• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B05C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B05C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05C
管理番号 1320218
異議申立番号 異議2016-700609  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-12 
確定日 2016-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5843780号発明「流体噴射ディスペンサー及び流体の噴流を吐出する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5843780号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5843780号の請求項1ないし7に係る特許(以下、それぞれ「請求項1に係る特許」ないし「請求項7に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2010年12月 7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年12月8日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年7月12日に特許異議申立人 アクシス国際特許業務法人(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
請求項1ないし7に係る特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、それぞれ本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、当該明細書を「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
力増幅駆動システムを含む流体噴射ディスペンサーであって、
第1の距離に沿って移動するように取り付けられている動力作動部材を含むアクチュエーターと、
前記第1の距離よりも短い第2の距離に沿って移動するように取り付けられている弁部材を含む弁と
を備え、
前記動力作動部材は、前記弁部材と機械的に連結される前に間隙を通って移動可能であり、続いて前記第2の距離に沿って前記弁部材とともに移動し、それによって、エネルギーは、前記動力作動部材から前記弁部材へ前記第2の距離に沿って伝達され、前記弁部材は、前記第2の距離を移動した結果として前記弁から流体の噴流を吐出するように動作し、
前記弁部材は、弁座と係合可能な先端部を有する弁棒を更に含み、前記弁座は、流体室内に配置され、それによって、前記先端部は、前記第2の距離の終端で前記弁座と係合し、流体の噴流を放出し、
前記弁部材を開始位置へ戻すように動作可能な付勢式復帰機構と、
前記弁部材を前記開始位置に停止させる停止部と
を更に備え、
前記停止部は、前記流体室内で前記弁部材に連結されていることを特徴とする流体噴射ディスペンサー。
【請求項2】
前記アクチュエーターは、空気圧式に駆動される請求項1に記載の流体噴射ディスペンサー。
【請求項3】
前記アクチュエーターは、電気式に駆動される請求項1に記載の流体噴射ディスペンサー。
【請求項4】
作動部材と、先端部を有する弁部材と流体室内に位置する弁座とを含む弁とを含むディスペンサーを用いて流体の噴流を吐出する方法であって、
前記作動部材を動力で間隙を通して軸線に沿って移動させることと、
前記作動部材を、前記間隙の終端で前記弁部材と機械的に連結させ、前記弁部材に増幅力を与えることと、
前記作動部材と前記弁部材とを、前記増幅力を用いて前記軸線に沿う作動距離に沿って一緒に移動させることと、
前記弁部材の前記先端部を前記流体室内で前記軸線に沿って移動させ、前記弁から前記流体の噴流を吐出することと、
前記先端部を前記作動距離の終端で前記弁座と係合させて前記流体の噴流を放出することと、
前記弁部材の前記先端部が前記弁座から離れるように、ばね付勢を用いて前記弁部材を開始位置へ戻すこと
を含み、
前記ディスペンサーは、前記流体室内で前記弁部材に連結されている停止部を含み、
前記方法は、前記停止部によって前記弁部材を前記開始位置に停止させることを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記作動部材を移動させることは、前記作動部材を空気動力で移動させることを更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記作動部材を移動させることは、前記作動部材を電力で移動させることを更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記弁部材を開始位置へ戻すことは、
前記作動部材と前記弁部材とを離すことを更に含む請求項4に記載の方法。」

第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、次の特許異議申立ての理由を主張している。
なお、甲第3-2号証については、特許異議申立人が提出した甲第3-1号証の訳文であると認定して判断を行った。

1 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2008/126373号
甲第2号証:特開平8-61181号公報
甲第3-1号証:国際公開第2008/071531号
甲第3-2号証:特表2010-513768号公報
甲第4号証:特開平8-128373号公報
甲第5号証:特表2005-534464号公報
甲第6号証:特開2000-262942号公報
甲第7号証:特開2000-167464号公報
甲第8号証:特開平2-102053号公報

2 特許異議申立ての理由

理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

理由2(特許法第29条第2項)
本件特許発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

理由3(特許法第29条第2項)
本件特許発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

理由4(特許法第36条第6項第2号)
本件特許発明1ないし3は明確でないから、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

第4 当審の判断
1 刊行物の記載
(1)甲第1号証の記載
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「液剤吐出装置および液剤吐出方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

1a 「[0007] 発明者は、押出部材とは別個の部材を十分に加速した状態で押出部材に衝突させることで、短距離で押出部材を高速に加速することを可能とした。
すなわち、第1の発明は、液材を吐出する吐出口を有する液室と、液室より幅狭のプランジャーおよび当接部を有し、プランジャーの先端部が液室内を進退動する押出部材と、押出部材のプランジャーと反対側に隣接して配設され、ピストンおよび当接部と対向する衝突部を有する衝突部材と、押出部材および衝突部材を進退動させる駆動手段とを備える液材吐出装置であって、前記衝突部を前記当接部に衝突させることにより、前記押出部材を高速前進させて液材を吐出することを特徴とする液材吐出装置である。
第2の発明は、第1の発明において、前記衝突部と前記当接部とが衝突するまでの前記衝突部材の移動距離が、前記衝突部と前記当接部が当接してから最前進位置に到達するまでの前記押出部材の移動距離と比べ、長くなるよう構成されることを特徴とする。
第3の発明は、第1または2の発明において、前記駆動手段は、前記衝突部材を前進方向に付勢する弾性体を備えることを特徴とする。
第4の発明は、第1ないし3のいずれかの発明において、前記押出部材の最後退位置を規定する後退位置規定手段を備えることを特徴とする。
第5の発明は、第4の発明において、前記後退位置規定手段は、押出部材の後退方向側の位置を規定する後方ストッパーと、押出部材を後方に付勢する押出部材付勢手段とから構成されることを特徴とする。
第6の発明は、第1ないし5のいずれかの発明において、前記押出部材の最前進位置を規定する前進位置規定手段を有することを特徴とする。
第7の発明は、第6の発明において、前記前進位置規定手段は、前記押出部材の前方側が当接する前進ストッパーにより構成されることを特徴とする。
第8の発明は、第6または7の発明において、前記前進位置規定手段は、前記プランジャーの先端部の進行方向にある前記液室の内壁であることを特徴とする。
第9の発明は、第6ないし8のいずれかの発明において、非吐出時において、前記押出部材が前記衝突部材に押圧され、前記押出部材が最前進位置にあることを特徴とする。
第10の発明は、第8または9の発明において、前記プランジャーの先端部が、前記液室と前記吐出口との連通を遮断するように構成されることを特徴とする。
第11の発明は、第1ないし10のいずれかの発明において、前記駆動手段は、エア供給装置および電磁切換弁を備え、前記押出部材は、エアにより後退方向に付勢されることを特徴とする。」(段落[0007])

