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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01N
管理番号 1320571
審判番号 不服2016-4317  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-22 
確定日 2016-11-07 
事件の表示 特願2011-113737号「重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年7月26日出願公開、特開2012-140928号、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年5月20日(優先権主張 平成22年12月16日)の出願であって、平成26年5月16日に手続補正書が提出され、平成27年4月24日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年3月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年3月22日付けの手続補正の適否
[1]本件補正
1.本件補正の内容
平成28年3月22日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年6月29日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし15の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「【請求項1】
重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、該静電サイクロン排気ガス浄化装置の下流に排気ガスを更に浄化するスクラバーを配設し、該スクラバーの下流側排気管に前記排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部に連なるEGR配管及びEGRバルブを介して前記EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となしたことを特徴とする、重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項2】
前記EGR配管にEGRガスを冷却するEGRクーラーを設けることを特徴とする請求項1に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記排気ガスクーラーと前記静電サイクロン排気ガス浄化装置との間の排気管、前記スクラバーと前記EGRクーラーとの間の排気管又はEGR配管、及び前記EGRクーラーの後方のEGR配管の少なくとも1箇所に、凝縮水を分離除去する汽水分離器を配設することを特徴とする請求項1又は2に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記EGR配管にEGRガスを圧送して吸気に還流させるブロアーを設けることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記船舶用ディーゼルエンジンに、1段もしくは複数段の過給機により吸気が過給される過給システムを設けることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項6】
重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に、排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部に連なるEGR配管に排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、該静電サイクロン排気ガス浄化装置の下流にEGRガスを更に浄化するスクラバーを配設し、該スクラバーの下流側EGR配管に設けたEGRバルブを介してEGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となしたことを特徴とする重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項7】
前記スクラバーの後方にEGRガスを冷却するEGRクーラーを設けることを特徴とする請求項6に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項8】
前記排気ガスクーラーと前記静電サイクロン排気ガス浄化装置との間のEGR配管、及び前記スクラバーと前記EGRクーラーとの間のEGR配管、及び前記EGRクーラーの後方のEGR配管の少なくとも1箇所に、凝縮水を分離除去する汽水分離器を設けることを特徴とする請求項6又は7に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項9】
前記EGR配管にEGRガスを圧送して吸気に還流させるブロアーを設けることを特徴とする請求項6?8のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項10】
前記船舶用ディーゼルエンジンに、1段もしくは複数段の過給機により吸気が過給される過給システムを設けることを特徴とする請求項6?9のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項11】
重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、該静電サイクロン排気ガス浄化装置の下流側排気管に前記排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部の下流側のEGR配管にEGRガスを更に浄化するスクラバー及びEGRバルブを設けて前記EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となしたことを特徴とする、重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項12】
前記スクラバーの後方にEGRガスを冷却するEGRクーラーを設けることを特徴とする請求項11に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項13】
前記排気ガスクーラーと前記静電サイクロン排気ガス浄化装置との間の排気管、及び前記スクラバーと前記EGRクーラーとの間のEGR配管、及び前記EGRクーラーの後方のEGR配管の少なくとも1箇所に、凝縮水を分離除去する汽水分離器を設けることを特徴とする請求項11又は12に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項14】
前記EGR配管にEGRガスを圧送して吸気に還流させるブロアーを設けることを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項15】
前記船舶用ディーゼルエンジンに、1段もしくは複数段の過給機により吸気が過給される過給システムを設けることを特徴とする請求項11?14のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「 【請求項1】
重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に排気ガスの温度が100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却する排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、該静電サイクロン排気ガス浄化装置の下流に排気ガスを更に浄化するスクラバーを配設し、該スクラバーの下流側排気管に前記排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部に連なるEGR配管及びEGRバルブを介して前記EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となしたことを特徴とする、重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項2】
前記EGR配管にEGRガスを冷却するEGRクーラーを設けることを特徴とする請求項1に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記排気ガスクーラーと前記静電サイクロン排気ガス浄化装置との間の排気管、前記スクラバーと前記EGRクーラーとの間の排気管又はEGR配管、及び前記EGRクーラーの後方のEGR配管の少なくとも1箇所に、凝縮水を分離除去する汽水分離器を配設することを特徴とする請求項1又は2に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記EGR配管にEGRガスを圧送して吸気に還流させるブロアーを設けることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記大排気量船舶用ディーゼルエンジンに、1段もしくは複数段の過給機により吸気が過給される過給システムを設けることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項6】
重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に、排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部に連なるEGR配管に排気ガスの温度が100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却する排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、該静電サイクロン排気ガス浄化装置の下流にEGRガスを更に浄化するスクラバーを配設し、該スクラバーの下流側EGR配管に設けたEGRバルブを介してEGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となしたことを特徴とする重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項7】
前記スクラバーの後方にEGRガスを冷却するEGRクーラーを設けることを特徴とする請求項6に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項8】
前記排気ガスクーラーと前記静電サイクロン排気ガス浄化装置との間のEGR配管、及び前記スクラバーと前記EGRクーラーとの間のEGR配管、及び前記EGRクーラーの後方のEGR配管の少なくとも1箇所に、凝縮水を分離除去する汽水分離器を設けることを特徴とする請求項6又は7に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項9】
前記EGR配管にEGRガスを圧送して吸気に還流させるブロアーを設けることを特徴とする請求項6?8のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項10】
前記大排気量船舶用ディーゼルエンジンに、1段もしくは複数段の過給機により吸気が過給される過給システムを設けることを特徴とする請求項6?9のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項11】
重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に排気ガスの温度が100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却する排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、該静電サイクロン排気ガス浄化装置の下流側排気管に前記排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部の下流側のEGR配管にEGRガスを更に浄化するスクラバー及びEGRバルブを設けて前記EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となしたことを特徴とする、重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項12】
前記スクラバーの後方にEGRガスを冷却するEGRクーラーを設けることを特徴とする請求項11に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項13】
前記排気ガスクーラーと前記静電サイクロン排気ガス浄化装置との間の排気管、及び前記スクラバーと前記EGRクーラーとの間のEGR配管、及び前記EGRクーラーの後方のEGR配管の少なくとも1箇所に、凝縮水を分離除去する汽水分離器を設けることを特徴とする請求項11又は12に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項14】
前記EGR配管にEGRガスを圧送して吸気に還流させるブロアーを設けることを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。
【請求項15】
前記大排気量船舶用ディーゼルエンジンに、1段もしくは複数段の過給機により吸気が過給される過給システムを設けることを特徴とする請求項11?14のいずれか1項に記載の重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2.本件補正の目的
(1)請求項1、6及び11について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1、6及び11について、それぞれ、「船舶用ディーゼルエンジン」を「大排気量船舶用ディーゼルエンジン」とする補正、及び、「排気ガスクーラー」を「排気ガスの温度が100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却する排気ガスクーラー」とする補正を含んでいる。(上記請求項1、6及び11の補正事項について、それぞれ、「補正事項1」、「補正事項6」及び「補正事項11」という。)
そして、本件補正の補正事項1、6及び11は、請求項1、6及び11に記載した発明を特定するために必要な事項である「船舶用ディーゼルエンジン」について、「大排気量」との限定を付加するものであり、さらに、「排気ガスクーラー」について、「排気ガスの温度が100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1、6及び11に記載された発明と補正後の請求項1、6及び11に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)請求項2ないし5及び請求項7ないし10並びに請求項12ないし15について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項2ないし5及び請求項7ないし10並びに請求項12ないし15について、それぞれ、「船舶用ディーゼルエンジン」を「大排気量船舶用ディーゼルエンジン」とする補正を含んでいる。(上記請求項2ないし5及び請求項7ないし10並びに請求項12ないし15の補正事項について、それぞれ、「補正事項2」ないし「補正事項5」及び「補正事項7」ないし「補正事項10」並びに「補正事項12」ないし「補正事項15」という。)
そして、本件補正の補正事項2ないし5及び7ないし10並びに12ないし15は、請求項2ないし5及び7ないし10並びに12ないし15に記載した「船舶用ディーゼルエンジン」について、「大排気量」との限定を付加するものであって、補正前の請求項2ないし5及び7ないし10並びに12ないし15に記載された発明と補正後の請求項2ないし5及び7ないし10並びに12ないし15に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

