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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1320233
異議申立番号 異議2016-700745  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-16 
確定日 2016-10-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5866358号発明「剤形からの活性含有成分の放出の制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5866358号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5866358号の発明についての出願は、平成23年6月9日(パリ条約による優先権主張 2010年7月28日 米国)の出願であって、平成28年1月8日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成28年8月16日に信越化学工業株式会社より特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第5866358号の請求項1ないし8に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下、「本件発明1」、「本件発明2」などともいう。

「【請求項1】
活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調整する方法であって、
a)ポリサッカリド誘導体、および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップ、
b)該組成物を乾式粉砕操作に供して乾式粉砕ポリサッカリド誘導体を得るステップ、ならびに
c)該乾式粉砕ポリサッカリド誘導体および活性含有成分を剤形に組入れるステップ、
を含み、
ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での液体希釈剤の量を制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整し、
該ポリサッカリド誘導体が水溶性セルロースエーテルである、方法。
【請求項2】
ステップa)において液体希釈剤の量を乾燥ポリサッカリド誘導体の質量部当たり0.4?50質量部の液体希釈剤で制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
既定時間での剤形からの活性含有成分の放出を、ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準で液体希釈剤の第1の量によって第1の値に調整し、該既定時間での剤形からの活性含有成分の放出を、ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準で液体希釈剤の第2の量によって第2の値に調整する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
a)ポリサッカリド誘導体および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での異なる制御された量の液体希釈剤を各々含む少なくとも2つの組成物を得るステップ、
b)各組成物を乾式粉砕操作に供して各組成物から乾式粉砕ポリサッカリド誘導体を得るステップ、ならびに
c)各乾式粉砕ポリサッカリド誘導体および活性含有成分を別個の剤形に組入れるステップ、
d)該剤形からの活性含有成分の放出を評価するステップ、
e)i)各剤形からの活性含有成分の放出と、ii)ステップa)の組成物における液体希釈剤およびポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での該ポリサッカリド誘導体の質量比と、の相関を規定するステップ、ならびに
f)該規定された相関を用いて、ステップa)の組成物中の液体希釈剤の量を、剤形からの活性含有成分の所望の放出に適合させるステップ
を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該セルロースエーテルが、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)において、回転式乾式粉砕装置において組成物を乾式粉砕操作に供する、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
乾式粉砕ポリサッカリド誘導体を、これを剤形に組入れる前に造粒ステップに供する、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調整するための、ポリサッカリド誘導体を乾式粉砕するプロセスの前の、水溶性セルロースエーテルであるポリサッカリド誘導体、および乾燥ポリサッカリド誘導体の質量部当たり0.4?50質量部の範囲の液体希釈剤を含む組成物における液体希釈剤の使用方法。」

第3 申立ての理由の概要
異議申立人 信越化学工業株式会社(以下、「異議申立人」という。)は、証拠方法として書証を申出、以下の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件発明1ないし8は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので取り消されるべきものであると主張している(特許異議申立書2頁?3頁 4 申立ての理由)。

証拠方法
甲第1号証:特開2001-240601号公報
甲第2号証:特許第2686215号公報
甲第3号証:甲第1号証の実施例9?14の結果のグラフ化

第4 甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項
1 甲第1号証について
甲第1号証には、以下のとおり記載されている。

(1ア)「【請求項1】 粒子状の水溶性セルロース誘導体を製造する方法であって、
a)水で膨潤および/または水に溶解する少なくとも1種のセルロース誘導体を供給組成物の全重量を基準にして20重量%から50重量%および水を供給組成物の全重量を基準にして50重量%から80重量%含んで成る供給組成物を生じさせ、
b)前記供給組成物を高回転速度インパクトミル内で熱交換ガスおよび担体ガスに接触させることで前記供給組成物の前記セルロース誘導体を固体状態の微粒子形態に変化させ、
c)前記粒子状のセルロース誘導体を前記熱交換ガスおよび担体ガスから分離し、そして
d)場合により、前記粒子状のセルロース誘導体を乾燥させる、ことを含んで成る方法。」

(1イ)「【0030】特に好適なセルロース誘導体は、水中である熱凝結点を示すセルロースエーテル類、例えばメチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどである。」

