• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1320637
審判番号 不服2015-17565  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-28 
確定日 2016-11-10 
事件の表示 特願2012-540007「非競合的免疫アッセイにおける白血球の干渉の低減」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月26日国際公開、WO2011/063010、平成25年 4月 4日国内公表、特表2013-511722、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年11月17日(パリ条約による優先権主張日:平成21年11月17日 米国)を国際出願日とする外国語出願であって、平成26年7月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年5月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審において平成28年8月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月27日に意見書及び明細書の記載についての誤訳訂正書が提出された。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成26年12月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものと認める。そして、その請求項1?16は以下のとおりのものである。(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」等という。)
「 【請求項1】
血液サンプル中に存在することが疑われる分析物に関してサンドイッチ免疫アッセイを行うためのキットであって、白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズと、前記分析物に対する固定化された第1の抗体と、前記分析物に対する標識された第2の抗体とを含み、
固定化された第1の抗体がセンサに結合しているか、電流測定電極に結合しているアッセイビーズに結合している、
上記キット。
【請求項2】
前記分析物が、BNP、proBNP、NTproBNP、cTnI、TnT、HCG、TSH、PSA、Dダイマー、CRP、ミオグロビン、NGAL、CKMB、及びミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記犠牲ビーズが、
非ヒトIgG又はその断片;又は
タンパク質、細菌、ウイルス、及び生体異物からなる群から選択される材料又はその断片;
でコーティングされた基材ビーズを含むか、あるいは
前記犠牲ビーズが、安定化した細菌又は細菌性胞子である、
請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記基材ビーズが、
非ヒトIgG又はその断片でコーティングされ;
ポリスチレン、ポリアクリル酸、及びデキストランからなる群から選択される材料で形成される、
請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記犠牲ビーズが、0.01μmから20μmの平均粒度を有し、
サンプル1マイクロリットル当たり少なくとも10^(4)ビーズである、溶解した犠牲ビーズの濃度を提供するのに十分な量で存在する、
請求項1に記載のキット。
【請求項6】
前記固定化された第1の抗体が、電流測定電極、電位差測定電極、伝導度測定電極、光導波路、表面プラズモン共鳴センサ、音波センサ、及び圧電センサからなる群から選択されるセンサに結合している、請求項1に記載のキット。
【請求項7】
前記犠牲ビーズ及び前記第2の標識された抗体が、1つ又は複数の溶解可能な乾燥試薬コーティング内にある、請求項1に記載のキット。
【請求項8】
前記標識された第2の抗体が、放射標識;アルカリホスファターゼ、グルコシダーゼ、ジアホラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、及びグルコースオキシダーゼからなる群から選択される酵素;発色団;蛍光体;及び化学発光種からなる群から選択される標識で標識されている、請求項1に記載のキット。
【請求項9】
血液サンプル中に存在することが疑われる分析物に関してサンドイッチ免疫アッセイを行うためのカートリッジであって、
(a)血液サンプルを受容するためのサンプル入口と、
(b)血液サンプルを計量して計量サンプルを形成するための計量チャンバと、
(c)白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズ、及び分析物に対する標識された抗体を含む、1つ又は複数の乾燥試薬コーティング層と、
(d)分析物に対する固定化された抗体を含む電極と、
(e)計量されたサンプル、流動化した犠牲ビーズ、及び標識された抗体を電極に移動させるための、1つ又は複数のポンピング要素と
を含む上記カートリッジ。
【請求項10】
前記分析物が、BNP、proBNP、NTproBNP、cTnI、TnT、HCG、TSH、PSA、Dダイマー、CRP、ミオグロビン、NGAL、CKMB、及びミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される、請求項9に記載のカートリッジ。
【請求項11】
前記犠牲ビーズが、非ヒトIgG又はその断片でコーティングされた基材ビーズを含む、請求項9に記載のカートリッジ。
【請求項12】
前記基材ビーズが、ポリスチレン、ポリアクリル酸、及びデキストランからなる群から選択される材料で形成される、請求項11に記載のカートリッジ。
【請求項13】
前記犠牲ビーズが、0.01μmから20μmの平均粒度を有する、請求項9に記載のカートリッジ。
【請求項14】
前記犠牲ビーズが、サンプル1マイクロリットル当たり少なくとも104ビーズである、溶解した犠牲ビーズの濃度を提供するのに十分な量で存在する、請求項9に記載のカートリッジ。
【請求項15】
前記1つ又は複数の乾燥試薬コーティング層が、前記計量チャンバ内に配置される、請求項9に記載のカートリッジ。
【請求項16】
血液サンプル中に存在することが疑われる分析物に関して免疫アッセイを行う方法であって、
(a)分析物を含有することが疑われる血液サンプルを過剰量の犠牲ビーズと混合して、
修正されたサンプルを形成するステップであって、サンプル中の白血球が犠牲ビーズを優先的に貪食しようとする上記ステップと、
(b)修正されたサンプルを、電極に固定化された、分析物に対する抗体コーティングビーズを含む免疫センサと接触させて、前記抗体コーティングビーズ、前記分析物、及び第2の標識された抗体の間でサンドイッチを形成するステップと、
(c)前記免疫センサから前記血液サンプルを洗浄するステップと、
(d)前記免疫センサとの前記サンドイッチ状態の標識の量を決定し、前記標識の量をサンプル中の分析物の濃度と関連付けるステップと
を含む上記方法。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定における拒絶の理由は、以下のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項:1?16
・引用文献等:1?4
<引用文献等一覧>
1.特開平08-062214号公報
2.国際公開第2008/052338号
3.M. J. Hickey and P. Kubes,Intravascular immunity: the host-pathogen encounter in blood vessels,Nature Reviews Immunology,2009年 5月,Vol. 9,pp. 364-375
4.特表2007-505319号公報 」

