• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 一部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1320214
異議申立番号 異議2016-700610  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-13 
確定日 2016-09-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第5843260号発明「改善された乳風味を有する食品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5843260号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5843260号の請求項1ないし6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年12月13日に特許出願され、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 雨宮理により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
カレーソース、シチューソース、デミグラスソース、及びハヤシソースからなる群より選ばれるレトルト食品の製造方法であって、
(1)1質量部の小麦粉、及び0.5質量部以上6質量部以下の澱粉を含む原料を加熱処理してルウを得ることと、
(2)チーズ及び水を含む混合物を加熱処理してチーズ調味材を得ることと、
(3)前記ルウと、前記チーズ調味材と、香辛料とを配合して、カレーソース、シチューソース、デミグラスソース、及びハヤシソースからなる群より選ばれる食品を製造することと、
(4)前記食品を容器に充填密封することと、
(5)容器に充填密封した食品にレトルト処理を施すことと、
を含むことを特徴とするレトルト食品の製造方法。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として次の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、以下の理由で請求項1に係る特許を取り消すべき旨主張している。
甲第1号証:特開平10-327823号公報
甲第2号証:特開平2001-252055号公報
甲第3号証:プロフェッショナル・チーズ読本 株式会社誠文堂新光社 2011年11月30日発行
甲第4号証:チーズ ポケットブック 株式会社旭屋出版 2006年11月22日初版発行

3-1.申立理由1
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、甲第1号証若しくは甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、又は、本件発明1は、甲第1号証若しくは甲第2号証に記載された発明に甲第3号証、甲第4号証に記載された事項を考慮することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1に係る特許を取り消すべきものである。

3-2.申立理由2
本件請求項1の工程(1)からは、食品全体に対する小麦粉、澱粉の割合を導き出すことができず、当該割合が変われば粘性等の作用効果等が変わるという出願時の技術常識に照らすと、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。よって、本件請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しており、本件請求項1に係る特許を取り消すべきものである。

3-3.申立理由3
次の(ア)及び(イ)の不備により、本件請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に違反しており、本件請求項1に係る特許を取り消すべきものである。
(ア)本件請求項1の「(2)チーズ及び水を含む混合物を加熱処理してチーズ調味材を得ること」という記載は、その意味内容が不明確であること。
(イ)本件明細書の「乳感」の定義が不明瞭であること。

4.当審の判断
先に申立理由2、3について検討する。

4-1.申立理由2について
特許異議申立人は、具体的には、本件明細書の段落0007に記載される「本発明の製造方法により得られる食品は、小麦粉の使用量が少ないため、粘性が低く、口どけが軽いものとなると共に、香辛料の香味が良好なものとなり、更に、乳感が改善されたものとなる。」という作用効果を奏するためには、本件請求項1に、食品全体に対する小麦粉、澱粉の占める割合が特定されている必要がある旨主張している。(特許異議申立書6ページ5?26行)

しかしながら、本件明細書の段落0002、0005には、次の記載がある。
「【0002】
一般に、種々の食品を製造する際に、所望の風味や味を付与するために香辛料や調味材を用いることがある。例えば、レトルトカレーの場合、小麦粉ルウ(小麦粉と油脂の焙煎物)、野菜・果実ピューレ、香辛料、調味液等の液体原料の混合物と、粉末調味料、粉末酸味料等の粉体原料の混合物とを組み合わせて煮込み、必要に応じて野菜・牛肉等の具材を加えて容器に充填し、加熱殺菌処理を行うことにより製造されている。
ここで、カレーやシチューなどのルウ入りの食品においては、小麦粉及び/又は澱粉を使用してルウを調製するが、澱粉に比較して小麦粉を多く使用したルウにより調製される食品では、コク味や旨味(小麦粉による乳様のまろやかな風味で、本明細書において「乳感」と言及する場合がある)に優れる反面、粘性が高く、口どけが重たい食感となってしまい、香辛料に由来する香味が引き出されにくいという特性がある。
一方、小麦粉の使用量を減らして澱粉を多くしたルウを用いたルウ入りの食品は、粘性が低く、口どけが軽い食感となって、香辛料に由来する香味が引き出されやすくなる反面、小麦粉による乳感は弱くなってしまう。」
「【0005】
しかしながら、特許文献1のレトルト食品の製造方法についてはルウの調製にあたって、小麦粉の使用量を減らした際の乳感の改善を目的としたものではなく、ルウの調製に当たって、小麦粉の使用量を減らした食品の製造方法であって、粘性の程度、口どけ、香辛料に由来する香味、及び乳感等のバランスに優れた食品の製造方法を提供することが依然として求められていた。
従って、本発明は、より少ない量の小麦粉を使用して得られるルウを用いる食品の製造方法であって、粘性が低く、口どけが軽い特長をもち、香辛料の香味に優れ、改善された乳感を有する食品の製造方法を提供することを目的とする。」

