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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10J
管理番号 1320609
審判番号 不服2015-7794  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-27 
確定日 2016-10-12 
事件の表示 特願2011-513451「合成ガスを製造するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日国際公開、WO2009/151369、平成23年 8月25日国内公表、特表2011-523972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009年6月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年6月11日 スウェーデン(SE))を国際出願日とする出願であって、平成26年1月21日付けの拒絶理由通知に応答して同年5月8日に手続補正書と意見書が提出されたが、同年12月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されると共に同日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成27年4月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(2-1)手続補正の内容
平成27年4月27日付け手続補正による本件補正は、以下の補正を含むものであり、補正前の請求項3?6及び補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

(補正前)
「【請求項3】
反応器(1)を備えた、合成ガス(S)を製造するための方法を実施するための装置であって、少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)が反応器(1)の内部に配置され、炭素含有材料を熱分解して分離することにより得られた炭素粒子(C)とプロセスガス(P)とを反応器(1)の内部空間に供給するための装置を有し、生じた合成ガス(S)を排出するための手段を有する、装置。
【請求項4】
バーナ(Br1?Brn)には燃料をバーナ(Br1?Brn)の内部空間に供給するための手段が設けられ、該供給手段は反応器(1)の外部に配置される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
バーナ(Br1?Brn)に供給される酸化剤(O)の加熱のために熱交換器(3)がバーナ(Br1?Brn)の供給装置に隣接して配置される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
プロセスガス(P)の加熱および合成ガス(S)の冷却のための熱交換器(2)が反応器(1)の外部に配置される、請求項3、4または5に記載の方法。」
なお、補正前の請求項6に関し、末尾が「請求項3、4または5に記載の方法」となっているが、平成27年4月27日付け審判請求書で、審判請求人が「平成26年5月8日付提出の手続補正書により補正した請求項6は、「・・・に記載の方法」となっておりますが、従属する請求項3、4または5が「装置」であることからも明らかなように「・・・に記載の装置」の誤記であることを申し添えます。」と主張しているように請求項6の「請求項3、4または5に記載の方法」は、「請求項3、4または5に記載の装置」の誤記であると認める。

(補正後)
「【請求項1】
反応器(1)を備えた、合成ガス(S)を製造するための方法を実施するための装置であって、反応器(1)の内部空間を間接的に加熱するための少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)が反応器(1)の内部に配置され、炭素含有材料を熱分解して分離することにより得られた炭素粒子(C)とプロセスガス(P)とを反応器(1)の内部空間に供給するための装置を有し、生じた合成ガス(S)を排出するための手段を有し、
前記少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)には該少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)の内部空間に燃料を供給するための手段が設けられ、該供給手段は反応器(1)の外部に配置され、
前記少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)に供給される酸化剤(O)の加熱のために熱交換器(3)が該少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)の供給装置に隣接して配置され、
プロセスガス(P)の加熱および合成ガス(S)の冷却のための熱交換器(2)が反応器(1)の外部に配置される、
合成ガス(S)を製造するための方法を実施するための装置。」(当審注:下線部は、審判請求人が付与した補正箇所を示すものである。)

(2-2)補正の適否
補正前の請求項3、4、5を引用する補正前の請求項6(以下、単に「補正前の請求項6」という。)の記載は、同請求項3、4、5の記載を加味すると、
「反応器(1)を備えた、合成ガス(S)を製造するための方法を実施するための装置であって、少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)が反応器(1)の内部に配置され、炭素含有材料を熱分解して分離することにより得られた炭素粒子(C)とプロセスガス(P)とを反応器(1)の内部空間に供給するための装置を有し、生じた合成ガス(S)を排出するための手段を有し、
前記少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)には該少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)の内部空間に燃料を供給するための手段が設けられ、該供給手段は反応器(1)の外部に配置され、
前記少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)に供給される酸化剤(O)の加熱のために熱交換器(3)が少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)の供給装置に隣接して配置され、
プロセスガス(P)の加熱および合成ガス(S)の冷却のための熱交換器(2)が反応器(1)の外部に配置される、
合成ガス(S)を製造するための方法を実施するための装置。」となる。