1b 「[0008] 第12の発明は、押出部材を高速前進することにより、液室内の液材の一部を吐出口から液滴の状態で吐出する液滴吐出方法であって、液材を吐出する吐出口を有する液室と、液室より幅狭のプランジャーおよび当接部を有し、プランジャーの先端部が液室内を進退動する押出部材と、押出部材のプランジャーと反対側に隣接して配設され、ピストンおよび当接部と対向する衝突部を有する衝突部材とを設け、前記衝突部を前記当接部に衝突させることにより、前記押出部材を高速前進させて液材を吐出することを特徴とする液滴吐出方法である。
第13の発明は、第12の発明において、前記衝突部と前記当接部が当接してから最前進位置に到達するまでの前記押出部材の移動距離と比べ、前記衝突部と前記当接部とが衝突するまでの前記衝突部材の移動距離を長くとることを特徴とする。
第14の発明は、第12または13の発明において、前記衝突部が前記当接部に当接するときの押出部材の待機位置を吐出毎に等しくすることを特徴とする。
第15の発明は、第12ないし14のいずれかの発明において、前記押出部材の最前進位置を吐出毎に等しくすることを特徴とする。
第16の発明は、第12ないし15のいずれかの発明において、前記衝突部材を加速した状態で、前記衝突部を前記当接部に衝突させることを特徴とする。
第17の発明は、第12ないし16のいずれかの発明において、前記押出部材は後退方向に付勢されており、吐出終了後、前記当接部と前記衝突部が当接した状態で前記衝突部材および前記押出部材が後退することを特徴とする。
第18の発明は、第12ないし17のいずれかの発明において、前記衝突部材は前進方向に付勢されており、非吐出時において、前記衝突部材が前記押出部材を押圧し、前記押出部材を最前進位置に維持することにより、吐出口からの液材の漏出を防ぐことを特徴とする。」(段落[0008])

1c 「[0020] 本体1の内部には、押出部材10と衝突部材20が、前進・後退方向に往復自在に配置されている。
押出部材10は、前方に位置するプランジャー13と、後方に位置する後方当接部材18と、これらを接続する当接部12とから構成される。
プランジャー13は、押出部材10の前方に設けた小径の細長い円柱状の部材であり、先端は液室14内に、後端はシリンダー11内に位置するように配置される。本実施例ではプランジャー13の先端が平坦に形成されているが、先端を曲面に構成したり、突起状の部材を設けて構成してもよい。
貫通孔16Aの内壁には、プランジャー13の側面と密着するようシール17Aが設けられている。シール17Aは、プランジャー13を摺動可能にシールすることで、液室14とシリンダー11とを遮断している。
シリンダー11内には、周内をプランジャー13が貫通するバネ23が設けられている。バネ23は、シリンダー11の前方の内壁面と当接部12の前端とに挟まれるよう配置され、押出部材10を常時後方に付勢している。かかる構成により、当接部12と衝突部材20が接触していない状態では、押出部材10は後述の後方ストッパー27に当接し付勢された状態で停止される。衝突部22と当接部12とが接触していない際には、押出部材10と後方ストッパー27とが当接状態となるよう付勢できるよう、バネ23の強さおよび長さを調節することが好ましい。
なお、押出部材を後方に付勢するのであれば、バネ23を当接部12の前端以外の場所を付勢するように配置してもよい。」(段落[0020])

1d 「[0022] 衝突部材20は、前方に位置する衝突部22と、後方に位置するピストン24とから構成され、それらの中心軸上に貫通孔16Bを有している。
衝突部22は、シリンダー11よりも小径の円柱状の部材で、ピストン24の前方に同軸に設けられ、その先端はシリンダー11内に位置している。
シリンダー11は、その内部にシール17Cとガイド21を有している。シール17Cは、衝突部22をシリンダー11に対して密着した状態で摺動可能にシール17することで、シリンダー11とピストン室19の前方側の空間とを遮断している。ガイド21は、衝突部22を横方向にぶれないように衝突部22を摺動可能に支持している。本実施例では、ガイド21を単純な円筒の部材で構成しているが、衝突部22と接触する部分にベアリング等を設け、衝突部22の摺動が円滑となるよう構成してもよい。ガイド21の位置はおよび数はこれに限定されず、例えば押出部材が横方向にぶれないようにするために貫通孔16Aを設けてもよい。」(段落[0022])

1e 「[0028] 図2bに示すように、ピストン室19は、ピストン24により前方側の空間と後方側の空間に分断されている。電磁切換弁51を切り換えて、ピストン室19の前方側の空間とポート53Aとを連通させ、ピストン室19の前方側の空間がエア供給源52と連通した状態にする。エア供給源52からピストン室19の前方側の空間にエアが供給されると、ピストン24は前方側の空間からの加圧力を受け、衝突部材20がバネ26の付勢に抗って後退する。
衝突部材20の後退時には、バネ23による後方への付勢により、押出部材10も当接部12と衝突部22との接触を維持したまま後退する。後方当接部材18の後端が後方ストッパー27に当接すると、押出部材10は後退を停止し、バネ23により後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持される。
押出部材10の停止後も衝突部材20はさらに後退を続け、衝突部22と当接部12とは離間して非接触状態となり、ピストン24の後端がピストン室19の後方側の内壁面に当接するまで後退する。ピストン室19の前方側にエアが供給されている間は、衝突部材20はピストン室19の後方側の内壁面に当接した状態に維持される。

[0029] 図2cに示すように、電磁切換弁51を切り換えて、ピストン室19の前方側の空間とポート53Bとを連通させ、ピストン室19の前方側の空間が大気と連通した状態にする。ピストン室19の前方側の空間が大気と連通すると、ピストン24を後方に押圧する力が無くなるので、バネ26の付勢によって衝突部材20は急速に加速しながら前方に前進移動する。
衝突部材20の衝突部22が押出部材10の当接部12の後端に衝突すると、衝突部材20のエネルギーにより、押出部材10は瞬時に加速して高速前進する。この際、当接部12はバネ23により後方に付勢されているが、衝突部材20は十分なエネルギーを蓄えているので、バネ23の押圧に抗って瞬時に押出部材10を加速させることができる。

[0030] 図2dに示すように、衝突部22により押圧された押出部材10は、プランジャー13の先端が液室14の内壁に当接することでその前進を停止する。プランジャー13の先端が液室14の内壁に当接すると、液材が機械的に分断され、液滴の状態で吐出が行われる。
プランジャー13の先端の形状は、吐出流路9を塞ぐように構成されており、液室14の内壁に接触して液室14内と吐出流路9との連通を遮断するので、液材を良好に分断することができる。
以上の工程を経ることにより、一回の吐出が完了する。吐出終了後の各部品の配置は、図2aの状態となる。上記の動作を繰り返すことで、二回目以降の吐出を行う。

[0031] 以上の構成および動作を有する本実施例の装置は、十分な速度に加速した衝突部材20を押出部材10に衝突させることにより、押出部材10の前進移動距離が短い場合でも押出部材10を瞬時に加速して高速前進させることができる。そのため、微少量の液材を液滴の状態で良好に飛滴させることができる。
また、衝突部材20を、押出部材10に衝突するまでの移動中、常に加速した状態とすることにより、より高速な状態で押出部材10に衝突することが好ましく、加速中の状態で衝突することがより好ましい。
また、バネ26が自然長よりも短い状態で衝突部材が押出部材に衝突するように構成することで、加速した状態の衝突部材を衝突させることができる。衝突直後もバネ26の付勢によって衝突部材ごと押出部材を前進させることで、より効果的に押出部材を加速させることができる。