[2]独立特許要件についての判断
本件補正における本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1ないし15に記載された発明(以下、「補正発明1」ないし「補正発明15」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

1.引用例1
(1)引用例1の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2005-533963号公報(以下、「引用例1」という。)には、「ディーゼルエンジン排気ガスの汚染物質を削減するシステム及び方法」に関し、図面とともに以下の記載がある。

1a)「【請求項1】
規制された汚染物質および規制されていない汚染物質をディーゼルエンジンの排気ガスから除去するディーゼル排気ガス後処理システムであって、
酸化触媒と、
排気ガスを冷却する排気ガス冷却システムと、
粒子状物質を凝集し分離するディーゼル粒子変換炉と、
捕捉した煤塵を収集し保持する煤塵収集チェンバとを備え、
再循環システムが、粒子収集チェンバから出た清浄な排気ガスを、エンジン空気フィルタの下流の引き込み口に流す、ディーゼル排気ガス後処理システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

1b)「【請求項8】
上記の酸化触媒は活性酸化触媒であり、この活性酸化触媒は、排気ガス冷却システムおよびディーゼル粒子変換炉と協働して、排気ガスに含まれるNOの大部分をNO_(2)に変換し、このNO_(2)は、冷却された後、ディーゼル粒子変換炉の後段で水洗浄により吸収され、これによって、ディーゼルエンジンの尾部パイプから出る排気ガスから相当量のNO_(X)が除去される、請求項1に記載のディーゼル排気ガス後処理システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項8】)

1c)「【請求項13】
排気ガス中の粒子状物質を凝集し分離する上記の完全凝集ディーゼル粒子変換炉は、
筐体と、
筐体の半径方向の中心にある中核パイプであって、清浄な排気ガスの流れを捕捉するための複数の窓が設けられた中核パイプを備えた遠心分離機と、
凝集器と、
排気ガスが上流側の端部で遠心分離機に流入した後、強制的にサイクロン螺旋運動をして下流側の端部から流出するように上記の中心から凝集器まで延びた複数の螺旋部とを備えている、請求項1に記載のディーゼル排気ガス後処理システム。
【請求項14】
上記の完全凝集変換炉は、
粒子変換炉の上流側で排気ガスにサイクロン運動を行わせるための複数の凝集板を備えた吸気部と、
凝集粒子にさらなる処理を施すために凝集粒子を運ぶ複数の凝集板を備えた排気部とを備えている、請求項13に記載のディーゼル排気ガス後処理システム。
【請求項15】
中心にある上記の中核パイプは、上記した複数の窓を介して清浄な排気ガスの層が形成されるに伴い、この清浄な排気ガスの層を漸進的に捕捉し収集する、請求項13に記載のディーゼル排気ガス後処理システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項13】ないし【請求項15】)

1d)「【請求項29】
上記の螺旋部は、入ってくる排気ガスの流れに回転サイクロン運動を行わせ、これによって、凝集粒子を螺旋部の外径で分離した状態に保つための高遠心運動を起こす、請求項15に記載のディーゼル排気ガス後処理システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項29】)

1e)「【請求項60】
排気ガスからNO_(2)を吸着するための水洗浄機をさらに有する、請求項1に記載の排気ガス後処理システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項60】)

