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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1320232
異議申立番号 異議2016-700378  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-27 
確定日 2016-10-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第5801199号発明「金属カルボン酸塩を含むエチレンビニルアルコール組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5801199号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5801199号に係る出願(特願2011-527000号、以下「本願」という。)は、平成21年9月11日(パリ条約に基づく優先権主張:2008年9月12日、米国)の国際出願日に出願人イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーによりなされたものとみなされる特許出願であり、平成27年9月4日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年4月27日付けで特許異議申立人齊藤整(以下「申立人」という。)により「特許第5801199号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、請求項1ないし請求項9が記載されており、そのうち請求項1には、以下のとおりの記載がある。
「エチレンビニルアルコールコポリマーおよび混合物を含む組成物であって、
前記エチレンビニルアルコールコポリマーが、コポリマーの重量を基準にして、20?50%のエチレン由来反復単位を含み;
前記混合物が、少なくとも1つのアルカリ金属塩、および6?18個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルカリ土類金属カルボン酸塩を含み;
前記組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであり;
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属酢酸塩と、アルカリ金属リン酸化合物又はホウ酸のアルカリ金属塩とを含み;
前記組成物中に存在する6?18個の炭素原子を有する前記カルボン酸塩が、前記組成物1グラム当たりのカルボキシレートのマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであり;かつ
前記組成物が、前記エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する、組成物。」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書において、下記甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)ないし(5)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(3)本件特許の請求項1に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるから、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)
(4)本件特許の請求項1に関して、同項の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由4」という。)
(5)本件特許の請求項1に関して、同項の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由5」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2001-200123号公報
甲第2号証:特開2001-234008号公報
甲第3号証:特開2000-178397号公報
甲第4号証:特開平4-227744号公報
甲第5号証:特開2005-178324号公報
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第5号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲5」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1ないし5につきいずれも理由がないから、本件の請求項1に係る発明についての特許は維持すべきもの、
と判断する。
以下、事案に鑑み、取消理由5、取消理由4、取消理由3、取消理由1及び2の順に詳述する。

I.取消理由5について
取消理由5について、申立人が特に主張する点は、本件特許異議申立書の記載(第32頁下から第3行?第34頁第3行)からみて、
「本件特許発明1には『前記組成物が、前記エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する』と記載されているが、『ゲル』がいかなる程度(大きさ等)のものを1つとして数えるのか記載されていない。また、測定方法・測定機器によって異なる値を示すところ、その測定方法・測定機器が記載されていないため、本件特許発明1に記載されている「ゲル」が不明確である」ことをもって、本件請求項1の記載では、同項に係る特許を受けようとする発明が明確でないというものであると認められる。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0078】、【0088】等)に基づき検討すると、本件発明における「ゲル」につき、
(a)「1.9cm一軸(25:1 長さ:直径)スクリュー押出機を使用して、」本件発明に係る組成物の「ペレットをブローンフィルムに押出し」て得た「フィルム中のゲル」を、「フィルムに対して接線方向に光を照らしたときのフィルムの写真から見積もった。ゲルは、白色の斑点として現れる。4cm^(2)の領域内の、直径約0.1mmより大きいゲル粒子の計数を、手作業で行」う方法(【0078】)又は
(b)「1.5インチ一軸スクリュー押出機を使用し、20/60/20(メッシュ)のスクリューパックを通して、速度30フィート/分で動く厚さ2±0.5ミルのフィルムに押出した。全てOptical Control Systems GmbH(Witten,ドイツ)から供給されるOCS FS-5 カメラを使用して、このフィルムを自動ゲルカウント(モジュラー局面検査)装置「Film Test FSA100」でモニターした。存在したゲルを、フィルム50平方フィート当たりのゲル粒子数として記録した。」との方法(【0088】)
で測定(モニター)することが本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているのであるから、当該記載を参酌すると、本件発明における「ゲル」とは、直径0.1mm以上の粒径を有するものであり、その測定方法・測定機器としては、上記の2種の方法・装置で行うものであると認識するのが自然である。
してみると、本件発明における「ゲル」につき不明確であるということはできず、当該「ゲル」につき不明確であることにより、本件請求項1の記載では、特許を受けようとする発明が明確でないとまでいうことはできない。
したがって、申立人が主張する上記取消理由5は、理由がない。

II.取消理由4について
取消理由4について、申立人が特に主張する点は、本件特許異議申立書の記載(第32頁第8行?第23行)からみて、
(a)「本件発明における『アルカリ金属イオン含有量』に係る『1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/g』なる範囲の下限値『1マイクロ当量/g』は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない」こと、又は
(b)「本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された『本願の実施例』は、本件請求項1に記載された『組成物中に存在する6?18個の炭素原子を有する前記カルボン酸塩が、前記組成物1グラム当たりのカルボキシレートのマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであ』ることを満たさない」こと、
により、本件請求項1に記載されている事項が発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず、本件の特許請求の範囲(の請求項1)の記載は、サポート要件を満たさない、というものであると認められる。
ここで、前提として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0008】等)に基づき検討すると、本件発明の解決課題は、「『本質的に接着力が劣るEVOHを用いる場合」において、接着力が改善されたゲルを含有しないEVOH樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
そこで、上記(a)の点につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、申立人が主張する平成26年7月17日付け手続補正書による補正前の「アルカリ金属イオン含有量」に係る下限値(6.5μEq/g)を下回る「アルカリ金属イオン含有量」の「実施例85-1」(6μEq/g)及び「実施例85-2」(4μEq/g)が記載されており、当該各「実施例」の場合に、原料EVOH(EVOH32-1)の接着力「600(g/m)」に対して改善された「650(g/m)」の接着力を有することが記載されていることからみて、補正前の「アルカリ金属イオン含有量」に係る下限値(6.5μEq/g)を下回る場合であっても、少なくとも接着力の点で改善される場合が存すると当業者が認識することができるものと認められる。
そして、本件発明の(樹脂)組成物において、「アルカリ金属イオン」は必須に存在すべきものであって、当然のことながら含有量範囲の下限値が存するものと認められるところ、その下限値を「1マイクロ当量/g」とすることは、当業者が所望に応じて適宜決定できることであり、本件発明において、アルカリ金属イオン含有量につき「1マイクロ当量/g?6.5マイクロ当量/g」とした場合に、所期の解決課題を解決できるものでないとすべき当業者の技術常識・阻害要因などが存するものとも認められない。
してみると、請求項1記載の「アルカリ金属イオン含有量」につき、「1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/g」なる範囲にまで拡張することはできるものと認められる。
してみると、申立人の上記(a)に係る主張は、当を得ないものであり、採用することができない。
次に、上記(b)の点につき検討すると、申立人が主張する「本願の実施例」とは、「EVOH32-3」に対して「0.126重量%のカプリル酸カルシウム、0.11重量%のステアリン酸カルシウム、および0.2重量%のIrganox 1010」なる添加物の合計約0.43重量%を添加してなる組成物についての実施例(表6の下段のもの)であるものと認められる。
しかるに、そもそも、当該「実施例」は、アルカリ金属塩を含有するものではないから、本件の請求項1に係る発明についての実施例であるとはいえない。
また、上記「実施例」におけるカプリル酸カルシウム及びステアリン酸カルシウムの含有量(マイクロ当量/g)につき一応算出すると、下記のとおりとなり、合計5.677マイクロ当量/gの含有量になるものと認められ、本件請求項1の「組成物1グラム当たりのカルボキシレート(決定注:この「カルボキシレート」は、主語の「カルボン酸塩」なる表現との対応関係からみて「カルボン酸塩」の誤訳であるものと認める。)のマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであ」ることを満たすものと認められる。
<カプリル酸Ca>
0.126重量%(1260ppm)/326(分子量)
=3.865μeq/g
<ステアリン酸Ca>
0.11重量%(1100ppm)/607(分子量)
=1.812μeq/g
してみると、申立人の上記(b)に係る主張についても、根拠を欠くものであり、採用することができない。
以上のとおりであるから、申立人の上記(a)又は(b)の点により本件請求項1に記載されている事項が発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず、本件の特許請求の範囲(の請求項1)の記載がサポート要件を満たさない旨の主張は、採用することができない。
よって、申立人が主張する上記取消理由4についても、理由がない。

III.取消理由3について
取消理由3において、申立人が特に具体的に主張する点は、本件特許異議申立書の記載(第31頁第10行?第32頁第7行)からみて、
(a)「本件特許発明1の効果である、フィルム中のゲルの除去を示した試験(表6)では、本件特許発明1の必須構成要素である、アルカリ金属リン酸化合物又はホウ酸のアルカリ金属塩が含まれていない」こと、
(b)「表6に記載されている『EVOH32-3』は、本件特許発明1の『組成物中に存在する6?18個の炭素原子を有する前記カルボン酸塩が、前記組成物1グラム当たりのカルボキシレートのマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであ』ることを満たさない」こと、又は
(c)「実施例85-6(表2)では、本件発明の必須構成要素を全て備えているのに対して、各種成分を配合する前の『EVOH-32-1』(表1)の接着力に比して劣るものであり、本件特許発明1の『EVOHの改良された接着力を従来のEVOH樹脂にもたらす』という効果が確認できない」こと、
により、出願時の技術常識を考慮しても、(本件特許明細書の)発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というものであると認められる。
そこで、まず、上記(b)の点につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、上記II.で説示したとおり、「EVOH32-3」は、そもそも、アルカリ金属塩を含有するものではないから、本件の請求項1に係る発明についての実施例であるとはいえないし、本件請求項1の「組成物1グラム当たりのカルボキシレート(決定注:この「カルボキシレート」は、「カルボン酸塩」の誤訳であるものと認める。)のマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであ」ることを満たすものと認められるから、申立人の上記(b)に係る主張については、根拠を欠くものであり、採用することができない。
また、上記(a)及び(c)の各点につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて併せて検討すると、フィルム中のゲルの除去を示した試験(表6)では、本件特許発明1の必須構成要素である、アルカリ金属リン酸化合物又はホウ酸のアルカリ金属塩(及びアルカリ金属酢酸塩)が含まれていない「EVOH32-3(添加物0.43%含有)」の場合であっても、ゲルの除去が達成されたことが記載されているのみであるのに対して、アルカリ金属リン酸化合物又はホウ酸のアルカリ金属塩(及びアルカリ金属酢酸塩)が更に含まれた場合にゲルの除去が不可能であるとすべき当業者の技術常識等が存するものでもないから、当該「フィルム中のゲルの除去を示した試験(表6)」の記載に基づいて、当業者が本件特許発明1につき所期の効果(ゲルの除去)を奏し得ないものと認識するものとは認められない。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の「試験(表2)」(【0068】からみて、本件発明に係る技術事項を具備する「85-3」、「85-7」及び「85-8」の各実施例においては、各種成分を配合する前の「EVOH-32-1」(表1)の接着力に比して、接着力が改善されていることは明らかであるから、本件発明につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
してみると、申立人の上記(a)及び(c)に係る主張についても、いずれも根拠を欠くものであり、採用することができない。
したがって、申立人の上記(a)ないし(c)の各主張は、いずれも当を得ないものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に記載したものではないとまでいうことはできない。
よって、申立人が主張する取消理由3についても、理由がない。

