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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G08G
管理番号 1320219
異議申立番号 異議2016-700662  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-02 
確定日 2016-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5850771号発明「車線逸脱警報装置および車線逸脱警報の発生制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5850771号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5850771号(請求項の数[5]、以下「本件特許」という。)は、平成24年3月16日に出願した特願2012-61219号に係るものであって、その請求項1-5に係る発明について、平成27年12月11日に特許の設定登録がされ、その後、その請求項1に係る発明の特許に対し、特許異議申立人により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5850771号の請求項1に係る発明は、下記の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、本件請求項1に係る発明を、本件特許発明1という。)
「【請求項1】
撮像装置より入力される車両後方の撮影画像から車両の左右のレーンマークを検出するレーンマーク検出部と、
上記レーンマーク検出部により検出されたレーンマークを跨いで車両が車線から逸脱する恐れがある場合に警報を発するものであって、上記レーンマーク検出部により検出されたレーンマークの横方向の移動速度に応じて上記警報の発生タイミングを早めるようになされた警報発生部と、
上記レーンマーク検出部により検出された左右のレーンマークについて横方向の移動速度を検出する移動速度検出部と、
上記移動速度検出部により検出された上記左右のレーンマークの横方向の移動速度が同じでない場合に、上記警報の発生を禁止するように上記警報発生部を制御する警報禁止制御部とを備えたことを特徴とする車線逸脱警報装置。」

3.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、特開2010-36645号公報(以下「引用文献1」という。)、特開2010-211701号公報(以下「引用文献2」という。)を提出し、以下のように主張している。

申立理由:特許法第29条第2項
本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.各引用文献の記載(下線部は当審付加)
(1)引用文献1の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献1には「車線逸脱防止制御装置」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0010】
(5)横速度の増加に応じて逸脱判定閾値を走行車線の中央側にシフトすることによって、横速度が大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には比較的車線中央側を走行している場合であっても逸脱判定を成立させることができ、例えば警報を出力するなど制御の状態を切り換えて車線逸脱を防止することができる。
(6)横速度の増加に応じて走行車線からの逸脱を防止する方向への操舵力を増加補正することによって、横速度が大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には復元方向へ大きな操舵力を付与し、車線逸脱を防止することができる。
(7)偏差に乗算されるゲインを横速度に基づいて設定することにより操舵力の補正を行うことによって、装置の演算負荷をほとんど増加させることなく上述した効果を得ることができる。」

(イ)「【0012】
以下、本発明を適用した車線逸脱防止制御装置の実施例1について説明する。
実施例1の車線逸脱防止制御装置は、例えば、前2輪を操舵する乗用車等の4輪自動車に設けられるものである。
図1は、実施例1の車線逸脱防止制御装置を含む車両のシステム構成を示す図である。
車線逸脱防止制御装置は、自車両の走行車線からの逸脱傾向が判定された場合に、運転者に逸脱を警報しかつ車両を車線中央方向へ戻すため、操舵機構10に操舵トルク(操舵力)を付与するものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。」

(ウ)「【0021】
環境認識手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の環境を認識し、自車両の走行車線を設定するものである。
環境認識手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。」

(エ)「【0024】
環境認識手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識することによって、自車両の走行車線を設定する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
図2は、自車両及び走行車線の平面的配置の一例を示す図である。
環境認識手段110は、基準画像のデータから、路面上に相当する箇所の各画素の輝度データに基づいて白線WL部分を検出する。自車両に対する白線WL部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を車線の輪郭として認識する。そして、上述した視差を用いて当該白線部分の画素群の距離を算出することによって、白線の位置を検出する。
【0025】
そして、環境認識手段110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点PLを設定し、整合のとれない車線候補点PLを無視するとともに、二次の最小二乗近似による補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
ここで、白線WLは、以下の式1によって近似される。

y=ax^(2)+bx+c ・・(式1)
a,b,c:定数

なお、ここでcは自車両重心から左右車線端までの距離を示し、右側白線のc(C_right)と左側白線のc(C_left)との和は自車両の車線中央からの横偏差を示し、またこれらの差は車線幅を示している。
また、環境認識手段110は、車線左右の白線WLの中央に、目標走行位置Xcを設定する目標走行位置設定手段としても機能する。
【0026】
自車進行路推定手段120は、環境認識手段110からの情報、舵角センサ21、車速センサ32、ヨーレートセンサ33等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車両の進行路を推定するものである。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の重心の横位置を算出することによって行う。注視距離Zは、自車両前方の所定の距離であって、例えば自車両が数秒後(例えば約2秒程度)に到達する位置に設定される。
自車両の重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車進行路の横位置Xeは、以下の式2によって求められる。