1f)「【0014】
粒子凝集・分離炉は、本発明の基本的構成要素である。ディーゼル機関から排出される公知の汚染物質の全てを対象に、さらなる付加・改良が、システム設計に対して施される。移動用装置では、排気ガスの燃焼による副産物は、粒子状物質を含んでおらず、したがって、清浄な再循環排気ガス(EGR)として、エンジンの吸気部に送ることができる。EGRは、NO_(X)を削減する機能を有する。再循環排気ガスの流れは、尾部パイプに設けた方向転換弁によってさらに変更できる。
【0015】
排気ガスの流れを、焼却炉に向ける代わりに定着チェンバ(settlement chamber)に向ける場合、このチェンバは、エンジン稼動中に、チェンバが一杯になるまで(典型的には3?6か月後まで)煤塵を収集する。チェンバが一杯になると、オイル交換等の所定の整備手続の中で、チェンバ内の煤塵は廃棄される。整備工場では、粒子は煤塵ドラムに投入され、圧縮されて小球状に加工される。これは、排気ガス尾部パイプを接続し、空運転状態で、堆積した煤塵が排気ガスによって煤塵ドラムに掃き出される(掃気流)ようにすることで可能となる。チェンバを空にして煤塵ドラムに煤塵を詰めるこの作業には、約5分かかる。1つの煤塵ドラムを、10から数百という多くの移動用エンジンに用いることができる。据え付け装置、海用装置、または複数エンジン装置の場合や、煤塵ドラムを設置する空間がある場合は、煤塵チェンバは必要なく、掃気流を煤塵ドラムに直接流せばよい。あるいは、定着チェンバの代わりに、煤塵を収集するための袋を用いてもよい。
【0016】
本発明のシステムによれば、PM、NO_(X)、有毒物質(VOC)、ナノ粒子汚染、SO_(2)HC、COを効率よく削減できる。さらに、粒子変換炉の単純かつ受動的な性質と、このシステムのバランスの大多数とは、持続性、信頼性、および、後処理技術に関する他の安全上の問題を解決するための、最も有望な手法である。
【0017】
本発明の他の実施形態は、トラックやSUV等の小型ディーゼルエンジン装置に適している。これらの装置のほぼ全て(特に、改良移動用装置)にとって、後処理装置の大きさが決定的に重要である。さらに、一時的モードで稼動中のエンジンでは、乱流および渦効果が大きく、遠心分離機の遠心加速が変化するため、遠心分離機は最適な状態で適切に稼動できない。この実施形態は、遠心分離機を備えていない単体の装置からなる。凝集処理に代えて、準凝集・濾過処理が行われる。この装置は、金網の集合体(composite wire mesh)を含んでおり、この金網の集合体は、濾過金網が付加された金網手段(wire mesh media augmented with filtration screens)を備えている。この準凝集・濾過手段は、凝集原理によって機能し、単一または複数段での濾過を行う、深いフィルタである。この手段は、完全凝集器として機能することが期待されている。したがって、粒子収集効率(手段での圧力低下の増加によって計測する)が低下し始めると、手段を浄化する措置を講ずる必要がある。このため、手段に堆積した大量の煤塵を取り除くための逆拍動噴射機が採用された。凝集し、吹き飛ばされた上流側の煤塵は、筐体の底部に定着する。凝集粒子が攪拌され、上昇して再び金網手段に堆積することを防止するため、穴の開いた仕切り板を用いて、収集した煤塵を分離してもよい。収集した煤塵は、重力および振動によって穴の開いた仕切り板から落下し、排気ガスの主要な流れから分離される。穴の開いた仕切り板と金網の集合体との間の空間には、排気ガスの主要な流れのみが流れる。
【0018】
この準凝集・濾過手段の実施形態は、形状が矩形であり、トラックやバス等の移動用動力源(mobile source)の床下への設置に適した高さを有していてもよいが、これに限られない。あるいは、この実施形態は、一定のトラックやバスへの垂直設置に適した、円筒形の装置であってもよい。いずれの実施形態においても、金網手段を収納するチェンバの数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。金網手段を収納するチェンバの数を増やせば、圧力低下を低減し、煤塵保持効率および煤塵捕捉効率を上げられる。」(段落【0014】ないし【0018】)