(1ウ)「【0034】前記供給組成物に含める水の量を、前記主要構造が壊れて所望のかさ密度が得られるに充分な膨潤または溶解が達成されるように選択する。この水の量を、前記供給組成物の全重量を基準にして、便利には50から80重量%、好適には65から78重量%、最も特に好適には68から76重量%にする。驚くべきことに、粉砕した製品で望まれるかさ密度を達成しようとする場合には水含有量を特定の最小量にする必要があることを見いだした。この値はとりわけ置換基の性質、エーテル化の度合およびセルロース誘導体の分子量に伴って変わる。必要な水含有量は一般にエーテル化の度合が高ければ高いほど少ない。必要な水含有量はまた一般に分子量が低ければ低いほど少ない。各場合とも処理を受けさせるべきセルロース誘導体の最適な水含有量を予備試験で決定することを推奨する。」

(1エ)「【0053】本発明の粒子状セルロース誘導体は数多くの用途で使用可能である。それらは例えば着色剤、薬剤、化粧品または食品に入れる水溶性もしくは溶媒溶解性増粘剤または結合剤として使用可能である。」

(1オ)「【0064】本発明に従う方法では、膨潤および/または溶解段階[即ち、供給組成物生成段階a)]を通して微粒子セルロース誘導体のかさ密度を0.15kg/lに等しいか或はそれ以上から0.5kg/lに等しいか或はそれ以下に調整または制御することができる。好適には、かさ密度が0.3kg/lに等しいか或はそれ以上で0.5kg/lに等しいか或はそれ以下の製品を製造する。」

(1カ)「【0065】
【実施例】供給組成物製造実施例
垂直に配置されているミキサー軸が備わっていてそれの上に混合手段が混合空間部全体を覆うように配置されている撹拌槽内で、水含有量が全重量を基準にして55重量%であるように水でしめっているメチルヒドロキシエチルセルロース[・・・]フィルターケーキを固体含有量が全重量を基準にして25%のメチルヒドロキシエチルセルロースゲルが生じるような量の水と一緒に連続的に混合する。・・・。」

(1キ)「【0071】・・・。
実施例1、4-8
ゲル中の固体含有量が下記の如き含有量(実施例1、4、5)であると粒子サイズ分布曲線およびかさ密度に関して非常に良好な結果がもたらされる。ローターの回転速度を同じにしてゲル中の固体含有量を高くすることでかさ密度が小さくなるように調整することができ、その結果として、また、粒子サイズ分布曲線もかなり粗くなる(実施例6、7、8)。」

(1ク)「【0072】
【表6】




(1ケ)「【0073】実施例9-14
ゲル中の固体含有量が下記の如き含有量(実施例11および12)であると粒子サイズ分布曲線およびかさ密度に関して非常に良好な結果がもたらされる。ゲル中の固体含有量を低くすればするほどゲルの処理量が低くなる(実施例9および10)、と言うのは、そのようにしないと、ミルの電力入力があまりにも高くなってしまうからである。ゲル中の固体含有量を高くすることを通して、かさ密度が低くなるように調整することができる(実施例13および14)。」

(1コ)「【0074】
【表7】




甲第1号証には、上記(1キ)?(1コ)のとおり、ゲル中の固体含有量を高くすることで、かさ密度が低くなることが記載されているが、「ゲル」や「固体含有量」が上記(1カ)のとおり、供給組成物製造実施例で使用される用語であること、及び上記(1ウ)(1オ)のとおり、所望のかさ密度は、粒子状セルロースの膨潤および/または溶解を通して達成すべきものであるとの開示を踏まえれば、ゲル中の固体含有量を高くすることは、甲第1号証に記載された「a)水で膨潤および/または水に溶解する少なくとも1種のセルロース誘導体を供給組成物の全重量を基準にして20重量%から50重量%および水を供給組成物の全重量を基準にして50重量%から80重量%含んで成る供給組成物を生じさせ」る工程(上記(1ア))に関連するものであると理解できるものの、「ゲル」と「供給組成物」の関係は明らかにされていないし、仮に、「ゲル」が「供給組成物」であるとした場合でも、水の量は「供給組成物の全重量を基準にして」算出されるものであって、「セルロース誘導体の乾燥基準質量基準」で算出されたものではない。
また、甲第1号証には、上記(1エ)のとおり、粒子状セルロース誘導体が、薬剤として使用可能である旨記載されているが、甲第1号証に記載された「粒子状の水溶性セルロース誘導体を製造する方法」の工程(上記(1ア))と、どのように関連するのかについての記載はなされていない。
したがって、上記の検討を踏まえれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認める。

