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化4】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している亜鉛系めっき浴添加剤。 -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’)」 に訂正する(以下、「訂正事項3」という)。 (4)明細書の段落【0013】に記載された 「上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。 〔1〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)を含む水溶性共重合体のそれぞれを含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化2】 」 を 「上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。 〔1〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)のそれぞれを含んでおり、前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である水溶性共重合体を含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化2】 」 に訂正する(以下、「訂正事項4」という)。 (5)明細書の段落【0015】に記載された 「〔3〕前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有する、上記〔1〕または〔2〕に記載の亜鉛系めっき浴添加剤。 【化3】 (上記式(3)中において、aは1?5の整数のいずれか、bは1?5の整数のいずれか、dは1?5の整数のいずれか、eは1?5の整数のいずれか、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、fは1?5の整数のいずれか、gは1?5の整数のいずれか、hは1?5の整数のいずれか、iは1?5の整数のいずれか、nは0?5の整数のいずれかを表す。)」 を 「〔3〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化3】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有しており、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである亜鉛系めっき浴添加剤。 【化4】 (上記式(3)中において、a、b、dおよびeはいずれも1であり、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、f、g、hおよびiはいずれも1であり、nは0?5の整数のいずれかを表す。)」 に訂正する(以下、「訂正事項5」という)。 (6)明細書の段落【0016】に記載された 「〔4〕前記連結基(U3)を示す上記式(3)中のa、b、dおよびeはいずれも1であり、前記連結基(U4)を示す上記式(4)中のf、g、hおよびiはいずれも1である、上記〔3〕に記載の亜鉛めっき浴添加剤。」 を 「〔4〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化5】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している亜鉛系めっき浴添加剤。 -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’)」 に訂正する(以下、「訂正事項6」という)。 (7)明細書の段落【0069】に記載された 「水溶性共重合体(A1)が含みうる連結基(U3)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。」 を 「水溶性共重合体(A1)が含みうる連結基(U4)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。」 に訂正する(以下、「訂正事項7」という)。 (8)明細書の段落【0075】に記載された 「水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U3)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。」 を 「水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U4)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。」 に訂正する(以下、「訂正事項8」という)。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1における「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(・・・)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(・・・)のそれぞれを含んでおり」との訂正は、「それぞれ」が「構成単位(U1)」及び「構成単位(U2)」に掛かることを明確にするものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ 訂正事項1における「前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である」との訂正は、「構成単位(U1)」及び「構成単位(U2)」に関して、これらのモル比率を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 ウ 訂正事項1に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「水溶性共重合体(A)の一分子中に、構成単位(U1)および構成単位(U2)が含まれていてもよい。」(段落【0035】)、及び「超高電流密度部分における異常析出が発生する可能性をより安定的に低減させる観点から、水溶性共重合体(A)の一分子中に含まれる構成単位(U1)の構成単位(U2に対するモル比率は、0.5以上2以下とすることが好ましく」(段落【0036】)と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。 エ 訂正事項1は、明瞭でない記載を明確にし、また、「構成単位(U1)」及び「構成単位(U2)」に関して、これらのモル比率を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2における、請求項3の記載を、請求項1の記載事項を引用しない形に書き下す訂正は、引用している請求項1又は2の記載事項のうち、請求項1の記載事項のみを引用しない形に書き下すものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 イ 訂正事項2における「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(・・・)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(・・・)のそれぞれを含んでいる」との訂正は、「それぞれ」が「構成単位(U1)」及び「構成単位(U2)」に掛かることを明確にするものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 ウ 訂正事項2における「下記式(1)中、Xは酸素元素を表し」との訂正及び「下記式(2)中、Xは酸素元素を表す」との訂正は、「酸素元素または硫黄元素」との選択肢から、「酸素元素」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 エ 訂正事項2における「a、b、dおよびeはいずれも1であり」との訂正及び「f、g、hおよびiはいずれも1であり」との訂正は、a、b、d、e、f、g、h及びiのそれぞれが「1?5の整数のいずれか」であるとの選択肢から、a、b、d、e、f、g、h及びiのそれぞれを「1」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 オ 訂正事項2における「N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである」との訂正は、「水溶性共重合体」の「構成単位(U1)同士」、「構成単位(U2)同士」、又は「構成単位(U1)と構成単位(U2)」が、「連結基(U3)」及び/又は「連結基(U4)」を介して連結している構造を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 カ 訂正事項2に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「水溶性共重合体(A)の一分子中に、構成単位(U1)および構成単位(U2)が含まれていてもよい。」(段落【0035】)、「N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を、水溶性共重合体(A)の一種(本明細書において、「水溶性共重合体(A1)」ともいう。)を含む液体として得た。」(段落【0069】)、及び「N-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を得た。水溶性共重合体(A)の一種(本明細書において、「水溶性共重合体(A2)」ともいう。)を含む液体として得た。」(段落【0075】)と記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。 キ 訂正事項2は、上記ア?カのとおり、引用する請求項を引用しない形に書き下し、明瞭でない記載を明確にし、また、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について ア 訂正事項3における、請求項4の記載を、請求項1及び3の記載事項を引用しない形に書き下す訂正は、上記(2)アで検討したと同様に、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 イ 訂正事項3における「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(・・・)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(・・・)のそれぞれを含んでいる」との訂正は、「それぞれ」が「構成単位(U1)」及び「構成単位(U2)」に掛かることを明確にするものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 ウ 訂正事項3における「下記式(1)中、Xは酸素元素を表し」との訂正及び「下記式(2)中、Xは酸素元素を表す」との訂正は、「酸素元素または硫黄元素」との選択肢から、「酸素元素」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 エ 訂正事項3おける「下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している・・・ -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’)」との訂正は、訂正前の請求項4に記載された式(3)の「m」及び式(4)の「n」のそれぞれが「0?5の整数のいずれか」であるとの選択肢から、「m」及び「n」のそれぞれを「0」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 オ 訂正事項3に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「水溶性共重合体(A)の一分子中に、構成単位(U1)および構成単位(U2)が含まれていてもよい。」