ここで、補正前の請求項6と補正後の請求項1に係る補正事項は、補正前の請求項6に係る発明を特定するために必要な事項である補正前の「少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)」を、補正後の「反応器(1)の内部空間を間接的に加熱するための少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)」に補正するもので、バーナの具体的態様を限定付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項6に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、請求項1に係る補正は、第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、第184条の4第1項に規定する外国語特許出願に係る国際出願日における明細書、特許請求の範囲及び図面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について検討する。

(2-3-1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由において引用文献1として引用した特開2004-35837号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載及び表示がある。

(a)「【請求項1】
バイオマスまたは有機性廃棄物を300℃ないし800℃で炭化処理して得た炭化物と、水蒸気と、空気とを熱分解ガス化炉内に投入して可燃性ガスを得ることを特徴とする熱分解ガス化装置。

(b)「【請求項13】
前記熱分解ガス化炉が、ガス化炉本体の外側を加熱する外熱式熱分解ガス化炉であることを特徴とする請求項1,2,4?6,9?12のいずれかに記載の熱分解ガス化装置。

(c)「【請求項15】
前記外熱式熱分解ガス化炉のガス化炉本体が、過熱水蒸気を生成する火炎で加熱されることを特徴とする請求項13記載の熱分解ガス化装置。」

(d)「【0012】
このような熱分解ガス化装置によれば、バイオマスまたは有機性廃棄物を原料とする炭化装置から得たガス化に最適な性状の炭化物と、水蒸気と、空気とを熱分解ガス化炉内に投入して可燃性ガスを得るようにしたので、熱分解ガス化炉内では、水性ガス化反応によって可燃性ガスとして水性ガスが生成される。この場合、ガス化に最適な性状の炭化物の使用及び水蒸気の添加により、タール分の発生を抑えることができる。この水性ガスは、水素ガス(H_(2))及び一酸化炭素(CO)を主成分とする安定した性状の混合ガスであり、デイリースタート・シャットダウン運転が容易な内燃機関の燃料として使用することができる。
この場合、熱分解ガス化装置が、有機性廃棄物の発生元で炭化させた炭化物の供給を受けるようにすれば、有機性廃棄物を直接搬送するのと比較して減容化した炭化物を搬送することになるので、輸送費が削減できる。」

(e)「【0021】
請求項13に記載の熱分解ガス化装置は、請求項1,2,4?6,9?12のいずれかに記載の熱分解ガス化装置において、前記熱分解ガス化炉が、ガス化炉本体の外側を加熱する外熱式熱分解ガス化炉であることを特徴としている。
このような熱分解ガス化装置とすれば、炭化物を生成するガス化炉本体内に窒素を含む空気を供給する必要がなくなるので、生成される可燃性ガスの濃度は、100%に近い高濃度となる。」

(f)「【0027】
炭化装置10は、炭化炉内に投入された有機性廃棄物を原料として炭化処理を施し、炭化物を生成するものである。ここで原料となる有機性廃棄物の一例を挙げると、たとえばおからや茶殻等の食品製造副産物、木くず、糞尿、生ゴミ、有機性汚泥、下水汚泥などがある。炭化装置10における炭化処理の温度は、ガス化に適した炭化物を得るためには300℃?800℃とするのが好ましく、より好ましくは400℃?550℃程度となる。これは、炭化処理温度を高くすればタール分の発生が減少するものの、炭化物の収率や有機性廃棄物のガス転換率が減少し、反対に炭化処理温度を低くすれば、タール分が増加する反面炭化物の収率が増加し、着火・燃焼性も向上するためである。・・・」

(g)「【0031】
図2は、図1に示した熱分解ガス化装置の構成例について、熱分解ガス化炉20の下流側をより具体的に示したものであり、熱分解ガス化炉20で生成された可燃性ガスは、ボイラ21、空気予熱器22、冷却器23を経てガスホルダー24へ貯蔵される。
【0032】
ボイラ21は、熱分解ガス化炉20で生成された可燃性ガスが保有する廃熱を利用して、水蒸気を生成する水蒸気生成手段である。このボイラ21では、ポンプ25により供給された水と高温の可燃性ガスとの熱交換により水を加熱し、熱分解ガス化炉20へ投入する水蒸気(たとえば110℃程度)を生成する。」

