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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B60G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B60G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60G
管理番号 1320529
審判番号 不服2014-25930  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-18 
確定日 2016-11-01 
事件の表示 特願2011-543871号「車両の独立懸架装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日国際公開、WO2010/055469、平成24年 4月12日国内公表、特表2012-508670号、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2009年11月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月12日 (IT)イタリア共和国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月24日付けで意見書及び補正書が提出されたが、同年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成27年10月7日付けで平成26年12月18日付け手続補正が決定をもって却下され、同日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月11日付けで意見書及び補正書が提出され、同年7月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年9月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
車輪(W)を保持するように意図された車輪保持部材(22)と、下端が前記車輪保持部材(22)へと接続されたダンパ(12)と、一方で車体(B)に接続され、他方で前記車輪保持部材(22)へと接続された複数のアームおよび/またはロッド(14,24)と、を備える車両の独立懸架装置(10)であって、
前記ダンパ(12)と前記車輪保持部材(22)との間に介装され、これら2つの構成部品を、車体(B)の上下方向と直交する面と鋭角を形成するように向けられている関節運動軸(H)を中心にして互いに対して回転できるようにするヒンジ手段(30;34)と、
前記ダンパ(12)と前記車輪保持部材(22)との間に介装され、前記関節運動軸(H)を中心とするこれら2つの構成部品の間の関節接続のねじり剛性を制御するねじり剛性制御手段(32;34;34,70)と
をさらに備え、
前記ヒンジ手段が、一対のボールジョイント(30)を備えており、前記関節運動軸(H)が、前記ジョイント(30)の中心を通過する軸によって定められる、
懸架装置。」

2.原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由
原査定の拒絶理由、当審において通知した平成27年10月7日付け拒絶理由(以下、「当審理由1」という。)、及び、平成28年7月1日付け拒絶理由(以下、「当審理由2」という。)の概要は次のとおりである。
(1)原査定の拒絶理由
〔理由1〕この出願の請求項1?20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
〔理由2〕この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

〔理由1について〕
引用文献A:特開平1-223012号公報
引用文献B:特開平6-270624号公報
・請求項1?20に係る発明は、引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
〔理由2について〕
・請求項1の「水平面」との記載、請求項2の「横鉛直面」との記載、請求項3の「水平方向」との記載、請求項9の「並進運動に関する剛性」との記載は明確でない。

(2)当審理由1の概要
〔理由1〕この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
〔理由2〕この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
〔理由3〕この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
〔理由4〕この出願の請求項1?3、9?12、18?20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
〔理由5〕この出願の請求項1?6、9?12、18?20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

〔理由1について〕
ア 請求項1の「ストラット」、「水平面」の記載、請求項2の「横鉛直面」の記載、請求項3の「水平方向」の記載、請求項9の「並進運動に関する剛性」の記載は明確でない。
イ 請求項13?15の記載は明確でない。
〔理由2について〕
・請求項7に対応する構成は明細書に十分に開示されていない。
〔理由3について〕
・この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
〔理由4、5について〕
引用文献1:特開2008-143477号公報
引用文献2:特開平1-223012号公報
引用文献3:特開平6-270624号公報
・請求項1?3、9?12、18?20に係る発明は、引用文献1に記載された発明と同一であるといえるか、あるいは、請求項1?6、9?12、18?20に係る発明は、引用文献1に記載された発明と引用文献2または3に記載の事項あるいは周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる。

(3)当審理由2の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項3の記載は、引用する請求項1の記載と対応しない。

3.当審の判断
以下に、当審理由2、1、原査定の拒絶理由の順に検討する。
(1)当審理由2について
当審理由2に対応して、審判請求人は平成28年9月12日付けの手続補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する補正を行った。
したがって、当審理由2は解消した。