これによれば、本件発明1は、ルウ入りの食品において、澱粉に比較して小麦粉を多く使用した場合は、コク味や旨味に優れる反面、粘性が高く、口どけが重たい食感となってしまい、香辛料に由来する香味が引き出されにくいという特性があり、また反対に、小麦粉の使用量を減らして澱粉を多くした場合は、粘性が低く、口どけが軽い食感となって、香辛料に由来する香味が引き出されやすくなる反面、小麦粉による乳感は弱くなってしまう、という従来技術を前提として、より少ない量の小麦粉を使用して、粘性が低く、口どけが軽い特長をもち、香辛料の香味に優れ、改善された乳感を有する食品の製造方法を提供することを課題とするものである。
そうすると、本件発明1が上記課題を解決できるかは、上記従来技術と比較して評価すれば足りるのであって、特許異議申立人が主張するように、食品全体に占める小麦粉、澱粉の配合割合による効果の相違までを考慮する必要はない。
そして、本件発明1が上記課題を解決することは、発明の詳細な説明の特に段落0018に記載される実施例の内容と表1ないし表4をみれば、当業者が十分認識できるものと認められる。
例えば、まず、「口どけ、軽さ」、「香辛料の香味」、「コク味、旨み」について、実施例1ないし7と比較例2とを比べると、比較例2は、小麦粉ルウ中の小麦粉の配合割合を比較的高く(小麦粉(質量%):澱粉(質量%)が4:1)設定したものであり、相対的に低い評価結果であったのに対して、実施例1ないし7は、小麦粉及び澱粉の4つの配合パターンで小麦粉ルウ中の小麦粉の配合割合を比較的低く抑えたものであり、相対的に高い評価結果であったことが示されている。
これより、当業者であれば、本件特許1が上記「より少ない量の小麦粉を使用して、粘性が低く、口どけが軽い特長をもち、香辛料の香味に優れ」るという課題を解決することが理解できる。
次に、「乳感」については、小麦粉及び小麦澱粉の配合が同じでチーズ調味材の配合が異なる実施例1、2、6、7と比較例1、3とを比べると、チーズ調味材を加えない比較例1、3の評価結果は「3、3」であるのに対して、チーズ調味材を加えた実施例1、2、6、7は順に「5、4、3、5」と同程度以上の評価であったことが示されている。
したがって、当業者であれば、本件特許1が「より少ない量の小麦粉を使用して」、「改善された乳感を有する」という課題も解決することが理解できる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決することを当業者が認識できるように記載された範囲内のものと認められる。

以上より、特許異議申立人の上記主張は採用できず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、上記申立理由2によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

4-2.申立理由3について
(ア)特許異議申立人は、具体的には、「チーズそれ自体が所定量の水を含むものであるため、当該『チーズ及び水を含む混合物』は、その意味としてチーズそのものを含有し得るものと解される。」と主張するとともに、甲第4号証を示し、プロセスチーズがナチュラルチーズを粉砕、加熱、溶融して作られること、及び、ナチュラルチーズの一種であるカテージチーズが水分79%を含んでいることから、プロセスチーズそれ自体が、本件請求項1の「チーズ調味材」に該当する旨主張している。(特許異議申立書7ページ1?20行)