第4 当審の判断

1 本願発明1について
(1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された特開平8-62214号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。「・・・」で略記箇所があることを示す。他の引用例についても同様。)
ア 「【請求項1】下記(1)?(4)の工程を順次経る事を特徴とする生体内物質の測定方法。
(1)下記(a)?(c)の粒子と体液とを混合する工程
(a)体液中の測定妨害物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子
(b)体液中の測定対象物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子
(c)体液中の測定対象物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有しない着色粒子
(2)該混合物に磁場を付与する工程
(3)磁性を有する粒子と免疫反応により結合した複合体及び未反応の磁性を有する粒子を集磁により除去する工程
(4)集磁されない着色粒子の量を、波長350nm以上でその吸光度を測定し、体液中の測定妨害物質の影響を受けることなく体液中の測定対象物質を定性または定量する工程。
【請求項2】前記磁性を有する粒子が表面に酸化鉄系のフェライト被覆層を有するポリスチレン又は(メタ)アクリル酸エステル類の一種以上のポリマーであり直径0.2?3μmである請求項1に記載の生体内物質の測定方法。
【請求項3】前記体液が全血であり、前記測定妨害物質が赤血球、白血球、血小板、ヘモグロビン、ビリルビン、リポ蛋白である請求項1または2に記載の生体内物質の測定方法。」

イ 「【0028】図1に示すように体液として全血を測定する場合、全血中には測定対象物質としてのCRPとこの場合測定妨害物質として働く赤血球、ヘモグロビン等が存在する。測定に用いる試薬は、体液中の測定妨害物質と免疫学的に結合する物質を担持させた磁性を有する粒子(a)として、抗ヒト赤血球ウサギ由来抗体担持磁性粒子(a)と、体液中の測定対象物質と免疫学的に結合する物質を担持させた磁性を有する粒子(b)として、抗ヒトCRPヤギ由来抗体担持磁性粒子(b)と、体液中の測定対象物質と免疫学的に結合する物質を担持させた磁性を有しない着色粒子(c)として、抗ヒトCRPヤギ由来抗体担持着色粒子(c)とを混合して用いる。
【0029】全血を試薬と混合し、磁場をかけると、図1に示すように集磁される。この時集磁される粒子は、(a)粒子および(a)と測定妨害物質との免疫複合体、(b)粒子とこれに結合しているCRP、(b)粒子とCRPとに結合している(c)粒子である。集磁されずに残存する粒子は、CRPに結合しなかった抗ヒトCRPヤギ由来抗体担持着色粒子である。
【0030】波長570nmの吸光度を既知のCRP濃度の血液について測定した検量線の模式図を図2に示す。血液中の成分を血清分離などの検体前処理することなく、そのまま測定することができ、迅速測定が可能で、ベットサイドおよび緊急時の測定に有用である。特にベッドサイド測定の場合、全血をそのまま検体とすることができるので有用である。」