(段落【0035】)と記載されている。また、「N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を、水溶性共重合体(A)の一種(本明細書において、「水溶性共重合体(A1)」ともいう。)を含む液体として得た。」(段落【0069】)、及び「N-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を得た。水溶性共重合体(A)の一種(本明細書において、「水溶性共重合体(A2)」ともいう。)を含む液体として得た。」(段落【0075】)と記載され、「水溶性共重合体」が、「ジクロロエチルエーテル」に起因する「-CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)-」連結基、及び「エピクロルヒドリン」に起因する「-CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)-」連結基を備えることは自明な事項であるから、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。 カ 訂正事項3は、上記ア?オのとおり、引用する請求項を引用しない形に書き下し、明瞭でない記載を明確にし、また、特許請求の範囲を減縮するものであるであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4、5及び6について 訂正事項4、5及び6は、明細書の記載を特許請求の範囲の請求項1、3及び4の訂正に対応させるためのものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 また、上記(1)?(3)で検討したように、訂正事項4、5及び6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項7及び8について 訂正前の明細書段落【0069】及び【0075】には、「水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U3)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。」と記載されているところ、「f、g、hおよびi」を使用する化学式は、段落【0037】等の記載からみて、式(4)で示される「連結基(U4)」であるといえるし、また、段落【0069】及び【0075】の上記記載の直前には、「水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U3)は、a、b、dおよびeがいずれも1であった。」と「連結基(U3)」に関する記載がなされていることから、段落【0069】及び【0075】の「水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U3)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。」の「連結基(U3)」は「連結基(U4)」の誤記と認められる。 よって、訂正事項7及び8は、「誤記の訂正」を目的とするものである。 また、訂正事項7及び8は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)一群の請求項について 本件訂正請求前の請求項2?11は、請求項1を引用するものであり、本件訂正請求は一群の請求項ごとに請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号から第4号までに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 (1)本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明(以下「本件発明1?11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)のそれぞれを含んでおり、前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である水溶性共重合体を含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化1】 【請求項2】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが連結基を介して結合している部分を有する、請求項1に記載の亜鉛系めっき浴添加剤。 【請求項3】 下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化2】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有しており、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである亜鉛系めっき浴添加剤。 【化3】 (上記式(3)中において、a、b、dおよびeはいずれも1であり、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、f、g、hおよびiはいずれも1であり、nは0?5の整数のいずれかを表す。) 【請求項4】 下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化4】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している亜鉛系めっき浴添加剤。 -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’) 【請求項5】 請求項1から4のいずれか一項に記載される亜鉛めっき浴添加剤に含まれる前記水溶性共重合体および浴可溶性亜鉛含有物質を含有することを特徴とするジンケート型亜鉛系めっき浴。 【請求項6】 前記水溶性共重合体を塩化物換算含有量として0.1g/L以上50g/L以下含む、請求項5に記載のめっき浴。 【請求項7】 シアン化物を含有しない、請求項5または6に記載のめっき浴。 【請求項8】 二次光沢剤を含有する、請求項5から7のいずれか一項に記載のめっき浴。 【請求項9】 浴可溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で2g/L以上60g/L含有する請求項5から8のいずれか一項に記載のめっき浴。 【請求項10】 浴可溶性金属含有物質をさらに含有し、 当該浴可溶性金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる一種または二種以上である請求項5から9のいずれか一項に記載のめっき浴。 【請求項11】 被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた亜鉛系めっき部材の製造方法であって、 請求項5から10のいずれか一項に記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴を用いることを特徴とする亜鉛系めっき部材の製造方法。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1?11に係る特許に対して平成28年 2月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 請求項1?11に係る発明は、甲第1号証(特開2001-226793号公報)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?11に係る特許は、取り消されるべきものである。 イ 請求項1?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?11に係る特許は、取り消されるべきものである。 ウ 請求項3の式(3)中のmの値、及び、式(4)中のnの値は、発明の詳細な説明に何ら記載されていないため、請求項3?11に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項3?11に係る特許は、取り消されるべきものである。 3 甲号証の記載事項 (1)甲第1号証:特開2001-226793号公報 甲第1号証には、「アルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審が付した。以下同じ。) ア 「【0002】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、めっき外観及びめっきの均一性に優れ、かつ速度の早いアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴を提供することを目的とする。本発明は、めっき外観及びめっきの均一性に優れ、かつ速度の早いアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤を提供することを目的とする。本発明は、又、上記めっき浴を用いる効率的なめっき方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】本発明は、(a)尿素又はチオ尿素、(b)ジアルキルアミノエチルアミン及び/又はジアルキルアミノプロピルアミン及び(c)ジクロルアルキルエーテルの水溶性反応性生成物をアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤として用いると、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたのである。・・・」 イ 「【0003】 【発明の実施の形態】本発明で光沢剤として用いる(a)尿素又はチオ尿素、(b)ジアルキルアミノエチルアミン及び/又はジアルキルアミノプロピルアミン及び(c)ジクロルアルキルエーテルを反応させて得た反応性生成物は、例えば、次に示す方法により得ることができる。 (a)尿素又はチオ尿素 1モルに対して、(b)ジアルキルアミノエチルアミン及び/又はジアルキルアミノプロピルアミン2モル、及び(c)ジクロルアルキルエーテル0.5?1モルの割合で、水溶性反応生成物が得られるように温度90?170℃で1?10時間反応させるのがよい。得られた反応生成物としては、分子量が3,000?100,000程度のものが好ましく、より好ましくは10,000?50,000程度のものである。 (b)ジアルキルアミノエチルアミン及び/又はジアルキルアミノプロピルアミンとしては、それぞれのアルキル基の炭素数が1?6であるのが好ましく、より好ましくは、1?3である。具体的には、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジプロピルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミンの1種又は2種以上の混合物が好ましい。(b)としては、ジアルキルアミノエチルアミン単独又はジアルキルアミノエチルアミンとジアルキルアミノプロピルアミンの混合使用が好ましい。混合使用の場合、ジアルキルアミノエチルアミンを50モル%以上用いるのが良い。 【0004】(c)ジクロルアルキルエーテルとしては、アルキル基の炭素数が1?6であるのが好ましく、より好ましくは、1?3である。具体的には、ジクロルエチルエーテル、ジクロルプロピルエーテル、ジクロルブチルエーテルの1種又は2種以上の混合物が好ましい。 上記水溶性反応物としては、(a)と(b)とを反応させ、これに(c)を反応させるのが好ましいが、(a)と(b)と(c)とを同じに反応させてもよい。本発明では、上記水溶性反応生成物をめっき浴中に0.1?50g/L含有させるのが好ましく、より好ましくは0.5?20g/Lである。本発明のアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴は、亜鉛を溶解した形態で1?30g/L含有するのが好ましく、より好ましくは5?20g/Lである。