[0032] また、衝突部材20の前進距離を押出部材10の前進距離よりも長くすることで、衝突部材20を十分に加速させることが好ましい。本実施例の装置では、衝突部材20がピストン室19の後方の内壁面に接触し、かつ、押出部材10が後方ストッパー27に接触している状態において、衝突部22の先端から当接部12の後端までの距離が、押出部材10のプランジャー13の先端からプランジャー13先端前方の液室14の内壁までの距離よりも長くなるように構成されている。かかる構成により、衝突部材20が押出部材10に衝突した後に押出部材10が前進する距離よりも長い距離を、前記衝突部材20に前進させることを可能としている。」(段落[0028]ないし[0032])

(1-2) 甲第1号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

1A 上記(1-1)の1aの記載から、甲第1号証には液滴吐出装置が記載されていることが分かる。

1B 上記(1-1)の1a及び1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置は、衝突部材20を急速に加速させる駆動手段(バネ26)を備えていることが分かる。

1C 上記(1-1)の1d及び1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置は、衝突部材20の前進距離に沿って移動するように取り付けられている衝突部22を含む衝突部材20を備えていることが分かる。

1D 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置は、衝突部材20の前進距離よりも短い押出部材10の前進距離に沿って移動するように取り付けられている押出部材10を含む本体1を備えていることが分かる。

1E 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置の衝突部22は、当接部12と衝突する前に衝突部22と当接部12との間隙を通って前進移動し、続いて押出部材10の前進距離に沿って衝突部材20ごと押出部材10を前進させ、それによって、エネルギーは、衝突部22から押出部材10へ押出部材10の前進距離に沿って伝達され、押出部材10は、押出部材10の前進距離を移動し、プランジャー13の先端が液室14の内壁に当接すると本体1から液材の液滴を吐出するように動作することが分かる。

1F 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置の押出部材10は、液室14の内壁と当接する先端を有するプランジャー13を更に含み、液室14の内壁は、液室14内に配置され、それによって、プランジャー13の先端は、押出部材10の前進距離の終端で液室14の内壁と当接し、液材の液滴を吐出することが分かる。

1G 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置は、押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に後退するように動作可能なバネ23を備えていることが分かる。

1H 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置は、押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持させる後方当接部材18を備えていることが分かる。

1I 上記(1-1)の1c並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置の後方当接部材18は、押出部材10に設けられていることが分かる。

1J 上記(1-1)の1bの記載から、甲第1号証には液滴吐出方法が記載されていることが分かる。

1K 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、衝突部材20と、プランジャー13の先端を有する押出部材10と液室14内に位置する液室14の内壁とを含む本体1とを含む液滴吐出装置を用いて液材の液滴を吐出することが分かる。

1L 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、衝突部材20をバネ26の付勢により衝突部22と当接部12との間隙を通して前方に前進移動させることが分かる。

1M 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、衝突部材20を、衝突部22と当接部12との間隙の終端で当接部12と当接させ、押出部材10にエネルギーを与えることが分かる。

1N 上記(1-1)の1e(特に段落[0031])には、衝突直後もバネ26の付勢によって衝突部材20ごと押出部材10を前進させる旨が記載されていることから、衝突直後も衝突部材20と押出部材10とは一緒に移動するといえる。
したがって、上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、衝突部材20と押出部材10とを、エネルギーを用いて押出部材10の前進距離に沿って一緒に移動させることが分かる。

1O 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、押出部材10のプランジャー13の先端を液室14内で前進させ、本体1から液材の液滴を吐出することが分かる。

1P 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、プランジャー13の先端を押出部材10の前進距離の終端で液室14の内壁と当接させて液材の液滴を吐出することが分かる。

1Q 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、押出部材10のプランジャー13の先端が、液室14の内壁から離れるように、バネ23を用いて押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に後退することが分かる。

1R 上記(1-1)の1c並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出装置は、押出部材10に設けられている後方当接部材18を備えていることが分かる。

1S 上記(1-1)の1e並びに図2aないし2dの記載から、液滴吐出方法は、後方当接部材18によって押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持させることが分かる。

(1-3) 甲第1号証に記載された発明
したがって、上記(1-1)及び(1-2)を総合すると、甲第1号証には次の2つの発明(以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明1>
「衝突部材20を急速に加速させる駆動手段を含む液滴吐出装置であって、
衝突部材20の前進距離に沿って移動するように取り付けられている衝突部22を含む衝突部材20と、
衝突部材20の前進距離よりも短い押出部材10の前進距離に沿って移動するように取り付けられている押出部材10を含む本体1と
を備え、
衝突部22は、当接部12と衝突する前に衝突部22と当接部12との間隙を通って高速前進し、続いて押出部材10の前進距離に沿って衝突部材20ごと押出部材10を前進させ、それによって、エネルギーは、衝突部22から押出部材10へ押出部材10の前進距離に沿って伝達され、押出部材10は、押出部材10の前進距離を移動し、プランジャー13の先端が液室14の内壁に当接すると本体1から液材の液滴を吐出するように動作し、
押出部材10は、液室14の内壁と当接する先端を有するプランジャー13を更に含み、液室14の内壁は、液室14内に配置され、それによって、先端は、押出部材10の前進距離の終端で液室14の内壁と当接し、液材の液滴を吐出し、
押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に後退するように動作可能なバネ23と、
押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持させる後方当接部材18と
をさらに備え、
後方当接部材18は、押出部材10に設けられている液滴吐出装置。」

<甲1発明2>
「衝突部材20と、プランジャー13の先端を有する押出部材10と液室14内に位置する液室14の内壁とを含む本体1とを含む液滴吐出装置を用いて液材の液滴を吐出する液滴吐出方法であって、
衝突部材20をバネ26の付勢により衝突部22と当接部12との間隙を通して前方に前進移動させることと、
衝突部材20を、衝突部22と当接部12との間隙の終端で当接部12と当接させ、押出部材10にエネルギーを与えることと、
衝突部材20と押出部材10とを、エネルギーを用いて押出部材10の前進距離に沿って一緒に移動させることと、
押出部材10のプランジャー13の先端を液室14内で前進させ、本体1から液材の液滴を吐出することと、
プランジャー13の先端を押出部材10の前進距離の終端で液室14の内壁と当接させて液材の液滴を吐出することと、
押出部材10のプランジャー13の先端が液室14の内壁から離れるように、バネ23を用いて押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に後退すること
を含み、
液滴吐出装置は、押出部材10に設けられている後方当接部材18を備え、
液滴吐出方法は、後方当接部材18によって押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持させることを更に含む液滴吐出方法。」

(2)甲第2号証
(2-1) 甲第2号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「燃料噴射装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