IV.取消理由1及び2について

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由1及び2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲5に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1及び甲2に係る引用発明の認定を行う。
なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。

(1)甲1の記載事項及び記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)及び脂肪酸金属塩(C)を含有してなる樹脂組成物ペレットで、かつ脂肪酸金属塩(C)が該ペレットの内部および外部表面にそれぞれ存在することを特徴とする樹脂組成物ペレット。
【請求項2】 樹脂組成物ペレットの外部表面に存在する脂肪酸金属塩(C)が、炭素数12?30の脂肪族モノカルボン酸の1種または2種以上と、マグネシウム、カルシウム、亜鉛から選ばれる金属からなることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項3】 樹脂組成物ペレットの内部に存在する脂肪酸金属塩(C)が、炭素数12?30の脂肪族モノカルボン酸の1種または2種以上と、マグネシウム、カルシウム、亜鉛から選ばれる金属からなることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項4】 樹脂組成物ペレットの外部表面に存在する脂肪酸金属塩(C)の含有量が、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)とポリアミド系樹脂(B)の合計量100重量部に対して0.005?0.05重量部であることを特徴とする請求項1?3いずれか記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項5】 樹脂組成物ペレットの内部に存在する脂肪酸金属塩(C)の含有量が、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)とポリアミド系樹脂(B)の合計量100重量部に対して0.002?0.06重量部であることを特徴とする請求項1?4いずれか記載の樹脂組成物ペレット。
・・(中略)・・
【請求項7】 さらに酢酸ナトリウムを含有してなり、酢酸ナトリウムの含有量が、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部であることを特徴とする請求項1?6いずれか記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項8】 さらにホウ酸を含有してなり、ホウ酸の含有量が、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)100重量部に対してホウ素換算で0.001?1重量部であることを特徴とする請求項1?7いずれか記載の樹脂組成物ペレット。
・・(後略)」

(a-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する)を主成分とする樹脂組成物ペレットおよびその成形物に関し、更に詳しくは、押出加工特性(ロングラン成形性)と耐レトルト性能(ボイル或いはレトルト処理後の成形体の外観性やガスバリアの回復性)に優れた樹脂組成物ペレットおよびその成形物に関する。」

(a-3)
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、本発明者らが上記の各公報開示技術について、詳細に検討を行った結果、特開平8-253638号公報、特開平4-304253号公報、特開平7-97491号公報に開示の技術では、ロングラン成形性の改善はある程度認められるものの、溶融成形時に樹脂組成物の熱分解に起因する臭気の問題があり、さらにボイル或いはレトルト処理後の成形体の外観性の改善については充分ではなく、また、特開平8-259756号公報においても上記のロングラン成形性の改善やボイル或いはレトルト処理後の成形体の外観性の改善はある程度認められるものの、ボイル或いはレトルト処理後のガスバリア性の回復という点で改善の余地がある。さらに、特開平10-80981号公報、特開平4-131237号公報、特開平6-23924号公報に開示の技術では、ボイル或いはレトルト処理後の成形体の外観性の改善は見られるものの、ロングラン成形性の改善については充分ではなく、両者を同時に満足させることは困難であり、押出加工特性(ロングラン成形性)と耐レトルト性能(ボイル或いはレトルト処理後の成形体の外観性やガスバリアの回復性)に優れた樹脂組成物(ペレット)が望まれるところである。」

(a-4)
「【0008】本発明に用いられるEVOH(A)としては、特に限定されないが、エチレン含量20?60モル%(更には20?45モル%、特に25?35モル%)で、酢酸ビニル成分のケン化度が90モル%以上(更には95モル%以上、特に99モル%以上)のものが用いられ、該エチレン含有量が20モル%未満では高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下し、逆に60モル%を越えると充分なガスバリア性が得られず、更にケン化度が90モル%未満ではガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下して好ましくない。
【0009】特にEVOH(A)として、エチレン含量が25?35モル%で、かつ酢酸ビニル成分のケン化度が99モル%以上のものを用いた場合に、本発明の効果(耐レトルト性)を顕著に得ることができる。」

(a-5)
「【0014】本発明に用いられる脂肪酸金属塩(C)としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ノナデカン酸、オレイン酸、カプリン酸、ベヘニン酸、リノール酸、アジピン酸等の有機酸の、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、銅、コバルト、鉄、マンガン等の金属塩を挙げることができ、特にかかる(C)成分が、炭素数12?30の脂肪族モノカルボン酸の1種または2種以上と、マグネシウム、カルシウム、亜鉛から選ばれる金属からなる脂肪酸金属塩である場合、本発明の効果をより顕著に得られる点で好ましい。」

(a-6)
「【0019】本発明においては、少なくとも該ペレット外部表面に存在する(C)成分が上記脂肪族モノカルボン酸の亜鉛等の金属塩であることが好ましく、該ペレットの内部と外部表面に存在する(C)成分が共に上記脂肪族モノカルボン酸の亜鉛またはマグネシウム等の金属塩であることが、本発明の効果をより顕著に得られる点で最も好ましい。
【0020】また(C)成分としては種類(脂肪酸種や金属種)の異なる少なくとも2種以上のものを併用して用いることも可能であり、さらに樹脂組成物ペレットの内部と外部表面に存在する(C)成分の種類は同じでも異なっていてもよい。
・・(中略)・・
【0022】また、脂肪酸金属塩(C)の配合割合も特に限定されないが、樹脂組成物ペレット内部に存在せしめた脂肪酸金属塩(C1)については、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.002?0.06重量部(更には0.005?0.05重量部、特には0.01?0.03重量部)とすることが好ましく、かかる配合量が0.002重量部未満ではロングラン成形性の改善効果に乏しく、逆に0.06重量部を越えると溶融成形時の臭気が大きくなる傾向にあり好ましくない。
【0023】さらに樹脂組成物ペレット外部表面に存在せしめた脂肪酸金属塩(C2)については、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.005?0.05重量部(更には0.01?0.03重量部、特には0.015?0.025重量部)とすることが好ましく、かかる配合量が0.005重量部未満ではロングラン成形性の改善効果に乏しく、逆に0.05重量部を越えると溶融成形時のペレットのフィード性(押出機への食い込み性)が不安定になることがあり好ましくない。」

(a-7)
「【0032】本発明においては、かかる樹脂組成物ペレット中に酢酸、ホウ酸、リン酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を含有させることも、樹脂組成物の熱安定性、ロングラン成形性、積層体としたときの接着性樹脂との層間接着性、加熱延伸成形性等が向上する点で好ましく、好適には酢酸、ホウ酸、リン酸、酢酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩であり、特にはホウ酸と酢酸ナトリウム(ただしペレット内部に存在する脂肪酸金属塩(C1)とは別に)が効果的である。
【0033】ホウ酸の含有量は、EVOH100重量部に対してホウ素換算で0.001?1重量部(更には0.002?0.5重量部、特には0.005?0.2重量部)が好ましく、0.001重量部未満ではその添加効果に乏しく、逆に1重量部を越えると最終的に得られる成形物の外観性が低下して好ましくない。また、酢酸ナトリウムの含有量は、EVOH100重量部に対して金属換算で0.005?0.025重量部(更には0.007?0.02重量部、特には0.01?0.015重量)が好ましく、0.005重量部未満ではその添加効果に乏しく、逆に0.025重量部を越えると最終的に得られる成形物の外観性が低下して好ましくない。ホウ酸及び酢酸ナトリウムを併用する場合はそれぞれの含有量が上記の条件を満足することが好ましい。」

(a-8)
「【0055】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0056】尚、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準を示す。
【0057】また、実施例中の(C)成分と酢酸ナトリウムの含有量は、EVOHまたは樹脂組成物ペレットを灰化後、塩酸水溶液に溶解し原子吸光分析法により各金属を定量することにより算出した。さらにEVOH中のホウ酸の含有量は、EVOHペレットをアルカリ溶融してICP発光分光分析法によりホウ素を定量することにより算出した。
【0058】実施例1
ペレット状のEVOH(A)[エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、MFR8.2g/10分(210℃,2160g荷重)、酢酸ナトリウム含有量0.039部(ナトリウムとして0.011部)]100部に、ペレット状のポリアミド系樹脂(B)[三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバミッド1022C6」(ナイロン6)、密度1.14g/cm^(3)、融点215℃]10部およびステアリン酸亜鉛(C1)0.015部(但し、EVOH(A)とポリアミド系樹脂(B)の合計量100部に対して)を配合し、30mmφ同方向二軸押出機(L/D=28)により温度230℃で溶融混練を行い、樹脂組成物ペレットを得た。ただし、EVOH(A)中の酢酸ナトリウムについては、EVOH製造時におけるケン化工程で副生成した酢酸ナトリウムの量を水洗処理により調整することにより含有せしめた。
【0059】上記で得られた樹脂組成物ペレット(形状:円筒形、直径2.5mm、長さ3.0mm)100部に水2部を加えロッキングミキサーで10分間ブレンドを行い、含水率2%の樹脂組成物ペレットを得た。次いで、かかるペレット100部を別途ロッキングミキサーに投入し、更にステアリン酸亜鉛(C2)0.016部を投入してブレンドを行って、樹脂組成物ペレットの表面にステアリン酸亜鉛(C2)0.015部を付着せしめた。さらに100℃の乾燥機で10時間乾燥し、目的とする本発明の樹脂組成物ペレット(含水率0.3%)を得た。
【0060】得られた樹脂組成物ペレットについて、押出加工特性(ロングラン成形性(1)(決定注:以下、丸数字は、括弧数字に置き換える。)、(2))及び耐レトルト特性(ガスバリア回復性、外観性)の評価を以下の要領で行った。
[押出加工特性]
・・(中略)・・
(ロングラン成形性(2))得られた樹脂組成物ペレットとポリアミド樹脂[三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバミッド1022c6」(ナイロン6)、密度1.14g/cm^(3)、融点215℃]を2種3層の共押出製膜装置(成形温度240℃)に供給して、ポリアミド樹脂層/樹脂組成物からなる層/ポリアミド樹脂層[厚み構成:52/52/52(μm)]からなる積層体(成形物)の製造を連続して7日間行い、積層体(成形物)の外観を経時的に目視観察して、以下の通り評価した。
【0063】
○ --- 製膜開始後、7日間経過しても異物、ゲルまたはサージングの発生はほとんど認められなかった
△ --- 製膜開始後、3?6日で異物、ゲルまたはサージングが発生
× --- 製膜開始後、3日未満で異物、ゲルまたはサージングが発生
・・(中略)・・
【0068】実施例3
ペレット状のEVOH(A)[エチレン含有量34モル%、ケン化度99.4モル%、MFR6.5g/10分(210℃,2160g荷重)、酢酸ナトリウム含有量0.043部(ナトリウムとして0.012部)、酢酸カルシウム(CI)含有量0.024部]100部に、ペレット状のポリアミド系樹脂(B)[三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバミッド1022C6」(ナイロン6)、密度1.14g/cm^(3)、融点215℃]12部を配合し、30mmφ同方向二軸押出機(L/D=28)により温度230℃で溶融混練を行い、樹脂組成物ペレットを得た。但し、EVOH(A)中の酢酸ナトリウムおよび酢酸カルシウム(C1)については、EVOH製造時におけるケン化工程後のEVOHの水/メタノール溶液を水槽にストランド状に押し出して凝固させてカッターで切断して得たペレット状の多孔性析出物を酢酸水溶液で洗浄後、酢酸ナトリウムおよび酢酸カルシウム(C1)を含有した水溶液に投入して撹拌することにより含有せしめた。
【0069】上記で得られた樹脂組成物ペレット(形状:円筒形、直径2.5mm、長さ3.0mm)100部に水2部を加えロッキングミキサーで10分間ブレンドを行い、含水率2%の樹脂組成物ペレットを得た。次いで、かかるペレット100部を別途ロッキングミキサーに投入し、更にステアリン酸カルシウム(C2)0.022部を投入してブレンドを行って、樹脂組成物ペレットの表面にステアリン酸カルシウム(C2)0.022部を付着せしめた。さらに100℃の乾燥機で10時間乾燥し、目的とする本発明の樹脂組成物ペレット(含水率0.3%)を得た。
【0070】得られた樹脂組成物ペレットについて、実施例1と同様の評価を行った。
・・(中略)・・
【0073】比較例1
実施例1において、(C1)および(C2)成分を配合しなかった以外は同様に行って、実施例1と同様の評価を行った。
・・(中略)・・
【0077】実施例、比較例のそれぞれの評価結果を表1にまとめて示す。
【0078】
〔表1〕