(当審注:「(式2)」省略)

【0027】
偏差制御操舵力算出手段130は、環境認識手段110が設定した目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出した自車両OVの横位置Xeとの差分である偏差ΔXに基づいた偏差制御による操舵トルクτ1を算出する。偏差制御操舵力算出手段130は、例えば、偏差ΔXを3乗した値に所定のゲインGxを乗じた3次制御項、及び、偏差ΔXを積分した値に所定のゲインGiを乗じた積分項等を加算することによって操舵トルクτ1を算出する。
この偏差制御操舵力算出手段130は、本発明にいう第1の操舵力設定手段として機能する。
【0028】
横速度検出手段140は、自車両OVの車線に対する横速度V_latを検出するものである。横速度検出手段140は、環境認識手段110が設定する目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出する自車両OVの横位置Xeとの偏差ΔXを時間微分することによって、横速度V_latを検出する。」

(オ)「【0040】
次に、本発明を適用した車線逸脱防止制御装置の実施例2について説明する。なお、上述した実施例1と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
実施例2の車線逸脱防止制御装置は、実施例1の車線逸脱防止制御ユニット100に代えて、以下説明する車線逸脱防止制御ユニット200を備えている。
車線逸脱防止制御ユニット200は、実施例1の車線逸脱防止制御ユニット100における横速度制御操舵力算出手段150に代えて、以下説明するゲイン補正手段210、逸脱判定手段220、閾値補正手段230等を備えている。
【0041】
ゲイン補正手段210は、横速度検出手段140が検出する自車両OVの対車線横速度V_latに応じて、偏差制御操舵力算出手段130の3次制御のゲインを補正するものである。
図6は、ゲイン補正手段210によりゲインを補正した際の偏差ΔXに対する操舵トルクτの変化を示すグラフである。
ゲイン補正手段210は、横速度V_latの増加に応じて3次制御のゲインを、G0からG1へ、さらにG1からG2へと増加させる。その結果、図6に示すように、操舵ト
ルクτも大きくなり、特に偏差ΔXが大きい領域では操舵トルクτの増大が顕著となる。
【0042】
逸脱判定手段220は、目標走行位置Xcと自車両の横位置Xeとの偏差ΔXが、所定の閾値を超えた場合に自車両の逸脱を判定するものである。逸脱判定が成立した場合は、目標操舵力設定手段160は、例えば目標操舵トルクτの中に周期的にオンオフされるパルス状の成分τpを含ませることによって、ステアリングホイール11を振動させ、ドライバに逸脱を知らせる警報制御を行う。
【0043】
閾値補正手段230は、横速度検出手段140が検出する自車両OVの横速度V_latに応じて、逸脱判定手段220において用いられる閾値を補正するものである。閾値補正手段230は、横速度V_latの増加に応じて、閾値をΔX0からΔX1へ、さらにΔX1からΔX2へ変更する補正を行う。
図7は、自車両横位置と逸脱判定閾値との関係を示す模式的平面図である。閾値は、横速度の増加に応じて車線中央側(目標走行位置Xc側)へシフトされ、その結果、逸脱判定が成立するタイミングは早くなる。

(カ)「【0050】
以上説明した実施例2によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)横速度V_latの増加に応じて逸脱判定手段220における閾値を走行車線の中央側にシフトすることによって、横速度V_latが大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には比較的車線中央側を走行している場合であっても逸脱判定を成立させることによって、逸脱判定が成立するタイミングを早め、ステアリングホイールを振動させて警報を行い、車線逸脱を防止することができる。
(2)横速度V_latの増加に応じて走行車線からの逸脱を防止する方向への3次制御の操舵トルク設定用のゲインを増加補正することによって、横速度V_latが大きく逸脱までの余裕時間が短い場合には復元方向へ大きな操舵トルクを付与し、車線逸脱を防止することができる。」