2a 「【0021】
【実施例】以下、この発明の実施例を図について説明する。
実施例1.図1はこの発明の実施例1に係る燃料噴射装置を示す縦断面図であり、図において図16に示した従来の燃料噴射装置同一または相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0022】図において、燃料噴射装置のハウジング40は、弁本体部2とシリンダ本体部41とから構成されている。弁本体部2には、その軸心にニードルガイド穴3が形成されている。そして、ニードルガイド穴3は、その先端が開口してノズル孔1を構成し、その後端側が大径に形成されて燃料室3aを構成している。燃料Gは、高圧燃料源(図示せず)から燃料通路17を介して燃料室3a内に導かれている。シリンダ本体部41内には、ピストン9が図中上下方向に摺動可能に配設され、このピストン9により画定された圧力制御室10が形成されている。この圧力制御室10内には、圧力伝達媒体が満たされている。そして、ピストン9を駆動するピエゾ圧電素子8がシリンダ本体部31内に配設されている。ピストン9の外周部とシリンダ本体部31の内壁面との間にはピエゾ側シール19が設けられ、圧力伝達媒体が圧力制御室10からピエゾ圧電素子8側に流入しないようになっている。圧力制御室10内には、収納室としてのシリンダ18が設けられている。そして、このシリンダ18の側壁には流入出孔22が形成されており、圧力伝達媒体がこの流入出孔22を通ってシリンダ18の内外を移動する。
【0023】ニードル弁4は、シリンダ本体部41の底部を貫通して、その先端部がノズル孔1を開閉、すなわち開口/塞口する方向に移動可能に取り付けられている。この時、ニードル弁4は、その一端側がニードルガイド穴3内に位置し、他端側がシリンダ18内に位置している。そして、ニードル弁4の他端側には受圧部としての開側受圧部6が設けられている。また、予圧手段としての圧縮バネ5がシリンダ18とニードル弁4の他端側の端面との間に縮設され、ニードル弁4をノズル孔1を塞口する方向に付勢している。また、燃料室3a内に位置するニードル弁4の部位には、ストッパ4aが設けられ、ノズル孔1を開口する方向のニードル弁4の移動の際に、ストッパ4aがシリンダ本体部41に当接して、ニードル弁4のストロークが規制されるように構成されている。ニードル弁4の開側受圧部6の外周部とシリンダ18の内壁面との間には受圧部シール20が設けられ、圧力伝達媒体が圧縮バネ5側に流入しないようにして、開側受圧部6の表裏の圧力差を保っている。そして、ニードル弁4のシリンダ本体部41の貫通部には、燃料室シール21が配設され、圧力制御室10と燃料Gの流通経路とを気密的に分離している。」(段落【0021】ないし【0023】)

(2-2) 甲第2号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

2A 上記(2-1)の2aの記載から、甲第2号証には燃料噴射装置が記載されていることが分かる。

2B 上記(2-1)の2a及び図1の記載から、燃料噴射装置は、燃料室3a内に位置するニードル弁4の部位に設けられたストッパ4aを備えていることが分かる。

(2-3) 甲第2号証に記載された技術
したがって、上記(2-1)及び(2-2)を総合すると、甲第2号証には次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されていると認める。

「ストッパ部4aは、燃料室3a内でニードル弁4に設けられている燃料噴射装置。」

(3)甲第3-1号証
(3-1) 甲第3-1号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3-1号証(翻訳文として、甲3-2号証を援用する。)には、「燃料噴射システムおよび燃料噴射弁におけるニードル工程ストッパ到達を検出する方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、以下の摘記箇所の記載において、ドイツ語特有の表記(アー・ウムラウト、ウー・ウムラウト、オー・ウムラウト、エスツェット)は、アルファベットで表記している(アー・ウムラウトは「ae」、ウー・ウムラウトは「ue」、オー・ウムラウトは「oe」、エスツェットは「ss」)。)

3a 「In Figur 1 ist ・・・Bezugszeichen 21 bezeichnet.」(明細書第5ページ17行ないし第6ページ10行)
<翻訳文>「【0012】
図1には内燃機関のための燃料噴射弁10が示されており、これには圧電アクチュエータ12が設けられている。燃料噴射弁10はインジェクタとも称され、これは燃料11たとえばガソリンまたはディーゼルを吸気管へ、および/または内燃機関燃焼室へダイレクトに噴射するために用いられる。圧電アクチュエータ12は、図1に矢印で示されているように制御装置20により駆動制御される。さらに燃料噴射弁10はノズルニードル13を備えたノズル部材を有しており、これは燃料噴射弁10のケーシング内部における弁座14aに載置可能である。弁座14はノズル開口部15を取り囲んでいる。当然ながら燃料噴射弁10に、図示されているノズル開口部15よりも多くのノズル開口部を設けることもできる。さらにノズル開口部を、燃料噴射弁10のケーシング側壁に設けることもできる。
【0013】
ノズルニードル13が弁座14から持ち上げられると、燃料11がノズル開口部15を通って流れるようになり、つまり燃料噴射弁10が開放され、燃料11が噴射される。図1にはこの状態が描かれている。ノズルニードル13が弁座14上に載置されるとノズル開口部15が閉鎖され、燃料11は噴射されず、つまり燃料噴射弁10は閉鎖される。噴射弁10の閉鎖状態において、弁座14はノズルニードル13に対する行程ストッパを成している。図1において、開放状態におけるノズルニードル13に対する行程ストッパが参照符号21で示されている。」(甲第3-2号証の段落【0012】及び【0013】参照。)

(3-2) 甲第3-1号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

3A 上記(3-1)の3aの記載から、甲第3-1号証には燃料噴射弁10が記載されていることが分かる。

3B 上記(3-1)の3a並びに図1の記載から、燃料噴射弁10は、燃料11が存在するケーシング内でノズルニードル13に設けられた行程ストッパ21を備えていることが分かる。

(3-3) 甲第3-1号証に記載された技術
したがって、上記(3-1)及び(3-2)を総合すると、甲第3-1号証には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認める。

「行程ストッパ21は、燃料11が存在するケーシング内でノズルニードル13に設けられている燃料噴射弁10。」

(4)甲第4号証
(4-1) 甲第4号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、「内燃機関の燃料噴射弁」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