・・・」 ウ 「【0008】・・・ 実施例3 尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを、温度120℃で4時間反応させ、分子量が200程度の反応生成物を得た(反応生成物1)。尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを、温度140℃で5時間反応させ、分子量が250程度の反応生成物を得た(反応生成物2)。反応物1 1モルと反応物2 2モルとの混合物を、ジクロルプロピルエーテル2モルと、温度140℃で5時間反応させ、分子量が30,000程度の水溶性反応生成物を得た(光沢剤B)。この光沢剤Bを2g/L、Zn 10g/L、NaOH 120g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流密度部は従来の光沢剤と同等で低電流密度部は従来の光沢剤より厚い膜厚の亜鉛めっき皮膜が得られた。」 (2)甲第2号証:特開平10-330447号公報 甲第2号証には、「フォーム性能を改善するためのポリウレタン触媒組成物」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。 ア 「【0023】実施例2 N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)の合成 1リットルの三ッ口丸底フラスコに、機械撹拌機、還流コンデンサー、窒素バブラー、及び温度制御された加熱マントルを取り付けた。フラスコに、83.96gの尿素[CH_(4)N_(2)O]及び300gのN,N-ジメチルアミノプロピルアミン[(CH_(3))_(2)NCH_(2)CH_(2)CH_(2)NH_(2)]を仕込んだ。この混合物を120℃にゆっくりと加熱しながら一定の速度で撹拌した。反応を120℃で1.5時間制御し、そして次に反応温度を140℃、160℃そして最後に180℃に上昇させた。温度は、毎回、アンモニア放出が止まった後で上昇させた。過剰のN,N-ジメチルアミノプロピルアミンを蒸留によって除去した。定量13C NMRは、生成物が98モル%のN,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)及び2モル%の3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)であることを示した。」 4 判断 (1)特許法第29条第1項第3号及び第2項について ア 甲第1号証に記載された発明 (ア)上記3(1)ウによれば、甲第1号証には、「分子量が30,000程度の水溶性反応生成物」からなる「光沢剤B」が記載され、「水溶性反応生成物」に関して、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モル」を「反応させ」て「反応生成物1」を得て、「尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モル」を「反応させ」て「反応生成物2」を得て、この「反応生成物1」「1モル」と「反応生成物2」「2モル」と「ジクロルプロピルエーテル2モル」とを「反応させ」て前記「水溶性反応生成物」を得ることが記載されている。また、上記3(1)アによれば、上記「光沢剤B」は、「アルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤」といえる。 これら記載を整理すると、甲第1号証には、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを反応させて反応生成物1を得て、尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを反応させて反応生成物2を得て、前記反応生成物1 1モルと反応生成物2 2モルとジクロルプロピルエーテル2モルとを反応させて得られた、分子量が30,000程度の水溶性反応生成物からなるアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「分子量が30,000程度の水溶性反応生成物」、「アルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤」は、それぞれ、本件発明1の「水溶性共重合体」、「亜鉛系めっき浴添加剤」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、「水溶性共重合体を含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤」で一致し、以下の点で相違している。 (相違点1) 本件発明1の「水溶性共重合体」は、「下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)のそれぞれを含んでおり、前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である・・・ 【化1】 」 ことが特定されているのに対して、甲1発明の「水溶性共重合体」は、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを反応させて反応生成物1を得て、尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを反応させて反応生成物2を得て、前記反応生成物1 1モルと反応生成物2 2モルとジクロルプロピルエーテル2モルとを反応させて得られた」ことは特定されているが、具体的な構造単位は明示されていない点。 (イ)上記相違点1について検討すると、上記3(2)アによれば、甲第2号証には、「尿素[CH_(4)N_(2)O]」1.4mol(=83.96[g]/尿素の分子量60.06[g/mol])及び「N,N-ジメチルアミノプロピルアミン[(CH_(3))_(2)NCH_(2)CH_(2)CH_(2)NH_(2)]」2.93mol(=300[g]/102.18[g/mol])の反応により、「98モル%のN,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)及び2モル%の3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」が得られることが記載されているから、尿素1molとN,N-ジメチルアミノアルキルアミン2molとの反応により、N,N′-ビス(ジメチルアミノアルキル)尿素(II)と少量のジメチルアミノアルキル尿素(I)が得られることは技術常識であるといえる。 (ウ)上記技術常識を考慮すると、甲1発明において、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを反応させて」得られた「反応生成物1」は、「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)と少量の2-ジメチルアミノエチル尿素(I)」からなっているといえ、また、「尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを反応させて」得られた「反応生成物2」は、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)と少量の3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」からなっているといえる。 そして、甲1発明の「水溶性共重合体」は、「前記反応生成物1 1モルと反応生成物2 2モルとジクロルプロピルエーテル2モルとを反応させて得られた」ものであるから、「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)」と「2-ジメチルアミノエチル尿素(I)」を合わせて1モル、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)」と「3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」を合わせて2モル、「ジクロルプロピルエーテル」を1モルで反応させて得られた「水溶性共重合体」であるといえ、甲1発明の「水溶性共重合体」は、「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)」に由来する構造を1モル未満、「2-ジメチルアミノエチル尿素(I)」に由来する構造を1モル未満、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)」及び「3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」に由来する構造を2モルの比率で含んでいるといえる。 (エ)上記(ウ)で検討した「水溶性共重合体」の「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)」に由来する構造は、本件発明1の式(2)のXが酸素である場合の構造に相当する。また、「2-ジメチルアミノエチル尿素(I)」に由来する構造は、本件発明1の式(2)と異なっており、式(1)のXが酸素であり、Zが2である場合の構造に相当する。さらに、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)」及び「3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」に由来する構造は、プロピレン基を有しているため、本件発明1の式(2)と異なっており、式(1)のXが酸素であり、Zが3である場合の構造に相当する。 したがって、甲1発明の「水溶性共重合体」は、「式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)」を2モル超え、「式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)」を1モル未満の比率でそれぞれ含んでいるといえ、「構成単位(U1)の構成単位(U2)に対するモル比率」は2を超えている(=2モル超え/1モル未満)から、甲1発明において、「構成単位(U1)の構成単位(U2)に対するモル比率」は「0.5以上2以下」であるとはいえない。 (オ)また、上記3(1)イによれば、甲第1号証には、「ジアルキルアミノエチルアミンとジアルキルアミノプロピルアミンの混合使用が好ましい。混合使用の場合、ジアルキルアミノエチルアミンを50モル%以上用いるのが良い。」と記載されていることから、甲第1号証には、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを反応させて」得られた「反応生成物1」を「尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを反応させて」得られた「反応生成物2」より多くすること、すなわち、「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)」に由来する構造である「構成単位(U2)」を、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)」及び「3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」に由来する構造である「構成単位(U1)」より多くすることは示唆されている。