しかしながら、請求項1には「チーズ及び水を含む混合物」とチーズとは区別して水も記載されていることから、上記混合物は、チーズそのものを含まないと解することが自然である。また、本件明細書の段落0011には、次の記載がある。
「【0011】
[チーズ調味材]
本発明の食品の製造方法においては、上記のルウとともに、チーズ及び水を含む混合物を加熱して得られるチーズ調味材を配合する。
(チーズ)
ここで、チーズとは、乳及び乳製品の成分規格に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号;以下、「乳等省令」と言及することがある)に規定されるナチュラルチーズ及びプロセスチーズを指し、その種類は特に限定されるものではない。
具体的には、クリームチーズ、カッテージチーズ、クワルクチーズ、モッツァレラチーズ、ハントチーズ、カマンベールチーズ、ブリーチーズ、チルジットチーズ、ミュンスターチーズ、ブリックチーズ、ロックホールチーズ、ブルーチーズ、ゴロゴンゾーラチーズ、スチルトンチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、プロボロンチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、バルメザンチーズ、ロマーノチーズ、ホエーチーズ、及びヌシャーテルチーズ等、従来公知のチーズを挙げることができる。これらのチーズは、必要に応じて、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
本発明においては、ナチュラルチーズの粉砕物やプロセスチーズの粉砕物等を使用することが好ましい。チーズはこれを含む加工品として用いてもよい。
なお、練乳等のチーズ以外の乳製品、及び水を含む混合物を加熱して得られる調味材を使用した場合、本発明の食品に十分な乳感を付与できない場合もあり、且つ乳製品の量を増量した場合には、乳特有の風味が食品全体の風味に影響を及ぼすことがあるため、本発明では特にチーズを用いたチーズ調味材を用いる。」

上記記載によると、上記省令に規定されるナチュラルチーズ及びプロセスチーズは、チーズ調味材の混合原料となるチーズとされており、「チーズ及び水を含む混合物」に該当するものではない。そうすると、本件請求項1の「チーズ及び水を含む混合物」は、チーズそのものを含まないと解されるので、本件請求項1のチーズ調味材を得る工程は明確であると認められる。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ)特許異議申立人は、具体的には、本件発明1の効果のひとつである「乳感」について、本件特許公報の段落0002の「乳感」と同段落0018の「乳感」とで異なる記載がなされておりその定義が不明瞭であり、ひいては本件発明1が不明確である旨主張している。(特許異議申立書8ページ6?11行)

しかしながら、上記段落0002には、「小麦粉による乳様のまろやかな風味で、本明細書において『乳感』と言及する場合がある。」と記載されており、「乳感」というのは「乳様のまろやかな風味」のことと理解できる。他方、上記段落0018では、「乳様のまろやかさ、甘み(乳感)」と記載されているが、この「(乳感)」という記載は、「乳様のまろやかさ」や「甘み」をまとめて言い換えたものと解される。そして、段落0002の「乳様のまろやかな風味」の具体的な態様として、段落0018の「乳様のまろやかさ」や「甘み」が含まれることは当業者にとって明らかであるから、両者が異なる定義であるとは認められず、「乳感」の定義が不明瞭であるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、上記「乳感」の定義について、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)違反を主張しているが、本件発明1は、「乳感」を発明特定事項とするものではないし、明細書の記載を考慮しても、「乳感」の定義が本件発明1の解釈を左右するものとは認められない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

以上より、本件発明1は明確であり、上記申立理由3によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

4-3.申立理由1について

4-3-1.甲第1号証に記載された事項
(1A)「【0020】
【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
1.原料の仕込み
(1)小麦粉ルウ原料
油脂(ヘット及びラード)、小麦粉及びコーンスターチを使用した。
(2)水系原料
融合型風味原料(乳製品(チーズ、ヨーグルト等)、肉、野菜、果実のエキス、ブイヨン、ジュース、各種香辛料、その他の配合物であるカレーパウダー)を使用する。
(3)粉体原料
単独型風味原料(食塩、砂糖、スターチ、各種香辛料、その配合物であるカレーパウダー、オニオンパウダー、ビーフエキスパウダー、アミノ酸(調味料)、粉末醤油、乳化剤等)を粉体原料として使用した。香辛料等の水不溶性原料の粒子径は約106μ以下であった。」

(1B)「【0021】2.粉体原料の調製
食塩、砂糖等の粉体原料のうち、食塩は、予め食塩10部にコーンスターチ1部を混合して高速粉砕機(HS-5型、西村機械社製)で1700rpmで粉砕し、中心粒径170±10μm、150μmパス=30?50%程度のものとし、砂糖は、グラニュー糖9部にコーンスターチ10部を混合して高速粉砕機で700rpmで粉砕し、中心粒径240?300μm、150μmパス=10?30%程度のものとして、均一な粒度で加工適性の高い粉砕粉体原料を調製した。」

(1C)「【0022】3.小麦粉ルウの製造
油脂12部、小麦粉12部を加熱釜で約50分間かけて約120℃まで加熱攪拌した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウを製造した。」