4a 「【0006】
【実施例】図1は本願出願人が実験により得た知見であって、ストッパプレートと噴孔の間の空間容積を大きくすると、高温再始動時の空燃比A/Fのリーンピーク値が低下することを示している。これは、ストッパプレートと噴孔の間の空間容積を大きくすることにより、再始動時にも燃料噴射弁先端部に比較的多量の液状燃料が残っており、再始動時に最初に噴射される燃料に含まれる気泡の量が少なくなり、また、その後も上記空間部に高温でない燃料が大量に導入されることにより、先端部の燃料の冷却が促進され、気泡が縮小あるいは消滅し、あるいは発生が抑制され、正規に燃料噴射される様になるまでの時間が短縮され初爆およびその後の爆発が改善されるためである。ここで、1分間継続して燃料噴射した場合の燃料噴射量を1とすると、ストッパプレートと噴孔の間の空間容積は、その0.06%以上の容積とすることが好ましい。図2は上記知見をもとに案出した本発明の燃料噴射弁の先端部分の構造を示す断面図である。1はハウジングであって、その先端側にストッパプレート2を介して、バルブボデー3が取り付けられている。バルブボデー3の先端の中央には燃料を噴出する噴孔4が設けられている。5はニードルバルブ、6はストッパプレート2の下側に位置するように設けられた第1ガイド、7はストッパプレート2の上側に位置するように設けられた第2ガイドであって、第2ガイド7は、ニードルバルブ5に形成されたフランジ8と、該フランジ8に溶接もしくはかしめによって一体的に結合されたアーマチュア9から構成されている。ニードルバルブ5は、これら2個のガイドに案内されながら、ハウジング1およびバルブボデー3内部を中心軸に沿って、図示されないソレノイドコイルの磁力が前記アーマチュア9に作用することによって往復動せしめられ燃料を噴孔4から噴出する。10はリフトストッパであってバルブボデー3の上方向の移動量を規制するものである。
【0007】なお、第1ガイド6はバルブボデー3の内側の円周面に対して全周で接触するのではなく複数の箇所、例えば4箇所で接触するようにニードルバルブ5に一体に形成されており、接触しないその他の部分を燃料が流れる。第2ガイドのアーマチュア9は円筒形状をなし、その外周全面がハウジング内面に接触するが、フランジ8とは上述と同様に複数の箇所で結合するようにされ隙間部分を燃料が流れる様にされている。しかし、本発明においては、第1ガイド6と第2ガイド7がストッパプレート2を挟んで両側にあることが重要であって、ガイドの形状、あるいは方法は特に問題ではなく、ニードルバルブ5が中心軸に沿って移動するように正しくガイドし、ガイドの両側、例えば、本図においてはAとB、CとDの連通が確保されていればよい。
【0008】一方、図3は従来技術における燃料噴射弁の先端部分の構造を示した図であって、本発明とは異なり第2ガイド7は、第1ガイド6と同様にストッパプレート2の下側に位置するように配設されている。したがって、ストッパプレート2と噴孔4の間に、リフトストッパ10と第1ガイド6と第2ガイド7が配設されている。」(段落【0006】ないし【0008】)

(4-2) 甲第4号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

4A 上記(4-1)の4aの記載から、甲第4号証には燃料噴射弁が記載されていることが分かる。

4B 上記(4-1)の4a及び図2の記載から、燃料噴射弁は、燃料が存在するバルブボデー3内部でニードルバルブ5に設けられたリフトストッパ10を備えていることが分かる。

(4-3) 甲第4号証に記載された技術
したがって、上記(4-1)及び(4-2)を総合すると、甲第4号証には次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されていると認める。

「リフトストッパ10は、燃料が存在するバルブボデー3内部でニードルバルブ5に設けられている燃料噴射弁。」

(5)甲第5号証
(5-1) 甲第5号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、「表面にコーティングを塗布する方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

5a 「【0001】
本発明は、表面にコーティングを塗布する方法および表面を被覆する装置に関し、特には、表面にコーティングを非接触的に塗布する方法および表面の非接触的塗布用の装置に関する。」(段落【0001】)

5b 「【0076】
図5は本発明の装置のさらなる実施形態の一部を示している。この実施形態では、計量ヘッド10は圧電素子弁または電磁制御弁17によって起動されるノズル16を備えている。このために、弁17は、ノズル針19に接続されかつ供給導体18を介してコンピュータ12にも接続された、電磁あるいは圧電素子アクチュエータ171を備える。コンピュータ12によって生成された制御信号を変換する、適した電子機器(図示せず)がコンピュータ12と弁との間に接続されてよい。
【0077】
流動体コーティング材料22がポンプ装置23によって貯蔵器20から移動し、過圧下でノズルに送られる。適したポンプ装置23の一例には、例えば、内燃エンジン用の燃料噴射システムにおいて使用されるようなローラ・セル・ポンプまたは羽根セル・ポンプがある。弁17は燃料を内燃エンジンに噴射する噴射弁を備えてもよい。これらの構成要素の非常に長期間の安定性を有し、高い過圧で動作でき、かつ高い圧力を発生することができる。このタイプのシステムは比較的大量のコーティング材料および比較的厚いコーティング厚にとって特に適している。高い粘度のコーティング材料であっても容易に処理することができる。」(段落【0076】及び【0077】)

(5-2) 甲第5号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

5A 上記(5-1)の5aの記載から、甲第5号証には、表面の非接触的塗布用の装置が記載されていることが分かる。

5B 上記(5-1)の5a及び5b並びに図5の記載から、表面の非接触的塗布用の装置は、燃料を内燃エンジンに噴射する噴射弁にも適することが分かる。

(5-3) 甲第5号証に記載された技術
したがって、上記(5-1)及び(5-2)を総合すると、甲第5号証には次の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されていると認める。

「表面の非接触的塗布用の装置は、燃料を内燃エンジンに噴射する噴射弁にも適すること。」

(6)甲第6号証
(6-1) 甲第6号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、「液剤移送装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

6a 「【0018】
【発明の実施の形態】図1は、この発明の一実施の形態による液剤塗布装置の要部を示す断面図である。図1において、この液剤塗布装置は、コップ状のケース1と、ケース1内に収容された円柱状の磁歪素子ロッド2、円筒状の固定スリーブ3、複数(図では6つ)の電磁コイルC1?C6およびばね4と、円板状のフランジ5とを備え、ケース1の開口部はフランジ5によって閉蓋されている。」(段落【0018】)

6b 「【0036】また、液剤の通路には磁歪素子ロッド2、固定スリーブ3などしか存在せず、高温になる部分がないので、ガソリン、オイル、接着剤などの発火性液剤の吐出にも使用可能である。このため、自動車エンジンの燃料噴射インジェクタにも使用可能である。」(段落【0036】)

(6-2) 甲第6号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

6A 上記(6-1)の6a及び図1の記載から、甲第6号証には液剤塗布装置が記載されていることが分かる。

6B 上記(6-1)の6a及び6b並びに図1の記載から、液剤塗布装置は自動車エンジンの燃料噴射インジェクタにも使用可能であることが分かる。

(6-3) 甲第6号証に記載された技術
したがって、上記(6-1)及び(6-2)を総合すると、甲第6号証には次の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されていると認める。

「液剤塗布装置は、自動車エンジンの燃料噴射インジェクタにも使用可能であること。」

(7)甲第7号証
(7-1) 甲第7号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、「超微小液滴の噴射装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

7a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、瞬時の磁界の変化に応答して変位する超磁歪材料を利用し、シリンダ内に充填した液体を、微小な1個の液滴として噴射させるようにしたことを特徴とする超微小液滴の噴射装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、微少な液体を噴射する装置としては、手動操作する注射器が知られている。前記注射器は、先端に針を有するシリンダと、シリンダ内を往復移動するピストンとを有し、ピストンの往復動によって先端の針から液体を噴射させるようにしたものである。
【0003】こうした注射器の他、工業的には、燃料噴射、インク噴射、潤滑油噴射等があり、この工業的液体噴射方法を大きく分類すると、次の3種類がある。
(1)ノズルの付いた容器に液体を充填し、この容器を加圧することにより液体をノズルから液柱として注出させるとともに、この液柱に振動を与えることにより周期的乱れを生じさ、液柱から液滴へと変化させることによって液滴を連続的に生じさせる方法(以下、振動法という)である。こうした振動法は、例えば、特公平6-20528号公報や特公平3-39730号公報に記載されている。振動法においては、例えば、振動数を10KHz程度にすれば、100μm程度の水滴が連続的に生成される。
(2)ノズルの付いた容器に液体を充填し、この容器に衝撃的な圧力を加えることによってノズルから液体を噴射させる方法(以下、衝撃圧法という)である。こうした衝撃圧法は、例えば、特開平10-18939号公報や特公昭51-38323号公報に記載されている。先の注射器もこの衝撃圧法に属するものである。
(3)燃料噴射弁のように、噴射口に設置した弁を瞬時に開閉することによって、加圧された液体を微少量だけ噴射させる方法(以下、弁座開閉法という)である。こうした弁座開閉法は、例えば、特開平8-177677号公報に記載されている。」(段落【0001】及び【0003】)