(h)「【0034】
上述したボイラ21及び空気予熱器22を設けて廃熱利用を行うと、熱分解ガス化炉20へ投入する水蒸気及び空気の温度を高く設定できるので、炉内温度を高温に維持する部分燃焼の割合を低く抑えることができる。また、廃熱を有効利用するため、装置全体としての熱効率を向上させることができる。」

(i)「【0061】
この外熱式熱分解ガス化炉60では、外筒部62の内部に燃焼器67が設けられている。この燃焼器67は、生成した可燃性ガスの一部を燃焼させた火炎や燃焼排ガスの熱でガス化炉本体61を外側から加熱すると共に、水または水蒸気を加熱してガス化炉本体61内へ投入するための過熱水蒸気を生成する機能を有している。
過熱水蒸気は、外筒部62内に配置した蒸気管路68内を流れる水または水蒸気を燃焼器67の火炎や排ガスで加熱することによって得られる。このような構成の外熱式熱分解ガス化炉60は、実質的には、図7に示した外熱式熱分解ガス化炉50に水蒸気過熱器40を一体的に組み込んだ構成となる。」

(j)「【0063】
また、外筒部62内の燃焼器67から発生した排ガスは、ガス化炉本体61及び蒸気配管68を加熱した後、必要に応じて適当な処置を施して大気へ放出されるが、この排ガスが保有する廃熱を有効利用して、熱分解ガス化装置全体の熱効率を上げることが望ましい。このような廃熱の有効利用としては、たとえば燃焼器67へ供給する空気を予熱する排ガス空気熱交69の予熱源として使用することが可能である。
さらに、蒸気配管68の上流側に設けた熱交換器(図示省略)に排ガスを供給して水または水蒸気を予熱する予熱源としても使用したり、あるいは、第4の実施形態として図5に示した排ガス水熱交41や排ガス空気熱交42に排ガスを供給して予熱源とすることも可能である。」

(k)【図2】


(l)【図8】


(2-3-2)引用例に記載の発明
引用例の上記(a)には、「バイオマスまたは有機性廃棄物を300℃ないし800℃で炭化処理して得た炭化物と、水蒸気と、空気とを熱分解ガス化炉内に投入して可燃性ガスを得ることを特徴とする熱分解ガス化装置。」との記載があり、ここで、上記(b)の請求項13には、熱分解ガス化炉が、ガス化炉本体の外側を加熱する外熱式熱分解ガス化炉であることが記載され、また、上記(c)の「前記外熱式熱分解ガス化炉のガス化炉本体が、過熱水蒸気を生成する火炎で加熱される」及び上記(i)の「この外熱式熱分解ガス化炉60では、外筒部62の内部に燃焼器67が設けられている。」との記載によれば、外熱式熱分解ガス化炉のガス化炉本体の外側が、火炎を発生する燃焼器で加熱されているといえる。そして、上記(e)によれば、熱分解ガス化炉が、ガス化炉本体の外側を加熱する外熱式熱分解ガス化炉であることにより、ガス化炉本体内に窒素を含む空気を供給する必要はないとされているから、引用例には、「バイオマスまたは有機性廃棄物を300℃ないし800℃で炭化処理して得た炭化物と、水蒸気とを、火炎を発生する燃焼器で加熱される外熱式熱分解ガス化炉内に投入して可燃性ガスを得る熱分解ガス化装置」が記載されているといえる。
ここで、引用例の熱分解ガス化装置は、熱分解ガス化炉で可燃性ガスを得るものであるから、「熱分解ガス化炉を備えた、熱分解ガスを製造するための方法を実施するための装置」であるといえる。また、引用例の熱分解ガス化装置は、火炎を発生する燃焼器で外熱式に熱分解ガス化炉を加熱するものであるから、「熱分解ガス化炉の内部空間を外熱式に加熱するための火炎を発生する燃焼器が配置され」たものである。さらに、引用例の熱分解ガス化装置は、当然、「バイオマスまたは有機性廃棄物を炭化処理して得た炭化物と水蒸気とを熱分解炉に供給する装置」を有し、「生じた可燃性ガスを排出するための手段」を有するものであるといえる。
上記(i)には、火炎を発生する燃焼器へは、可燃性ガスの一部が供給されることが記載されているから、引用例の火炎を発生する燃焼器には、「燃焼器に可燃ガスの一部を供給するための手段」が設けられているといえる。また、火炎を発生する燃焼器は、熱分解ガス化炉の外側(外部)に配置されるものであるところ、「燃焼器に可燃ガスの一部を供給するための手段」は、火炎を発生する燃焼器に設けられるものであるから、火炎を発生する燃焼器が、熱分解ガス化炉の外側(外部)に配置されていれば、「燃焼器に可燃ガスの一部を供給するための手段」も同様に、「熱分解ガス化炉の外側(外部)に配置」されているといえる。
上記(j)には、熱分解ガス化装置は、燃焼器へ供給する空気を予熱する排ガス空気熱交換器を有することが記載されているから、引用例の熱分解ガス化装置は、「燃焼器に供給される空気の加熱のために熱交換器が配置」されたものであるといえる。
上記(g)の記載によれば、熱分解ガス化炉で生成された高温の可燃性ガスと水を熱交換することにより、熱分解ガス化炉に投入される例えば110℃程度の水蒸気が生成されると共に、上記(h)によれば、生成される水蒸気は高い温度に設定されるものであるから、ボイラ(熱交換器)で100℃で蒸発した水蒸気は、例えば110℃程度にまでさらに過熱されているといえる。すると、ボイラ(熱交換器)は、水が水蒸気となった状態の後も水蒸気をさらに加熱しているものであるといえるから、引用例の熱分解ガス化装置は、「水蒸気の加熱および可燃性ガスの冷却のための熱交換器」を有しているといえる。さらに、上記(k)で21として表されるボイラ(熱交換器)は、熱分解ガス化炉の外部に配置されているから、「水蒸気の加熱および可燃性ガスの冷却のための熱交換器」は、「熱分解ガス化炉の外部に配置される」ものであるといえる。