1g)「【0022】
A.システムの簡単な説明
まず、図1は、エンジンからの排気ガスに含まれる汚染物質の削減のための後処理システムを示している。なお、図面中、同一の参照符号が複数図で用いられている場合は、同一または対応する部品を示している。図1に示すシステムは、効率の良い条件(lean condition)下で稼動し、適量の粒子状物質を有する、ディーゼルエンジン、圧縮液体天然ガスエンジン等の様々な内燃エンジンからの排気ガスの後処理に用いることができる。本発明のシステムは、排気ガスに含まれる全ての汚染物質をまとめて破壊・分離・除去するように設計できる。排気ガスに含まれる汚染物質には、粒子状物質およびナノサイズ粒子、揮発性有機化合物、窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素、二酸化硫黄等がある。複数の処理により、大気中に排出された排気ガスから上記した汚染物質の全てを効率よく取り除き、高汚染エンジンを環境的に非常に清浄なエンジンにできる。
【0023】
引き続き図1を参照し、さらに図2?図7を参照すると、据え付けディーゼルエンジン装置用の本発明の転換炉システムの、好適な実施形態の様々な例が示されている。エンジンの排気菅(manifold)に、酸化触媒10が接続されている。触媒10は、ディーゼル酸化触媒でもよいし、ガソリンエンジン装置で用いるような活性貴金属触媒でもよい。触媒10の次には排気システム50が設けられており、この排気システム50は、粒子転換炉100に入る前の排気ガスの冷却を可能な限りで最大にするように設計されている。可能な冷却状態は、一般に、異なる熱伝導状態を代表する3つの部分(放射部60、次に気体対流部70、次に液体対流部80)に分かれる。
【0024】
据え付けエンジン装置の粒子転換炉については、図3、図4、図6がより詳細に示している。粒子変換炉は、主として吸気部110、凝集器120、遠心分離機130、排気部140からなる。図4および図5A・図5Bに示すように、排気部140では、焼却炉150を用いてもよい。変換炉の出口に設けられた掃気流路は、煤塵収集チェンバ170に配管されている。煤塵収集チェンバ170を出た清浄な排気ガスは、エンジンの空気清浄器への再循環排気ガス(Exhaust Gas Recirculation; EGR)200を形成する。EGRシステムでは、EGR流量を適切に計測するため、軸加速ポンプ171を用いてもよい。煤塵収集チェンバ170で収集された煤塵は、配管を通じて煤塵処理ドラム200に送られ、粒状で再利用される。
【0025】
B.酸化触媒
本発明の酸化触媒10としては、VOC化合物の軽い破片を十分に減少させる一方、VOC化合物の重い破片を通過させ、排気パイプで凝縮して最終的には粒子変換炉で収集できるようなものを選択する。VOCの凝縮された破片は、「粒子径の大きい凝集粒子を生成し、サイクロン分離機内で生じる乱流または渦現象による破壊を防止する」接着材として機能する。したがって、本発明の目的には、より小さい粒子径のディーゼル酸化触媒が適切である。ディーゼル酸化触媒は、炭化水素や一酸化炭素の酸化にも有効であり、二酸化硫黄(SO_(2))の酸化にも若干の効果を有する。一方、活性貴金属触媒は、炭化水素、一酸化炭素、VOC化合物の軽い破片の酸化において非常に有効であり、SO_(2)から硫酸塩化合物への酸化、および、NOからNO_(2)への酸化にも、高い効率を発揮する。SO_(2)から硫酸塩への酸化は、業界全般で、ディーゼル排気装置においては望ましくない触媒作用として知られている。これは、排出される粒子が増加するためである。一方、触媒作用を受けた後の排気ガスの温度が硫酸塩の凝縮温度より低くなると、ナノサイズの硫酸塩粒子が形成される。この硫酸塩粒子は、煤塵とともに変換炉で収集できる。煤塵と硫酸塩との混合物は、濡れており茶色がかった粒子を形成する。十分に冷却できれば、この方法により、SO_(2)による汚染を排気ガスから効率よく取り除くことができる。なお、NOは、およそ50?70%の効率で酸化させてNO_(2)にできる。NO_(2)は反応性が大きいので、変換炉による処理の後に排気ガスを水で洗浄することにより、硫酸塩化合物とともに吸収できる。
【0026】
C.排気ガス冷却システム
排気ガスを冷却するための手段は、エンジン装置や、水などの液体冷却手段を使用できるか否かによって異なる。本発明の手法は、熱伝導状態の性質を利用している。排気ガスが高温で酸化触媒10を離れると、放射排気部60が用いられる。放射排気部60の特徴は、表面積が大きいか、あるいは太いパイプを有する点、および、艶のない黒色などの、放射特性を最大にする表面仕上げを施した点である。放射排気部60の後には、空気/排気熱交換部70を設けてもよい。この空気/排気熱交換部70は、乗り物の移動により排気パイプを通過する外気の相対速度を利用する。排気パイプの表面積を大きくするために、軸方向に波形を形成してもよい。また、複数のパイプを用いてもよい。全てのパイプは、風の発生源を向くように設ける必要がある。
【0027】
最後の部分は、液体/排気熱変換器80である。この液体/排気熱変換器80は、自動車によく用いられるエンジン冷却液、水、などの液体を用いて、必要な冷却を行う。なお、ほとんどのディーゼルエンジンでは、排気ガスの温度が、最大負荷時でおよそ900°?1000°Fに達する。変換器の入口での目標排気ガス温度は、およそ250°?300°Fである。水などによる十分な冷却が可能である場合、NO_(2)を洗浄する必要があり、排気ガスの温度をさらに低下させ、変換炉の後でおよそ150°?200°Fとする必要がある。上記した3種類の冷却手段のいずれを選ぶかは、エンジン装置ごとに大きく異なる。一般に、放射部60が群を抜いて高い冷却効果を有し、また最も安価である。第2・第3の冷却手段の用い方は装置によって異なり、共に用いてもよいし、個別に用いてもよい。
【0028】
D.粒子変換炉、完全凝集
図3、4、6、7は、粒子変換炉100の好ましい実施形態をさらに示している。粒子変換炉100の吸気部101は、円形または矩形のパイプから入ってくる流れを、枠113と凝集器102との間の空間に方向転換する。この方向転換は、圧力低下を最小化するため、凝集器へ排気ガスを供給する空間に向かって徐々に広くなった流路によって行われる。
【0029】
粒子変換炉100の凝集部102は、図3・4に示すように単一の殻(shell)であってもよいし、図6・7に示すように、複数の管であってもよい。いずれの実施形態においても、凝集効率を高めるためには、表面積を大きくしなければならない。図6・7に示す複数の管では、全ての流れが遠心分離機に向かう。図3・4に示すような単一の殻では、流れは継続的に遠心分離機に供給され、処理される。したがって、各流路で処理される流れの量は、全流量の一部である。
【0030】
流路中の流量は、凝集器から内部パイプ104までの排気ガスの流れの経路と、凝集器の長さとに応じて決定できる。乱流や渦現象を減らすためには、各流路ごとの合計流量の一部を処理することが望ましい。また、遠心分離による粒子分離処理は、清浄な排気ガスが内部中心管107に向かって内側へ流れる間に、凝集器の内径で粒子を分離しておく処理に限られる。
【0031】
凝集器は、様々な大きさと、図24Aに特に示すような密度とを有する金網手段の集合体から構成される。凝集器102の上流側は、目が粗く実装密度の低い金網からなり、図10に示すように、下流側へ行くにつれて、目がより細かく、実装密度がより高くなっている。この選別条件により、外側の層では大きな粒子を捕捉する一方、より小さい粒子については、目がより細かく密度のより高い金網で捕捉できる。この戦略により、圧力低下を可能な限り抑えながら、粒子捕捉効率を最大化でき、煤塵の堆積をフィルタ全体に均一に分配することができる。さらに、凝集器の上流側に通気孔を設けることにより、凝集器内で粒子を捕捉することができるため、圧力低下を増大させる可能性のある、凝集器の前段での煤塵の層(塊)の形成を防止できる。なお、粒子状物質を凝集させる処理は、図10に示す。
【0032】
凝集器の厚みは、約10mm?約30mmであり、大部分の装置では、平均して約10mm?約20mmである。この厚みは、金網の間の空隙への樹状煤塵の形成、および、低い流速と相まって、1ミクロン未満の粒子およびナノサイズ粒子を、ディーゼル排気ガスから非常に高い効率で捕捉し、粒子数(particle count)にして約104?105個の削減を可能にする。これにより、排気ガスに含まれる毒性汚染物質の主要成分を大幅に除去できる。
【0033】
本発明の凝集器は、他の公知の煤塵フィルタ技術とは全く異なっている。例えば、セラミック製ウォールフロー・モノリス(ceramic wall-flow monolith)は、壁の厚みが平均0.1mm?0.3mmであるために、1ミクロン未満の粒子およびナノサイズ粒子の捕捉効率が低くなっている。排気ガスを冷却すれば、ナノ粒子の捕捉効率をさらに高めることができる。排気ガスの冷却工程では大量のナノ粒子が形成されること、および、ナノ粒子の形成量は排気ガスが周辺温度まで冷却されたときに最大となることが知られている。排気ガスを900°?1000°Fの範囲から約250°?300°Fまで冷却すると、変換炉の前段で、大量のナノ粒子が強制的に凝縮される。残りのナノ粒子数の生成をもたらすVOC化合物の軽い破片は、主に酸化触媒によって破壊されると考えられている。本発明の酸化触媒、排気ガスの冷却、および凝集器を組み合わせることにより、排気ガスが後部パイプを出て行く前に、産業分野に関わらず、ナノ粒子数を最大限に削減できる。
【0034】
E.遠心分離機
本発明の好ましい実施形態の遠心分離機を、図3、4、7に示す。図3の遠心分離機は、同心中核(パイプ)111に取り付けた螺旋部105からなる。凝集器からの排気ガスは、継続的かつ均一に、遠心分離機の全長に対して供給される。同心中核パイプ(cocentric core pipe)は、流路に沿って互いに一定間隔を空けて配置された窓109を備えている。これらの窓は、螺旋部の回転方向に沿って、互いに120°離れて配置されている。排気ガスが回転しながら流れるようにするためには、螺旋部の入口では窓を用いない。凝集冷却板103を用いて、流れが徐々に螺旋運動を行うようにする。流路内で流れが形成されると、凝集板は、内部中核パイプに向かって半径方向に徐々に移動する。したがって、凝集板は、外径から出発して、内部中心に向かって螺旋状に移動する。流路を完全に一回転させるためには、螺旋部が約1.5回転しなければならない。流路を回転させるこの部分では、窓を用いない。中核パイプに隣接する排気ガス層中の粒子を分離するために、凝集板の端部から120°後方で第1の窓を用いる。その後、凝集器から入ってくる流れの速度に応じた速度で、窓は排気ガスの流れの清浄な層を捕捉する。これにより、流路内での流速は、ほぼ一定に保たれる。遠心分離機の開始部をどこにするか、および、第1の窓をどこに配置するかによって、排気ガスが窓に入るまでの回転周期数が決まる。一般に、約2ミクロンを超える大きさの凝集粒子を分離するためには、2回転周期程度が適切である。回転周期数を増やすと、排気ガスはより清浄となる。」(段落【0022】ないし【0034】)