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0036】に記載されているように、本件発明1は、「超高電流密度部分における異常析出が発生する可能性をより安定的に低減させる」ために、「構成単位(U1)の構成単位(U2)に対するモル比率」を「0.5以上2以下」に特定しているところ、甲第1号証には、超高電流密度部分における異常析出の発生を低減するとの作用効果について記載されておらず、また、当該作用効果が技術常識ともいえないので、甲1発明において、「超高電流密度部分における異常析出が発生する可能性をより安定的に低減させる」ために、「構成単位(U1)の構成単位(U2)に対するモル比率」を「0.5以上2以下」とすることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 また、甲第2号証にも、「亜鉛系めっき浴添加剤」の「水溶性共重合体」の「構成単位(U1)の構成単位(U2)に対するモル比率」を「0.5以上2以下」とすることは記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1は、当該特定事項を備えることにより、「超高電流密度部分における異常析出が発生する可能性をより安定的に低減させる」という顕著な効果を奏するものである。 (カ)以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるもいえないし、また、甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 本件発明3について (ア)本件発明3と甲1発明とを対比すると、「水溶性共重合体」に関して、本件発明3は、「N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの」であるのに対して、甲1発明は、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを反応させて反応生成物1を得て、尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを反応させて反応生成物2を得て、前記反応生成物1 1モルと反応生成物2 2モルとジクロルプロピルエーテル2モルとを反応させて得られた」のものである点で相違している(以下、「相違点2」という。)。 (イ)上記相違点2について検討すると、上記イ(ウ)で検討したとおり、甲1発明の「反応生成物1」は、「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)」と「2-ジメチルアミノエチル尿素(I)」からなっているといえ、また、「反応生成物2」は、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)」と「3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」からなっているといえるから、甲1発明の「水溶性共重合体」は、「N,N′-ビス(2-ジメチルアミノエチル)尿素(II)」、「2-ジメチルアミノエチル尿素(I)」、「N,N′-ビス(3-ジメチルアミノプロピル)尿素(II)」、「3-ジメチルアミノプロピル尿素(I)」及び「ジクロルプロピルエーテル」を反応させて得られたのものといえる。 しかしながら、甲1発明には、「エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテル」を用いていないから、本件発明3は甲1発明といえない。 (ウ)また、連結基となり得る化合物に関して、上記3(1)イによれば、甲第1号証には、「ジクロルプロピルエーテル」に代えて「ジクロルエチルエーテル」を用いることは示唆されている。しかしながら、甲第1号証は、「エピクロルヒドリン」を使用することは、記載も示唆もされていない。 そして、甲第2号証にも、「亜鉛系めっき浴添加剤」の「水溶性共重合体」の連結基となり得る化合物として「エピクロルヒドリン」を使用することは、記載も示唆もされておらず、これら事項が技術常識であるともいえない。 そして、本件発明3は、当該特定事項を備えることにより、「超高電流密度部分においても以上析出が生じにくい」という顕著な効果を奏するものである。 (エ)以上のとおり、本件発明3は、甲1発明であるもいえないし、また、甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 本件発明4について (ア)本件発明4と甲1発明とを対比すると、「水溶性共重合体」に関して、本件発明4は、「下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している・・・ -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’)」 を有しているのに対して、甲1発明は、「尿素1モルとジメチルアミノエチルアミン2モルを反応させて反応生成物1を得て、尿素1モルとジメチルアミノプロピルアミン2モルを反応させて反応生成物2を得て、前記反応生成物1 1モルと反応生成物2 2モルとジクロルプロピルエーテル2モルとを反応させて得られた」のものであり、「ジクロルプロピルエーテル」に由来する連結基を介している部分を備えている点で相違している(以下、「相違点3」という。)。 (イ)上記相違点3について検討すると、甲1発明は、「ジクロルプロピルエーテル」に由来する連結基を介している部分を備えているが、「エピクロルヒドリン」に由来する式(3’)で示される連結基及び「ジクロロエチルエーテル」に由来する式(4’)で示される連結基を用いていないから、本件発明4は甲1発明であるとはいえない。 (ウ)また、上記ウ(ウ)で検討したとおり、連結基となり得る化合物に関して、甲第1号証には、「ジクロルプロピルエーテル」に代えて「ジクロルエチルエーテル」を用いることは示唆されている。しかしながら、甲第1号証には、「エピクロルヒドリン」を使用することは、記載も示唆もされていない。 そして、甲第2号証にも、「亜鉛系めっき浴添加剤」の「水溶性共重合体」の連結基となり得る化合物として「エピクロルヒドリン」を使用することは、記載も示唆もされておらず、これら事項が技術常識であるともいえない。 そして、本件発明4は、当該特定事項を備えることにより、「超高電流密度部分においても以上析出が生じにくい」という顕著な効果を奏するものである。 (エ)以上のとおり、本件発明4は、甲1発明であるもいえないし、また、甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 オ 本件発明2、5?11 本件発明2は、本件発明1を更に減縮したものであるし、本件発明5?11は、本件発明1、本件発明3及び本件発明4のいずれかを更に減縮したものであるから、上記イ?エの判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるともいえないし、また、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)特許法第36条第6項第1号について ア 本件発明3について 本件発明3では、「前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有しており・・・ 【化3】 」 の点に関して、「N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである」との特定をすることで、「下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)」が、発明の詳細な説明の実施例1及び実施例2に記載されたものに特定された。 したがって、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合している。 イ 本件発明4について 本件発明4では、上記式(3)及び式(4)に関して、「下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している・・・ -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’)」との特定をすることで、発明の詳細な説明の実施例1及び実施例2に記載された「ジクロロエチルエーテル」及び「エピクロルヒドリン」に起因する連結基の構造に特定された。 したがって、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合している。 ウ 本件発明5?11について 本件発明3及び4を引用する本件発明5?11についても、上記ア及びイで検討したものと同様の理由により、特許法第36条第6項第1号の規定に適合している。 5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤、ジンケート型亜鉛系めっき浴および亜鉛系めっき部材の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤、ジンケート型亜鉛系めっき浴および亜鉛系めっき部材の製造方法に関する。 【0002】 本明細書において、亜鉛系めっきとは、亜鉛および不可避的な不純物からなる亜鉛めっきと、亜鉛および合金成分ならびに不可避的な不純物からなる亜鉛合金めっきとの総称である。ここで、亜鉛合金めっきはめっき中の亜鉛の含有量(質量%)が他の合金元素の含有量(質量%)のいずれよりも高くてもよいし、亜鉛の含有量(質量%)よりも含有量が高い合金元素が含まれていてもよい。 【背景技術】 【0003】 亜鉛系めっきからなる皮膜(本明細書において「亜鉛系めっき皮膜」ともいう。)は、自動車用の鋼板やボルトやナットなどの鋼材からなる機械部品をはじめとして、我々の身の回りの部材に対して、耐食性を向上させるなどの目的で広汎に用いられている。亜鉛-ニッケル合金、亜鉛-鉄合金、すず-亜鉛合金など、亜鉛合金めっき皮膜も、耐食性に加えて耐熱性や耐塩水性の向上などが求められる場合には、広く利用されている。 【0004】 亜鉛系めっき皮膜は、亜鉛系めっき皮膜を形成するためのめっき浴(本明細書において「亜鉛系めっき浴」ともいう。)に被めっき部材を浸漬した状態で電解を行う電気めっきにて形成される。この亜鉛系めっき浴は、アルカリ浴と酸性浴とに大別され、アルカリ浴にはシアン化物浴やジンケート型亜鉛系めっき浴、酸性浴には塩化亜鉛浴や硫酸亜鉛浴がある。求める亜鉛系めっき皮膜の硬度や光沢性、被めっき部材の形状や大きさ、作業環境などの様々な条件を勘案して、これらの亜鉛系めっき浴から適切な浴が選択されている。 【0005】 これらの亜鉛系めっき浴の中でも、ジンケート型亜鉛系めっき浴は、排水処理の負担が大きいシアン化物を使用しない上、浴組成が比較的単純で管理しやすく、プレス小物、ボルト、ナットなどにも適用できる利点があるため、好まれて工業的な実施がなされている。また、めっき皮膜の特性を向上させたり、浴の安定性を向上させたりする観点から、多くの改良型浴が開発されている。 【0006】 例えば、特許文献1には、対象物の表面の箇所ごとでの膜厚のばらつきの幅が小さい亜鉛皮膜を速やかに形成することを可能にする亜鉛めっき浴添加剤および非シアン系アルカリ性亜鉛めっき浴を提供することを目的として、下記式(i)で示される構成単位(a)および下記式(ii)で示される構成単位(b)を含む水溶性共重合体を含有する亜鉛めっき浴添加剤が開示されている。 【0007】 【化1】 【先行技術文献】 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】国際公開第2012/032643号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 特許文献1に開示された亜鉛めっき浴添加剤は、15A/dm^(2)程度までの電流密度の範囲であれば、異常析出を生じにくく、すぐれた特性を有する亜鉛めっき皮膜を形成することができる。 【0010】 ところで、めっき対象物の形状などの理由により、めっき浴中の電流密度が、局所的に50A/dm^(2)程度以上に達する場合がある。具体的には、ラックなどの引掛け治具を用いてめっきを行う場合には、引掛け治具の引掛け部の先端部のように突出した部分では、その形状的な特徴に基づき、電流密度が50A/dm^(2)程度以上となることがある。本明細書において、このような、電流密度が特に高くなる部分を、「超高電流密度部分」ともいう。 【0011】 従来技術に係る亜鉛系めっき浴では、このような局所的な超高電流密度部分では、正常なめっき皮膜が形成されず、針状結晶のような異常析出が生じやすかった。この異常析出しためっき金属は、被めっき部材から脱離しやすく、めっき浴中に分散する異物となっていた。