そして、これら引用例に記載された事項を本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、「熱分解ガス化炉を備えた、熱分解ガスを製造するための方法を実施するための装置であって、熱分解ガス化炉の内部空間を外熱式に加熱するための火炎を発生する燃焼器が配置され、バイオマスまたは有機性廃棄物を炭化処理することにより得られた炭化物と水蒸気とを熱分解ガス化炉の内部空間に供給するための装置を有し、生じた可燃性ガスを排出するための手段を有し、前記燃焼器には該燃焼器に可燃ガスの一部を供給するための手段が設けられ、該供給手段は熱分解ガス化炉の外部に配置され、前記燃焼器に供給される空気の加熱のために熱交換器が配置され、水蒸気の加熱および可燃性ガスの冷却のための熱交換器が熱分解ガス化炉の外部に配置される、可燃性ガスを製造するための方法を実施するための装置。」という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2-3-3)対比・判断
本願明細書の段落【0013】の「プロセスガスPは燃焼段階からの排気Aを蒸発または再利用して精製できる。プロセスガスPが排気Aを再利用する場合、水蒸気(H_(2)O)と二酸化炭素(CO_(2))を共に含んでいる。・・・ガス化反応器1で生じる反応は、炭素CがプロセスガスP(H_(2)OおよびCO_(2))の内容を合成ガスS(H_(2)およびCO)に還元することであり、その還元はバーナBr1からBrnによる工程に供給される熱を使用する。」との記載によれば、本願補正発明の「反応器」は、炭素をプロセスガスと反応させて、H_(2)およびCOという合成ガスを生成するものであるところ、引用例の上記(d)には「このような熱分解ガス化装置によれば、バイオマスまたは有機性廃棄物を原料とする炭化装置から得たガス化に最適な性状の炭化物と、水蒸気と、空気とを熱分解ガス化炉内に投入して可燃性ガスを得るようにしたので、熱分解ガス化炉内では、水性ガス化反応によって可燃性ガスとして水性ガスが生成される。・・・この水性ガスは、水素ガス(H_(2))及び一酸化炭素(CO)を主成分とする安定した性状の混合ガスであり、デイリースタート・シャットダウン運転が容易な内燃機関の燃料として使用することができる。」との記載があり、ここで、引用例の上記(e)に記載されているように、熱分解ガス化装置が、外熱式熱分解ガス化炉であることにより、ガス化炉本体内に窒素を含む空気を供給する必要はなく、炭化物のガス化に関与するのは、水蒸気であるから、引用発明の熱分解ガス化炉も、本願補正発明の反応器と同様に炭化物に水蒸気(ガス)を反応させて、本願補正発明と同様にH_(2)およびCOガスを得るものである。すると、引用発明の「熱分解ガス化炉」、「熱分解ガス」及び「水蒸気」は、それぞれ、本願補正発明の「反応器」、「合成ガス」及び「プロセスガス」に相当する。
本願明細書の段落【0005】の「ガス化反応の前に石炭、石炭副産物、石油残渣、廃棄物およびバイオマスを熱分解することにより、異なった質量の成分(タール)および複合体成分(芳香族化合物)を取り除くことが可能である。」及び段落【0013】の「炭素粒子Cはガス化前の熱分解から来る。」との記載によれば、本願補正発明の「熱分解」とは、「石炭、石炭副産物、石油残渣、廃棄物およびバイオマス」といった炭素含有材料から炭素を生成するものであるところ、引用発明の「炭化処理」も、バイオマスまたは有機性廃棄物から炭素である炭化物を得るものであるから、引用発明の「バイオマスまたは有機性廃棄物」、「炭化処理」及び「炭化物」は、それぞれ、本願補正発明の「炭素含有材料」、「熱分解」及び「(熱分解して得られた)炭素」に相当する。
本願明細書の段落【0014】の「ガス化反応器1はバーナBr1からBrn(nはガス化反応器1に必要なバーナの数である)により間接的に加熱される。熱はBr1からBrnの放射によりガス化反応に提供され、燃焼は内部放射管を発生、すなわち、ガス化の流れから分離される。」との記載によれば、本願補正発明の「内部空間を間接的に加熱」とは、反応器の内部の空間から分離された空間で行われる燃焼により反応器の内部の空間が加熱されることであるといえるところ、上記(l)によれば、引用発明の「内部空間を外熱式に加熱」することも、反応器の内部の空間から分離された空間で行われる燃焼により反応器の内部の空間が加熱されることであるから、引用発明の「内部空間を外熱式に加熱」は、本願補正発明の「内部空間を間接的に加熱」に相当する。
さらに、引用発明の「火炎を発生する燃焼器」、「可燃ガスの一部」及び「空気」は、それぞれ、本願補正発明の「少なくとも1つのバーナ」、「燃料」及び「酸化剤」に相当する。
すると、本願補正発明と引用発明は、「反応器を備えた、合成ガスを製造するための方法を実施するための装置であって、反応器の内部空間を間接的に加熱するための少なくとも1つのバーナが配置され、炭素含有材料を熱分解して得られた炭素とプロセスガスとを反応器の内部空間に供給するための装置を有し、生じた合成ガスを排出するための手段を有し、前記少なくとも1つのバーナには該少なくとも1つのバーナに燃料を供給するための手段が設けられ、該供給手段は反応器の外部に配置され、前記少なくとも1つのバーナに供給される酸化剤の加熱のために熱交換器が配置され、プロセスガスの加熱および合成ガスの冷却のための熱交換器が反応器の外部に配置される、合成ガスを製造するための方法を実施するための装置。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
反応器の内部空間を間接的に加熱するための少なくとも1つのバーナが、本願補正発明では、反応器の内部に配置されていると共に、バーナの内部空間に燃料が供給されているのに対し、引用発明では、反応器の外側に配置されていると共に、バーナの内部空間に燃料が供給されているのか明らかでない点。
(相違点2)
炭素含有材料を熱分解して得られた炭素が、本願補正発明では、熱分解して分離することにより得られた炭素粒子であるのに対し、引用発明では、熱分解して分離することにより得られた炭素粒子であるのか明らかでない点。
(相違点3)
少なくとも1つのバーナに供給される酸化剤の加熱のための熱交換器が、本願補正発明では、少なくとも1つのバーナの供給装置に隣接して配置されるのに対し、引用発明では、少なくとも1つのバーナの供給装置に隣接して配置されるのか明らかでない点。