上記(ア)?(カ)の記載、及び図面を参照すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものと認める。

「自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識することによって、自車両の走行車線を設定して自車両前方の車線形状を認識し、車線左右の白線WLの中央に、目標走行位置Xcを設定する環境認識手段110と、
環境認識手段110からの情報、車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づく自車進行路の推定を、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の重心の横位置Xeを算出することによって行う自車進行路推定手段120と、
目標走行位置Xcと自車両の横位置Xeとの偏差ΔXが、所定の閾値を超えた場合に自車両の逸脱を判定し、逸脱判定が成立した場合は、ドライバに逸脱を知らせる警報制御を行う逸脱判定手段220と、
環境認識手段110が設定する目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出する自車両の横位置Xeとの偏差ΔXを時間微分することによって、自車両の車線に対する横速度V_latを検出する横速度検出手段140と、
逸脱判定手段220において用いられる閾値を横速度V_latの増加に応じて車線中央側(目標走行位置Xc側)へシフトすることにより、逸脱判定が成立するタイミングを早くする閾値補正手段230と、
を有する車線逸脱防止制御装置。」

(2)引用文献2の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献2には「車線認識装置」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0020】
車線認識装置10により認識されたレーンマークと車両1との相対位置のデータは、車両1のECU(Electronic Control Unit)30に出力される。ECU30は、レーンマークと車両1との相対位置に基いて、車両1が走行車線内に維持されるように、ステアリング5をアシスト駆動する車線維持制御と、車両1が走行車線から逸脱しそうな状況となったときに、警報(図示しないスピーカからの音声出力等による)を行なう車線逸脱警報制御とを実行する。」

(イ)「【0022】
次に、図2を参照して、車線認識装置10は、制御周期毎にカメラ2により撮像される車両前方の道路の画像から、レーンマーク(白線、黄線、キャッツアイ、Botts Dots等)を検出するレーンマーク検出手段11と、レーンマーク検出手段11によるレーンマーク検出の有無を示す検出有無データが順次書き込まれて保持されるリングバッファ14(本発明のデータ保持手段に相当する)と、リングバッファ14に保持された検出有無データから、レーンマークの平均的な検出率であるレーンマーク検出率を算出するレーンマーク検出率算出手段12と、レーンマーク検出率が信頼性閾値よりも高いときに、車両とレーンマークとの相対位置を認識するレーンマーク位置認識手段13と、車両1が交差点を走行していることを検知する走行状況検知手段15と、走行状況検知手段15により車両1が交差点を走行していると検知されているときに、リングバッファ14への新たな検出有無データの追加を禁止する検出有無データ追加禁止手段16とを備えている。」

(ウ)「【0051】
また、本実施の形態では、走行状況検知手段15は、車両1が交差点を走行していることを検知したが、図7(a)に示したように、車両1が道路の分岐箇所A1を走行していること、及び図7(b)に示したように、車両1が道路の合流箇所A2を走行していることを検知するようにしてもよい。
【0052】
この場合には、走行状況検知手段15により、車両1が道路の分岐若しくは合流箇所を通過していることが検知されているときに、検出有無データ追加禁止手段16によりリングバッファ14への新たな検出有無データの追加を禁止することによって、車両1が分岐・合流箇所を通過して左右のレーンマークが検出可能な状態となったときに、速やかに車両1とレーンマークとの相対位置を認識して、ECU30による車線維持制御と車線逸脱警報制御を再開することができる。
【0053】
なお、道路の分岐・合流箇所を走行していることの検知は、例えば、左右のレーンマークが検出された状態から、いずれか一方のレーンマークのみが検出される状態に切替わったことを検知することや、GPSと地図データにより、車両1が走行中の道路の状況を判断することによって行うことができる。」