【0079】
【発明の効果】本発明の樹脂組成物ペレットは、上記の如き(A)?(C)成分からなり、かつ(C)成分が該ペレットの内部および外部表面にそれぞれ存在するため、押出加工特性(ロングラン成形性)や耐レトルト特性(ボイル或いはレトルト処理後の成形体のガスバリア回復性や外観性)に優れ、各種の成形物とすることができ、食品や医薬品、農薬品、工業薬品包装用のフィルム、シート、チューブ、袋、ボトル、カップやトレーなどの容器等の用途に非常に有用で、特に、ボイル殺菌用またはレトルト殺菌用の包装多層積層体の成形物に好適に用いることができる。」

イ.甲1に記載された発明
上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-8)の各記載(特に下線部参照)からみて、
「エチレン含量20?60モル%で、酢酸ビニル成分のケン化度が90モル%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)及び脂肪酸金属塩(C)を含有してなる樹脂組成物ペレットで、かつ脂肪酸金属塩(C)が該ペレットの内部および外部表面にそれぞれ存在する樹脂組成物ペレットであって、
脂肪酸金属塩(C)として、炭素数12?30の脂肪族モノカルボン酸のマグネシウム、カルシウム、亜鉛から選ばれる金属塩を、上記樹脂組成物ペレット内部に存在せしめた脂肪酸金属塩(C1)としては、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.002?0.06重量部、上記樹脂組成物ペレット外部表面に存在せしめた脂肪酸金属塩(C2)としては、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.005?0.05重量部存在させてなり、
さらに、酢酸ナトリウムを(A)成分100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部及びホウ酸を(A)成分100重量部に対してホウ素換算で0.001?1重量部を含有してなる樹脂組成物ペレット。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲2の記載事項及び記載された発明

ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒素雰囲気下、220℃で加熱処理した時の極限粘度[η]の変化が以下の(1)?(3)式を満たし、カルボン酸(A)を0.05?5μmol/gおよびアルカリ土類金属塩(B)を金属元素換算で2?25μmol/g含有し、かつ下式(4)を満足することを特徴とするエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
0.05≦[η]0≦0.2 (1)
0.12≦[η]10/[η]0≦0.6 (2)
0.1≦[η]60/[η]0≦0.8 (3)
0.1≦(a)/(A)≦1.0 (4)
但し、
[η]0:加熱処理前の極限粘度
[η]10:加熱処理開始から10時間後の極限粘度
[η]60:加熱処理開始から60時間後の極限粘度
(A):カルボン酸(A)およびその塩の総含有量(μmol/g)
(a):分子量70以上のカルボン酸(a)およびその塩の含有量(μmol/g)
・・(中略)・・
【請求項3】 アルカリ土類金属塩(B)を、以下の(6)?(8)式で表されるMIIの範囲内で含有する請求項1または2に記載の樹脂組成物。
X=0.0257×E^(2)-2.31×E+54.7 (6)
Y=0.0372×E^(2)-2.43×E+47.7 (7)
X≦M_(II)≦Y (8)
但し、
E:エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量(モル%)
M_(II):アルカリ土類金属塩(B)の含有量(金属換算値:μmol/g)
【請求項4】 アルカリ土類金属塩(B)、アルカリ金属塩(C)およびカルボン酸(A)を、以下の式(6)、(7)および(9)で表される範囲内で含有する請求項1?3のいずれかに記載の樹脂組成物。
X=0.0257×E^(2)-2.31×E+54.7 (6)
Y=0.0372×E^(2)-2.43×E+47.7 (7)
X≦M_(II)+0.12×M_(I)-0.1×K×Ac≦ Y (9)
但し、
E:エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量(モル%)
M_(II):アルカリ土類金属塩(B)の含有量(金属換算値:μmol/g)
M_(I):アルカリ金属塩(C)の含有量(金属換算値:μmol/g)
K:カルボン酸(A)の酸価数
Ac:カルボン酸(A)の含有量(μmol/g)
・・(中略)・・
【請求項6】 分子量70以上のカルボン酸(a)が乳酸である請求項1?5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】 ホウ素化合物(D)をホウ素換算で50?2000ppm含有する請求項1?6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】 リン酸化合物(E)をリン酸根換算で10?500ppm含有する請求項1?7のいずれかに記載の樹脂組成物。
・・(後略)」

(b-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ボイドの発生が少なく外観に優れ、ダイ付着が少なく、ロングラン性およびセルフパージ性が良好で、かつ着色が少ないエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体に関する。」

(b-3)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上のことから、ロングラン性に非常に優れ、かつボイド・穴空きの発生が無く外観に優れ、セルフパージ性良好で、かつ着色の少ないエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体が求められていた。」

(b-4)
「【0021】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるEVOHとしては、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものが好ましく、その中でも、エチレン含有量は好適には20?70モル%である。ガスバリア性と溶融成形性に優れた成形物を得るという観点からは、エチレン含有量はより好適には25?65モル%であるものが好ましい。また、ボイド等の発生を効果的に抑制しながら極めて高度なロングラン性およびセルフパージ性を維持するという観点からは、エチレン含有量の下限はより好適には30モル%以上であり、さらに好適には33モル%以上であり、最適には36モル%以上である。また、ガスバリア性の観点からはエチレン含量の上限は65モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがさらに好ましく、50モル%以下であることが最適である。さらに、ビニルエステル成分のケン化度は好ましくは80%以上であり、ガスバリア性に優れた成形物を得るという観点からは、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。エチレン含有量が70モル%を超える場合は、バリア性や印刷適性等が不足する虞がある。また、ケン化度が80%未満では、バリア性、熱安定性、耐湿性が悪くなる虞がある。」

(b-5)
「【0040】本発明の樹脂組成物に用いられるカルボン酸(A)には、分子量70以上のカルボン酸(a)が含まれ、カルボン酸(A)およびその塩の総含有量(μmol/g)に対する分子量70以上のカルボン酸(a)およびその塩の含有量(μmol/g)の比が0.1以上であることが必須である。本発明に用いられる分子量70以上のカルボン酸(a)としてはコハク酸、アジピン酸、安息香酸、カプリン酸、ラウリン酸、グリコール酸、乳酸などが例示されるが、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸を用いた場合は成形時にゲル・ブツが発生しやすくなる虞がある。グリコール酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸を用いた場合は上記のような問題が生じず、かつ水溶性に優れる観点で好適であり、中でも乳酸を用いることが好適である。分子量70以上のカルボン酸(a)としては、分子量75以上のカルボン酸がより好適であり、分子量80以上のカルボン酸がさらに好適であり、分子量85以上が特に好適であり、分子量90以上であることが最も好適である。分子量の高いカルボン酸を用いることにより、成形時の揮発成分を低減させることが可能であり、低臭性およびロングラン性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0041】本発明の樹脂組成物中のカルボン酸(A)の含有量は0.05?5μmol/gである。カルボン酸(A)の含有量が0.05μmol/g未満の場合、溶融時の着色が著しい。また5μmol/gを超える場合は低臭性の改善効果、および共押出成形における接着性樹脂との接着力の改善効果が不充分となる他、ダイ付着量が増加する傾向にある。カルボン酸(A)の含有量の下限は好適には0.1μmol/g以上であり、さらに好適には0.2μmol/g以上である。また、カルボン酸(A)の含有量の上限は好適には4μmol/g以下であり、より好適には3μmol/g以下であり、さらに好適には2μmol/g以下であり、最適には1.5μmol/g以下である。」

(b-6)
「【0044】また、本発明の樹脂組成物はアルカリ土類金属塩(B)を金属換算で2?25μmol/g含有する。アルカリ土類金属塩(B)は特に限定されるものではないが、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、ベリリウム塩などが挙げられ、特にマグネシウム塩とカルシウム塩が好適である。アルカリ土類金属塩(B)のアニオン種は特に限定されるものではないが、酢酸アニオン、乳酸アニオンおよびリン酸アニオンが好適なアニオン種として例示され、中でも乳酸アニオンが好ましい。
【0045】アルカリ土類金属塩(B)の含有量(M_(II))は金属換算で2.5?20μmol/gであることがさらに好適である。アルカリ土類金属塩(B)の含量が2μmol/g未満の場合にはロングラン性の改善効果が不満足になる虞があり、25μmol/gを超えると溶融時の着色が著しく、ボイド・穴空きの発生が生じやすくなる。
【0046】本発明の樹脂組成物は、溶融成形を行う際において、ボイド等の発生を生じることなく極限粘度が低下すること、および低下した極限粘度が長時間の連続運転時においても大きく上昇しないこと、を大きな特徴とする。このような本発明の効果を充分に満足するためには、特にアルカリ土類金属塩(B)の配合量を適切に設定する必要がある。本発明者らの詳細な検討の結果、アルカリ土類金属の適切な配合量は、EVOHのエチレン含有量と密接な関係があることが明らかとなった。」