この異物がストレーナーのようなフィルター部材により適切に回収されれば、特段の問題は生じないが、この異物が回収される前に被めっき部材の正常な析出が行われるべき部位に付着すると、付着した異物がめっき皮膜内に取り込まれ、結果的に、めっき皮膜の外観不良をもたらす場合があった。すなわち、超高電流密度部分において生じた異常析出が、めっき皮膜の外観不良の原因となる場合があった。 【0012】 本発明は、超高電流密度部分においても異常析出が生じにくいジンケート型亜鉛系めっき浴を形成しうる亜鉛系めっき浴添加剤、かかる亜鉛系めっき浴添加剤に含まれる水溶性共重合体を含有する亜鉛系めっき浴、および上記亜鉛系めっき浴を用いて形成される亜鉛系めっき部材の製造方法を提供することを目的とする。 なお、亜鉛系めっき部材とは、被めっき部材と、この被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた部材をいう。 【課題を解決するための手段】 【0013】 上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。 〔1〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)のそれぞれを含んでおり、前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である水溶性共重合体を含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化2】 【0014】 〔2〕前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが連結基を介して結合している部分を有する、上記〔1〕に記載の亜鉛系めっき浴添加剤。 【0015】 〔3〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化3】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有しており、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである亜鉛系めっき浴添加剤。 【化4】 (上記式(3)中において、a、b、dおよびeはいずれも1であり、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、f、g、hおよびiはいずれも1であり、nは0?5の整数のいずれかを表す。) 【0016】 〔4〕下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化5】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している亜鉛系めっき浴添加剤。 -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’) 【0017】 〔5〕上記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載される亜鉛めっき浴添加剤に含まれる前記水溶性共重合体および浴可溶性亜鉛含有物質を含有することを特徴とするジンケート型亜鉛系めっき浴。 【0018】 〔6〕前記水溶性共重合体を塩化物換算で0.1g/L以上50g/L以下含む、上記〔5〕に記載のめっき浴。 【0019】 〔7〕シアン化物を含有しない、上記〔5〕または〔6〕に記載のめっき浴。 【0020】 〔8〕二次光沢剤を含有する、上記〔5〕から〔7〕のいずれか一項〕に記載のめっき浴。 【0021】 〔9〕浴可溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で2g/L以上60g/L含有する上記〔5〕から〔8〕のいずれか一項に記載のめっき浴。 【0022】 〔10〕浴可溶性金属含有物質をさらに含有し、当該浴可溶性金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる一種または二種以上である上記〔5〕から〔9〕のいずれか一項に記載のめっき浴。 【0023】 〔11〕被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた亜鉛系めっき部材の製造方法であって、上記〔5〕から〔10〕のいずれかに記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴を用いることを特徴とする亜鉛系めっき部材の製造方法。 【発明の効果】 【0024】 上記の発明に係るジンケート型亜鉛系めっき浴は、超高電流密度部分においても異常析出が生じにくい。 【発明を実施するための形態】 【0025】 以下、本発明について詳しく説明する。 1.ジンケート型亜鉛系めっき浴 本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、ジンケート型のめっき浴であるから、液性はアルカリ性である。また、本実施形態の好ましい一例に係る亜鉛系めっき浴はシアン化物を含有せず、有害なシアンガスが発生しないため、作業性に優れ、環境に優しい。 【0026】 (1)金属成分 (1-1)浴可溶性亜鉛含有物質 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、浴可溶性亜鉛含有物質を含有する。本明細書において浴可溶性亜鉛含有物質とは、亜鉛系めっき皮膜として析出する亜鉛の供給源であって、亜鉛の陽イオンおよびこれを含有する浴可溶性物質からなる群から選ばれる一種または二種以上の成分をいう。本実施形態に係る亜鉛系めっき浴はジンケート型の浴であるから、めっき浴はアルカリ性である。したがって、浴可溶性亜鉛含有物質の一例はジンケートイオン([Zn(OH)_(4)]^(2-))である。 浴可溶性亜鉛含有物質をめっき浴に供給する原料物質(本発明において、「亜鉛源」ともいう。)として、酸化亜鉛が例示される。 【0027】 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴における可溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算含有量(可溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算の浴中含有量)は限定されない。この含有量が過度に少ない場合には亜鉛系めっき皮膜が析出しにくくなることから、上記の亜鉛換算含有量は2g/L以上であることが好ましく、4g/L以上であることがより好ましく、8g/L以上であることが特に好ましい。可溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算含有量が過度に多い場合には外観不良やつきまわり性の低下が生じることが懸念されるため、上記の亜鉛換算含有量は60g/L以下であることが好ましく、40g/L以下であることがより好ましく、20g/L以下であることが特に好ましい。 【0028】 (1-2)浴可溶性金属含有物質 本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、当該めっき浴が亜鉛合金めっき浴である場合には、浴可溶性金属含有物質を含有する。本明細書において浴可溶性金属含有物質とは、亜鉛合金めっき皮膜に含有される亜鉛以外の金属の供給源であって、金属元素の陽イオンおよびこれを含有する浴可溶性物質からなる群から選ばれる一種または二種以上の成分をいう。浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素として、鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンが例示される。好ましい一例において、金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる。 【0029】 浴可溶性金属含有物質をめっき浴に供給する原料物質(本発明において、「金属源」ともいう。)はその浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素が鉄である場合、すなわち、亜鉛合金めっき浴が浴可溶性鉄含有物質を含有する場合には、Fe_(2)(SO_(4))_(3)・7H_(2)O、FeSO_(4)・7H_(2)O、Fe(OH)_(3)、FeCl_(3)・6H_(2)O、FeCl_(2)・4H_(2)Oなどが鉄源として例示される。浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素がニッケルである場合、すなわち、亜鉛合金めっき浴が浴可溶性ニッケル含有物質を含有する場合には、NiSO_(4)・6H_(2)O、NiCl_(2)・6H_(2)O,Ni(OH)_(2)などがニッケル源として例示される。浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素がマンガンである場合、すなわち、亜鉛合金めっき浴が浴可溶性マンガン含有物質を含有する場合には、MnSO_(4),MnSO_(4)・H_(2)O,MnCl_(2)・4H_(2)Oなどがマンガン源として例示される。 【0030】 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴における可溶性金属含有物質の金属換算含有量は、目的とする亜鉛合金めっきの組成に応じて適宜設定される。亜鉛系めっき浴が浴可溶性鉄含有物質を含有する場合には、可溶性鉄含有物質の鉄換算含有量を5mg/L以上300mg/L以下程度とすることが例示され、10mg/L以上150mg/L以下程度とすることや、20mg/L以上70mg/L以下程度とすることが好ましい場合もある。亜鉛系めっき浴が浴可溶性ニッケル含有物質を含有する場合には、可溶性ニッケル含有物質のニッケル換算含有量を50mg/L以上10000mg/L以下程度とすることが例示され、100mg/L以上4000mg/L以下程度とすることや、200mg/L以上2000mg/L以下程度とすることが好ましい場合もある。亜鉛系めっき浴が浴可溶性マンガン含有物質を含有する場合には、可溶性マンガン含有物質のマンガン換算含有量を2g/L以上80g/L以下程度とすることが例示され、5g/L以上50g/L以下程度とすることや、10g/L以上20g/L以下程度とすることが好ましい場合もある。 【0031】 (2)添加剤成分 本実施形態に係るめっき浴は次に説明する水溶性共重合体(A)を添加剤成分として含有し、必要に応じてさらに他の添加剤成分も含有する。 【0032】 (2-1)水溶性共重合体(A) 本実施形態に係るめっき浴は、下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)を含む水溶性共重合体を含有する。 【化6】 【0033】 本明細書において、かかる水溶性共重合体を水溶性共重合体(A)ともいう。水溶性共重合体(A)の一分子に含まれる構成単位(U1)および構成単位(U2)は、それぞれ、一種類であってもよいし、複数種類から構成されていてもよい。複数種類の場合における各種の配列は限定されず、一種類が連続的に配置されている部分を備えてもよいし、各種がランダムに配置されていてもよい。 【0034】 水溶性共重合体(A)の一分子に含まれるXはすべてが硫黄元素または酸素元素であってもよいし、硫黄元素および酸素元素を含んでいてもよい。水溶性共重合体(A)の一分子がXとして硫黄元素および酸素元素を含む場合において、いずれか一方の元素を有する部分が連続的に配置されている部分を備えてもよいし、それぞれの元素を有する部分がランダムに配置されていてもよい。 【0035】 水溶性共重合体(A)は、構成単位(U1)と構成単位(U2)とが連結基を介して結合している部分を有していてもよい。すなわち、水溶性共重合体(A)の一分子中に、構成単位(U1)および構成単位(U2)が含まれていてもよい。 【0036】 水溶性共重合体(A)の一分子中に、構成単位(U1)および構成単位(U2)が含まれている場合において、それらの含有比率は特に限定されない。