上記相違点について以下検討する。
(相違点1)
バーナの燃焼ガスを炉の内部空間の雰囲気ガスに接触させることなく、炉の内部空間を加熱するラジアントチューブバーナがそうであるように、装置の内部空間を間接的に加熱する態様として、バーナの内部空間に燃料が供給されるバーナを装置の内部空間に配置して装置の内部空間を間接的に加熱することは、例えば、原査定の拒絶査定において参考文献Bとして引用した特開平10-318528号公報(段落【0001】、【0004】、図1、2)、同参考文献Cとして引用した特開2007-32886号公報(段落【0002】、【0003】、図4、5)、同参考文献Dとして引用した特開2003-307301号公報(段落【0001】?【0005】、図9?11、以下、「参考文献D」という。)、同参考文献Eとして引用した特開平7-305833号公報(【請求項1】、段落【0001】、【0002】、図1、5、以下、「参考文献E」という。)、新たに提示する特開2005-326043号公報(【請求項1】?【請求項3】、段落【0032】?【0035】、図1?3)、同特開2004-162973号公報(段落【0014】?【0022】、図1、2)に記載されるように、周知の技術的事項であり、引用発明の反応器も、内部空間を間接的に加熱するという点では、上記周知の技術的事項と共通するものであるから、当業者ならば、引用発明の反応器の内部空間を間接的に加熱するにあたって、上記周知の技術的事項を適用し、バーナの内部空間に燃料が供給されるバーナを反応器の内部に配置して内部空間を間接的に加熱することは、容易に想到し得るといえる。
してみると、上記相違点1に係る事項を構成することは、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者ならば容易になし得ることである。