(b-7)
「【0052】本発明の樹脂組成物は、アルカリ金属塩(C)を金属換算で10?1000ppm含有することが接着性を向上させる観点から好適である。アルカリ金属塩(C)の含有量の下限は好適には30ppm以上であり、より好適には50ppm以上である。また、アルカリ金属塩(C)の含有量の上限は好適には750ppm以下であり、より好適には500ppm以下であり、最適には300ppm以下である。アルカリ金属塩(C)としては特に限定されるものではないが、ナトリウム塩、カリウム塩等が好適なものとして挙げられる。アルカリ金属塩(C)のアニオン種は特に限定されるものではないが、酢酸アニオン、乳酸アニオンおよびリン酸アニオンが好適なアニオン種として例示され、中でも乳酸アニオンが好ましい。
【0053】アルカリ金属塩(C)が10ppm未満の場合、接着性の改善効果が不満足なものとなる虞があり、また1000ppmを超える場合は溶融時の耐着色性の改善効果が不充分なものとなる虞がある。
【0054】前述の通り、本発明の効果、特にロングラン性およびセルフパージ性を充分に奏するためにはアルカリ土類金属塩(B)の配合量を適切にすることが重要であるが、本発明者らの詳細な検討の結果、アルカリ金属塩(C)およびカルボン酸の添加も、アルカリ土類金属塩(B)の添加による影響ほど顕著ではないものの、本発明の効果に影響を及ぼすことが明らかとなった。即ち、アルカリ金属塩(C)の添加は、アルカリ土類金属塩(B)の効果を促進させ、窒素雰囲気下、220℃で加熱処理した時のEVOH樹脂の極限粘度[η]を低下させる作用をもたらす一方、カルボン酸(A)の添加は、アルカリ土類金属塩(B)の効果を抑制し、窒素雰囲気下、220℃で加熱処理した時のEVOH樹脂の極限粘度[η]を上昇させる作用をもたらすことが見出された。」

(b-8)
「【0058】また、本発明の樹脂組成物に対し、ホウ素化合物(D)をホウ素換算で50?2000ppm含有させることも好適である。ホウ素化合物(D)としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物の中でもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。
【0059】EVOHからなる樹脂組成物にホウ素化合物(D)を添加した場合、低重合度のEVOHを用いた場合でも、溶融粘度を高めることが可能であり、かかる低重合度のEVOHを用いることによって、通常のEVOHよりもゲル・ブツの発生を抑制し、ロングラン性を向上させることが可能である。本発明の樹脂組成物がホウ素化合物(D)を含有する場合は、数日間におよぶような長時間の溶融成形時において、ダイ付着量の低減効果が若干低下する虞があるが、成形物のゲル・ブツの発生を極めて効果的に抑制することが可能である。ホウ素化合物(D)の含有量の下限はホウ素換算で50ppm以上であることが好ましく、より好ましくは100ppm以上であり、さらに好ましくは150ppm以上である。また、ホウ素化合物(D)の含有量の上限はホウ素換算で1500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1000ppm以下である。ホウ素化合物(D)の含有量が50ppmに満たない場合は、成形時間が長くなるに従いゲル・ブツの発生が増加する虞があるため、長期間連続運転を行う場合は成形品の外観が悪化する虞がある。また、ホウ素化合物(D)の含有量が2000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる虞がある。」

(b-9)
「【0060】本発明の樹脂組成物は分子量70以上のカルボン酸(a)という、高沸点のカルボン酸を適切な割合で含有するため、長時間の溶融成形時においても耐着色性および外観に優れた成形物が得られる。このため、生産時におけるコストメリット、および生産の簡便性からリン酸化合物(E)を添加しない方が好ましい場合もあるが、リン酸化合物(E)の添加により樹脂組成物のロングラン性、回収性をさらに向上させることが可能である。特に、数日間におよぶ長時間の連続運転を行うときや、熱履歴を重ねるときなど(成形物を回収する際など)の耐着色性の改善効果への寄与が大きい。
【0061】リン酸化合物(E)の添加量としては、リン酸根換算で10?500ppmが好適である。リン酸化合物(E)の含有量はリン酸根換算で10?200ppmであることがより好ましく、さらに好ましくは20?150ppmである。かかる範囲のリン酸化合物(E)を含有することで、より着色が少なく、ロングラン性に優れた、良好な成形品外観を与える樹脂組成物を得ることができる。リン酸化合物(E)の含有量が10ppm未満の場合は、溶融成形時の耐着色性の改善効果が不充分となる虞があり、外観性が低下する虞がある。特に熱履歴を重ねるときにその傾向が顕著であるために、樹脂組成物は回収性に乏しいものとなる虞がある。500ppmを超えると成形物のゲル・ブツの発生が顕著になり、外観性が低下する。リン酸化合物(E)としては、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が例示されるが、これらに限定されない。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていても良く、そのカチオン種も特に限定されるものではないが、上述のようなアルカリ金属塩(C)、アルカリ土類金属塩(B)であることが好ましい。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムの形でリン酸化合物(E)を添加することが好ましい。」

(b-10)
「【0074】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。以下「%」、「部」とあるのは特に断わりのない限り重量基準である。尚、水はすべてイオン交換水を使用した。
・・(中略)・・
【0080】(6)単層製膜試験
以下の方法で単層フィルムを作製し、成形品の外観、ダイ付着量、ロングラン性を評価した。
形式 一軸押出機 D20/20(東洋精機製)
L/D 20
圧縮比 4
スクリュー口径 20mmφ
スクリュー 1条フルフライトタイプ、表面窒化鋼
スクリュー回転数 40rpm
ダイス 300mm幅ストレートハンガタイプ(東洋精機製)
リップ間隙 0.3mm
シリンダー、ダイ温度設定
C1/C2/C3/ダイ=180/220/220/220(℃)
【0081】(6-a)ボイド
試料ペレットを用いてEVOHの単層製膜を実施し、製膜開始から30分後のフィルム上のボイドの発生状況を目視にて観察した。発生状況によって以下のように判定した。
A;発生無し B;極まれに発生するが実用上問題なし C;常時微細なボイドが見られるが実用上問題なし D;全面にボイドが発生 E;全面に大きな穴が発生しフィルムが網状になる
【0082】(6-b)ダイ内付着量
試料ペレットを用いてEVOHの単層製膜を8時間実施後、MI=1(190℃、2160g荷重下)のLDPEで押出機内のEVOH樹脂を1時間かけて置換した後、ダイ内部に付着した樹脂の重量を測定し、その重量により以下の様に判定した。
A;0.5g未満 B;0.5?1g C;1?5g D;5?10g E;10g以上
【0083】(6-c)ロングラン性
試料ペレットを用いてEVOHの単層製膜を実施し、8時間後のフィルムのゲル状ブツ(肉眼で確認できる約150μm以上のもの)を数え、1.0m^(2)あたりの個数に換算した。ブツの個数によって以下のように判定した。
A;20個未満 B;20?40個 C;40?60個 D;60?100個 E;100個以上
【0084】(6-d)セルフパージ性
試料ペレットを用いてEVOHの単層製膜を1時間実施した後、装置の電源を切り温度を室温まで下げた。その後、再度電源を入れて設定温度まで上がった後運転を再開して、フィルムのゲル状ブツの個数が運転一時停止前のレベルにまで回復するのに要する時間を測定し、回復するまでに要するに時間により以下のように判定した。
A;再開後直ちに回復 B;30分以内に回復 C;1時間以内に回復 D;5時間以内に回復 E;回復せず
【0085】(7)耐着色性
試料とする乾燥ペレット8gを230℃に加熱した熱板(シンドー式卓上テストプレスYS-5)の間にはさみ、熱板間の間隙を5mmに保って10分間加熱し、着色度を肉眼で判定し以下のように判定した。
A;無色 B;淡黄色 C;黄色 D;濃黄色 E;褐色
【0086】(8)臭気性
EVOHからなる樹脂組成物の試料ペレット20gを100mlガラス製サンプル管に入れ、アルミホイルで口部を蓋をした後、熱風乾燥機内で150℃で90分加熱した。乾燥機から取り出し、室温で1時間放冷した後、サンプル管を2?3回振り混ぜた後、アルミホイルの蓋を取り臭気を評価した。試料ペレットの臭気の強さを以下のような基準で判定した。
A;臭いなし B;弱い臭い C;明らかに感じる臭い D;かなり強い臭い E;非常に強い臭い
【0087】(9)重量減少率
試料とする乾燥ペレット約10mgをセイコー電子製TG/DTA-220型にセットし、窒素雰囲気下、230℃で2時間加熱した時の重量減少率を測定した。
・・(中略)・・
【0089】実施例1
エチレン含有量38モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体の45%メタノール溶液をケン化反応器に仕込み、苛性ソーダ/メタノール溶液(80g/L)を共重合体中のビニルエステル成分に対し、0.4当量となるように添加し、メタノールを添加して共重合体濃度が20%になるように調整した。60℃に昇温し反応器内に窒素ガスを吹き込みながら約4時間反応させた。4時間後、酢酸で中和し反応を停止させ、円形の開口部を有する金板から水中に押し出して析出させ、切断することで直径約3mm、長さ約5mmのペレットを得た。得られたペレットは遠心分離機で脱液しさらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返した。得られたエチレン-ビニルアルコール共重合体のケン化度は99.6%、極限粘度[η]は0.0853L/gであった。
【0090】こうして得られたエチレン-ビニルアルコール共重合体の含水ペレット100重量部(含水率55%)を、乳酸0.06g/L、乳酸マグネシウム1.082g/L、乳酸ナトリウム0.438g/L、ホウ酸0.505g/L およびリン酸2水素カリウム0.158g/Lを含有する水溶液370重量部に25℃で6時間浸漬した。浸漬後脱液し、80℃で3時間、引き続いて107℃で24時間熱風乾燥機を用いて乾燥を行い、乾燥ペレットを得た。
【0091】得られた乾燥ペレット中のカルボン酸(A)の含有量は0.77μmol/g、カルボン酸(A)およびその塩の総含有量は18.06μmol/g(その内の分子量70以上のカルボン酸(a)およびその塩の含有量18.06μmol/g)、アルカリ土類金属塩(B)の含有量は金属換算で6.30μmol/g 、アルカリ金属塩(C)の含有量は金属換算で6.33μmol/g 、ホウ素化合物(D)の含有量はホウ素換算で208ppm、リン酸化合物(E)の含有量はリン酸根換算で91ppmであった。また、得られたEVOH樹脂組成物ペレットのMFR(190℃、2160g荷重下で測定)は1.6g/10minであった。
【0092】得られた乾燥ペレットを用い、EVOHの単層製膜を行い、ボイド、ダイ付着量、ロングラン性およびセルフパージ性の試験を実施した。 ボイド、ダイ付着量、ロングラン性およびセルフパージ性の試験結果はいずれもA判定であった。
【0093】得られた乾燥ペレットを用い、上記の方法で耐着色性、臭気性の試験を行ったところ、試験結果は共にA判定であった。
【0094】得られた乾燥ペレットを用い、上記の方法で重量減少率の測定を行った。重量減少率は19%であった。
・・(中略)・・
【0097】
【表3】