超高電流密度部分における異常析出が発生する可能性をより安定的に低減させる観点から、水溶性共重合体(A)の一分子中に含まれる構成単位(U1)の構成単位(U2に対するモル比率は、0.5以上2以下とすることが好ましく、0.7以上1.5以下とすることがより好ましく、0.8以上1.25以下とすることが特に好ましい。 【0037】 水溶性共重合体(A)は、構成単位(U1)同士、構成単位(U2)同士、または構成単位(U1)と構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有してもよい。 【化7】 【0038】 ここで、上記式(3)中において、aは1?5の整数のいずれか、bは1?5の整数のいずれか、dは1?5の整数のいずれか、eは1?5の整数のいずれか、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、fは1?5の整数のいずれか、gは1?5の整数のいずれか、hは1?5の整数のいずれか、iは1?5の整数のいずれか、nは0?5の整数のいずれかを表す。 【0039】 水溶性共重合体(A)の一具体例として、上記の連結基(U3)を示す上記式(3)中のa、b、dおよびeがいずれも1であって、連結基(U4)を示す上記式(4)中のf、g、hおよびiがいずれも1である場合が挙げられる。 【0040】 上記の水溶性共重合体(A)は、亜鉛めっき浴においても、亜鉛合金めっき浴においても、優れた添加剤として機能することができる。すなわち、構成単位(U2)の2つのエタンジイル基(-CH_(2)-CH_(2)-)がそれぞれn-プロパンジイル基(-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-)である水溶性共重合体に比べて、超高電流密度部分において異常析出が発生しにくいめっき浴とすることができる。また、構成単位(U2)を有さず構成単位(U1)のみを部分構造として有する水溶性共重合体に比べて、厚さの電流密度依存性が低いめっき皮膜を得ることができる。上記の異常析出の発生をより安定的に抑制する観点から、構成単位(U1)のzは3であること、すなわち、n-プロパンジイル基を有する構成単位であることが好ましい。 【0041】 本実施形態に係る水溶性共重合体(A)は、構成単位(U1)および構成単位(U2)を含有することに基づき、カチオン性の共重合体である。水溶性共重合体(A)を亜鉛系めっき浴に添加する際の形態は特に限定されない。固体の成分として添加されてもよいし、液体の成分として添加されてもよい。一具体例として、カウンターアニオンも含む液体の成分として添加される場合が例示される。この場合において、カウンターアニオンの種類も特に限定されない。塩化物イオンなどのハロゲンイオンが具体例として挙げられる。なお、ハロゲンイオンの中でもフッ化物イオンは、取り扱い性を低下させ、廃液処理の負荷を増大させるおそれがあるため、使用しないことが好ましい。 【0042】 本実施形態に係る水溶性共重合体(A)の亜鉛系めっき浴中含有量も特に限定されない。水溶性共重合体(A)の添加量が過度に少ない場合には添加させたことの効果が適切に得られにくくなり、水溶性共重合体(A)の添加量が過度に多い場合には経済的観点、廃液処理の観点等の観点から不利益が生じる場合があり、さらに好ましくない効果が得られるおそれも高まることを考慮して、適宜設定すればよい。好ましい範囲について具体例として示せば、亜鉛系めっき浴が亜鉛めっき浴である場合には、水溶性共重合体(A)の浴中含有量を塩化物換算で(水溶性共重合体(A)の全てのカチオンに対して塩化物イオンが対応して存在しているとした場合における含有量として)0.1g/L以上50g/L以下とすることが挙げられ、浴中含有量を水溶性共重合体(A)の塩化物換算で0.5g/L以上20g/L以下とすることがより好ましい。めっき浴が亜鉛合金めっき浴である場合には、水溶性共重合体(A)の浴中含有量を塩化物換算で0.1g/L以上20g/L以下とすることが挙げられる。 【0043】 本実施形態に係る水溶性共重合体(A)の製造方法は特に限定されない。一例を挙げれば、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素またはN-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、およびN,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素を、ジハロゲン化エチルエーテルおよびエピハロヒドリンにて縮重合させることにより、水溶性共重合体(A)を含む組成物を得ることができる。 【0044】 (2-2)その他の添加剤成分 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、上記の水溶性共重合体(A)以外の添加剤成分を含有してもよい。そのような添加剤成分または亜鉛系めっき浴中で添加剤成分を与える材料として、次のようなものが例示される。 【0045】 i)一次光沢剤 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、添加剤成分の一種として一次光沢剤を含有してもよい。かかる一次光沢剤の例として、各種亜鉛めっき浴に使用されるアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、ポリアミン化合物および水溶性カチオン高分子化合物などの水溶性の有機化合物などを挙げることができる。 このポリアミン化合物および水溶性カチオン高分子化合物として、ポリアリルアミン、ポリエポキシポリアミン、ポリアミドポリアミン、およびポリアルキレンポリアミン、などが例示される。前述の化合物(Z)も一次光沢剤の一種に位置付けられる。 【0046】 ポリアリルアミンの具体例として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄の共重合体などが挙げられる。ポリエポキシポリアミンの具体例として、エチレンジアミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、ジメチルアミノプロピルアミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、イミダゾールとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、1-メチルイミダゾールや2-メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体とエピクロルヒドリンとの縮合重合体、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のトリアジン誘導体などを含む複素環状アミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体などが挙げられる。ポリアミドポリアミンの具体例として、3-ジメチルアミノプロピル尿素とエピクロルヒドリンとの縮合重合体、ビス(N,N-ジメチルアミノプロピル)尿素とエピクロルヒドリンとの縮合重合体等のポリアミンポリ尿素樹脂、N,N-ジメチルアミノプロピルアミンとアルキレンジカルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合重合体等の水溶性ナイロン樹脂などが挙げられる。また、ポリアルキレンポリアミンの具体例として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミンと2,2’-ジクロルジエチルエーテルとの縮合重合体、ジメチルアミノプロピルアミンと1,3-ジクロルプロパンとの縮合重合体、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパンと2,2’-ジクロルジエチルエーテルとの縮合重合体、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパンと1,4-ジクロルブタンとの縮合重合体、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパンと1,3-ジクロルプロパン-2-オールとの縮合重合体などが挙げられる。 【0047】 一次光沢剤の亜鉛系めっき浴中含有量は限定されない。一次光沢剤の種類や、被めっき部材の形状、めっき条件などを勘案して適宜設定すればよい。一例を挙げれば、一次光沢剤の含有量は0.1g/L以上100g/L以下とすることが好ましく、0.5g/L以上20g/L以下とすることがより好ましい。 【0048】 ii)二次光沢剤 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、添加剤成分の一種として二次光沢剤を含有してもよい。特に、光沢性の向上などの観点からは、二次光沢剤として、芳香族アルデヒドおよびピリジニウム化合物のうち少なくとも一方を含有してもよい。 二次光沢剤として機能することができる芳香族アルデヒドとしては、アニスアルデヒド、ベラトルアルデヒド、サリチルアルデヒド、バニリン、ピペロナール、およびp-ヒドロキシベンズアルデヒドなどを挙げることができる。光沢性の向上と亜鉛系めっき浴に含有される化合物の安定性の観点から、二次光沢剤として含有されることが好ましい芳香族アルデヒドとして、ベラトルアルデヒド、およびバニリンが例示される。 【0049】 二次光沢剤として機能することができるピリジニウム化合物としては、ベンジルピリジニウムカルボキシレート(塩化3-カルボキシベンジルピリジニウム)、および塩化3-カルバモイルベンジルピリジニウムなどを挙げることができる。 【0050】 これらのピリジニウム化合物の中でも、4級アミノ基を有するピリジニウム化合物が好ましい。以下、このピリジニウム化合物を「ピリジニウム化合物(α)」ともいう。ピリジニウム化合物(α)はポリカチオン化合物であり、亜鉛系めっき浴中で加水分解されたりめっき析出のための電解処理によって電気分解されたりしても、この化合物の分解物や重合体が可溶性を維持することができるため、めっき浴中に不溶性物質が発生しにくく、不溶性物質の被めっき面への吸着に基づくめっき皮膜の外観不良が生じにくい。また、一次光沢剤と同等の機能をも示す場合があり、そのような場合には、ピリジニウム化合物(α)単独で、亜鉛系めっき皮膜の均一電着性を高めるとともに皮膜の光沢度を高めることができる。 【0051】 ピリジニウム化合物(α)の亜鉛系めっき浴への添加量は特に限定されない。ピリジニウム化合物(α)の具体的な構造や亜鉛系めっき浴の組成などに応じて適宜設定されるべきものである。亜鉛系めっき浴中の上記のピリジニウム化合物の浴中含有量を0.05g/L以上5g/L以下とすることが、ピリジニウム化合物(α)の具体的な構造や亜鉛系めっき浴の組成がどのような場合であっても所望の効果を得ることができることが多いため好ましく、0.1g/L以上3g/L以下とすることがより好ましい。 【0052】 iii)めっき促進剤 「めっき促進剤」とは、めっき金属の析出を促進させる機能を有するものであって、被めっき面に吸着してその吸着した領域近傍で金属イオンの還元反応が生じることを促進しているものと推測される。 そのようなめっき促進剤として、チアジアゾール骨格を有する化合物であるチアジアゾール化合物が例示される。チアジアゾール骨格に含まれる3つの硫黄が被めっき面に化学吸着し、この化学吸着した領域での金属イオンの還元反応を促進している可能性がある。チアジアゾール化合物の具体例として、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-チオ酢酸-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジチオ酢酸-1,3,4-チアジアゾール、2-ヒドロキシエチルチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジヒドロキシエチルチオ-1,3,4-チアジアゾール、エピクロルヒドリン改質2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、ビス(1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジイル)などが挙げられる。 