7b 「【0074】これらの結果、本発明によれば、試薬、医薬等において微少量の液滴を利用する医療技術の分野、微少量の液滴で化学反応をさせる化学技術の分野、微少量の液滴により半導体の接着、溶着に使用する電子技術の分野等、あらゆる技術分野に応用することができ、特に、簡単な装置によって正確な微少量の液滴を噴射できるので、実用的価値の高いものとなる。」(段落【0074】)

(7-2) 甲第7号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

7A 上記(7-1)の7a並びに図1ないし7の記載から、甲第7号証には、超微小液滴の噴射装置が記載されていることが分かる。

7B 上記(7-1)の7a及び7b並びに図1ないし7の記載から、超微小液滴の噴射装置は、微少量の液滴を利用するあらゆる技術分野に応用することができることが分かる。

(7-3) 甲第7号証に記載された技術
したがって、上記(7-1)及び(7-2)を総合すると、甲第7号証には次の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されていると認める。

「超微小液滴の噴射装置は、微少量の液滴を利用するあらゆる技術分野に応用することができること。」

(8)甲第8号証
(8-1) 甲第8号証の記載事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、「インクジェットヘッド」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

8a 「本発明はインク滴を飛翔させ記録紙等の媒体上にインク像を形成するプリンタ等インクジェット記録装置に関し、さらに詳細にはインクジェットプリンタヘッドに関する。」(第1ページ右下欄7ないし10行)

8b 「第2図(a)・(b)は本発明の実施例を示すインクジェットヘッド断面図である。ノズル形成基盤11に列配された複数のノズル12と対応する位置に、複数の圧力発生部材13の各先端が適当な間隔を保ち配置されるように、鉄等の強磁性体でできた梁部材17を介してスペーサ18に取り付けられている。梁部材17の直下には電磁コイル16が配置されている。ノズル形成基盤11とケーシング15によって囲まれた空間にインク14が満たされ圧力発生部材13はインク14に浸されている。(第2図(a))
電磁コイル16に選択的に電圧21を印加すると該当する梁部材17が吸引され、その先端に取り付けられている圧力発生部材13が矢印19の向きに変位し、ノズル形成基盤11との間に介在するインクを押圧しノズル12からインク滴20として吐出させる。(第2図(b))この際、本実施例では圧力発生部材13を電磁力によって駆動しているため、圧力発生部材13の変位が大きく圧力発生部材13とノズル形成基盤11の間隔を広くとることができるので、間隔にばらつきがあってもインク吐出量や応答周波数と言ったインク吐出特性は影響を受けにくい。また梁部材17は電磁コイル16によって吸引されるので、電磁コイル16に近づくほど吸引される速度が増し、インク吐出直前に圧力発生部材13の変位速度が高速になり、吐出インク速度及びインク量が増すという利点を持つ。
第3図(a)・(b)は本発明の実施例を示すインクジェットヘッド断面図である。第3図(a)・(b)において第2図と共通する構成要素には同じ番号付けがなされている。ただし本実施例では圧力発生部材13の両端には鉄等の強磁性体でできた部材24・25が付加されていて、電磁コイル22・23で吸引することによって圧力発生部材13が直接駆動される。まず電磁コイル23に直流電圧26を印加して、部材25が電磁コイル23に吸引され、圧力発生部材13がノズル形成基盤11から離れた状態から(第3図(a))、電磁コイル23の電源26をきり、その瞬間に電磁コイル22に直流電源27を印加すると、部材24が電磁コイル22に吸引され、圧力発生部材13は矢印19の方向に変位してノズル形成基盤11との間に介在するインクを押圧し、インク滴20をノズル12から吐出する。」(第3ページ左上欄7行ないし左下欄11行)

(8-2) 甲第8号証の記載事項及び図面に示された内容から分かること

8A 上記(8-1)の8a及び第3図の記載から、甲第8号証にはインクジェットヘッドが記載されていることが分かる。

8B 上記(8-1)の8a及び8b並びに第3図の記載から、インクジェットヘッドの部材25は、部材25が電磁コイル23に吸引された場合、ストッパとしても機能していることが看取できる。
したがって、インクジェットヘッドは、ストッパとしても機能している部材25は、インク14が満たされたケーシング15内で圧力発生部材13に設けられていることが分かる。

(8-3) 甲第8号証に記載された技術
したがって、上記(8-1)及び(8-2)を総合すると、甲第8号証には次の技術(以下、「甲8技術」という。)が記載されていると認める。