(相違点2)
引用例の上記(d)の「このような熱分解ガス化装置によれば、バイオマスまたは有機性廃棄物を原料とする炭化装置から得たガス化に最適な性状の炭化物と、水蒸気と、空気とを熱分解ガス化炉内に投入して可燃性ガスを得るようにした」との記載によれば、引用発明における合成ガスを製造するために用いられる炭素は、ガス化に最適な性状のものであるところ、炭素含有材料のガス化において、反応を効果的かつ効率的に行うために、炭素含有材料を微粉化ないし微細化し、ガス化反応時の接触面積を増大させて反応器に供給することは、例えば、特開2006-291134号公報(請求項1、段落【0001】、【0031】)、特開2003-41268号公報(請求項1、段落【0001】、【0020】)、特開昭57-174391号公報(特許請求の範囲、第1頁右下欄第13?17行)に記載されるように、通常行われていることであるといえるから、引用発明における合成ガスを製造するために用いられる炭素も、粒子の形態であるといえる。
また、原料となる有機性廃棄物の炭化後においては、ガス化に適さないものも含まれていることが技術常識であることからして、引用発明におけるガス化の対象となる炭素粒子は、ガス化に適さないものが除かれた「分離することにより得られた炭素粒子」であるといえる。
仮に、引用発明の合成ガスを製造するために用いられる炭素が、「分離することにより得られた炭素粒子」ではないとしても、上記の技術的な常識に基づいて、当業者ならば、引用発明の合成ガスを製造するために用いられる炭素を、「分離することにより得られた炭素粒子」とすることは、容易に想到し得るといえる。
してみると、上記相違点2に係る事項は、実質的な相違点ではないか、仮に、相違があるとしても、上記相違点2に係る事項を構成することは、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

(相違点3)
本願補正発明の「少なくとも1つのバーナの供給装置」は、明細書、特許請求の範囲及び図面の内容を参酌しても、バーナの供給装置がどのようなものであるのか必ずしも明らかではないが、本願補正発明の「酸化剤(O)の加熱のために熱交換器(3)が該少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)の供給装置に隣接して配置され」の規定によれば、「バーナの供給装置」は、酸化剤を加熱し得るものであることは明らかである。すると、バーナに関連して酸化剤を加熱するのに十分な熱量が存在する箇所は、バーナの燃焼部の周辺部や、バーナからの排気ガス排出部の周辺部しかないから、「バーナの供給装置」は、上記周辺部に配置されているというべきである。
一方、上記(相違点1)に示したように、装置の内部空間に配置され、バーナの内部空間に燃料が供給されるバーナは、周知の技術的事項であるところ、この様なバーナにおいて、バーナに供給される酸化剤の加熱のための熱交換器を、バーナの燃焼部の周辺部、及びバーナからの排気ガス排出部の周辺部に配置する(隣接して配置する)ことは、参考文献D(段落【0005】、図9?11)に記載されるように周知の技術的事項である。そして、引用発明と、上記周知の技術的事項は、バーナに供給される酸化剤を加熱するという点で共通するものであるから、当業者ならば、引用発明において、バーナに供給される酸化剤の加熱のための熱交換器を、上記周辺部、つまりバーナの供給装置に隣接して配置することは、容易に想到し得るといえる。
してみると、上記相違点3に係る事項を構成することは、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