1h)「【0068】
本発明が採用する再循環排気ガス(EGR)は、ディーゼル装置でよく直面する重大な問題を解決できる。第1の問題は、エンジンが空運転または低負荷運転の状態にあるときは、EGRターミナルでの圧力(pressure across EGR terminals)が不十分になり、流量が減ってNO_(X)の削減目標を達成できなくなるという問題である。この現象は、エンジンが空運転または低負荷運転の状態にあるときにはよく起こる。高効率軸流増圧送風機241を用いることで、この問題を解決できる。送風機241は、所望のNO_(X)削減量を達成するため、および、いかなるエンジン稼動状態でも掃気流を継続的に生じさせるために必要な流れを発生させる。エンジンが中間負荷から高負荷で稼動している場合、送風機241は、EGRターミナルでの大きな圧力差によってEGRの流れを絞り、あたかもEGR制御弁のように機能する。このため、送風機241は電力をほとんど消費しない。空運転または低負荷運転の状態にあるとき、エンジンは中程度の電力を消費する。」(段落【0068】)

1i)「【0072】
N.水洗浄機
水を使用できる場合は、排気ガスの流れから活性NO_(2)ガスを除去するために、変換炉の後の排気ガスパイプに水を注入する。水洗浄機は、硫酸塩化合物も除去できる。NO_(2)除去効率を強化するため、水をアルカリ性にしてもよい。」(段落【0072】)

1j)「【0085】
十分な量の冷却水を備えているか、または海や灌漑用水から冷却水を利用できるディーゼルエンジン装置では、EGRを用いるよりもさらに大きくNO_(X)を削減できる可能性がある。この場合、活性白金酸化触媒が推奨される。この触媒は、SO_(2)を酸化して硫酸塩にする一方、排気ガスの温度に応じて50%?70%のNOを酸化してNO_(2)にする。排気ガスが、硫酸塩の凝縮温度よりも低い温度に冷却され、変換炉で粒子とともに収集されていれば、硫酸塩を粒子状物質とともに収集できる。変換炉を出た排気ガスを水で洗浄して、200?150°Fまで温度を低下できる。これにより、反応性NO_(2)を水で捕捉することが可能となる。なお、水にアルカリ性物質を添加することが望ましい。NO_(2)を水に溶かすと、硝酸が発生する。このような非常に薄い硝酸は、大量の水にはほとんど影響がなく、灌漑用装置では有利な効果をもたらしうる。要約すると、硫酸および粒子は煤塵チェンバで収集される一方、硝酸部分は、大気中に排出される代わりに、水の中に排出され、溶かされる。」(段落【0085】)

(2)引用例1記載の発明
上記(1)及び図1ないし図28の記載からみて、引用例1には以下の発明が記載されている。

「移動用動力源として用いられるディーゼル排気ガス後処理システムにおいて、排気ガスパイプに、空気/排気熱交換部70及び液体/排気熱交換部80を配置し、空気/排気熱交換部70及び液体/排気熱交換部80の下流側に、排気ガス中の粒子状物質を凝集し分離する遠心分離器を配置し、遠心分離器の下流において、排気ガスを水で洗浄する水洗浄機を配置し、水洗浄機の下流側排気管に排気ガスの一部を再循環排気ガスとして分流する分岐部を設け、分岐部から延びる配管を介して再循環排気ガスをエンジンの吸気部に送るようにした移動用動力源として用いられるディーゼル排気ガス後処理システム。」(以下、「引用発明」という。)

2.引用例2
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表平8-511074号公報(以下、「引用例2」という。)には、「大型過給ディーゼルエンジン」に関し、図面とともに以下の記載がある。

(1)引用例2の記載事項
2a)「【特許請求の範囲】
1.排ガス駆動によるタービン(6)と、該タービンにより駆動され且つエンジンシリンダに給気を供給するコンプレッサ(9)とを備え、再循環通路が排ガスの一部をエンジンシリンダに戻すことの出来る、船舶の主機のような大型の過給ディーゼルエンジン(1)にして、
それ自体、公知の方法にて、再循環通路(15、11)が排ガスを水で加湿する装置を備え、
該加湿装置が多数の水噴霧段(20、29、25)を有するスクラバー(16、19)であり、
前記再循環通路が前記タービン(6)の上流側にて排気導管(5)から分岐する導管(15)を備え且つ前記コンプレッサ(9)の下流にて給気導管(11)
に接続され、
前記導管が、再循環された排ガス内の圧力を増圧し得るように前記スクラバー(15)に、及び好ましくは該スクラバーの下流に配置されたブロアー(17)に接続されることを特徴とする過給ディーゼルエンジン。」(公報第2ページ第1ないし15行)

2b)「本発明は、排ガスにより駆動されるタービンと、該タービンにより駆動され、エンジンのシリンダに給気を供給するコンプレッサを有する過給機を備え、循環通路がその排ガスの一部をエンジンシリンダに戻すことが出来るようにした、船の主機のような大型の過給ディーゼルエンジンに関する。」(公報第3ページ第3ないし6行)

2c)「大型のディーゼルエンジンは、通常、燃料として重油を使用し、その結果、排ガスに接するエンジン部品に対して極めて攻撃的である燃料生成物が多量に発生される。著しく汚染された排ガスは、水浴を通して泡立てせることにより十分に浄化し得ない。燃焼中のNO_(X)生成物を減少させるため、排ガスをディーゼルエンジンの吸気側に導入することがDT-A-第24 43 897号から公知である。ディーゼルエンジン自体の排ガスからの不純物を防止するため、ディーゼルエンジンへの再循環気体として、ガソリンエンジンからの排ガスが使用される。この解決策は、エンジン装置をより著しく複雑化し、また、通常、ガソリンの形態による燃料が極く少量しか利用し得ない船舶に適用することは不可能である。
スウェーデン国特許第314 555号及び米国特許第4,440,116号には、圧縮中の吸気の温度上昇を制限するため、コンプレッサの上流側の吸気に水が噴射される過給エンジンが記載されている。大型の高馬力ディーゼルエンジンにおいて、微小な水滴が少量でもあれば、コンプレッサホイールのブレードが腐食されるから、かかる水の添加の結果、損傷し易いコンプレッサが急速に腐食するという不利益を伴う。
本発明の目的は、エンジンがエンジン構成部品、特に、過給機のような特に高価な構成部品の高性能及び長期の寿命を保ち、再循環装置の構成部品が、エンジンと一体化するのに有利な小さい寸法であるような方法にて、大型の過給ディーゼルエンジンにおいて排ガスの再循環を可能にすることである。」(公報第3ページ第28行ないし第4ページ第18行)

(2)引用例2の技術
上記(1)及び図1ないし3の記載からみて、引用例2には以下の技術が記載されている。

「燃料として重油を使用する船の主機のような大型の過給ディーゼルエンジンにおいて、排ガスの一部をエンジンシリンダに戻すことのできる再循環通路を設ける技術。」(以下、「引用例2の技術」という。)