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献2には、以下の事項が開示されているものと認める。

「走行状況検知手段15により、車両1が道路の分岐若しくは合流箇所を通過していることが検知されているときに、検出有無データ追加禁止手段16によりリングバッファ14への新たな検出有無データの追加を禁止することによって、車両1が分岐・合流箇所を通過して左右のレーンマークが検出可能な状態となったときに、速やかに車両1とレーンマークとの相対位置を認識して、ECU30による車線維持制御と車線逸脱警報制御を再開することができる車線認識装置であって、
道路の分岐・合流箇所を走行していることの検知は、左右のレーンマークが検出された状態から、いずれか一方のレーンマークのみが検出される状態に切替わったことを検知することにより行う車線認識装置。」

5.判断
(ア)本件特許発明1と引用発明との対比
・引用発明の「自車両」及び「撮像した画像情報」は、それぞれ、本件特許発明1の「車両」及び「撮像装置より入力される」「撮影画像」に相当するものであり、引用発明の「自車両前方を撮像した画像情報」と、本件特許発明1の「撮像装置より入力される車両後方の撮影画像」とは、「車両の撮像装置より入力される撮影画像」の点で一致する。

・引用発明の「自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識することによって、自車両の走行車線を設定して自車両前方の車線形状を認識」する「環境認識手段110」は、車両が走行する車線(レーン)の左右の白線(マーク)を認識する手段であるから、本件特許発明1の「車両の左右のレーンマークを検出するレーンマーク検出部」に相当する。

・引用発明の「環境認識手段110からの情報、車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づく自車進行路の推定を、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の重心の横位置Xeを算出することによって行う自車進行路推定手段120と、目標走行位置Xcと自車両の横位置Xeとの偏差ΔXが、所定の閾値を超えた場合に自車両の逸脱を判定し、逸脱判定が成立した場合は、ドライバに逸脱を知らせる警報制御を行う逸脱判定手段220と」は、 自車両が走行車線を逸脱する恐れがあるか否かを判定して警報を発生する手段であり、走行車線を逸脱することは、自車両前方の車線両端部に配置された白線を越えることを意味するから、本件特許発明1の「レーンマーク検出部により検出されたレーンマークを跨いで車両が車線から逸脱する恐れがある場合に警報を発する」「警報発生部」に相当する。

・引用発明の「逸脱判定手段220において用いられる閾値を横速度V_latの増加に応じて車線中央側(目標走行位置Xc側)へシフトすることにより、逸脱判定が成立するタイミングを早くする閾値補正手段230」の構成と、本件特許発明1の「上記レーンマーク検出部により検出されたレーンマークの横方向の移動速度に応じて上記警報の発生タイミングを早めるようになされた警報発生部」の構成とは、「レーンマーク検出部により検出された横方向の移動速度に応じて警報の発生タイミングを早める」点において一致する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「車両の撮像装置より入力される撮影画像から車両の左右のレーンマークを検出するレーンマーク検出部と、
上記レーンマーク検出部により検出されたレーンマークを跨いで車両が車線から逸脱する恐れがある場合に警報を発するものであって、上記レーンマーク検出部により検出された横方向の移動速度に応じて上記警報の発生タイミングを早めるようになされた警報発生部。」

そして、以下の点で相違する。
<相違点1>
「車両の撮像装置より入力される撮影画像」に関し、本件特許発明1は「車両後方の撮影画像」であるのに対し、引用発明は「自車両前方を撮像した画像情報」である点。

<相違点2>
「横方向の移動速度」に関し、本件特許発明1は「レーンマークの横方向の移動速度」であるのに対し、引用発明は、横速度検出手段140が、環境認識手段110が設定する目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出する自車両の横位置Xeとの偏差ΔXを時間微分することによって求めた「自車両の車線に対する横速度V_lat」である点。