(2)当審理由1について
ア 理由1?3について
当審理由1に対応して、審判請求人は平成28年4月11日付けの手続補正により、次の補正事項1?3を含む補正を行った。
〔補正事項1〕補正前の特許請求の範囲の請求項5?8、12?17を削除する。
〔補正事項2〕補正前の請求項1、11、18、19の「ストラット」を「車輪保持部材」とし、補正前の請求項1の「水平面」を「車体(B)の上下方向と直交する面」とし、補正前の請求項2の「横鉛直面」を「車体(B)の前後方向と直交する面内」とし、補正前の請求項3の「水平方向」を「車体(B)の上下方向と直交する方向」とし、補正前の請求項9の「この軸に対して接線方向に作用する並進運動に関する剛性」を「この軸に対して接線方向の剛性」とする。
〔補正事項3〕請求項1に補正前の請求項7の「ヒンジ手段が、一対のボールジョイント(30)を備えており、関節運動軸(H)が、ジョイント(30)の中心を通過する軸によって定められる」との事項を加える。
当審理由1の、理由1の「イ」の事項は、上記補正事項1により、解消した。
当審理由1の、理由1の「ア」の事項は、上記補正事項2により、解消したといえる。
当審理由1の、理由2は、上記補正事項3及び意見書における釈明により、解消したといえる。
当審理由1の、理由3は、意見書における釈明により、解消したといえる。

イ 理由4、5について
(ア)引用文献記載の事項及び引用発明
引用文献1の【図1】から、「第2上ボールジョイント(32)」の「第2上スタッド(45)」の軸は、車体上下方向と直交する面と鋭角で交差していることを看取できる。
そうすると、引用文献1には、その【特許請求の範囲】、段落【0017】?【0052】の記載及び【図1】の記載からみて次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「アウタチューブ(21)にインナチューブ(22)が進退自在に収納され、アウタチューブ(21)およびインナチューブ(22)の外側にコイルスプリング(23)が設けられ、インナチューブ(22)内にピストンが収納されたストラット(12)のピストンから延びたピストンロッド(24)の上端部が車体に連結され、前記ストラット(12)の下端部(12b)に設けられた支持部材(13)に第1上ボールジョイント(31)と第2上ボールジョイント(32)とを介して、前輪(27)をボルト止めするブレーキディスク(26)が設けられたハブを回転自在に支持するナックル(16)の上端部(16a)を回動自在に連結するとともに、前記ナックル(16)の下端部(16b)をロアアーム(19)に回動自在に連結し、前記ナックル(16)の回動中心がキングピン(66)と同軸上に配置された車両用フロントサスペンション装置(10)において、
前記第1上ボールジョイント(31)と第2上ボールジョイント(32)とは、前記ストラット(12)および前記ナックル(16)のうち、一方に設けられた第1上スタッド(35)と第2上スタッド(45)と、他方に設けられた第1上球体(36)と第2上球体(46)とで構成され、
前記第1上ボールジョイント(31)と第2上ボールジョイント(32)の球体(36、46)のそれぞれの中心(36a、46a)が前記キングピン(66)と同軸上に配置され、
前記第1上ボールジョイント(31)の第1上スタッド(35)が前記キングピン(66)と同軸上に配置され、
前記第2上ボールジョイント(32)の第2上スタッド(45)が前記キングピンと直交し車体上下方向と直交する面と鋭角で交差した、
車両用フロントサスペンション装置(10)。」