【0053】 めっき促進剤の亜鉛系めっき浴中含有量は限定されない。めっき促進剤の種類や、被めっき部材の形状、めっき条件などを勘案して適宜設定すればよい。一例を挙げれば、めっき促進剤の含有量は0.1g/L以上100g/L以下とすることが好ましく、0.5g/L以上20g/L以下とすることがより好ましい。 【0054】 iv)キレート剤 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、キレート剤を含有してもよい。 キレート剤の具体例として、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、エチレンジアミン、ヘキサミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、トリアミノトリエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミノプロピルアミン、2-ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、1,3-ビス-(3-アミノプロポキシ)エタン、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)などが例示される。このキレート剤は、例えばジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのポリアミン化合物のように、一次光沢剤としての機能も有するキレート剤であってもよい。なお、キレート剤がカルボン酸など酸の部分構造を有する場合には、キレート剤はフリーの酸の形態として亜鉛系めっき浴に添加されてもよいし、ナトリウム塩などの塩の形態として添加されてもよい。あるいは、アルカリ性である亜鉛合金めっき浴中で加水分解されることにより酸イオンを形成しうる誘導体(例えばエステル)の形態で亜鉛系めっき浴に添加されてもよい。 【0055】 キレート剤の亜鉛系めっき浴中含有量は限定されない。キレート剤の種類や、被めっき部材の形状、めっき条件などを勘案して適宜設定すればよい。一例を挙げれば、キレート剤の含有量は0.1g/L以上100g/L以下とすることが好ましく、0.5g/L以上20g/L以下とすることがより好ましい。 【0056】 v)その他 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、上記の成分以外の添加剤成分を含有してもよい。そのような添加剤成分として、酸化防止剤、消泡剤、金属封鎖剤などが例示される。 酸化防止剤として、フェノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ピロガロール等のヒドロキシフェニル化合物や、L-アスコルビン酸、ソルビトール等が例示される。なお、上記のキレート剤が還元性物質である場合には、そのキレート剤が酸化防止剤の機能を有しているため、酸化防止剤を含有させなくともよい。 消泡剤として、シリコーン系消泡剤や、界面活性剤、ポリエーテル、高級アルコール等の有機系消泡剤が例示される。 金属封鎖剤として、珪酸塩(具体例としてケイ酸ナトリウムが挙げられる。)、シリカ(具体例としてコロイダルシリカが挙げられる。)などが例示される。金属封鎖剤の亜鉛系めっき浴中含有量は限定されない。金属封鎖剤の種類や、溶媒の組成などを勘案して適宜設定すればよい。一例を挙げれば、金属封鎖剤の含有量は0.1g/L以上100g/L以下とすることが好ましく、0.5g/L以上20g/L以下とすることがより好ましい。キレート剤が金属封鎖剤としての機能を有する場合もある。 【0057】 (3)溶媒、液性 本実施形態に係るめっき浴の溶媒は水を主成分とする。水以外の溶媒としてアルコール、エーテル、ケトンなど水への溶解度が高い有機溶媒を混在させてもよい。この場合には、めっき浴全体の安定性および廃液処理への負荷の緩和の観点から、その比率は全溶媒に対して10体積%以下とすることが好ましい。 【0058】 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴はジンケート型のめっき浴であるから、アルカリ性である。めっき浴をアルカリ性とするために用いられる材料(本明細書において「アルカリ成分」ともいう。)の種類は特に限定されない。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物など公知の材料を用いればよい。 【0059】 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に含まれるアルカリ成分の含有量は特に限定されない。過度に少ない場合には亜鉛系めっき浴の液性をアルカリ性とすることができず、めっき浴中でジンケートイオンを生成することが困難となる。一方、アルカリ成分の含有量が過度に高い場合には、亜鉛系めっき浴の安定性が低下して、得られる亜鉛系めっき皮膜の外観が低下したり付き廻り性が低下したりすることが懸念される。したがって、亜鉛系めっき浴に含まれるアルカリ成分の浴中含有量は、水酸化ナトリウム換算で40g/L以上400g/L以下とすることが好ましく、80g/L以上250g/L以下とすることがより好ましく、100g/L以上200g/L以下とすることが特に好ましい。 【0060】 (4)調製方法 本実施形態に係る亜鉛系めっき浴の調製方法は特に限定されない。亜鉛系めっき浴が亜鉛めっき浴の場合には、アルカリ成分、亜鉛源および浴中で水溶性共重合体(A)を与える成分(水溶性共重合体(A)の塩化物などが例示され、以下、「水溶性共重合体(A)源」ともいう。)、ならびに必要に応じ任意添加成分として前述のその他の添加剤成分などを水などの溶媒に溶解させることによって調製することができる。亜鉛合金めっき浴の場合には、アルカリ成分、亜鉛源、金属源および水溶性共重合体(A)源、ならびに必要に応じ任意添加成分として前述のその他の添加剤成分などを溶媒に溶解させることによって調製することができる。通常は、溶媒にアルカリ成分を添加し、続いて他の成分を添加することによって、作業性を低下させることなくかつ安全に亜鉛系めっき浴を調製することができる。 【0061】 2.ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤 本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤は、上記の本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に含有される添加剤成分を含有する。すなわち、本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤は水溶性共重合体(A)を含有し、必要に応じ、さらに、一次光沢剤、二次光沢剤、めっき促進剤などの前述の他の添加剤成分を含有する。 【0062】 本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤における水溶性共重合体(A)の含有量は特に限定されない。水溶性共重合体(A)の塩化物など水溶性共重合体(A)源は溶解度が高いため、10g/L程度まで浴中含有量を高めることができる。 本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤が水溶性共重合体(A)以外の成分を含有する場合におけるそれらの含有量は、その添加剤の機能との関係で適宜設定されるべきものである。 【0063】 3.亜鉛系めっき部材の製造方法 亜鉛系めっき部材は、本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に被めっき部材を浸漬させ、被めっき部材をカソード(陰極)として電解を行うことによって得ることができる。被めっき部材の材質は導電性を有する限り特に限定されない。鉄系材料などの金属系材料、および樹脂系材料やセラミックス系材料などからなる導電性を有さない材料の表面に無電解めっきなどにより導電性材料からなる層が形成されたものが例示される。被めっき部材の形状も特に限定されない。板材や棒材、線材などの一次加工品、ねじ、ボルト、プレス加工品などの二次加工品が挙げられる。 なお、アノード(陽極)を構成する材料は特に限定されない。通常は、安価で入手しやすい鉄系材料が用いられる。 【0064】 電解における電流密度は特に限定されない。電流密度が過度に低い場合には得られる亜鉛系めっき皮膜の析出速度が低く生産性に劣り、電流密度が過度に高い場合には得られる亜鉛めっき皮膜の外観が劣化したり、均一電着性、付き廻り性などが低下したりすることが懸念されることを考慮して、適宜設定すればよい。生産性を高めることとめっき皮膜の品質を高めることとを両立する観点から、0.01A/dm^(2)以上30A/dm^(2)以下とすることが好ましく、0.5A/dm^(2)以上15A/dm^(2)以下とすることがより好ましく、0.5A/dm^(2)以上7A/dm^(2)以下とすることが特に好ましい。前述のように、被めっき物の形状的理由などにより局所的に電流密度が特に高くなる超高電流密度部分においても、本実施形態に係る亜鉛系めっき浴では異常析出が生じにくい。 【0065】 電解におけるめっき浴の温度(めっき浴温度)は室温程度(25℃程度)で行えばよい。めっき浴温度が過度に高い場合には、めっき外観光沢が低下し、特に低電部の光沢性が低下するめっき浴温度が過度に低い場合には、めっき皮膜の析出速度が低下するなど生産性に悪影響を及ぼすことが懸念される。 【0066】 電解時間(めっき時間)は、めっき浴の組成、上記の電流密度、めっき浴温度などによって決定されるめっき皮膜の析出速度と求めるめっき皮膜の厚さとから適宜設定される。 【0067】 めっき設備の構成は特に限定されない。板状または棒状のアノードに対向するようにカソードとしての被めっき部材を亜鉛系めっき浴中に配置し、亜鉛系めっき浴内で液攪拌を適宜行いながら電解して被めっき部材に亜鉛系めっき皮膜を形成してもよいし、ボルトなどの被めっき部材がその内部に入っているバレルを亜鉛系めっき浴中に浸漬させ、バレルを回転させながら電解を行うことで被めっき部材に亜鉛系めっき皮膜を形成してもよい。 【実施例】 【0068】 以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 【0069】 1.亜鉛系めっき浴の調製および亜鉛系めっき皮膜を有する部材の作製 [実施例1] (1)水溶性共重合体(A1)の塩化物の製造 N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を、水溶性共重合体(A)の一種(本明細書において、「水溶性共重合体(A1)」ともいう。)を含む液体として得た。以下、上記の液体を「液体(A1)」ともいう。水溶性共重合体(A1)が含む構成単位(U1)は、上記式(1)において、Xが酸素元素であってzが2であった。水溶性共重合体(A1)が含む構成単位(U2)は、上記式(2)において、Xが酸素元素であった。水溶性共重合体(A1)が含みうる連結基(U3)は、a、b、dおよびeがいずれも1であった。水溶性共重合体(A1)が含みうる連結基(U4)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。 【0070】 (2)亜鉛めっき浴の調製 亜鉛源としての酸化亜鉛を、これに由来する浴可溶性亜鉛含有物質のめっき浴中の亜鉛換算含有量が10g/Lとなる量、アルカリ成分としての水酸化ナトリウムを、めっき浴1Lあたりの溶解量が120gとなる量、液体(A1)を、めっき浴中の水溶性共重合体(A1)の塩化物換算含有量が1g/Lとなる量、および補助光沢剤としてメタスZES-V(ユケン工業(株)製)を1ml/L含有するアルカリ性のジンケート型亜鉛めっき浴を調製した。 