(1D)「【0023】4.カレールウの製造
この小麦粉ルウに、前記のように粉砕した食塩8部、砂糖8.5部、コーンスターチ11部の粉体原料と、カレーパウダー6部及びアミノ酸1.5部を混合した粉体原料と、果実ペースト5.7部を加えて再び加熱攪拌し、約60分間かけて約114℃まで加熱後、充填機にて容器に入れ、冷却固化してカレールウを製造した。」

(1E)「【0025】実施例2?4及び比較例1?2
本発明の範囲内で小麦粉及びコーンスターチの使用割合を変えた以外は、実施例1と同様にして製造した次の実施例3及び4のカレールウ製品、及び粉体原料と澱粉系原料として通常の原料(各々単独で粉砕したもの)を使用した製品(次の実施例2及び比較例1)、の性能について官能テストにより評価した。実施例2及び実施例3は、小麦粉4部、コーンスターチ18部、実施例4は、小麦粉14部、コーンスターチ11部、比較例1は、小麦粉22部、コーンスターチ5部としたものである。」

4-3-2.甲第1号証記載の発明
上記(1B)ないし(1D)によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「カレールウ製品の製造方法であって、
(1)食塩、砂糖等の粉体原料のうち、食塩は、予め食塩10部にコーンスターチ1部を混合して高速粉砕機(HS-5型、西村機械社製)で1700rpmで粉砕し、中心粒径170±10μm、150μmパス=30?50%程度のものとし、砂糖は、グラニュー糖9部にコーンスターチ10部を混合して高速粉砕機で700rpmで粉砕し、中心粒径240?300μm、150μmパス=10?30%程度のものとして、均一な粒度で加工適性の高い粉砕粉体原料を調製することと、
(2)油脂12部、小麦粉12部を加熱釜で約50分間かけて約120℃まで加熱攪拌した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウを製造すること(以下、「小麦粉ルウ製造工程」という。)と、
(3)この小麦粉ルウに、前記のように粉砕した食塩8部、砂糖8.5部、コーンスターチ11部の粉体原料と、カレーパウダー6部及びアミノ酸1.5部を混合した粉体原料と、果実ペースト5.7部を加えて再び加熱攪拌し、約60分間かけて約114℃まで加熱後、充填機にて容器に入れ、冷却固化してカレールウを製造すること(以下、「カレールウ製造工程」という。)と、
を含むカレールウ製品の製造方法。」

4-3-3.甲第2号証に記載された事項
(2A)「【0021】
【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
固形ルウ素材(カレールウ)
油脂8部、小麦粉14部を加熱釜で約40分間かけて約115℃まで加熱混合した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウを製造した。これに、油脂26.5部、食塩10部、砂糖10部、馬鈴薯澱粉11部、酸処理澱粉2部、カレーパウダー8部、アミノ酸1.5部、調味料9部を加えて再び加熱処理し、約40分間かけて約110℃まで加熱混合した後、約60℃まで冷却した。これを、充填機にて容器に入れ、冷却固化してカレールウを製造した。」

(2B)「【0022】実施例2
顆粒状ルウ素材(シチュールウ)
油脂15部、小麦粉26部を加熱釜で約70分間かけて約120℃まで加熱混合した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウを製造した。これに、食塩9部、砂糖11部、馬鈴薯澱粉7部、クリーミングパウダー6部、調味料5部、粉乳4部、デキストリン14部を加えて再び加熱処理し、約40分間かけて約70℃まで加熱混合した後、これを、押出し造粒機で常温下に押出し、ロールグラニュレーターで粒径約1mmに整粒した。」

4-3-4.甲第2号証記載の発明
上記(2A)によれば、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「固形ルウ素材(カレールウ)の製造方法であって、
(1)油脂8部、小麦粉14部を加熱釜で約40分間かけて約115℃まで加熱混合した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウを製造すること(以下、「小麦粉ルウ製造工程」という。)と、
(2)これに、油脂26.5部、食塩10部、砂糖10部、馬鈴薯澱粉11部、酸処理澱粉2部、カレーパウダー8部、アミノ酸1.5部、調味料9部を加えて再び加熱処理し、約40分間かけて約110℃まで加熱混合した後、約60℃まで冷却すること(以下、「カレールウ製造工程」という。)と、
(3)これを、充填機にて容器に入れ、冷却固化することと、
を含むカレールウの製造方法。」