【0098】
【表4】


【0099】実施例1と比較して、ホウ素化合物(D)を含有しない実施例2では、ロングラン性が若干低下した。また、アルカリ土類金属塩(B)の含有量が上述の式(8)の下限に満たない実施例3ではダイ付着量およびロングラン性が若干低下した。また、アルカリ土類金属塩(B)としてカルシウム塩を用いた実施例4では、色相が多少低下した。さらに、アルカリ土類金属塩(B)の含有量が(8)式の下限に満たないが、カルボン酸(A)、アルカリ土類金属塩(B)およびアルカリ金属塩(C)の含有量が上述の(9)式を満たす実施例5では、ダイ付着量および色相が若干低下した。一方、アルカリ土類金属塩(B)の含有量は(8)式を満たすが、カルボン酸(A)、アルカリ土類金属塩(B)およびアルカリ金属塩(C)の含有量が上述の(9)式の上限を超える実施例6では、ボイドおよび色相の改善効果が若干低下した。
【0100】アルカリ土類金属塩(B)の含有量が(8)式の下限に満たず、かつカルボン酸(A)、アルカリ土類金属塩(B)およびアルカリ金属塩(C)の含有量が(9)式の下限も満たさない実施例7では、ダイ付着量、ロングラン性、セルフパージ性のいずれも低下した。また、カルボン酸(A)として分子量75に満たない酸である酢酸を添加した実施例8では、臭気性の改善効果が若干低下した。以上、実施例2?8で得られた本発明のEVOHからなる樹脂組成物は、実施例1と比較した場合には、各物性の改善効果に若干の低下が見られるものの、その何れにおいてもボイドの発生が少なく、外観に優れ、ダイ付着が少なく、ロングラン性およびセルフパージ性が良好なものであった。また、エチレン含有量が44モル%のEVOHを用いた実施例9の場合も、上記に示す優れた特性を示した。
【0101】これに対して、アルカリ土類金属塩(B)の含有量が2μmol/gに満たない比較例1およびカルボン酸(A)の含有量が5μmol/gを超える比較例3ではダイ付着量、ロングラン性、およびセルフパージ性において不満足なものとなった。また、アルカリ土類金属塩(B)の含有量が25μmol/gを超える比較例2およびカルボン酸(A)の含有量が0.05μmol/gに満たない比較例4では、ボイドの発生が激しく、長時間の製膜が実質上不可能であり、色相に劣った。また、カルボン酸(A)が分子量75に満たない酸である酢酸のみからなる比較例5では、臭気性の改善効果が得られなかった。
【0102】また、先行技術である特開平10-67898号公報の実施例1とほぼ同量のアルカリ金属塩(B)およびアルカリ金属塩(C)を含有し、かつエチレン含有量が33モル%である比較例6では、[η]60/[η]0が0.8を超え、ダイ付着量、ロングラン性およびセルフパージ性の改善効果が得られなかった。
【0103】さらに、カルボン酸(A)、アルカリ土類金属塩(B)、アルカリ金属塩(C)、ホウ素化合物(D)およびリン酸化合物(E)の含有量は実施例1とほぼ等しいが、エチレン含有量が27モル%である比較例7では、[η]60/[η]0が0.8を超え、各評価項目における評価結果は不満足なものとなった。」

イ.甲2に記載された発明
上記甲2には、上記(b-1)ないし(b-10)の各記載(特に下線部参照)からみて、
「窒素雰囲気下、220℃で加熱処理した時の極限粘度[η]の変化が以下の(1)?(3)式を満たし、カルボン酸(A)を0.05?5μmol/g、アルカリ土類金属塩(B)を金属元素換算で2?25μmol/g及びアルカリ金属塩(C)を金属換算で10?1000ppm含有し、かつ下式(4)を満足するエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物であって、さらにホウ素化合物(D)をホウ素換算で50?2000ppm及びリン酸化合物(E)をリン酸根換算で10?500ppm含有するエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
0.05≦[η]0≦0.2 (1)
0.12≦[η]10/[η]0≦0.6 (2)
0.1≦[η]60/[η]0≦0.8 (3)
0.1≦(a)/(A)≦1.0 (4)
但し、
[η]0:加熱処理前の極限粘度
[η]10:加熱処理開始から10時間後の極限粘度
[η]60:加熱処理開始から60時間後の極限粘度
(A):カルボン酸(A)およびその塩の総含有量(μmol/g)
(a):分子量70以上のカルボン酸(a)およびその塩の含有量(μmol/g)」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)にホウ素化合物、リン酸又はその化合物、脂肪酸塩から選ばれる少なくとも1種(B)を0.001?10重量%含有してなることを特徴とする水酸基含有熱可塑性樹脂改質用の樹脂組成物。
【請求項2】 請求項1記載の水酸基含有熱可塑性樹脂改質用の樹脂組成物をエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に配合して用いることを特徴とする水酸基含有熱可塑性樹脂改質用の樹脂組成物の使用法。」

(c-2)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、昨今の新たなる成形物への要求性能の高まりに対応すべく、上記の技術について、詳細に検討を重ねた結果、ロングラン成形性や層間接着性の改善は認められるものの、直径が0.1mm未満の小さなフィッシュアイやゲル等の発生については、上記の技術では必ずしも解決できるものではなく、むしろホウ素化合物、リン酸化合物、酢酸塩等を添加することにより、逆に得られる成形物の外観が悪化することがあり、特に多層積層体製造時については十分な考慮がなされておらず、多層積層体としたときの成形条件等により0.1mm未満のフィッシュアイ等が発生する恐れがあり、新たなる改良が望まれることが判明した。さらに成形物へのEVOHの熱分解物(目ヤニ)の混入や、得られる成形物の色調(黄色味へ着色)についても、併せて改善要求が望まれるところである。」

(c-3)
「【0005】
【発明の実施の形態】以下に、本発明を詳細に述べる。本発明の改質用の樹脂組成物に用いられるEVOH(A)としては、特に限定されないが、エチレン含有量が20?80モル%(更には30?60モル%)、ケン化度が80モル%以上(更には90モル%以上)のものが用いられ、該エチレン含有量やケン化度が上記の範囲外にあるときは、被改質樹脂のEVOHとの相溶性が不良となったり、改質用の樹脂組成物自体の熱安定性が低下して、本発明の効果が得られないことがあり好ましくない。・・(後略)」

(c-4)
「【0007】上記のEVOH(A)に含有されるホウ素化合物(B)としては、ホウ酸またはその金属塩、例えば・・(中略)・・ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、・・(中略)・・ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、・・(中略)・・ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂、・・(中略)・・などが挙げられ、好適にはホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)が用いられる。
【0008】また、リン酸又はその化合物(B)としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム・・(中略)・・等を挙げることができ、好適にはリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウムが用いられる。更に、脂肪酸塩(B)としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアルカリ土類塩(マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等)や亜鉛金属塩、マンガン金属塩などを挙げることができ、好適には酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。これらの(B)成分をEVOH(A)に含有させるに当たっては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0009】EVOH(A)に含有される(B)成分の含有量は、0.001?10重量%(更には0.01?5重量%、特に0.05?1重量%)で有ることが必要で、かかる含有量が0.001重量%未満では、改質効果が得られず、逆に10重量%を超えると、得られる成形物の外観が悪化し、また改質用の樹脂組成物自体の熱安定性が大きく低下し、本発明の目的を達成できない。また、(B)成分はホウ素化合物、リン酸又はその化合物、脂肪酸塩の中から2種以上を併用することも可能である。
【0010】かくして本発明の改質用の樹脂組成物が得られるわけであるが、かかる組成物は、EVOH等の水酸基含有熱可塑性樹脂に配合することにより、溶融成形時の微小フィッシュアイの減少やロングラン成形性の改良効果が得られるのであるが、本発明においては、(B)成分として、ホウ素化合物を選択した時には、更にEVOH等の熱分解物(目ヤニ)の発生の抑制効果を、同じくリン酸又はその化合物を選択した時には、得られる成形物の色調改善(着色防止)効果を、また脂肪酸塩を選択した時には、多層構造体としたときの層間接着性の向上効果をそれぞれ得ることができ、大変有用である。
【0011】以下に、本発明の改質用の樹脂組成物の使用法について説明する。かかる樹脂組成物を用いて改良する水酸基含有熱可塑性樹脂としては、上記の如くEVOHが有用で、かかるEVOHとしては、特に限定されないが、エチレン含有量が20?60モル%(更には25?55モル%)、ケン化度が90モル%以上(更には95モル%以上)のものが好ましく、該エチレン含有量が20モル%未満では高湿時のガスバリヤー性、溶融成形性が低下し、逆に60モル%を越えると充分なガスバリヤー性が得られず、更にケン化度が90モル%未満ではガスバリヤー性、熱安定性、耐湿性等が低下して好ましくない。」