ウ 図1,2の記載
第6頁の図1には、上記イの記載に対応した模式図が記載されて、(b)粒子とCRP(測定対象物質)と(c)粒子との三者の複合体がサンドイッチ免疫アッセイのように形成されるものの、該複合体は(a)粒子と共に集磁されてCRPと結合しなかった(c)粒子と分離されることが図示され、図2には、横軸を「CRP」濃度、縦軸を「吸光度」としたグラフであって、CRP濃度が増加するにつれて、吸光度が減少している検量線が記載されている。

エ 「【0042】
【発明の効果】本発明の方法によると磁性を有する粒子と磁性を有しない粒子を用いる免疫測定法において、液体中の測定妨害物質に免疫学的に結合する物質を担持させた磁性体を含有する粒子を添加することによって、試料として体液を用いても体液中の測定妨害物質の影響を受けることなく、迅速にしかも感度よく測定をすることができる。」

(2)引用例1に記載された発明
ア 上記(1)アに記載の測定方法においては「免疫反応」を利用しているから、体液中に存在することが疑われる測定対象物質の「免疫アッセイ」を行っていることは明らかである。

イ また、上記(1)イに記載されているように、着色粒子である(c)粒子に担持されている測定対象物質と免疫反応により結合する物質である「抗体」は、磁性粒子である(b)粒子に担持されている測定対象物質と結合する物質である「抗体」と共に測定対象物質に結合する抗体であるから、(b)粒子に担持されている抗体と(c)粒子に担持されている抗体は、共に測定対象物質と結合する抗体であって同じ抗体ではない。

ウ これらを勘案すると、引用例1には、次の免疫アッセイを行う方法の発明が記載されていると当業者であれば理解できる。(以下、「引用方法発明」という。)
「下記(1)?(4)の工程を順次経る事を特徴とする全血中に存在することが疑われる測定対象物質の免疫アッセイを行う方法。
(1)下記(a)?(c)の粒子と全血とを混合する工程
(a)全血中の白血球を含む測定妨害物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子
(b)全血中の測定対象物質に対する第1の抗体を担持させた磁性を有する粒子
(c)全血中の測定対象物質に対する第2の抗体を担持させた磁性を有しない着色粒子
(2)該混合物に磁場を付与する工程
(3)磁性を有する粒子と免疫反応により結合した複合体及び未反応の磁性を有する粒子を集磁により除去する工程
(4)集磁されない着色粒子の量を、波長350nm以上でその吸光度を測定し、全血中の白血球を含む測定妨害物質の影響を受けることなく全血中の測定対象物質を定性または定量する工程。」

エ そして、上記引用方法発明の免疫アッセイを行うためには、次の免疫反応により結合する物質を担持させた粒子試薬からなるキットの発明も、引用例1には記載されていると当業者であれば理解できるところである(以下、「引用キット発明」という。)。
「全血中に存在することが疑われる測定対象物質の免疫アッセイを、集磁されない着色粒子の量の吸光度を測定により行うためのキットであって、
(a)全血中の白血球を含む測定妨害物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子
(b)全血中の測定対象物質に対する第1の抗体を担持させた磁性を有する粒子
(c)全血中の測定対象物質に対する第2の抗体を担持させた磁性を有しない着色粒子
を含むキット。」

(3)本願発明1と引用キット発明との対比
ア 引用キット発明における「全血」は「血液サンプル」であるし、引用キット発明の「測定対象物質」は本願発明1の「分析物」に相当する。

イ 引用キット発明を用いて行う引用方法発明の免疫アッセイは、上記(1)イ、(1)ウに記載されているように、(b)粒子とCRP(測定対象物質)と(c)粒子との三者の複合体の量はサンドイッチ免疫アッセイのように測定されることはないので、その検量線である図2は、競合的免疫アッセイの通常の検量線のように右肩下がりのグラフであって、「サンドイッチ免疫アッセイ」と通常呼ばれる免疫アッセイとは異なる。