3.引用例3
(1)引用例3の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-227324号公報(以下、「引用例3」という。)には、「微粒子除去装置を備えた排気再循環システム」に関し、図面とともに以下の記載がある。

3a)「【請求項1】 内燃機関から連結される排気管から排出する排ガスを還流管を介して吸気通路に再循環させる排気再循環システムであって、
上記排気管から分枝した還流管内を再循環する排ガス中の微粒子を捕集する捕集手段と、上記捕集手段に捕集した微粒子に触媒を付着させる触媒付着手段と備え、捕集した微粒子を燃焼分解する微粒子除去装置を還流管に介装してなることを特徴とする微粒子除去装置を備えた排気再循環システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

3b)「【0033】本発明では、排ガス中の微粒子を分解処理することができ、内燃機関の種類を何ら特定するものではない。例えば船舶用、陸上走行用、陸上定置用ディーゼルや発電機等の内燃機関からの排ガス中に含まれる浮遊微粒子(SPM)の未燃焼分を低温で分解処理することができる。また、内燃機関から排出される排ガス中の微粒子を分解除去するのみならず、例えば都市ゴミ焼却炉,産業廃棄物焼却炉,汚泥焼却炉等の各種焼却炉、熱分解炉、溶融炉等から排ガス中の微粒子も除去することができる。」(段落【0033】)

3c)「【0035】[第2の実施の形態]本発明の第2の実施の形態を図2を用いて説明する。図2は本実施の形態にかかる微粒子除去装置を備えた排気再循環システムの概略図である。図2に示すように、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態の微粒子除去装置110の下流側に脱硫装置120を介装してなるものである。この脱硫装置120を設けることにより、例えば船舶等のように低質重油(排ガス中の硫黄(S)分の含有量が多い(数百?数千ppm)C重油等)等を用いる場合や、ピストンの潤滑油等を使用するような場合においても、上記脱硫装置120において脱硫することで排ガス中の硫黄酸化物(SOx)の排出を低減することができ、これによりエンジン内の腐蝕を防止することができる。また、本実施の形態では微粒子除去装置110の後流側に脱硫装置120を設けているが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記微粒子除去装置110の前流側に設けるようにしたり、また排気管分岐部102aの後流側の脱硫装置120を介装するようにしてもよい。なお、本実施の形態のように上記脱硫装置120を微粒子除去装置120の後流側へ設置する場合には、該脱硫装置120内において脱硫を行うと共に、微粒子を除去することができ、微粒子除去効果を更に高めることができる。」(段落【0035】)

(2)引用例3の技術
上記(1)及び図1ないし9の記載の記載からみて、引用例3には以下の技術が記載されている。

「燃料として低質重油を用いる船舶用のディーゼルエンジンにおいて、排気ガスを還流管を介して吸気通路に再循環させ、微粒子除去装置を還流管に設ける技術。」(以下、「引用例3の技術」という。)

4.引用例4
(1)引用例4の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2006/064805号(以下、「引用例4」という。)には、「ディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理方法およびその装置」に関し、図面とともに以下の記載がある。

4a)「[1] ディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理方法において、排気ガス通路の上流側にコロナ放電部と帯電部とからなる放電帯電部を設けて、コロナ放電された電子を 排気ガス中のカーボンを主体とする粒状物質に帯電させ、同排気ガス通路に配置し た捕集部で前記帯電した粒状物質を捕集することを特徴とするディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理方法。 [2] ディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理装置において、排気ガス通路の上流 側にコロナ放電された電子を排気ガス中のカーボンを主体とする粒状物質に帯電させるコロナ放電部と帯電部とからなる放電帯電部を設け、前記帯電した粒状物質を捕集する捕集部を同排気ガス通路に配置した構成となしたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理装置。」(第21ページ第2ないし11行)

4b)「[18] 前記排気ガス用電気式処理装置の後段にサイクロン集塵機を付設した構成となし たことを特徴とする請求項 2?17のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理装置。」(第22ページ第26ないし28行)

4c)「[0043] 上記した本発明の第1?第3実施例装置によれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中のPMを捕集板に効果的に捕集することができるが、ディーゼルエンジンの燃焼条件によっては電気抵抗率ρが低くなる場合があり、その場合には上記捕集板では十分に対応できない場合が生じる。このため本発明は、前記排気ガス用電気式処理装 置の後段にサイクロン集塵機を付設することにした。
ディーゼルエンジンの排気ガスは運転条件等によってPMの電気抵抗率ρが大幅に変動し、高電気抵抗率ρのPMもあれば、低電気抵抗率ρのPMもある。一般的に高速運転時の高温燃焼時では電気抵抗率ρは大きく、また低温燃焼では電気抵抗率ρは小さくなる傾向がある。したがって、ディーゼルエンジンの排気ガス中のPMの除去手段としては、電気抵抗率ρの高いPMだけでなぐ電気抵抗率ρの低いPMをも高効率で捕集できる性能を備える必要がある。そこで、本発明は前記排気ガス用電気式処理装置の後段にサイクロン集塵機を付設することによって、電気抵抗率ρが高い場合にも低い場合にも十分に対応できるディーゼルエンジンの排気ガス用電気処理装置を提案するものである。」(第14ページ第14ないし27行)

4d)「[0045] 上記図14、図15に示すディーゼルエンジンの排気ガス用電気処理装置の場合は、帯電PMはベース板 71-1aと格子状フィン71-1bとからなる捕集板71-1に捕集されるが、その際ベース板71-1aに到達した帯電PMのうち電気抵抗率ρの高いPMはベース板71-1aにそのまま捕集され堆積し、他方、電気抵抗率 ρの低いPMは前記のジャンピング凝集現象により粗大化してベース板71-1aに捕集される。ベース板71-1aに捕集されたPMは、その後堆積量が増えてある限界量を超えると、自然に層状に脱落し、その脱落した粗大粒のPMはこの排気ガス用電気式処理装置61の後段に配設したサイクロン集塵機62により捕集される。サイクロン集塵機62に 捕集されたPMは、定期的に取出して回収してもよく、また該サイクロン集塵機に加熱ヒータ等を設置し
て、運転中あるいは停機時に燃焼してもよい。」(第16ページ第1ないし11行)

(2)引用例4の技術
上記(1)及び図1ないし19の記載からみて、引用例4には以下の技術が記載されている。

「ディーゼルエンジンの排ガス用電気処理装置において、排気ガス用電気式処理装置の後段にサイクロン集塵機を配置する技術。」(以下、「引用例4の技術」という。)

5.引用例5
(1)引用例5の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2008-19849号公報(以下、「引用例5」という。)には、「ディーゼルエンジン排気ガスの電気式処理方法およびその装置」に関し、図面とともに以下の記載がある。