(c-5)
「【0024】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準を示す。・・(中略)・・
【0025】実施例1
EVOH(A)[エチレン含有量35モル%、ケン化度99.5モル%、MI(210℃、荷重2160g)が20g/10分]溶液(溶媒は水/メタノール=40/60重量比の混合溶液で、EVOHは45%含有)を凝固液(5℃の水)中にストランド状に押出した後にカッターで切断して、多孔性のEVOHペレットを得た。かかるペレットを0.5%の酢酸水溶液で洗浄後、更に水で洗浄した後、0.3%のホウ酸水溶液に投入して攪拌してから、乾燥を行って、ホウ素化合物(B)を0.68重量%含有した改質用の樹脂組成物を得た。得られた改質用の樹脂組成物15部をEVOH[エチレン含有量35モル%、ケン化度99.5モル%、MI(210℃、荷重2160g)が20g/10分]100部に配合してEVOH組成物[ホウ素化合物含有量がEVOH100部に対してホウ素換算で0.016部]として改質効果の評価を以下の要領で行った。
【0026】得られたEVOH組成物をフィードブロック5層Tダイを備えた多層押出装置に供給して、ポリエチレン層(三菱化学社製『ノバテックLD LF525H』)/接着樹脂層(三菱化学社製『モディックAP240H』)/EVOH樹脂組成物層/接着樹脂層(同左)/ポリエチレン層(同左)の3種5層の多層積層体(厚みが50/10/20/10/50(μm))を得て、下記の要領で直径が0.1mm未満の微小なフィッシュアイの発生及びロングラン成形性の評価を行った。
【0027】(フィッシュアイ)上記の成形直後のフィルム(10cm×10cm)について、直径が0.05?0.1mm未満のフィッシュアイの発生状況を目視観察して、以下の通り評価した。
○ --- 0?10個
△ --- 11?50個
× --- 51個以上
(ロングラン成形性)また、上記の成形を10日間連続に行って、その時の成形フィルム(10cm×10cm)について、直径が0.05?0.4mmのフィッシュアイの増加状況を目視観察して、以下の通り評価した。
○ --- 増加は認められなかった
△ --- 若干の増加が認められた
× --- 著しい増加が認められた
【0028】さらに、得られたEVOH組成物をTダイを備えた単軸押出機に供給し、下記の条件で、厚さ40μmのEVOHフィルムの成形を行って、下記の要領で熱分解性の評価を行った。
[単軸押出機による製膜条件]
スクリュー内径 40mm
L/D 28
スクリュー圧縮比 3.2
スクリュー回転数 80rpm
Tダイ コートハンガータイプ
ダイリップ巾 0.2mm
押出温度 C1:180℃ H:190℃
C2:200℃ D:190℃
C3:210℃
C4:210℃
(熱分解性)上記の製膜時にダイリップから掻き出されてくる熱分解物(目ヤニ)の発生状況を目視観察して、以下の通り評価した。
○ --- 目ヤニの発生は全く認められなかった
△ --- 目ヤニの発生が若干認められた
× --- 目ヤニの発生が著しく認められた
・・(中略)・・
【0031】実施例3
実施例1において、多孔性のEVOHペレットを酢酸水溶液及び水で洗浄後、該ペレットを0.75%の酢酸カルシウム水溶液に投入して攪拌してから、乾燥を行って、酢酸カルシウム(B)を0.47重量%含有した改質用の樹脂組成物を得て、EVOH100部に対して5部配合した以外は同様に行って、EVOH組成物[脂肪酸塩含有量がEVOH100部に対してカルシウム換算で0.006部]を得て、同様に微小フィッシュアイの発生およびロングラン成形性の評価を行った。更に、得られた3種5層の多層積層体について、層間接着性を下記の要領で評価した。
(層間接着性)多層積層体のEVOH組成物層と接着樹脂層の接着強度をオートグラフにて、23℃、引張速度200mm/minでTピール法により測定して、以下の通り評価した。
○ --- 1000g/15mm幅以上
△ --- 500?1000g/15mm幅未満
× --- 500g/15mm幅未満
・・(中略)・・
【0040】比較例1
実施例1において、本発明の改質用の樹脂組成物を配合せずにEVOH[エチレン含有量35モル%、ケン化度99.5モル%、MI(210℃、荷重2160g)が20g/10分]100部のみで3種5層の多層積層体を同様に作製して、同様に評価を行った。実施例、比較例のそれぞれの評価結果を表1にまとめて示す。
【0041】
【表1】


【0042】
【発明の効果】本発明の水酸基含有熱可塑性樹脂改質用の樹脂組成物は、特にEVOHの改質に有用で、溶融成形時の微小フィッシュアイの抑制効果やロングラン成形性に優れ、該樹脂組成物に配合される(B)成分を選択することによって、更に熱分解性の抑制効果、得られる成形物の着色度の抑制効果、積層体の層間接着性向上効果等を得ることができ、また、該樹脂組成物のEVOHを選択することによって改質されるEVOHの延伸性の改良も行うこともできて大変有用で、かかる改質用の樹脂組成物が配合されたEVOH組成物は、各種の成形物とすることができ、食品や医薬品、農薬品、工業薬品包装用のフィルム、シート、チューブ、袋、ボトル、カップ、容器等の用途に非常に有用で、延伸を伴う二次加工製品等にも好適に用いることができる。」

(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。

(d-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 成分:
(a)少なくとも約90%の鹸化度を有する、エチレンおよび約90?約50重量%のビニルアルコール部分の少なくとも1種のコポリマー、
(b)3?9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸の少なくとも1種の1価または2価の金属塩 約0.01?約0.5重量%、および
(c)少なくとも1種のヒンダードフェノール系酸化防止剤 約0.05?約0.5重量%
から本質的に成ることを特徴とする高温における酸化性ゲル形成に対して改良された安定性を示す組成物。
・・(後略)」

(d-2)
「【0001】
本発明は、酸化的および熱的劣化およびゲル化に対して改良された抵抗を示す、エチレン-ビニルアルコールコポリマーの組成物に関する。
・・(中略)・・
【0011】
本発明は、高温における酸化性ゲル形成に対して改良された安定性を示しならびに経時的溶融粘度の増加がほぼゼロまたはマイナスであるを示す組成物を提供する。この組成物は:
(a)少なくとも約95%の鹸化度を有する、エチレンおよび約90?約50重量%のビニルアルコール部分の少なくとも1種のコポリマー、
(b)3?9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸の少なくとも1種の1価または2価の金属塩 約0.01?約0.5重量%、および
(c)少なくとも1種のヒンダードフェノール系酸化防止剤 約0.05?約0.5重量%、
から本質的に成る。
【0012】
好ましい実施態様において、組成物は、さらに、約0.05?約0.5重量%のステアリン酸の2価の金属塩からなる。」

(d-3)
「【0019】安定剤組成物の他の成分は、1価または2価の金属および3?9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸の塩である。塩の金属成分は、とくに限定されない;適当な金属はカルシウム、マグネシウム、鉛、マンガン、スズ、ナトリウム、およびカリウムを包含する。カルシウム、マグネシウム、および亜鉛は好ましく、そしてカルシウムはとくに好ましい。3?9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸は好ましくは飽和、不飽和のモノカルボン酸であり、そしてプロピオン酸、n-酪酸、イソ酪酸、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、n-ノナン酸、およびそれらの混合物を包含する。酢酸の塩は本発明において有用ではなく、そして9個より多い炭素原子を有する酸の塩は漸進的に有用さに劣ってくる。単一の酸の塩に加えて、種々のこのような酸の混合物は商業的に入手可能であり、そして非常に適当である。好ましい酸は3?8個、ことに4?8個の炭素原子を有するものである。コストおよび有効性により、オクタン酸カルシウムは特別に好ましい塩である。必要に応じて、異なる分子量の酸の塩の混合物を使用して、所望の安定化効果を達成することができる。
【0020】前述の塩の量は、組成物のポリマー成分の約0.01?約0.5重量%であるべきである。好ましい量は、ある程度まで、塩の酸成分の同一性および分子量に依存するであろう。異なる用語で表現すると、組成物は約0.5?約15μモル(マイクログラムモル)/g、好ましくは約1?約7μモル/g、最も好ましくは約2?約4μモル/gの塩を含有すべきである。これらの範囲より下では、本発明の有効性はそれほど明瞭に表われない;これらの範囲より上では、追加の利益は見られない;事実、塩の粘度を減少する作用はより高い濃度において厳しくなることがある。
【0021】本発明の1つの実施態様において、高級脂肪酸の塩はまた存在する。高級脂肪酸は約14?約22個の炭素原子を有するもののいずれであることもでき、そして中和性の金属イオンは上に列挙したもののいずれであることもできる。このような塩の量は好ましくは0.05?0.5重量%である。とくに、少量のステアリン酸塩、とくにステアリン酸カルシウムの添加は所望の結果を与えることができることが発見された。」

(5)甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

(e-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)とポリアミド系樹脂(B)を含有する層(I)とこれに直接または接着性樹脂層を介して隣接するポリアミド系樹脂(C)の層(II)を含み、かつエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)がナトリウム塩(M1)および2価の金属塩(M2)を含有し、該ナトリウム塩(M1)および2価の金属塩(M2)の含有量比(M1/M2)が金属重量換算で0.01?15で、さらにリン化合物をリン換算で3?50ppm、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を10?1000ppm含有してなることを特徴とする積層体。
【請求項2】
ナトリウム塩(M1)および2価の金属塩(M2)の含有量比(M1/M2)が金属重量換算で0.02?5であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
ポリアミド系樹脂(B)が末端調整ポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)がさらにホウ素化合物を含有することを特徴とする請求項1?3いずれか記載の積層体。
【請求項5】
最外層がポリアミド系樹脂の層であることを特徴とする請求項1?4いずれか記載の積層体。
【請求項6】
最内層がポリオレフィン系樹脂の層であることを特徴とする請求項1?5いずれか記載の積層体。」

(e-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する)の組成物を用いた積層体に関し、更に詳しくは、レトルト処理後の外観性、耐デラミネーション、ガスバリア性に優れ、かつロングラン加工性、臭気や着色の防止性能等に優れた積層体に関する。
・・(中略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、いずれの文献の開示技術でもボイル・レトルト処理時のEVOH層の破壊によるデラミネーションの改善効果は認められるものの、最近の厳しい処理条件(例えば、処理時間が従来の30分程度から90分程度と処理時間が長期化)ではまだまだ改善の余地があり、また、ボイル・レトルト処理後の外観性、ガスバリア性、ロングラン加工性(ゲルや焼けが発生しない)についてもそれぞれ改善効果は認められるものの、更なる改良が必要であり、一方、内容物保護の面で多層フィルムの臭気や着色の防止効果も望まれるようになってきた。」

(e-3)
「【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるEVOH(A)としては特に限定されないが、エチレン含有量が20?60モル%(さらには23?58モル%、特には25?55モル%)、酢酸ビニル成分のケン化度が90モル%以上(さらには95モル%以上、特には99モル%以上)のものが好ましく用いられ、該エチレン含有量が5モル%未満では高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下し、逆に70モル%を越えると充分なガスバリア性が得られず、さらに酢酸ビニル成分のケン化度が90モル%未満ではガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下して好ましくない。
・・(中略)・・
【0013】
本発明においては、かかるEVOH(A)がナトリウム塩(M1)および2価の金属塩(M2)を含有し、かつ該ナトリウム塩(M1)および2価の金属塩(M2)の含有量比(M1/M2)が金属重量換算で0.01?15であることが必要で、かかるナトリウム塩(M1)としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ノナデカン酸、オレイン酸、カプリン酸、ベヘニン酸、リノール酸、アジピン酸等の有機酸や硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸のナトリウム塩が挙げられ、中でも酢酸ナトリウムが好ましい。
【0014】
また、2価の金属塩(M2)としては、上記の有機酸やホウ酸およびリン酸を除く無機酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等が挙げられ、中でも酢酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛が好ましい。
【0015】
上記のそれぞれの金属塩の含有量比(M1/M2)は上記のように金属重量換算で0.01?15(さらには0.02?5、特には0.03?3)であることが必要で、かかる含有量比が0.01未満では臭気や着色が激しくなり、逆に15を越えるとロングラン加工性が不充分となって本発明の目的を達成することが困難となる。
・・(中略)・・
【0018】
また、かかるEVOH(A)は、リン化合物をリン換算で3?50ppm(さらには5?40ppm、特には10?30ppm)含有していることも必要で、かかる含有量が3ppm未満では臭気や着色が激しく、逆に50ppmを越えるとロングラン加工性が不充分となって本発明の目的を達成することが困難となる。
【0019】
かかるリン化合物としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等を挙げることができ、中でもリン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素カルシウムが好ましい。
かかるリン化合物も上記の金属塩と同様の方法で含有させることができる。
・・(中略)・・
【0021】
また、本発明においては、EVOH(A)がホウ素化合物を含有量していることが製膜安定性の点で好ましく、かかるホウ素化合物としては、ホウ酸、・・(中略)・・ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、・・(中略)・・ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、・・(中略)・・ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂・・(中略)・・などが挙げられ、好適にはホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)が用いられる。
【0022】
かかるホウ素化合物の含有量は特に限定されないが、EVOH(A)100重量部に対してホウ素換算で0.001?0.1重量部(さらには0.002?0.08重量部、特には0.005?0.05重量部)になるように含有させることが好ましく、かかる含有量が0.001重量部よりも少ないときは添加効果が充分に発揮されないことがあり、逆に0.1重量部よりも多いときはフィルム等の成形物中にフィッシュアイが多数発生して好ましくない。」