ウ 本願発明1における「白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズ」とは、平成28年9月27日提出の誤訳訂正書により補正された本願の明細書の段落【0069】の記載に、「IgGはオプソニンとして作用し、これは、例えば白血球による、貪食用の病原体を作製することが可能な物質である。IgGは、免疫アッセイで一般に添加されて、同時係属の米国出願第12/411,325号に記載されるような異好性抗体の干渉を管理し、本明細書に記述されるBNPカートリッジ内でアッセイビーズ上に存在する。その結果、IgGのこの供給源(免疫アッセイデバイス内に存在する場合)又は血液サンプル中に生来存在するIgGのいずれかは、望ましくないことであるが白血球に対してセンサ表面をオプソニン化するよう作用する可能性があると考えられる。さらに、アッセイビーズはそのサイズが、貧食の天然の標的である生体細胞(細菌)と同様であるので、おそらくはアッセイビーズ上でのIgGの蓄積によって、望ましくないことであるがこれらビーズ上での白血球の蓄積が促進される。これは、白血球数が高いサンプル及びおそらくは活性化免疫状態を有するサンプルで観察された干渉に矛盾しない。本発明は、この白血球の干渉に対する解決策を提供し、犠牲IgGでコーティングされた微粒子をサンプルに含めることによって、それらの粒子をセンサ上の1次免疫試薬から逸らすような、白血球活性に関するおとり標的が提供される。」とあるように、白血球による干渉を低減する目的の粒子である点で、引用キット発明の「(a)全血中の白血球を含む測定妨害物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子」と共通する粒子である。

エ そして、(b)の磁気粒子に担持させられた抗体は、「固定化された」抗体と免疫アッセイの分野では通常認識されるものであるし、全血中の測定対象物質を定性または定量する際には、上記のとおり集磁されない着色粒子の量をその吸光度の測定により測定して行っているので、(c)の着色粒子は免疫アッセイにおける「標識」として機能していると理解される。

オ そこで、本願発明1と引用キット発明とを対比すると、両者は次の点で一致し、次の点で相違する。
(一致点)
「 血液サンプル中に存在することが疑われる分析物に関して免疫アッセイを行うためのキットであって、白血球による干渉を低減する目的の粒子と、前記分析物に対する固定化された第1の抗体と、前記分析物に対する標識された第2の抗体とを含む、
上記キット。」

(相違点1)
本願発明1の免疫アッセイが「サンドイッチ免疫アッセイ」であるのに対し、引用キット発明は、免疫アッセイが、集磁されない着色粒子の量の吸光度の測定により行うものである点。
(相違点2)
白血球による干渉を低減する目的の粒子が、本願発明1では「白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズ」であるのに対し、引用キット発明では、全血中の白血球を含む測定妨害物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子である点。
(相違点3)
固定化された第1の抗体が、本願発明1では、「センサに結合しているか、電流測定電極に結合しているアッセイビーズに結合している」のに対し、引用キット発明では、磁性を有する粒子に担持されている点。

(4)相違点についての検討
まず、上記相違点2について、以下に検討する。

ア 引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された国際公開第2008/052338号(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(引2-ア)「FIELD OF THE INVENTION
This invention relates to a method for capturing activated receptor signaling complexes from live cells; particularly to a method for utilizing bead based biology wherein live cells are contacted with ligand coated beads to form bead binding sites and thereby initiating formation of a ligand-receptor complex at said bead binding site; and most particularly to a process for distinguishing and confirming non-specifically bound proteins from specifically bound receptor complexes by utilization of one or more methods of biochemical or biophysical analysis, thereby providing, in a preferred embodiment, a utilization of confocal microscopy and proteomic mass spectroscopy.」(第1頁2行?10行)
(当審訳:発明の分野
この発明は、生きた細胞から活性化された受容体シグナル複合体を捕捉するための方法に関する;特に、生きた細胞がビーズ結合部位を形成するためにリガンド被覆されたビーズと接触されて、それによってリガンド-受容体複合体の形成が前記ビーズ結合部位で始まるという生物学に基づくビーズを利用するための方法に関する;更には、特異的に結合されたレセプター複合体から非特異的結合タンパク質を区別し確認するための方法であり、好ましい実施態様では、共焦点顕微鏡とプロテオミックス質量分析計の使用を提供する生物化学的又は生物物理的分析の1またはそれ以上の方法の使用によるものに関する。)