4-3-5.本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とは、次の2つの点で相違するものの、その余の点では相違のないものと認める。
[相違点1]
本件発明1では、
(ア)工程(1)において、「1質量部の小麦粉、及び0.5質量部以上6質量部以下の澱粉を含む原料を加熱処理してルウを得」、
(イ)工程(2)において、「チーズ及び水を含む混合物を加熱処理してチーズ調味材を得」、
(ウ)工程(3)において、「前記ルウと、前記チーズ調味材と、香辛料とを配合して、カレーソース、シチューソース、デミグラスソース、及びハヤシソースからなる群より選ばれる食品を製造する」
のに対して、
甲1発明では、小麦粉ルウ製造工程における小麦粉と澱粉との配合割合の特定がないとともに、チーズ調味材を得る工程がなく、小麦粉ルウとチーズ調味材とを配合する工程もない点。

[相違点2]
本件発明1は、レトルト食品の製造方法であるのに対して、甲1発明はカレールウ製品の製造方法である点。

まず、上記相違点1について検討する。
(ア)について
上記(1A)には、「(1)小麦粉ルウ原料 油脂(ヘット及びラード)、小麦粉及びコーンスターチを使用した。」と記載されており、小麦粉ルウ製造工程においてコーンスターチを使用することが示唆されている。しかしながら、甲第1号証には、小麦粉ルウ製造工程におけるコーンスターチの使用量については何ら特定されていない。また、甲第1号証の段落0005には、甲1発明が、「上記小麦粉ルウにみられる問題点を根本的に改善すると共に、従来製品と比べて、食感が滑らかとなり、風味立ちが良好となるような新しいタイプのルウ製品を開発すること」と「ルウの製造工程において、製品における粉体原料の沈降分離を極少にして、高品質の製品を作製することを可能とするための新しい方法を開発すること」という課題に対して、これを「澱粉系原料として、少なくとも特定量の小麦粉及びコーンスターチを使用し、しかも香辛料等の微粒子状に含まれる水不溶性原料の粒子径を特定のものに調整すること」と「ルウの原料配合において、粉体原料をコーンスターチ等の澱粉系原料と共に粉砕すること」で解決すると記載されており、甲1発明には、相違点1に係る本件発明1のように、小麦粉ルウ製造工程において小麦粉と澱粉との配合割合を小麦粉の方を比較的低く抑えて設定するという事情は見出せない。
さらに、上記(1E)には、甲第1号証の実施例2、3について「小麦粉4部、コーンスターチ18部」を用いることが記載されている。しかしながら、同じく上記(1E)の「本発明の範囲内で小麦粉及びコーンスターチの使用割合を変えた以外は、実施例1と同様にして製造した次の実施例3及び4のカレールウ製品、及び粉体原料と澱粉系原料として通常の原料(各々単独で粉砕したもの)を使用した製品(次の実施例2及び比較例1)、の性能について官能テストにより評価した。」という記載からすると、この「小麦粉4部、コーンスターチ18部」は、「小麦粉ルウ製造工程」におけるものではなく、「カレールウ製造工程」におけるものと解するのが相当である。
したがって、上記(1A)の記載や上記(1E)の記載を根拠に、甲1発明の上記配合割合を、本件発明1の工程(1)のように、「1質量部の小麦粉、及び0.5質量部以上6質量部以下の澱粉」とすることは、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。また、それが設計的事項であったとも認められない。

(イ)と(ウ)について
上記(1A)には「(2)水系原料 融合型風味原料(乳製品(チーズ、ヨーグルト等)、肉、野菜、果実のエキス、ブイヨン、ジュース、各種香辛料、その他の配合物であるカレーパウダー)を使用する。」と記載されており、融合型風味原料として、果実のエキスと並んでチーズを加えることが示唆されている。また、上記(1D)によれば、カレールウ製造工程において、「果実ペースト」(果実のエキス)を加えることが記載されている。そうすると、これらの記載により、同じ融合型風味原料であるチーズも同じカレールウ製造工程において加えることは想定し得るものと認められる。
しかしながら、上記「4-2.申立理由3について」で示したように、甲1発明の「カレールウ製造工程」で加えられるチーズそれ自体は、本件発明1のチーズ調味材には該当しない。
また、甲第1号証には、チーズは、カレールウ製造工程において加えられる融合型風味材料のひとつとして記載されるものであり、本件発明1の工程(2)のように、ルウと別途に加熱処理されることは想定し得ないし、甲第3号証や甲第4号証を参酌しても、上記チーズを、水との混合物とし加熱処理してチーズ調味材とする動機付けは見当たらない。
したがって、上記(1A)(1D)の記載や甲第3、4号証から、相違点1の工程(2)(3)を設けることは、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。また、それが設計的事項であったとも認められない。