(e-4)
「【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
尚、実施例中「部」、「%」とあるのは、特に断わりのない限り、重量基準を意味する。
・・(中略)・・
【0047】
実施例1
EVOH〔エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.2g/10分(210℃、荷重2160g)、ホウ酸含有量がホウ素換算で0.03%、酢酸ナトリウムをナトリウム換算で1ppm含有、酢酸マグネシウムをマグネシウム換算で35ppm含有、リン酸水素カルシウムをリン換算で25ppm含有、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを100ppm含有](A)100部、末端封鎖ナイロン〔末端カルボキシル基含有量[X]20μeq/g、末端アミノ基含有量[Y]26μeq/gで、{(100×[Y])/([X]+[Y])}=(100×26)/(20+26)=56.5≧5を満足。具体的にはオートクレーブ中にε-カプロラクタム60kg、水1.2kgおよびオクタデシルアミンをε-カプロラクタム1モルに対し6.78meq となるように仕込み、窒素雰囲気下に密閉して250℃に昇温し、撹拌下に2時間加圧下にて反応を行った後、放圧して180Torrまで減圧して2時間反応を行い、ついで窒素を導入して常圧に戻した後、撹拌を止めて内容物をストランドとして抜き出してチップ化し、沸水で未反応モノマーを抽出除去して乾燥したもの。〕(B)40部を30mmφ二軸押出機に供して混練後、目的とする樹脂組成物のペレットを得た。
なお、得られた樹脂組成物のEVOH中のナトリウム金属塩と2価金属塩の金属重量換算比(M1/M2)は0.03であった。
【0048】
得られた樹脂組成物(ペレット)を用いて、本発明の積層体を作製して、レトルト後の外観性、耐デラミネーション、ガスバリア性の評価を以下の要領で行った。
【0049】
(外観性)
上記の樹脂組成物(I)、ナイロン-6〔三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVAMID 1022-1」〕(C)、ポリプロピレン〔日本ポリケム社製「FL6CK」〕(D)及び接着性樹脂〔三井化学社製「ADMER QF500」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン〕(E)を、フィードブロック式共押出多層フィルム成形機(グンゼ産業社製)に供給して、(C)/(I)/(E)/(D)=20/20/10/80(μm;厚み)の層構成を有する積層体(多層フィルム)を成形して、得られた多層フィルムの(D)層が内側になるように四方シールし、蒸留水150mlを内包する15cm×15cmのパウチを作製して、このパウチを121℃で90分間レトルト処理し、取り出し直後のパウチ外観を目視観察して以下のように評価した。
○・・・全体的に透明性が高く、ムラがない
△・・・局所的に白化が認められる
×・・・全体的にムラ状の白化が認められる
【0050】
(耐デラミネーション)
上記のレトルト直後のパウチ断面を10箇所観察して、樹脂組成物(I)層中に発生したデラミネーション〔樹脂組成物層(I)の破壊による空孔〕を目視観察して以下のように評価した。
○・・・デラミネーションが2個所未満
△・・・デラミネーションが3個所以上5個所未満
×・・・デラミネーションが5個所以上
・・(中略)・・
【0052】
また、下記の要領でロングラン加工性、臭気、着色の評価を行った。
(ロングラン加工性)
上記の積層体(多層フィルム)の成形を120時間継続して行って、得られた積層体を目視観察して、100cm2あたりに発生する直径0.2mm以上のゲルや焼けの状態を調べて以下のように評価した。
○・・・発生が5個未満
△・・・発生が6?10個
×・・・11個以上発生
【0053】
(臭気)
上記の積層体(多層フィルム)を成形後30分以内に20cm×20cmの大きさに切り出し、多層フィルムの(D)層が内側になるように四方シールし、内容物を含まないパウチを作製した。さらに比較サンプルとしてEVOH(A)単独を用いた多層フィルムの比較用パウチを用意した。これらパウチを121℃で90分間レトルト処理を行い、レトルト終了1時間後と1週間後のパウチ内部臭気を実際に嗅いで以下のように評価を行った。
○・・・比較用パウチと同等の臭気を感知した
△・・・1週間後には多少臭気がしたが1時間後では比較パウチと同等の臭気を感知した
×・・・1時間で比較パウチ以上の臭気を感知した
【0054】
(着色)
上記の積層体(多層フィルム)を成形後30分以内に20cm×20cmの大きさに切り出し、多層フィルムの(D)層が内側にくるように四方シールし、200ccの蒸留水を充填したパウチを作製した。さらに比較サンプルとしてEVOH(A)単独を用いた多層フィルムの比較パウチを用意した。これらパウチを135℃で180分間でレトルト処理を行い、レトルト終了1週間後のパウチ色調を目視にて以下のように評価を行った。
○・・・比較パウチより着色せずに元の色調を保持していた
△・・・若干の着色はあったが比較パウチと同等のであった
×・・・比較サンプルよりも着色が著しかった
・・(中略)・・
【0059】
実施例6
実施例1において、EVOH(A)として、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.2g/10分(210℃、荷重2160g)で、酢酸ナトリウムをナトリウム換算で150ppm、ステアリン酸カルシウムをカルシウム換算で150ppm、リン酸をリン換算で25ppm、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを100ppmそれぞれ含有するEVOHを用いた以外は同様に行って積層体を得て、同様に評価を行った。
なお、得られた樹脂組成物のEVOH中のナトリウム金属塩と2価金属塩の金属重量換算比(M1/M2)は1.0であった。
【0060】
比較例1
実施例1において、EVOH(A)として、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.2g/10分(210℃、荷重2160g)で、酢酸ナトリウムをナトリウム換算で150ppm、酢酸マグネシウムをマグネシウム換算でを5ppm、リン酸水素カルシウムをリン換算で25ppm、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを100ppmそれぞれ含有するEVOHを用いた以外は同様に行って積層体を得て、同様に評価を行った。
なお、得られた樹脂組成物のEVOH中のナトリウム金属塩と2価金属塩の金属重量換算比(M1/M2)は30であった。
・・(中略)・・
【0066】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0067】
〔表1〕


【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の積層体で構成されるカップ、トレイ、チューブ、ボトル、パウチ、袋等からなる容器や延伸フィルムからなる袋や蓋材は一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬、燃料等各種の容器として有用であるが、特に一般食品や医薬品の等のトルト殺菌やボイル殺菌用途に有用である。」

2.対比・検討

(1)甲1発明に基づく対比・検討

ア.対比
本件発明と上記甲1発明とを対比すると、本件発明と甲1発明とは、
「エチレンビニルアルコールコポリマーおよび混合物を含む組成物であって、
前記エチレンビニルアルコールコポリマーが、コポリマーの重量を基準にして、20?50%のエチレン由来反復単位を含み;
前記混合物が、少なくとも1つのアルカリ金属塩、および12?18個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルカリ土類金属カルボン酸塩を含み;
前記アルカリ金属塩が酢酸ナトリウムを含む、組成物。」
の点で一致し、下記の5点で相違するものといえる。

相違点1:本件発明では「前記組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであ」るのに対して、甲1発明では、「酢酸ナトリウムを(A)成分100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部を含有してな」る点
相違点2:本件発明では「アルカリ金属塩が、アルカリ金属酢酸塩と、アルカリ金属リン酸化合物又はホウ酸のアルカリ金属塩とを含」むのに対して、甲1発明では「酢酸ナトリウムを(A)成分100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部及びホウ酸を(A)成分100重量部に対してホウ素換算で0.001?1重量部を含有してなる」点
相違点3:本件発明では「前記組成物中に存在する6?18個の炭素原子を有する前記カルボン酸塩が、前記組成物1グラム当たりのカルボキシレートのマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであ」るのに対して、甲1発明では「脂肪酸金属塩(C)として、ラウリル酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ノナデカン酸、オレイン酸、カプリン酸、ベヘニン酸、リノール酸等の炭素数12?30の脂肪族モノカルボン酸のカルシウム塩等の金属塩を、上記樹脂組成物ペレット内部に存在せしめた脂肪酸金属塩(C1)としては、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.002?0.06重量部、上記樹脂組成物ペレット外部表面に存在せしめた脂肪酸金属塩(C2)としては、(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して0.005?0.05重量部存在させてな」る点
相違点4:本件発明では、「組成物が、前記エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する」のに対して、甲1発明では、上記「エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する」ことにつき特定されていない点
相違点5:本件発明では、他の樹脂成分の使用につき特定されていないのに対して、甲1発明では、「ポリアミド系樹脂(B)」を必須に含有する点

イ.各相違点についての検討

(ア)質量(重量)比と当量比との対応関係について(前提)
上記相違点1及び2のような質量(重量)比と(モル)当量比との当否を検討するにあたり、その対応関係について前提として確認する。
質量(重量)比で表された物質の存在比(「質量(重量)%」、「ppm」など)を、(モル)当量比で表された存在比(「当量/g」、「モル%」など)に換算しようとする場合、その物質の分子量による割り算が必要になるものと解される(上記II.における算出過程参照。)。
しかるに、物質の分子量は、その物質ごとに大きく異なり、略同種の化合物であっても有意に異なることが当業者に自明である。(例えば、酢酸ナトリウムは82であるのに対して、モノカルボン酸ナトリウム塩である点で同系種のステアリン酸ナトリウムは306である。)
してみると、質量(重量)比で表された物質の存在比(「質量(重量)%」、「ppm」など)については、物質が具体的に決定されている場合(例えば「酢酸ナトリウム」とされている場合等))に(モル)当量比で表された存在比(「当量/g」など)に換算することができるものの、物質が上位概念で表現・規定されている場合(例えば「モノカルボン酸ナトリウム塩」、「ホウ酸のアルカリ金属塩」などとされている場合等)には、直接的に換算することはできないものと認められる。
また、モル比と当量比との関係を確認すると、「モル」と物質の価数との「モル/価数」が「当量」であるから、物質の価数が1である場合、モル比「mol/g」と当量比「当量/g」とが同一値となることは、当業者に自明である。
以下、これを前提に検討を行う。