(引2-イ)「Figure 18. Top: illustrates MS/MS spectra for a 2+ peptide LAPITYPQGLALAK (SEQ ID NO: 1 ) that correlates with Rac 1 isolated with IgG coated magnetic beads binding to the cell surface of human neutrophils. 」(第8頁9行?11行)
(当審訳: 図18.上部:ヒト好中球の細胞表面に結合するIgG被覆された磁性ビーズで単離されたRac1と関連する、2+ペプチド LAPITYPQGLALAK(配列番号:1)に対するMS/MSスペクトルを図示する。)

イ 引用例3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された「Intravascular immunity: the host-pathogen encounter in blood vessels」(当審訳:血管内免疫:血管における宿主-病原体遭遇)と題する学術論文「M. J. Hickey and P. Kubes,Nature Reviews Immunology,2009年 5月,Vol. 9,pp. 364-375」(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(引3-ア)「Neutrophils also express Fc receptors for IgG ( FcγR), which enable binding of IgG-coated particles and immune complexes. 」(第370頁、Figure.4の解説文第4?5行 )
(当審訳:好中球はまた、IgGに対するFc受容体(FcγR)を発現し、それはIgG-被覆粒子および免疫複合体の結合を可能にする。)

ウ 引用例2、3の記載事項の検討
引用例2及び引用例3には、白血球の一種である好中球が、本願明細書の段落【0069】にも記載されているオプソニンとして作用するIgGがコーティングされた粒子、即ちオプソニン化された粒子に結合することは記載されている(上記(引2-ア)、(引2-イ)、(引3-ア)参照。)が、該粒子を、血液サンプル中に存在することが疑われる分析物に関して免疫アッセイする際に使用することも、サンドイッチ免疫アッセイを行う際の白血球による干渉を低減するために、IgGでコーティングされた微粒子をサンプルに含めることによって、それらの粒子をサンドイッチ免疫アッセイを行うセンサ上の1次免疫試薬、即ち「固定化された第1の抗体」から逸らすような、白血球活性に関するおとり標的として機能する「犠牲ビーズ」として用いることは、何ら記載も示唆もされていない。

エ 引用例4の記載事項とその検討
同じく原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された特表2007-505319号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(引4-ア)「【請求項13】
免疫センサシステムにおける干渉を減少させて標的分析対象物を分析する方法であって、
固相化抗体、標的分析対象物質、標識抗体の間のサンドイッチ構造に基づいて信号を発生し、該信号の一部を前記標識抗体の非特異的結合から生じさせる第1免疫センサと、
免疫参照センサとして機能し、及び、前記第1センサの領域で生じる非特異的結合と同程度又は予測されうる限りに相関する程度の信号を発生し、並びに、固相化抗体と、試料に存在するが標的分析対象物質ではない内因性又は外因性タンパク質との間の免疫複合体を有する第2免疫センサと、を含んで構成される免疫センサシステムに、標的分析対象物質と、標的分析対象物質ではない内因性又外因性タンパク質とを含んで構成される試料を免疫センサシステムに接触させること、
前記第1免疫センサ及び第2免疫センサを洗浄液で洗浄すること、
試料中の
分析対象物質濃度に対する補正値の決定に、前記第1免疫センサからの信号及び前記第2免疫センサからの信号を使用すること、
を含んで構成されることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記第1免疫センサ及び前記第2免疫センサが、電気化学センサであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
・・・
【請求項17】
前記免疫センサシステムが、試料中の分析対象物質を測定する使い捨てカートリッジであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
・・・
【請求項19】
前記第2免疫センサの固相化抗体が、血漿タンパク質に対するものであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記第2免疫センサの固相化抗体が、ヒト血清アルブミン(HAS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブリノゲン及びIgG fc領域からなる群から選択されたタンパク質に対するものであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
・・・
【請求項25】
前記第1免疫センサ及び前記第2免疫センサの双方の抗体が、0.01?5.0umの直径を有する微粒子に固定されていることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記微粒子が、カルボン酸塩修飾ポリスチレンビーズであることを特徴とする請求項25に記載の方法。」