「粒子状の水溶性セルロース誘導体のかさ密度を低下させる方法であって、
a)水で膨潤および/または水に溶解する少なくとも1種のセルロース誘導体を供給組成物の全重量を基準にして20重量%から50重量%および水を供給組成物の全重量を基準にして50重量%から80重量%含んで成る供給組成物を生じさせ、
b)前記供給組成物を高回転速度インパクトミル内で熱交換ガスおよび担体ガスに接触させることで前記供給組成物の前記セルロース誘導体を固体状態の微粒子形態に変化させ、
c)前記粒子状のセルロース誘導体を前記熱交換ガスおよび担体ガスから分離し、そして
d)場合により、前記粒子状のセルロース誘導体を乾燥させる、ことを含んで成る方法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)


2 甲第2号証について
甲第2号証には、以下のとおり記載されている。

(2ア)「【請求項1】 メトキシル基の置換度が19?30重量%、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が4?12重量%であるヒドロキシプロピルメチルセルロース粒子でなり、95重量%以上が100メッシュのふるいを通過でき、ゆるみ見掛け密度が0.35g/ミリリットル以下である徐放性基剤成分を含むことを特徴とする徐放性錠剤。
【請求項2】 20℃における該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2%水溶液の粘度が1000cP以上である請求項1に記載の徐放性錠剤。
【請求項3】 該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有率が5?90重量%である請求項1または2に記載の徐放性錠剤。」

(2イ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の発明者は、徐放性錠剤で薬効成分の溶出速度をコントロールするにあたり、徐放性基剤成分となるHPMCの粒度、メトキシル基やヒドロキシプロポキシル基の置換度、水に溶かしたときの粘度などとともに、いわゆるゆるみ見掛け密度の値が大きく影響することを見出した。
【0010】この知見のもとになされた本発明の徐放性錠剤は、メトキシル基の置換度が19?30重量%、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が4?12重量%であるHPMC粒子でなり、95重量%以上が100メッシュのふるいを通過でき、ゆるみ見掛け密度が0.35g/ミリリットル以下である徐放性基剤成分を含む。20℃におけるHPMCの2%水溶液の粘度は1000cP以上、HPMCの含有率は5?90重量%であるとよい。ゆるみ見掛け密度は、粉体特性総合測定装置を用いて力を加えない状態で一定容積中の重量を測定して求められる。」

(2ウ)「【0016】徐放性錠剤の製造方法としては乾式法と湿式法とがある。乾式法の場合、粉末状の薬効成分と徐放性基剤成分であるHPMCと賦型剤とを乾燥状態で均一に混合し、さらに滑沢剤を加えて混合し、得られた混合物を回転式打錠機などを使って圧縮する。」

(2エ)「【0018】95重量%以上が100メッシュのふるいを通過できる粒径のHPMC粒子の場合、圧縮成形されると互いに密に凝集し、溶出初期の錠剤の崩壊を抑制して過剰な薬物の放出を抑制する。ただしこうした作用も粒径で相違があり、粒径が大きい場合には凝集しても密度はやや粗になる。ゆるみ見掛け密度はそのような粗に凝集する粒子の圧縮成形性に影響を及ぼす。ゆるみ見掛け密度が0.35g/ミリリットル以下であると、200メッシュのふるいは通過できないが、95%以上が100メッシュのふるいを通過できる粒径の粒子に対し、その圧縮成形時の硬度を上げ、水和速度を上げる。ゆるみ見掛け密度が小さい場合にはその分で表面積が大きくなり、それによって圧縮成形性が向上するようになると考えられる。
【0019】こうしたことから本発明の場合、薬効成分の溶出初期に生じがちな錠剤の崩壊が効果的に抑制され、過剰な薬効成分の放出も防止される。
【0020】
【発明の効果】本発明の徐放性錠剤は上記のような構成でなるから、薬効成分の溶出速度を一定の低い値に容易にコントロールでき、一定濃度で長時間持続的に薬効成分を放出させることができる。」