【0071】 (3)亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材の作製 ハルセル試験器(山本めっき試験器社製)を用意した。この試験器のめっき槽内の所定の位置に、縦45mm、横45mm、厚さ1mmのアノードとしての鉄板、および縦67mm、横100mm、厚さ0.3mmの被めっき部材(カソード)としての冷間圧延鋼板(SPCC)を配置した。めっき槽内に上記のめっき浴を液面が所定の高さとなるまで入れた。アノードおよびカソードをめっき電源に接続し、次の条件1から条件3のいずれかの条件にて電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を3つ得た。 【0072】 (条件1) 電流:4A 通電時間:5分 めっき浴温度:25℃ めっき面積の調整:電流密度を高めるために、アノード鉄板のめっき面積を通常ハルセルの1/4の面積(縦方向の長さを1/4とした。)としてめっきを行った。 上記の電流では、カソードの電流密度は80A/dm^(2)から2A/dm^(2)の範囲であった。 【0073】 (条件2) 電流:2A 通電時間:20分 めっき浴温度:25℃ 上記の電流では、カソードの電流密度は10A/dm^(2)から0.2A/dm^(2)の範囲であった。 【0074】 (条件3) 電流:0.5A 通電時間:20分 めっき浴温度:25℃ 上記の電流では、カソードの電流密度は2.5A/dm^(2)から0.1A/dm^(2)の範囲であった。 【0075】 [実施例2] N-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を得た。水溶性共重合体(A)の一種(本明細書において、「水溶性共重合体(A2)」ともいう。)を含む液体として得た。以下、上記の液体を「液体(A2)」ともいう。水溶性共重合体(A2)が含む構成単位(U1)は、上記式(1)において、Xが酸素元素であってzが3であった。水溶性共重合体(A2)が含む構成単位(U2)は、上記式(2)において、Xが酸素元素であった。水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U3)は、a、b、dおよびeがいずれも1であった。水溶性共重合体(A2)が含みうる連結基(U4)は、f、g、hおよびiがいずれも1であった。 以下、液体(A1)に代えて液体(A2)を用いて、実施例1と同様の操作を行って、浴可溶性亜鉛含有物質および水溶性共重合体(A2)を含有するアルカリ性のジンケート型亜鉛めっき浴を調製した。かかるジンケート型亜鉛めっき浴を用いて、実施例1に示される3種の異なるめっき条件で電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を3つ得た。 【0076】 [比較例1] N-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素1molと、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素1molとを、フラスコに入れ撹拌し、エピクロルヒドリン1molおよびジクロロエチルエーテル1molをさらにフラスコに入れて、これらの重縮合反応物を含む液体を得た。この液体は、水溶性共重合体(A2)と類似した構造であるが、水溶性共重合体(A2)に含まれる構成単位(U1)の2つのエタンジイル基がいずれもn-プロパンジイル基に変更された構造を有する水溶性共重合体(本明細書において、「水溶性共重合体(B1)」ともいう。)を含有する。以下、この液体を「液体(B1)」ともいう。 亜鉛源としての酸化亜鉛を、これに由来する浴可溶性亜鉛含有物質のめっき浴中の亜鉛換算含有量が10g/Lとなる量、アルカリ成分としての水酸化ナトリウムを、めっき浴1Lあたりの溶解量が120gとなる量、液体(B1)を、めっき浴中の水溶性共重合体(B1)の塩化物換算含有量が1g/Lとなる量、および補助光沢剤としてメタスZES-V(ユケン工業(株)製)を1ml/L含有するアルカリ性のジンケート型亜鉛めっき浴を調製した。 以下、かかるジンケート型亜鉛めっき浴を用いて、実施例1に示される3種の異なるめっき条件で電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を3つ得た。 【0077】 2.評価 (1)異常析出の発生およびその程度の評価 実施例1および2ならびに比較例1において条件1のめっき条件にて作製した亜鉛系めっき部材における、めっき槽内に配置されていた際にめっき液高さの1/2に相当する位置のめっき皮膜の表面を目視にて観察して、異常析出の発生の有無を確認した。異常析出が発生している場合には、異常析出が析出している領域の高電流密度側端部からの距離を測定した。 【0078】 (2)めっき膜厚分布 実施例1および2ならびに比較例1において条件2のめっき条件にて作製した亜鉛系めっき部材における、めっき槽内に配置されていた際にめっき液高さの1/2に相当する位置のめっき皮膜の厚さ(単位:μm)を、高電流密度側端部から10mm、50mm、80mmの位置で、蛍光X線膜厚計(SII社製:SFT-9200)により測定した。 【0079】 (3)めっき皮膜の外観の観察 実施例1および2ならびに比較例1において条件2のめっき条件にて作製した亜鉛系めっき部材における、めっき槽内に配置されていた際にめっき液高さの1/2に相当する位置のめっき皮膜の表面を目視にて観察して、次の基準で評価した。 A:全面光沢外観 B:高電流密度部から中電流密度部光沢外観であるが、低電流密度部に曇った外観を有する C:高電流密度部から中電流密度部光沢外観であるが、低電流密度部において、曇った外観を有し、さらに白く曇った外観も有する D:高電流密度部から中電流密度部光沢外観であるが、低電流密度部において、白く曇った外観を有し、さらに灰色となる外観も有する 【0080】 (4)光沢付き廻りの評価ハルセル外観を目視にて観察し、次の基準で評価した。 実施例1および2ならびに比較例1において条件3のめっき条件にて作製した亜鉛系めっき部材における、めっき槽内に配置されていた際にめっき液高さの1/2に相当する位置のめっき皮膜の表面を目視にて観察して、次の基準で評価した。 A:全面光沢外観 B:高電流密度部から中電流密度部光沢外観であるが、低電流密度部に曇った外観を有する C:高電流密度部から中電流密度部光沢外観であるが、低電流密度部において、曇った外観を有し、さらに白く曇った外観も有する D:高電流密度部から中電流密度部光沢外観であるが、低電流密度部において、白く曇った外観を有し、さらに灰色となる外観も有する 【0081】 3.結果 評価結果を表1に示す。 【表1】 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素または硫黄元素を表す。)のそれぞれを含んでおり、前記構成単位(U1)の前記構成単位(U2)に対するモル比率が0.5以上2以下である水溶性共重合体を含有することを特徴とする亜鉛系めっき浴添加剤。 【化1】 【請求項2】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが連結基を介して結合している部分を有する、請求項1に記載の亜鉛系めっき浴添加剤。 【請求項3】 下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3を表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化2】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3)で示される連結基(U3)および/または下記式(4)で示される連結基(U4)を介して連結している部分を有しており、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるもの、もしくはN-[2-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素、N,N’-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]尿素、エピクロルヒドリンおよびジクロロエチルエーテルの重縮合反応により得られるものである亜鉛系めっき浴添加剤。 【化3】 (上記式(3)中において、a、b、dおよびeはいずれも1であり、mは0?5の整数のいずれかを表す。上記式(4)中において、f、g、hおよびiはいずれも1であり、nは0?5の整数のいずれかを表す。) 【請求項4】 下記式(1)で示される構造からなる構成単位(U1)(下記式(1)中、Xは酸素元素を表し、zは2または3表す。)(ただし、下記構成単位(U2)の一部として存在する構成単位は除く。)および下記式(2)で示される構造からなる構成単位(U2)(下記式(2)中、Xは酸素元素を表す。)のそれぞれを含んでいる水溶性共重合体を含有しており、 【化4】 前記水溶性共重合体は、前記構成単位(U1)同士、前記構成単位(U2)同士、または前記構成単位(U1)と前記構成単位(U2)とが、下記式(3’)で示される連結基を介して連結している部分、および下記式(4’)で示される連結基を介して連結している部分を有している亜鉛系めっき浴添加剤。 -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)-CH_(2)- (3’) -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- (4’) 【請求項5】 請求項1から4のいずれか一項に記載される亜鉛めっき浴添加剤に含まれる前記水溶性共重合体および浴可溶性亜鉛含有物質を含有することを特徴とするジンケート型亜鉛系めっき浴。 【請求項6】 前記水溶性共重合体を塩化物換算含有量として0.1g/L以上50g/L以下含む、請求項5に記載のめっき浴。 【請求項7】 シアン化物を含有しない、請求項5または6に記載のめっき浴。 【請求項8】 二次光沢剤を含有する、請求項5から7のいずれか一項に記載のめっき浴。 【請求項9】 浴可溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で2g/L以上60g/L含有する請求項5から8のいずれか一項に記載のめっき浴。 【請求項10】 浴可溶性金属含有物質をさらに含有し、 当該浴可溶性金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる一種または二種以上である請求項5から9のいずれか一項に記載のめっき浴。 【請求項11】 被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた亜鉛系めっき部材の製造方法であって、 請求項5から10のいずれか一項に記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴を用いることを特徴とする亜鉛系めっき部材の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-07-29 |
出願番号 | 特願2013-159859(P2013-159859) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C25D)
P 1 651・ 537- YAA (C25D) P 1 651・ 113- YAA (C25D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 阿川 寛樹 |
特許庁審判長 |
鈴木 正紀 |
特許庁審判官 |
富永 泰規 宮澤 尚之 |
登録日 | 2015-04-17 |
登録番号 | 特許第5728711号(P5728711) |
権利者 | ユケン工業株式会社 |
発明の名称 | ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤、ジンケート型亜鉛系めっき浴および亜鉛系めっき部材の製造方法 |
代理人 | 大窪 克之 |
代理人 | 大窪 克之 |
代理人 | 金子 一郎 |
代理人 | 金子 一郎 |