(引4-イ)「【請求項35】
免疫測定装置における血液中の分析対象物質を、白血球に伴う干渉を減少させて、測定する方法であって、
イオン強度を増加させることで、試料が免疫センサに接触したときにバフィーコート干渉を減少させるように、免疫測定装置に、全血試料に対する塩試薬を添加すること、
を含んで構成されることを特徴とする方法。」

(引4-ウ)「【0063】
以下、非特異性結合の影響を減らすために、示差測定を実行する免疫参照センサを備えた心筋トロポニンI(cTnI)免疫センサを説明する。抗cTnI抗体、又は、抗HSA抗体で被覆(コーティング)されたカルボン酸塩修飾ラテックス微粒子(Carboxylate-modified latex microparticles)(バン・ラボラトリーズ社(Bangs Laboratories Inc.)又は、セラダイン・マイクロパーティクルズ社(Seradyn Microparticles Inc.)から入手)を、それぞれ同一方法で準備する。これは、まず、微粒子を、遠心分離によって緩衝液で置換し、次いで、抗体を加えて、該抗体を微粒子に受動的に吸着させる。その後、微粒子上のカルボキシル基を、MES緩衝液(pH6.2)中のEDACで活性化し、抗体とアミド結合を形成させる。ビーズの凝集物を遠心分離によって取り除き、完成したビーズを冷凍保存する。
【0064】
抗ヒト血清アルブミン(HSA)抗体に関しては、ラテックスビーズ表面を充分に覆った結果、そのビーズ総質量が略7%増加する。従って、7mgの抗HSA抗体と100mgのビーズとを含む混合物の共有結合による被覆ビーズが準備されたことになる。以上の準備を使用して、脱イオン水中に1%の固体を含む略0.4nLの液滴を、フォトパターニングされた多孔性ポリビニルアルコール(PVA)選択透過層で覆われた免疫参照センサ96にマイクロディスペンシングし(これには、・・・)、これを乾燥させる。このように乾燥させることで、微粒子が、多孔性層に固着するので、血液試料や洗浄液中へ溶解することを充分に防ぐことができるようになる。
【0065】
一方、抗トロポニン抗体は、ラテックスビーズ表面を充分に覆った結果、そのビーズ総質量が略10%増加する。従って、10mgの抗TnI抗体を、カップリング試薬と共に、100mgのビーズに加えることで、充分に被覆することができる。その後、ビーズを、免疫センサ94上にマイクロディスペンシングする。
【0066】
他の実施形態では、免疫センサ94を、抗HSA等の血漿タンパク質抗体と、抗cTnI等の分析対象物質抗体と、の双方を含むビーズで覆う。ラテックスビーズは、まず、ビーズ100mgあたり、およそ2mg以下の抗HSA抗体を含んで構成され、その上で、免疫センサにおいて優れた非特異的結合を提供する抗cTnI抗体によって、充分に被覆される。充分な量の抗cTnI抗体が、分析対象物質(抗原)のキャプチャー抗体としてビーズ上に存在するため、トロポニン測定のスロープ(信号対分析対象物質濃度)は、物質の違いによる影響を受けない。異なる抗体についてのビーズ飽和濃度の測定、及び、標的分析対象物質の抗体だけを含むビーズを備える免疫センサのスロープの測定によって、適切な抗体結合比を、分析対象物質及び血漿タンパク質の双方の抗体を含むビーズに対して決定することができる。」(第18頁?第19頁)