「部材25は、インク14が満たされたケーシング15内で圧力発生部材13に設けられているインクジェットヘッド。」

2 理由1ないし3(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1) 対比・判断
(1-1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明1を対比すると、甲1発明1における「衝突部材20を急速に加速させる駆動手段」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本件特許発明1における「力増幅駆動システム」に相当し、以下、同様に、「液滴吐出装置」は「流体噴射ディスペンサー」に、「衝突部材20の前進距離」は「第1の距離」に、「衝突部22」は「動力作動部材」に、「衝突部材20」は「アクチュエーター」に、「押出部材10の前進距離」は「第2の距離」に、「押出部材10」及び「当接部12」はともに「弁部材」に、「本体1」は「弁」に、「衝突する前に」は「機械的に連結される前に」に、「衝突部22と当接部12との間隙」は「間隙」に、「高速前進し」は「移動可能であり」にそれぞれ、相当する。
また、甲1発明1における、「衝突部材20ごと押出部材10を前進させ」るは、「衝突部材20」が「衝突部22を含む」ものであり、「衝突部22」は「押出部材10」とともに「前進し」ているといえるから、本件特許発明1における「動力作動部材は」「弁部材とともに移動し」に相当する。
そして、甲1発明1における「エネルギー」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本件特許発明1における「エネルギー」に相当し、以下、同様に、「プランジャー13」は「弁棒」に、「先端」は「先端部」に、「液室14」は「流体室」に、「液室14の内壁」は「弁座」に、「液材」は「流体」に、「液滴」は「噴流」に、「吐出」は「吐出」に、それぞれ、相当する。
ここで、甲1発明1においては、「押出部材10の前進距離を移動」したことにより「プランジャー13の先端が液室14の内壁に当接する」結果として「本体1から液材の液滴を吐出する」のであるから、甲1発明1は、「押出部材10の前進距離を移動した結果として本体1から液材の液滴を吐出する」ものであり、これは、本件特許発明1の「第2の距離を移動した結果として前記弁から流体の噴流を吐出する」に相当する。
さらに、甲1発明1における「当接する」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本件特許発明1における「係合可能な」に相当し、以下、同様に、「後方当接部材18」は「停止部」に、「後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態」は「開始位置」に、「押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に後退するように」は「弁部材を開始位置へ戻すように」に、「バネ23」は「付勢式復帰機構」に、「押出部材10を後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持させる」は「弁部材を開始位置に停止させる」に、「設けられている」は「連結されている」に、それぞれ、相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明1は、
「力増幅駆動システムを含む流体噴射ディスペンサーであって、
第1の距離に沿って移動するように取り付けられている動力作動部材を含むアクチュエーターと、
第1の距離よりも短い第2の距離に沿って移動するように取り付けられている弁部材を含む弁と
を備え、
動力作動部材は、弁部材と機械的に連結される前に間隙を通って移動可能であり、続いて第2の距離に沿って弁部材とともに移動し、それによって、エネルギーは、動力作動部材から弁部材へ第2の距離に沿って伝達され、弁部材は、第2の距離を移動した結果として弁から流体の噴流を吐出するように動作し、
弁部材は、弁座と係合可能な先端部を有する弁棒を更に含み、弁座は、流体室内に配置され、それによって、先端部は、第2の距離の終端で弁座と係合し、流体の噴流を放出し、
弁部材を開始位置へ戻すように動作可能な付勢式復帰機構と、
弁部材を開始位置に停止させる停止部と
を更に備え、
停止部は、弁部材に連結されている流体噴射ディスペンサー。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1においては、「停止部は、流体室内で弁部材に連結されている」のに対し、甲1発明1においては、「後方当接部材18」が液室14内で「押出部材10に設けられている」のか否か不明な点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点1についての判断>
ア 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
甲第1号証の段落[0025]には「・・・なお、本実施例では、後方ストッパー27と当接する後方当接部材18を押出部材10の後端に設けた構成としているが、当接部材18を押出部材10の後端以外に設ける構成としてもよい。例えば、円柱状の後方当接部材18の途中に円盤状の部材を設け、この円盤状の部材と対向する位置に円柱状の後方ストッパー27を設けた構成が開示される。」と記載されている。
このように、甲第1号証には、当接部材18を押出部材10の後端以外に設ける構成としてもよい旨は記載されているが、例示されているものは、円柱状の後方当接部材18の途中に円盤状の部材を設け、この円盤状の部材と対向する位置に円柱状の後方ストッパー27を設けた構成のみであり、液室14内に後方当接部材18を設けることは記載も示唆もされていないから、甲第1号証に相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載されていない。
よって、甲1発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有さない点で、本件特許発明1と一致しないので、本件特許発明1は甲1発明1ではない。

イ 理由2(特許法第29条第2項)について
甲2技術ないし甲4技術から、「ストッパ部は、燃料室内で弁に設けられている燃料噴射装置。」は本件の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術」という。)であると認める。
また、甲5技術及び甲6技術から、「液剤塗布装置は、燃料噴射弁にも使用可能であること。」は本件の優先日前に周知の事項(以下、「周知事項」という。)であると認める。なお、甲7技術に関しては、超微小液滴の噴射装置が燃料噴射弁にも使用可能であるとまではいえないため、周知事項の認定に採用しなかった。

ここで、甲第1号証の段落[0014]には、「また、衝突部材が衝突するときの押出部材の位置を規定する衝突位置規定手段を有することが好ましい。衝突部材が衝突するときの押出部材の待機位置を吐出毎に等しくすることにより、液滴の状態での吐出を、高い再現性をもって行うことが可能となるからである。」と記載されている。
そして、「衝突部材が衝突するときの押出部材の位置を規定する衝突位置規定手段」に関連して、甲第1号証の段落[0025]には「本体1の後端には、バネ室25に侵入する後方ストッパー27が配設されている。後方ストッパー27は、後方当接部材18の後端部と当接することにより、押出部材10の後方移動を制限するものである。後方ストッパー27の後端は、マイクロメータ28に接続されており、マイクロメータ28を操作することで、後方ストッパー27の前後位置を調整可能である。」と記載され、段落[0046]には、「本実施例の装置では、押出部材10の後退移動は、装置の中間に位置した後方ストッパー27に後方当接部18が当接することで規定される。回転ツマミ81の回転によって後方ストッパー27の前後位置を変化させることができ、これによって、押出部材10の後退の規定位置を変化させることができる。」と記載されている。
すなわち、甲第1号証には液滴の状態での吐出を、高い再現性をもって行うという課題を解決するために、衝突部材が衝突するときの押出部材の位置を規定する衝突位置規定手段として、具体的には、後方当接部18が当接する後方ストッパー27の前後位置を変化させることができるマイクロメータ28及び回転ツマミ81を設けるものである。

しかしながら、甲1発明1において、「後方当接部材18」を液室14内で「押出部材10に設けられている」ものとする場合、「後方当接部材18」が当接する後方ストッパーは液室14内の壁面となり、その前後位置を変化させることができなくなる。
また、周知技術も、燃料室内でストッパ部が当接する箇所の前後位置を変化させるものではない。
つまり、甲1発明1において、「後方当接部材18」を液室14内で「押出部材10に設けられている」ものとする場合、液滴の状態での吐出を、高い再現性をもって行うという技術的利点が失われることになる。
したがって、甲1発明1に周知事項に基づき周知技術を適用することには阻害要因がある。
よって、甲1発明1に周知事項に基づき周知技術を適用し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 理由3(特許法第29条第2項)について
上記イで検討したように、甲1発明1において、「後方当接部材18」を液室14内で「押出部材10に設けられている」ものとする場合、「後方当接部材18」が当接する後方ストッパーは液室14内の壁面となり、その前後位置を変化させることができなくなる。
また、甲8技術も、ケーシング15内で部材25が当接する箇所の前後位置を変化させるものではない。
つまり、甲1発明1において、「後方当接部材18」を液室14内で「押出部材10に設けられている」ものとする場合、液滴の状態での吐出を、高い再現性をもって行うという技術的利点が失われることになる。
したがって、甲1発明1に甲8技術を適用することには阻害要因がある。
よって、甲1発明1に甲8技術を適用し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(1-2)本件特許発明2及び3について
請求項2及び3は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明2及び3は、本件特許発明1をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明2及び3は、本件特許発明1と同様に、甲1発明1ではなく、当業者が甲1発明1、周知技術及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、当業者が甲1発明1及び甲8技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(1-3)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1発明2を対比すると、甲1発明2における「衝突部材20」及び「衝突部22」は、その機能、構成または技術的意義からみて、ともに本件特許発明1における「作動部材」に相当し、以下、同様に、「プランジャー13の先端」は「先端部」に、「押出部材10」及び「当接部12」はともに「弁部材」に、「液室14」は「流体室」に、「液室14の内壁」は「弁座」に、「本体1」は「弁」に、「液滴吐出装置」は「ディスペンサー」に、「液材」は「流体」に、「液滴」は「噴流」に、「吐出」は「吐出」に、「液滴吐出方法」は「方法」にそれぞれ相当する。
さらに、甲1発明2における「バネ26の付勢により」は「動力で」に、「衝突部22と当接部12との間隙」は「間隙」に、「前方に前進移動させる」は「軸線に沿って移動させる」に、「当接させ」は「機械的に連結させ」に、「エネルギー」は「増幅力」に、「押出部材10の前進距離」は「軸線に沿う作動距離」に、「前進させ」は「軸線に沿って移動させ」に、「当接させて」は「係合させて」に、「吐出する」は「放出する」に、「バネ23を用いて」は「ばね付勢を用いて」に、「後方当接部材18」は「停止部」に、「後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態」は「開始位置」に、「後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に後退すること」は「開始位置へ戻すこと」に、「設けられている」は「連結されている」に、「後方当接部材18が後方ストッパー27に当接した状態に維持させる」は「開始位置に停止させる」に、それぞれ、相当する。