(イ)対比・判断
(a)請求項1に係る発明(本願発明)
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「前輪(27)をボルト止めするブレーキディスク(26)が設けられたハブを回転自在に支持するナックル(16)」は、前者の「車輪を保持するように意図された車輪保持部材」に相当する。
後者の「アウタチューブ(21)にインナチューブ(22)が進退自在に収納され、アウタチューブ(21)およびインナチューブ(22)の外側にコイルスプリング(23)が設けられ、インナチューブ(22)内にピストンが収納されたストラット(12)」は、前者の「ダンパ」に相当するとともに、後者の「下端部(12b)に設けられた支持部材(13)に第1上ボールジョイント(31)と第2上ボールジョイント(32)とを介して」「ナックル(16)の上端部(16a)を回動自在に連結する」「ストラット(12)」は、前者の「下端が車輪保持部材へと接続されたダンパ」に相当する。
後者の「ロアアーム(19)」は、前者の「一方で車体に接続され、他方で前記車輪保持部材へと接続された複数のアームおよび/またはロッド」と、「一方で車体に接続され、他方で前記車輪保持部材へと接続されたアームおよび/またはロッド」である限りにおいて一致する。
後者の「第2上ボールジョイント(32)」は、「ストラット(12)の下端部(12b)に設けられた支持部材(13)に」「ナックル(16)の上端部(16a)を回動自在に連結する」ものであるとともに、その「第2上スタッド(45)がキングピンと直交し車体上下方向と直交する面と鋭角で交差」するものであるので、第2上ボールジョイント(32)は第2上スタッド(45)の軸を中心に回転すると認められる。そうすると、後者の「第2上ボールジョイント(32)」は、前者の「ダンパと車輪保持部材との間に介装され、これら2つの構成部品を、水平面と鋭角を形成するように向けられている関節運動軸を中心にして互いに対して回転できるようにするヒンジ手段」に相当する。
後者の「第1上ボールジョイント(31)」の「第1上スタッド(35)」は「キングピンと同軸上に配置され」るものであるので、第2スタッド(45)と直交することになり、その構造からみて、第2上ボールジョイント(32)の第2上スタッド(45)の軸回りの回転を制限するものと認められる。そうすると、後者の「第1上ボールジョイント(31)」は、前者の「ダンパと車輪保持部材との間に介装され、関節運動軸を中心とするこれら2つの構成部品の間の関節接続のねじり剛性を制御するねじり剛性制御手段」に相当する。
後者の「車両用フロントサスペンション装置(10)」は、前者の「懸架装置」に相当する。
そうすると、両者は、
「車輪を保持するように意図された車輪保持部材と、下端が前記車輪保持部材へと接続されたダンパと、一方で車体に接続され、他方で前記車輪保持部材へと接続されたアームおよび/またはロッドと、を備える車両の独立懸架装置であって、
前記ダンパと前記車輪保持部材との間に介装され、これら2つの構成部品を、水平面と鋭角を形成するように向けられている関節運動軸(H)を中心にして互いに対して回転できるようにするヒンジ手段と、
前記ダンパと前記車輪保持部材との間に介装され、前記関節運動軸を中心とするこれら2つの構成部品の間の関節接続のねじり剛性を制御するねじり剛性制御手段と
をさらに備える懸架装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点1〕
本願発明は、一方で車体に接続され、他方で前記車輪保持部材へと接続されたアームおよび/またはロッドが「複数」であるのに対して、引用発明は、ロアアーム(19)にそのような特定がなされていない点。
〔相違点2〕
本願発明は、「ヒンジ手段」について「一対のボールジョイントを備えており、関節運動軸(H)が、前記ジョイントの中心を通過する軸によって定められる」構成であるのに対して、引用発明は、「第2上ボールジョイント(32)」がそのような構成でない点。

上記各相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
車両の前輪の独立懸架装置において、ロアリンクのほかに操舵用のタイロッドをナックルに接続することは、特に例示するまでもなく周知である。
引用発明は車両用フロントサスペンション装置であるので、ロアアームのほかに操舵用のタイロッドを備えていると認められるので、相違点1に係る本願発明の構成を実質的に備えているか、あるいは、引用発明を、周知のナックルにロアリンクとタイロッドとが接続した独立懸架装置とし、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
〔相違点2について〕
相違点2に係る本願発明の構成は、補正前の請求項7で特定された事項であるが、補正前の請求項7は、当審理由1においては理由4、5の対象となっていない。
また、他の請求項に対する拒絶理由で引用した引用文献2、3には、相違点2に係る本願発明の構成は示唆されておらず、さらに、他に相違点2に係る本願発明の構成を示唆する文献はない。
よって、引用発明を、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明とはいえないし、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(b)請求項2?8に係る発明
請求項2?8に係る発明は、本願発明(請求項1に係る発明)のすべての事項を含むとともにさらに限定を付加するものである。
したがって、請求項2?8に係る発明は、本願発明と同様に、引用文献1に記載された発明とはいえないし、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(3)原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由の理由2は、当審理由1の理由1に包含されており、当審理由1の理由1が解消していることは、上記「(2)ア」で述べたとおりである。
原査定の拒絶理由の理由1で引用する引用文献A、Bは、当審理由1の理由5で引用する引用文献2、3と同じであり、引用文献2、3が、上記「(2)イ(イ)(a)」欄で示した相違点2に係る本願発明の構成を示唆するものでないことは、同欄で述べたとおりである。
したがって、本願発明は、引用文献A及びBに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶の理由1及び2を検討してもその理由によって拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-18 
出願番号 特願2011-543871(P2011-543871)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B60G)
P 1 8・ 536- WY (B60G)
P 1 8・ 113- WY (B60G)
P 1 8・ 121- WY (B60G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 島田 信一
平田 信勝
発明の名称 車両の独立懸架装置  
復代理人 田中 光雄  
復代理人 田中 三喜男  
代理人 山田 卓二  

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