5a)「【請求項1】
ディーゼルエンジン排気ガス中に含有するカーボンを主体とする粒状物質を、電気的手段によって除去する排気ガス処理方法において、電気式排気ガス処理装置における排気ガス通路の上流側に、外周を多層構造の被膜で覆れた電極針を配置し、該電極針によるコロナ放電によって電子を放出させるコロナ放電部と、放出された電子を前記粒状物質に帯電させる帯電部とからなる放電帯電部を設け、該コロナ放電部においてコロナ放電された電子を、帯電部における排気ガス中の前記粒状物質に帯電させ、当該排気ガス通路の下流側に配置した捕集部で、帯電した該粒状物質を捕集することを特徴とするディーゼルエンジン排気ガスの電気式処理方法。
【請求項2】
前記電極針の外周を覆う多層構造の被膜が、絶縁体による第1層絶縁体被覆、その外側を覆う導体による第2層導体被覆、さらにその外側を絶縁体で覆う第3層絶縁体被覆からなることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジン排気ガスの電気式処理方法。
【請求項3】
ディーゼルエンジン排気ガス中に含有するカーボンを主体とする粒状物質を、電気的手段によって除去するための電気式排気ガス処理装置において、該処理装置本体内における排気ガス通路の上流側に、外周を多層構造の被膜で覆れた電極針を配置し、該電極針によるコロナ放電によって電子を放出させるコロナ放電部と、放出された電子を前記粒状物質に帯電させる帯電部とからなる放電帯電部を設け、帯電した該粒状物質を捕集する捕集部を、当該排気ガス通路の下流側に配置したことを特徴とするディーゼルエンジン排気ガスの電気式処理装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】)

5b)「【請求項19】
前記排気ガス用電気式処理装置の後段に、サイクロン集塵機を付設することを特徴とする請求項3?18のいずれか1項に記載のディーゼルエンジン排気ガスの電気式処理装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項19】)

(2)引用例5の技術
「ディーゼルエンジンの排ガスの電気式処理装置において、排気ガス用電気式処理装置の後段にサイクロン集塵機を配置する技術。」(以下、「引用例5の技術」という。)

6.引用例6
(1)引用例6の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2005-530611号公報(以下、「引用例6」という。)には、「ガス環境における静電ろ過および粒子変換」に関し、図面とともに以下の記載がある。

6a)「本発明は、放射電極と集塵電極とを含む、少なくとも複数のイオン化コロナ効果静電集塵装置を備える装置に関する。静電集塵装置の数は、通過が遅いほど、集塵の効率が上がり、抵抗器に変換される電極がフラックスにより冷却されにくいことを考慮に入れ、処理されるフラックスに基づき確定される。滑らかで管状の集塵電極は、交互に集塵装置と電気抵抗器となるため、回収した粒子を焼却または燃焼するのに十分な温度で短時間加熱される。放射電極は、集塵構造の中心に配置される。上記電極は、集塵電極において処理されるフラックスの通過の方向に対して軸方向で、処理されるフラックス、ガス、および霧の方向に垂直なビームの形で他の電極を補完することができる。酸化触媒、前置フィルタ、後置フィルタ、または、気体、固体および液体汚染物質の低減と騒音減衰を可能にするその他の装置を関連付けることができる。本発明の装置は、それだけには限定されないが、エンジン排気ガス、油と水の霧、煙霧、吸気、抽出または再利用物、および環境に有害な一般的なすべての汚染物質をろ過し、再生するために設計されている。」(【要約】の欄)

6b)「【請求項1】
耐熱支持体(2)上に配置される電気抵抗器に定期的になり、アースまたは地面に接続され(13)、電源により個々にまたはいくつかが同時に加熱される複数の管状集塵電極(4)と、
各集塵電極の中心に配置され、直流供給のために絶縁するおよび/または絶縁された支持体(3)に固定され、交流供給のために接地される、集塵電極(4)と同じ数の複数の放射電極と、
を備えるコロナ作用静電集塵装置アセンブリを備えることを特徴とする、空気、ガス、または霧中の粒子のろ過および再生装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

6c)「【0002】
装置の非排他的用途は、
ヒートエンジン、特にトラック、トラクター、バス、長距離バス、オートバイ、機関車、汽船、発電機、飛行機、およびすべての建設現場のエンジンの排気ガスをろ過することと、
空気、ガス、霧をろ過して、空気、ガス、霧の吸入から身を守るだけでなく、環境を保護することである。」(段落【0002】)

6d)「【0005】
この装置は、
処理されるフラックスと適合するような寸法で、同じフラックスの少なくとも1つの入口と少なくとも1つの出口とを備える外部被覆と、
1つ以上の断熱誘電板でできた集塵電極のための少なくとも1つの支持体と、
放射電極のための少なくとも1つの支持体と、
処理される流速が最適効率を得るのに十分なほど低く、両端で開放される管状の形状をした、十分な数の複数の集塵電極であって、集塵装置と電気抵抗器が回収された粒子を燃焼させるほど高温で交互に加熱されることを特徴とする集塵電極と、
各集塵電極の中心に位置する縦型の1個の放射電極と、
を備える、少なくとも複数のイオン化コロナ作用静電集塵装置を備える。」(段落【0005】)

(2)引用例6の技術
「複数のイオン化コロナ作用静電集塵装置を用いてエンジン排気ガスの浄化を行う技術。」(以下、「引用例6の技術」という。)

7.対比・判断
<補正発明1について>
補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「ディーゼル排気ガス後処理システム」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、補正発明1における「ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置」に相当し、以下同様に、「排気ガスパイプ」は「エンジンの排気マニホールドに連なる排気管」に、「空気/排気熱交換部70及び液体/排気熱交換部80」は「排気ガスクーラー」に、「配置し」は「設け」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「排気ガス中の粒子状物質」は、技術常識から、有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするものであるから、補正発明1の「排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)」に相当する。
さらに、引用発明における「凝集し分離する」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、補正発明1における「除去する」に相当し、以下同様に、「排気ガスを水で洗浄する水洗浄機」は「排気ガスを更に浄化するスクラバー」に相当し、「再循環排気ガス」は「EGRガス」に、「排気ガスの一部を再循環排気ガスとして分流する分岐部を設け」は「排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け」に相当し、「分岐部から延びる配管」は「分岐部に連なるEGR配管」に、「再循環排気ガスをエンジンの吸気部に送るようにした」は「EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となした」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「遠心分離器」と補正発明1における「静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置」とは、「排気ガス浄化装置」である限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置において、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管に排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する排気ガス浄化装置を設置し、該排気ガス浄化装置の下流に排気ガスを更に浄化するスクラバーを配設し、該スクラバーの下流側排気管に前記排気ガスの一部をEGRガスとして分流する分岐部を設け、該分岐部に連なるEGR配管を介して前記EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成となした、ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置。」