なお、上記(相違点1)の判断に関連して、請求人は、審判請求書において、「この反応器の間接的加熱については、原査定において、参考文献として、特開2001-280617号公報(以下、「参考文献A)と言う。)、特開平10-318528号公報(以下、「参考文献B)と言う。)、特開2007-32886号公報(以下、「参考文献C)と言う。)、特開2003-307301号公報(以下、「参考文献D)と言う。)及び特開平7-305833号公報(以下、「参考文献E)と言う。)を例示し、「外熱式の熱分解炉としてバーナーを用いた加熱装置は周知」である、と認定しております。
これらの参考文献に記載されているラジアントチューブバーナーが従来技術の一つであることは本願出願人も認めるところではあります。しかしながら、参考文献Aのバーナーは有機系廃棄物の「熱分解」のために、参考文献Bのバーナーは金属の「熱処理」のために、そして、参考文献C?Eのバーナーは金属の「浸炭処理」のために使用されるものであり、いずれも、本願発明における「ガス化のための加熱」に使用するものとは異なるものであり、かつ、ラジアントチューブバーナーを「ガス化のための加熱」に使用することについて何等の開示も示唆もされていません。」との主張をしている。
しかしながら、ラジアントチューブバーナは、特定の技術分野に限られることなく広く一般的に使用されるものであり、上記(相違点1)の判断において、提示した特開2005-326043号公報(【請求項1】?【請求項3】、段落【0032】?【0035】、図1?3)、特開2004-162973号公報(段落【0014】?【0022】、図1、2)に記載されるラジアントチューブバーナは、「ガス化のための加熱」に使用されている。すると、上記参考文献B?Eに記載される具体例が、本願補正発明のガス化のための加熱に使用されるものではないとしても、当業者ならば、上記参考文献B?Eに記載されるそれぞれの具体的な適用例に限定されることなく、上記参考文献B?Eに記載されるラジアントチューブバーナを、装置の内部空間を間接的に加熱するバーナの形態として把握することができるものであるから、当業者ならば、引用発明の反応器の内部空間を間接的に加熱するにあたって、上記周知のバーナの一形態であるラジアントチューブバーナを適用し、バーナの内部空間に燃料が供給されるバーナを反応器の内部に配置して内部空間を間接的に加熱することは、容易に想到し得るというべきである。
してみると、請求人の審判請求書での主張は、採用できない。

(2-3-4)まとめ
上記からして、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用す
る同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項3、4、5を引用する請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。なお、請求項6に係る発明の末尾の「方法」は、上記2.(2-1)で述べたように「装置」の誤記であると認める。)は、平成26年5月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項3、4、5を引用する請求項6に記載された事項により特定される、上記2.(2-1)の(補正前)の請求項3、4、5を引用する請求項6で示したものである。

(3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用文献として引用した特開2004-35837号公報(引用例)の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示したように、本件補正における本願補正発明の補正事項は、補正前の請求項3、4、5を引用する補正前の請求項6に係る発明の「少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)」を、補正後の「反応器(1)の内部空間を間接的に加熱するための少なくとも1つのバーナ(Br1?Brn)」に補正するもので、バーナの具体的態様を限定付加するものであるから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明は、上記2.(2-3-3)で示したように、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
それゆえ、請求項6以外の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-12 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2011-513451(P2011-513451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安積 高靖福山 則明平塚 政宏  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 原 賢一
岩田 行剛
発明の名称 合成ガスを製造するための方法および装置  
代理人 打越 佑介  
代理人 下坂 スミ子  

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