(2オ)「【0031】実施例1,2及び比較例1,2よりゆるみ見掛け密度が0.35g/ミリリットルを超えると溶出の初期に錠剤が崩壊し始め、一時的に薬効成分を多量に放出し、目的の徐放性を示さなくなることが分かった。」

上記(2ア)の記載より、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「メトキシル基の置換度が19?30重量%、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が4?12重量%であるヒドロキシプロピルメチルセルロース粒子でなり、95重量%以上が100メッシュのふるいを通過でき、ゆるみ見掛け密度が0.35g/ミリリットル以下である徐放性基剤成分を含むことを特徴とする徐放性錠剤。」(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)

3 甲第3号証について
甲第3号証には、以下のことが記載されている。

(3ア)甲第1号証の実施例9?14の結果を用いて、粉砕前の水分含有量と、かさ密度との関係をグラフにしたものが記載されている。

第5 判断
異議申立人の申立ての理由は、申立人の主張からは明らかではないが、本件特許1?8は、甲第1号証記載の発明を主たる引用発明としたとき、あるいは甲第2号証記載の発明を主たる引用発明としたとき、これら主たる引用発明に基づいて当業者が容易に想到できるというものであると解釈して以下検討する(異議申立書2頁?3頁 4 申立ての理由)。

1 甲第1号証記載の発明に基づく容易想到性についての検討
(1)本件発明1について

ア 対比
本件発明1と、甲第1号証記載の発明とを対比する。
・甲第1号証記載の発明の「水溶性セルロース誘導体」は、上記摘示(1イ)によれば、具体的にはセルロールエーテル誘導体を含むため、本件発明1の「ポリサッカリド誘導体」「ポリサッカリド誘導体が水溶性セルロースエーテルである」ことに相当する。
・甲第1号証記載の発明の「高回転速度インパクトミル内で熱交換ガスおよび担体ガスに接触させることで前記供給組成物の前記セルロース誘導体を固体状態の微粒子形態に変化させ」は、本件発明1の「乾式粉砕操作に供して乾式粉砕ポリサッカリド誘導体を得るステップ」に相当する。

すると、本件発明1と、甲第1号証記載の発明とは以下の点で相違する。

相違点1
本件発明1は、「活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調整する方法」であって、「ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での液体希釈剤の量を制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整」する「方法。」であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、「粒子状の水溶性セルロース誘導体のかさ密度を低下させる方法」である点。

相違点2
本件発明1は、「a)ポリサッカリド誘導体、および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップ」を有するのに対し、甲第1号証記載の発明は、「a)水で膨潤および/または水に溶解する少なくとも1種のセルロース誘導体を供給組成物の全重量を基準にして20重量%から50重量%および水を供給組成物の全重量を基準にして50重量%から80重量%含んで成る供給組成物を生じさせ」る工程を有する点。

相違点3
本件発明1は、「c)該乾式粉砕ポリサッカリド誘導体および活性含有成分を剤形に組入れるステップ」を含むのに対し、甲第1号証記載の発明は、そのような特定がない点。

イ 判断
甲第2号証は、上記(2ウ)に記載のとおり、徐放性錠剤の製造方法としては、乾式法の場合、粉末状の薬効成分と徐放性基剤成分であるHPMC(本件発明1の「ポリサッカリド誘導体」に相当する。)と賦形剤とを乾燥状態で均一に混合し、さらに滑沢剤を加えて混合し、得られた混合物を回転式打錠機などをつかって圧縮する旨を開示するため、一見すると、本件発明1の「c)該乾式粉砕ポリサッカリド誘導体および活性含有成分を剤形に組入れるステップ」に関連するものといえそうである。
しかしながら、甲第2号証は、上記(2イ)(2エ)(2オ)のとおり、薬効成分の溶出速度を一定の低い値に容易にコントロールするための、ゆるみ見掛け密度の上限値として、0.35g/ミリリットルを開示するものであるが、ゆるみ見掛け密度を可変させることで、薬効成分の溶出速度を所望の値に制御または調整することまでを示すものではない。
また、甲第2号証には、ヒドロキシプロピルメチルセルロールに対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップは、記載されていない。
したがって、甲第1号証記載の発明に、甲第2号証に記載された事項を組み合わせても、少なくとも、相違点1の「活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調整する方法」であって、「ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での液体希釈剤の量を制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整」する「方法。」、及び相違点2の「a)ポリサッカリド誘導体、および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップ」の各特定事項を導き出すことはできない。
また、甲第3号証は、甲第1号証の実施例の数値をグラフ化したものであり、その記載内容は、甲第1号証に記載された範囲から外れるものではないから、甲第1号証記載の発明において、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明1の構成を導き出すことはできない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証記載の発明から、想到容易であるということはできない。