したがって、本件特許発明4と甲1発明2は、
「作動部材と、先端部を有する弁部材と流体室内に位置する弁座とを含む弁とを含むディスペンサーを用いて流体の噴流を吐出する方法であって、
作動部材を動力で間隙を通して軸線に沿って移動させることと、
作動部材を、間隙の終端で弁部材と機械的に連結させ、弁部材に増幅力を与えることと、
作動部材と弁部材とを、増幅力を用いて軸線に沿う作動距離に沿って一緒に移動させることと、
弁部材の先端部を流体室内で軸線に沿って移動させ、弁から流体の噴流を吐出することと、
先端部を作動距離の終端で弁座と係合させて流体の噴流を放出することと、
弁部材の先端部が弁座から離れるように、ばね付勢を用いて弁部材を開始位置へ戻すこと
を含み、
ディスペンサーは、弁部材に連結されている停止部を含み、
方法は、停止部によって弁部材を開始位置に停止させることを更に含むことを特徴とする方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明4においては、「停止部」は「流体室内で弁部材に連結されている」のに対し、甲1発明2においては、「後方当接部材18」が液室14内で「押出部材10に設けられている」のか否か不明な点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点2についての判断>
ア 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
上記<相違点1についての判断>のアにおいて検討したように、甲第1号証には、液室14内に後方当接部材18を設けることは記載も示唆もされていないから、甲第1号証に相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項は記載されていない。
よって、甲1発明2は、相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項を有さない点で、本件特許発明4と一致しないので、本件特許発明4は甲1発明2ではない。

イ 理由2(特許法第29条第2項)について
上記<相違点1についての判断>のイにおいて検討したように、甲1発明2において、「後方当接部材18」を液室14内で「押出部材10に設けられている」ものとする場合、液滴の状態での吐出を、高い再現性をもって行うという技術的利点が失われることになる。
したがって、甲1発明2に周知事項に基づき周知技術を適用することには阻害要因がある。
よって、甲1発明2に周知事項に基づき周知技術を適用し、相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 理由3(特許法第29条第2項)について
上記<相違点1についての判断>のウにおいて検討したように、甲1発明2において、「後方当接部材18」を液室14内で「押出部材10に設けられている」ものとする場合、液滴の状態での吐出を、高い再現性をもって行うという技術的利点が失われることになる。
したがって、甲1発明2に甲8技術を適用することには阻害要因がある。
よって、甲1発明2に甲8技術を適用し、相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(1-4)本件特許発明5ないし7について
請求項5ないし7は、請求項4を引用するものであって、請求項4にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明5ないし7は、本件特許発明4をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明5ないし7は、本件特許発明4と同様に、甲1発明2ではなく、当業者が甲1発明2、周知技術及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、当業者が甲1発明2及び甲8技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2) 小括
以上のとおりであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもないので、同法第113条第2号に該当するものではない。

3 理由4(特許法第36条第6項第2号)について
(1)特許異議申立人の主張
理由4に関する主張として、特許異議申立書の第31ページ下から5行ないし第32ページ2行には、「本件特許発明1の構成要件Cにおいては、「弁」が「弁部材」のみを含むことが特定されているが、本件特許発明4の構成要件Kでは「弁部材」と「弁座」とを「弁」が含むことが特定されており、請求項間で用語が不統一であるから、不明確である。本件特許発明1の「弁」が「弁座」を含まないことは、構成要件Eで「弁座」の用語が「弁」との関係を規定することなく用いられていることからも明らかであると思料される。
また、構成要件Eでは、「先端部は・・・流体の噴流を放出し」と規定されるが、「先端部」のみの作用により流体の噴流を放出することはできないから、意味が不明確である。」と記載されている。

また、特許異議申立書の第32ページ7行には、「請求項2および3は、不明確な請求項1に従属するので、不明確である。」と記載されている。

(2)当審の判断
特許異議申立書の第9ページ2行ないし第10ページ17行において、特許異議申立人が分説した本件特許発明の構成要件を、以下、それぞれ「構成要件A」などという。

(2-1)弁について
本件特許発明1の構成要件Cは、「前記第1の距離よりも短い第2の距離に沿って移動するように取り付けられている弁部材を含む弁とを備え、」というものであり、「弁部材を含む弁」であることは特定されているが、「弁」が「弁部材」のみを含むことは特定されていない。
また、本件特許発明1の構成要件Eは、「前記弁部材は、弁座と係合可能な先端部を有する弁棒を更に含み、前記弁座は、流体室内に配置され、それによって、前記先端部は、前記第2の距離の終端で前記弁座と係合し、流体の噴流を放出し、」というものであり、「弁座」と「弁」との関係は特定されていないが、「弁」が「弁座」を含まないことも特定されていない。
つまり、本件特許発明1において、「弁」が「弁部材」のみを含むことも「弁座」を含まないことも特定されていない、すなわち、「弁」が「弁部材」と「弁座」とを含むことも包含されている。
そして、本件特許発明4の構成要件Kは、「作動部材と、先端部を有する弁部材と流体室内に位置する弁座とを含む弁とを含むディスペンサーを用いて流体の噴流を吐出する方法であって、」というものであり、「弁」が「弁部材」と「弁座」とを含むことが特定されているが、本件特許発明1との間で用語が不統一ではないから、本件特許発明1が明確でないとまではいえない。

(2-2)先端部について
本件特許発明1の構成要件Eは、「前記弁部材は、弁座と係合可能な先端部を有する弁棒を更に含み、前記弁座は、流体室内に配置され、それによって、前記先端部は、前記第2の距離の終端で前記弁座と係合し、流体の噴流を放出し、」というものである。
つまり、「先端部は」「弁座と係合し」「流体の噴流を放出」するものであり、「先端部」のみの作用により流体の噴流を放出するものではないし、「流体の噴流を放出」するための構成も明確である。
よって、本件特許発明1が、明確でないとまではいえない。

(2-3)請求項2及び3(本件特許発明2及び3)について
上記(2-1)及び(2-2)で検討したように、本件特許発明1は明確でないとまではいえないから、従属関係である本件特許発明2及び3が、明確でないとまではいえない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-27 
出願番号 特願2012-543199(P2012-543199)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B05C)
P 1 651・ 537- Y (B05C)
P 1 651・ 121- Y (B05C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大谷 光司  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
梶本 直樹
登録日 2015-11-27 
登録番号 特許第5843780号(P5843780)
権利者 ノードソン コーポレーション
発明の名称 流体噴射ディスペンサー及び流体の噴流を吐出する方法  
代理人 高橋 誠一郎  
代理人 岡部 讓  
代理人 越智 隆夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