よって、甲1発明に基づいて本件発明1の相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

以上より、相違点2については検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載されたものではなく、また、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4-3-6.本件発明1と甲2発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とは、次の2つの点で相違するものの、その余の点では一致するものと認められる。
[相違点3]
本件発明1では、
(エ)工程(1)において、「1質量部の小麦粉、及び0.5質量部以上6質量部以下の澱粉を含む原料を加熱処理してルウを得」、
(オ)工程(2)において、「チーズ及び水を含む混合物を加熱処理してチーズ調味材を得」、
(カ)工程3において、「前記ルウと、前記チーズ調味材と、香辛料とを配合して、カレーソース、シチューソース、デミグラスソース、及びハヤシソースからなる群より選ばれる食品を製造する」
のに対して、
甲2発明では、小麦粉ルウ製造工程において澱粉を配合するという特定がないとともに、チーズ調味材を得る工程がなく、小麦粉ルウとチーズ調味材とを配合する工程もない点。

[相違点4]
本件発明1は、レトルト食品の製造方法であるのに対して、甲2発明はカレールウの製造方法である点。

まず、上記相違点3について検討する。
(エ)について
甲第2号証の段落0005には、甲2発明が、「上記小麦粉ルウにみられる問題点を根本的に改善すると共に、従来製品と比べて、食感が滑らかとなり、風味立ちが良好となるような新しいタイプのルウ製品を開発する」という課題に対して、これを「澱粉系原料として、少なくとも特定量の小麦粉、及び澱粉A、澱粉A′、加工澱粉を使用すること」で解決すると記載されている。しかしながら、この澱粉の使用は、甲第2号証の実施例1ないし5の記載をみると、具体的にはいずれも小麦粉ルウ製造工程ではなくカレールウ製造工程におけるものであり、甲第2号証に小麦粉ルウ製造工程において澱粉を使用するという開示は認められない。また、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1のように、小麦粉製造工程において小麦粉と澱粉との配合割合を小麦粉の方を比較的低く抑えて設定するという事情も見出せない。
したがって、甲第2号証の段落0005等の記載を根拠に、甲2発明の小麦粉製造ルウ工程において原料として澱粉を使用するとともに、小麦粉と澱粉との配合割合を、本件発明1の工程(1)のように、「1質量部の小麦粉、及び0.5質量部以上6質量部以下の澱粉」とすることは、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。また、それが設計的事項であったとも認められない。

(オ)と(カ)について
甲第2号証には、上記(2B)に、実施例2としてシチュールウの製造方法において「粉乳4部」を加えるとの記載がある。しかしながら、甲2発明はカレールウの製造方法に係るものであり、実施例2のシチュールウの製造方法において「粉乳」を加えるという記載があるからといって、直ちにカレールウの製造方法にも「粉乳」を加えてよいとする理由は認められない。
また、そもそも上記「粉乳」は、本件特許発明の「チーズ調味材」と異なるものであって、この「粉乳」に代えてあるいはこれに加えて「チーズ調味材」を用いることは、甲第3号証や甲第4号証にも開示されていない。
したがって、上記(2B)の記載や甲第3、4号証から、相違点3の工程(2)(3)を設けることは、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。また、それが設計的事項であったとも認められない。

よって、甲2発明に基づいて本件発明1の相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易想到し得たこととはいえない。

以上より、相違点4については検討するまでもなく、本件発明1は甲第2号証に記載されたものではなく、また、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

そうしてみると、特許異議申立人の上記主張は採用できず、上記申立理由1によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、上記特許異議申立ての理由(申立理由1ないし3)によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-15 
出願番号 特願2011-271983(P2011-271983)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (A23L)
P 1 652・ 121- Y (A23L)
P 1 652・ 113- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 中村 則夫
山崎 勝司
登録日 2015-11-27 
登録番号 特許第5843260号(P5843260)
権利者 ハウス食品グループ本社株式会社
発明の名称 改善された乳風味を有する食品及びその製造方法  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 西島 孝喜  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