<相違点3>
本件特許発明1は「左右のレーンマークについて横方向の移動速度を検出する移動速度検出部と、上記移動速度検出部により検出された上記左右のレーンマークの横方向の移動速度が同じでない場合に、警報の発生を禁止するように警報発生部を制御する警報禁止制御部と」を有するのに対して、引用発明は、そのような構成を有していない点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
<相違点1?3>について
引用発明は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識することによって、自車両の走行車線を設定するものであり、相違点1に係る「車両後方の撮影画像」を用いることを何ら示唆するものではない。
また、相違点2に係る、横方向の移動速度も、引用発明は、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の重心の横位置Xeを算出し、環境認識手段110が設定する目標走行位置Xcと自車進行路推定手段120が算出する自車両の横位置Xeとの偏差ΔXを時間微分することによって、自車両の車線に対する横速度V_latを検出するものであるから、引用発明の横方向の移動速度は、車線を基準とした自車両の移動速度であるのに対し、本件特許発明1は車両を基準としてレーンマークの横方向の移動速度を検出するものであり、相違点1の相違に加え、横方向の移動速度の相対的な基準も異なるものであるから、レーンマークの横方向の移動速度を検出することを、引用発明から容易に想到し得たものとすることはできないし、当然相違点3に係る、左右のレーンマークの横方向の移動速度を検出することも
引用発明から容易に想到し得たものとすることはできない。

そして、引用文献2に記載された技術は、車線認識装置において、左右のレーンマークが検出された状態から、いずれか一方のレーンマークのみが検出される状態に切替わったことを検知することにより、道路の分岐・合流箇所を走行していることの検知が行われるものであるが、車線認識を行う際に、相違点1に係る「車両後方の撮影画像」を用いる点を開示するものでも示唆するものでもなく、相違点2に係る「レーンマークの横方向の移動速度」や、相違点3に係る「左右のレーンマークの横方向の移動速度」を検出することを開示するものでも示唆するものでもない。

本件特許明細書には「車線逸脱警報装置で用いるカメラとしても、リアカメラを使用する例が少なくない。」(段落【0003】)と記載され、併せて文献名も例示されているように「車両後方の撮影画像」を車線逸脱警報装置に用いること(相違点1)自体は、本件出願時に公知の技術であるものの、引用発明では、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の車線を認識するものであるから、早い段階で車線両端部の白線(レーンマーク)を認識できたものを、あえてリアカメラを用いてレーンマークの認識を遅くするような動機付けを生じさせるものではないし、本件特許発明1は、相違点1?3を総合すれば、引用発明にはない「リアカメラにより分岐区間において撮影された車両後方の画像からレーンマークが誤検出された後、正しいレーンマークへと検出結果が切り替わる際の誤警報の発生を抑制できる」(段落【0010】)という格別の効果を奏するものである。

したがって、本件特許発明1は、引用発明に、引用文献2に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

なお、異議申立人は、特許異議申立書において、大要次の2点を主張している。
・本件特許発明1は「車両後方の撮像画像」に従って制御しており、引用発明は「車両前方を撮像した画像情報」に従って制御している点において両者は異なっているが、前方と後方の違いについては、レーンマーク移動速度を検知できるタイミングのみの違いであり、撮像した画像によりレーンマークを認識し左右の横方向への移動速度を検出するためには、本件特許発明で記載する後方に格別な効果を奏するものではなく、車両の前方と後方という違いはあるが、当業者であれば容易に想到し得たことである。

・本件特許発明1の「上記移動速度検出部により検出された上記左右のレーンマークの横方向の移動速度が同じでない場合に、上記警報の発生を禁止する」点については、引用文献2に記載されている。

しかし、前述したように引用発明は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の車線を認識するものであるから、あえてリアカメラを用いて車線を識別するレーンマークの認識タイミングを遅くするような動機付けが生じるものではない。
また、引用文献2に記載された技術も、レーンマークの横方向の移動速度を検知するものではないから、車両後方の撮影画像から車両の左右のレーンマークを検出する車線逸脱警報装置において「左右のレーンマークの横方向の移動速度が同じでない場合に、警報の発生を禁止する」点が、引用発明及び引用文献2に記載された技術から容易に想到されるものではなく、異議申立人の主張を採用することはできないものである。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-29 
出願番号 特願2012-61219(P2012-61219)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (G08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相羽 昌孝  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 矢島 伸一
前田 浩
登録日 2015-12-11 
登録番号 特許第5850771号(P5850771)
権利者 アルパイン株式会社
発明の名称 車線逸脱警報装置および車線逸脱警報の発生制御方法  
代理人 橘 和之  

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