(引4-エ)「【0074】
改良された精度を有する免疫センサ
【0075】
ここで詳述する電気化学的免疫センサは、全血対血漿との間でバイアス(bias)を示す。歴史的に、トロポニンなどのマーカーによる免疫測定は、血漿又は血清における値が測定され、該測定値が報告されている。これらに用いられる免疫センサを、全血測定に用いる場合、補正ファクタ、又は、バイアスの除去手段を用いる必要が生じる。一般に、このバイアスは、2つの態様を有しており、これらを除去可能であることが知られている。2つの態様とは、(i)バフィーコート(buffy coat)(白血球及び血小板から構成される軟膜)の成分に関連した全血電気化学的免疫測定のバイアスと、(ii)試料間のヘマトクリット値のバラツキに関連したバイアスである。
【0076】
バフィーコートは、血液を遠心分離した場合に、沈殿した赤血球層の上に形成される、白血球と血小板の層である。白血球は、分析対象物質の抗体(例えば、トロポニン抗体)で覆われたビーズを用いて測定を行う免疫センサに干渉することが観察される。また、血漿試料やバフィーコートを取り除いた血液試料を用いて行うコントロール実験では、正のバイアスは示されない。この点を理論に縛られずに考察すると、白血球は、免疫センサに粘着する可能性があり、そして、洗浄ステップ後であっても、酵素標識抗体の非特異的な結合を妨げるため、バイアスを生じさせると考えられる。このバイアスは、ビーズの前処理段階でヒト血清アルブミン抗体を少量加えることにより、部分的に除去することができる。このように修飾(modified)されたビーズに試料が触れると、試料中のアルブミンは、前述のようにビーズを速やかに覆うことができる。一旦、ビーズが天然アルブミン層で覆われると、白血球は、ビーズをオプソニン化された表面として認識できないため、結果として、白血球によるバイアスが取り除かれるようになる。
【0077】
白血球の干渉問題に対しては、他の解決方法もある。これは、血液試料の塩濃度を上昇させることで、バイアスを取り除く方法である。具体的には、標準ナトリウムイオン濃度を、略140mM?略200mM超まで、好ましくは略230mMまで、上昇させることでバイアスを取り除くことができる。ここでは便宜的に、実際の塩濃度を、ナトリウムイオン濃度で表す。図22は、免疫センサの正味の電流量(nA)対添加塩化ナトリウム(NaCl)濃度との関係を示したグラフである。好ましい一実施形態では、充分な量の塩は、測定段階に先立って試料に溶解することができるような乾燥状態で、カートリッジの血液保持チャンバに設けられる。本発明の一実施形態によるカートリッジ形状では、保持チャンバは、略10uLの容量を有しており、この場合、NaClはおよそ60ug(μg)が必要となる。理論に縛られずに考察すると、干渉を減らすメカニズムは、塩が、白血球の浸透圧性収縮(osmotic shrinkage)を生じさせると考えられる。これは、赤血球が有する現象として知られている。この解釈は、免疫センサに対する白血球の干渉能の低下と整合性の取れるものである。」(第20頁?第21頁)

オ 引用例4に記載の白血球の干渉の低減手段についての検討
引用例4には、例えば上記(引4-ア)、(引4-イ)に「免疫センサシステムにおける干渉を減少させて標的分析対象物を分析する方法であって、固相化抗体、標的分析物、標識抗体の間のサンドイッチ構造に基づいて信号を発生し、」、「免疫測定装置における血液中の分析対象物質を、白血球に伴う干渉を減少させて、測定する方法」と記載されているように、「血液サンプル中の存在することが疑われる分析物に関してサンドイッチ免疫アッセイ」を行う際に、白血球による干渉を減少させようとすることが記載されている。 そして、そのために、上記(引4-ア)、(引4-イ)の記載及び(引4-ウ)、(引4-エ)の記載を勘案すると、引用例4においては次のように、第1免疫センサ及び第2免疫センサを用いる発明が記載されているにとどまる。
「 分析物イムノアッセイにおける白血球からの干渉を低減する方法であって、
固相化抗体、標的分析物、標識抗体の間のサンドイッチ構造に基づいて信号を発生し、該信号の一部を前記標識抗体の非特異的結合から生じさせる第1免疫センサと、
免疫参照センサとして機能し、及び、前記第1センサの領域で生じる非特異的結合と同程度又は予測されうる限りに相関する程度の信号を発生し、並びに、固相化抗体と、血液試料に存在するが標的分析物ではない内因性又は外因性タンパク質との間の免疫複合体を有する第2免疫センサと、を含んで構成される免疫センサシステムに、標的分析物と、標的分析物ではない内因性又外因性タンパク質とを含んで構成される血液試料を免疫センサシステムに接触させること、
前記第1免疫センサ及び第2免疫センサが電気化学センサであり、前記第2免疫センサの固相化抗体がヒト血清アルブミンに対する抗体であり、前記第1免疫センサ及び第2免疫センサに固定化される抗体がラテックスビーズに固定化された形態で前記センサを覆うものであり、
白血球の干渉によるバイアスを防止するため、下記(I)及び/又は(II)のバイアス防止手段:
(I)前記第1免疫センサが
(i) 分析物抗体と、
(ii) 白血球は、免疫センサに粘着する可能性があり、そして、洗浄ステップ後であっても、酵素標識抗体の非特異的な結合を妨げるため、バイアスを生じさせると考えられ、バイアスを防ぐ機能を有するところの抗ヒト血清アルブミン抗体
の双方で覆われれているラテックスビーズに固定化された形態で前記センサを覆うバイアス防止手段、
(II)白血球の干渉によるバイアスを取り除く別の手法として、血液試料に塩試薬を添加してイオン強度を増加させて、血液試料を免疫センサに接触させるバイアス防止手段、を行い、
次いで、前記第1免疫センサ及び第2免疫センサを洗浄液で洗浄すること、
試料中の分析対象物質濃度に対する補正値の決定に、前記第1免疫センサからの信号及び前記第2免疫センサからの信号を使用すること、
を含んで構成されることを特徴とする方法。」