(2)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、想到容易であるということはできない。

(3)本件発明8について
本件発明8と、甲第1号証記載の発明とを対比しても、一致点は見当たらない。
また、甲第2号証及び甲第3号証も、本件発明8の特定事項を想起し得る事項を開示するものではないから、甲第1号証記載の発明において、甲第2号証に記載された事項、及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明8の各発明特定事項を導き出すことはできない。
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲第1号証記載の発明から、想到容易であるということはできない。

2 甲第2号証に記載の発明に基づく容易想到性についての検討
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と、甲第2号証記載の発明とを対比する。
・甲第2号証記載の発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、本件発明1の「ポリサッカリド誘導体が水溶性セルロースエーテルである」ことに相当する。

本件発明1と、甲第2号証記載の発明とは、上記のとおり、ポリサッカリド誘導体を使用すること以外に一致点はない。

仮に、甲第2号証には、上記(2ウ)に記載のように、粉末状の薬効成分と、HPMCと賦型剤とを混合する、徐放性製剤の製造方法は記載されているため、甲第2号証記載の発明を「徐放性製剤の製造方法」として認定し、「c)該乾式粉砕ポリサッカリド誘導体および活性含有成分を剤型に組み入れるステップ」が、甲第2号証に記載されているとした場合には、少なくとも以下の相違点が存在する。

相違点4
本件発明1が「活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調製する方法」であって、「ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での液体希釈剤の量を制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整」する「方法。」であるのに対し、甲第2号証記載の発明は、「徐放性製剤の製造方法」である点。

相違点5
本件発明1が「a)ポリサッカリド誘導体、および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップ」を含むのに対し、甲第2号証記載の発明は、そのような特定がない点。

相違点6
本件発明1が「b)該組成物を乾式粉砕操作に供して乾式粉砕ポリサッカリド誘導体を得るステップ」を有するのに対し、甲第2号証記載の発明はそのような特定がない点。


イ 判断
甲第1号証は、上記「1(1)ア」の相違点1、2で述べたとおり、本件発明1の「活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調製する方法」であって、「ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での液体希釈剤の量を制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整」する「方法。」、「a)ポリサッカリド誘導体、および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップ」を開示するものではない。
したがって、甲第2号証記載の発明において、甲第1号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明1の「活性含有成分およびポリサッカリド誘導体を含む剤形からの活性含有成分の放出を制御または調整する方法」であって、「ステップa)におけるポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での液体希釈剤の量を制御および調整することによって剤形からの活性含有成分の放出を制御および調整」する「方法。」、「a)ポリサッカリド誘導体、および該ポリサッカリド誘導体の乾燥質量基準での制御された量の液体希釈剤を含む組成物を得るステップ」の各特定事項を導き出すことはできない。
また、甲第3号証は、甲第1号証の実施例の数値をグラフ化したものであるので、その記載は、甲第1号証に記載された範囲から外れるものではなく、したがって、甲第2号証記載の発明において、甲第1号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明1の構成を導き出すことはできない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第2号証記載の発明から、想到容易であるということはできない。

(2)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、想到容易であるということはできない。

(3)本件発明8について
本件発明8と、甲第2号証記載の発明とを対比しても、一致点は見当たらない。
また、甲第1号証も、本件発明8の特定事項を想起し得る事項を開示するものではないから、甲第2号証記載の発明において、甲第1号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせても、本件発明8の各発明特定事項を導き出すことはできない。
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲第2号証記載の発明から、想到容易であるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-12 
出願番号 特願2013-521783(P2013-521783)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 牧野 晃久  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
齊藤 光子
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5866358号(P5866358)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 剤形からの活性含有成分の放出の制御方法  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 胡田 尚則  
代理人 奥山 尚一  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 有原 幸一  
代理人 齋藤 都子  
代理人 河村 英文  
代理人 松島 鉄男  

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