[相違点1]
ディーゼルエンジンに関して、補正発明1においては、「重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用」のものであるのに対して、引用発明においては、「移動用動力源として用いられる」ものであるが、大排気量船舶用であるか不明であり、さらに、使用する燃料についても不明である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
補正発明1においては、排気ガスクーラーによって、排気ガスは「100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却」され、排気ガスクーラーの下流側には、排気ガス浄化装置として「静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置」が設置されるのに対して、
引用発明においては、空気/排気熱交換部70及び液体/排気熱交換部80によって、排気ガスがどの程度の温度まで冷却されるのか不明であって、空気/排気熱交換部70及び液体/排気熱交換部80の下流側には、排気ガス浄化装置として「遠心分離器」が設置される点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
補正発明1においては、「EGRバルブ」を介してEGRガスをエンジンの吸気に還流させるのに対して、引用発明においては、「EGRバルブ」を介して再循環排気ガスをエンジンの吸気部に送るか不明である点(以下、「相違点3」という。)。

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
EGRガスをエンジンの吸気に還流させる構成を有するディーゼルエンジンを、「重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用」とすることは、上記引用例2の技術及び引用例3の技術に照らすと、周知の技術的事項(以下、「周知技術1」という。)である。
してみると、引用発明の移動用動力源として用いられるディーゼルエンジンを、周知技術1に基づいて、「重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用」として、上記相違点1に係る補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置に関する引用例4ないし6の技術について、それぞれ、
引用例4の技術は、「ディーゼルエンジンの排ガス用電気処理装置において、排気ガス用電気式処理装置の後段にサイクロン集塵機を配置する技術。」、
引用例5の技術は、「ディーゼルエンジンの排ガスの電気式処理装置において、排気ガス用電気式処理装置の後段にサイクロン集塵機を配置する技術。」、
引用例6の技術は、「複数のイオン化コロナ作用静電集塵装置を用いてエンジン排気ガスの浄化を行う技術。」
であって、ディーゼルエンジンの排気ガス中のPM(粒状)物質を捕集するために、静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を用いることは、上記引用例4ないし6の技術によれば、周知の技術的事項(以下、「周知技術2」という。)である。
しかしながら、上記周知技術2は、排気ガスが排気ガスクーラーによって、「100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却」されてから、排気ガスクーラーの下流側に設置された「静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置」によって排気ガスが浄化される点について示唆を行うものではなく、さらに、上記周知技術1においても、その点の示唆はない。

したがって、引用発明に上記周知技術1及び2を適用することにより、上記相違点2に係る補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

[相違点3について]
再循環排気ガスの量を、必要とされる排気ガス浄化の程度や、エンジンの運転条件等を考慮して調整するためにEGRバルブを設けることは、ディーゼルエンジンンの技術分野において、例を挙げるまでもなく周知(以下、「周知技術3」という。)である。
したがって、引用発明において、上記周知技術3を適用して、再循環排気ガスの量を調整するために「EGRバルブ」を介してEGRガスをエンジンの吸気に還流させることにより、上記相違点3に係る補正発明1の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

そして、補正発明1全体について検討すると、上記相違点1及び3に係る補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことであるといえるものの、補正発明1は、上記相違点2に係る補正発明1の発明特定事項により「排気ガス中のPM(SOF、ISF)並びに窒素起源生成物の含有量を減らしてクリーンな排気ガスとし、静電サイクロン排気ガス浄化装置4の負荷を軽減させると共に、EGRガスをもクリーンにしてエンジン構成部品および排気関連部品の耐久性を損ねる危惧をさらに減らすことができる」(本願明細書段落【0025】を参照)という効果を奏するものである。

以上の検討により、引用発明に上記周知技術1及び2を適用して上記相違点2に係る補正発明1の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になし得たとすることはできないから、補正発明1は、引用発明及び上記周知技術1ないし3に基いて当業者が容易になし得たということはできず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
そうすると、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するものではない。

<補正発明6及び11について>
補正発明6及び11は、いずれも補正発明1における、「排気ガスの温度が100℃以上で、排気ガス温度/燃料沸点温度比R=0.85で示される温度以下に冷却する排気ガスクーラーを設け、該排気ガスクーラーの下流側に、該排気ガス中に含まれる有機溶剤可溶分(SOF)、有機溶剤不溶分(ISF)を主体とするPM(粒状物質)を除去する静電集塵部及びサイクロン集塵部よりなる静電サイクロン排気ガス浄化装置を設置し、」という発明特定事項を含むものである。
そうすると、補正発明6及び11は、いずれも引用発明との対比において上記補正発明1における[相違点2]に係る発明特定事項を含むことになる。
そして、補正発明1における[相違点2]に係る発明特定事項は、上述のとおり、引用発明及び上記周知技術1及び2に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえないのであるから、補正発明2及び6における上記[相違点2]に係る発明特定事項についても、引用発明及び上記周知技術1及び2に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
以上の検討により、補正発明6及び11は、引用発明及び上記周知技術1ないし3に基いて当業者が容易になし得たということはできず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項6及び11は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
そうすると、本件補正の補正事項6及び11は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するものではない。

<補正発明2ないし5について>
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載したものであるから、補正発明2ないし5は、補正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、補正発明2ないし5は、補正発明1と同様の理由で、引用発明及び上記周知技術1ないし3に基いて当業者が容易になし得たということはできず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項2ないし5は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
そうすると、本件補正の補正事項2ないし5は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するものではない。

<補正発明7ないし10について>
本願の特許請求の範囲における請求項7ないし10は、請求項6の記載を直接的又は間接的に、かつ、請求項6の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載したものであるから、補正発明7ないし10は、補正発明6の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、補正発明7ないし10は、補正発明6と同様の理由で、引用発明及び上記周知技術1ないし3に基いて当業者が容易になし得たということはできず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項7ないし10は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
そうすると、本件補正の補正事項7ないし10は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するものではない。

<補正発明12ないし15について>
本願の特許請求の範囲における請求項12ないし15は、請求項11の記載を直接的又は間接的に、かつ、請求項11の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載したものであるから、補正発明12ないし15は、補正発明11の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、補正発明12ないし15は、補正発明11と同様の理由で、引用発明及び上記周知技術1ないし3の技術に基いて当業者が容易になし得たということはできず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項12ないし15は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
そうすると、本件補正の補正事項12ないし15は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するものではない。

8.むすび
以上により、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合し、適法になされたものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし15に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、上記第2の7.で検討したとおり、補正発明1ないし15は、当業者が引用発明及び上記周知技術1ないし3の技術に基いて当業者が容易になし得たということはできない。

したがって本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-25 
出願番号 特願2011-113737(P2011-113737)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 重油以下の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置  
代理人 押田 良隆  

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