そうすると、引用例4にも、血液サンプル中の存在することが疑われる分析物に関してサンドイッチ免疫アッセイを行う際に、白血球による干渉を低減する目的で、「白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズ」を使用することは、記載も示唆もされていない。

(5) 小括
したがって、引用例2ないし4のいずれにも、「白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズ」を使用することは、記載も示唆もされていないことから、引用例1?4に接した当業者といえども、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起することはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

2 本願発明2?8について
上記「第2 本願発明」において示したとおり、請求項2、3、5?8は請求項1を引用し、請求項4は請求項3を引用する発明であるから、上記1で本願発明1について検討した結果と同様の理由で、本願発明2?8は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

3 本願発明9?15について
上記「第2 本願発明」において示したとおり、請求項9は、「血液サンプル中の存在することが疑われる分析物に関してサンドイッチ免疫アッセイを行うためのカートリッジ」に関する発明であるが、カートリッジには「白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズを含む1つ又は複数の乾燥試薬コーティング層」が含まれるから、上記1で本願発明1について検討したとおり、そのような犠牲ビーズについての記載も示唆もない引用例1?4に記載された発明に基づいて、本願発明9は当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
また、請求項10、11、13?15は請求項9を引用し、請求項12は請求項11を引用する発明であるから、本願発明9について検討した結果と同様の理由で、本願発明10?15は、引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

4 本願発明16について
上記「第2 本願発明」において示したとおり、請求項16に係る「血液サンプル中に存在することが疑われる分析物に関して免疫アッセイを行う方法」の発明は、「(a)分析物を含有することが疑われる血液サンプルを過剰量の犠牲ビーズと混合して、修正されたサンプルを形成するステップであって、サンプル中の白血球が犠牲ビーズを優先的に貪食しようとする上記ステップ」というステップを含む方法である。
ここにおいて、「白血球が犠牲ビーズを優先的に貪食しようとする」状態とは、犠牲ビーズが、白血球に対してオプソニンとして作用するIgGでコーティングされたビーズ(本願明細書の段落【0069】参照)であり、白血球が、それらのビーズを優先的に貪食するようにした状態であると理解される。
一方、引用例1?4には、「白血球に対してオプソニン化された犠牲ビーズ」を免疫アッセイにおいて用いることについては、上記1で本願発明1について検討したとおり、記載も示唆もない。
そうすると、本願発明16は、同様に、引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

5 むすび

以上のとおり、本願については、原査定の理由によって拒絶すべきものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-31 
出願番号 特願2012-540007(P2012-540007)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 藤田 年彦
▲高▼橋 祐介
発明の名称 非競合的免疫アッセイにおける白血球の干渉の低減  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