(イ)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1発明における「酢酸ナトリウムを(A)成分100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部及びそのアルカリ金属塩などを含むホウ酸化合物を(A)成分100重量部に対してホウ素換算で0.001?1重量部を含有してな」る点は、上記(ア)の前提からみて、「酢酸ナトリウムを(A)成分100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部」の点から、甲1発明の樹脂組成物(ペレット)が、酢酸ナトリウムに由来するナトリウムを概ね2?11マイクロ当量/g程度の範囲で有するものとは認められる。
しかしながら、甲1発明において、「(その他の)脂肪酸金属塩(C)」として任意使用される「有機酸の、リチウム、ナトリウム、カリウム」「等の金属塩」(摘示(a-5)参照)及び「ホウ酸」として使用される「ホウ酸のアルカリ金属塩」(摘示(a-7)【0032】参照)は、いずれも極めて広範な化合物が包含される上位概念による表現であって、「有機酸の」アルカリ「金属塩」及び「ホウ酸のアルカリ金属塩」に由来するアルカリ金属イオン量を「(A)成分100重量部に対」するという重量に基づく組成比で含有することに基づいて、本件発明のような「マイクロ当量/g」で表現される当量による組成比で換算・算出することはできるものではない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されている(【0059】?【0064】参照)とおり、そもそも、EVOH樹脂(エチレンビニルアルコールコポリマーおよび混合物)には、通常、ppmオーダーのアルカリ金属イオンが残留しているところ、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属成分を添加・含有させてなる甲1発明のEVOH樹脂組成物においても、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属成分に由来するアルカリ金属イオンのみならず、当該EVOH樹脂に由来する残留アルカリ金属イオンが含有されているものと認められる。
してみると、甲1発明の樹脂組成物(ペレット)全体におけるアルカリ金属イオン量を、「酢酸ナトリウムを(A)成分100重量部に対してナトリウム金属換算で0.005?0.025重量部を含有してな」ることに基づき、「マイクロ当量/g」で表現される組成比で規定される本件発明における「前記組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであ」ることと重複ないしは相当するとすることはできない。
また、甲1ないし甲5の開示を検討しても、甲1発明において、本件発明における「組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであ」るとすべきと当業者が認識し得る技術事項が開示されているものとも認められない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であり、甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできない。

(ウ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、甲1には、上記「ホウ酸」につき、「酢酸、ホウ酸、リン酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を含有させることも、樹脂組成物の熱安定性、ロングラン成形性、積層体としたときの接着性樹脂との層間接着性、加熱延伸成形性等が向上する点」が記載されており(摘示(a-7)【0032】)、当該記載からみて、甲1発明における「ホウ酸」として、遊離のホウ酸のみならず、そのアルカリ金属塩を使用することも一応開示されているものの、具体的に酢酸ナトリウムとホウ酸のアルカリ金属塩とを組み合わせて使用することまでは開示されておらず、上記記載は、酢酸ナトリウムと(遊離の)ホウ酸とを組み合わせて使用することを開示するものと限定的に理解するのが自然である。
また、甲1ないし甲5の開示を検討しても、甲1発明において、「酢酸ナトリウム」なる「アルカリ金属酢酸塩」と「ホウ酸アルカリ金属塩」とを併用すべきことを当業者が認識し得る技術事項が開示されているものとも認められない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点であり、甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできない。

(エ)相違点3ないし5について
上記(イ)及び(ウ)で検討したとおり、相違点1及び2につき、いずれも実質的な相違点であり、甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできないのであるから、相違点3ないし5につき検討することを要しない。

ウ.本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(【0008】、【0014】など参照)からみて、「押出成形などの成形にあたり、低粘度で成形性に優れ、成形物中のゲル発生がなく、積層体とした場合の他の層との接着力にも優れるEVOH樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
そこで、本件特許明細書の実施例の記載(【0059】?【0094】参照)を更に検討すると、本件発明に係るEVOH樹脂組成物のものであれば、低粘度で成形性に優れ、成形物中のゲル発生がなく、積層体とした場合の他の層との接着力にも優れると認められるのに対して、本件発明の範囲外のもの(例えば「85-12」など参照)であれば、上記3点(成形性、ゲル発生の抑制、接着性)のいずれかの点で劣り、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、本件請求項1に記載された事項を具備することにより、「押出成形などの成形にあたり、低粘度で成形性に優れ、成形物中のゲル発生がなく、積層体とした場合の他の層との接着力にも優れる」ことという顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲1発明の効果又は甲1発明に甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。

エ.小括
したがって、本件発明は、甲1に記載された発明ということはできず、また、甲1発明及び甲1ないし甲5に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

(2)甲2発明に基づく対比・検討

ア.対比
本件発明と上記甲2発明とを対比すると、本件発明と甲2発明とは、
「エチレンビニルアルコールコポリマーおよび混合物を含む組成物であって、
前記エチレンビニルアルコールコポリマーが、コポリマーの重量を基準にして、20?50%のエチレン由来反復単位を含み;
前記混合物が、少なくとも1つのアルカリ金属塩、および少なくとも1つのアルカリ土類金属カルボン酸塩を含む、組成物。」
の点で一致し、下記の5点で相違するものといえる。

相違点6:本件発明では「前記組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであ」るのに対して、甲2発明では「アルカリ金属塩(C)を金属換算で10?1000ppm含有」する点
相違点7:本件発明では「前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属酢酸塩と、アルカリ金属リン酸化合物又はホウ酸のアルカリ金属塩とを含」むのに対して、甲2発明では「アルカリ金属塩(C)」、「さらに、ホウ素化合物(D)及びリン酸化合物(E)を含有する」点
相違点8:本件発明では「6?18個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルカリ土類金属カルボン酸塩を含み、」「前記組成物中に存在する6?18個の炭素原子を有する前記カルボン酸塩が、前記組成物1グラム当たりのカルボキシレートのマイクロ当量に基づいて、0.5マイクロ当量/g?7マイクロ当量/gであ」るのに対して、甲2発明では「カルボン酸(A)を0.05?5μmol/g、アルカリ土類金属塩(B)を金属元素換算で2?25μmol/g・・含有し」「式(4)(式(4)自体は省略)を満足する」点
相違点4’:本件発明では、「組成物が、前記エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する」のに対して、甲2発明では、上記「エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する」ことにつき特定されていない点
相違点9:甲2発明では「窒素雰囲気下、220℃で加熱処理した時の極限粘度[η]の変化が以下の(1)?(3)式((1)ないし(3)の式自体はいずれも省略)を満た」すのに対して、本件発明では上記「極限粘度[η]の変化」につき特定されていない点

イ.各相違点についての検討

(ア)相違点6について
上記相違点6につき検討すると、アルカリ金属に属する金属であっても、ナトリウムとカリウムでは、原子量が大きく異なる(23と39)から、上記(1)イ.(ア)で示した前提事項からみて、甲2発明における「アルカリ金属塩(C)を金属換算で10?1000ppm含有」することに基づき、「マイクロ当量/g」で表現される組成比で換算・算出することはできず不明であるものと認められる。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されている(【0059】?【0064】参照)とおり、そもそも、EVOH樹脂(エチレンビニルアルコールコポリマーおよび混合物)には、通常、ppmオーダーのアルカリ金属イオンが残留しているところ、「アルカリ金属塩(C)」なる成分を添加・含有させてなる甲2発明のEVOH樹脂組成物においても、「アルカリ金属塩(C)」なる成分に由来するアルカリ金属イオンのみならず、当該EVOH樹脂に由来する残留アルカリ金属イオンが含有されているものと認められる。
してみると、甲2発明の樹脂組成物(ペレット)全体におけるアルカリ金属イオン量を、「アルカリ金属塩(C)を金属換算で10?1000ppm含有」することに基づき、「マイクロ当量/g」で表現される組成比で規定される本件発明における「前記組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであ」ることと重複ないしは相当するとすることはできない。
また、甲1ないし甲5の開示を検討しても、甲2発明において、本件発明における「組成物中に存在するアルカリ金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンのマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、1マイクロ当量/g?10マイクロ当量/gであ」るとすべきと当業者が認識し得る技術事項が開示されているものとも認められない。
したがって、上記相違点6は、実質的な相違点であり、甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできない。

(イ)相違点7について
上記相違点7につき検討すると、甲2には、甲2発明における「アルカリ金属塩(C)」として酢酸アニオンなるアニオン種とナトリウム又はカリウムなどのアルカリ金属(カチオン)との塩、すなわちアルカリ金属酢酸塩を使用すること(摘示(b-7)【0052】参照)、「ホウ素化合物(D)」として「ホウ酸のアルカリ金属塩」を使用すること(摘示(b-8)【0058】参照)及び「リン酸化合物(E)」として「リン酸のアルカリ金属塩」を使用すること(摘示(b-8)【0061】参照)がそれぞれ一応例示されているが、具体的に酢酸アルカリ金属塩とホウ酸アルカリ金属塩及び/又はリン酸アルカリ金属塩とを組み合わせて使用することまでは開示されていない。
また、甲1ないし甲5の開示を検討しても、甲2発明において、「酢酸アルカリ金属塩」と「ホウ酸アルカリ金属塩」及び/又は「リン酸アルカリ金属塩」とを併用すべきことを当業者が認識し得る技術事項が開示されているものとも認められない。
したがって、上記相違点7は、実質的な相違点であり、甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできない。

(ウ)相違点8、4’及び9について
上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、相違点6及び7につき、いずれも実質的な相違点であり、甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできないのであるから、相違点8、4’及び9につき検討することを要しない。

ウ.本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、上記(1)ウ.で説示したとおりの理由により、本件発明に係る上記所期の効果は、本件請求項1に記載された事項を具備することにより、「押出成形などの成形にあたり、低粘度で成形性に優れ、成形物中のゲル発生がなく、積層体とした場合の他の層との接着力にも優れる」ことという顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲2発明の効果又は甲2発明に甲1ないし甲5に記載された事項を組み合わせた場合の効果からみても、当業者が予期することができない顕著なものということができる。

エ.小括
したがって、本件発明は、甲2に記載された発明ということはできず、また、甲2発明及び甲1ないし甲5に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

(3)対比・検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明であるということができず、また、本件発明は、甲1ないし甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
以上のとおり、本件発明は、甲1に記載された発明であるということができず、また、本件発明は、甲1ないし甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
よって、本件請求項1に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立人が主張する取消理由1ないし4はいずれも理由がなく、本件の請求項1に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-12 
出願番号 特願2011-527000(P2011-527000)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (C08L)
P 1 652・ 537- Y (C08L)
P 1 652・ 113- Y (C08L)
P 1 652・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 前田 寛之
橋本 栄和
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5801199号(P5801199)
権利者 イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
発明の名称 金属カルボン酸塩を含むエチレンビニルアルコール組成物  
代理人 山崎 一夫  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  
代理人 田代 玄  
代理人 辻居 幸一  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  

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